いろいろ狂った少年が欲望を満たすために世界を創り、物語を作ります 作:黒椿
図書室から戻った僕は教室に入る。すると、一斉にこちらに視線が向けられる。
やはり、やりすぎたか。有名人は辛いね、などと自画自賛する気力すら湧かない。まぁ、今、する気分でもないけど。
そんなこっちの心境も知らずに主人公くんがこっちを睨んできてるが、右手を挙げて笑いかけて応えてやる。すると、自分たちの反応だと勘違いした女子たちが黄色い歓声を上げる。それを見て、男子たちは舌打ちしたり睨んできたりと嫉妬の感情を露わにしてくる。僕はそれらの反応に適当に手を振り返す。結果、女子たちはより大きな歓声を上げ、男子たちからはより強い視線の嫉妬を向けられることになった。
「ふぅ……」
僕は一つ息を吐くと自分の席に座る。同時に横に座っていた女子が声をかけてくる。
「あぁ、創様。今日もご立派です」
「うん。ありがとう」
笑い返しておくけど、正直何が立派なのかは分からない。ちなみに隣に座っている女子はこの物語ではそこそこ重要人物だ。
絶対に染めてるだろっていうくらいはっきりした黄緑色のウェーブがかったセミロングヘアにうっすらと化粧がなされている。どの程度を普通とするかは人によって異なるけど、僕の思う普通の高校ならば化粧は禁じられているはずだ。しかし、この学校では化粧を認められている。理由は単純。化粧などから色仕掛けの技術を覚えさせていくためだ。
だけど、そんなものを覚えさせてどうするのかと疑問に思う人間もいるだろう。というより、ほとんどの人間が疑問に思うはずだ。まだ年端もいかない少女に色仕掛けの技術なんか覚えさせて何をさせるつもりなのか、と。その問いに関しては一言で答えることが出来る。すなわち、人を惑わすためだと。
いや。人っていうと語弊があるな。それだと、僕らは人間ではないのかという話になる。確かに胸を張って人間だと言うことはできないかもしれないけど、これでも僕らはれっきとした人間だ。
まぁ、その辺りはまたおいおい明かしていこう。いきなり明かしていってもつまらないし、それ以前にやっぱり、いくらか不安はあるしね。ていうより、そんな余裕がないっていうのが本音かな?
もう物語が次の展開に進んじゃうから。
一応、今の思考の間に和澄といろいろ話した。その中には転校生――イセナがこの学校に転校してくるという話題もあった。もっとも、和澄も噂半分に聞いた程度で転校生の性別が男か女かすら分かってなかったけど。
「あ。来たみたいだね」
「はい。どんな方が来るのか、ちょっぴり楽しみです」
和澄は両手を合わせて笑みを浮かべる。その笑みにはまるで邪念がない。彼女の言葉に嘘はないようだ。
それからすぐにこのクラスの担任の教員が中に入ってくる。教壇に立つと、生徒たちは静かになり正面を向く。
「お前ら。いきなりだが、今日は転校生を紹介するぞ。質問されるのも面倒だから先に答えるが、外の国から来た女子生徒だ。仲よくしてやれよ。それじゃ、入ってきてくれ」
手短にもほどがある紹介を終えた後、外にいるであろう転校生に中に入るように促す。彼女は問題ないだろうが、正直あの程度の紹介で入ってこいと言われて戸惑わない転校生っているのかね。いや、知らないけど。
あの紹介で男子たちが色めき立っているから大丈夫なのか。どうせ、彼らにできることなど何もありはしないけど。
そんなことを考えていると教室の扉が開き、堂々とした足取りでイセナが入ってくる。その際に彼女のほどよい大きさの胸が揺れる。
だが、男子たちはそれよりもイセナの類い稀な美貌に目を奪われているようだ。
「「「「「「お~~!」」」」」」
野太い歓声が教室に響く。僕らはわりと容姿の整った人間が多いはずなんだけど、この反応は何だろうか。
彼女以外の女子たちも類い稀と言って差し支えない美貌を持ってるし、彼ら自身もそこそこ整った容姿を持ってるから、わりとモテるはずなんだけどなぁ。まぁ、その辺は世界任せにしたからなんともいえないけど。
「イセナ・アッシュです。これからお世話になります」
イセナはちょこんとお辞儀する。礼儀正しいのはいいことだ。だが、そんな礼儀正しい少女を見て、天一は口をパクパクとさせている。
「き、君はさっきの……」
天一の口からこぼれた声が聞こえたのだろう。イセナは天一の方を向いて、驚愕する。
「あんたは……」
それだけ呟くと、ぷいっと天一から視線をそらす。早速嫌われちゃったね。ここからどう展開していくかは僕にかかってるわけだけど。
ベタなのはお互いあるいはヒロインが一方的に嫌ってるところで何かイベントが起きて、ヒロインが主人公に惚れ込むって感じだけど。さぁ、どうするかな。
って、答えは決まってるか。そもそも、イセナを天一に惚れさせなきゃ寝取りができない。いくらなんでも、それをやらずにイセナをモノにしてしまっては本末転倒だ。
イセナが天一に惚れるまでの間――いや、惚れてからしばらくの間彼女には手を出せないけど、その点はテンプレハーレム主人公。惚れさせている美女美少女は現段階でもいくらでもいる。何なら、最初の内は天一の周囲なんか無視したって構わない。僕自身にも好きに手を出せる女の子はいるしね。
要は主人公のハーレムを狙いながら、最初から自分に惚れ込んでるハーレムも作ってるというどクズな設定を僕は持ってるってわけだ。他者から見ればなかなか共感しがたいだろう。
まぁ、物語を世界ごと作り出して、そこで寝取りをやろうって奴に共感できる人間の方がどうかしてると思うけど
次につなげるための重要な実験と言いながら、いささかはっちゃけた部分はあるけど……。これくらいの方が経験を稼ぐにはちょうどいいはずだ。万が一ダメでも問題ない。時間なら腐るほどあるから。焦ることはない。じっくりやろう。
一限目が終わるとイセナの周囲にドッと人が集まる。人気者だなぁ。イセナの方も今朝天一とぶつかった人間と同一人物とは思えないほど、人のいい笑みを浮かべて周囲に応対してる。なかなかの
だけど、肝心の主人公くんは近付こうとしない。まぁ、さっきあんな態度を取られてはね。さすがに思いっきり露骨に嫌悪感を示されて、近付こうと思うほど愚かではない。でも、それがいつまでも続くと僕も困るけどね。
はぁ……。仕方ない。
「やぁ。君のことはアッシュさんと呼べばいいのかな?」
「えっと、あなたは?」
「ああ。ごめんごめん。僕は空井創。よろしくね」
僕の名前を出すとイセナが目を見開く。
「! あなたが!?」
「えっと。僕のことを知ってくれてるの?」
「当然でしょう! 名門空井家の長い歴史の中でも歴代最高傑作と呼ばれている傑物。数多くの困難な任務をこなし、『常人』たちを手玉に取ってきた天才って聞いてるわ」
………………。さすがに、ちょっと――いや、かなり盛りすぎな気がするな。何だ? 歴代最高傑作って。僕、そんなご大層な人間じゃないんだけど?
しまったな。この辺もきちんと設定しておくべきだったか。物語のプロットと作中に出すキャラクターの方に目を向けすぎてて、自分の設定をしっかりしておくことを忘れていた。モブキャラの不可解な反応といい、抜けているにもほどがある。
自分がいささか過大評価されていることに関してはどうでもいい。どうせ、どんなに持ち上げられててもこの世界にいる限り――いや、この力があればいくらでも応えることができる。
だけど、僕自身の評判が上がれば、必然的に力を晒さなくてはならなくなり、天一を主軸に物語を展開するのが困難になる。
…… まあいいか。多少強引な展開になったところで問題ない。いつも通りのご都合主義、主人公補正がかなり強くなるってだけの話だ。僕を作家として見るなら、完全に終わってしまってる考え方だけどね。
それよりも、当初の計画を大幅に変更しないといけなくなるかもしれないっていうのが面倒だな。せっかく、二時間くらいかけて練り上げたプロットを変えないといけないっていうのは少し萎える。最初からやり直すこともできるけど、それはそれでまた面倒だしね。このままいくのが無難か。
「? どうかしたの?」
「ああ。ごめん。何でもない」
おっとっと。うっかり考え込みすぎてたようだ。疑っているとは言わないが、怪訝そうな表情をしている。ここは適当に取り繕っておくに限る。
「いや、あまりにアッシュさんが可愛くて、見とれてたんだよ」
「へぇ。見る目があるのね、あなた」
適当に言った言葉にイセナは強い反応を示す。表面的には嬉しそうに見える。実際、彼女が嬉しいと少しも思っていないとは言わない。だが、今の彼女の感情の大半を占めているのは観察――もとい、警戒だ。僕のことを彼女は警戒している。
まぁ、彼女が僕の考えている通りに今まで生きてきたのならば当然といえば当然なのだが。
「そう睨まないでよ。本当のことなんだからさ」
「……」
僕の言葉も聞かず、値踏みするような視線をこちらに向けてくる。彼女に近付く気なら、失敗したといえる状況だが今の僕にとってはどうでもいい。むしろ、現時点では僕にヘイトの一つも向けていてほしいくらいだ。そうでないと、物語の根底が目も当てられないほどに崩壊しかねない。いや、すでに崩壊しかかってる。これを何とかできるところまで修正しておかないと。
そこで予鈴が鳴る。
「おっと。時間みたいだね。じゃあね、アッシュさん。また後で話そう」
僕は適当に切り上げて引き上げる。とりあえず、これで第一段階は終了かな。あとは放課後辺りに早速仕込みを始めるとしよう。
その後に、ほんのちょっとだけ楽しもうかな。