「おー……えーと……あ、あったあった」
天満橋の上、軽く術を放ちながら探索していれば、反応の違う金属片を見つける事が出来た。拾い上げながらそれを見てしめしめ、と笑みを浮かべる。探査術式を走らせれば、それが普通の金属ではない事がよく解る。つまり、自分が探し求めていた物だ。それをゲットしたら、そのまま旅館へと帰還する。
そして旅館の自室へと帰ってきた所で、ペンシルカウから呼んできたメイド堕天AKとかいう属性過多になりつつある部下の一人、アステルが待っていてくれた。旅館の一室には色々と広げられており、薬草や何らかの素材が揃っている。そしてそれを利用して出来た、無色透明の液体も出来上がっている。
「あ、こっちは準備が整いましたよウル様」
「よし、良くやった。後はこれをこうして……」
天満橋から回収してきた金属片、それを磨り潰して粉末状にし、完成された無色透明の液体と混ぜる。それがしっかりと液体の中に溶けるのを眺め、完成されたものを掲げてみる。よし、完全に透明だ。臭いもない。流石に味を確かめる事は恐ろしくてできないが、
「これで完成か」
「はい、モルルン感染させた薬草で作った毒薬です! 人間なら5回は殺せるだけの強さがありますよ」
だからご褒美ー、とか言っているレズ堕天使の顔面を掴んで近寄ってくるのを抑え込み、そのまま窓から投げ捨てる。ゲットした毒薬に混ぜた金属片は【聖刀日光】の金属片だ。未来、というか【ランス10】の話になるが、魔人ガルティアを毒殺しようと狙ったランスが【魔剣カオス】を削り、それを料理に混ぜて毒殺を狙ったのだ。面白い事に、これで《無敵結界》を抜く事が出来るらしい。ガルティアは毒さえも珍味として楽しめてしまう程ではあるものの、そういう属性があのムサシにはないのだろう。
だったら毒で苦しめるのが楽だよね!!
魔人相手に正面から戦おうとするのが馬鹿なんだよ!!
「うーし、後はこいつをムサシの酒に混ぜるだけだな……」
それもあんまり難しくない。《クローキング》を利用して自分からステルスしつつ毒を盛るのもいいが、戦闘の様子を眺めていると、物凄い観察眼に優れている様に思える。音や体臭を消せるわけではないし、ああいう武人系の相手に透明になった程度で接近するのは危険だろう。そう考えると運ばれる前に酒に毒を盛るのが一番だろう。
「ま、ちゃんと下調べしているから問題ないもんな」
ここで利用している酒はJAPAN内部で作成したものだ。だから運ばれてくる前の段階、ムサシのよく飲む酒を探し、それに混ぜてしまえばいいだけの話だ。後は酒がムサシの手に渡り、それを飲んで苦しんでいる間に日光を強奪。
一切の情けも容赦もない強盗である。ここまで手はずを整え、調べるのに数年かかった。なかなか日光が戦闘で損傷してくれないから、おかげで日光の破片を手に入れるのに苦労した。とはいえ、根本的に武器とは損耗するものだ。エロい事をすれば回復するという特性が日光とカオスにはあるものの、今の所ムサシが女を買っているという情報は一切ない。本当に性欲とかを全部殺人欲に振り切ったような剣豪魔人だった。
まぁ、それはともあれ、
準備が整ったのであれば、サクサクと行動開始してしまう。
そこまで難しいミッションではないので、慎重に行動するだけで全部終わる。
まずムサシが引っ込んでいるタイミングを狙って、足音を残さないようにルドぐるみに乗って天満橋を渡り、此方側へとやってくる前に酒の元へと移動する。そこで《スリープ》を使って運搬を一時中断、その間に毒を仕込めば準備は完了する。再び天満橋を渡って元の場所へと戻り、そして何事もなかったように人生をエンジョイすればいい。まぁ、毒がムサシの所以外へと渡った場合、
その時は必要経費として大量虐殺が始まってしまったと思おう。うん。人間殺しても直ぐにぽこじゃか産むし。今更、数百人ぐらい巻き込まれた所でどう思うか程、善人でもない。
とはいえ―――そういう事もなく、毒を仕込んだ酒はちゃんと、ムサシの泊まっている旅館へと運ばれた。
その旅館は魔人ムサシが貸し切りにしている様なもので、実際はムサシ以外も泊まれる状態だが誰も他に泊まろうとする者が出てこない為、ムサシが独占している状態だった。そうやって毒の仕込んだ酒はその旅館へと運び込まれ、やがてムサシの元へと届くだろう。ぐふふっふ、と下衆く笑いながら運び込まれたのを確認し、夜になるまで待ってから、
行動を開始する。
「ゲーッスゲッスゲッス、飯も酒も自分で作らないのが悪いんだよぉ」
夜、暗くなってから活動を開始する。
ここ数年の活動で、ムサシが酒を飲む時間、場所、というのは把握している。情報・イズ・パワー、知っている事がそのままアドバンテージとなるのだ。特に魔人という存在に対して、事前知識の多さはそのまま生死に関わる案件でもある。その為、じっくりと姿を見せない様に、情報収集を重ねてきた。
そういう訳で、ムサシは夜、酒を飲むときは月を見上げながら飲むらしい。何とも文化人を気取っている魔人である。一部例外はあるけど、大抵の魔人は混沌の申し子だ。しかも破壊衝動まで付きまとっている。風流な姿なんて所詮、うわべだけだ。
いっぱい人を切り殺している時点で風流も糞もない。文化人気取るなら来世からやり直せという話でしかない。
―――ともあれ、
夜中、音を立てないように飛行しつつ、風の操作で匂いが行かないように気を使い、後なるべく気配を遮断しつつ夜空を飛んで、調べてある旅館のムサシの部屋を確認する。距離は200メートル程。夜空からベランダに出て椅子に座り、毒を盛った酒瓶を取り出すのを見た。戦う時とは違って編み笠を装着していないムサシの姿はどこにでもいる様な、中年の男に見える。だが彫りの深さはなんとも……と、
「そうだ……飲め……飲めよ……!」
カラー特製、モルルン毒を盛った酒を飲めよ……!
ムサシが酒瓶を手に取って、それを開くのを眺めつつ心の中でエールを送り続ける。飲め、そして死ね、と。魔人だったらたぶん即死しないだろうというガバ計算で特注の毒を盛ったのだ。飲んで、盛大に死ね、と心の中で応援しまくる。
そしてムサシが、ゆっくりと酒瓶を近づけ、
―――それをベランダから投げ捨てて割った。
そしてそのまま、此方へと視線を向けた。
「見えているぞ、隻腕の。隠れず正面から来れば拙は歓迎するぞ」
「うげっ、見破られてる」
夜空に浮かんだまま、うげぇ、と声を漏らしながらどうしたもんか、と考える。毒で弱らせてから日光を回収しようかと考えたが、何故か相手には俺の行動が筒抜けだったらしい。うーん、これは失敗してしまったなぁ、と素直に反省するしかなかった。それよりもどうやら、ムサシ本人はまだ戦意を抱いていないようだった。ならば会話するチャンスだ。
ランス君式を素直に諦める事として、夜空を泳がせるように進み、《クローキング》を解除してベランダに近づく。月明りに照らされたムサシの姿が見える。欠片も油断も慢心もしていない姿がベランダの柵を背に、此方へと首を曲げて、視線を向けてきていた。
……目が何か、特別なのかな?
完全に視線で此方を捉えている以上、そう思える。絶対に反応出来る距離を維持した状態で接近を止める。そうやって、初めて魔人ムサシと向かい合った。
魔人ムサシも此方を少しだけ、興味深げに眺め、
「ここ数年、見慣れないのが周りで動いていると思ったら―――誰だ、お前」
「当ててみろよ」
と、言いたい所だが、ムサシが油断なく腰に差している刀へと視線を向けて、中指をとりあえず突き立てておく。唐突なファックサインにムサシがちょっと驚いている。いやぁ、楽しい。
「俺の事を知っているだろう? 日光なら」
「まさか……女王ウル・カラー? ですが貴女は死んだはずでは……」
「再起動したんだよ。愛され系だからね、俺」
「そ、そうですか……」
日光が明らかに引いてる。そこまで引くような発言をしただろうか―――と思ったが、良く考えたら今と前では雰囲気がまるで違っていたな、と思い出す。エターナルヒーローとエンカウントしたころは、ギャグをするだけの精神力がなかったから、ほぼ素というか地の状態でしかエンカウントしていなかったし。あぁ、成程、ホ・ラガはそれを察して逃げたのか。あのホモ絶対に許さねぇ。
まぁ、それはともあれ、
「刀をくれ。そっちの、日光の方ね」
ストレートに欲求をムサシに伝える事にした。あーだこーだ言い訳したり、ここで隠れたり取り繕っても無駄だ。中指を突き立てながら日光を寄こせ、と要求する。
「―――」
その様子にムサシは一瞬言葉を失い、しかしその直後、
「ぶ―――わーっはっはっはっは! なんだこの女は! こそこそしてたと思ったら刀が欲しかったのか! しかも拙を相手にそう啖呵を切るか! はーっはっはっはっは!」
げらげらと笑い出した。まるで馬鹿な者を見る様な目で。あ、こいつちょっと嫌いだな? という感じが自分の中で湧いてきた。こいつの向ける視線は明らかに女や子供を見下している奴だ。楽しめる程強くないから殺さないだけであって、紳士的でもなんでもねぇ。雑魚には価値を見い出せてないだけのキチガイだ、こいつは。目を見ればそれが解る。もうちょい情報収集するべきだったかなぁ、とやっぱり反省する。
こいつに仕掛ける前に月餅に情報を頼めばまだどうにかなってたかもしれない。
反省、反省である。なので話を紳士的に続ける。いや、女だから淑女的に話を続けよう。
「その日光はな、この世に二本だけ存在する、人間でも《無敵結界》を破壊する事が可能な武器でな、お前の様な
「はーっはっはっは、こんな要求を向けてくる人間なんて初めて見たぜ。人にものを頼むときの態度はどうしたんだよ?」
「……? だから
これ、見える? と中指を突き立てながらそれを軽く振ってみる。
「もしかして盲目?」
「拙にゃあ、挑発してるようにしか見えねぇんだけど」
「お、そりゃ良かった。意図が理解できない程馬鹿かと思ったわ。という訳で日光ちょーだい」
というか寄越せ。超寄越せ。手に入れた瞬間から悪用しまくるから。
「レギュレーション違反なんざ怖くねぇぞ……!」
「あの、女王? どことなくヤケクソになっていませんか?」
なるに決まってんだろ、数年かけた計画が何かよくわからない能力によって看破されているのだから。恐らくは千里眼の類をこの人斬り、搭載しているのだと思うのだが、今までそんな素振りを見せる事もなかったから、持ってるなんて知らないわ。糞、これもホ・ラガとかいうホモが情報を渡さなかったのが全部悪い。あのホモ絶対に許さねぇ。その事を心に硬く誓う。
「はっはっはっは……そうか、犯せば治せる便利な刀程度にしか考えてなかったが―――そうか、欲しいならくれてやるわ」
「マジで!?」
ムサシの意外過ぎる返答にちょっとだけ希望を見出す。腰から鞘に入ったままの日光をムサシが抜き、それを此方へと向かって放り投げて来た。おぉ、マジで!? と思いながら片手を伸ばし、
「―――罠です!!」
「知ってた」
手を伸ばす一瞬を諦める代わりに、後ろへと向かって落ちる。足をルドぐるみに引っ掛ける事で半回転する様にひっかかり、先ほどまで首のあった場所を刀が通り抜けた。投げられた日光はムサシの足場に使われていた。下へと向かって素早く落下しつつ、逆さ吊りの状態、上に踏み込んだムサシの姿を眺めつつ、
片手を伸ばした。
「じゃ、貰ってくぜ」
「お」
そして重力操作で日光を手元へと引き寄せ、ムサシから足場を奪いながらそのまま、地面へと向かって一気に落下する。
そしてそれにムサシが追従してきた。着地から素早くステップで回避し、流し斬りを回避しながら鞘に入ったままの剣で弾いた。駄目だ、斬撃が鞘を、日光を通して手に届いた。鞘で当てた癖に掌に斬撃が刻まれた。衝撃そのものに斬撃が付与されている。叩いても殴っても、武器を合わせても斬撃が発生する様だ。
ドラゴンの再生力でそれが治るのは良いものの、
まだ、ムサシは正面にいる。腕は一本しかない―――ので、二本目を出そう。
黒腕を生やしてルドぐるみを握る。
続くムサシの神速の四連斬撃を全て、ルドぐるみで叩く。剣の時とは違い、完全に技量と経験と合致する武器系統である為、完全に斬撃と衝撃、その両方を相殺する様に砕きながら衝撃をその場、そのものに叩き込んでお互いを押し出す。周りの建築物をそれで粉砕し、破壊しながら距離を開け、
素早く日光とルドぐるみを握る手を交代させる。
「知ってた。こうなるって大体察してた。でもいいじゃんか、偶にはスマートに終わらせられるって夢を見たっていいじゃないの……」
まぁ、なんだかんだで何時も、どたばたと殴り倒す展開ばかり続いてきたような気がするので、必然的にこういう感じになるんじゃないかなぁ……とは思っていた。けどホモとプランナー、お前らだけは許さないぞ。ローベン・パーンは存在そのものが罪。
良し、心を持ち直す。
「あー……前評判じゃ女子供は相手にしないんじゃないんだっけ?」
「拙は斬る価値のある存在しか斬らん。逆に言えばお前はそそる。そうやって誘ってきたお前が悪い」
「成程、一理ある」
「一理ある、じゃありませんよ。この状況をどうするんですか。私を利用するにはその……オーナー条件があるので、抜けませんよ」
いや、だったら、もう、やる事は決まっているのではないだろうか?
日光をベルトに差し、ルドぐるみを握り、それを軽くぶんぶんと振り回し、視線をムサシへと向ける。
「やるか」
その言葉にムサシが、深い笑みを浮かべた。そしてゆっくりと刀を鞘の中へと戻し、最速で斬撃を放つ為に居合の構えを取った。右半身をやや前に、上半身をやや下げ、そして手を柄に乗せて、抜刀術の構えを取る。その体に満ちる殺気は、間違いなく本気で殺しに来るというアピールでもある。それ相応の対応をしなければ、俺も殺されるだろう。
結局はこれ、何時も通りの流れだなぁ、と諦めつつ、ルドぐるみで大地をびたーんと叩いた。その衝撃で大地が粉砕され、壊れないだけのぬいぐるみに込められた破壊力を見せる。これで多少の威嚇になれば良かったと思うが―――そんな事はなく、ムサシは更に血に目を濁らせるだけだった。
「いざ、尋常に―――死合おうか」
深夜の天満橋―――いつも通り、どうしようもない流れで魔人戦が始まる。
とはいえ、このノリで戦うという愚かさは、全くもってどうしようもない己自身の様な感じがして、嫌いにはなれなかった。そういう意味では、
笑みを浮かべて対応する俺も、どうしようもなく、ドラゴンな馬鹿だった。
次回、魔人戦。Majin Bossでもかけるか。
スマートにやろうとして、なんだかんだで失敗して、それでなし崩し的に戦闘に発展するのは何時ものパターンだと思ってる。
ルドぐるみ、初魔人戦デビューおめでとう。