―――金属音が走る。
大剣と長刀がぶつかり合い、弾かれ、火花を散らしながら一瞬だけ交差する。だが次の瞬間には複数の腕による連続攻撃が一気に襲いかかってくる。相対する姿は長刀を優雅に振るい、あまりにも長過ぎる武器でありながらも、それを完全にコントロールして斬撃を受け流していた。複腕の存在はそれを確かめる様に、学習する様に、覚える様に、しかし何時でも即座に殺せるように力を抑えている。そう、斬撃は受け流されながらも―――その
本来の姿を知れば、今のそのリスの姿に全ての者が現実を疑うだろう。だが事実としてそのリスは
魔人ケイブリスは努力をしている。
強くなるための努力を。
地道で、見ても解りもしない努力を。
少しずつ、少しずつ強くなっていく変化を見せている。
その為に努力を無限に重ね続けていた。
もはや魔軍に、ケイブリスを笑える存在等居なかった。
それがどんな存在であれ、他の魔人も、ケイブリスの見せるその求道的な面に関しては、一種の敬意を見せる。ケイブリスの本質は変わっていない。人間という生物に対する憎悪、非情さ、そして見下しているという事実は変わっていない。だが同時に、原初に抱いた願いも変わっていない。それを忘れていないだけだった。故にケイブリスは強くなるための手段を選べる。他の魔人から使徒を借り、武芸という概念に触れるのもまた、ケイブリスが最強を目指す上で必要な事だった。
まるで
「うむ、流石ケイブリス殿。一合一合、重ねるたびに某が死を感じるとは、まさに怪物的としか表現せざるを得まい」
「あぁ? 俺様が強いのは当然だろう、雑魚が。てめぇら雑魚とは違うんだよ」
「えぇ、某もその言葉には頷かせていただく。しかし……」
と、ムサシの使徒はケイブリスと剣と長刀を音を超える速さで連続で衝突させ合いながら言葉を続ける。
「某はこんな奥地へと押し込まれてしまったケイブリス殿が苛々しているのではないのかと思いましたが……どうやら杞憂だったようで」
使徒の言葉にケイブリスは笑い声を零した。
「はっ! 俺様が結果の解り切った戦いに興味なんざあるもんか―――まぁ、ククルククルの躯を使った事に関しては俺様でもちぃーっとばっかし思う事はあるけどな……」
そう言葉をケイブリスが口にした瞬間だけ、斬撃の威圧が増した。おっと、と使徒が声を零す様にその手が衝撃から震える。ケイブリスがある程度怒りを制御しているという事態も異常ではあるものの、ストイックさも一種、異様とも表現できる。
最悪最強と呼ばれた魔物王、魔人ケイブリスはその悪性をそのままに、IF―――そう呼ばれるもしもの可能性を突き進んでいる。
IF、自分を殺せる存在を認識していたら。
IF、自分の原点を忘れずにいたら。
IF、投げ込まれた石が波紋となって広がり、魔人ケイブリスという存在を、正史以上の怪物へと育てていた。まだ、それは水面下に潜みながらも少しずつ肥大していく段階。だがそれでも魔人ケイブリスの進化は続く。
「ジルの終わりも見えてきたしな―――それにまだだ、まだ早ぇ。俺がアイツに勝てるようになるには、まだ早ぇ……」
ケイブリスの呟くような言葉を拾い、そこに込められた殺意と複雑な感情の混ざり具合を感じ取ったムサシの使徒は、長刀を振るいながら僅かに、喉を鳴らした。
「ならばお相手いたしましょう、ケイブリス殿。某にはこれしかない故、満足行くまで人の重ねた研鑽、その技術というものの恐ろしさを覚えて貰いましょう。それが必ずや、貴殿の血肉となり、勝利へと導く事となりましょう」
傲慢にケイブリスは使徒を見下す。だが侮りはしない。相手の余裕は何か、切り札を握っているという事の証だとケイブリスは把握している。自分を殺す例外の手段を持ち合わせているのかもしれない、と警戒する。そして警戒したまま、一切相手の評価を揺るがせずに、殺せると認識する。
ケイブリスは狡猾である。また残虐であり―――臆病である。
それ故に誰よりも生き残る事と、その嗅覚に優れている。
そして、だからこそ、ケイブリスは爪を研ぐ。
自分の戦う時はまだ―――まだ先だと感じ取って。
最強の魔人誕生へと向けて、まだ積み重ねる。
「それでは現在の状況を説明します」
作戦会議室でレビンがそう切り出した。
「現在人類軍は魔人ラ・バスワルドを味方に引き入れる……? 引き入れたんですかね……これ? あの、本当に引き入れたんですかこれ……?」
「考え出すと無限ループするから暫定介護で」
「では魔人ラ・バスワルドの介護を行い始めたので、国境を此方で再確保する事に成功しました。これに関して魔軍のアプローチは従来の魔物兵や魔物隊長の派遣だけであり、魔人を国境の再取得の為に送り出してくるという事はありません。問題はいまだに魔人黒部と魔人メガラスの存在によって、陸路と空路が封鎖されている事であり、このどちらかを退けない限りは私達が魔王城へのルートを構築する事は出来ないでしょう」
魔王領周辺地図を広げ、確認する。
魔王城へのルートは最短で東側のルートを抜ける事だが、此方は黒部が一番張り切っているエリアでもある。となると西側の迂回ルートを通るべきなのだろうが、黒部君はとても頑張り屋さんなので、此方側にも偶に走ってくる。クソが。それなしでも山岳を越えようとすると魔人メガラスが邪魔して来る。
「次の目標は黒部を排除するか、或いは魔人メガラスを排除するか、ですが……」
レビンの視線はルドぐるみの上にだらりと倒れている俺へと向けられている―――未だに禁術の影響でロリモード継続中である俺は、正直歩いたりするよりは飛んでいる方が移動が速いため、基本的にルドぐるみの上に乗って子供の姿をしている間は移動する事にしている。威厳の欠片もないが、姿が姿なので許されたい。
「メガラスは古い知り合いだ。個人的には友人かなぁ、って思ってるけどあっちがどう思ってるかは解らない。ただ、悪い感情はない筈だ。だから倒せば味方に引き込める筈だ」
ラ・バスワルドの言葉が本当として……ラ・バスワルドが特別にサボっている訳じゃなかった場合の話だ。その場合、メガラスを魔王の命令から解放し、此方へと戦力として接収する事が出来る。最速の魔人と呼ばれるメガラスを仲間に引き入れる事が出来れば、それだけで戦力が増強できる。
正直、馬鹿正直に黒部を排除するより、メガラスを倒し、仲間に引き入れ、空から魔王城を強襲するルートを確保するのが一番だと思う。黒部は存在が軍団規模だ。此方で止めるにも軍団を動かす必要があるが、メガラスは俺達だけで済む部分もある。
ただ、まぁ、メガラスの相手をする場合が大変だ。
「魔人ラ・バスワルドの発言によれば、魔人は魔王の絶対命令権により、本気で戦った場合にのみ、行動が自由となって好きに動けるようになるらしいです……現状、この条件を突破しているのは恐らく魔人レッドアイ、魔人レイ、そして魔人ラ・バスワルドだけでしょう。そして魔人メガラスを味方につけるのであれば、魔人メガラスの本気と相対する必要があります」
「……少々、難しい話になってくるな」
魔人メガラスと戦う事を考えた場合の話を持ってくると、ガイが腕を組んだままそう呟き、ハンティも困った様子で頭の後ろを掻いた。
「アイツは《無敵結界》が存在しなかった時代から殺せなかった魔人だからねぇ」
魔人メガラス。
最速の魔人とも呼ばれる魔人である。
宇宙人ホルスであり、元はエンジニア出身、だった筈だ。メガラスが魔人となったのはAV期、魔王アベルに脅迫され、仲間のホルスを魔軍から守る為に魔人となったのがメガラスであり、あのアベルでさえもメガラスの行動に対しては関心を抱いていたらしい。メガラス、コミュ能力凄まじく高い所あるよなぁ、とは思わなくもないが―――まぁ、考えが逸れてしまった。
「約……えーと……何千年前だこれ?」
「うーん、AV期だから大体3100年前になるかな? 100年200年ぐらいのズレは置いて。まだ私達がドラゴンだった頃の話ならね」
「あぁ、もうそんなにか」
「相変わらず時間の単位が狂ってるなこの姉妹」
長生きしてるからしゃーないもん。100年200年とかもはや誤差レベルで長生きしているのは見逃してほしい。ともあれ、メガラスとはそれ以来の付き合いだし、昔はガンガン殺し合っていた魔人でもある。
「あの頃はなぁ、《無敵結界》が存在しなかったんだよなぁ」
「懐かしいよね。魔人を食い千切ったりできた時代。そして食い殺すとそのまま魔人になるってのも面白かったよね」
「あったあった。おかげで偶に敵か味方か全くわからなくなる奴」
「笑ってるんじゃねーぞババア姉妹」
ハンティと二人で言った奴を抑え込みながら何発かプロレスを叩き込んでから窓から放り捨てる。仲間が作戦前に一人減ってしまったが、僕らならきっとなんとかできる筈だ―――良し。
話を戻す。
「まぁ、あの頃から私らはメガラスとは殺し合う時があったんだけど、ドラゴンが主種族の中で戦争を常に生き抜いてきた魔人……って言えばメガラスの強さは伝わるか?」
「ドラゴンの戦争を生き抜いた魔人か……」
今なら《無敵結界》なしであれば囲んで、集中攻撃すれば同胞達と引き換えに殺せるかなぁ? とは思わなくもない。同胞たちもなんだかんだで常に鍛えて、更なる強さを目指し続けているし。ここら辺はマギーホアの影響だろうと思う。ただ、それでもメガラスが本気で生き延びる事だけを目的とした場合、
アイツを捉える方法はない。
「《ハイスピード》」
「それは……」
「アイツの必殺技だよ。時間を止めでもしない限りはどんな生物も絶対にメガラスを捉える事が出来なくなる。それがメガラスという奴だよ」
「その上で飛んでいる」
「だから奴と戦うのは少々骨が折れる―――カオスを当てるだけの自信がない」
ガイがはっきりと断言するが、まぁ、確かにそうだろうとは思う。魔人メガラスとの戦いは、どうやってその足を止めるか、という所に集約される。まずはカオスを命中させて《無敵結界》を解除し、その上で足止めしながら戦う必要がある。結界やバリア等で物理的な逃げ場を奪って戦う、という未来においてメガラスを殺した戦術を取る事も出来るが、人間と魔人ではスペックが違う。人間が同じ戦術を取った所でメガラスを倒せるかどうかは難しい判断だ……。
そう考えると、
「ある意味、黒部の方がまだ簡単かもしれない。黒部が相手ならカオスを当てられる。後は此方が用意できる最大火力を継続的に叩き込み続けて、
「黒部を相手にするのであれば此方もそれなりの損耗を覚悟する必要があるだろうが……それは魔人メガラスを相手する場合でも変わらない」
「結局はどちらを選んでも、危険である事と損耗を強いられる事に変わりはありません。総統、ここは判断を委ねますよ」
「こういう時だけ敬いやがって……」
呟きながら浮かんでいるルドぐるみの背の上でごろりと倒れたまま、うーん、と呟きつつ考える。とれるルートは陸か空、そのどちらかだけだ。満ち潮が来ていないので海ルートは現状、取る事が出来ない。それを考慮した上で今、自分たちが取るべき道はどちらだろうか?
陸であれば魔王領を此方で確保し、更に進んだ所に基地や砦を建設し、侵略が楽になるだろう。
空であれば空戦部隊を動かせるようになり、直接魔王城に対して奇襲する事も出来る様になる。
この二つの要素を考えて考え出す選択は―――。
ケーちゃん、まだまだ強くなる。
という訳で再びのルート選択。どのルートを選んでもきっと魔王城にはたどり着けるよ。たぶんね……?
という訳で禁術の行使代償がまだ抜けないのでロリのまま続行。