魔王領国境東部。
つまり魔王城に最も近いルートであり、黒部が確認できるエリアでもある。魔王城への最短ルートを構築する為にも、黒部を突破する事を決めた。理由は簡単で、火力を継続的に叩き込めば倒せる可能性が黒部には見える事、最短ルートを確保する為、そして最短ルートにはケッセルリンクの領地への道がある、という要素である。黒部を突破したらケッセルリンクを倒し、仲間に引き入れようという作戦でもあった。可能であれば二枚抜きと行きたい所だが……まぁ、そこまで簡単な相手ではないのは、自分がよく理解している事でもあった。その為、無理に二枚抜きを狙うような事はしない。
その代わりに、黒部にここできっちりとケリをつける。
「う―――ん、ふぅ。やっぱり前線の方が私の性にはあってるね」
そう言ってハンティが体を大きく伸ばし、捻り、そして肺の中の空気を入れ替えた。今回はガイではなく、ハンティに来てもらっていた。つまり都市の防衛を一時的にバトンタッチして貰っている状態だ。日光が今、ユーザーを得て参戦したのと、相手が黒部という大規模な面積を覆う火力が必要な環境を考えると、ガイよりもハンティの方が遥かに役立つという部分がある。それ故に今回はガイではなくハンティが同行している形になっている。
「私は出来たら戦う事なんかせずに引きこもって暮らしたいんだけどねー」
そう言ってスラルも今回は同行している。元魔王のスラルはかなり生物として高い能力を有している。本人がかなり戦闘行為に対しては消極的である為目立たないが、魔王時代から利用している必殺技の《ソリッドブラッド》なんかは完全に人間では再現不能な奥義だ。ハンティと並んで魔法を使った砲撃火力を期待して連れてきている。都市の防衛はその分、やや落ちてしまうが、そこはレガシオが一時的に穴を埋めてきている。曰く、面白いものを見れたからサービスだそうで。
最近面白い出来事に関しては身に覚えがあり過ぎるからちょっとどれか解らない。
やはりルドニーの事だろうか。
ともあれ、
「今日も黒部君は元気そうだな」
「偵察によると興奮状態で国境から北、10㎞の距離を徘徊している様です」
「よしよし、距離はあるな」
ルドぐるみの上にだらり、と倒れたままレビンの報告を聞き、距離があるのは悪くないと判断する。最悪、国境を超えて逃げれば黒部は追って来れない。そこまで逃げる事が出来れば、の話だが。それでも逃げられる距離があるのは悪くない話。特急うし車を今回も用意してある為、国境を超える前にそれらをチェックし、そして最後の今回の作戦、それに参加してくれる仲間に視線を向ける。
「今回は頼むぞー!」
「任せろ」
「暴れてもいいんだろ?」
「ただし、飛行禁止プレイ」
「縛りプレイは燃える」
「俺達のゲーマー力が試される」
「ムッムッ」
地竜ノスを筆頭とした、陸上戦闘に適応したドラゴン20体だった。今回の黒部を討伐する作戦の為に翔竜山から連れてきた連中だった。
「ぶっちゃけた話、人間の力だけで黒部の足止めはほぼ不可能なので、ドラゴン達に助けて貰えるのは非常に助かります」
「気にするな。我らも闘争を生きがいとする生物だ。強者と戦えるという事実だけで十分過ぎる」
レビンの言葉にノスが答え、うんうん、とドラゴン達が頷く。
「せんそーたのしー!」
「やっぱり相手はつよくないとねー」
「ハニー真似して新しい鳴き方を思いついたんだけど聞いてくれ」
「よし、やってみろ」
「どらほー」
「はい、アウト」
「なぜ」
ほぼすべてがウォーモンガーという種族、日常的には割と脳味噌を溶かして生きている。その為、戦う時以外は割と言動があれなのは許してほしい。馬鹿じゃないのだ、決して。ただ脳味噌が半分ぐらい溶けているだけで。その中でも常識を保って見せているノスが凄いだけなのだ。そのままでいて欲しい、ほんと。変わらないで、お願いだから。
ともあれ、
「これが今回の勝算になりますね……」
レビンが眼鏡を軽く弄りながらそう説明する。
「やる事は簡単です。前回同様、特急うし車で黒部を牽引しつつ、持てる火力全てを叩き込んで黒部を跡形もなく消し飛ばす事が目的です。その為にはライコウ氏が日光を当てる事が出来るかどうかが問題になりますが―――」
視線がライコウへと向けられ、ライコウが弓で日光を射出した。それが近くの岩塊に突き刺さるのを見て、日光が無言の助けを求める。それを全員で無視し、レビンが話を続けた。
「問題なさそうですね」
「良い根性してるぜこいつ」
「戦う為になんでも使う主義なので」
眼鏡がきらりん、と光る姿にお、おう、と声を零しながら引いたエルドを押しのけ、テスカが口を開く。
「で……今回の主力となるのは魔法使いとドラゴン、って訳ね」
「そうです。そして今回は徹底して黒部を追い込みます。恐らく、自分の死が近づけば黒部も、ただ暴れるだけではなく、明確な反撃を見せてくるでしょう。前衛はそれに備えて常に動けるように準備だけはしておいてください―――相手は魔人です、此方の想定通りに動くなんて事は絶対に思わない様に」
「ラ・バスワルドの件で痛いほど思い知りましたからね」
うんうん、と頷きを返しながら、空を見上げる。遠くへと視線を向ければ、空に浮かび上がりながら遠巻きに此方を監視する魔人メガラスの姿が見え―――次の瞬間には流星となってその姿が消えた。自分の出番がないと悟って消えたのだろうか。どちらにしろ、魔人を二体同時に相手すると恐ろしいほどに状況が混沌とする。レッドアイとレイが同時に襲い掛かってきた開戦の時の出来事は、忘れたい話だった。
【撃滅隊】の面々を見渡し、準備が整っているのを見て、
「良し! 黒部を倒して魔王城までのルートを確保するぞ! うし車に乗り込んで作戦を開始するぞお前ら!!」
「おぉ―――!!」
「その姿で言われても威厳がねぇぜ!!」
「可愛らしいぞ大将!!」
「《ガンマ・レイ》」
戦闘開始前から味方をまた減らす事になってしまった。
何故世の中は馬鹿だらけなのだろうか。
「メインプレイヤーの系譜……だな……」
ノスがドラゴン達を見てから、馬鹿をやっている人間を見て、静かにそう呟いた。
―――妖怪王黒部。
かつては藤原石丸の盟友として大陸を駆け抜けた妖怪王。聖獣オロチの牙から生まれたとされる妖怪である黒部は、自分の体から妖気を発する事の出来る妖怪であり、それが理由で妖怪をJAPANの外へと連れ出す事の出来る存在だった。だが元々の黒部は高潔な精神……とまではいかないが、それでも善性の持ち主であった。それは盟友である石丸と共に大陸を駆け抜けて制覇するも、無駄な虐殺を生まずに妖怪を率い、従え、妖怪王と呼ばれていた事から解る事でもあった。決して悪い男ではなかった。
だが妖怪王黒部は、石丸の死と共に狂った。
魔人レッドアイに寄生される事で捕獲された黒部はそこで当時の魔王ナイチサに魔人化させられ、絶対命令権の行使によって自分の手で弱っていた盟友、石丸を殺す事となった。正史と呼ばれる歴史よりも石丸が長生きしたのは、大陸に進出する前に魔人に対する知識がある程度存在し、そして強さを高めていたからだ。だがそれで魔人に勝てるという訳ではない。その時点では魔人を倒す手段はまだ、人類には用意されていなかった。故に石丸は当然の様に敗北し、当然の様にJAPANまで押し戻され、崩壊し、
そして魔人となった盟友によって殺された。
そして石丸を殺した時、黒部は己の所業を知覚していた。
そして同時に、それで発狂した。そしてそれで黒部を責める事の出来る存在はない。悪魔的所業とも表現できるそれによって完全に心を黒部は破壊され、ナイチサの手駒―――新たな魔人戦力として魔軍に加わった。
そうやって、黒部は今に至る姿を見せるようになった。正史には存在しなかった魔人、ナイチサが生み出した悲劇の住人。
それから時間が経過しても、黒部に理性は戻らない。
もう、完全に壊れてしまったのだ。
「考えれば考える程憐れな奴だ」
うし車の上から見え始める、魔王領の荒野を歩く黒部の存在を見つける。まだ此方に気付く事もなく、焦点の合わない視線を遠方へと向けて、彷徨う様に歩いている。その一歩一歩が大地に足跡を生みながら妖力の痕跡を残し、大地を穢している。憐れとしか表現しようのない黒部の姿を目撃し、うし車は加速する為に待機し、黒部の姿を目撃して、全員が準備に入る。
その戦闘の気配を、黒部が捉えた。超本能的に、視線の焦点はあっていなくとも、戦いの前兆、それだけで自分に迫る危機を感じ取っていた。或いは理性が消えたからこそ、更に鋭敏になっているのかもしれない。凄まじい速度で揃っている此方へと視線を向けて、
「お、ォ―――オ―――」
黒部が喉を震わせる。妖力が一気にその体が溢れ出す。
「チ、気付く前に砲撃を始めたかったけどそうもいかねぇか―――行くぞお前ら……!」
戦闘準備にルドぐるみの上に乗ったまま、魔法陣を多重に展開する。それで戦闘を行う準備を整えながらうし車が走り出す。それに追従する様にゆっくりと此方へと向かって黒部が足を踏み出し、大地を踏み潰しながらその背後に妖力を爆発させ、津波の様な妖怪の群れを生み出す。異形の、未成の妖怪、特殊な力もなにもない、妖怪でしかない妖怪の群れ。
それが黒部の昂りと共に現れた。
「おおおおオォォォォォ―――!!」
「《火炎流石弾》ッ!」
《魔法Lv3》技能を持つハンティの魔法によって戦闘が始まった。開幕から放たれた《火炎流石弾》の魔法が一瞬で黒部とその周辺の空間を飲み込んで、爆熱を巻き起こしながら焼却していく。だがそれを走り出しながら黒部が突き抜け、無傷のまま咆哮する姿が追いかけてくる。スピードを出して走り出したうし車がそれから逃げる様に距離を開け、黒部との間に一定のスペースを作りながら速度を維持する。
「あー、やっぱ《無敵結界》はちゃんと張ってるか」
「お任せを」
そう言うと弓から刀が放たれた。それは一直線に飛翔し―――黒部に刺さった。召喚魔法によって黒部に突き刺さった日光は回収され、必中の射撃によって黒部の《無敵結界》が割れた。
それを確認し、良くやったとエールを送りながら叫ぶ。
「開戦ッッ!!」
《ガンマ・レイ》、《黒色破壊光線》、《火炎流石弾》、《ソリッドブラッド》、《白色破壊光線》、《一点矢破》、必殺技や魔法が一斉に放たれ、
大地を焦土に変える魔人・黒部戦が開幕された。
という訳で魔人黒部戦。善かいとは違って殺すつもりで撃破する面子、装備、準備が整っているという事で、突破出来るかな!
黒部は本当に憐れな奴で、この二次における一番運命が捻じ曲げられた奴かもしれない。