「あ、痛たたた……やろー、妖刀かなんかだったか? えーと、解呪解呪」
目の前に覚えきれない魔法をメモったメモ帳を浮かべて、そのページを開きながら黒腕を生やし、それで両手を使った術の準備をする。《陰陽術》を《魔法》にアレンジした術を発動させるために、更に紙をポーチから取り出す。人差し指の先を軽く噛んで血を流し、それで紙に小型の魔法陣を描く。その中央部に軽い折り目を付けてそれを口で咥え、両手を結んで印を結びながら術を発動させる。口に咥えた紙が燃え上がって消えながら、妖刀によって刻まれた呪いを紙が引き受け、燃え尽きながら浄化してくれた。胴体から肺にかけて刺さった痛みがそれで抜ける。
「あー、しんどかった。やっぱ両腕ねぇと不便だよなぁ、ここら辺の魔法は」
魔法を発動する腕、肉体がハードウェアになるのだ、魔力を術式で回すサーキットの役割もある。その為、肉体の一部が欠損しているとそれだけ、魔法行使に対して影響を受けてしまうのだ。魔法が使い辛くなったり、使えなくなったり、魔力そのものが低下したり。自分の場合、それを腕を生やすという事で回避したり、術式そのものを専用に改造して対処していたりする。だからその為、同じLv2よりは全体的に魔法の威力は下がっていたりする。それをドラゴンの能力と、カラーの恵まれた魔力でごり押している。
まぁ、そこら辺は完全に長年の知恵という奴だ。伊達や酔狂で長生きして、その間ずっと研究を続けてきた訳じゃない。恐らくこの大陸で、最も魔法を研究し、それを応用しているのは俺自身だと断言できる。多様性においてはLv3にすら負けないと思っている。とはいえ、時空関係の術には一切触れる事が出来ないので、やっぱりそういう部分ではLv3相手には大敗してしまうのだが。まぁ、同じジャンルで戦おうって考え自体が間違いなので、諦めるのが無難なのだが。
「うーし、包帯だけ巻いておくか……うん、こんなもんだな」
傷口のあった場所に一応、包帯を巻いておく。体が頑丈とはいえ、傷が完全に癒えるまでは包帯でも巻いておくのが良いだろう。そうやって治療した所で漸く、一息つく事が出来た。ふぅ、と息を吐き出しながら黒腕を消して座り込んだルドぐるみの上で漸く落ち着ける。
「お疲れ様です……大丈夫なのですか?」
そう声を送ってくるのは【聖刀日光】、つまり元エターナルヒーローの侍、日光である。今では刀へとその姿を変えて、振るわれる事でしか存在価値を示せない可哀想な存在となっている。とはいえ、刀状態の日光はそれで《無敵結界》を貫通するのではなく、破壊する事が出来る。そう、破壊だ。これで魔人に一撃攻撃を与えれば、メインプレイヤーでも魔人に対して攻撃する事が出来るのだ。その前提として魔人に一撃叩き込む必要があるのだが、それを抜きにしても恐ろしいほどに凶悪な兵器だ。しかもこいつで攻撃する場合、あらゆる魔人側の防御能力を無視して攻撃する事も出来る。
まさにカオスと日光が願ったような武器だ。
本人がそれになった、という事実さえ抜きにすれば。
「まぁ、俺はカラーはカラーでも、一時代前のドラゴン・カラー出身だからな。見た目はカラーでも、中身的にはドラゴンに近い。これぐらいだったら自然治癒で治るからな」
「根本的に強さがおかしいとは思いましたが、成程、種族そのものが違っていましたか。ですがドラゴンと言われれば成程、と頷けるだけの強さです」
日光が此方の言葉に納得した所で包帯を確認する。ズレてない。ならよし、と正面、大地に柄を軽く突き刺した状態で立たせてある日光を見た。
今現在は旧東部オピロス支配域、人間牧場が存在しない平原の一帯に居る。昔は街道をうし車が走っていたのだろうが、その文化が廃れてからは既に何百年も経過している。街道横の木々は好き放題に育っている。その木陰の下に隠れるように避難している。そこから宙を見上げれば雲がかかるのが見える。逃げている間に朝になってしまったが、天候は暗い。こりゃ一雨降りそうだな、と判断する。
背中を木に預けつつ、膝の上にルドぐるみをのせる。
もふもふ。もふぅ。至福の時間。
「あの……?」
「あぁ、すまん。ちょっとトリップしてた」
「いえ……その、私も魔人から回収して貰えましたから。あのままではこの身になってしまった意味すらありませんでしたから……」
「ご愁傷様。神なんてロクでもないもんを頼るからそうなるんだ」
そもそも魔人も魔王も神が生み出した存在なのに、そう都合よく倒せるような道具を用意する訳ないだろうに。まぁ、それを人類は知らないのだが。というか、そもそも創造神が誰とか、どうやって世界が生まれたとか、そういう概念にまで思考を伸ばす様な奴がこの世界には存在しないのだ、残念ながら。そしてそれが最も大切な要素だったりするので、必然的に皆馬鹿ばかりだ。
知っていてもどうしようもないけど。
ただ此方の言葉に、日光は何かを察した様で、
「女王陛下は―――」
「ウル様で良い」
「……ウル様は、まるで私たちがどうなるかを察していたようですが」
「察してたぞ? だから最後の気力を振り絞って立ちはだかってあげただろう?」
「別の方法があったのではないでしょうか」
「なに? お前ら今から剣になったり絶望したりするから進むなって? そんな言葉で足を止める程軽い覚悟で旅をしていた訳じゃないだろ、お前らは。殺しでもしなければ止まらないレベルだったんだから、止めようとしただけ俺が有情よ、有情。別に義理もなかったんだし」
「それは……確かに、そうですが。それでも知っていた事実に対しては恨まずにはいられません」
「じゃあ恨め。許そう! 俺様は女王だからな!」
恨まれるのも仕事の内よ。昔は女王女王言われるのも嫌だったが、こうやってポジションを維持してみれば愛着がわいてくる。もう、一生暴君女王キャラで通してやるという覚悟さえある。まぁ、国政には一切関わらないのだが。お飾りの女王ぐらいで丁度いいのだ、俺は。という訳で恨む事を許す。それを許容するのが王の器というものだ。それに関しては魔王が一番上手にやってるのを見てたし。
「……勝てませんね、これは」
「勝ちたいならそれだけの努力を重ねなきゃね。小鹿に負ける程俺様は弱くないぞ」
「恐れ入りました」
この聞き分けの良さが日光の良い所だなぁ、と思う。カオスだったらまず間違いなく駄々をこねてるだろうし。アレはエロい事をしない限りは絶対に働こうとしないだろう。まぁ、それはそれとして、
話を進めよう。
「俺が態々お前を回収しに来た意味、解るか?」
「魔人と魔王に対する切り札として、でしょうか」
「惜しい。近いうちに魔王城にカチコミかけるから、その時日光かカオスが無ければ詰むんだよ。カオスは魔人筆頭のガイが保有しているしな。となると奪える対魔人武装は―――」
「私一人になりますね。しかしカオスも魔人に握られていましたか……まるで悪意しか感じませんね……」
「プランナー君、こういう嫌がらせに関しては天下一の才能見せるからね」
アイツ、ヘイトが直接俺個人へと向けられている様な感覚はある。でも全体の盛り上がりを考えると、確かに俺個人にターゲットを絞った方が、全体が滅茶苦茶になりそうってのはある。まあ、それでも嫌がらせレベルを超える事はないだろうが。
ともあれ、
「流石の俺様も《無敵結界》だけは貫通出来ない。天使か悪魔に転生すれば話は別だけど、その時に大体の場合で記憶を失っちまうからな。気合と根性で乗り越えられる気もするけど、今のままじゃなきゃ出来ない事も多いし」
「出来るんですか……」
ドラゴンは物理的な理不尽。なぁに、やってみるもんさ。本当に、どうしようもなくなった時に限るが。それに天使になったら神の管轄、悪魔になればラサウムの管轄だ。俺に上司が生まれてしまう分、今までの様な自由が消えてしまうだろう。そうなったら今の様に動き回る事も出来ないだろう。だから、まぁ、
裏技を考えている。
《神光》は一発放つ事に成功した。没収されたとしても、一発放てばその感覚は覚えている。後はその神の力、神という属性―――《無敵結界》を超えられる神の力をどうやって引き出すか、というのに限る。まぁ、それは長年やっている研究の一つだ。《無敵結界》の攻略法。まだ、急いで探す事ではない。
まぁ、それはともあれ、今必要なのは、
「魔王城に殴り込むから、手を貸せ」
「願ってもない事です。しかし、勝算はあるのですか? 確かカオスを握った魔法戦士が負けた筈ですが」
そこに関しては問題ない。
「最初に偵察のつもりで魔王城に乗り込むだけだから安心してくれ。本番はその後でガイが起こす反乱だからな。それに乗じて魔王ジルの時代を終わらせる」
その為にもジルの様子を一度、確認したい。彼女は今、どんな状態なのだろうか、と。確認するのはほとんど自分の我儘に近い。それでも、一度は確かめなくてはならないのだ。ケッセルリンク、ガルティアからは近況に関しての情報は遠ざけられていて、手に入らない。ケイブリスもカミーラもそうだ。俺と古い親交のある連中ばかり遠ざけられている。或いは関係性を知られているのだろうと思う。
ただ、それでも知らなくてはならないと思う。
まぁ、これでも今はレベル200を超えている。念入りにレベルを上げてきたおかげで、タイマンで上位魔人相手には互角に戦えるし、そうじゃなくても逃亡にだけ集中すれば逃げ切れる。ナイチサの時とは違うのだ、ナイチサの時とは。だから、まずは魔王城へ行かなくてはならない。前回みたいに殺されかけて魔人にされそうになるなんて事はない様に、ちゃんと対策を何重にも用意してある。瞬間移動対策とか、次元移動対策とか。そういうのも諸々、研究してある。
……俺、純粋に研究とか全部忘れて遊んだの何時になるんだろう。
「という訳で、《無敵結界》を割れる日光があれば魔人と戦う場合になってもなんとかなる。攻撃が通じるだけで目つぶしとかで錯乱させられる様になるからな」
「無鉄砲に突っ込まないのであれば私としては問題はありません。個人であのレベルの魔人と戦える女王―――」
「ウル様」
「……ウル様の事ですから、恐らくは襲われたとしても逃げたり殺せるだけの力があるのも解ります」
まぁ、対魔人・魔王戦に関してはスペシャリストだと思っている。少なくとも自分の一生の大半は、連中と戦う為、連中に対する対策を考える事で自分を成長させているという部分がある。その代わり、それ以外の生物に関しては普通に強い程度でしかないのだが。魔人と戦う事、《無敵結界》を無視する方法、格上相手に確実に殺す為に一つの生物に対しては明らかにオーバーキルな破壊力を叩き込む方法。
つまり、超単体殺害特化とも呼べる性能に段々と自分は仕上がっている。
おかげで軍団において連携する事なんて難しくなっている。悪い意味でのドラゴンだ。単体で性能が完結しているから、同じレベルの存在じゃなきゃ横に並べない。なので俺と肩を並べて戦えるのはレベルが最低でも100を超えていないと、どーしても巻き込んでしまう。足並みを揃えようとしたら、そこら辺、火力を大幅に下げる必要があるので、根本的な長所を捨てる事になる。
まるでソロゲーマーの様だ。
まぁ、今は考える必要はない。魔王戦争で出てくる連中はどいつもこいつも、人外とでも表現すべき領域に到達している連中ばかりだ。そういうランクの生物だったら俺も一緒に戦える。ジルを魔王から解放するなら、まず勝って血を大量に流させる必要がある。
「と言う訳で、魔人と魔王攻略の為に、頼んだぞ日光」
「えぇ……私はそれで構いません」
が、と言葉を日光が置く。
「その……」
と、日光が言い辛そうにしている。刀の姿をしているのに、結構表現豊かだよなぁ、と思いながら、どうした、と日光に声をかけた。
「俺に対しては遠慮はいらないぞ。なんと言ったって女王だからな」
その言葉にそうですか、と言葉を日光は置き、
「その、非常に言い辛いのですが……私を利用するにはオーナー登録が必要でして……」
「あっ」
あちゃぁ、と声を零しながら片手で顔を覆う。すっかり忘れてた。
「体を重ねる必要がありまして……ウル様はその、同性の相手は平気ですか……?」
日光のオーナー登録には体液の交換だか、セックスだかが必要なのが完全に忘れていた。そう、その問題もあったのだ。完全に忘れていた条件にあちゃぁ、と声を零しながら、とりあえず、日光を抜いてみるをテストをしてみた。
だが当然のように日光は抜けない。
となると、オーナー登録を行う必要がある。未来を見れば女のオーナーであったアームズ・アークでも日光と肌を重ねれば抜けるようになっていたのは事実だから、多少相性が悪くてもやる事をやれば使えるようになるのは事実だ。
だけど、なんというか、今更処女どころか性的な経験すらないとか言えない。
どーしましょ、これ。
エロ……エロ……? どうするのエロ……?
と、ネタにしてるけど、別段必須って訳じゃないんだけどね。それでもそろそろ向き合って貰わないとねー?