この度は思い付きでクロスオーバー物の二次創作を始めさせて頂きました。
更新頻度は遅くなると思いますが、可能な限り頑張って行きますのでよろしくお願いします。
その1 起動
コツ……コツ……コツ……。
何回目だろう。俺は白い防護服を着たスタッフに連行されていた。
今度は何をする気だ? もう問いただす気にすらならない。彼らは俺の質問に答えた事は一度たりともないからだ。
暗い通路を歩かされて俺が連れてこられてのライトに照らされた白い壁の広い部屋。
そこには俺と同じように連れてこられ黄色い服を着せられた人々がいた。
ある者は生気の通わぬ表情で、ある者は落ち着き無く辺りをキョロキョロと見渡し、またある者は暴れ出しスタッフに取り押さえられている。首筋に注射針を突き刺されーー
ドサッ……。
暴れていた者は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。突然の出来事に唖然とする者もいるが、特に気にも止めない様子の者もいる。
かくいう俺も既に見慣れた光景なのだが。ここでこの様子は珍しい事ではない。
ここは人体実験施設。連れて来られた者は嫌が応に薬物実験、解剖実験等、ありとあらゆる非人道実験を強要される。
現に俺は18歳の頃にここに連れて来られて、投薬実験、移植実験等、身の毛もよだつような行為を何度も繰り返されて来た。
自分でも未だに生きてる事が不思議なくらい、時間の感覚すら無くしてしまう程にこんな生活を続けてさせられてきた。
これからまた狂気の実験が行われる。そしてここにいる被験者達の何人かは死ぬ。そんな普通では無い事を天気予報を聞いて今日はどういう日を過ごそうか? なんて風に考えるのと同じ程度に俺の中ではこの様子は既に日常化してしまっていた。
「ギャァァァァァァ!!」
哀れな被験者の声が響く。実験という名の処刑台の列に並ぶ俺はその様子を遠くから見ていた。
被験者は機械仕掛けの重そうなゴーグル付きのヘッドギアを身に付け、項垂れたままであった。
スタッフはそのヘッドギアを外し、目覚めぬ被験者を他のスタッフが二人掛かりで運んでいく。
何の実験かは分からないが、今回は投薬ではないのか。あれは新手の拷問、もしくは処刑器具か? 列に並ばされている者は皆震え、失禁している者もいた。
ここから暴れて抜け出そうにもそれは皆無理だと理解してそうしている。俺達の左右には銃を持ったスタッフ達が立ち並び、被験者達を監視しているからだ。
俺達はどんなに非道な事をされようが甚振られようが殺されようが、こうしているしか他にはない。それがここでの日常だ。
俺は、今度こそ死ぬのかなぁ? ここに来たばかりの俺なら必死で抵抗するか、恐怖に慄いていた所だろうが、何度も死を意識する実験をされ続けた為、俺の死に対する意識はもはや希薄になっていた。
怪しげな装置を付けられ、スイッチを入れられた被験者達は次々と断末魔の叫びを上げ、物言わぬ肉塊となりスタッフ達に運ばれていく。
そうして、俺の番は回って来た。俺は抵抗する意思も見せず、静かに執行の椅子に腰掛ける。
そして、頭に実験の装置を付けられ、俺の視界は閉ざされる。
カチッ。
真っ暗闇の中、無機質なスイッチ音が俺の耳元に入り込んで来た。
緑の森……!? 視界が突如として変わる。爽やかな風と日差しが俺を包み込む。これは夢幻なのか? だが肌に感じる感覚、目に移る色は妙に現実味を感じた。
次は青の海……!? 漣の音とウミネコの鳴き声、潮の香りが俺の嗅覚を満たす。
次は岩の山……!? 吹き荒れる高原の風。遥かな天空!? 雷雲の中!? 成層圏!? 宇宙空間!? 見る景色が目まぐるしく、俺の意識を置いていくかのように次々と変わっていく!?
果てには膨張する赤色の星!? 破裂し宇宙の星々を白く包み込む。光が晴れ上がった後に現れるのは漆黒の天体。それは星々を、その光景を見ている俺も吸い込んで行く。や、やめろ……体がか引き千切られる……。
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ブツン! 何が途切れる音がしてそこでその光景は消えた。
あ、あれ……? 俺の体は何ともない。さっきの体がゴムになったかの様に引き伸ばされた感覚、あれはなんだったのか? 俺は悪い夢でも見ていたのか?
「ギャァァァァァァァァ!!」
安堵していたのも束の間。俺の耳に誰かの断末魔の声が届く。誰だ? 今実験を受けているのは俺だ。他の誰かが犠牲になる訳が……。しかし、その声は一人だけではない。二人、三人、次々と多数の人間の声が響き渡って来る。これは、只事ではない日常の施設の中の出来事であっても只事ではない。俺は恐る恐るヘッドギアを外して立ち上がった。
!? 目の前に飛び込んで来た光景に我を疑った。
辺りの電気は消え、スタッフが持っていたと思われる懐中電灯が地面を転がり、その灯りが周囲を照らしていた。
真っ白だった床は鮮血に塗れ、黄色い服を来た被験者達が倒れ込んでいた。
それより正面、荒い鼻息が聞こえる。今、俺を狙わんとしている獰猛な獣の様な声が。明らかに人のモノではない。
さっきのヘッドギアを自分が思っていたより長い時間付けていたのか、薄明かりでもそれははっきりと確認出来るほど俺の目は順応していた。
肥満した体、エリマキトカゲのような首回り、サンタの様な帽子、穴だらけだがパジャマの様な服。それは道化師の衣装。
しかしその顔、目は潰れ、口は裂け、皮膚は老人の様に枯れ果て、腕、指先、頭皮など、様々な部位が抉れ肉や骨が露出していた。
人の姿をしているがこの世の生き物とは思えない、いや、この姿は生き物とすらいえない。強いて言うなら、映画や御伽噺に出てくる、ゾンビとでも言うべきか?
しかもそいつらは一人じゃなかった、辺りを見渡すと、二人、いや……四人はいる!?
正面にいたそいつは防護服を着たスタッフの首筋を片手で掴み、持ち上げていた。スタッフの腹には鋭い鉄の刃が貫通して、血が滴り落ちていたのが見えた。
ゾンビはスタッフの首筋を一噛みし、軽々と引きちぎった。スタッフのフードとマスクに覆われた頭部は千切れ、床に落ちて硬い衝突音立てて転がった。
「キシャァァァァァァァ!!」
ゾンビ共は雄叫びを上げ、俺目掛け牙を向いて襲いかかって来た。
俺は無我夢中で逃げた! 奴らは恐ろしかった。投薬実験を繰り返され、命への意識が億劫になっていた俺でさえ、奴らにだけは殺されたくない!
奴らの足音、それを聞くだけで俺の体が死を全力で回避しに掛かった。
だが奴らの足は早い。俺が一歩走るだけ度に奴らは二歩進んでいる!? 走れど走れど奴らにどんどんと距離を詰められる様な心地だった。
やがて、俺は壁の隅に追い詰められる。左右からゾンビ共がにじり寄ってくる。逃げられない!?
俺は気付いた。その壁隅にスタッフの死骸が横たわってる事に。そうか、こいつなら何か武器を持っているかも!?
だが手には何も持ってない。ならポケットならどうだ!?俺は藁にも縋る思いで人間だった者のズボンのポケットに手を入れた。
「な、なんだこれは……」
取り出したのは四角く薄い長方形の物体、片手で持ち上げられる程度のよく分からない代物。
そうか、これは新しい手榴弾か何かだな!?
これの正体が何か分からないが、作動スイッチか何かを探して出鱈目にボタンの様な物を押しまくった。
チリリン。鈴に似た音が鳴り、真ん中のガラスの様な部分に灯りが付く。
「生体データ登録完了しました。<HYPER PHONE>を起動します」
音声収録された女性の声が四角い物体から響いた。
な、なんだこれは……、ただのおもちゃじゃないか……なんでこんなものが……。俺の一筋の希望が落胆に変わった。
「キシァァァァァァァ!!」
一番前にいたゾンビが俺目掛け、飛び掛かって来た。駄目だ!もう避けられない!
「チキショォォォォォォ!!」
俺は……今度こそ死ぬのか……?
人体実験の毎日、いつ死んでもおかしくない。いつ死んだって別にいい。苦しみがなくなるから。ずっとそう思っていた。だから命なんて惜しくないはず。
(ゆうちゃん……)
不意に思い出した。家族の声を、俺がここに来る前に、共に過ごし、ごく普通の生活を営んでいた母の声が。
あの日……俺は何者かに連れ去られ、それきり俺はずっとおふくろの顔を見ていない……。
死ぬのか……俺は……。それもいい。これで俺の希望も何もない人生にも諦めがつく。なのに、なんで、なんでこんなに命が惜しいんだ。なんでこんなに未練が湧き上がるんだ?
もう一度、家族の元に帰りたい。ただいまって言ってやりたい。長い間心配かけてごめんって。
「千代に轟く古竜の咆哮、天地を焦がす牙と降れ!」
どこからともなく、女の声が響いた。
耳を劈く爆音、暗闇を白く塗りつぶす極光。俺は見た。それが今俺が持っているこの四角い立方体から放たれているのが。
飛び掛かって来たゾンビは真っ黒な炭と化し、死に際の悲鳴をあげる暇すらなく、風化していった。
「うーん、今の私ではこの程度の雷しか出せないようですね」
さっきの女の声だ。これでこの程度? あのゾンビを消し炭に変えといて? もし万全だったらどんなのが出るんだ。と内心思いながら。俺は声の主。見た。
流れる髪の色は純金の輝き。
着ている服はワンピース系。
短めのスリットスカートから覗く長く伸びた足。柔らかな太腿が見え、膝から下はニーソックスで覆われている。その間はガーターベルトで繋がれ、金属製のブーツ?と思われる物を履いている。ノースリーブで脇と肩。上腕から覆う白い手袋。いや、これも金属の部位が見える。いわゆるこれはガントレットという奴だろうか?
ワンピースの服なのにお腹の部位は素肌を見せ、胸元も下乳が見えている。普通の女性ではありえないような挑発的な格好。だが、白い素肌が見え磨いたように綺麗で張りのある素肌、豊満なおっぱ……ゲフンゲフン。と、男の俺からしたらとても眼福な素晴らしい格好だ。しかし服装の至る所に質の良さそうな金具に色取り取りの宝石が嵌め込まれている。そして顔。柔らかな頬とシャープな顎をしていながら、見るものを虜にする様なアメジスト色の瞳は凛としている。そして三味線の弦の様に細くも力強く張った眉。いかにもいい所の生まれのお嬢様の様な気品を醸し出しながらも、誰にも屈さない芯の強さが垣間見えるような気がした。
「お怪我は、ありませんか?」
優雅な出で立ちの少女は柔らかな声で俺に労いの言葉を掛けた。
「あ、ああ……」
彼女の姿は気のせいなのか、電気が消え薄闇の空間になったこの部屋でも、俺には稲光で照らされてる様に明るく鮮明に映った。
しかし、この少女の風貌で特筆するすべき点は、
頭には太い四本のヤギの角の様な物があり、背中には皮とも絹とも取れない様な、薄く柔らかな六枚の翼、そしてホワイトコブラの様な純白の長い尻尾。これは飾り物なのか? それにしては生々しい。
「あんた。名前は」
俺はこの少女の存在に心奪われ、ゾンビに襲われてた事や被験体である事などを頭の隅にやってしまう程に晴れた気分になっていた。
「私はミネバ・クロード。竜人です」
黄金の竜人少女の笑顔は、嶮しき事態を吹き飛ばしてしまいそうな程に、俺には眩しかった。
今回初登場二次創作キャラ
マーダーサーカス・ゾンビ 原作:遊戯王
※突然現れ主人公を襲った道化師の服を着た肥満したゾンビ。
ミネバ・クロード 原作:魔法使いと黒猫のウィズ
※主人公の前に現れた金髪の竜人少女。
黒ウィズにおける俺の嫁。