「こいつがクリスタルの森、か」
カラーの唯一の住処であるペンシルカウへの道を塞ぐカラーたちの森、【クリスタルの森】の前に立ちながら【エターナルヒーロー】の盗賊、カオスはそう言葉を零した。その表情を見れば美女と噂されるカラーたちと出会う事に対して期待し、頬が緩んでいるのが解る。その姿を見て同じ【エターナルヒーロー】の侍、日光は呆れの溜息を吐いた。彼女は的確にカオスが何を期待しているのかというのを理解していた。同じパーティーとして活動する上で、既にカオスがどういう性格をしているのか、全く娼館へと通う事を止めなかったりする事実を理解しているので、言葉もなくその反応を諦めた。
そんなカオスの言葉を聞きつつ、リーダーであるブリティシュは頷いた。
「大陸中央部、翔竜山を囲む様に存在する宝石の様に美しい森林、それこそがクリスタルの森であり、カラーたちが住まうペンシルカウへと進もうとする者を阻む迷路になっていると聞いてますね」
ブリティシュがそう言って視線を正面、クリスタルの森へと向けた。高濃度の魔力が張り巡らされた森の中は、魔法の術式が生きている様に存在しているのが、魔法に関しては素人であるブリティシュの目でも分かった。既に魔人が一人、この森に踏み込んで死亡している。その上で別の魔人も撃退されている。それ故にこの森の先にある都、ペンシルカウはこの地上で最も安全な場所と認識されている。
「確か人類軍の参加を拒否したとか」
「俗世には興味はないらしいからな。魔王も魔人も、絡まなければどうでも良いそうだ」
「カラーは前魔王の時代に人間に迫害され、狩られ、そして各地に逃げる事を強要されました。その額のクリスタルは非常に強力な触媒となるからだそうで。それを求めた人類に素材として狩られたのが前時代の出来事です」
「酷い……」
神官のカフェ・アートフルがそう零し、魔法使いであるホ・ラガが話を続ける。
「とはいえ、カラーの方もそう簡単には狩られなかったみたいですね。カラー狩りが始まる当時、カラーは国家として固まっていた。そしてそのままでは格好の餌食となって狩られる事を知っていたとあるカラーが女王の座を乗っ取り、何十年という時間をかけて国家の解体を行ったそうです。その間に大陸各地の秘境にカラーの隠れ里を築き、そして魔王ジルの時代となってペンシルカウの女王として再び君臨する様になった。今も昔もカラーを支配していて、カラーという種を守る守護神の様な存在となっています」
「お前がその知識をどっからもって来てるのか儂は不思議だよ」
「待ってください、ホ・ラガ。そのカラーの女王とは―――」
「そうです、同一人物みたいですね。私も詳しい事までは解りませんが、それでも伝え聞く名前と容姿は文献で確認したものと一致します」
「っという事はそのカラーの女王は、1000年以上生きている事になりませんか……?」
カフェの言葉にホ・ラガは頷いた。流石にその事実には驚くしかなかった。通常、カラーという種族は50を迎える頃には天使か、或いは悪魔に転生する事で知られている。その為、100年を超えるカラーなんてまず存在しないのだ。その上で1000年も生きているという事実は、まさに驚愕するしかない事であった。
だがカオスだけは通常通りの様子で、
「うへぇ、1000歳のババアカラーか。カラーは老けないって話だけど1000歳は怖いな」
「お前は本当にもう……」
「ふふふ、カオスらしいな」
呆れと笑い声を受け止めつつカオスは微塵たりともその主柱を揺らがせてはいなかった。それでブリティシュはで、と声を零した。
「カオス、抜けられそうか?」
「普通の森とはまるで違うな。儂に頼っても迷子になるだけだぞこれ」
「ホ・ラガ?」
「恐ろしく高度な術によって空間そのものを歪めていますね。魔力任せに破壊してもいいですけど……その場合、侵略と見做されるでしょう」
「正攻法で通るのが一番か」
「可能なのですか?」
日光の言葉にブリティシュが笑った。
「試さなければ解らないだろう? そうやって踏破してきたのだ、今回も上手くいく事を祈ろう」
その言葉にカオスが笑った。日光もどことなく呆れの息を吐くが、それともブリティシュの判断を疑っていないのか、そこには認めているからこそ呆れている様な色があり、そんな日光の仕草を見てカフェは胸の内側を刺激されていた。
そしてホ・ラガはブリティシュの姿を見て半勃起していた。
パーティーの準備が整っているのを確認してからブリティシュは視線をクリスタルの森へと向け、そして堂々と声を放った。
「失礼する! 僕の名前はブリティシュ、とある使命を背負いここを訪ねてきた! 森の狼達よ! もし、叶うのであれば我らの身勝手な願いの為に僅かな時間を譲って欲しい!」
ブリティシュの声が森へと向かって放たれ、そのままブリティシュが動きを止めて、森の方からのリアクションを待ち受ける様に不動のまま、佇む。その背後で、日光が小さくカオスへと向けて声を作った。
「カオス、視線は」
「まだ監視されてるな。全部で10ぐらいか。勝てる数っちゃ勝てる数だな」
「だが戦った所では協力を得られない、となると下策ですか……」
「儂らのリーダーを信じようぜ? 少なくともブリティシュはここぞ、という所で儂達を裏切った事がない」
カオスはそう言葉を小さく日光へと返し、視線を正面に居るパーティーのリーダーへと向けた。威風堂々と返答を待つブリティシュに怯えや不安の様な表情は存在せず、自分の行う行動に全ての信頼を置き、森からの返答を待っていた。それを信じる様に残りのパーティーメンバーたちも口を閉ざし、無言のまま森の中で動きを待った。
だがその静けさも長くは続かない。
やがて森の中から、水色の髪に赤いクリスタルを額に持った、見目麗しい女の姿が出てきた。腰の剣と矢筒を、動きやすいレンジャー用の服装に胸当て、何時でも動き、戦えるように姿を整えたカラーであった。カラー全てが美女であるという言葉に偽りはなく、ブリティシュらの前に出現したカラーの姿は評判通りの美女だった。その姿にカオスは表情を崩す。
「おぉ、流石カラー……これはマジで期待出来そう」
「カオス……」
カフェの蔑みの視線は、カラーの美貌の前では全く通じていなかった。とはいえ、出現したカラーを前に、欠片も油断をしていない。攻撃された場合を想定し、緩んだ表情をしていながらいつでもナイフを投擲できるように戦闘の準備は行っていた。その狡猾さ、或いはオンオフが出来るからこそ日光はカオスに対し、余りものを言わなかった。
そして森の入り口までやってきたカラーは5人組を確認し、口を開いた。
「戦士ブリティシュ」
その言葉にブリティシュが答えようとして、
「―――魔法使いホ・ラガ」
「む」
名前を呼ばれたホ・ラガが反応し、
「侍日光」
「私ですね」
「神官カフェ」
「あ、はい、私です」
「盗賊カオス」
「おう」
エターナルヒーローの存在を確認した上で、カラー・ガードが頷いた。
「全員を確認しました。女王陛下が貴方達の到着をお待ちしていました。ペンシルカウにまでご案内します。私の後を付いてきてください。はぐれると迷った挙句二度と出てこられなくなるのでご注意を」
そう言うとカラーは軽く頭を下げ、森の中へとゆっくりと下がって行く―――まるで考える時間を与えるかのように。ゆっくりと森の中に進む姿を追いかけ始めながら、カオスが笑う。
「はっはっは、儂も有名になったもんだな!」
「……本気で言っているつもりですかカオス」
日光の言葉にカオスが片手で頭を掻いた。
「……ブリティシュや元々学者として名が売れていたホ・ラガはともかく、儂や日光、あとカフェの名前が知れているのはおかしいな」
ブリティシュはパーティーのリーダーとして、伝説を率いる者として名が人間の間で売れていた。ホ・ラガもその魔法の才能、そして探求心から来る発見物、その知識を通して生み出した残された文明の発掘などで貢献している為、名が売れている。だがカオスは盗賊、日光は侍、そしてカフェは神官。探せばそれなりに居る人材だ。真面目な話をするのであれば、名が売れる理由はそこまでないのだ。
なのに名前を知られているという事に対して、カオスはちょっとした気持ち悪さを感じていた。それは《シーフLv2》技能を保有するカオスだからこそ解る様な感覚であり、まるで罠に吸い込まれたような、掌の上で転がされているかのような感覚であった。罠、という表現は間違っているな、とカオスは修正した。恐らくは知られている。何らかの手段で。そう結論した。行動はひょうきんだが、カオスのシーフとしての才能は本物であり、また同時にそれを通じて得る直感の類はブリティシュらを何度か救っている。
故にカオスが口を開いた。
「ブリティシュ」
「懸念は解る。だが踏み込まなければ得られないものもある。何より、間違いなく人類側の存在だ。手に入れる為には協力を仰がなくてはならない」
「解ってるならいいんだよ、解ってるなら。儂は魔人をぶち殺す前に死ぬのは御免だぜ。連中をぶち殺し尽くすまでは死ねないからな」
「カオス……」
カオスの中に見える憎悪の炎にカフェが名を呟き、言葉を止めた。だがその憎悪を抱いているのは一人だけじゃない。
エターナルヒーローという集団は、魔人と魔王を殺す為に集まった集団であった。その思惑はどうあれ、誰もが魔人、そして魔王によるこの人界の犠牲者たちであった。
「まだ大陸にこんな場所が残っているとは驚きましたね……」
ホ・ラガの口から感嘆の言葉が漏れた。それは珍しい事でもあった。根本的に知識人であり、文献を探ったりしているホ・ラガからすれば大体の事は既知か、或いは知っている事であった。故にクリスタルの森、それを抜けた先にあるカラーの都であるペンシルカウ、その景色に圧倒された。その景色を言葉として表現するのであれば、魔法の都というのが相応しいだろう。
自然と融和する形で生み出された都は木製の建築が多くなっており、大抵が二階建てという構造をしている。ペンシルカウ内部には川だけではなく、それに繋がる巨大な湖も存在しており、それが広く、存在している。しかも外をカラーたちは何かを恐れる訳でもなく普通に生活しており、外の里では存在している様な隠蔽や、直ぐに逃げ出せるような準備の様なものは一切見えず、心の底からカラーたちが安心して暮らしているのが目撃出来る。
それがカラーたちの楽園、ペンシルカウという都であった。
「うぉ、楽園ってマジであったんだな……」
「泣いてるよこの馬鹿……」
「アレはまさかエンジェルナイトか? それに翔竜山へと繋がる道まで出来ている……空間もこれは拡張されているのか? 凄まじいな、これが大陸唯一の国家の姿か」
初めて目撃するペンシルカウの姿に、誰もが驚きを隠せないでいた。この時代、基本的に全ての人間は灯を消して暮らしていた。灯を消して、魔人が来ない事を祈って、明日も生きている事を願って生きるのが大陸での一般的な生活となっていた。だがその影が目の前には欠片も見えなかった。
「……ここでは、怯える事なく暮らしているのだな」
ブリティシュはこの景色を見て、そう感じていた。誰も生きる事に怯えていない。明日を生きる事に希望を見ている。普通に生きて、普通に死ぬ。当たり前の、恐怖のない生活をここの住人達は送っていた。その中にはカラーと腕を組んで歩く、人間の夫婦の姿もあった。恐らくはカラーを孕ませるために外から呼び込まれた人間なのだろうが、幸せそうな表情をしていると、エターナルヒーローたちの表情には映っていた。
「えぇ、女王陛下の威光のおかげです」
ブリティシュの呟きを案内のカラーが拾っていた。
「女王、女王ウル・カラーだな?」
ホ・ラガの言葉に案内のカラーがはい、と答えた。
「我らの女王、ウル様は対魔人の戦術を構築した他、魔人の《無敵結界》に邪魔されず戦う方法を授け、その他にも守る為の手段をいくつも考えながら日夜、新たな技術を生み出す為に奮闘しています。設立の始祖であるハンティ様と並び、我々カラーにとっては救世主であり、守護神でもあります。ウル様とハンティ様が居なければ今頃の我々は魔人の玩具として狩られていた所でしょう」
「おい、待て、《無敵結界》を無視する方法があるのか」
カラーの言葉に素早く反応したカオスが前に踏み出そうとするのをブリティシュが片手で制した。それを受けてカオスが歯を強く食いしばり、そしてカラーに掴みかかろうとする動きを止めて、ブリティシュの背後を歩くのに戻った。それを軽く振り返って確認したカラーは再び視線を正面へと戻し、
「その疑問には女王陛下が答えてくれると思います。ウル様は貴方達の到来を待っていましたから」
その言葉に日光が小さく、声を零した。
「益々化け物染みてきましたね……」
「だが魔人を唯一倒した、って話も気になるな」
「全ては直接面会出来てからになるだろう」
「なんか、ちょっと怖いですね」
カフェの言葉に誰も答えなかった。見透かすような女王の招待に気味の悪さを感じないと言えばウソになっていた。カオスだけではなく、他のメンバーたちも明確に手のひらで転がされている様な、餌を吊るされている様な感覚を感じていた。とはいえ、ブリティシュの言葉も真実であった。踏み込むときに踏み込まなければ、答えは出てこない。欲しいものがあるのであれば、そのリスクを取るしかない。
故に今までの空気を払拭する様に、
「あぁ、そうだった。ここに娼館って概念はあるのか?」
「カオス」
「流石にその質問は……」
「ありませんけど、好きに誘っても良いと言われています。拒否されなければ、ですが。後数人種付けして貰えると此方としては嬉しいです」
「嘘ん!? 儂ここに住む」
「あ、住居を手配しましょうか?」
「カーオースー!」
「じょ、冗談に決まってんだろ」
カフェがメイスを片手に脅迫してくる姿にカオスが怖気づいてしまう。その姿を見て案内が少しだけ残念そうにそうですか、と声を零して案内する。その先にあるのはペンシルカウの中でも大きく、そして翔竜山にほどなく近い位置にある屋敷の姿だった。なんだ、城じゃないのか、と呟くカオスの横腹に日光が肘を叩き込んだ。それを見て苦笑したブリティシュが視線を正面に戻し、
「アレが……?」
「はい、ウル様の屋敷となります」
カラーの女王、謎に満ちた人物との邂逅が直ぐそこにまで迫っていた。屋敷に近づきながら感じる気味の悪さの中に―――しかし、ブリティシュはどうしようもない、楽しさを覚えていた。それは彼が冒険者として積み上げてきた、冒険者の魂の様なものでもあった。未知に挑み、開拓する。大義を背負っている身であっても、それでも世界を開拓する感覚にブリティシュは楽しさを覚えずにはいられなかった。
そしてその輝きを見ていたホ・ラガは必死に勃起しない様に抑えていた。
「アイツほんと気持ち悪いな」
「せ、性癖は人それぞれですから」
「気持ちの悪さでは貴方も人の事は言えない筈では?」
容赦のない言葉を受けながら、カラーの足が屋敷の前で停止した。そこで横に退き、カラーが軽く頭を下げた。
「それでは私の道案内はここまでです。これより先は別の者が案内しますので」
そう言ってカラーは去って行き、ブリティシュが屋敷の扉の前に立った。リーダーがパーティーを見渡してから再びドアへと向き直り、それを軽く叩いた。
それを待っていたかのように、屋敷の扉が勝手に開く。音もなく扉は開いていき、ブリティシュらを中へと受け入れる。招かれたブリティシュらが屋敷のホールで待ち受けているのは、二つの姿である。一つ目は金髪に黒い片翼を背から生やしたメイド姿の存在であった。それを目撃し、ホ・ラガが小さな声で驚愕しつつエンジェルナイトと声を零しながらも、
視線はメイドが付き従う存在へと向けられていた。
黒い、足のスリットが入ったドレスに身を包んだカラーだった。堂々と立ち、何も恐れるものがない様に背筋を伸ばし、そして隠す事もなく、左腕が存在しない、その傷跡が塞がっている断面を見せる女の姿だった。その女がカラーだと解るのは、その額に赤いクリスタルが存在しているからにすぎない。だがそのクリスタルでさえ注視すれば、通常のカラーの物とは形が違うというのに気が付く。
髪の色もカラーのそれとは違い、特徴的で美しいプラチナブロンドの輝きを持っている。
その姿を前に、歴戦の冒険者たちは言葉を失った。だがその中で笑みを浮かべたカラーが口を開いた。
「―――よく来たな、若造共」
歓迎する様に、口を開いた。隙のない姿。一瞬で自分よりも上位の存在であると理解させられる存在感。もはや質問する必要もなく、目の前の女が誰であるのかを、ほぼ本能的に5人は悟っていた。
この女こそが求めていた、扉への地図を持つ人物、
「俺がウル・カラー様だ」
小説版エターナルヒーローあればなぁ! 若い頃をもっと詳細に書けたんだけどなぁ! 流石に持ってないや。とか言ってたら読者に鬼畜王にPDFで付属してるって教えられた。マジかよ。
入手、修正中(一人称等
という訳で外側の人達から見たペンシルカウとかいう魔境。GLでは地上で最も安全な場所だとか言われている。そらマギーホア様が来るならそうなるわな。
そして僕らの鬼畜女王。