「んー……」
ライフルを片手で構え、それをシューティングレンジのターゲットへと弾丸を命中させる。引き金を引くたびにずっしりとした感触が手の中に戻ってくる。技能補正でそれを完全制御しながら、ターゲットの急所へと全て弾丸を叩き込んでから軽く回転させてからライフルを肩に乗せた。始めて感じるしっかりとした現代兵器の感触に、小さく声を零しつつ、んー、と唸る。
「で、兵器としてはそれはどうなの、姉さん?」
その様子を後ろから眺めていたハンティが質問して来る。その言葉にそうだなぁ、と言葉を口にする。
「難しい所だなぁ。筋力とか必要がない事は間違いなく優秀なんだけどねぇ……」
ライフルを構える。詳細な名前は解らないが、
「これなら確かに多少は魔物に対して効果的だろうけど、《重装甲》持ちだと弾かれるな。後は純粋なレベル差の影響を攻撃速度が受けないから、レベルが上がれば上がるほど使い辛くなるか……? 集団戦で配備できるなら弓以上に使いやすいだろうけど……」
《鉄砲》技能が、銃の開発が行われていないのが理由で存在していないのが原因だ。これをルドラサウムへと持ち帰ったとしても、これが戦力として加算されるのはちょっと、難しいと思う。
「必殺技が出せる奴がいる分弓のがまだいいな……人類にはまだ早い」
「うーん、残念。だけどあっちの方は使えそうだね」
そう言ってハンティは横にスタックしてあるカートン単位の手榴弾などの爆弾を指さす。そちらの方はピンを抜いて投げたり、と簡単に使う事が出来るから問題がない。誰でも使う事の出来る道具だ。《投擲Lv0》は基本的な人類が獲得している技能だし、技能的な問題で扱う心配もいらない。これなら防衛に簡単に使う事が出来る。調達もハンティに《ゲートコネクト》を使わせれば何とかなる。
「うっし、爆弾だけ購入しようか」
現在、異世界・次元3EF系列の現代アメリカにハンティとお邪魔している。《ゲートコネクト》で近代知識が通じる異世界をサーチし、それを発見したらハンティと乗り込み、あーだこーだと集めた資金でブラックマーケットに突撃、それで近代兵器の中で使えそうな物を見繕っているという状況だった。とはいえ、その成果はあんまり良くはない。根本的にレベル概念が存在しない異世界である為、此方の大規模なインフレについて行けるような武装が存在していないのが原因だ。戦車や核兵器なんてものは長期運用とその後の未来を考えるとどう足掻いても手に入れられるもんではないし、そもそも入手難易度が高過ぎる。
調達という意味での異世界遠征はぶっちゃけ、ほぼ失敗に近かった。爆弾の類は入手する事が出来たが、これもプチハニーや《火爆破》で代用できる。あくまでも代用品、という面が大きい。
そういう訳で一通り黒いマーケットで色々と見て回った所で、適当にカフェを捕まえ、ハンティとテーブルを挟んでクーラーの効いている店内で、久しぶりに地球産キャラメルラテを楽しんでいた。他にもベイクドチーズケーキやシナモンロール、純地球産のお菓子をテーブルの上に並べている。
服装もお互いに地球産のカジュアルな物に着替えており、耳と額のクリスタルを魔法で隠し、完全に地球人に擬態している。魔法が存在しないこの世界で、この変装を見破れる存在は居ない。
カフェのソファに背中を預けつつ片腕をその上に置いて、ふぅ、と息を吐いた。
「あんまり成果がなかったのはアレだけど、こっちで食べるお菓子は美味しいんだよなぁ……うまうま」
「これが本命じゃなかったの?」
「6割ぐらい」
「6割」
ホットパンツにTシャツ、帽子という非常にラフな姿ながら、足を組みつつ冷たいキャラメルラテを飲みながら、まぁ、と言葉を零す。アメリカの方は中々熱いもので、自分が薄着である様に、ハンティの方も結構な薄着をしている。そのせいか、結構周囲からは視線を向けられるのが解る。流石に長く生きている分、自分の容姿に関して視線を向けられる事には慣れているが。
「昔ジルとここら辺の異世界を回ったりはしてたんだよなぁ……じゅるじゅるじゅる」
「あぁ、まだオピロスがあった頃だよね?」
「そうそう、《ゲートコネクト》の試運転とかでね。そういやぁ、こっちの異世界とルドラサウムでは時間の流れが違うんだよなぁ。ナス頭とか元気にやってっかなー」
あの後、扇奈と久那妓同時生存ルートとかいう道へと僕らのナス頭は突入していたが、アレ以来元気にしているだろうか? 時間の流れが違うのでまだ全国戦中なのかもしれないが。あぁ、いや、だが、連中を傭兵として助けを求める事はこの場合、可能なのだろうか? 一考の余地はあるかもしれない。
だけど、そうか、と思いつく。
「別に武器とかだけじゃなくて人とか生物を持ち込めばいいのか……」
ラテを飲み干し、店員に新しいのをオーダーしながら考える。物資だけではなく戦力を呼び出す事を目的として異世界探索するのも悪くはない。ジルがやっている事の真似ではあるが、それでも世界の果てにはいる筈だ。助けを求めれば来てくれるような馬鹿な奴がどこかに。或いは金銭交渉という手段も取れる。【大帝国】辺りと繋がってくれないかなぁ。宇宙戦艦を自分用に1隻ぐらい欲しい。かっこいいし。
「というか持ち帰っても平気なの?」
「ALICEちゃんからは終わった後、技術が残らないように処分するなら、って判定を貰ったよ。どうやら神々の間でも魔王ジルの存在は持て余している部分があるらしいからな」
ハンティの問いにサムズアップで答える。そこはしっかりと女神ALICEに質問したり、交渉してきている。ルドぐるみの魅力に完全に蕩けている女神の交渉なんざチョロい―――という訳じゃないが、永遠の八神クラスはともかく、一級神で魔王ジルを完全に放置した場合、ぶち殺される可能性が僅かに見えているという話は聞いた。
本気でジルが何を狙っているのか、それを聞いて益々解らなくなってくる。
一級神が死ねば、それが原因で大陸がエラー落ちして滅ぶのだから。
「だから、まぁ、武器の類は持ち込み禁止されてないんだよなぁ」
「それで大丈夫ならいいんだけど……姉さん、私が見てない時に限って滅茶苦茶やってるし。気が付けばぼろぼろになっているのを発見している私の身にもなって欲しいかな」
「ほんとごめん」
「今は反省しているし許す」
「許された」
そうやってお互いの顔を見て、軽く笑い声を零した。ちょっと首元に汗と熱がこもってきた感じもあるので、ローポニーで纏めていた髪を軽く解いてからハイポニーをセラクロラスのリボンで纏め直す。このリボンも、すっかりSS期以来愛用し続けているトレードマーク的な物になってしまった。やっぱり髪をアップで纏めると、首元が涼しくなるのを感じる。とはいえ、ハイポニーよりも個人的にはローポニーの方が落ち着くのもある。
戦闘では寧ろ切った方がいいし、一時期は髪を切ったりもしていたのだが、長い方が髪型で色々と凝れる分、やっぱり長い方がいいよなぁ、と思う。
チラっと、ハンティの方に視線を向ける。
カラー唯一の黒髪の保有者である彼女の髪は、首もと辺りでショートカットに揃えられている。自分の髪を軽く摘まんでから、ハンティの方に視線を向け、
「ハンティは髪を伸ばさないのか?」
「私? あんまり伸ばす意味を感じないかなぁ」
此方の仕草を見て、うーん、と声を零しながらハンティが自分の髪に触れつつ、
「急にどうしたの?」
「いや、俺は俺である程度オシャレに気を使っている中、ハンティって実用性の方ばかり考えるよね、って」
「……? 基本そういうもんじゃない? 寧ろ姉さんが異端だと思うけど」
「そうかぁ? こう……それとなく自分が可愛く見えたり、綺麗に見えたら楽しくない?」
その言葉にハンティは腕を組むと、首を傾げる。
「……?」
「心底解らねぇって顔してるなぁ、こいつ……!」
「いや、だって綺麗にしたってそこに意味を感じないし」
「うーん……」
アレか? 基本的に考えがドラゴンベースだから、なのだろうか? だからあんまり人間的な行いに興味を持たないとか? ハンティのショートカットは動きやすさと清潔感を重視したものだ。決して汚くしている訳じゃない。水浴びをしているし、服だって新しいものに着替え、洗濯だってこまめにやっている。ただそこからオシャレをする、という事に関してあまり意識を割いていないように思える。
素材が良いのに勿体ない。
俺とかは折角女の姿をしているのだから、楽しめる分にはオシャレをしておこう、という気持ち程度で色々と髪型とか服装とか、気分で変えている。一生あるかないかの経験なのだから、その分楽しまなければ損だ。そういう精神性で今は生活している。だから自分の服装とかもちょっと、気を使っている。ルドラサウムに帰る前にこっちで自分の服や下着も見て来ようかなぁ、と思うぐらいには。
「その内好きな子を前に着飾る必要が出てくるかもしれないぞお前?」
「はっ」
「おい、今なんで俺を見て鼻で笑いやがった」
「まずは姉さんが相手を紹介してよ。何時になったら甥か姪が見られるのさ。マギーホア様だって孫はまだ? とか偶に言ってるじゃないか」
「うるせぇ、俺は一生独身貴族を貫く予定なんだよ! 俺よりもお前だろ! 俺以上に女としての気配が薄いだろお前!」
「そんな事ないよ。ただ山の皆には一切の魅力を感じないからめかす必要性を感じないだけで」
ででーん、翔竜山アウトー! という感じで今、一斉にドラゴンが全員フラれた。お前らは泣いてもいい、ただし一切同情はしない。頑張ってカミーラのハートを射止める事を頑張ってくれ、と、心の中で祈りを捧げつつ、うーむ、と呟く。新しく運ばれてきたラテに口をつけつつ、
「自分が綺麗に見えたら、それだけで結構楽しくない?」
「他人に綺麗って思われるんじゃなくて?」
「おう―――自分で見て、自分で綺麗、可愛い、かっこいいって思えたらそれはそれで満足感あるじゃん?」
「んー……言いたい事は解るんだけどなぁ」
まぁ、俺が特殊とも言えるかもしれない。だって俺は元々男だったのだ。別の自分の姿を知っている。まぁ、その姿も前世に置いて来たもので、もはやこの肉体こそが己のもの! と断言できるぐらいには慣れているし、愛着もある。そして見た目が良いのも自覚している。だったらせめて、見た目が良い分には楽しむ方が健全だと思う。何がどうあれ、こんな肉体になったのだ。
だったら楽しめるだけ楽しまなきゃ損だ。
「俺が今、髪を伸ばしているのもそっちの方が色々と髪型で遊べるからだしなぁ。ハンティも折角綺麗な髪をしているんだからさぁ、めんどくさがらずに伸ばしてみたらどうよ?」
「えー……ほら、私外に出ている時の方が長いし。その事を考えると髪を伸ばしても傷むだけだし」
「折角の黒髪なのに勿体ない」
キューティクルまでちゃんとケアをしている我が髪を見よ、と軽く摘まんで持ち上げる。それを見てハンティはうーん、と唸る。
「でもほら、私は姉さんみたいな綺麗な色をしていないしさ」
「黒髪だっていいもんじゃないか。カラーの中で唯一黒いのはお前だけだぞ」
「そう言うなら金髪なのだって姉さんだけじゃないか」
「だから自慢してるだろう?」
「ほんと、そういう所は自信満々だよね、姉さんは」
「当然」
胸を張りながらそう答え、軽く笑い声を零す。まぁ、人生、色々とあったが、それでも今ではそれでもいい思い出といえるぐらいには色々と、歩んできた。女としての楽しみもそれなりに覚えて、着替えたり、食べたり、ちょっとしたオシャレをしたりというのも楽しみ方が今では解る。
少しずつ、少しずつの変化だった筈だ。
それでも長い年月を経て、俺の意識も女というものに今、完全とはいいがたいが、それでも染まっている。昔はそれが怖くてしょうがなかった。だけど今ではそれを楽しめるようになっているのも、一つの良い変化なのかもしれない。
この楽しさを妹も解ってくれればなぁ、と思ったりもする。だが彼女の場合、関わってきた人間という種族が少なすぎる。ドラゴン、そしてカラーとばかり関わっている。その結果、人間としての意識が聊か低い様にも感じる。
もったいないなぁ、と思いながら、笑う。
「笑っちゃってどうしたの?」
「いや、変わって行くのも楽しいもんだ、って話だよ」
「流石、七変化を見せる鬼畜女王の言う事は違うね?」
「その称号やめろ」
ハンティもその反応に笑い、お互いに笑い声を零した。少しずつ自分は変わってきたものだが―――こうやって、変わらないものだってずっとあるのだ。何も変わる事が悪い事ではないし、変わらない事が悪いという事ではない。
それでも長い年月を経て、自分や世界との付き合い方も覚えた。
その中で、変わらない絆があるというのは、悪くない話だった。
何時でも君のお姉ちゃん。
ハンティが本格帝に歴史の表舞台に関わり始めたのは恐らく聖魔教団関連からなので、それまでは倫理観ドラゴンに近かったんじゃないかなぁ、というアレ。根本的な部分を変える出会いがないと変わらないのが長寿の種族だと思うし。
つまりそれだけ、ヘルマンでの出会いは特別だったという訳で。
未来が気になる。