いろいろ狂った少年が欲望を満たすために世界を創り、物語を作ります 作:黒椿
意識を沈めると、暗闇のようなところに出る。そこには物も何もない。重力というものはなく、上下左右の感覚もない。小学生中学年くらいの時にこの光景を初めて見たときは泣いたものだけど、今はすっかり慣れた。
しばらくの間、その闇に身をゆだねていると僕から見て左の方に白い光が生じる。僕の体は何もせずともその光に吸い込まれていく。目を閉じてそれを受け入れる。
抵抗する必要はない。この光の向こうに僕の思い描いた世界があるのだから。
光に吸い込まれると同時に僕の意識が違うところに飛ぶような感覚に襲われる。その感覚はほんの一瞬だ。
目を開けると一軒家の一室にあるベッドの上で寝ていた。この部屋は現実世界にある僕の一室とまるで変わらない。それどころか、この家の全てが現実世界にある僕の家と全く同じだ。一見すると夢から覚めただけのように見える。
だけど、これは間違いなく僕の創った世界だ。先ほどはキャラやストーリーを自分で作る必要があると言ったが、それは建物なども含まれる。そういった物も全て想像して作る必要がある。
だから、僕は自分の家だけでなく現実世界の街並みをそのままこの世界に作り出した。
僕に建築の心得なんて欠片もない。まぁ、どんなにありえない建築をされた建物でも僕が望まない限り問題が起きることはないけど、建築物にそこまでこだわりがあるわけではない。一から街ごとデザインするのもめんどくさいしね。何か気まぐれでも起こせば話は別だけど。それに僕が紡ぎ出そうとしている物語は僕の住んでる街を舞台にしても何ら問題のないものだ。それなら、これが一番手っ取り早い。
それにこの方が安心だしね。一応、決めなくても必要なところは自動的に決めてくれるようにすることもできるけど、それだとどうなるのか僕にも予想がつかなくなってしまう。いわゆる完全ランダムというやつだ。どうでもいいことやスリルを求めるならそれでも構わないけど、物語の舞台を運任せにするのは少々リスキーだ。何度も言うけどこれが初めてだからね。万全を期しておきたかった。
もっとも、条件を決めればそれに従って自動的に決めてくれるけど、それをランダムと呼べるかどうかは微妙だ。
とりあえず、目が覚めた僕は物語を始める前に確認作業を行っておくことにする。破綻や矛盾していてもいいとはいえ、あまりにもおかしなものがあったら萎えてしまう。それだけは防ぎたい。
「とはいっても、物語を作るのが初めてというだけで世界そのものはそれなりに創ってきたからな。世界に関しては心配いらないか」
世界の方は何も問題ないが、物語に関しては始めてみないと分からないとしか言いようがない。ならば、腹をくくって始めるしかないだろう。何かあったらそのときはそのときだ。
僕は目を閉じて強く念じる。これで物語は始まった…… はずだ。
自信はないが、とりあえずうまくいっていると信じよう。時計は午前七時半を指していた。だが、腹は減っていない。うまくいっているなら、そもそも食事を取る必要もない。
とりあえず、学校に行ってみるとしよう。場所も校舎も全く同じだが、当然のことながらそこにいる人物は現実とは違う。そう信じて僕はいつも着ている制服を着て学校に向かう。
俺はいつも通り歩いて高校に向かう。家から高校まで大体歩いて十五分ほどだ。だから、万が一失敗しててもこの時間に出れば遅刻するということはない。
まぁ、さっき
やっぱり、事前に検証しておくべきだったか? でも、これ一回やろうと思うと相当労力使うからな。実際、物語とも呼べないほど軽い短編みたいなのは何回かやったけど、それでもなかなかめんどくさかったし。おかげでいろいろと実験できたのはよかったけど。
過ぎたことをいつまでも気にしていても仕方がないか。それに、この交差点を曲がって見える学校に入れば分かる話だ。
学校に到着し校舎に入るとそんな杞憂はすぐに吹き飛んだ。そこには僕が頭で描いたとおりの光景が浮かんでいた。
「あ。おはよう。空井くん」
下駄箱のところで天使のような笑みを浮かべてこちらに話しかけてくる一人の少女。現実世界のこの学校にはいないはずの少女。
僕はこの少女を見て成功を確信し、あらためてその少女を見る。くりっとした愛らしい目。栗色の肩に掛かる程度の髪をツーサイドアップにし、左の前髪に青い蝶の髪留めをあしらっている。
現実世界ではアイドルも余裕で目指せる程度には可愛らしい容姿を持つ美少女。この少女が僕が想像で作ったこの学校の女子生徒。
「ねぇ、空井くん?」
「ん? ああ。ごめんごめん。ちょっとボーッとしてた。おはよう、皆藤さん」
「ふふっ。寝坊でもした?」
「まぁ、そんなとこ」
僕がそう返すと皆藤さんは唇に右手をやって可愛らしい笑みを見せてくれる。その笑顔に思わず見とれてしまう。
「さ、教室一緒に行こ」
「あ、うん」
僕は満面の笑みを浮かべている皆藤さんの後に続く。二階に上がり、僕の使う教室に入ると絶景が広がっていた。
女子女子女子。僕以外一人残らず女の子という素晴らしいなどという言葉では言い表せない桃源郷が目の前に広がっていた。しかも、ただの女の子じゃない。例外なく全員が二次元でしか見れないレベルの美少女なのだ。皆藤さんも相当な美貌を持っているが、彼女たちはそんな皆藤さんに全く見劣りしない。彼女たちを見ながら、僕は自分の席である窓側の一番後ろの席に座る。鞄を置いて椅子に座るといつもと違い、とてもいい匂いがただよってくる。一応、夏という設定にしてあるのもあってそこそこ露出もあり、目の保養にもなる。
現実世界でもこうだったらいいのにと改めて思ってしまう。
でも、現実は残酷だ。僕の身近でかわいいとか綺麗といえる女子はほとんどいなかった。いても、すでに誰かの物になっていることがほとんどだ。誰が言ったか知らないけど、まさしくリア充爆発しろってやつだ。
そもそも僕自身もそんなに偉そうなことをいえる立場ではない。友人は全くいないわけではないけど、そんなに多いわけでもない。それに加えて身長は同い年の男子の平均より少し低いし、垂れ目だし、髪だってくせっ毛で朝起きたら寝癖がひどいことになってたなんてざらだ。
自分ではそんなにひどいといえる容貌をしているつもりはないけど、他の人から僕がどう見えてるか知らないし、知ろうとも思わない。
本当に現実は残酷だ。だから、妄想の中でくらい、いい思いをしてもいいじゃないか。現実世界で出てるアニメとかだってそういうのを目的で作られたんだろうなと思えるようなので溢れてる。なら、僕の考えは何もおかしいことではないはずだ。
虚しい奴だ、とか言う奴なんて無視しておけばいい。どうせ、そういう連中に限って僕ら以上にひどい妄想を抱いていたりする。そして、そんな奴らがこの素晴らしい世界を体験することなんて未来永劫ない。
「けど、やっぱりまだちょっと不具合があるかな?」
僕は周囲の女子生徒を観察しながらそんなことを考える。一応、僕が来たときには反応を示したが、こんなに長い間黙り込んでいても誰も気にかけない。現実ならこんなものだと割り切れるが、この世界では椅子に座ってそうそうに僕に話しかけてくる奴がいないとおかしいのだ。まぁ、まだ初日だしね。この辺は適宜調整していくとしよう。
それに思ったほどズレているわけではない。これなら、すぐにでも
僕はそれを確信しほくそ笑んだ。
○○○○○
一応、体面上授業ってやつはやっている。けど、授業内容は特に決めてなかったし興味もなかったから聞き流した。一応、ざっと聞いた感じ全部高校でやる範囲だったみたいだけどな。
一時間目の授業時間五十分をフルに使って僕は念入りに調整した。残りは寝ていた。勝負は今日の午後一時だからな。それまでは動く気はなかった。
僕のいる学校は十二時半に四時間目が終わり午前の授業が終了する。そして、一時二十分から午後の授業が始まるという寸法だ。
つまり、この物語は今日の昼休みの途中に始まるというわけだ。
「創。一緒に昼ごはんを食べよう」
「あ、うん。そうしようか、
僕に話しかけてきたのは
一応、彼女は僕の幼馴染みという設定になっている。
彼女はこちらに背を向けて教室を出て行く。僕もその後についていく。目的地は屋上だ。
わりと閉鎖されていることが多い屋上だがこの高校は屋上の出入りは自由となっている。まぁ、仮に認められていなくてもこの世界では出入りOKにするつもりだったけどね。
僕らは屋上にある貯水タンクの側の段差まで来るとそこに座り込む。ここがいつもの特等席…… という設定だ。
僕らは持参した弁当を開く。中身は僕が肉団子や鯖缶の中身、それと申し訳程度に詰め込まれたプチトマトとほうれん草。それに別の容器に入れられた白米。
対して奏は卵焼きに鮭の焼き魚の切り身。小松菜のおひたしに五穀米となかなかバランスのいい弁当だった。
「いつも通り和食オンリーだね」
「そういう君は相変わらず冷凍食品ばっかりだね。やっぱり、私が作りに行った方がいいんじゃないのかい?」
「いやいや。奏に負担はかけられないよ」
この世界での僕は天涯孤独の身となっている。両親を中学二年生の時に事故で亡くし、今はその保険金で生活しているという設定だ。
もちろん、現実世界での僕の両親は生きている。不謹慎を承知で言うなら、両親がいると家で
「けど……」
「あはは。奏は言い出すと決して譲らないからなー。じゃあ、明日は都合が悪くなければお弁当を作りに来てくれる?」
僕の言葉に奏は驚いた顔になる。だが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「うん!」
力強く頷く奏は本当に可愛らしかった。
やれやれ。現実世界じゃ何もしなければこんな顔は絶対に向けられることはないんだろうな。言ってて悲しくなってきた。
そんなこんなで食事を取り終わり二人で雑談していると、とうとう待ちわびた時が来た。
『全校生徒の皆さん。至急体育館に集まってください』
その放送を聞いて僕と奏は顔を見合わせる。
「どうしたんだろう?」
「何かあったのかな?」
奏の疑問に僕は分からないフリをして首をかしげておく。
「とりあえず、呼び出された以上さっさと行こうよ。至急って言葉からして下手に遅れるとまずいかもしれないしさ」
「そうだね。弁当だけ教室に片付けたら体育館に向かうとしよう」
僕の言葉に奏は素直に頷く。何も疑うことなく放送に従おうとしている奏を見て思わず笑いそうになってしまう。
別に何もおかしいことではないんだけどね。生徒である以上その学校の指示に従うのは当然のことだ。だけど、知っている身としてはどうしても笑いがこみ上げてきてしまう。
僕は内心笑っていることをおくびにも出さずに奏とともに教室に弁当を置いて体育館へと向かう。
さぁ、ようやく本番の時だ。
次回、ようやく物語が動きはじめます