AV歴56年にラストウォー終結。これがドラゴンという種が行う最後の戦争になった。魔王ククルククルという存在とドラゴンが繰り広げた数千年の戦いと比べれば、余りにも短い時間だっただろう。だがその事実をアベルに責める事は出来ない。魔軍も強かった。アベルも強かった。ただ単純に、それを超える程にマギーホアとドラゴン達が強過ぎたというだけの事実であった。
そも、魔王が生み出せる魔人の数は24が上限になる。これは魔王が分け与えられる血故の制限だ。それによって生物は大幅に強化される。問題はそもそものドラゴンが規格外すぎるという事だった。あまりにも強すぎる。それこそ魔人化した者達とある程度戦えるレベルに。そう、ドラゴンは強すぎた。全ての悲劇を説明するならばうん、それが答えだ。強すぎた故にそれを成し遂げてしまったのだ。
45年間の戦争を経て、魔王アベルは打ち倒され、そして翔竜山の中に監禁された。全身を杭で貫きながら魔法によって弱体化させ、そして縛り付ける。完全なる魔王対策だった。殺害する事で魔王が継承されるのであれば、殺さないように封印し続ければ良い。それだけのシンプルな理論で魔王アベルはラストウォーで敗北後、それからずっと行動を封じ込められた。もはや二度と彼が外の世界にでる事はないだろう。
そして魔人化されたカミーラは魔人のまま、子供を孕めない。その絶望的な事実にドラゴンは直面する。しかし、
AV歴60年、
残存する魔軍の殲滅が完了した。ケーちゃんやメガラス等、一部の魔人を除き、魔軍という魔王の権力、力の象徴は粉砕され、もはや抵抗勢力は残されていなかった。魔王を助けに来るような忠誠心を持つ存在もいない。4年という時をかけてAV歴60年に魔軍は滅び去った。
これによって、外敵が消え去った。大陸にはまだモンスター等が存在しているが、もはやドラゴンの脅威となる者は残されていない。即ちククルククルの死から60年、ついにドラゴンはこの大陸の覇権を完全に手にし、そしてマギーホアという偉大なる指導者の下で統一される事となった。
大陸統一国家トロンの誕生だった。
「―――姉さん、前にも増して魔法の勉強に打ち込む様になったね」
「ん? あぁ……そうだな……」
ハンティに話しかけられながらも、カラーの森の一角で魔法の練習を行っていた。この40と少しの戦争の間で、魔法技術はある程度発展させたことが出来た。未来の様なバリエーション豊かという訳ではないが、ピンポイントで欲しい魔法だけを考え、相談し、そしてそれを構築していた。そして今も自分に必要な魔法を練習し、そして修正していた。戦時中に自分の魔法の適性とも呼べるもの、それを漸く色々と試しながら理解してきた部分もあるので、それに関わる魔法を研究してもいた。
魔法を使えるようになるだけではなく、その効率化などを考えると成程、数千年は軽く消費できるほどの奥深さがあるのも納得できる。だから集中力を高めて、そして真面目に魔法開発と研究に勤めていた。少なくともLv2ではちゃんと研究などを行わないと、新たな魔法を生み出すような事は出来ない。そこら辺、感覚的に生み出してしまえるのがLv3の特権だ。
「でも魔軍との戦争終わったし、真面目に攻撃魔法を研究する必要はないんじゃないの? というか前よりも真面目に取り組んでるけど」
「んー? うん、まぁ、そうだな……」
ハンティの言葉に生返事を返しつつ、必殺技を放ってみる。片足で大地を勢いよく踏みつけ、ドラゴンと魔力、その両方を加減する様に解き放つ。大地がひび割れ、そしてその隙間から光が溢れ出すのが見えた所で自分から放つ力を抑え込み、停止させる。ラストウォーでレベルが大幅に上がった影響で、《必殺技》が使える様になっていた。
これもまた、ルドラサウム大陸、この次元の【システム】とも呼べるものだった。
基本的に技能がLv2あり、その上で十分なレベルを保有しているのであれば、その者は《必殺技》を保有する事が出来るのだ。これはある日突然閃いたり、或いは編み出したりするものであり、この世界のシステム的な部分に該当する。無論、普通の攻撃よりも遥かに強い、まるでゲームの様な能力だ。
まぁ、ここがルドラサウムの遊び場だと考えれば妥当ではある。
それはともあれ、これでドラゴンと魔法の技能を組み合わせた必殺技が確認できたので、これで自分が《ドラゴンLv2》と《魔法Lv2》の技能を保有している事が確認できた。これ、戦力としてはかなり優秀な方だ。なにせ、カミーラも同じように《ドラゴンLv2》を保有しているのだから、ドラゴンとしての格は彼女と同格である事を示しているのだ。とりあえずそのおかげで必殺技を獲得、その上で何を軸に戦えばいいのか、というのが解ってくる。
「そい」
指をパチン、と弾けば木が半ばから歪み、折れて弾けた。無詠唱でも初級程度なら問題なく使えそうだった。悪くはない。Lv2でも天才と呼ばれる領域なのだから不満は欠片もないのだが。とはいえ、この程度の威力だったらドラゴンの魔法抵抗値によってレジストされてしまうだろう。ハニーにも通じる程を目指す訳じゃないが、それでもドラゴンの鱗を通すぐらいの破壊力は欲しい……となると魔力の消費を増やすしかない。中級魔法クラスとなると、流石にワンアクション挟む必要になってくる。
「姉さん、戦争終わってから大人しくなったよね」
「……んー……そうか?」
「少し前まで雄の逸物を狙っていたのが嘘みたいだって言われるぐらいには……いや、私も今の方が良いと思うけどさ」
「そうか?」
「うん、今の姉さんの方が落ち着きがあって、雄達もこれなら……って話をしてるよ」
「そーか」
まぁ、欠片も嬉しくはないのだが。雌としてとらえられても、魂がまだ男のままだ。数百年という時を経ても、そこにはまるで成長の兆しがなかった。苦しめる為にその時間を凍結されたような、そんな感じだった。だからほとんど、同性に性的に見られている様な感覚だった。そこには当然、興奮や羞恥なんて物はない。
あるのは気持ち悪さとストレスだけだ。良くエロゲームや同人誌で興奮するとか、触っただけで気持ちよくなるとかあるけど、あんなのファンタジーだという事を雌になって、よく理解した。ただひたすらに気持ち悪い。まぁ、大体のドラゴンからは恐れられているから、悪評もそこまでは悪くないと思える。
「というか姉さん、なんか……焦ってるように見えるけど、大丈夫?」
「……」
ハンティ・カラーのその言葉に魔法を構築していた動きを止め、森の大地に座り込みながらさて、と片手で頬を掻く。
「ハンティ」
「なに?」
「絶対的な破滅を前にし、それから絶対に逃げられないと解ったらお前はどうする?」
ハンティへと向き直り、真っ直ぐと黒竜の瞳を捉えながら言葉を放った。ハンティは一瞬、軽口で応えようとして、しかし、此方の視線を見て、その言葉を噤んだ。そして考える様に首をかしげてから頭を横に振る。
「たぶん……抗おうとする」
「そうか」
ハンティのその言葉に小さく笑みを零し、頷いた。
「ハンティ、君はそれでいい。そのままの君でいい。どんな絶望にでも戦って、立ち向かう心を忘れないで欲しい。男の魂に雌の体で生まれてしまった俺には、それが何よりも欠如していた……いいや、違うな……」
頭を横に振り、そして俯いた。違うな、そんなもんじゃない。
「
「ウル姉さん……?」
そう、あまりにも絶望的だったのだ。真実を忘れる事が出来ればどれだけ幸せだっただろうか。全てを忘れてドラゴンという種の栄光を信じる事が出来れば、どれだけ幸せだったのだろうか……。なぜ、俺はこんな余計な知識を持ってまで生まれてしまったのだろうか。恐ろしい。ただひたすらに、生きているという事が、その事実そのものが恐ろしい。
心の中はずっと絶望している。生まれて事実を理解してしまった瞬間から絶望している。馬鹿のフリをして、狂人のフリをしなければ、とてもじゃないが自殺してしまいそうだった。だが自殺すればそれはそれでルドラサウムの一部になるだけだ。希望なんてありはしない。死んでもまた新たな形として生まれ変わり、絶望を提供する為の人形となるのだ。だから自殺なんて出来なかった。
だから狂気を演じた。
だから気狂いを演じた。
だから魔法になるべく熱中した。
闘争本能に任せて戦争の中で暴れた。
そうでもなければ絶望しているという事実を思い出しそうになるから。絶望という感情が再び湧き上がってくるから。だから忘れたかった。忘れられもしないのに。俺は弱い。どれだけ肉体を、レベルを、魔法を、技能を鍛えても、
それで心を守る事は出来ない。
「ハンティ、君はいい子だ。本当に可愛い子で、そして遠い将来、間違いなく幸せになるって約束できる。君はそのままでいい、そのままでいいんだ……」
「姉さん! 姉さん! どうした! 何時ものキチガイ染みた言動はどうしたんだよ!」
「……」
もう、駄目なのだ。手遅れなのだ。トロンが建国されてしまったのだ。既に破滅のカウントダウンは始まっている。猶予は1年。それでルドラサウムが平和になってしまったこの世界に飽きてしまう。それが終わりの合図だ。ドラゴン・カラーはハンティを除いて全て始末される。それには自分も含まれる。そしてドラゴンそのものもエンジェルナイトによる大粛清で100以下にまで数を減らすだろう。
「ハンティ、来年だ。来年までに一人で生きていく為の準備を備えるんだ。俺からはもう、それしか君に伝える事は出来ない」
「姉さん!」
本当ならこの絶望感をぶちまけたい。この胸を満たすどす黒い気持ちを共有したい。来年、何があるのかを教えたい。だけどこれを共有する相手は、最初から一人だけだと決めている。ハンティに弱音を吐いてしまったのは自分の弱さだ。最後まで墓場へと持って行けなかった、仮初の狂気ゆえの弱さだった。だけどもう、付き合ってはいられない。
一緒に居るだけ、俺の方が辛い。
だから立ち上がり、大地を蹴り、運命の日まではトロンを、カラーの森を離れる事にした。魔法の勉強なんて道具もないのだからこの時代は、どこに行っても出来る。さよならの言葉も残さず、翼を広げて《高速飛翔》を唱え、そのまま逃亡する様に出て行く。
これから一年間、そして一年後、自分がやる事はもう既に決めていた。だからそれまでにまた、自分の頭を狂わせないと駄目だ。もっと馬鹿にしないと駄目だ。その時までは狂気の檻に自分を閉じ込めないと駄目だ。ルドラサウムも、世界のシステムも、全部馬鹿になって忘れろ。
そして自分を鍛え上げろ。
一年後、マギーホアに決闘を挑む為に。
次回、AV歴60年。ちょい短め。
という訳でいよいよAV歴のクライマックス、vsマギーホアだって事で。いやぁ……第三世代プレイヤーの出番までもうすぐだと思うとワクワクするね?