「久しぶりのシャバの空気は―――うーん? ルドちゃんのほうが澄んでた気がするな。うん。というかクッソ暑いわ!!」
着ていたモッズコートを脱いで叩き捨てる。そのまま上着も脱いで捨てて、上半身をブラジャーのみの恰好に変える。その状態で天上帰りのお土産を横に浮かべつつ。隻腕を空へと向かって伸ばした。結構いい感じの時間を過ごせたのではないだろうか? 身も心も完全にリフレッシュした気分で爽快感が溢れていた。こうやって心が気力で満ちているのは、まさに数千年ぶりの事だった。今ならドラゴン時代の様に頭を空っぽにして、馬鹿をし続ける事が出来る自信があった。
「あぁ、でも空は眩しいな。ずっと大空洞の中に居たし。お日様の恵みはいいなぁ―――って言うとでも思ったか! ファック!! ファァァァック!! もっと! マシな!! 場所に!! 出せよ!!」
空からは熱波が降り注いでいる。炎天下の下、汗が溜まっていくのを感じる。熱を考えると、たぶんゼス周辺地域に居るのだと思っている。服装が北方用の物になっているので、ここらへんで着ている分にはクッソ暑いのである。半分キレる。というかキレてる。転移を担当したの絶対プランナーだろ。解るぞ、お前の脳味噌クソしか詰まってないもん。それともアレか、ローベン・パーン君のおうちは便所の中ぁ! ってルドラサウムに適当教えたのが駄目だったのか。
ファック。
「死ねぇ! 死に晒せプランナー!! ローベン・パーンもクソを喉に詰まらせて死ね! ばぁーか! ばぁーか! 死ねよ! はーっはっはっは―――ふぅー、すっきりした」
片手で首回りをいじりながら軽く頭を回して、凝りをほぐす。心も身体も完全に快調だった。長い、長い苦痛から解放された上で時間逆行による遡行を受けて精神は昔の状態まで一気に回復させた。あいつらに常識って概念はなかった。まぁ、神様だから解ってた。とはいえ、
漸く、長い年月の絶望から解放された。
漸く、本当に漸く―――自分だけの人生を歩めるようになった。ランス君の誕生がルドラサウムによって確約されたのだ。母親はクルックー以外の可能性も存在している。だがそれでも彼が父親である事は確定している。そうでなければエールは生まれてこない。そして生まれて来る事を望んだルドラサウムは、ランスが歴史通りに生まれる様にするだろう。
だから俺はもう自由だ。
後は適当に人生をエンジョイすればいい。全ての苦痛と重荷から解放された。今では太陽の日差しも素晴らしく感じる。あぁ、生きているって素晴らしい。俺頑張った。超頑張ったよ! やったぜ!
「ケーちゃんの顔面蹴り飛ばしに行くか」
「可哀想だから止めなさい」
「あ、スラルちゃん」
振り返りながら視線を向ければ、黒い昔通りの服装のスラルの姿が見えた。今は変装しているのか、悪魔の角はない、魔王時代を思わせる人間の姿をしている。その姿を見て、発動させている冷却魔法を見て、あぁ、それで俺も自分を冷やせばいいんだ、と思い出す。ここ数百年、軽くボケが入っていただけにちょっとやばいかもしれない。こめかみを軽く叩きつつ魔法を発動させ、涼しい空気を自分に送りつつ、
「お前、ジルとどんな取引をした」
「貴女が限界を迎えそうだから手伝って? って言ったら一瞬で協力を得られたわよ、せ・ん・せ・い。まだ慕われているようで良かったわね」
「んー、俺の心にクリーンヒット」
苦笑しながら胸を抑えつつ、苦しむ様なジェスチャーを取ってから、軽く遊ぶのを止めて、片手で頭の裏を抑える。ちょっとだけ居心地の悪さを感じつつ、口を開く。
「……頼ろうとしなくてごめん」
「人の事を助けておいて、自分だけ早く死のうだなんて良い根性しているわよね。私を助けたんだから、長生きして貰って、たくさんお菓子を食べさせて貰わないと困るわよ。後ノルマの手伝い」
「最後のはちょっと立場的に難しいかなぁ!」
「ほら、貴女がちょっと動けば騒乱の一つや二つ……」
「具体的なプランが見えてるのは解ったから止めよう! 俺自身が戦争を始める様な事はしたくないから!」
「DDW」
「はい、終わり! この話は終わり!」
滅茶苦茶恥ずかしい話題を唐突に引きずり出してくるの本当に止めて、と顔を隠しているとスラルが少し笑っているのが見えた。その姿を見て、良しと呟いた。手を腰へとやり、胸を張りながら姿を真っ直ぐ、スラルへと向ける。
「頼らず、心配させたからな―――良し、一発好きにぶち込んでいいぞ」
「ソリッドブラッド」
迷う事無く横へと跳躍して回避した。ノータイムで放たれたスラルの必殺技が大地を抉りながら血の様な赤い痕跡を空間に描きつつ飲み込んだのが通り過ぎるのを眺め、大地に転がった状態で、スラルへと視線を向けた。
「……そこまで怒らせてた?」
その言葉にスラルが近づき、両手で頬を掴んで、無言で引っ張り出す。それで頬をつねられながらぐにゃぐにゃと弄られ、どれだけ心配させていたのかを理解してしまった。その姿にあー、と声を零し、
「ほんとごめん」
「もう、次はちゃんと私に言ってね。……本当にもうダメだったら私が迎えに行くから」
「まぁ、その時は頼むよ」
息を吐き出しながら大地に座り込み、腰のポーチから何か、食べ物を探そうとして、ヒラミレモンしか入っていないのを確認した。まぁ、好物だから別に良いんだけどね? そう思いながらヒラミレモンに齧りつき、すっぱぁー、と呟きながらちゅうちゅうとそれを吸う。天上に居る間は眠くならない、お腹が空かない、疲れない、と素晴らしい環境だっただけに、久しぶりに味という概念を舌先に感じている。やっぱヒラミレモン好きだわ俺。
と、そうやって水分補給していると、スラルが懐から取り出したものを投げてきた。それを重力制御で受け止めて持ち上げ、
「げっ、俺の【ひつじNOTE】やんけ……」
「ほんと、大事なものは耄碌していてもちゃんと管理しなさいよ? まぁ、おかげで良いヒントにはなったけど。あぁ、ちなみにそれ、私だけじゃなくてジルにも見られてるわよ」
「暗号化してあるんだけどなぁ……」
まぁ、世紀の最強頭脳であるジル&スラルの前には暗号なんて概念、ほとんど意味がないだろう。だけどこの知識を装備した魔王ジルが誕生してしまったのか。どうしよう。どう足掻いてもガイが情夫にされる未来とか見えないのだが。これはアレなのか? 一回目の戦闘で魔王戦争にけりを付けなきゃならないのか? 魔人ガイではなく、そのまま魔剣士ガイから魔王ガイルートと。
めっちゃくちゃ辛そう。でも楽しそうだ。どうしようかなぁ、と呟きながら【ひつじNOTE】をポーチの中へと戻す。このノートは根本的に前世で見た某ひつじな小屋産の知識を覚えているだけぶち込んだ、このランスワールドの集大成とも呼べる知識の塊なのだ。俺はそれを完全に利用出来てはいないが、スラルやジルの様に知恵のある奴が利用する事で本領を発揮する。
……まぁ、ホ・ラガのようにどうしようもない、と理解してしまったどうしようもない奴もいるが。
「ジルは―――あぁ、いや、やめておくか。これは自分の目で確かめた方が楽しそうだな」
「段々と調子を取り戻してきたみたいね」
「ちょっとここ1000年は怪しかったからな」
馬鹿をやる余裕が消えて真面目に物事に対処し始める辺りが危険信号である。ここ数百年はほんと、真面目過ぎて本当に俺? って感じマシマシだったが。それでもルドラサウムとの長い交流の果てに漸く、
ウル様! 完全! 復活! と言いう感じである。復活というか、向こう側に脳味噌を吹っ飛ばしたという言葉の方が正しいかもしれないが。もう、悩みの種が異次元の果てへと消し飛んだので、俺が心配する必要がなくなったのだ。これからはどう動けばいいのか、完全に自由だ。
今からガイをぶち殺しにだって行ける。
「元々俺もっと畜生だった筈だし。その心を取り戻したぞ」
「いや、それは捨てて良いから」
またケーちゃんを窓から捨てたい気分だった。ともあれ、ヒラミレモンを食べて喉を潤したので、ゴミとなったものを投げ捨てて圧縮し、その圧縮した残骸を燃やして消した。息を吐きながら拳を握り、軽くそれを振るって風を切る。感触も悪くはない。
今夜はベッドで気持ちよく眠れそうだった。スラルからは色々と聞きたい事があるけど―――まぁ、いいか、という感じだった。何を知られたのか、ジルとはどういう関係だったのか、ジルの様子は? 今のスラルはどういう感じだとか、色々知りたい事もあったが、
「森に帰ってうはぁんでも焼くかー」
「お、待ってました。久しぶりに桃リンゴを贅沢に使ったやつ、私食べたいなぁ……?」
「おーおー、一番良い奴を使って作ろうぜ。ついでに紅茶も美味しいのを用意させて、ケーキとかも作っちまうか」
笑いながら清々しさを感じつつ、天上から持ち帰った土産を脇に抱える。それを片腕で抱きながら歩き出そうとすると、自然とスラルの視線が脇に抱えた土産へと向けられる。それを受けて、足を止め、お土産を持ち上げる。当然の様にスラルの視線がこれへと集中し、
「気になってはいたんだけど……なにそれ」
「お土産」
「いや、そういう意味じゃなくて」
まぁ、意味は解っている。なのでお土産を再び浮かべつつ、自分も軽く浮かび上がり足を組みながら良いか、と言葉を置く。
「神様ルール的に謁見したらなんか不幸にさせる為に願いを叶えなくてはならなくてな?」
「前々から思ってたけど神様ルールほんとクソよね」
それな、と頷きつつ話を続ける。
「で、俺もルドちゃんと未来や冒険の話題で盛り上がった後、ランス君の活躍に関してファントークをこう、結構な年月続けたんだけど……俺、何年ぐらい失踪してた?」
「ざっと200年ぐらいよ」
「俺、ルドちゃんと200年もオタトークしてたのか」
でも盛り上がったのだ。エールちゃんの大冒険の話とか。あの時こう行動してたら絶対楽しかったよなー! という感じの話を。あとランス君いいよね、本当に楽しそうでいいよね、って感じの話を200年も続けていたのか。あぁ、でもなんか続けられそうな感じはある。この感じ、原初のノリを取り戻した感じが非常に強い。今の俺は精神的に軽く無敵な気がする。
だけどお前らは許さないからな、プランナーとローベン・パーン。
「えーと、そうだそうだ、お土産だ」
そうそう、その話だった。なので目の前にお土産を引っ張り出した。
「だからとりあえず、何をするにしても絶対に手を抜かせられない、変な風に曲解できない願いを叶えて貰った」
そう、それで頼んだのがお土産である。
それは白く、美しく、そしてチャーミングな赤い瞳を持った、モフモフとした感触を持つ物だった。本来の1000分の1のサイズで再現されている姿は、全長およそ2メートル程度のサイズである。個人的に尻尾の部分を握るととても振り回しやすいこれは、
「1000分の1創造神クッション人形だ」
「1000分の1創造神クッション人形」
「抱き枕にもなる」
「主神の抱き枕」
即ち、ルドちゃん人形である。要求した時、ハーモニットだけが爆笑してた。これに変な仕込みをするようであれば、確実にルドラサウムに対する不敬になるので、三超神の曲解担当とクソバランス担当は変に手を出す事が出来ずに、壊れない事と、そして汚れない事を、そして最強に抱いていて気持ちいいという機能性を持ち合わせた、理想のクッションだった。
どこに持ち込んでも不足はない。
しかも見てくれ、と言いながら尻尾を掴んで軽く振るった。レベルと《槌戦闘Lv3》が乗り、簡単にルドラサウムクッションの姿が音速を超えて空間を薙ぎ払った。
「《槌戦闘》技能が乗るからこれで戦える」
壊れないし、音速を超えれば多少硬くてもその衝撃で殺せるし。そこまで速度が出てないと当たった時に気持ちが良いだけのクッションなのだが。だけどLv3技能で振るえば殺人兵器になる。たぶん、本来想定された使い方じゃないのだろうけど。
「今、この世で考えられるレベルで最高に不敬な行いのランキングを更新中なんだけど自覚ある?」
「個人的にこれで一級神を殴りに行ったらどういうリアクションを見せるのかが最近の興味にあるから、今度ALICEちゃんとのお茶会に持ち込もうと思うの」
「余りにも可哀想な事は止めなさいよ」
がっはっはっは、と笑いながら胸を張って、クリスタルの森へと向かって歩き出す。その横にスラルが並び、苦笑しながらも脇腹に肘を叩き込んできた。
「なんだよ」
「……私にもそれ、使わせてよね」
「えー、今夜はこれ抱いて寝るの」
「……え、なにこれ凄いもふもふで柔らかい。ちょ、ちょっとだけ、今夜ちょっとだけ……」
「駄目駄目! 俺がこれを抱いて寝るんだよ! 絶対気持ちよく寝れるってばこれ!」
逃げる様にゆっくりと走り出しながら振り返り、追いかけて来るスラルの姿を笑いながらルドちゃん人形を抱え、追いついてくるのを待って、軽く拳を叩き込まれるのを笑いながら受け止めて、そして二人で並んでクリスタルの森へと帰る。
そう、帰るのだ。
故郷へ。
俺はもう―――この世界の住人なのだから。
この話の間BGMはずっと我が栄光聞きつつ書いてた感じ。
復活ッ! 馬鹿なノリとテンションで復活ッ! 精神力が回復したのでもう、色々と昔のノリに戻りつつノートの中身を見られたりルド人形の目が光ってドラゴン絶滅ビームって言うとなんかビーム出たり。
大体苦しいの終わり。もっと強敵増やしつつそれを相手に暴れようぜ。