あっ、飛んだら首持っていかれるわコレ。
戦闘勘がそれを訴えた。ここで回避、逃亡系列の行動を取ろうとすれば即座に殺されると。Lv3の戦闘技能を持った人間との戦いは、マギーホアを相手する以外では久しいものだ。そして同時に、マギーホアを相手に今までずっと、何度も何度も戦闘を繰り返してきた事に感謝する。Lv3の戦闘技能はもはや異次元とも表現できる。《剣戦闘Lv3》を持っていた藤原石丸は1戦1戦重ねるたびに通常の剣士が得る10年分の経験を獲得していた。1の事で100を学ぶのが天才だ。
その更に向こう側まで学べるのがLv3の戦闘技能というものだ。
武器を手にした時の最適な握り方、体の動かし方、そしてそれで必殺技を放つ方法。Lv3の戦闘技能であれば、合致する武器を握った瞬間にはそれが瞬間的に悟れる。初めて武器を握って、それでそれがLv3技能だった場合、超ご都合主義的な主人公の覚醒、ああいうレベルなのだ、そしてそれを何年も積み重ねるというのは、化け物を育て上げる事に近い。元々自分の様に長命な種だとLv3技能を持っていても、根本的な習得や成長が遅い。
だがこれが短命な種族であればあるほど、習得や成長が早い。
特に人間出身の魔人ともなれば、短いサイクルで成長して強くなっていく、文字通りの怪物となるだろう。とはいえ、俺も戦闘経験だけであれば数千年クラスは溜め込んでいる。技能の習熟、成長具合で負けていたとしても、
―――総合的な部分では負けるつもりはない。
とはいえ、
「どうしたもんか」
「……」
話しかけてみるが、反応はなし。此方を確実に殺せる間合いを測っているのが視線で解る。だから世界観間違えているだろうお前、と言いたくなる。空から逃げる為とは言え、降りてしまったのがちょっと痛い。あのまま飛行を維持していればリーチ外へと逃げられたのは確実だ。とはいえ、相手は詳細不明の千里眼を保有しているのと、恐ろしく早い踏み込み、或いは移動手段を持っている。短距離であればほぼ瞬間移動に近い加速を得られると推定する。そうでなければ投げた日光の上を歩けるものか。
じりじりと肌を焦がす様な殺気を感じつつも、表情を変えずにうーん、と軽く誘う様に黒腕で顎に触れるが、反応がない。そうやってジェスチャー的には半分ふざけるも、内心では冷静に判断する。
上位魔法―――ダメ、詠唱中に追いつかれる。
《ファミナルス・レイ》、発動ラグに切り込まれる。
飛行も踏み込みで首を落とされる。
判断完了。
「そんじゃ、やりますか」
歩く様に気楽に前に踏み込んだ。
今度こそ反応した。ムサシが一気に踏み込んだ。謎の瞬間加速で踏み込みながら一瞬で目の前に到達した。それに此方も反応出来ている、体を低くするように後ろへと足を下げつつ、そのまま握ったルドぐるみを振るう。鎚というよりは、もはや一種のブラックジャックに近いかもしれない。不壊の神造抱き枕は音速とドラゴン・カラーの超筋力を受け止めながらも歪むことなく、綺麗に衝撃を正面に、流す様に叩き込む事に成功してしまう。
それが刀と衝突し、金属音を生みながら衝撃波を周囲に放つ。
「1ルドヒット……!」
『その謎単位は止めるのである……!』
こいつ、脳内に……!
マッハの声が脳内に響くのを無視しながら、横へと体を滑らせつつ、常に足を動かして位置を調整しながら小刻みに移動、家屋が邪魔なので重力、斥力障壁のベクトルを下へと向けて、それで接近する店舗や家屋がJAPANらしい木造なので、それを圧縮して破壊する。それで移動する場所を確保する。普段ならもうちょっとストロングスタイルにぶつかっても良いし、刀も竜鱗で止められるだけの自信があった。だがこいつはダメだ。
この剣豪魔人は強度とか関係なくぶった切りに来るだろう。
故にルドぐるみを振るう。3、4、5、と連続でヒットする。その度に音速を超えた結果、ルドぐるみの感触が非常に硬質な物となるが、同時に握っている感触はふわふわもふもふである。三超神、無駄なクオリティの維持である。とはいえ、品質維持と絶対に壊れないという特性以外は普通のぬいぐるみ、人形、或いは抱き枕である。
音速を超えた打撃とドラゴンパワーの筋力が無ければ、ぶつけても威力は出ない。
一種の縛りプレイに近いのかもしれない。
「でも、まぁ、最強種だしぃ? 多少は舐めプしないとGMからの制限入るし?」
「蘇って頭をどうにかしましたか……?」
日光さん辛辣。そう思いながら素早く移動を繰り返しながらルドぐるみを片手で振るって連続でヒットさせる。その度にスパークし、夜の天満橋に僅かな光が生まれる。その間に黒腕で魔法を練り上げる。それを完成させる頃には、
脇差をムサシが抜いていた。
「ガ・ン・マ! レイ!」
目の前の大地へとそれを叩き込み、切り払えない攻撃として爆裂を自分とムサシに同時に叩き込んだ。それによって半径数百メートル範囲が粉砕され、土砂と残骸が巻き上げられる。物理的、そして衝撃で周辺を覆い、充満する土埃によって一瞬で視界が閉ざされる。それでもドラゴンの感覚で、ムサシの居場所は正確に捉えられている。
そしてその視線は、脇差と刀の二刀流で残骸を斬り捨てながら、巻き上げられた建築の残骸を足場に、短く連続で跳躍しながら此方を見て、迫っていた。
やはり、此方が完全に見えている。
「《雷神雷光》」
感知した方向へと向かって回避する様に横に飛びながら電撃を放った。だがそれを切り裂きながらムサシが飛び込んできた。そしてそのまま、
「―――《次元斬》」
空間そのものを切断する斬撃が放たれた。流石に無理なのでは? と思いながらもそれに合わせ、
「ウル、あたたた―――っく!」
ルドぐるみを上から下へと叩きつけるように、空間そのものを殴打し、殴り飛ばし、破砕する様に殴りつけた。
二つの衝撃が衝突し、それが拡散する様に乱反射して広がり、無差別な破壊が天満橋周辺に広がる。次元を切断する斬撃の余波を回避する様に跳躍して、適当な屋根の上に着地しつつ、反対側の屋根の上に着地するムサシを見た。ムサシも此方に視線を向けているもので、
「驚いた……凄いぬいぐるみだな、それは」
「ルドちゃんだからな。デザインにおいても優れてるぞ……よいしょするのこんな感じでいい?」
視界の端でサムズアップをするマッハ様発見。これでオッケーらしい。よし、更に遊びたいけど割かしピンチだなこれ! と、判断する。やばいやばい。真面目に殺す気で攻撃しに行かないとぶっ飛ばせる気がしない。或いは致命傷一発と引き換えに場外まで吹っ飛ばすか。ここまで距離が開けば空まで逃げれるが、さっき見えた《次元斬》という必殺技が余りにも怪しすぎる。詳細が判らない内は安易な行動はとりたくはない。
「うーむむ、だがここを盛り返せばまさにメイクドラーマー……あ、軽くレッドアイに対する殺意湧き上がってきた」
「じゃあ何故言ったんですか」
ノリだよ。これが本来のウル・カラーという人物だ。それを戦闘中に実感する。ドラゴンの血がもっと、もっと激しく殺し合えと欲求するのを感じる。ハンティはこの欲求が薄いらしく、残念だなぁ、と思う。このドラゴンの闘争本能は、実に燃え上がる。
「口では飄々と、しかし本質は狂戦士か」
小さく声を零した剣鬼―――そう、剣鬼と表現するべき魔人、ムサシが笑った。
「数年、待つだけの意味はあった―――殺しがいがあるな……!」
「流石のサイコパスだ―――なっ!」
直感に任せて跳躍した瞬間、先ほどまで居た空間を斬撃が走っていた。成程、空間指定型の斬撃か。ざけんな。GM、これレギュレーション違反なのでは? 心の中で文句を押し殺しながら火がついて行くのも理解していく。ドラゴンの血を覚醒させ、第三の目を開きながら魔力を解放する。
跳躍から飛び越えるように一瞬でムサシの上を取った。そしてその状態で逃げもせず、左黒腕でルドぐるみの先端を押さえ、右腕で尾を掴んで、レイピアを放つように構え、或いは槍の様に構え、
「どーらーごーんー」
逆さまになった状態で空を蹴った。
「ドライブッ!!」
音速を超過した、人類の反応速度を超越した《ドラゴンLV2》の必殺技の一種、自分自身を弾丸として、ドラゴンとしての属性を纏った突撃。即ち光と重力を纏った爆撃に近いダイブを一瞬で行った。周辺の地形を巻き込んで圧殺させながらムサシを上から殺す為に放った。だがそれをムサシは一瞬で範囲外へと逃亡する様に踏み出し、そして着地した瞬間を狙う様に飛び込んでくる。それを理解しているので待ち構える。
「よーぞーらーの―――」
バッターボックスに立つバッターの様にルドぐるみを両手で掴んで構え、この肉体特有の超頑強、龍鱗、重力と斥力の障壁を最大まで展開し、
美しく、滑り込む様に肉に刀が沈み込む。鉄が体の中を進んでいくという違和感を感じる。だが最初から耐える事前提で動きを作っておくのであれば、そりゃあ一回ぐらいなら十分に耐えられる。少なくとも刀、そしてそれを使った剣術は一種の芸術だ。寸分の狂いもなく物質を切断する技術は達人の一言に尽きる。その予定をぐちゃぐちゃにしてしまえば僅かに鈍るだろう。《剣戦闘Lv3》相手であれば一瞬で立て直せる範囲だろう。
だが残念、
此方も《槌戦闘Lv3》な上に可愛くて美人でかっこいいのだ。
つまり我、最高。
「星になれ……!」
全力のスイングを放つ。名付けてルド打法。肉を絞めて刃が抜けないようにしつつ、相手が刃を進めている間にカウンターを叩き込む様に全力でスイングする。それが相手の肉に到達するのに時間など必要ない。刃が食い込んだ瞬間には足を踏みつけている。
逃がさない。
もふっ。
そんな感触が最初にムサシの体にヒットし―――次の瞬間には体が曲がった。そして体に刃を沈めたまま、全力で周りの空間、そして振り抜く大地を抉る様にルドぐるみを振り抜いた。
それと共にムサシの姿が夜空へと射出された。
「かっきーん……あー、いてぇ……」
体に刺さっている刀を引き抜けば、勢いよく血が溢れ出す。そして直感的にそれを捨てながら横へと体を素早く滑らせれば、立っていた空間を斬撃が抜けた。反則くせぇ攻撃を止めろお前。
そう思いながら空中で右腕が完全に潰されたムサシが空間を全力で蹴り、その衝撃を利用して自分を下へと叩き落した。
「けほっけほっ。肺に軽く刺さったなこいつ」
「それは……大丈夫なのですか?」
「今の状態なら数分もあれば治る。つーかマジで《無敵結界》張ってないのかアレ、正気かよ……」
ムサシの片腕が潰れているのを見れば、アレが真面目に《無敵結界》を使わず、攻撃を受けた事の証でもある。つまり本当に自分の信条を貫き通している魔人である事の証明である。かなりクレイジーだとは知っていたが、ここまで来るともはや天晴だ。そうとしか表現出来ない。
「ぺっ―――ただ、まぁ、動けなくなるまで叩く必要はあるか」
今の一撃で眠らせられなかったのが痛いなぁ、と思う。これで喰らう覚悟があれば一発は受けられるって事がバレてしまった。となると刃の軌道を読ませなくなってくるだろうから、恐らくはここからは本番―――乱撃戦になるだろうか。派手に戦ってお互いを探る段階から、殺す為に相手の手札を引き出し、連続攻撃を常に続けながら手札を潰し、詰ませて殺す。
高位戦闘技能保有者が戦う場合に持ち込まれる状況である。
「流れでこうなってしまいましたが……大丈夫ですか? その、魔人から回収して貰えるのは嬉しいのですけど、それでももうちょっと静かには……」
「ごめん、そこら辺気にする余裕とかないよねー、ルドちゃん」
ルドちゃん人形を持ち直して自分へと向け、うんうんと頷かせて遊んでみる。癒される。よし、休憩時間完了だ。右手で尾を握って肩に背負い直しつつ、左黒腕も添えて、両手で握る。ムサシが片腕で新しい刀を近くから調達し、鞘を噛みながらへし折るのを見た。
「さ、て―――」
初手は踏み込みか《次元斬》か。後者はリーチがあるからそこから次へと繋げるのが難しい。そう考えると初手は神速で踏み込んでリーチに入り込むので安定するよなぁ、と思う。だとしたら《ウルアタック》で正面を吹き飛ばしつつ対応するのが雑に楽だ。その余波で死んでくれればいいのに。だがそういうレベルの相手ではないよなぁ、と思う。片腕は潰せたが、それでもパフォーマンスに変化はないだろう―――というかそういうタイプの相手だ。負傷しても絶対に自分のパフォーマンスを下げないタイプの敵だ。だからそのまま、必殺技を切り裂きながら……カウンターで《次元斬》か? それを誘いに別の札を切る、という感じだろうか。
びたーん、とコミカルにルドぐるみを大地に跳ねさせて、大地を砕いた。
「うっし、第二ラウンドだな?」
「楽しませてくれる女だ……悪くない。あぁ、悪くない」
ギアが上がってくるのをお互いに感知する。闘争本能が刺激され、更に力を引きずり出す。それでも頭の一部は常に冷静に。ナイチサの時で反省しているのだ。それにまだ、バランスブレイカーも残している。マジでヤバくなったら此方もそれを切り札として切れば良い。
故に隙が欲しい。最後まで戦闘に付き合うと殺すか殺されるかで終わるから。故にどこかで逃げ出すチャンスが欲しい。
そう思ってルドぐるみを引きずりながら前に踏み出そうとした瞬間、
―――凄まじい闘気と妖気が天満橋に溢れかえった。
懐かしさすら覚える妖気の気配を知っている。そしてそれを感知したムサシも盛大に舌打ちをしていた。
「暴れすぎて引き寄せられたか」
ムサシが振り返り、天満橋の向こう側へと視線を向けた。そこには周辺の建造物等を破壊、粉砕しながら接近して来る軍団の姿が見えた。その軍団は後ろから来るものが前に居るものを踏み潰す様に死骸を量産しつつ迫ってくる、妖怪の大河だった。ただし妖怪としての種族や種別はない。生み出されては死んでいく、それだけの無名の妖怪の大河。津波の様な存在。
その前に走るのは、
両目から血を流しながら異形に変形した、腕を5本生やし、それに様々な武器を装備した妖怪魔人・黒部の姿だった。その両目はムサシにロックオンされている。あぁ、成程、ムサシの剣才を藤原石丸と誤認しているのか。
あまりにも憐れ過ぎる黒部の姿、そこにナイチサの所業の残酷さが見える。
しかし、
「《絶対零度》! 悪いけどノーゲームだ!」
「チッ!」
《絶対零度》、氷の魔法で氷壁を生み出し、それでムサシと此方の間を遮断する。ムサシであればをそれを一瞬で破壊する事も出来るだろうが、黒部が迫ってくる中でそれを行えば、背中を見せる事になるだろう。
片腕が潰れた状態でそれは中々出来る事じゃあない。
「縁があったらまた会おうぜ―――もう会いたくないけど」
ルドぐるみのデビュー戦としてはちょっとヘヴィすぎたのでは、と思いつつ迷う事無く逃亡する為に跳躍し、そこから飛行する事で一気に脱出する。ムサシが一瞬、迷う様な姿を見せるも、黒部へと向き合い、戦闘が始まる音が聞こえる。
天満橋周辺はこれで崩壊してしまうだろうが、それでも目的は完了した。
夜空に姿を隠すように高度を稼ぎ、逃亡しながら確認する。腰のベルトに差し込んである【聖刀日光】の存在を。
予定よりも大幅に早く、ミッションコンプリート。
以上、天満橋歓楽街崩壊事件。
ついに魔人になった黒部くんも出て来ちゃったね。あいつはLv2以上の剣戦闘を目撃すると石丸と間違えて戦闘を挑みに来るぞ。背後に妖怪の大河を引き連れつつ。なんて迷惑な奴だ。
感性ドラゴンなので結局、ごちゃごちゃやるより正面から殴る方が究極的に楽という脳味噌。日光さんゲットだぜ。