「準備はできたか?」
「マジで付いてくるのか……儂もびっくり」
「それにこれは……」
5人の冒険者の前には女王ウル・カラーと、そして巨大な姿が3つ並んでいた。外の世界ではもはや目撃される事がなくなった、伝説、或いは秘境の存在。翔竜山に住まうとされる巨大で、屈強で、そしてすさまじい強さを誇った種族。即ちドラゴンが並んでいた。翼を大きく広げて軽く運動しながら羽ばたかせ、何時でも背中に乗せられる様に待機している。
「光栄に思えよ人間ー」
「ウルちゃんの頼みじゃなかったら乗せないからなー」
「ただし美女と美少女は別である」
「せやな」
「だよな」
いえーい、と声を発しながら尻尾をハイタッチの様に叩きつけ合うドラゴンの姿が目撃出来る。その異様過ぎる光景に、知識人であるホ・ラガのドラゴンのイメージが一瞬で崩壊し、完全に動きが停止する。その姿を見て、ウルがまた果実を齧りながら笑い声を零した。その女王の姿も旅装というべき、コートを装着した格好に着替えられている。ついて行く気満々という様子が見て取れた。
「……大丈夫なのですか?」
「俺の心配か? 少なくともお前らが生まれる前から俺は旅と冒険を繰り返してたんだ。その心配は無用だよ。寧ろこれから北方の寒冷地帯に向かうけど、お前らはその恰好で平気なのか? 必要ならコートを出すぞ」
「あぁ、そういう魔法をホ・ラガが覚えているので」
「あぁ、なら問題ないか。そんじゃ、出かける準備が終わったら声をかけてくれ、それまでトカゲ共の面倒を見てるから」
「酷い」
「心が激しく痛みました」
「なので人間牧場を放火しに行きます」
「止めろ馬鹿」
いえーい、と笑うドラゴン達を相手に、ウルが少しだけ、困ったような様子を浮かべながらも笑って迎えていた。その姿にはお互いに遠慮のない関係が見えた。ホ・ラガの目にはそれが不思議に映り、カオスと日光の目にはそれが家族のやり取りの様に見えた。カラーとドラゴン、全く異なる種族であるのに、何故翔竜山のドラゴン達と仲良く出来ているのか、それは各員が抱いた軽い疑問でもあった。だがどことなく、それを質問とするのに憚られた為、誰も口に疑問を出さず、
「ドラゴンか、よっし、儂はこのかっこいいのに乗るぞ」
「ナイスセンス。格好良いと言った事に免じて特等席を譲ってやろう」
「……では私はこのヒップラインが素敵なドラゴンを」
「今なんて言った?」
「ふふふ……じゃ、お願いしますね、ドラゴンさん」
「あ、TADA部長が喜びそうな幸薄そうな眼鏡っ娘だ」
「誰だ」
エターナルヒーローの面々がドラゴンの背に乗り込んで行く中で、ウルも三頭のドラゴンの頭を軽く撫でてから、黒色のドラゴンの背に乗り込んだ。全員が乗り込んだ所で、ウルが視線を外し、屋敷を管理するメイドへと視線を向け、短く言葉を交わしてから片手で首筋を撫でた。
「やってやるぜ」
「魔王城突撃」
「今日から毎日魔王城燃やそうぜ」
「マジでやったらマギーホア様案件だからなお前ら」
その言葉にヒャッハー、と叫びながらドラゴン達が一気に空へと駆け上がった。風を魔法で遮断する事で快適な状態でドラゴンに騎乗する事が可能となり、一気に飛び上がったのに、飛翔をするドラゴンの背の安定具合に軽く驚くぐらいであった。そこから広がる景色に、そして翔竜山の頂上の方に見えるまだまだたくさん存在するドラゴンの姿に、自然と感嘆の声が漏れ出す。
「おぉ、ドラゴンがあんなに……」
「凄いな……あんなにドラゴンが残っているなんて……」
翔竜山の周りをぐるり、と迂回する様にドラゴンは飛翔してから北方へと向かって移動する。道を完全にウルが覚えているらしく、飛行しながらも進路を修正する様に指示を出す。地上からでは絶対に届かない様な上空を飛翔するドラゴンという移動手段は、魔人のテリトリーを越えなくてはならない移動の際に、魔人に狙われる可能性を無くしてくれる便利な移動手段でもあった。もっとも、ドラゴンに乗れたという経験の喜びによって深く考えていない者と、純粋に高高度を飛行しているという事実に恐怖している者で、その事を深く考えられる状態にはなかった。
だが地上最強の種族とも呼ばれるドラゴンの名を裏切らず、地上では数日かかるであろう距離を一瞬で越えて行き、そのまま寒冷地帯に入り込む。雪が降り始める雪空の下をドラゴンが飛翔するも、即座にホ・ラガが魔法で空気を温め始める。それによって北方地域に踏み込んだところで、熱によって体が保護される事となり、寒さを感じなくなる。
「これでホモじゃなきゃ文句もねぇんだけどな」
「もう……迷惑かけてないからいいじゃない」
「儂には理解できないし」
カオスとカフェの言い争いを風に流しつつ、ドラゴン達は飛翔して行く。その姿は魔人の領地の端を飛翔しながら、通常の生物では移動できないルートの上空を通る様にして、魔物や魔人、或いは使徒との接触を回避するルートとなっていた。そうやってドラゴンの背に乗って移動を行えば、ありえない速さで旅を進んでいく事が出来る。
半日が経過する頃には、あっさりとウルが示した目的地である【マルグリッド遺跡】へと到達する。ドラゴン達も到着するとゆっくりと速度を落とし、静かに遺跡の前の空間に降りて行く。遺跡の前に積もった雪を翼の羽ばたきで吹き飛ばしつつ、地上へと向かって魔法が放たれる。それで氷と雪が融けていき、空間が広がっていく。そしてドラゴンが着陸すると、最初に女王が降りた。それに続き、冒険者たちがドラゴンから降りて、辺りを確認する。
「ほほー、ここが例のマルマル遺跡って奴か」
「マルグリッドだ馬鹿」
北方の中でも秘境、そこに到達した冒険者たちは面白そうに周辺を眺め、ホ・ラガが遺跡の検分に入る。その間、ブリティシュの視線は女王へと向けられており、女王もドラゴン達の首を軽く撫でると、その姿を空へと帰した。ドラゴン達が去って行くのを女王はしばらく眺めていると、視線を冒険者たちの方へと戻した。
その瞳の中にある色がやや薄れている。カオスにはそう見えた。
「大丈夫……ですか?」
カフェが、何かを感じ取ったように心配そうに女王へと話しかけるが、それを女王は笑ってカフェの頭を帽子の上から撫でた。
「俺の心配よりも自分の心配をしておけ。この先にある扉を抜けたら、神からの試練が待っているからな」
「神からの試練、ですか」
「そうだ―――こっちだ」
そう言ってウルが先導し、遺跡の中へと入って行く。遺跡の中へと入って行く背中を追いかけながらも、冒険者たちは遺跡にまつわる歴史を聞かされて行く。即ち、ここに来るのは一度目の事ではなく、かつて経験した扉への挑戦の話である。かつて、この扉へと別の者と入ったとウルは話を切り出す。そしてその先で待ち受けていたのは怪獣。小山程の巨体を誇る怪物であり、それが門番として神への謁見を試す為に配置されていた。
「大きさや強さは軍隊に匹敵する強さを求められる相手だった。当時の俺でもなんとか、というレベルで退けられるな」
「という事は神に会えたのですか!?」
「いや、俺には謁見するだけの度胸がなかった。だから見送るしか出来なかった」
が、という言葉の先が見えていた。今度は、便乗するつもりであろう、という意思が。女王もまた、神に問うべき何かを持って付いてきているのだろう、だからこそ教えるだけではなく、導き、連れてくるように動いたのかもしれない。ホ・ラガはそう判断し、日光とカオスは女王の存在を警戒し続けていた。
あまりにもこの女は、詳し過ぎる、と。
しかし、先導に従えば遺跡の地下に入り、そして目的である封印されている扉、即ち神の間へと繋がる扉の前へとやってくる。無言でその横にウルは移動すると、祭壇を示し、無言を貫いた。
「……カオス、像を」
「おう」
一つ一つが珍妙なデザインをしている黄金の像、それを運んでいたカオスが取り出すと、ブリティシュと二人で並べ始める。事前にホ・ラガがその正しい順番を調べており、ホ・ラガに確認されながら黄金像を並べていく。そしてそれが全て揃った時、
ついに、
この時代二度目となる神への道が開かれた。
「これで、いよいよ神への道が開いた、って訳か……」
「……魔人を殺す手段が、直ぐそこまで……」
「……」
明確に希望と殺意を込めたカオスと日光の言葉に、そこまで深い覚悟を持てていないカフェが押し黙ってしまった。ブリティシュとホ・ラガもいよいよ神へと近づいたという事実に対して、冒険の終わりを感じていた。だがエターナルヒーローが動き出す前に、
「あ、おい、待て!」
先に、ウルが中へと進んでいった。神の扉を抜けた先の空間へと入って行き、姿が消えた。だが扉は閉じる事もなく、開いたままだった。まるで5人の侵入を待ち構えている様だった。その様子に一瞬だけ押し黙り、ブリティッシュが口を開く。
「……戦闘の用意だけはしておこう。ホ・ラガ」
「事前に支援魔法をかけておきましょう」
「儂も武器を抜いておこう」
「何が来るにせよ、事前準備は必要か」
「う、うん……」
冒険者の直感に感じられる、強敵との戦い。或いは近づいてくる凶運。その気配を経験則から5人は敏感に感じ取っていた。試練、そう呼ばれるのに相応しいだけのものがここで待っているという事実に。エターナルヒーローの5人は扉に入る前に己の武器を取り出し、戦闘準備を整える為に支援魔法を事前に準備し、戦闘を即座に行う状態を整えてからお互いを確認し、
扉を抜けた。
そして、景色は一瞬で変化する。
景色は遺跡の風景から色のない足場、その周囲には幻想的な景色が広がっており、この世とは思えない色と風景が広がっている。入ってきた場所、その対面側、反対側には扉が見える距離に存在しており、
その前に、立ちはだかる姿が見えた。先ほどまでは存在していなかった背丈を超える程の巨大な黒い両刃の斧を大地に突き刺した状態で握っている。その目の中には、先ほどまでにはなかった強い、心の色が見える。先ほどまでは薄かったものではあるものの、それがどことなく、燃え上がる前の最後の輝きの様に5人の瞳には映っていた。
「かつて、俺がここに来た時、俺は魔王スラルとここに訪れた」
「魔王スラル……二代前の魔王の名ですね」
ホ・ラガの言葉に女王のカラーが頷いた。
「スラルは臆病な少女だった。彼女は死ぬ事を恐れた。そして死を恐れぬ為に無敵を求めた。彼女の友だった俺は彼女のその必死な姿を見捨てる事が出来ず、スラルと共に神の試練に挑戦し―――そしてその果てに勝利した。スラルを神の元にまで導いた。そしてスラルはその結果、無敵になる事を神に求めた」
「おい、待て、まさかそれが《無敵結界》の始まりかッ!!」
カオスの言葉にウルが頷いた。
「神に願えば神は願いを叶えてくれる。それは間違いのない事実だ。だがそれはタダじゃない。解るか?」
「……神の試練か」
そうだ、と言葉が返って来た。そしてその言葉と共にウルが斧を担いだ。その身から殺意が溢れ出す。覇気と共に魔力が高まり、明確にそれが5人へと向けられた。それを向けられるのと同時に、反射的に歴戦の冒険者たちは武器を構えていた。目の前の相手が向ける殺意が本物であるかなんて、何度もの冒険を乗り越えてきた彼らにとっては、当然の様に理解できる事だった。
「条件を整えれば誰もが会える訳じゃない。解るか? スラルも、俺も、あの子も―――誰もが憐れで、救いようがない。そして見ているだけで笑えるような悲劇の主だ。連中が求めるのは喜劇ではない。笑える悲劇だ」
「おいおいおい、ちょっとおかしなことを言ってくれるじゃねぇか女王様よ」
カオスが冷や汗を浮かべながら言葉を向ける。
「それじゃあまるで儂らに悲劇が足りないと言っている様なものじゃないか」
その言葉ににやり、と女王が笑みを浮かべた。
「伝説の冒険者たち、扉に到達するも一人を残して全滅、生き残りの必死な願いを聞き届ける―――いかにも喜びそうな筋書きに聞こえないか?」
「おいおい、正気かよこいつ……!」
その言葉にウルは答えない。表情に影がかかり、その目が見通せなくなる。カオスの盗賊としての感覚にも、探れない程に覆い隠される。だが彼女は本気で殺しに来る。それだけが理解できる概念であった。故にブリティシュが前に出た。その額に流れる一滴の汗は、嘘ではない。間違いなく人生で最も恐ろしい敵と遭遇してしまった、その事実を前に流す緊張の汗であった。
その迷いのない動作に、カフェがしかし、二の足を踏む。
「え、でも、あの人ペンシルカウの人達に物凄い慕われていて―――」
「切り替えてくださいカフェ。ここで殺さなければこっちが殺されます。アレはそういう目です」
「信じられませんが……間違いなく本気です。此方も全力で戦って勝てるかどうかという相手です……正気かどうか疑わしいですが」
ホ・ラガの言葉に女王が笑った。
「正気かどうか、か。そんなもの―――
その言葉と共に、隻腕のカラーが左半身を前に出す様に構えた。
その言葉と共に世界最古のカラーとの戦いが幕を開けた。
はい。
神の失敗作戦。なんかそれっぽいBGMでエタヒ応援しよ?