「か、カムイ・デックス! 先日勇者に覚醒しましたっ! よ、宜しくお願いします!」
そう言って城塞都市ククルの訓練場、そこにまだ13歳となったばかりの少年を横に立たせて声を張らせた。白髪が特徴的な少年で、まだまだその表情には幼さが多く見える。緊張しているのか手足を軽く落ち着かないように動かしており、冷や汗を流しているのが見える。そんな自分の横に立つ少年・カムイは勇者だった。或いは勇者となったばかりだった。ククルでは生年月日を管理し、13歳付近の少年をある程度、諜報部隊に監視させていた。それによってククル内部で勇者が誕生した時、即座に確保できるようにする為だ。
そして同時に、教育段階で魔人・魔王・勇者の存在も教育している。これは戦場で魔人や勇者の存在を間違えない為、そしてコーラがこっそりと出現し、変な事を吹き込んでも勇者が未来におけるアリオス・テオマンの様に勝手に破滅し、此方を荒らしてくるような事をしないように、その対策として打ち立てた
大陸全域でやるなら相当難しい話になったが、
自由人類の大半―――或いはほぼすべてが今、ククルに納まっている。それだけの巨大な城塞都市となった。現在ある人類の最大文明であり、最大都市であり、同時に最大国家でもあるかもしれない。都市であり国家である、そういう存在に近い。そしてそういう環境だからこそ、市民を監視、制御、そして勇者を速やかに確保できる。人間牧場を真似たやり口である。勇者の従者、コーラ―――或いは四級神コーラス0024も二回目の即時勇者確保に関しては完全に呆れ、
「弟子が弟子なら師も師ですね。師弟揃ってまるで面白くもない」
と、言葉とエスクードソードだけを置いて、消え去った。
これによって最後の力、最後の攻略の為のピース、勇者という最強の力が討伐隊に加わった。
「っつーわけだ。お前ら、今日からこいつも【撃滅隊】に加わるから宜しくしてやってくれ」
「姉御……こいつ、まだガキじゃねぇですか……」
訓練場、長さ2メートルを超え、異様な太さを誇る剛槍を片手に握りながら、半裸の男がカムイを見ながらそう言ってきた。まぁ、確かに、カムイの見た目はどちらかと言うと普通の少年といえる体型だ。鍛えられている訳ではなく、背が高い訳でもなく、小さい訳でもない。普通の少年のものだ。
「おう、エルド。13歳だぞ、13歳! 成長性があるな! がっはっはっは!」
「いや、姉御……」
「13歳で戦場に出るのは危険、って話をしているのよ」
エルドの言葉を引き継ぐように、魔女帽を被った女が出て来る。帽子を片手で押さえつつ、【撃滅隊】、つまりは魔人や魔王、超越存在と戦う為に人類から選ばれた超精鋭の内の一人になる。槍使いのエルドも同じ立場だ。つまり今、純粋な人間のインフレ上位に立つ存在だと言える。エルドは当然のように《槍戦闘Lv2》を保有しているし、此方の魔女テスカも《魔法Lv2》を保有している。
ここにはガイやルシア、ハンティ等の特殊カテゴリーを除いた、純人類勇士の最精鋭中の最精鋭、この59年間で積み上げてきた人類の【血の記憶】とでも呼ぶべき存在達が集まっている。その数は20人に上る。その視線が、まだまだ未熟な、誕生したばかりの勇者へと向けられており、ガチガチに緊張しているのが解る。
「勇者の任期は13歳から20歳までの7年間だけだ。16歳になるまで待ってたらGL982年だ。3年間も勇者を戦場に出せず腐らせる事になる。そっから働けるのは4年間だけになる。その3年間、
「それは……」
その言葉にテスカが黙りこむ。勇者に関する情報は知られている。戦えば戦う程強くなる。魔人と1回戦えば、次からはその必殺技を確実に見切る為、3年間という時間の間に戦闘経験を積ませれば、その後は4年間、魔王を倒す事に集中できる。最初の3年間が遅れるのだ、16まで待ってしまうと。1年でも今の状況―――というより魔人が動き出した状況では非常に大きい時間になる。
「という訳でカムイボーイを宜しくな! 来年からガンガン最前線に叩き込む予定だから!」
「マジかよ……」
「何時もの女王だわ」
「はぁ……はぁ……短パン、はぁ、はぁ……!」
集団の中に一人やばいのがいるが、複数人掛かりで取り押さえているから、まぁ、何とかなるだろうと思う。というか13歳ってショタ属性に入るのだろうかこれ? ……はいる? あぁ、でもまだ容姿は幼さが残っている。戦場に出ればシェイプアップされると思うが。
「ウル様! はい! はいっっ! 私っっ! カムイ君!! カムイ君をっ! 面倒! はぁ、はぁ、面倒をっ! はぁ、見たいですッ!!」
「隔離案件」
「ういーっす」
「こっちよー」
「そんなぁー」
屈強な男に両側から抑え込まれ、獣の眼光をカムイに向け続けていたレンジャーが訓練場の端へと連行されて行く。それを見て笑ったり、呆れたりしている姿がいるものの、おおむね、反対意見は出しても止めようとする人間がいない。根本的に俺がトップでそれに逆らえないという事実が存在しているのもある。或いは信用……されているのだろうか?
さて、
「まぁ、魔人が動き出すのは来年からだ―――それまでは俺もみっちりとこいつの面倒を見る」
「ははぁん、アレっすね。ウル様、自分好みの男がいないからついに自分で育てる所から始めることにしましぶふぉぉぅっ!」
顔面にルドぐるみを投げつけて吹っ飛ばしてやった。顔面に衝突してルドぐるみが姿を吹き飛ばしつつ、反動で跳ね返って戻ってくるのをキャッチしながら送還する。いきなり戦う前から2人リタイアしてしまった。どうしようか、と軽く頭を抱えつつ、良し、と呟く。
「で、ウル様も別に遊びに来た訳じゃないんでしょ?」
「あぁ、そうそう。本格的な開戦は来年からだからな。それまでにこいつを育てられるだけ育てないと」
そう言ってカムイの頭を軽く叩いた。緊張しているのか、カムイの反応は薄く、ガチガチの感触が掌から伝わってくる。基本的に戦場に出るのは15、16程からだ。それまでは生存率を上げるために座学や訓練を重ねるのが普通なのだが―――勇者特性の影響によって、カムイに関してだけはそれを気にする必要がない。こいつはたとえ、地獄へと放り込んでも戻ってくる事が出来る。
それが勇者という存在なのだから。
とはいえ、だから投げ込んでいいという訳ではないのだが。
勇者を無力化する方法は、一応幾つかある。それをジルが用意していないとは、思い辛いのだから。だから徹底して育てる。それが必要だ。なので人類勇士を見渡し、やる気があるかどうかをチェックする。その視線にちゃんと、光があるのを確認してから良し、と呟き、視線をカムイへと向ける。
「よし、坊主いいか」
「は、はい!」
「―――これからここに居るお兄さんお姉さん方が交代でお前をボコる」
「はい! ……え? はい?」
カムイが滅茶苦茶困惑している。その様子を見て一部が腕を組んで頷いている。何を頷いているんだよお前ら。
「いいか、勇者が戦えば戦う程強くなって行くのは、勇者特性で一度受けた攻撃や必殺技を直ぐに見切れるようになるからだ」
「はい」
「そしてここには多系統に渡った武芸や魔法の使い手が集まっている」
「はい」
「だから全員からボコられればそれだけ、見切れる攻撃が増えるって事だ」
「はい……はい? はい……? えっ、え?」
此方の言葉に対してカムイが物凄く困惑し、呆けながらえ、と声を呟かせている。それを見て解る解ると頷いている姿が多数ある。
「いや、姉御割といきなり頭のおかしい行動に出るもん」
「レベリングの為とか言って唐突にドラゴンと戦わせられたりね」
「後なんだっけ、大怪獣戦を経験しよう! とか言って異世界に拉致られた時があったわね」
「最強生物との戦いを楽しもう、とか言われて翔竜山に投げ捨てられた時もあったっけ……」
「懐かしいなぁ……」
無言でサムズアップを向ければ、溜息がどこからか噴出する。許してくれ、全部楽しかったけど、人類を勝たせる為に必要な事なのだから。
そして経験した話を聞き、どうやらカムイがアイデアロールに成功してしまった様である。武器を持ち上げ、手に握り、そして誰が最初に勇者をボコるのか、それを楽しそうに相談し始める【撃滅隊】の様子を見て、カムイがこれから自分が辿る猛烈な7年間の姿を理解してしまった。僅かに顔を青ざめさせながら、
「……あの、やっぱり勇者を止め―――」
その頭をぽんぽん、と軽くたたく様に撫でてから、笑みを浮かべる。
「期待してるぜ、カムイ君」
「頑張りますっ!」
激励するとエスクードソードを抜き、うおー、とカムイが剣を掲げながらやる気を見せる。その姿を見て察した奴が憐みの視線を向けるのが印象的だが、とりあえず気付かないフリをしてあげる事にした。
まぁ、鈍感じゃないし。
「よぉし、イキの良い奴は嫌いじゃないぜ! まずは俺の槍技の冴えを見せてやろう」
「じゃ、その次にはメジャーな妨害魔法をフルコースで味わわせるのがいいのかしら?」
「狙撃と暗殺のセットとかどうでしょうか」
「とりあえず全部ぶち込もうぜ」
「……う、うおー! や、やってやるぞー! や、や、やるぞぉ……」
何とか自分を奮い立たせたカムイが人類勇士へと向かって突撃して行き、直後に空を舞った。その姿を眺め、あの子が1年もあれば間違いなくここに居る連中並みに馴染むのは間違いがないだろう、と感じられた。
ここに居ないハンティやガイを含め、これで人類の最精鋭チームは合計で30人に満たないが、それでも漸く面子が揃った。後はここから成長するだけだ。場合によっては異世界からの援軍もあり得るが、それは期待する程でもない。
「ここから……だな」
吹っ飛ばされるカムイの姿を眺めてから、そう呟いた。
夕方、夕日が差し込む頃になると自動的に解散となり、疲労困憊となって訓練場の床に、死体の様にぼろぼろになったカムイの姿が転がっている。それでもその手にはエスクードソードが握られており、一度も手放さなかったそれは、ある意味、少年の勇者としての意地を見せるものでもあった。
今日だけは特別に普段、それぞれの戦線を支えているメンバーを集めていたので、夕方になった事で連中も解散し、それぞれの持ち場や日常へと戻って行く。それが全ていなくなった所で、気絶する様に転がっている勇者―――その手元のエスクードソードへと向けて、声を放つ。
「よ、意識はどうだ」
『おう、久しぶり。相変わらずだな』
「はははは」
エスクードソードには勇者の魂が込められている。ナイチサを討った勇者アレフの魂が。これ以降生まれて来る勇者の為に自分の存在全てを捧げた勇者でもある。正史とは異なる、存在しなかった勇者だ。
「これから数年間、迷惑かけるな」
『その為にこうなったんだ。気にすんな。それよりも今回も魔王案件なんだろう? こいつの心は俺が守るから安心しろ』
「悪い」
はぁ、と息を吐きながら大地に座り込み、倒れている少年の頭を膝に乗せる。エスクードソードを持ち上げようとしてみるが、正式なユーザーが存在する今、エスクードソードはもはや勇者以外の人間に持ち上げる事は出来ない。凄まじい重量を感じ、それを退ける事を諦める。まぁ、カオスや日光の様に変な奴に使われるよりはマシなセーフティではある。
少年の白髪を軽く撫でるように梳きながら、溜息を吐く。
「未だにジルに勝てるイメージが湧かない」
『それほどまでか?』
「そういうレベル。【刹那モード】に突入させる準備だけなら整えてある。だけど【刹那モード】に突入しただけで勝てる、って訳でもないしな……倒せる、殺せる。その範囲までジルの動きを止めたり抑えたりしなきゃどうにもならないし、戦えるというレベルまで経験を積み上げる必要もある」
勇者が仲間になったから勝てる―――と言える程、甘い状況ではない。
俺がジルだったら、勇者の任期が切れるまで異世界か時間の流れが狂っている異界に放り込んで、殺しに来れないように時間稼ぎする事で攻略するだろう。勇者であれば絶対に戻ってくるだろうが、それでも防げない攻撃、防げない干渉というものは存在する。それを駆使すれば勇者を遠ざける事も出来なくはない。
「この子がこの戦争における、最大のピースで最大の希望だ」
マギーホアでもなく、俺でもなく、ガイでもない。
勝利する為に。
その為だけに、全てを利用する。
『苦労してんなぁ』
「元々俺が原因で始まったようなもんだからな、この戦争も。責任は全部俺がつける。だけどその前に勝てなきゃ意味がない―――勝てなきゃ何も残らねぇ」
勝たなきゃいけないのだ。全てはそれを達成した後でやってくる。
未来が変わる心配をしても、その未来そのものが消えてしまうかもしれないのだ。
「だから未来を守る為にも、俺がケリをつける為にも、勝たなきゃならん」
『あんま思い詰めるなよ』
「安心しろ、昔ほど無茶はしないさ。俺が居なきゃ回らない所が多いし。理想としちゃ俺がいなくてもそのまま、回り続けるシステムを構築する事だけど流石に無理があるか……」
ま、何にしろ、
勇者だ―――今、この人類が持てる最大規模の希望だ。それが絶望に反転しないように、人類最強の男として鍛え上げながら、守らなければならない。何よりもその心を。まだ子供だという事を忘れずに。
溜息を吐き、そして呟く。
「戦いが……始まるなぁ……」
メインプレイヤーが人間に交代してから、
最も苛烈で絶望的な戦いが始まる。
明確に魔王を倒せる可能性を秘める存在であり、かつて魔王を倒す事に成功した存在。
攻撃や必殺技を受ける事で見切る事を可能歳、歩みは遅くてもレベル99まで上昇する様になり、死なず、なおかつ逆境の中で勝利を見つける事が出来る特性を保有している。魔王と戦う為に必要な存在ナンバーワン。人類を此方から消し飛ばせば、人類軍なしに単身で魔王を抹殺出来る可能性すらある存在。
そんなオネショタ始まるの……?
という訳で次回から開戦。