―――剣豪魔人ムサシ。
結構前にぶち殺した異世界産の魔人の魔血魂、それを月餅に横流しし、そしてそれを使って素質のある人間を月餅がピックアップ、
これがマジで居たという話である。
元々剣才を持つムサシではあったが、魔人となってからはその才能が更に一段と磨かれたらしい。これは完全な予測だが、《剣戦闘Lv2》だったのが、魔人化の影響で《剣戦闘Lv3》に上昇している可能性がある。Lv3技能はそれなりにレア、というか全世界でもその技能に関しては一人いるか二人いるかというレベルだが、この件に関しては厳選を月餅に任せたという部分がある。あの悪魔は自分が知る限り、トップクラスに優秀な悪魔だ。そして見事、此方の期待に応えてくれた。
そうやって魔人ムサシは天然の台風の様に生まれ、暴れる。暴れたい所で暴れて、それ以外は酒と飯と温泉を楽しむ剣豪。
「さぁて―――どう攻略したもんかなー」
天満橋の旅館に一室を借りて、浴衣に着替えてからルドぐるみの上に倒れ込んで、ふかふかふわふわを楽しみつつ、浴衣がはだけるのを誰にも見られていないので気にせず、考える。
気分は拠点フェイズ。
旅館の自室でごろごろルドぐるみを堪能しつつ考える。
「魔人、どーやって攻略しましょーか」
魔人。
メディウサは慢心して殺されたので話にならないが、
魔人は一種の絶対強者だ。才能上限は高く、そもそも身体能力も魔力も素質も才能も、魔人になった影響で大きく成長する。それが原因でLv3技能を取得した魔人や、複数のLv2技能を保有する魔人だっている。つまり複数の分野で天才と呼べる連中ばかりなのだ。そりゃあ、もう、化け物だろう。そうじゃなくてもメインLV2、サブにLv1を複数という感じで、これももう化け物だ。
通常のメインプレイヤーであればLv1があるだけでも凄い、Lv2で世界有数という範囲だ。その中で魔人連中がLv2をほぼ全員が何かしら保有しているという事実を見れば、恐怖の集団だというのが解る。なお、この俺がLv3とLV2を同時保有しているのは魔王クラスの才能であり、通常であれば何らかの不幸なイベントで一生肉便器として過ごすレベルの不幸が襲い掛かってくるが、神による監視付きの生活と、世界を面白い方へと盛り上げるという前提で生きる事を許されているのに近い。
これで普通に人類統一とかに乗り出せば今からでも消される可能性がある。
昔は裁定もシステムもクッソがばがばだったくせに、それを悪用しまくってたのが原因か、最近はGM三超神のガバ裁定がきつくなってきている。増えて来るエラッタに俺を狙い撃ちしているな? というのはちょっと感じている。
「……いつも通り思考が逸れたなぁ」
話を戻す。
魔人は化け物だ。
レベル上限が存在せず、それでいて《無敵結界》を貫通出来る【魔剣カオス】を装備した上で《剣戦闘Lv2》を保有する、天才な上に豪運を保有するランス君でさえ、正面からそのまま魔人と戦えば死ぬ。そういうバグキャラであっても死亡するのが魔人という領域であり、根本的に正面から戦う事が間違いである、とも表現出来る存在である。メディウサは糞雑魚慢心ド畜生馬鹿だったので死んで当然だったが。
それでも《無敵結界》をどうこうする手段がなければ、メディウサであれば強引にカラーの100人ぐらい、簡単に殺してから撤退する事も出来ただろう。
そういうのが魔人という存在だ。戦えば負ける。《無敵結界》があるから殺せない。その上で素質や資質、特殊な能力が強化されている。クソゲーである、まさしくクソゲーなのだ。魔王とは違って倒せるように設定されているものの、
「《無敵結界》が余りにも戦犯過ぎる」
アレさえなければもうちょいどうにかなるのだが、それでも今ではクソみたいな《無敵結界》があるせいで、雑に人間を虐殺する事が出来る。だが問題はこの《無敵結界》がオンオフできるものであり、意識すれば外す事も出来るという事実にある。
そしてそれを自分から解除しているというムサシがヤバい。
欠片も慢心してねぇじゃんこいつ。
慢心しない魔人とかいう生物が一番のバランスブレイカーに決まってんだろ。簡単に言ってしまえばケイブリス状態だ。死ぬリスクを解っているという状態だ。ケイブリスの本当に恐ろしい所は《無敵結界》を被った上で、殺されるかもしれないという恐怖の中で常に鍛え続けているから、ベクトルがまだ違うのだが、
あのムサシというのは、戦う上では常に、《無敵結界》を解除する事で慢心しないようにしているらしい。
「キチガイかよ」
何だお前、怖いわ。
「どーしーたーもーんかなー……」
殺すだけならそこまで難しくはない……と思うのだ。暗殺か奇襲を狙えばいいから簡単だ。特にこの天満橋という場所であれば、橋から落とせばそれだけで殺せるだろう。ルドラサウム大陸から落ちた存在は上空に飛ばされ、超高高度から落下して、その衝撃で即死するだろう。そして死体から日光を回収すればいい。この事実、大体の奴ら知らねぇけど。だけど、
「……レギュレーション違反の気配するからなぁ……!」
それに、問題はムサシを殺してしまうという点である。個人的には殺されず、なるべくケイブリス派に合流して欲しいのだ。その為、殺さずに日光を回収する必要がある。その場合、一番わかりやすいのは正面から勝負を挑んで、それで倒して日光を奪うというやり口だろう。
だがこの場合、
「推定、《剣戦闘Lv3》を相手にしなきゃいけないのか。無理じゃないけど、死力を振り絞る必要があるなぁー」
スマートじゃない。全力を吐き出す必要がある上に、勝てる可能性があると同時に、殺害される可能性もある。相手が勝負をしてくれるか、という問題もある。どうやら女子供には手を出さない主義者らしいし。その場合、根本的に日光を手に入れる為の勝負が挑めなくなる。場合によっては反則KOを決める必要がある。そういう場合、勢い余って殺してしまいそうだ。だから駄目。
となると寝込みを狙って盗み出すという手段もある。でもこれ、あんまり信用出来ない手段なんだよなぁ、と思う。冒険している間、意識の一部を常に覚醒させておいて眠らせず、何かがあった場合に素早く反応出来るようにしておくのは野宿をする場合の必須スキルだと思っている。そうしないと夜盗に襲われたりする時代があったからだ。そういう訳で、寝ているから安心して襲えるというのはまずないだろうし。
「んー……情報が足りないな」
ランス世界だったら割と、こう、とんちみたいな攻略手段があると思うのだが。その為の情報が根本的に足りない状態だった。正史におけるランス君の活躍を思い出してみる。毎回毎回魔人を殺す為に、手段を択ばずに追い込む姿を思い出す。
嘘をついて騙したり、弱点となる者を見つけ出して利用したり、運が良い所にどうにか出来る奴が居たり。これ、魔人相手に滅茶苦茶申し訳なくない? と思うかもしれないだろうが、ぶっちゃけ、これが魔人の正しい倒し方だったりするのだ。
連中の慢心や弱点に付け込み、それを最大限にまで利用して殺す。そうしなければ人間では魔人に勝てないのだ。それを考慮しても、【魔剣カオス】か【聖刀日光】が無ければどうにもならないのだが。そう考えるとやっぱり、魔人と魔王周りのバランスは根本的におかしいと思う。
勇者システムも根本的な部分を魔王に知られた場合、【刹那モード】に突入出来なくなってしまう。その情報だってナイチサからジルへ、ジルからガイへと継承されている。その為、どう足掻いても勇者で魔王を討伐できる未来は閉ざされている。そこら辺、バランス的にどうなんだろ、プランナーとローベン・パーン。
最近のマッハーモニットならそれはそれで面白いのでアリ、と言いそうな辺りが怖い。
「んー……まぁ、どうしようもない場合は戦うか」
その為の力だし。
そう考えると幾分か楽になる。そして起き上がり、浴衣を着直し、はだけている部分を隠してから草履を履いてルドぐるみの上に横に座り、浮かび上がる。とりあえずは動き出さなきゃ話は進まない。魔人をどうこうするのであれば、一番求められるのは行動力だ。だからまず最初に情報収集だ。
剣豪魔人ムサシという人物を探ろう。
「ムサシ様か? いやぁ、良い人だよ。いや、魔人に良い人って言うのもおかしいか。だけどあの人が居るおかげで黒部も鬼もここには寄ってこないし、治安は常に良いからね。俺達の様に力のない連中が住む上ではとてもいい場所さ」
「あぁ……あのムサシ様ね。悪くはないと思うよ。助かっている面もあるし。だけど私は天志教だからねぇ……確かに助かっている面もあるけど、月餅様のおかげでJAPANの平和はあるんだ。それがまるでムサシの手柄の様にされるのはなぁ……」
「ムサシ様はへったくそな詩を詠むんだよなぁ。これがまたクッソ面白くてなぁ……。あぁ、でも酒とツマミにはちょいと煩いんだよな。でも飲んでいる間はすっげぇ静かで、本当にあの黒部と同じ魔人なのか? って疑うな」
「あんな化け物を有難がってる事実が俺には全く分からないよ。結局のところ、金品の代わりにムサシが求めてるのは血だよ、血。酒や詩を詠むのはその匂いを隠す為だよ。知ってるか? アイツ、普段はケロっとして鍛錬ばかりしてるけど、たまーに我慢の限界が来るんだ。血の匂いを求めてJAPANを放浪して、殺せるだけ殺してまた戻ってくるんだよ……気狂いの類だぜ、ありゃ」
「あぁ、良い商売だよ。ここだけある意味安全だからな。利用させて貰う分には……な。ただ一部にはムサシを神聖化して、育て上げた武芸者を戦う事で捧げるみたいな風潮もあるらしいな。まぁ、ある意味正しい対処かもしれないな。どいつもこいつもアレを生物の様に考えてやがる。魔人なんて天災の一種だろうに。遠巻きに利用しつつ関わらないのが一番さ」
天満橋周辺の人々に話を聞いて回ってみた。
ルドぐるみの背に乗っている姿が余りにも奇異に映っているのか、結構な視線が向けられるも、気にせず話を聞いて回った感じ、魔人ムサシの評価は結構ばらける。行動原理がはっきりしているタイプであり、無差別な虐殺を行わないタイプである為、階級や生活の仕方で大きく評価の分かれる魔人であるのが解った。
まずは味方だと思っている頭の中がプランナー級にクソが詰まっている連中。ムサシが居る恩恵に感謝している脳味噌が死んでいる屑共である。根本的なリスクを理解しておらず、そしてそのデメリットを全く理解していないカスである。邪魔な民であり、何かがあった時一番最初に邪魔になる連中である。女王の立場から言うとこいつら、全員放り出して殺すのが国の為になるって言えるタイプの愚民である。
次がメリットとデメリットを測りつつ利用している層。つまり魔人という脅威を理解しつつも、その恩恵を利用しようと考えている頭の悪い連中である。だけどある意味賢い連中でもある。利用するだけ利用して逃げる準備だけは整えていたりするのだから。潜在的な敵であり、餌を見せている間は従順なタイプ。だからこそ交渉材料を一番多く溜め込んでいる奴でもある。絞れるだけ絞ったら始末したい奴らだ。
そして最後の敵対的な連中。つまりは鉄砲玉。爆薬とも表現する。ムサシを敵視していながら、そうする手段がないので、屈辱を感じつつも現状を良しとしている負け犬共でもある。ムサシをどうにかしようとすれば間違いなく乗ってくるのだが、根本的にこの世界のメインプレイヤーは9割無能と屑とカスしか存在していない。その為、こいつらを味方にしても破滅するだけの負け犬集団である。
総合するとどいつも頼れない雑魚ばかりである。まぁ、そういう世の中なのだから仕方がないのだが。とはいえ、ムサシという魔人がどういう存在なのかは、これで大体解ってきた。
キチガイだ。
「お、その様子は光明が見えたって感じだな?」
「まあな。この超天才のウル様によればパパパのパ! で攻略方法も思いつける訳よ! とりあえずルドで叩いていい?」
「不敬罪で上司に殺されるから止めて」
大体正体を特定したかなぁ、と思いつつ、露店の店主に答えた。魔人ムサシという存在のキャラが大体見えてきた。となると、残りに必要な事も見えて来る。性格、方向性、そして材料。それらを全て把握した上で相手にするのが魔人という存在だ。
「んー、まだ時間はある。人間に取っちゃ1年は長いだろうけど、俺様に取っちゃ1年なんて欠伸している間に終わるもんだしな。しばらくは様子見させて貰うか」
「気の長ぇ話だ……」
またしばらくは旅館に滞在だ。昔はハンティと来たもんだが、今のハンティはどこで何をしているのだろうか? あの子、定期的に行方不明になっては大冒険して来るもんだから、地味に土産話が気になる部分もある。まぁ、《瞬間移動》がある分、どうにかなるという事はまずありえないのだが。
ともあれ、
魔人ムサシ攻略に向けて、準備に入る。
魔人ムサシ攻略 ~ランス君式~
魔人を攻略する時は大体一度戦って負けて、その上で手段選ばずに暗殺したり奇襲したりするのがデフォルトだったり。卑怯じゃね? と思うけどこれぐらいやらないと魔人には本来勝てないんだよねー。
是だけスペックのある主人公でも手段を選んで行動する当り、魔人という種の理不尽さが良く解る。なお戦犯スラルは結界実装に関しては反省していると供述しており……。
という訳でランス式、剣豪の攻略法。