人間による魔人の討伐。
《無敵結界》が生まれて以降、それを突破して魔人を殺す事に成功した存在は伝説のカラーと呼ばれる女、ウル・カラーただ一人であった。この事実はある意味、しょうがないとも説明できる。その最大の理由は魔人という存在への理解、そして《無敵結界》というシステムへの理解である。そもそもが、魔人でさえ《無敵結界》をただのバリア程度にしか認識していないのが多数というのもあった。そしてこれがあれば無敵等という認識もあった。そのシステム的な部分に関する知識が足りておらず、そして魔人という存在のスペックに勝てる人類が存在しなかったのにも原因がある。
だが今は人類の絶頂期とも表現できるだけの知恵、そして力がある。過去最高峰の知能、そして実力者を集めた現在の城塞都市国家ククルは世代で言えば、超近代化が進んでいる都市だと言える。そしてそこに集まった人材による教育と強化で、人類は数多くの知恵を手にした。その一つに魔人等に対する知識もある。
正しい知識は、積み上げるものを生み出す。そしてそれによって人類は漸く、魔人を正しく捉える事が出来る様になった。それに加えて極まった人類の種としての強さ、それが漸く魔人と戦えるステージまで人間を引き上げ、
魔人討伐という偉業を成し遂げる事に成功した。
魔人ラ・バスワルドは味方に引き入れた上で個人の相対で終わらせたため、実感が薄かった。
だが明確に討ち取られた魔人黒部とその魔血魂は人類が《無敵結界》によって決定打を失って以降、初めて魔人を殺害する事に成功した証でもあった。苦しめられ、そして仲間を大量に殺されてきた魔人。それを漸く討ち、殺す事に成功した証。それは絶大な興奮と達成感を彼らの中に生んだ。
特別ではない。
人間だ―――人間でも魔人を殺せる。
その事実が数十年の終わりが見えなかった戦、そこに熱狂を、希望を見せた。何十年間も防衛を続けてきた城塞都市国家ククル、だが今まで成果を挙げる事がなかった戦いは漸く魔人討伐という形で姿を見せた。何よりも、その討伐に関わった者で犠牲者は皆無という結果は、あまりにも奇跡的で、しかし希望に満ちていた。
これにより、魔人討伐を祝す宴がククルにて行われた。
「……魔王城東ルートなら最短で進めるけど、ここに陣取っているのは魔人四天王と呼べるケッセルリンクと……カミーラか」
「そこに新しく偵察してみれば、隣接地域は結晶化した荒野の様な場所になっていましたね。人馬が融合した剣の様な生命体が結晶化した荒野の中央を陣取っています」
「永劫の剣だな。平行悪魔界から連れて来たか……厄介な奴め」
「永劫の剣、ですか」
「《付与Lv3》を手にした生きる剣みたいなやつだよ。刺した相手を自分に付与する事で無限に強化される怪物だ」
「それはまた……困る相手ですね」
レメディア・カラーは囚われたままだろうか? 直接見てみない限りは解らないが―――それでも相手にする上では一番面倒なタイプだ。なるべく、戦いたくはない。ミスった場合に仲間が死ぬだけではなく、相手の強化に繋がってしまうタイプのエネミーなんてクソクソのクソでしかない。やるとしたら最強格のみを集めた完全奇襲で跡形もなく消し飛ばす事を前提にしない限りは戦う気にすらなれない。俺の見えないところで自滅して死ね! としかコメントが出てこない。魔血魂注入による狂化でどうせ寿命伸びているんだからやっぱり死ね。
何時か殺す。
そう思いながら外では宴に踊っているククルを放置し―――軍師レビンと諜報トップであるパンドラ、そして戦略を考えるのが得意なスラルを含めた四人で、これからの動きを確認する為に作戦室に籠っていた。他の連中が騒いでいる間、この流れを壊さない為にも、次へと繋げる為の作戦を話し合う。
「西ルートを取ればアイゼル、パイアール、ガルティア、となっていますね」
「アイゼルは軍団戦が得意だから少人数だとそこまで怖くないのよねー。パイアールも基本やる気がないし。ただガルティアがねー。本質的に彼、戦士だから味方ではあるけどそれはそれ、これはこれ、で本気で戦って来そうなのよね」
「ケッセルリンクにも同じ事が言えるだろう」
「まぁ、そうなんだけどね。それでもガルティア、ストマックホール容赦なく使ってくるわよ。でもそこまでの道を考えるとケッセルリンクに正面からぶつかる方が楽かしら」
ガルティアとケッセルリンクを比べると、やはりケッセルリンクの方が化け物染みて強い。とはいえ、ガルティアも一撃必殺の手段を持ち合わせているのだ。その事を考えると、判断に困るが、それでも全体的な難易度は西ルートの方が低い。東ルートは強力な魔人が揃っているというのもある。
「時間効率を取るなら西を連続で突破するのが良いでしょう。今の【撃滅隊】は黒部討伐で勢いがあります。これを利用してアイゼル、パイアールを突破するのは難しくないと判断します……ですが魔王ジルの実力が未知数です」
「そうね、私個人としてはケッセルリンクとガルティア、二人共確保したいって気持ちね」
「俺もおおむねその意見に同意する」
個人的には東ルートを通って、ケッセルリンクを撃破して魔王城に到達、そこを経由して西最奥のガルティアへと接近し、撃破して仲間にしたい。ガルティアとケッセルリンクは個人的な忠誠をスラルに誓っているから、魔王ジルと戦うと言えば仲間になってくれるだろうと思う。この二人を仲間にすれば魔人戦力で接収できそうなのは全部仲間になる。そうすればいよいよ魔王ジルとの戦いに挑戦する事も出来る。
「その……魔王というのは、そこまでして戦力強化しないと勝てない存在ですか? 今の隊は脱落者なしで黒部に勝てました。その事を考えれば魔人ガイ等の戦力を入れた状態であれば……」
「あー……」
レビンの言葉にそうか、と呟く。
「お前らはまだ魔王を見た事がなかったんだな」
「はい。話には聞きますが……魔人よりも凶悪な存在と聞いているだけですので」
「私もそこまでは偵察には踏み込めませんので」
その言葉にそうねぇ、とスラルが呟いた。
「まぁ、簡単な説明をすると……そうね、
スラルの説明に対して、隊員でもあるレビンとパンドラが苦い表情を浮かべた。二人共先日の黒部討伐には加わっていたため、どれだけの激戦を経験したのかを理解している。黒部との戦いは一歩間違えれば肉体が跡形もなく消し飛ぶような、薄氷の勝利だった。カムイの勇者特性で完全回避できたのと、ライコウがバランスブレイカー級の実力者であったおかげで攻め手に転じる事が出来るレベルの相手だった。そうでなければガイ辺りの援軍が必要になっていただろう。
愚かではないので、それを二人は良く理解している。
殺す度に強化して蘇る魔人黒部、その存在を一瞬で消滅させられる。それだけの力がジルにはある。
「人間の1レベルの力を1として表現した場合、魔人の1レベルでの力は2から3って表現できる。んで―――これは魔王の場合、10だ」
「……成程」
「ちなみに俺やハンティも素が上級魔人級だから大体3ぐらいある。ドラゴン時代の姿に戻れるなら4から5ぐらいは出せるかもしれねぇけどな」
それだけ、ドラゴンという生物の姿は強い。ぶっちゃけ、《槌戦闘Lv3》を使うよりドラゴンの姿で戦う方がもっと強いのでは、と思えるレベルで身体の怪物なのだ。その中でも俺は特に才能がある方だし。ただ、まぁ、もう二度と戻れる事はないのでそこら辺は諦めないとならない。
「俺、ハンティ、スラル、勇者、マギーホア様、ガイ、ケッセルリンク、ガルティア、バスワルド、ドラゴンの支援隊、隊全員……これで漸く可能性が生まれるレベルか? 後は異世界から援軍が来てくれればいいんだけどなぁ……」
闘神ナクト辺り、永劫の剣を殺しに異世界渡ってこない? 永劫の剣、《無敵結界》とは別にバリア持ちで破壊奥義がないとダメージはいらない上に張り直すし。後はナス。別名狼牙。あの番長も割と人類トップクラスの怪物だから助けて欲しい。というかアリスパラレルと繋がっているならガチで援軍が欲しい。
あまり、口にはしたくはないし、絶対に言えないが、
根本的にまだ戦力が足りない。魔王と戦い、そして勝利する為の。根本的な戦力が足りていない。魔王クラスと戦うには魔人戦力をある程度加えた上で、死を覚悟して全てのリソースを吐き出す必要がある。その事を考えれば魔人との戦いなんてまだ生易しい。だからラ・バスワルドにも戦えるようになってもらわないと困る。
魂を賭けてこの戦いに全てをつぎ込んでいるのだから。
「……となると東ルートです、ね」
「空は諦めよう」
「そうね……ケッセルリンクがいいわね、次は。そしてその後に軽くカミーラ殴ってガルティアかしら。倒す必要のない魔人はスルーしましょう」
ま、そうなるだろう。とりあえずの方針を決めた所で、話を一旦区切り、パンドラとレビンにおら、行ってこいと指示を出す。
「後は俺とスラルちゃんで片付けておくから、宴を楽しんでこい。お前らの短い人生、そう何度も楽しめる事じゃないだろう」
「いえいえ、魔王を倒した時にもっとはしゃぐのでいいです―――と、言いたいところですがご好意に甘えさせて貰いますね」
「ありがとうございます、ウル様。ではしばし休みを貰います」
レビンとパンドラが頭を下げてから作戦室を出て行き、スラルと自分だけが部屋に残された。椅子に寄り掛かりながらふぅ、と息を吐いて、残された右腕で顔を覆う。息を吐きながら、漸く黒部討伐という一歩目を踏み出せたのは良いものの、
「あー……疲れた……」
呟きながら、疲れの溜息を吐いた。それにスラルが笑いながら言葉を返してくる。
「お疲れ様」
そう言いながら近寄ってくるとまだ小さい此方の体を持ち上げ、膝の上に乗せて来る。子供扱いしないでくれ、と文句を言いたかったが、そうするだけの気力もないので、大人しく子供扱いされる事にした。思えば、自分が子供扱いされる時代なんてほとんどなかったし。膝の上に抱えられた状態でよしよし、と頭を撫でられてしまった。
「貴女は良く頑張っているわ。それは私が良く解ってるから」
スラルが慈しむ様に呟き、それにうん、と呟いてしまう。ふぅ、と息を吐き、スラルに寄り掛かりながらゆっくりと口を開いた。
「疲れた。眠い。数百年ぐらい誰とも関わらずゆっくりしたい……」
「うん」
「美味しい飯だけ食ってぐーたらしたい」
「うん」
「何かを気にする事もなくゆっくり冒険して回りたい」
「そうね」
「……よし、愚痴終わり」
スラルの膝の上から降りて、背筋を伸ばす。少し、吐き出すだけでも割と楽になる。少なくとも一人で戦っている訳じゃないのはもう解っている事なのだから、ちょっとだけ、寄り掛からせて貰う。吐き出せたので、それだけでだいぶスッキリした。こんな所、とてもじゃないが皆には見せられないし。偶に吐き出せる場所があるだけ良かったと思う。マギーホアに毎回聞いてもらうのも恥ずかしいし。いや、スラルもそれは変わらないのだが。
それでもまぁ、
「ほら、俺強いし」
だから弱音は言っていられない。それでもちょっと困った時は頼らせて貰う。
「それにな」
「うん?」
「今、俺凄く楽しいよ」
笑うしかなかった。苦しいし、辛いし、そして先行きが全く見えない未知を進んでいる。これは正史には存在しなかった戦争だ。正史においてはもっと小規模で、そしてガイが終わらせた戦いだった。だけど何を間違えたのか、今では俺が人類総統として立って、人類を導いている。
そして、ジルと戦っている。
未来が解らないのは不安だ。情報があてにならない部分もある。だけど、それでも、
「全力で生きているって感じがするんだ。活力が全身にみなぎる。辛い事もあるし、苦しい事もある。祈って縋りたくなる時だってあるけど……そこには楽しい事で溢れているんだ」
きっと、それを人はこう言うのだろう、
―――生きる、と。
俺は生きている。忙殺されながらも、足掻き、苦しみ、しかし充実感に満たされて生きている。この日常がどこまでも楽しく、そして美しく感じられる。この100分の1でもいいから、ルドラサウムにも経験して欲しいと思える。この楽しさと苦しさを、喜びを、
生きる、という事の難しさを。
「ねぇ、ウル」
「なにかな、スラルちゃん」
「好きよ」
「まだ友達で」
「いけず」
その言葉に笑いながら窓の外を見た。魔人討伐記念に宴が開かれククル全体が活気に満ちている。この暮らしを、文化を自分は守っている。こういう日々が続けばいいと思う。だけどこの日常には足りないものがある。
一人だけ、反対側に居る子がいる。
それを此方側へと引っ張り出す為にも、
「絶対勝つぞ、スラル」
「ま、死なない程度にね?」
「お前なぁ……」
「それよりもほら、仕事は後回しでもいいんだから、私達も軽く外にでましょう?」
「別に今じゃにゃぁ―――」
反論を許さぬスラルが此方を持ち上げると、そのまま悪魔特有のワープで一瞬で街中へと飛び出す。そこには隊の面々もおり、
「お、ウル様じゃねぇか! こっちで飲もうぜ!」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ、今のウル様子供じゃない」
「いや、姉さんなら大丈夫でしょ。子供の頃には他のドラゴンを掘ってたし」
「すげぇわ……」
「真似出来ぬな……」
「えーと、すいません、掘るってどういう意味ですか?」
人の黒歴史をばら撒くハンティを睨みながら溜息を吐き、
自分も日常の輪へと加わりに行く―――守るものを少しでも感じる為に。
まだ、戦いは続くのだから。
人類初の魔人討伐。まぁ、そんな事を見せたらやっぱり人類全体で盛り上がるよね、って言うのをしつつ次のターゲットに関するお話。未登場だったらオリジナルの魔人の話も出て来たね?
という訳でターントップへ。目標はケッセルリンク。