ぷくー、とガムが膨らむ。
着ている戦闘装束―――ウォードレスとも呼べる、ドレスに軽い装甲を装着した様な服装は或いは姫騎士とでも呼べそうな連中が来ている服装だ。だが見た目の華やかさは、見ている人間が高揚する為の物でもある。髪をローポニーで纏めつつ、膨らんだガムとスカートの端が風に揺れるのを感じる。
風船を作ったガムはそれからぱちん、と割れて、それを口の中に収める。今いる場所は城塞都市ククル―――ではない。将来の地理の話をするのであればリーザスと自由都市、その国境と呼べるラインに構築してある、最前線陣地になる。ここから流石に魔王城を見ることはできないが、それでも最も早くリーザス方面から入ってくる魔軍の動きを見つける事が出来るラインでもある。つまり、現在自分は人類戦線の最前線まで出てきているという事になる。
無論、ここにきているのは俺一人ではない。
陣地に構築されている櫓の上にガイがカオスを握った状態で待機している。俺も空に浮かべているルドぐるみの上に腰掛けながら、遠い景色を眺めている。お互いに、トイレに行く必要がない消化器官を兼ね備えている為、ローテーションで休めばずっとここで見張り続ける事も出来る存在でもある。とはいえ、そこまで長く張り続けるつもりはない。手持ち無沙汰になっているから地平線の向こう側、
魔王城の方へと、最初の一番槍を誰が握ってくるのか、それを期待して待っているだけなのだから。だからガムを噛みながらそれを膨らませ、遠くを見つめている。一番早く動ける自分とガイが。開戦の瞬間を待っている。時はGL980年、既に魔人が魔王領を出てこれる時期になっている。そしてそれから数日が経過している。
もうそろそろ、距離を考えると魔人が出てきてもおかしくはない頃だ。だからこの数日、魔人に備えて常に前線で日常を過ごしている。日に日に前線基地には緊張が高まっていく。今まで魔軍と戦う事はあっても、それは魔人抜きの話だ。
魔軍との戦いは、《無敵結界》を保有する魔人が参戦して初めて本格的な戦いになると言える。今までの60年は、それに比べれば前哨戦に近い。ここからが本番、故に気が抜けない。
そして士気を維持する為にも、初戦は外す事が出来ない。ククルにはハンティ、そして堕天使たちを置いてきている。自分がいない間に襲撃されたとしても、十分に対応可能な戦力だ。魔人が囮を生みながら迂回してくるような戦術を取ってくるとは思えないが、それでも保険を取る意味は何時の時代だって存在する。今、この陣地に来ているのは精鋭隊である【撃滅隊】に一番槍でヒャッハーしたがっているJAPAN軍、やっぱりヒャッハーしに来たドラゴン数体、そしてガイに前線防衛隊だ。総勢、2万は揃った軍団だ。かなり大きな数字に見えるが、それでもLPに存在する国軍と比べれば、半分以下と表現できる数ではある。まだ本隊はククルに温存してあるとはいえ、魔軍の増援の事を考えると、安心できる数ではないだろう。連中の事だから平気な顔で数十万の援軍を投入した所で驚きはない。
その時は俺も、ついにGL大魔法を解禁する事になるのだが。
「ぷくー」
ガムを噛んで、風船を膨らませ、遠くを見る。今か、今かと地平線の向こうを眺めながら、視界よりも先に、ドラゴンの超本能的な感覚が、その空気を捉える。
ぱんっ、と風船が割れた。それを吐き出しながら光と熱で蒸発させ、ガムを消し去る。浮かべていたルドぐるみから飛び降りつつ尻尾を掴み、陣地へと向かって落下しながら声を張り上げる。
「―――来るぞお前らァ!! 総員戦闘配備ッッ!!」
「っ! 総員戦闘配備ぃ―――!」
言葉と共に一気に現場が動き出す。何時でも動けるように訓練された戦士たちが、兵士たちが動き出す。武具を手に、即座に陣地を利用する様に配置へと付きながら迎撃準備に入る。陣地は防衛がしやすいように構築されたものであり、最初は間接、遠距離から槍や弓、魔法で戦いやすいようになっており、接近すれば隙間から槍や剣で突き刺しやすいように出来ている。魔軍が踏み込んできた際に、効率的に殺しながら、その死体で相手の進路を狭めるという仕組みが出来ている。
陣地の後半部分も、生活や作戦の為の空間はあるものの、即座に爆破処理できるように構築されている―――根本的に物量で押し切られるのが前提となっている。そもそも魔軍の物量相手に長くは持たないのだから。だから殺せるだけ殺して引き込み、それで有利な地形で殺せるだけ殺すというのがメインのスタイルになってしまう。
だがそうやって戦うのは資源を消費するだけ消費して、磨り潰されるだけだ。
此方から打って出る必要がある。
万単位の軍団を殺しながら。
その為の俺達である。大魔法、Lv3級の魔法、そして空爆を可能とするドラゴン。それらを利用して、万単位の魔軍を殺し尽くす事で、少しでも軍団としての歩みを緩めるのだ。それは可能なのだ。
―――魔人さえいなければ。
この60年間、戦いが継続できたのは魔人抜きで数万を超える魔軍を効率的に殺し続ける方法を構築できたからである。だがここに魔人が加わると、《無敵結界》と凄まじいまでの能力のコンビネーションで、魔軍全体へと攻撃する事を阻止されてしまう。その為、魔軍という数の暴力を削れなくなってしまう。
だから魔軍戦に対する今年から大事なのは、魔人を確実に足止めする事だ。
魔人を足止めし、全体へとその影響を及ばさない様にしながら、今まで通りの戦術で魔軍を処理する。無論、魔物将軍や魔物隊長の様に、サクッと始末出来る相手ではない。数百、数千という魔軍の魔物兵たちと同時に戦う事にもなるだろう―――ほぼ間違いなく。
その環境の中で魔人だけを攻撃し、生存し、そしてその上で空爆などの処理を行って魔軍を処理するのだ。
魔軍も数十万という魔物兵を用意するには流石に数か月かかる。それが、兵士や戦士にとっての休息のインターバルだ。此方も準備を整え、戦術のブラッシュアップにはそれだけの時間を必要とする。そして魔人と魔軍が同時に襲い掛かってくるケースはこれが初めてだ。
確実に対処できる戦術を生み出す為にも、ここでは勝利しなければならない。
そうしている間に陣地を抜け、陣地前の荒野に出る。国境から先、リーザスの大地は少々荒廃している。度重なる戦争と衝突によって、戦場付近の大地が枯れたからだ。そこに出て正面を眺めていれば、【撃滅隊】の面々が詰まってくるのが感じられる。
「へへ、ついに魔人戦か。親父も爺さんも挑戦出来なかった事に俺が挑戦できるのか……楽しみだな」
「何を言ってるのよ、相手は魔人よ? 油断しちゃ駄目だからね?」
「でもウル様やガイ様よりも酷いのは居ないだろ」
「そう思うと多少は楽になるっすね」
「お前ら陰口は本人の前でやるなよ」
「陰口じゃないよ! 事実だよ!」
お前らほんとになぁ……と思いながらも、これから魔人との戦いが始まるというのに何時も通りの状態を維持出来ている姿には、非常に助かるものがあった。芽吹いた、数十年を越えて蒔いた種が漸く芽吹いてきた。
ただ俺の悪さを言うのは止めなさい。こんな美人で可愛くて強いのに。
「非の打ちどころのない女王と一緒に居られて幸せって奴はいねぇのか!」
「はい! 幸せです!」
勇者カムイが目を輝かせながら手を上げて宣言する姿に、一瞬だけほっこりするが、うん、なんというか君はそうだよね……とちょっとリアクションに困る。
そんな風に軽く空気を和ませていれば、遠く、地平線に砂塵が見えてくる。それを巻き上げるように戦列が進んできているのだ。大量の、魔物の軍団が近づいてきている。間違いのないその気配に言葉を黙らせ、そして遠くを見つめる。地平線を埋め尽くさんばかりの魔物兵の姿を前に、二つの人影が歩いてきているのが見える。
「ウル様、報告です」
残像さえも生み出さずに音もなく、ゴシック調の服装のシーフが出現した。シーフの癖にゴシックというかゴスロリというか、そういう服装を好む奇特な奴ではあるものの、過去のカオスの様に《シーフLv2》を保有する、怪物的な才能の持ち主である。その名前もパンドラちゃん。名前もファンシー。
「魔物兵20万、率いるのは魔人レイと魔人レッドアイかと思われます。真っ直ぐ此方へと向かっており、別動隊の姿はなし。空を監視していますが、魔人メガラスの姿はなく、魔人カミーラの姿も見えません。どうやらレッドアイとレイ以外の魔人はまだ出てこないようです」
「報告お疲れ様。援護に加わってくれ」
「拝承です」
再び姿が消え、ガイが声をかけてくる。
「レイとレッドアイか……面倒なのが来たな。レッドアイは《魔法Lv3》、レイは《レイ体質》で雷の類が通じない上に、攻撃を行えば此方が感電させられる。だがレッドアイはどちらかと言うと先鋒には向いていないタイプだ……」
「という事はジルの命令じゃなくて、勝手に飛び出して来たんだろ」
成程な、と呟く。ただ初手でケイブリスが来なかっただけは良かったと思う。ケイブリスが本気を出して戦いに出た場合、此方が死ぬか、相手が死ぬか、それとも諸共死ぬか。それしか選択肢がない。それだけケイブリスは強くなっている。だから正直、アイツがダッシュ一番で来なかっただけ安堵している。アイツだけは壊滅する可能性が高いのだ。だから欠片も油断できない。魔人戦は基本、一手間違えればそれだけで壊滅する可能性が高い。
とはいえ、
これで分かった事がある。
「
「レイはジルを慕っている。だからこそ鉄砲玉を買って出たんだろ。レッドアイはお前にご執心だったしな。他で飛び出そうなのは……ラ・バスワルドか黒部ぐらいか」
「バスワルドが?」
「アレは本質的に破壊神だからな。めんどくさいって感じたら全部消し飛ばしに来る」
「おぉ、怖い」
ラ・バスワルドは準魔王級の実力者だ。それが面倒だ、という理由だけで動き出す状況は背筋が凍るほどに恐ろしい。とはいえ、ここ数十年でしっかりとそこら辺のメタは構築している。やはり内部の情報が解っていた魔人が味方に居る、というのが非常に心強い。後はククルに直接悪魔魔人がワープして魂の汚染をしてくるのを、AL教残党とスラルに監視して貰うだけだ。
これで、今は保たせる。
そして迫ってくる魔軍は一定の距離までやってくると、その前に立つ姿が見えてくる。つまり魔人レイと魔人レッドアイの姿だ。魔軍の進軍速度は少しずつペースを上げて、衝突する為の加速を得て来る。
「総員、迎撃戦用意ッ! 以降は指揮官の指示に従え! そして【撃滅隊】は俺とガイに続いて魔人レッドアイと魔人レイを討ちに行くぞ!」
咆哮が返ってくる。それに合わせ此方も前へと踏み出し始める。歩く様に、正面から歩いてくる魔人に相対する様に接近していく。魔軍側はどうやら、此方の戦いに巻き込まれないように軍団を二分割し、両翼から陣地に衝突するつもりらしい。其方はドラゴンが居るので、存分に相手をして貰う。
正面から迫り始める魔人レイはバチバチと雷をスパークさせながら髪をバックに流し、そして魔人レッドアイは―――寄生先の、赤髪、巨大な剣を握る女の姿、ドレスを着ている女に寄生した状態で、楽しそうに声を響かせてくる。
「ベリーベリー・ロングタイム! ノー・シー! あぁ、ユーにあいたかったよ、マイ・パーフェクトボディ!」
「うるせぇ、人の体をずっと狙いやがって、気持ち悪いんだよ単眼触手野郎」
魔人レッドアイが此方を見かけると、目当ての体を見つけたと歓喜の声を零した。気持ち悪いと吐き捨てながらもレッドアイは笑う。
「おぉ、サッドな事を言うなよー。ユーのボディにミーのマジック! これが組み合わされば一つのメイクドラ―――マ―――! キル! ダイ! 全て死!」
レッドアイの狂笑が響く。言葉が途中から滅茶苦茶になるものの、本気で此方の体を狙っているという事実は、NCの頃から変わらない。俺のLv3物理戦闘技能、カラーの魔力の高さ、そしてドラゴンとしての性質。それに加えてレッドアイとしての《魔法Lv3》が加われば、文字通り最強の魔人が生み出せるとして、本気で寄生どころか融合までしそうな勢いの糞気持ち悪い糞単眼野郎だった。こいつがペンシルカウにダークを起こしたのは、単純に俺を狙った事に原因があった。
そしてその横に並ぶレイは、レッドアイを鬱陶しそうにするも、電撃を溢れさせながら戦意を高揚させていた。
「悪いな。個人的な興味も恨みもねぇ―――だが姉御が戦うって決めたんだ。ぶっ潰れて貰うぞォォォォ―――!!」
狂気ではない、純粋な戦意と闘気を雷で纏ったレイが咆哮しながらレッドアイと共に飛び込んでくる。そのレッドアイも、今寄生している肉体の力を使っている。それによって魔軍とレイが鼓舞され、その力が更に引き出される。
近づく魔人に対して声を張る。
「聞こえたな? お前ら! 敵はキチガイだ―――理性のある人間の国に入れるんじゃねぇ!」
咆哮と共に武器を構え、魔法を放つ準備が整えられた。
そして、魔王戦争、その本番が開戦される。
戦闘距離にまで入った瞬間、レイの《雷神雷光》がレッドアイの《白色破壊光線》と共に広範囲を薙ぎ払う様に放たれてきた。それに対して迷う事無く前へと飛び出た。自分が《白色破壊光線》へと、そしてガイが《雷神雷光》へと向かい、
正面からガイが雷光を切り裂き、
俺が正面から《白色破壊光線》を受けた。
「アハァ―――ン! ファ―――ンタァ―――スティック!」
「気持ち悪いんだよ単眼野郎ォ!」
だが通じない。《UL体質》とはつまり、ドラゴンとしての特性が極まって生まれた抵抗能力。光と重力という属性に関しては、絶対的な耐性を誇ると言っても良い。それが光という属性にカテゴライズされる以上は通じる事がない。故に、《白色破壊光線》は通じず、そのスペックを確かめたレッドアイは更に奪ってやると気合を入れる。はよ死ね、と思いながら《ガンマ・レイ》で正面の大地を薙ぎ払い、土埃を巻き上げながら、
ルドぐるみを手に、素早く飛び込んだ。
「ウル―――あたたたたーっく!」
「きか、ねぇよぉっ!」
音速を超えて衝突した衝撃だけが残される。土ぼこりを貫通して薙ぎ払う様に放った必殺技が聖女の子モンスターの肉体、つまりは八級神ベゼルアイの肉体だけに衝突し、衝突した時の衝撃だけが《無敵結界》越しにレッドアイとレイへと届く。だが衝撃は衝撃、大地を砕きながら放ったそれは二体の魔人を強引に押し込み、
「ふんっ―――!」
その必殺技の陰に一瞬だけ身を隠したガイが、カオスを片手に上位魔人の身体能力をフルスペックで活用する。
「ノウノウノウノ―――ウ! キル・あなた! ガイ! ミーには届かない!」
「ちぃっ!」
素早く放ったカオスによる無数の斬撃はレッドアイがベゼルアイの体を素早く強化しながらガードする様に動かす事で、触手や本体への接触を回避する。だがレイはそうも行かず、《レイ体質》による雷光の反撃でガイを貫通しながらカオスを受けた。そして音と共に無敵結界が割れた。レイが一時的にメインプレイヤーから身を護る為の手段を失う。
「おぉぉぉォォォ―――!」
咆哮する様に槍を抱えて飛び込む姿がレイの心臓を狙うも、雷光を纏ったレイが素早くショートジャブで音速を超過して対応する。それをどこからともなく出現したシーフがダークを投げてジャブを妨害しつつ、砲撃と間違える様な一矢がガイを巻き込む様に放たれた。
連続で空間が爆裂し、斬撃が何重にも響く、フルパワーで放たれる雷光がノンストップで地面を焼き焦がしながら生命を殺す為に振るわれる。
その横で超が付く、メインプレイヤーでは対応しきれない剛力を手にしたレッドアイが神の属性を保有するモンスター、ベゼルアイの肉体を巧みに操りながら大剣を振るう。昔出会った、スペックだけを振り回すレッドアイらしからぬ運用だった。
誰かの入れ知恵が入ったな?
そう思いながらびたんびたん、と鯨の姿の創造神人形を大剣とぶつけ合う。見た目は異様としか表現出来ない光景だが、技巧と経験からルドぐるみが振るわれる速度が瞬間的に音速に入り、それを超過し、武器がふわふわでもふもふであるも、100%の筋力による衝撃を伝えている。それ故に一撃一撃でロックゴーレムであろうと一撃で砂に変える程の破壊力で殴りつけていると説明できる。
だがそれを後手、筋力任せでベゼルアイの肉体は耐えられていた。
根本的な力の次元が違う。レッドアイがそれを引き出し、コントロールし、それに魔法を上乗せしていた。しかもベゼルアイの体を操作しつつ、同時に連続で上級魔法を放ってくるのが鬱陶しい事この上ない。
だが、
「こっちのが経験は上だッ!」
「オォゥ!?」
踏み込みながらルドぐるみを黒腕が生えた状態、両腕で盾に構え、それを押し付けるようにルドバッシュを放つ。創造神の盾とは不敬なぁ! とか声が届いてくるが、心の中でお前の創造神はもう俺と添い寝してるから、と答えながら、足場を踏み込みで崩した。迫ってくる体にレッドアイが触手を伸ばして此方へと寄生を乗り換えようとするが、
それよりも早く、ルドぐるみを押し出した。
それにレッドベゼルアイが押し出された。
超、高速で。その姿が魔軍に衝突し、
親指でベルトに仕込んだアイテムを弾いた。
蒼く、本来の色から変質したクリスタルを。
それが弾き出され、眼前に舞うと割れる。そして本来は届く事のない、膨大な魔力を纏う事が出来る。そしてそれを完全に制御しながら左腕に魔法陣を纏い、腕を引き絞った。
「これぞ新たに生まれ出た究極の魔法―――大魔法―――
魔法陣を正面に投げつけるのと同時にそれが霧となって消え、それと入れ替わる様に黒い風が吹き荒れる。かつて―――或いは未来で、血の記憶ジルが放った、大魔法の奥義がこれによって放たれる。光を無限に吸収する風がそれを反転させ、黒くなった光が重力によって凝固し、剣の形となって風に混じり、吹き荒れる、
「ラグナロォォォ―――ク!」
カラークリスタルをブースターに放ったGL大魔法が放たれる。一瞬で空間を黒く飲み込むとその中にある存在を圧縮、分解、引き裂きながら殺していく。吹き荒れる風がそのまま周囲の魔軍へと伝染する様に広がり、魔軍にも打撃を与え、背後への進軍を遅らせる。
だがその中で、
ベゼルアイを覆うように触手を伸ばしたレッドアイが魔法を受け止める事で寄生している肉体へのダメージを回避した。糞が、と息を吐く。どれだけ強い、凄まじい魔法や攻撃を放つ事が出来ても、《無敵結界》を割れないのでは意味がない。
「ファック、あの糞単眼野郎賢くなりやがって。俺の触手CGは未実装だってのに、オベちゃんが触手CGの餌食になってるじゃねぇか」
広範囲を包むGL大魔法の中心部で、魔法を放つ事で内側から破る様に、ベゼルアイの力と合わせて戦場に復帰しようとするレッドアイの姿を見ながら、中指を突き立てて毒づく。そこにガイが滑り込む様に横に着地してきた。視線を向ければ、レイの雷光が空間を焼いていた。回避しつつ下がったようだった。
「言っている事は解らんというか解りたくはないが―――交代しよう。レイの相手は任せる」
「あいよ」
素早くガイと言葉を交わし、居場所を交代する。そしてそのまま、お互いに敵へと向かって突貫する。
「よう、レイ。今度は俺の相手をして貰おうか!」
「願ってもねぇ!」
レイの電撃パンチのワンツーとルドぐるみの衝突が一瞬で交差する。だが感電による貫通を不壊の人形であるルドぐるみは拒否し、拳とぶつかり合っても此方へと電撃が届く事を拒否する。それによって一瞬、お互いに武器が弾かれた状態になり、
「零式―――ムミョウ」
勇者カムイが瞬間的にパンドラによって抱えられ、無音、無明の奇襲斬撃がレイの死角から放たれた。音も気配もせず、一瞬で発生する殺す為の斬撃をレイがスウェイとダッキングを素早く組み合わせながら回避するも、エスクードソードを回避しきれずに肩口に斬撃が入った。血が舞うも、即座に雷撃に飲まれて血が蒸発する。
そして雷光の雨がレイから放たれ、降り注ぐ。
「おぉぉォォォ―――!!」
覇気を放ち、自分の周辺の空間に《雷神雷光》を放つことで、接近する存在全てを牽制しながら拳を握り、ファイティングポーズを取り直した。その視界で敵を捉えながら拳を構えるレイを見つつ、第三の目を開き、それでレッドアイとガイの戦いを捉えた。超高速の《白色破壊光線》の連打にガイが阻まれ、接近できずにいる。
ハニーを味方に出来ていれば突破出来たかもしれないが―――無いもの強請りは出来ない。
《無敵結界》が割れるまではレッドアイをガイに押し付けるしかないのだから。
此方はその間、
徹底してレイを抑える。その為にルドぐるみを構え直し、人類勇士を率いる。
こうして、
後に最も人類が長く魔軍と戦い続けた戦争、最も人類が手段を選ばずに戦い続けた戦争、人の心を理解しない王に率いられた国家による魔軍の戦争と記録された、魔王戦争が本当の意味で開始を告げた。
のちにこの戦争はこうも言われた。
ベゼルアイに寄生したのでゴッドパワーや身体能力が3倍に出来るレッドアイとかいう恐怖。しかも自分だけじゃなく他の魔人も3倍に出来るとかいう頭のおかしいアレ。誰だこんな酷い組み合わせを思いついたのは。
敗北すると触手寄生凌辱CG回収だったのかもしれない。
という訳で開戦。ガンガン魔人と戦おうね。