ククル・魔王領国境付近。
そこに【撃滅隊】の面子だけで集まっていた。とはいえ、ここに居ないメンバーもいる。ハンティ、そして堕天使たちがそうだ。ククルには今、魔人が潜伏している可能性がある為、報告があった場合時間を止めて移動出来るハンティの存在と、魔人を殺す事の出来る神魔枠の堕天使の存在が非常に重要である。その為、ハンティと堕天使の組み合わせは迎撃戦力として都市に残してきた。それとマギーホアを抜いた面子で今は来ている。無論、これで攻略するつもりでもある。というか出来なきゃこの先が辛い。まぁ、とりあえず、国境までやってきた。
ここは度重なる衝突によって大地が死んで、荒廃化が進んでいる場所でもある。戦いが終わったら緑化計画を進めたい所でもある、リーザスも含めて。とはいえ、今はそんな事をしているだけの余裕もない。まるでスプーンで抉り抜いたような綺麗なクレーターがそこら辺に存在しているのだ。それがラ・バスワルドによる破壊の痕跡だと思うと、ぞっとしない。元々はここには構築されていた最前線基地や陣地が存在していたのだが、
「これが全部魔人一人の手によって、か」
「どちらかと言えば黒部とラ・バスワルドが特殊な方だ。個人で軍団を丸ごと消滅させられるのは魔軍全体の中でも稀な素養だ」
「ワン・マン・アーミー、って奴ね?」
ガイがその言葉に頷いた。個人で軍団規模の作戦を起こせる存在の事だ。突き抜けた個人としての強さではなく、その影響力や範囲が軍団クラスであるという話をしているのだ。ぶっちゃければ、魔人が個人で軍隊を相手にするのは不可能ではない。《無敵結界》があるのだから一回の攻撃で数十人殺し続ければいつかは全滅するだろう。だけどそれとは違い、数百や数千人と同時に戦える素質を持っている、という話だ。
どちらにしろ、厄介な話だ。
「だけど片付ければ間違いなく此方に大きく戦況が傾く―――絶対に成し遂げなきゃならねぇことだ」
「そうっすね。じゃないと勝ち目がないっすからね」
前線への侵入ルートを確保する為に、基地を作成する必要はある。それを邪魔するラ・バスワルドからまずは消えて貰おう。とはいえ元が二級神、舐めてかかれる相手ではない。此方の面々も、全力で戦えるように装備や道具のチェックは行ってあるし、何時戦闘を行っても問題はない。後は問題児の魔人を呼び出すだけだ。
呼び出すだけ。
……うん?
腕で胸を持ち上げつつ、首を傾げる。
「おいマテ、どうやってバスワルドちゃん呼び出すんだこれ」
「おい、姐御」
「いやぁ、待て、ガイ君がきっといい案を出してくれるに違いない―――違いないよなぁ……?」
「ウル様? ぬいぐるみを押し付けながら威圧するのは良くないと思うの」
ルドぐるみの顔面をガイへと押し付けながらはよ案を出せやと威圧するが、ガイの方は困った様子を浮かべ、視界の端で見切れながらマッハが羨ましそうな表情でもふもふ威圧をされているガイを見ていた。お前にくれてやるのは叩き込む一撃だけだかんな。ガイが滅茶苦茶迷惑そうに顔面にルドぐるみを押し付けられながら口を開く。
「そうだなわふっ、ラ・バスワルドの事だかんふっ、きっともふっ、呼び出せばわふっ……喋り辛いわっ!」
キレたガイがルドぐるみを奪ってそれを魔人の膂力で全力で最前線の向こう側へと音速で投擲してしまい、一瞬で人外の速度へと到達したルドラサウム人形君は地平線の向こう側へと消えていった。それを目撃したマッハが凄まじい速度で追いかけ始める。片腕を伸ばしながら空の彼方へと消え去ってしまったルドぐるみを嘆こうかと思って、
「そういや召喚魔法に登録してるから呼び寄せられるわ」
話を進める前にマイ・フェイバリット・メインウェポンを呼び出す。
そして召喚されてきた。何時も通り白く、もふもふで、愛嬌のある顔立ちのルドぐるみ。
そしてそれに顔がめり込んでいる黄金の神々しい神光を放つ魔人女神の姿が。
「―――」
「―――」
顔面がルドぐるみの顔面に叩き込まれているラ・バスワルド……じゃないといいなぁ、と思える存在は顔面がルドぐるみに叩き込まれた状態で完全にショートしており、動きを停止していた。
視線をガイへと向ければ、ガイが滅茶苦茶焦った様子で頭を横に振った。
「俺は悪くない。悪いのは【俺】の方だって」
「善ガイさんでも逃げる事あるんですね……」
「お前ら結構勘違いしているけどガイはどっちも結構愉快だぞ。人前にそれを出すのが苦手なだけで。あ、こら、儂を削るのは止めなさい、こら」
ガイが無言でカオスを削りにかかっているが、徐々にラ・バスワルドが覚醒しつつある。少しだけルドぐるみ越しに動く気配を感じるので、素早く辺りを見渡し、顔面にルドぐるみが叩き込まれているラ・バスワルドの姿を見た。起動していない? 起動していない。JAPANの時の様なロジックエラーなのだろうか? いや、どちらにしろ、とりあえずは、戦闘準備する様に黒腕を生やしながら合図を送れば、素早く事前に盛れるだけの支援を行い始めた。背後から《怪力モルルン》や《重加算衝撃》等が連射発動しているのを聞きつつ、
顔面をルドぐるみに埋めている姿に耳を傾けた。
「ふぁぁー……もふもふぅ……あぁー……」
「ALICEと同じ事になってる……」
やや蕩け切った表情でルドぐるみに埋もれていた。ほんと女神達はルドぐるみが好きだよなぁ、と思うも、ALICEという言葉に反応して勢いよくラ・バスワルドが顔を上げた。
「誰が
「あまりにも酷い」
今頃天上ではALICEが発言を聞いてぷんぷんと怒っているんじゃないだろうか。それだけの人間性あったっけ? まぁ、考えない方がいいか。そう思っているとラ・バスワルドが顔を持ち上げ、周囲を見渡し、ガイの存在を視線に捉えた。ガイがしまった、という感じの表情を浮かべている。お前、実は逃げる事を考えてたな?
「あ、ガイじゃない。久しぶりにあったわね! 貴方が魔王城から消えたせいで誰も廊下で行き倒れる私を拾わなくなってしまったじゃない!」
「ガイ君優しすぎでは」
「……倒れたままにしておくと魔王城が崩壊する時があるからな」
苦渋の決断をする様な表情で、ガイが言葉を吐き出していた。あぁ、うん、魔王城に普段から居るせいか、どうやらラ・バスワルドの担当というか、面倒を見させられていたのかもしれない。流石にこの元魔人筆頭の存在が憐れになってくるが、とりあえず、ちょいちょい、とガイを片手で手招きしつつ、ラ・バスワルドにルドぐるみを押し付ける。それを受け取ったラ・バスワルドが首を傾げつつも、ルドぐるみを一瞬で気に入ったのか、その魔性の心地よさに一瞬で魅了された。その間に大体察した隊の面子が事前に支援魔法等を使い始める。
「はーい、ちょっとチクっとしますよー」
「あ? え、うん……痛っ」
「……壊せたな」
「嘘ぉん」
ルドぐるみを持たせている間にガイがカオスの切っ先をぐさり、とラ・バスワルドに突き刺して、《無敵結界》を破壊した。その破壊を全員が見届け、そしてルドぐるみを抱いたまま、ラ・バスワルドが見届け、ルドぐるみの心地よさに溺れていた状態から一瞬で現実に戻った。
「そう言えば貴方離反魔人じゃない!! 敵じゃない!!」
「今頃気付いたのか……」
「ポンコツ魔人の名に偽りはなし……と、戦闘始まるぞぉ―――!」
「この流れで戦闘に入るのかぁ……」
「……まぁ、戦えるってだけまだマシなんじゃないかしら」
ルドぐるみを素早くラ・バスワルドから回収すると、名残惜し気な表情をラ・バスワルドが向けてくるが、メインウェポンなので流石に渡すわけにはいかない。ラ・バスワルドから素早く攻撃に巻き込まれない様に距離を取れば、ラ・バスワルドも素早く、というかやや焦る様に此方から離れ、僅かに浮かび上がった。神々しい神光を輝かせながら、昔目撃したラ・バスワルドとは違い、人間らしい感情の塊を保有する、人間らしい女神に今は見えていた。
浮かび上がった事で頭のポニーテールを揺らしつつ、左右で色の違う瞳に焦りを浮かべつつ、口を開く。
「ふ、ふん! よくも私を出し抜いたわね! 未熟で! 駄目駄目なメインプレイヤーとしてはよく頑張ったって褒めてあげるわ! まさか私が仕事をさぼって昼寝をしている所を連れ出すなんて……!」
ガイへと視線を向けるが、ガイは片手で顔を覆っていた。昔からこんな感じだったらしい。そりゃガイも難しい表情をするのも解る。ラ・サイゼルとラ・ハウゼルのポンコツ要素だけを抽出した上でツン度を濃縮して注ぎ込んだような性格をしている。今更ながらひっでぇもんだな、としか言えなかった。
自分も戦闘に備え、後ろへと下がり、隊に合流する。合わせラ・バスワルドも虚空から自分の両側に女性の石像の様なオブジェを召喚する。それが更に変形し―――姿を変えて、二つの魔銃―――というよりはもはや砲に近い武器へと姿を変化させた。ラ・サイゼルとラ・ハウゼルが保有する武器、魔銃タワーオブファイヤーと魔銃クールゴーデス、それのラ・バスワルド版だろうか。自分の知識にあるラ・バスワルドとはやや違う……が、ここで止められる訳でもない。
黒腕を生やし、両手を組み合わせて印を結び、それで魔法を発動させる。自分の体質を魔法によって拡散させ、一種の結界の様に空間に展開する事で、光属性の無効化を隊の仲間たちと共有する。
二属性の魔砲を浮かべ、自身も浮かび上がったラ・バスワルドは光を纏った状態で見下してくる。
「いいわ―――これもなんかの縁よ。他の有象無象みたいに跡形もなく消し飛ばしてあげるわ!」
「来るぞ!」
戦う前まではぽんこつだったが―――戦闘の気配が始まれば、その気配は破壊神の名に相応しいものに変質した。
人間一人を跡形もなく消し飛ばすにはあまりにも十分すぎる、生物最高峰の火力を、破壊力、殺傷力をもって―――破壊魔人ラ・バスワルドが立ちふさがった。
「ねぇ、待って、どんだけ準備しているの貴方達!? 流石に卑怯じゃない!? 話している間に準備するなんて卑怯じゃない!?」
「だが問答無用……!」
会話している間に容赦なくバフを積み続けた此方に対してラ・バスワルドが批判の声を上げるが、それをガン無視して戦闘が開始される。光による攻撃を無効化する為に一切動けない此方の代わりに、剛槍の戦士が一瞬で一番槍を奪う様に飛び出した。それに連携する様に動くのは弓を持ったJAPANの武士であり、槍が飛び出すのと同じ速度で矢を射る。一瞬で顔面に到達した矢はラ・バスワルドの眉間に衝突して弾かれ、ほぼ同時に到達した槍が飛行状態のラ・バスワルドを穿った。
槍の切っ先がラ・バスワルドに突き刺さらない。
純粋にラ・バスワルドの生物としてのスペックがメインプレイヤーを超越しているだけだ。《無敵結界》なんて存在しなくても、女神の神体というだけでラ・バスワルドは多くの生物を超越するだけの能力を兼ね備えている。故にラ・バスワルドが攻撃が刺さらないのを確認する前に、
「そ―――らよっ!」
「きゃっ!? ちょっと!」
槍を服の一部に引っ掛け、それで地上に引きずり落とす様に振り抜いた。ラ・バスワルドの飛行が一瞬で奪われ、その姿が地上へと叩き落される。そしてそれを待ち構えていたように《黒色破壊光線》が地上を薙ぎ払った。
「危ないじゃない!」
ラ・バスワルドが片手を突き出し、闇魔法を無効化する結界を張り出した。それによって《黒色破壊光線》が無効化された。だがその破界そのものが目くらましとなり、足の速い隊員が既に動いている。ラ・バスワルドが手を前に突き出すようにしているポーズ、
その背後に、両側からガイとカムイがカオスとエスクードソードを片手で振り上げていた。それをラ・バスワルドが察し、姿が一瞬だけ消失し、ガイとカムイの背後へと再出現する。
《瞬間移動》だった。
神である事を考えれば、出来ても不思議ではない。そしてがら空きの二人の背後へと向けて、魔砲の砲口が向けられる。だがそれに到達していたシーフがダートを投擲している。手裏剣の様に妨害目的で放たれたそれは一瞬でクールゴーデスとタワーオブファイヤーの砲口を弾いて射線を変更させ、
直後、放たれた砲撃があらぬ方向へと突き進んだ。《ゼットン》と《絶対零度》の砲撃はそのまま一直線に大地を薙ぎ払いながら引き裂き、生み出した大地の破壊の中身を炎か氷で埋め尽くした。そして氷が壁となってそのまま遮蔽物へと変化する。だが《瞬間移動》からの奇襲は完全に今、防ぎ切った。
それに動きが連続で続く。事前情報からハウゼル体質サイゼル体質の話は通っている。光魔法はラ・バスワルドの属性である為に除外、闇は無効化を張れる為使用を禁ずる。その上で残された属性は雷。故にラ・バスワルドの攻撃後の硬直を狙う様に《Lレーザー》や《雷神雷光》が一瞬で雨の様に降り注いだ。
「ちょっ、危ないじゃない!」
「うーん、この……」
ラ・バスワルドが回避しようとするも、それをガイがカオスで斬りかかり、押し込み、諸共魔法を体で受け止める。だが《無敵結界》が働くガイに関しては、味方からの誤射によるダメージは一切発生しない為、そのまま味方の魔法を諸共受け止めながらラ・バスワルドの《瞬間移動》かテレポートか、それらによる移動を封じた。
そしてそのまま、魔法が叩き込まれる。
「えぇい! めんどくさい!」
それらを薙ぎ払う様にラ・バスワルドが腕を振るう。光の斬撃が広範囲に大地を破壊しながら振るわれ、それが大地をその形そのままに消し去る。だがそれは隊を薙ぎ払った所で、人間を消滅させるほどの威力を見せない。だがそれでも強すぎる力がある程度の防護を突破する。薙ぎ払い、その衝撃は発生し、一部の隊員を強制的にダウンに追い込む。
結界として広げた体質では完全な相殺には至らない。何人かがダウンするが、それでも戦闘が続行される。放たれる弓による極射がラ・バスワルドに衝突した。それがラ・バスワルドの動きを後ろへと弾きながら一瞬だけ停止し、虚空から残像もなく出現するシーフのダート投擲が次の行動を封じる。そしてそこにガイとカムイが斬撃を通した。ラ・バスワルドの防護、服装を切り裂きカオスとエスクードソードが肉を断つ。
ラ・バスワルドの体から鮮血が溢れ出す。
押せている―――今は。
そう思いながら対破局崩壊に備えて結界を維持し続ける。鮮血を流し始めるラ・バスワルドの瞳から人間性の色が薄れていく。タワーオブファイヤーとクールゴーデスが自動照準と自動砲撃で連続攻撃を仕掛けて来る。それを《魔法バリア》で即座に防ぎながら、
潜り抜けた人類勇士に光の薙ぎが放たれる。
「次は俺の番だな―――ぐおぉっっ!!」
それに盾になる様に仲間が飛び込み、根元からヒットを喰らい、弾き飛ばされながらダウンするが、後続へのダメージを軽減する。体質が無ければ光っただけで全滅してもおかしくはない敵、だがそこには違和感があった。
ラ・バスワルドがまだ、人間性を保っている。
いや、人格がまだ残っている。
ガイの話が正しければ、ラ・バスワルドは戦闘が始まれば人格を失った、殲滅兵器として起動する筈だった。なのにそのモードにラ・バスワルドは突入せず、自分の意思で戦い続けていた。その僅かな違和感を抱える中で、
ラ・バスワルドの周囲に緑色の光が溢れ出した。
「もう、全部跡形もなく吹き飛ばしてやる……!」
「っ! 総員退避! 撤退ッッ!!」
素早く軍師からの言葉が飛び出してくる。それに従い攻勢に移っていた隊員が全員下がりながら逃亡を開始する為に走り出し、それに合わせ自分だけが逆走する。すれ違う軍師が言葉を呟く。
「すみません、抑えをお願いします!」
「任せろ。俺一人だったら間違いなく死にはしないしな」
素早く言葉を交わしながら真っ直ぐラ・バスワルドの懐へと飛び込み、その姿を掴み、
直後、緑光が溢れ出した。
周辺の全てを飲み込んで消滅、分解させる緑光が溢れ出し―――その破壊力のすべてが、あらゆる存在を吹き飛ばした。
超ポンコツ破壊神ラ・バスワルドちゃん。鬼畜王だと緑色の光ぽわぽわしてたよね、という。個人的にバスワルドちゃんのデザインはなんというか、完全にドストライクなんじゃが……なんじゃが……。
二枚抜きルートだとここで殺害する必要があった。方法? ハンティと堕天使連れてこい。
という訳で次回も引き続き国境確保、ラ・バスワルド攻略。