「―――やがて破滅するのであればいっそ、殺した方が救いになるかもしれない? そう思った事はないか?」
「ざけんなってしか言えないね!」
迷う事無くカオスがナイフを投擲した。《シーフLv2》技能によって補正されたカオスの盗賊としての才能は探索、罠、投擲等に関する技能、才能を強化し、屈強な肉体でありながら機敏に、そして器用に物事をこなす力を与える。故に刹那の投擲が放たれた。どういうリアクションを取ろうが有利になる一手。踏み出しながらナイフをカオスは投擲した。
そしてそれはウルに届く事無く弾かれた。
「魔人か何か!?」
「酷いなぁ、そこまででたらめじゃないんだけど、私は」
瞳の中の人間性を削りながらウルが飛び出た。エターナルヒーロー全員のレベルを超える超高レベルの怪物。そうとしか表現出来ない能力の暴力。魔人にすら単体で匹敵するだけの能力を持って一気に飛び込み、背後へと回り込みながら透明の大地に足跡を刻み、カフェ・アートフルの横へと飛び出す。その姿は間違いなく殺意を孕んでおり、一撃で神官を殺す為に握る、黒い大斧を振るった。突風としか表現出来ない暴力の前にカフェの姿は―――無傷のままだった。
「仲間はやらせない」
剛撃の前に割り込んだのはブリティシュだった。《剣戦闘Lv2》に加え《ガードLv2》の才能、それは組み合わせとしては最高の前衛戦士のものと呼べる。一人で切り込み、そしてパリィングを駆使した戦闘技術によって、退く事なく前進し続けるだけの技量を授ける。事実、カフェを一撃でミンチに変える様な一撃にブリティシュは割り込み、受け流した。振り抜かれた剛撃を前に、突風が後から放たれてくる。振り抜かれた宝剣イングランドを握るブリティシュの手が、
僅かに震える。
「《白色破壊光線》ッ!」
ホ・ラガの魔法が放たれる。その閃光に対して迷う事無くウルが動いた。回避する様に振り抜かれた斧を軸に、体を空中で一回転する様に飛び越える。それに追撃する様に日光が音と気配を殺し、
神速の居合抜きを放った。それを加速された蹴りで対応した。空中に持ち上がったウルの姿が居合と一瞬だけ交差し、アクロバットを行う様に降りてくる。その足に僅かな切れ口が走るも、それが再生して行く。距離をそれで開けた所で斧をカフェへと向かって投げつけながら、片手を持ち上げた。
「《ガンマ・レイ》」
「ッ、《黒色破壊光線》!」
「《魔法バリア》!」
斧の投擲と重力光線が同時に相殺された。その隙に日光とカオスが飛び込む。踏み込むウルの拳がカオスが振るう剣を正面から殴って捉え、金属音を響かせながら動きを停止させた。
「本当にカラー?」
「ほんとだよー」
「嘘だぁ」
ウルの背後へと日光が飛び込みながら居合が放たれるのを体を瞬間的に加速する事で回避しながら投擲された斧が飛び、戻ってくる。それを掴む様に手を伸ばしながら更に瞬間的な加速を行い、踏み込みながらウルがカフェへと向かう。一番弱く、そして守られなければいけない相手から殺す、合理的な戦術だった。だがその前にブリティシュが立ちはだかる。
「僕が居る間は、仲間は誰も死なせない―――」
「……」
斬撃と斬撃が交差する。隻腕の咆哮とも表現できる斧による一撃は空間そのものを震わせるような破壊力を発揮する。たった一度の交差。それだけでブリティシュの腕が引き抜けそうになる。だがその背後に守られるカフェが素早く魔法を発動させた。
「いたいのいたいの、とんでけっ、とんでけっ―――」
言葉はふざけている様に聞こえるが《神魔法Lv2》という領域は、その実、ダメージを受けた端からブリティシュの状態を回復している。致命傷でないのであれば、余りにも簡単に傷を癒す事が出来る。それ故、強く、踏み込んだ。前に。一歩だけ前にブリティシュが踏み込んだ。
金色の髪をなびかせながら、その合間から見える表情が一瞬だけ、笑ったのがブリティシュの目に映る。
そして始まる、神速の剛撃。一呼吸間に7を超える斬撃が更にウルが踏み込みながら放たれる。斧という重量のある武器を使っている中で、それをまるで羽の様に扱う様子はでたらめとしか表現する事がなく、斬撃を乱撃させながらカフェを狙う様に、その動きは滑る様に回り込もうとし、
「《粘着地面》」
「そーら、よっ!」
ホ・ラガとカオスの組み合わせによって止められる。滑り込んだ足元が粘着化した地面と、カオスが投擲したナイフがストッパーとなって、足が滑るのを止めた。直後に《粘着地面》もナイフも粉砕される。だがその一瞬が次の動きをパーティーに許す。
「はぁっ―――!!」
宝剣イングランドが煌めく。斬撃が音速を超えて振るわれる。無防備なウルの首筋を狙って放たれる極閃が一瞬で最高速度に到達し、
そこに、正面から受け止めた。
首で。
そこだけ、僅かに鱗が生えているようで、斬撃を首で受け止めつつ踏み込み、そのままブリティシュを殴り飛ばした。僅かに首筋に食い込んだ刃の痕から血を流すも、切断には程遠いという姿を見せていた。殴り飛ばされたブリティシュをカオスが受け止め、カフェがその姿を直ぐに癒す。
「アレ絶対カラーじゃないって。儂絶対アレがカラーだとか認めないから」
「不本意となりますが、同意しましょう。種族間違えていませんか」
集結するパーティーの姿を前に、ウル・カラーが視線を片目で送りながら、片手で握る斧を掲げた。大技が来る。即座にそう判断し、《魔法バリア》が張られる。そしてをそれを粉砕する様に、
「《ファミナルス・レイ》」
叩きつけた。亀裂が存在しない筈の床を走り、広範囲に光と重力の爆裂を噴き上げさせる。《魔法バリア》がそれを防ぐものの、崩される。それをホ・ラガが新たに放つ魔法で防ぐ。必殺技と呼ばれる領域の技に、空間が満たされる。
「あるがまま、それを受け入れて生きられるのであればどれだけ楽なのだろうか……」
声が光の中で消えていく中、《黒色破壊光線》が放たれた。それも連続で。《魔法Lv3》の領域にあるホ・ラガの才能はそれこそ、数値上はあのハンティ・カラーと同格という領域にある。伝説の魔法使いと呼べるクラスになる。そしてその魔力は通常であれば不可能な、破壊光線の魔法を連続で放つ事さえ許す。
その魔力と魔法の暴力によって必殺技の合間に、道が出来た。
そこにブリティシュが飛び込む。両手で宝剣を握り、構え、それを盾にする様に、しかし同時に切り込む様に。攻防を両立し、唯一、僅かな攻撃の残滓の中、体を焼かれ、肉を削がれながらも踏み込んできた。道を広げ、後の続く流れを作る為に。
「おぉぉぉおおお―――!!」
「……あぁ」
斬撃と斬撃が交差する、不動の如く、その場に立つウルが隻腕で斧を振るう。それが宝剣と連続でぶつかり合い、斬撃の交差を無数に生み出す。その陰に紛れたカオスと日光が飛び込んだ。宝剣に蹴りを入れながらウルの体が後ろへと滑る。それに二人が一気に追従する。素早く繰り込んでくる盗賊と侍のコンビ、同じように動きを身軽に変えたウルの姿が素早く動きながら、素早い動作で短く斧を振るって行き、横へと跳躍しながら連続で動き、日光とカオスの間を抜けようと攻撃を振るう。
直後、日光とカオスが飛び退く。そして入れ替わる様に、空間そのものを飲み込む魔力が放たれた。
「《絶対零度》!」
「本当に」
ウルの姿を氷塊が包んだ。それを内側から咆哮と共に砕きながら笑みを浮かべ―――傷を得ながらも、まだまだ戦える姿を証明する様に、斧を透明の床へと叩きつけて、背筋を伸ばし、口を開いた。
「楽しい、人生だったな……もう、これでいいだろ」
言葉を吐き、ウルの動きが停止した。放たれる魔力が途切れ、そして覇気と呼べるものが消えた。まるで機能停止するかのように、動きが完全に止まった。その唐突な変化に、5人が警戒をしたまましばらく眺め続けるが、
やがて、限界を迎えたブリティシュが床に倒れ込む事で動き出す。
「ブリティシュ!」
「ブリティシュ! 大丈夫? ねぇ、ブリティシュ!」
「僕なら、大丈夫だよ」
苦笑しながらブリティシュは床に座り込むが、その両足は皮が剥げ、肉が削げている。片手の指は曲がってはならない方向へと曲がっており、カフェの目には腕の骨、そのものが大きなダメージを受けているのが解った。涙目になりながら回復の魔法を使ってブリティシュを癒していくが、それでも完全に治す事は出来なかった。
それと引き換える様に、部屋の奥で閉じていた扉が、ゆっくりと開いた。光で満たされた扉は向こう側が見えず、残された4人を迎える様に佇んでいる。ブリティシュの周囲に4人は集まりつつも、斧を降ろした状態で立ったまま動きを止めたカラーへと視線を向けていた。
「……死んだのか、アレ……?」
カオスが恐る恐るという様子で確かめつつ、その言葉を吐き出した。明らかにカラーという生物の範疇を超える能力、強さを見せたカラーの女王の実力に、トラウマに近い記憶が刻み込まれていた。人類史最強とも呼べる冒険者集団、それが本気で戦いながらもまだ余裕を残す様な相手なのだ、何よりそういう実力に対して嗅覚は敏感だった。
それだけに、人一倍、突然の停止に恐怖を感じていた。
「たぶん……限界だったんでしょう」
ホ・ラガが知識を掘り返しつつ、呟いた。日光がその言葉に思い当たる事もあり、言葉を添えた。
「心が?」
「はい。2000年の時を超えるカラーなんて聞いた事がありませんから。寿命を迎える前に、先に心の方が耐えきれなかったのではないでしょうか……聞いた話、私達よりも遥かに世界の事を知っているようでしたし。それに試練が必要とも言っていました。だから恐らくは、自分を……と」
その言葉にカオスが溜息を吐いた。
「マジで。死ぬかと思った。もう二度と戦いたくない」
ホ・ラガと日光が頷き、そこに駄目、とカフェが声を零す。涙を両目いっぱいにためながら頭を振った。
「私の治せる範囲を超えてる……」
カフェが必死に治療していた。魔法を唱え、傷を治療しようとする。だが必殺技の残滓の中を突っ切ったブリティシュの足は破壊されている、という言葉に近い惨状になっていた。カフェの回復を受けた所で長い治療を必要とする。故にブリティシュは痛みを堪えつつ、笑みを浮かべた。
「いや、もういい。それよりも皆は先に進んでくれ。何時までもあの扉が開いているとも限らない」
「でも、ブリティシュ……」
「行くんだ。何時までもアレが開いているとは限らないんだ―――この先の為にも、行くんだ」
泣き出すカフェに対して捨てて行け、とリーダーが命令を下す。それをカフェが頭を横に振るが、それを見て、カオスが息を吐く。視線をブリティシュから外し、真っ直ぐ、扉へと向けて歩き出す。
「じゃ、魔人を殺す手段を手に入れたらまたな、ブリティシュ」
そう言ってカオスは歩き出し、動きを完全に停止したカラーの横で一瞬だけ、足を止めた。だがそれだけ。再び足を動かし、扉の向こう側へと消えて行く。ホ・ラガもブリティシュを見て頷き、日光もカオスに続く。
「ブリティシュ……気高き人、貴方と会えた事を私は光栄に思います。神との謁見が終わりましたら、直ぐに戻って来ます」
「必要な願いは私達で全て叶えてきますから、安心してください」
ホ・ラガと日光が進んで行く。そして扉を抜けて、消える。そこに残されたエターナルヒーローは、ブリティシュとカフェのみとなった。唯一、カフェのみが心に強い主柱を持っていなかった。それ故にカフェは踏み出す事が出来なかった。仲間を捨ててまで叶えたい願いというものが彼女にはなかった。
それでも彼女の背をブリティシュは押した。
「行くんだ、カフェ」
「でも、ブリティシュ、その傷じゃ……痛い筈なのに……」
「僕の事は良い。それよりも、何のために僕達がここまで冒険して来たのかを―――それを、それを裏切りたくないんだ」
「ブリティシュ……」
「カフェ、行くんだ」
カフェは理解していた―――このままブリティシュを放置すれば死んでしまうという事実を。神官である彼女だからこそ一番良く把握している所だった。だからこのまま放置して行けば、ブリティシュが死ぬという事も解っていた。それだけ、足の怪我が酷かった。それをカフェは見捨てられなかった。だがそれでもブリティシュは行け、と言う。
その言葉に押され、カフェが数歩、下がった。
「行くんだ……そう、それで良いんだ……」
「ブリティシュ……また、ね」
「あぁ、また会おう」
そして、扉を抜けられる最後のエターナルヒーローが扉を抜けた。
疲れ切ったブリティシュは力を抜いた躰を床に横たわらせた状態で、深い息を吐いた。ブリティシュは仲間を信じていた。彼らであればきっと、魔人や魔王に対抗する為の手段を手に入れてくれる。絶対、そうしてくれると信じていた。故に不安はなかった。だがそれとは別に、ブリティシュの胸をかき乱すものがあった。
「貴女は何故、このような手段を取ったんだ……?」
動かなくなったカラーを見上げ、ブリティシュは呟いた。動かなくなった女王は何かを伝えようとしていた。何かを止めようとしていた。何かを諦めようとして、諦めきれない姿を見せていた。その狭間のコントラストを瞳の色に見せていた。複雑で、そしてそれが読み切れない色となって淀んでいた。
「貴女は魔人にも対抗できる手段も知恵もあったのに何故―――」
何故、自分から自殺する様な手段を取ったのか、とブリティシュは言葉を口にする事が出来なかった。女王の真意を理解する事は出来なくとも、その行動には強い意志を感じていたからだ。まるで残された全てを燃やし尽くし、測る様な何かを。それが果たして実を結んだかどうかは、不明であったが、
それでもどことなく、
この人物は目的を達した。そういう風にブリティシュは感じていた。
そしてそこまで考えた所で、
「皆、後は……頼んだ……よ……」
ゆっくりと、目を閉じた。
そして静寂が試練の間に残る。
カオス、日光、ホ・ラガ、カフェはプランナーに謁見する。彼らは正史と呼ばれる流れと同じ願いを神に願う。そこに変化はなかった。彼らという存在を変えるのであればそもそも、ウル・カラーの奮闘は遅すぎた。或いは殺せば歴史は大きく変わったかもしれない。だが彼女のささやかな抵抗は終わりを告げ、ブリティシュだけが到達できないという歴史通りの流れになった。
これにてウル・カラーという女の物語は、
「―――あら、人の事は散々助けておいて自分だけ楽になろうなんて、都合が良過ぎるんじゃないかしら?」
終わった筈の試練の間に虚空から女の姿が出現する。貴族の様な上品な服装に身を通す女は頭に二本の角を生やした、悪魔だった。元魔王の悪魔であるスラルはそうやって悪魔界から表の世界へと出現すると、完全に精神力を使いつくした友人の前へと移動し、その頬に触れた。
「ほんと、不器用な人。何時までも助けて、って言わないんだから。貴女がそうしたように、私も勝手に助けさせて貰うわよ」
まぁ、とスラルは呟く。
「細かい所は賭けになるけど……」
そう言ってスラルの視線はウルからその背後、その先へと向けられた。
スラルの視線の先には、先ほどまでエターナルヒーローたちが抜けた扉とは別の扉が存在していた。先ほどまで冒険者たちを受け入れていた扉とは別の扉―――別の神へと通じる扉が、最後の入場者を求めて開き続けていた。その向こう側から感じる力をスラルは敏感に感じ取っていた。故にスラルは力の消えたウルの存在を抱くと、その姿を持ち上げて扉まで近づき、
「さ、私とジルでここまで整えてきたんだから―――戻ってこなきゃ、私は嫌よ?」
そう言って扉の向こう側へ、待ち受ける神の間へとその姿を通した。それを終わらせたスラルは扉から下がり、目の前で扉が消えるのを見た。それを目撃してから、
―――懐から魔血魂を取り出した。悪魔界にて封印され、そして管理されていた、魔人メディウサの魔血魂であった。それを取り出したスラルはそれを握ったまま倒れているブリティシュへと近づき、
それをブリティシュの口の中に押し込んだ。
ブリティシュの体の中へと魔血魂が溶けていき、その傷が癒え始めながら跳ねる。精神の戦いが始まった。ブリティシュ、もしくは魔人メディウサか。勝利した方がその肉体を手に入れ、新たな魔人としてこの大陸に君臨する事が出来る。それを眺めたスラルは自分が契約を完了させた事を確認した。
そして再び、ウルが消えた扉へと視線を向け、
「これで私とジルの悪だくみはおしまい。ちゃんと帰ってきてね」
そう言葉を残し、スラルの姿が消えた。
そしてしばらくして、人間が一人だけ残された空間。そこで誰も知らない心の戦いが繰り広げられた。精神と精神の衝突。存在というモノを残す為の戦い。自分という存在を手に入れる為の戦い。魔血魂内部のメディウサの精神と、魔血魂を吸収した痛みと熱で覚醒したブリティシュの心の戦いが続いた。
そして再び静寂が戻る―――そこに新たな魔人が誕生した。
ウル視点ではないのは描写できるほどの心理描写が出ないので。
赤は困難ルート。緑は普通ルート。1週目ウルはそもそも動き出したりしたのがGL後期、GIなのでスラル、ナイチサをスルーしていた分精神力的にもかなり余裕があったので未来にまで到達していた。つまり1週目に関しては考えるだけ大体無駄でもある。
スラルとジルの共謀。魔人の誕生。神の謁見。
次回、やっと会えたね。