もう1000年以上経過しているけどアイツらまだ生きてるのか―――種族なんなんだアイツら……。
そんな事を考えながら場所を変えて、別の屋敷のダイニングで運ばれてきたステーキをフォークとナイフで切って食べる。片腕しか残っていない為少々食事をするのが他の人よりもやや大変なのは認める。だけどそれと付き合ってもう数千年だ。ここら辺は完全に慣れだし、今じゃルシアが肉を切ってくれたりするので、食べるのも楽だ。人間、世話をしてくれる人間がいると楽だよなぁ、と思う。しかし、ケイブリスがステーキを一口で丸ごと飲み込みつつ、此方に視線を向けている。
「お前今絶対ババアが介護されてるって思ったな。ぶっ殺すぞ」
「思ったが止めろ、媚びるぞ」
新手の脅迫だった。しかし肉がちゃんと焼けているし、ルドラサウムでは見かけない香辛料の味がしている。結構美味しく出来ているので、それを評価しながら食べているのだが、
「お前がここまで食に気を使うとは思わなかったよ」
「俺様も昔はそこまで頓着してた訳じゃねぇけどな。お前が飯を作ってるのを度々食わされてるうちに舌が肥えちまったんだよ。こいつらを引き抜こうとしたらガルティアと交渉するハメになったぜ」
「時に食が原因で戦争に発展するから笑えねぇ……」
香辛料の為だけに戦争をおっぱじめたヨーロッパ人の事を思い出し、全く笑えない話だった。魔王城も魔王城で、それなりにユニークな進化を実はしているのかもしれない。俺がやった事と言えば厨房の改革ぐらいなのだが。それでも安定して美味しい食料が供給されるのは日常的な楽しみになっているのかもしれない。というかダイニングの壁の端に知らない魔物兵がコック帽を被って待機している。
「アレなに」
「うちの厨房担当だよ。お前がナイチサの時は魔王城に居なかったから解らないだろうけどよ、アイツはスラル程じゃないけど優秀だったぜ、人材の動かし方とか。コック連中に弟子を取らせたのはアイツの方針だしな」
「そんなに飯が気に入ったのかアイツ……」
魔王城も魔王城で、というか魔王や魔人のプライベートが一部本当に面白そうなんだよなぁ、と思う。そこにあんまり関われないのが悔しい。出来る事ならもうちょっと魔王城の日常というモノには関わってみたかったが、自分の立ち位置ではそれは不可能になっている。また魔王城に行ける時があるとしたら、
それはガイ―――【魔剣カオス】を手にした男が歴史の表舞台に立った時だろう。
【魔王戦争】、それに参戦する時だ。
とりあえずコックたちに手を振っておく。あ、ガッツポーズしてる。
「魔王城も楽しそうだな」
その言葉にケイブリスが溜息を吐く。既に何枚もあった皿の上に盛られている肉は消えていた。食べ終わった所でケイブリスはもう一度息を吐きつつ、
「まぁ、今の状況が俺様にとっても面白いってのは認めるぜ」
大陸の状況―――今、魔王によって人類が支配されているという状況だ。根本的にケイブリスは強くなる事だけを求めているが、その本質はどちらかというと邪悪だ。利用出来る全てを利用してでもククルククルの様な強さを手に入れる。ただし、その事に対してどこまでも臆病で、慎重であるというだけだ。だからこそ最古参の魔人でありながら、ここまで生き延びてきた。ケイブリスは根本的に人類を最初から家畜程度にしか思っていない。だから彼からすれば今の状況は、人類が漸く本来の形に納まった程度でしかない。
それが楽しいのだろう。
「だけどありゃ駄目だな」
「駄目?」
「ジルだよ」
ケイブリスは軽く体を震わせながら言う。
「俺は今までの魔王を全部傍で見てきたぜ。ククルククルは最強の魔王だった。間違いない。そして最も巨大で強大、魔王の中じゃ一番優しいって言えるが間違いなく最強だった。その事実の前に他の要素なんてクソみてぇなもんだ。ククルククルは偉大だった。アベルも目立たねぇがアレでククルククルの次に強い魔王だったぜ? そしてスラルだ。あいつも凄かった。臆病でビビってて、どことなく親近感感じたぜ。常に死なない為の方法を考えている辺りとか。後《無敵結界》の事なら感謝してるぜ。おかげでビビらずに俺も強くなる準備を行えたからな。そしてナイチサだ。アイツ、本当に元は人間かって俺は何度も疑ったぜ? 魔王らしい魔王ってのはアイツの事だと思った。魔軍を出さずに人間をどんどん自滅させていく様子は化け物だってな」
だけどな、とケイブリスは頭を横に振った。
「本当の化け物ってのはジルに相応しいってのを俺は理解したぜ。アレは頭がおかしいってしか言えねぇ」
「……」
「憎んでるぜ。人類の全てを。永劫苦しめ続けたいって思ってる。そしてそれをマジに実行しやがる。そしてその上で時々先生ってのを自慢するんだ。狂ったように笑いながら。正気と狂気の間を綱渡りしながら冷静に戻って、それで的確に人間を苦しめる方法を思いつく。ナイチサの方が人間性が薄かったのは認めるぜ。だけどジルはその真逆だ。人間性に溢れている。そしてそれが尽きない燃料になって憎悪で燃えてる。アレ程ぶっ壊れている魔王を見るのも初めてだわ。その先生っての、お前の事だろう? 話し方から直ぐに気付いたぜ」
そして、
「俺が昔一緒に冒険したのもバレた……」
「あぁ……」
「ちびりながら昔の話をするハメになったぜ……ぶるぶる……」
あまりにも憐れで言葉もなかった。だけど、うん、魔王ジルとかいう自分を圧倒する存在を前に、話をしろと見下されながら発狂していそうな憎悪の魔王の前に引っ張り出されたら、ケイブリスとしては確実に心臓ショック案件だろうなぁ、と想像するには容易い。
「で……今のジルはどんな様子をしている?」
「それが俺を訪ねた本題か。ケッセルリンクかガルティアのが仲良いだろうお前。そっちに話を通せよ」
「カミーラちゃんとお茶会しようかと思うんだけど、ケーちゃん来ないの……?」
「はぁ? か、カカカ、カミーラさんとお、お茶会だって!? いや、待て、落ち着け俺様、これは罠だ。どう見ても罠だ……」
「カミーラちゃん、もふもふしたもの結構好きなんだよね。鱗系苦手だし」
ケイブリスが自分のリスボディに触れて毛並みをチェックする。もふもふしてる? という感じで部下を呼び出してはチェックさせている。アレフが密かに剣の内部で爆笑しているのが煩い。でも気持ちはよく解る。中学生の反応かよお前。だけどケイブリスのそういう所、俺は好き。
「ケーちゃんブラッシングはしてる?」
「おう、毎日欠かしてないぜ。い、いつ見られても大丈夫なように決めてなきゃダメだからな!」
「お前のそういう所ほんと尊敬するわ」
最強最悪になるであろう魔人を前に何を言っているんだか、という話だが、ケイブリスと話をしていると昔の事を思い出す。頭を空っぽにして馬鹿をやっていた時代の。あの頃を思い出してしまうのだ。あの頃は良かった。何も考えず、未来の事なんて心配せず、気にする事無く、好き勝手動く事が出来た。そのおかげで無茶もやったし、馬鹿もやった。
だけど今では未来に向けての調整やらどうするか、という事で縛られていて好き勝手動けない。それが息苦しい。解っていても結果を変えようとしない自分が少し、腹立たしい。
「で―――ジルの話か」
「あぁ、一番他の魔人や魔王を見ているのってお前だろ? お前の口から聞かせてくれ。魔王ジルはどんな風になっているのか。どんな女になったのかを」
それを聞き出すためにケイブリスをずっとこの100年間、探していたのだ。
知りたかった。
自分が見捨てた魔王ジルという存在を。彼女が俺が見捨てた後、どういう風に変わってしまったのかを、自分は知りたかった。だからそれを求めてケイブリスを探していた。そしてケイブリスも、大方の繋がりは見えているのだろう。絶対にお茶会に誘えよ、と四度念を押してから漸く、ジルに関して話し始めた。
「ジルが人間を憎んでるってのは解ってるよな?」
「あぁ」
「なんでも魔王になる前に四肢を切断された後、毎朝毎晩交代されながら犯され続けてたとかな。そして飽きられたら今度は家畜小屋に捨てられてうしにひたすら犯されてたとか。ナイチサがジルを拾ったのは家畜小屋で孕みもしないジルをうしが犯している時に見つけたらしいぜ」
「……」
その想像をし、そして実際に経験したであろうジルの事を考え、言葉を失うしかなかった。何かを言うだけの事が自分には出来なかった。これがランスであれば笑いながら俺のセックスで上書きだー! ぐらい言えたのだろう。その精神力の強さが羨ましかった。
「怪物だ。ジルを表現するならその言葉が一番似合っているぜ。今までの魔王で一番恐ろしい、一番魔王らしい魔王だと言っても良い。人間という種に対してずっと憎悪を燃やしている。単純に絶望させるだけじゃ足りねーから俺達に管理を任せてバリエーション豊かに苦しめてるって辺りがイカレてやがる。まぁ、おかげで存分に俺も自由にやれるから文句はねぇんだけどな」
だけど、とケイブリスは言う。
「定期的に昔の話を聞きに来るの止めて欲しい。本当に怖い……ぶるぶる……僕悪いリスじゃないよ……ぶるぶる……」
「あぁ、ケイブリス様が突発性魔王ショックに……!」
「カミーラ様人形! カミーラ様人形をお持ちしろ!」
「ケーちゃんも大分面白くなってるなぁ……」
『どう見てもお前が原因だろ』
せやな、とアレフの突っ込みに心の中で頷いておく。ドラゴン時代に派手にケイブリスを連れ回してしまったのが原因なのだが、今更ながら、その影響力にちょっと爆笑している部分がある。あの頃に、何も考えなかった頃に戻りたい気持ちがある。だがそれは不可能なのだろう。
と、部下が持って来たカミーラ人形をケイブリスが片手で抱き、落ち着きを取り戻していた。ほんと面白い事になってるな、お前という感じの表情をケイブリスに向ければ、話を続けてくる。人形持ったまま話を続けるのかお前。
「ただジルは人類を恨みつつも、どことなくチグハグしてるんだよなぁ……」
「……チグハグ?」
「おう。ナイチサの時はすげぇ解りやすかったぜ? ストレートに人間を処理しているってのが解る。そう言う意味じゃナイチサの方が優れてた部分があるな。ナイチサは私情を挟まずに、何かを思う事無く単純に人間を殺してたからな。だけどジルは違うぜ、ずっと憎みながら地獄を作り続けている。その上で終わってない。まだ何か思っている事がある」
ケイブリスは話を続ける。
「ジルが《ゲートコネクト》で異世界への扉を開けているのは知ってるか?」
ケイブリスの言葉に頷いた。
「ジルは異世界の扉を開いて、そこから呼び出して魔人にして戦力を増強しているが―――それが本来の目的には俺には思えねぇ。俺には解るぜ。あいつは異世界を通して何かを探している」
「何かを……?」
知らない情報だ。というか自分の知識にないものだ。自分が知る限り魔王ジルはひたすら人間牧場を運営し、それでルドラサウムを1000年の間、一切飽きさせる事のなかった歴史上最悪の魔王だった。異世界へと渡る技術を個人で保有し、魔王である為にそれを疲れる事無く使う事が出来る。また次代の魔王であるガイを愛人としていた……という話も知っている。
だけど何かを探している、という話は初めて聞いた。
「俺の直感はアレは何か、探している様に見えたぜ。魔人を作っては放置しているし、適当に殺しても文句を言わねぇ。新しく作った魔人にアレは欠片も興味を持ってねぇ。それよりも何か、異世界を通して何らかの力を持った存在を求めてるってのだけは俺には解るぜ。流石にそれ以上の事は解らねぇけど」
「いや……十分過ぎる程良い話だった。色々と考えさせられたよ」
ジルが何かを計画している。正史には存在しなかった何かを。それをジルが求めているのは解った。その原因となるのは間違いなく……自分だ。だけど何を求めているのが解らない。俺を恨んでいるのだったら俺を殺しに来るか、魔人にするか、それとも家畜にするか……どれかにするか、だと思っていた。
だけど気まぐれな魔人が襲撃する以外では、カラーに対する被害はなかった。俺も、ここ100年GLを旅していても、狙われたり指名手配されたりしているという事が全くなかった。そこが不思議でしょうがなかった。恨まれているかと思った。それで当然だと思っていた。
だけどその当然がなかった。まるで、コンタクトがない。それが不思議で不思議でしょうがなかった。
俺を恨んでないのだろうか? 知っていて見捨てた俺の事を、彼女は。だけどその答えが出る事もなく、彼女は何かを求めて異世界を乱している。その事実が自分には良く解らなかった。ケイブリスにも、ジルが異世界に求めているものは解らなかった。完全に、目的が不明となっている。
どことない、不快感があった。
自分が原因で何かがズレている様な、そんな感覚。おかげでカラーは一旦、人間による狩りが終わって少しだけ表に出られる様になったのも事実なのではあるが。それでも自分でも理解できない変化に、戸惑う事しかなかった。
「ま、俺から言えるのはこれぐらいだな。ちゃんとお、お茶会に呼べよ! お、俺様もその日はビシっと決めるからな……!」
「あぁ、うん。カミーラちゃんに頼んでみるよ」
100%許可出ないから安心してて。軽く明るい未来を想像してトリップしているケイブリスの姿を懐かしみつつ、息を吐く。
ジル―――魔王ジル。
君はどんな風に変わってしまったのだろうか。俺にはそれがまだ、解らなかった。人類を憎んでも、何故俺を殺しに来ないのか。憎しみをぶつけてこないのか。
その答えは遠かった。
ウルとケーちゃんはずっともだよ。
正史とは食い違うジルの行動。恨みはないのか? 憎んでない? 何故来ない? 疑問を感じつつ放浪。まぁ、でもGL初期の一大イベントと言えばやっぱりアレかなぁ、って感じで。
この時代、大半が人間牧場運営しかしてないから、イベントは薄いんだよね、後半までは。
魔王の探し物。