目が覚める。手と両足をルドちゃん人形に回す様に抱き着き、目が覚める。触っても抱いても乗っても気持ち良さを保証してくれるゴッド産クッション人形は実に優秀なもので、どんな場所でもこれを抱いて眠れば一瞬で快眠になる。実に素敵なクッションである。一度使えばルドラサウムちゃんの素敵なフォルムと感触にもう、メロメロ、これは主神信仰待ったなし! ハイパー不敬なのだろうが、お構いなしに日常的に運用している。
しかも目が光る。
それはそれとして、2メートルもあるルドちゃん人形はそれなりの大きさがあり、反対側からもう一人ぐらい抱き着くだけのスペースがあり、最近はハードワークを終えたらしいスラルが反対側から抱き着いてすやすやと眠っている。思えばこんな風に友達と一つのベッドをシェアして寝るのは割と珍しい事なのかもしれない。
だが蹴る。俺のルドちゃんだ。
「ぐぅ……」
「えいえい。えい……よし、落ちたな」
クッションから。そして眠りに。スラルを剥がしてクッションを独占した所で、跨る様に、しかしクッションを下にして倒れ込む様に、体を上に乗せる様にしたまま、クッションを魔法で自分諸共浮かべる。軽く自重で体がクッションの上部に食い込むが、柔らかくてふわふわするので気持ちが良い。これは人をダメにするルドラサウムだ。そう思いながらふわふわと浮かびながら指先を部屋のドアに向け、指をくるっと回せば、それに合わせてノブが回り、扉が開く。
ドアの縁にぶつからない様に気を付けつつ、そのまま浮かんで外に出る。何時までもぐだぐだと眠っているのも悪くはないが、ペンシルカウに戻ってきて大分ぐだぐだしたので、そろそろ働くお時間である。欠伸を漏らしつつそろそろ起きるかぁ、と鋼の意思でルド人形から降りるのを拒否しつつ、従者の名を呼ぶ。
「るしあー。るしあー」
「はい、此方に」
「うぉっ」
名前を呼んだら忍者の様な登場の仕方をした。流石にビビる。ルシアに《忍者Lv》技能ってあったっけ? まぁ、呪われたり神の気まぐれでここら辺の技能は生えたり減ったりする上に、ランス世界そのものが定期的にアップデートされているし、考えるだけ無駄だ。ところでこの世界に対するTADAパッチ適応まだですか。マグナムパッチも。まぁ、それはともあれ、音もなく影と共に出現した堕天使メイドという存在を見て、
「……堕天使メイド」
「はい」
「響きが蠱惑的だな……」
「そう、なのでしょうか……?」
「だってよく考えてみろ―――メイドで堕天使だぞ。追放された天使がメイドとして仕えているという事実はこれ、実質的にギャップ萌えなのではないだろうか」
その言葉にロングスカート型、正統派のメイド衣装に身を包んだルシアは腕を組み、胸をそれで持ち上げつつ首を傾げ、頷いた。
「成程……しかしウル様、これでは堕天使っぽくありません。どうすれば堕天使っぽいでしょうか。これではただのメイド天使です」
「それもそうだな……今後の課題だな―――あ、朝風呂入りたい」
「では湯の準備をしておきますね」
またルシアが消えた。すっかりメイドとしての姿が板についてしまった。これではケッセルリンクの事を全く笑えない。でも身の世話とかをやらせるときに、メイド服にさせるとしっくりくるんだよなぁ、と思う。ケッセルリンクに対抗して執事服でも着せてみるか? あぁ、でもそうすると倒錯趣味みたいな感じがして嫌だなぁ。堕天使たちの事は可愛いけど、そういう対象としては見れない。いや、まぁ、可愛いんだけど。
「ふいー……先に歯を磨くか」
怠惰に暮らすコツとして重力制御で歯ブラシを動かせるので、ノータッチで歯を磨けたりするのだ。もう、ここまで来たら身を浄化したり清める魔法を開発したほうが楽なのでは? と思いつつ朝風呂に入る前の準備として、歯を磨いておく。
「あ゛ー……朝風呂サイコー……」
元々、建築された時には風呂がなかったのだが、俺の屋敷だというのなら風呂場は必須である。そういう訳で室内ではあるものの、広い風呂場が我が家にはある。何時の間にか贅沢な暮らしをする様になったよなぁ、と思う。これで最初は全裸で森の中を暮らしていたというのだから笑える。
風呂の縁に背中を預けつつ、手を伸ばして、指先に視線を向ける。その末端にまで神経が注がれている様な感覚がある。前よりも心と体が一致している感触がする。前よりももっと、自分の体を自分の体として感じられる。ストレスから解放されたことで、魂と肉体の一致が進んだのかもしれない。だいぶ女としての自覚、意識も進んできている。
顔にお湯を叩きつける。
「GL746年かぁー……」
大空洞でルドラサウムと語っていた時間はほぼ、200年近い。だいたい200年だ。それだけ天上で過ごしていた。あそこでは外へと視線を向けなければ、昼も夜も時間もないのと同じだ。気づけばそれだけの時間が過ぎ去っていた、という感覚だった。おかげでペンシルカウに戻ってきたら俺の墓石が存在してた。
無論、蹴り飛ばして破壊してやったが。少し前までならいざ知らず、今じゃそこまで積極的には死のうとは思わない。世界が変動し、未来が待っている中で、ランス君の活躍を見るまでは死ねるか阿呆、という感じだった。俺が定期的に数百年姿を消すのは常識なのになぁ。
ハンティとか割と行方不明になってぽっと出てくるし。
まあ、そんな事よりも問題は、
「ガイが既に魔人化してるとはなぁー……」
ガイが魔王ジルに勝負を挑むときは不明だったが、それでもそれはエターナルヒーローの活躍以降の話である。俺がルドラサウムとファントークをしている間にまさか襲撃しているとか、あの早漏少しは俺が帰ってくるのを待っててくれないのだろうか、イベント的に考えて。でも、まぁ、ガイがそうやって捕まっているならつまり数百年以内に魔王戦争へと向かって状況は動いているのだろう。
「GL1000年から4年間続く魔王との戦争かぁー」
「貴女、それはどうするの?」
「お、スラルちゃんおはよ」
「おはよう」
風呂場に裸体を晒しながらスラルが入ってきた。女同士なので焦る事も驚く必要もないので、入ってきたところを確認してから、再び足を伸ばして、背中を縁に預けつつ息を吐いて、風呂を楽しむ。しかし、胸が大きいと勝った! って感じはある。それはともあれ、
「魔王戦争かぁ……まぁ、ジル次第かなぁ」
「会いに行くつもり?」
「おう」
ジルには一回、会わなきゃならない。魔王戦争の前に。ジルがまだ正気かどうかは、俺には解らない。だがそれはそれとして、ジルには会わなければならない。魔王になって、延命の方法を探さず、それでいて願いを俺を助ける事に使った馬鹿な子に一発、叩き込んでやらないとならない。恨むなら俺を恨めと言ったのに、助けてどうするんだ、という話だ。
……それに魔王の継承に、前魔王が死ぬ必要はない。重要なのは【血の記憶】を次の魔王へと継承する事だ。だからジルに血を流させたうえでガイを次に魔王にすれば、ジルは魔王から解放されるだろう。そうすれば助けられる。俺を助けておいて助からないとかマジで許さんぞ、俺は。
「俺を助けた事を後悔させてやるぞ、あの馬鹿娘め」
「それ、私の台詞なんだけど」
「ごめん……」
ほんとごめん。そう言葉を繰りながらどーしたもんか、と考える。というか、
「【ひつじNOTE】の中身見たんだろう?」
「あぁ、うん。先の事を知っても貴女の二の舞になりそうだから、検索魔法で必要な部分だけを抜いたけどね」
「また便利な魔法を作りやがって……」
「そう? 調べものとか書類の不備を探すのとかに便利よ」
魔王の力でそんな魔法を生み出した事があるのはたぶん、スラルぐらいだと思う。まぁ、その有能な元魔王が今では友人という関係にあるのだから、世の中は不思議なものだ……うん、助けられて良かった。今では一切の後悔もなく、それを断言する事も出来る。やっぱり助けられて良かった。友達が減るのは辛いや。
だからジルも、どうにかこう、
「良い感じにバッドエンドチョン避けハッピーゴールみたいな感じ決められないかな」
「難しい事を要求するわねー」
そう言いながらスラルが体を洗い終わって、風呂の中に入ってきた。そのまま、膝を抱えて肩がくっつく様に座った。あ、これちょっと寂しがってたな、というのがなんとなく解る。だからそのまま座っておく。そして息を吐く。
「なんとかならない?」
「そもそもジル自身は魔王として朽ちるつもりだからね。どうしようもないと思うわよ」
「ぐぬぬぬ」
どうせあの娘の事だ、人間牧場を経営した所で正気に戻ったとして、自分の犯した事の責任を取る為に魔王として最後まで貫く、とか考えていそうだ。アレで変に責任感が強いからまず間違いがないだろう。説得した所で恐らく無駄だと思う。それに【血の記憶】によって憎しみに飲まれているという可能性も十分にある。
「じゃあ、俺がジルを正気に戻して助ける」
「へぇ、断言するんだ」
「断言もするさ。もう、振り回されるのは終わりだ」
俺の方が世界を思いっきり振り回してやるんだ。今度こそ、好き勝手やって生きよう。もう十分に抑圧されて、制限されて、考えながら生きてきたじゃないか。なんか、もう、考えるのも面倒なので好き勝手暴れたい。それだけ、それだけなのだ。もっとこの世界は楽しいのだ、それを存分にエンジョイして回りたいのも事実なのだし。そしてその楽しさをあの子にも教えなきゃいけない。俺が見捨てたからこそ、今度は助けなくては。
まぁ、助けられるかどうかは確実ではないのだが。
それに、恐らくほぼ確実にプランナーかローベン・パーンが嫌がらせで邪魔を入れてくると思う。少なくともあの三超神の糞を担当しているのはあまり、俺の事を良く思っていない。ルドラサウムに気に入られている? 俺だからこそセーフというものだ。後はハーモニットが何かしているのかもしれない。
だけどあまり調子に乗り過ぎると、魂をぷち、っと潰されかねない。その事を想定して、あまり表で暴れ過ぎないように気を付けなくては。ルドラサウムから実質パスを貰ったのは良いとして、暴れすぎて三超神と敵対するようなルートは止めておきたい。あいつら、タダでさえ勝手に動いているんだから。
「やるぜ、俺はやるぜ。今までボケてたりした分、派手に暴れまわるぜ」
やる気をみなぎらせ、これからはルドラサウムを楽しくさせる為でじゃなく、俺自身が誰よりもこの世界を楽しむために暴れるのだ。ふーはははー、と笑いながら風呂の中に肩まで浸かる様に沈んでいく。ぶくぶくぶく、と泡立てる様に息を風呂の中で吐き出し、口元を持ち上げると、
「ねぇ」
と、スラルが声をかけてきた。その声になぁーに、と軽く言葉を返すと、
「本当に……続けるの?」
その声には不安そうな色が見えた。それを笑い飛ばす様に、息を零しつつ、
「なぁに、このウル様にお任せよ。今までなんだかんだでどうにか―――」
「それ」
そう言葉を零したスラルが逃げられない様に伸ばしている此方の腿の上に跨り、両手を伸ばして左右の縁を掴み、目の前に顔を寄せてきた。
「本気で言ってるつもり?」
「おう。俺様が全部どうにかするさ。まぁ、見てなって」
ニヤリ、と笑って目の前に迫るスラルの表情を見た。不安そうな、心配そうな、少し、泣きそうな表情をしている。その表情を見て、ちょっとだけ笑い声を零してしまった。不謹慎かもしれないけど、あの頃、魔王だった頃の不安そうな少女の、死を恐れていた時のスラルと全く変わっていない様な、そんな気がした。
だからふと、普通に笑みを零した。
「大丈夫だって、心配性だなぁ」
「私だけ、置いて行かれるのは嫌よ?」
「もう、スラルちゃんはかわいいなぁ!」
ははは、と笑いながら腰に手を回して、抱きしめながら笑う。
「ちょっと! 私これでも結構真面目なのよ?」
「真面目だからこそだよ、スラルちゃん。この世界はどうしようもなく救いようがなくても、希望だけは僅かに見えているんだ」
だから自分から動かなくてはならない。自分たちから動き出そう。その1歩1歩が、俺達の未来を変えて行く。少なくともその許可は、そして保証はあるのだ。だとしたら動かないだけ損だ。別に、俺がご都合主義のハッピーエンドを信じている訳じゃない。それでも今までが絶望的過ぎたのだ。
だったら希望を自分から作っていきたい―――そう思わないだろうか?
「その為なら畜生でも外道でも鬼畜でも、なんでもいいや。楽しもうぜ、スラルちゃん。この世の中、もっともっと楽しめる筈なんだ。魔王戦争、聖魔教団、魔人戦争、リーザス侵攻、ゼス崩壊、戦国JAPAN、ヘルマン革命―――どれも楽しそうだろう? 遊ばないだけ損だぜ、損」
「貴女って本当に、もう……」
「はっはっはっは」
俺の本質がドラゴンなのだ。カラーよりはドラゴンに近い感性を保持している。特に今、心と体が一致してきた中では。だからちょっと、アーパー入っているかもしれないのだろう。だがそれはそれとして、楽しい。
生きている事は楽しいんだ。
ここから、更にそれは楽しくなるのだ。
だとしたらもう、絶望している暇なんてない。ここからは俺の物語の出番なのだ。好き放題暴れて、楽しんで、そして生きていく。それだけの問題だ。心配するのも、不安に思うのも解る。だけど、許してほしい。
今、超楽しいのだから。
「……」
考える様に数秒、スラルは目を閉じてから、溜息を吐いた。
「もぉ、ほんと、なんでこんなのに助けられたのかしら、私……」
「そらお前、俺を友達だって呼んだことを一生後悔させてやるからな、お前。これからずっとずっと、俺の騒ぎに巻き込まれて溜息を吐き続ける仕事が待ってるんだよ」
「地味に酷いわね」
でも、と声を零した。
「悪くはないわね。被害はガルティアとケッセルリンクに投げつければいいし」
「鬼かお前」
「残念、悪魔よ」
そう言ってスラルも笑った。うん―――魔王時代は見れなかった笑顔だ。そうやって笑っている方が、本当に少女らしくて良いと思う。泣きそうな表情や、不安そうな表情、怖がっている表情よりも、こういう表情の方が遥かに良いと思う。きっと、ルドラサウムだってそれを遠い未来に、解ってくれる筈だ。なぜならあの子は既に冒険を理解しているのだから。後はその先、もう一歩先を学べばいい筈だ。
だから、まぁ、何とかなるだろう。
もう自殺したいとは思ってないし。万全の準備を整えて挑めばいい。ナイチサの時の様な、ワンサイドゲームにはしない。その為には鈍った体を調整し、レベルを上げる必要もあるだろう。それが終わったら―――やはり、魔王城に突撃だ。
「ま、それは……許してあげる」
それはそれとして、とスラルが声を零す。
「これ、なに」
スラルが此方の手に視線を向けている。先ほどまで腰を抱いていた奴だが、今ではスラルのケツを軽く揉んでた。いや、手が滑っただけなのだ。下の方に。ただその時に、ちょっと、というか、なんというか、
「小さくすべすべしてるなぁ、って」
「胸みたいに?」
「胸みたいに」
頬にビンタが入った。
「この、駄肉をぶら下げて……!」
「そう僻むなよ持たざる者よぉ!」
「何が持たざる者、よ! 禁呪で小さくしてやろうかしら!」
「やってみろよ! 男体化する前のケッセルリンクより貧乳のスラルちゃんよ!」
がー、と声を零しながらスラルが両手で襲い掛かってきた。それを風呂の中で笑いながら交わしつつ、何とか受け流そうとするも、マウントを取られて中々逃げられない為、風呂の中で湯がバシャバシャと跳ねまわり、
「ウル様! スラル様!! 風呂の!! 中で!! はしゃぐのは!! 禁止です!!」
外側からルシアの声によって怒られた。先ほどの空気を吹っ飛ばすために仕掛けた茶番の様なものだったが、スラルもそれに乗ってきて、怒られてからは風呂に上向きになる様に浮かびつつ、小さく笑い声を零す。
今まで、凄く人生を送ってきた。ある意味、生きるということに対して失礼だったかもしれない。だけど、それはもう止めだ。これからは楽しく生きる。そう決めた。そしてその為には一切手加減しない事も。漸く、本当の意味でこの体で世界を楽しめそうなのだから。
「あ、そうそう、ウル」
「なに、スラルちゃん」
上半身を浮かぶ此方の体の上に乗せるようにしながら、顔を近づけた。
「次からそういう不用意なスキンシップとったら、襲っても良いってとるから」
「えっ」
「私、バイよ」
ここ1000年で驚きの新情報である。へぇー……と声を零しながら、まだむーりー、と声を更に零し、息を吸ってそのままぶくぶくと風呂の中へと沈んで行く。でもどうなのだろうか? もう体はそういう事に適応できるようになったのだろうか? 今まではどう足掻いても感じる事が出来なかった体だった。だけど自然とそういうアクションを取るのは、
心と体が合致してから、感じられる様になったからだろうか?
「ぶくぶくぶく……」
沈みながら、初めて、自分の性事情に関して考え始める。
そこらへん、どーなんだろ。
親友がバイだった件。
心が癒えて体としっくりと来るようになってきた。そして色々と考えつつ、自分の事も考える。未来に前向きになってきた感じが段々とある感じで。スラルちゃん可愛いなぁ……一緒のベッドでルドぐるみを抱きつつスヤァする幸せ。
ルドぐるみを浮かべてその上に座ったり、上でぐったりしつつ移動するのがウル様のマイブーム。偶に扉の上に頭ぶつけてる。