いろいろ狂った少年が欲望を満たすために世界を創り、物語を作ります 作:黒椿
大きな武家屋敷。その東端に位置する部屋で一人の少女が就寝していた。その寝息は静かで当然寝相もよく、眠れる少女といった感じで、その様は美しかった。ずっと見ていたいと思う男も少なからずいるだろう。
彼女はふいに目を開く。起床時間になったからだ。彼女は布団から起き上がり、軽く伸びをして部屋を出る。
彼女の名は
梓の朝は早い。彼女はいつも五時に起床している。女性の
シャアァァァ、チョロチョロチョロ
「ふぅ……」
梓は幸せそうな表情で一つ息を吐く。天を仰いでその快感に身を浸していく。一番の楽しみとは言わないまでも日々の楽しみと言っていいくらいのひとときだ。
黄色の線は放射線を描くように綺麗に便器に吸い込まれていく。だが、見た目に反してなかなかの激流だ。着水すると同時に大きな音が鳴るが梓は気にする素振りを見せない。
朝の放尿は女性にとって至福の時だ。一晩の睡眠で膀胱に溜まった尿を一気に放出する。これがどれだけの快感か、
だからなのか、基本的にどの家も一つの階に二つ以上のトイレを設置している。場合によっては五十を超える個室を平気で用意している公共施設があるくらいだ。それくらい、この時間は世間でも配慮されている。
まぁ、そんなことを現実の世界でやればさすがに女尊男卑などと騒がれるだろうが、ここでは関係ない。
ここでは女性の放尿が全て。そういう風に世界の創造者が決めたのだ。それに異論を唱えることなど許されない。
そして、梓の今日一番の放尿も二分ほどで終わり、最後に秘部から数滴の尿がこぼれ落ちる。
「はぁ……。今日も気持ちよかった」
はしたない姿を晒しながらも朝一番の快感を堪能した梓は艶やかな顔で右手を正面のトイレットペーパーに伸ばす。くるくると三回ほど回してちぎり、濡れそぼった秘部を拭く。それを二回行って、梓は立ち上がる。下着を元に戻して、水洗レバーを回す。そして、梓は晴れ晴れとした表情で扉を開けて個室から出た。
朝食を取った梓はシャワーと歯磨きと洗顔をすませ、制服に着替えて身だしなみを整える。鑑で自分の姿を確認し、梓は頷く。
「よし。じゃあ、行こうかな」
梓は学生鞄を手に取り、私室を出る。向かう先は幼い頃から毎朝のように行っている場所だ。それは彼女の思い人、珠方天一の家。そこが今の彼女の目的地だ。
この時点で分からない者はいないだろう。つまり、彼女は
使用人や家族への挨拶もほどほどに梓は玄関に向かう。ローファーを履くと梓は戸を開け、外に出る。
「今日も起きてるかな。天一」
梓はまるで恋する乙女のような顔で屋敷の門を抜けた。その足は常時よりもやや弾んでいるように見えた。
○○○○○
一方の天一は未だに眠りこけていた。ベッドの側の机に置かれた時計が六時半を指した頃、けたたましい音を鳴らす。天一は寝ぼけ眼をこすりながらも、それを止めて体を起こす。
「そろそろ梓が来る頃か……」
天一は一度伸びをすると怠慢な動きでベッドから出る。冬は辛いが、今は真夏だ。寝苦しいのが難点だが、起きるという点においては真冬よりもずっとマシだった。寝癖を手櫛で直しながら天一はカレンダーを見る。
「もう少しで夏休みだな」
天一は浮かない顔で言う。今の彼の頭にあるのは一人の少年のことだった。
空井創。名門空井家で歴代最強と呼ばれている逸材の中の逸材。だが、天一は知っている。
かつては救いたいとも思った。けれど、それは不可能だった。彼を救うことなどできはしない。それを天一は嫌というほど痛感させられた。
「っと、そろそろ来る時間か。とっとと朝飯食ってしまわないとな」
天一はゴキゴキと肩を鳴らして居間へと向かう。母親と一言二言会話をかわし、目の前に並べられた朝食を食べる。塩鮭を食べているところで毎朝来る客人が珠方家に訪れる。客人――梓は遠慮なく扉を開けて中に入ってくる。
「天一。ちゃんと起きてる?」
「起きてるよ。ちょっと待ってくれ。今、飯食ってるから」
母親が応対し、彼女が居間に入ってくるのはいつものことだ。もう十年近くこんなスタイルなので天一も何も言わない。塩鮭を完食し、シメの白米を一気に掻っ込む。
「ごっそさん」
朝食を終え、両手を合わせる。椅子から立ち上がった天一は梓の方を向く。
「じゃあ、悪いけどちょっと待っててくれ。歯磨いたり、着替えたりいろいろとしないといけないから」
「うん。急がなくていいよ。いつものことだし」
「悪いな。それじゃ、さっさとすませてくるわ」
天一はそう言って洗面所へと向かう。歯磨き、洗顔、ひげそりを済ませ、その足で二回の自分の部屋に向かい、制服に着替える。一応、昨日の時点で今日の準備はしてある。あとは鞄を持てば完成だ。
「待たせたな」
「早かったね」
「男の準備は早いんだよ」
「適当にやってるだけじゃないの?」
「ほっとけ」
他愛もない会話をしながら二人は玄関へと向かう。それぞれ靴を履き、天一は出迎えに来た母親の方に振り向く。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
二人は外に出て、学校に向かう。通学路を歩く途中で梓が話しかけてくる。
「ねぇ、天一。もうすぐ夏休みだけど、何するか決めてる?」
「まだだな」
天一は考え込む仕草を取って答える。予想通りの回答に梓は苦笑する。
「真ん中は親戚の家に行くんでしょ? だったら、その前辺りにプールか海にでも行かない?」
若干頬を赤らめて告げられた誘いに天一は怪訝そうに眉をひそめる。
「いいけど……。でも、ランドのプールは混んでるだろ。七月下旬から八月上旬なんて入場規制かかっててろくに楽しめないんじゃないか?」
「なら、いつも通り海に行くしかないんじゃない?」
「そうだな。それしかないか」
そんな会話をしながら二人は登校する。いつも通りの光景、いつも通りの行動、いつも通りの中身のない会話。何一つ変わりはしない。天一はこれがいつまでも続くと思っていた。
○○○○○
学校に着いた二人はクラスが違うので階段で別れる。そして、二人はそれぞれ午前中の授業をつつがなく終えていき、昼休みを迎えた。
梓は教科書とノートを片付け、代わりに鞄から持たされた弁当を取り出す。
(今日は一緒に食べられると思ったけど、無理そうね)
梓は思わずため息をつきそうになる。今日は美化委員長として昼休みに行われるプチ会議に出なくてはいけない。まぁ、それ以前に一緒に食べようとしても二人きりになるなんて無理だ。あの唐変木はいつものように多くの女の子と一緒に食べることだろう。本人は知らないだろうが、実は創と並んで男の敵と見なされている。
だが、当の本人はまるで気付いていない。それは梓にとって救いでもあり、憂いでもあった。確かに周辺の女の好意に気付かないのは悪いことではないかもしれないが、それは梓の気持ちも気付かれないことを意味する。それに天一も思春期の男子高校生だ。異性に興味がないわけではないことくらいは梓も知っている。ひょっとしたら、あっさりとどこの馬の骨とも知らぬ女の手に落ちるかもしれない。
そう考えると思わずため息をつきたくなる。それを堪えて弁当箱を広げようとすると目の前に一人の生徒が立つ。
「あの……霧島さん」
「ん?」
目の前の生徒の服を見て嫌な予感がしていた梓はそれをおくびに出さずに、真顔で顔を上げる。そこにはどこか緊張している一人の生徒がいた。
「よかったら、一緒にご飯食べない?」
それは食事のお誘いだった。といっても、本人も言ってる通り、一緒に弁当を食べようという程度のものだったが。
相手がいつもの友人ならば迷わなかった。実際、梓としても昼休みの最初くらいは一緒に食べようと思っていた。だけど、いつも食事を共にする友人たちは不快そうにこちらを見て眉をひそめている。それは梓に対してではない。目の前の生徒に対してだ。
目の前の生徒は明らかに梓と仲良くなりたくて、この時期に初めて誘いをかけようとしている。それは評価できる。けれど、それだけだ。この生徒はあまり話したことはないが、クラスの
どのみち、目の前の男子に割くほどの時間など持ち合わせていない。ならば、梓の答えは一つだ。
「ごめんね。今日はちょっと忙しいから、また今度誘ってくれる?」
梓はにっこりと笑って弁当を持ち、教室から出て行く。男子生徒はその後ろ姿を呆然と見送ることしかできない。
「あ。待ってよ。梓ちゃん!」
女子たちは慌てて梓を追う。その中には件の男子生徒を睨む者がいた。残された生徒は声を潜めて――本人に
「っていうか、あいつ何様のつもり? 霧島さんとあんな
「そうよ。身の程知らずにもほどがあるわ。霧島さんを落とせるとしたら、この学校に一人だけよ」
「思い込み強そうだしねぇ。自分は創様と同じくらいかっこいいって勘違いしてるんじゃない?」
「うわ。マジありえない。キモ」
何ともひどい言われようだが、このクラスは女子生徒が九割を占める。そして、その全てが梓の信者だ。そんな彼女に誘いをかけた時点で彼女たちにとって、その男子生徒は敵でしかなかった。
あの馬鹿のせいで完全に予定が狂ってしまった。それが梓の考えだった。そして、それは他の女子たちも同じだろう。
多大なリスクを払ってまで勇気を振り絞って声をかけたのにその代償はあまりに大きかった。けれど、それも仕方のないこと。全てはその辺りをいい加減に設定した創造主が原因だ。もっとも、この程度の事態など創造主にとってはどうでもいいことなので、男子生徒に救いの手が伸ばされることなどありえないのだが。
――結局、梓たちは屋上で昼食を取った。そして、弁当箱を教室に戻した上でプチ会議に出た梓は軽く伸びをする。
「ん。やっぱり、食事の後はしたくなるな。混んでるかもしれないけど、一応行っておこう」
尿意を催した梓は一番近くのトイレに向かう。そこは歩いて二分程度のところにあった。そのトイレは個室が百も設えられていた。もちろん、男女別だ。女子トイレだけで個室が百あるのだ。
この学校は全校生徒が八百前後。そのうち半分が女子生徒だ。だから、これくらいなくては足りない。
かなりの個室が使用中だったが、幸い空室はあった。梓はそれにホッとする。長いと五分近く排泄する者もいる。今の状態でそれだけの時間を待つのは少々辛かった。空いていて何よりだ。
個室に入って戸と鍵を閉めた梓は洋式便器に背を向け、スカートを捲って、黒の下着を下ろす。そして、便座に腰を下ろす。
「ふぅ……」
シャアァァァ
梓の息と共に小気味よく秘部から黄身が飛び出す。便器に着弾した尿は下の水たまりに落水し、黄色く染め上げていく。
二十秒ほど排尿したところで空いていた右隣から物音が聞こえてくる。どうやら、隣に誰か入ったらしい。便器の蓋を上げた後にゴソゴソと音が聞こえ、便座に隣の人物が座る音が聞こえてくる。すぐに大きな排泄音が聞こえてくる。
ブシャアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
(凄い音。これは私以上に我慢してたのかな)
梓はそんなことをぼんやりと考えながら快感を味わう。便器の水を真っ黄色に染め上げても彼女の秘部から放たれる聖水が涸れる気配はない。というより、この程度で止まるのなら、あれだけの尿意を催してはいない。
だが、それもやがて終わる。三分近くの大放尿を終えた梓の秘部から最後の一滴が名残惜しそうに滴り落ちる。それを見届けた梓は一つ息を吐きトイレットペーパーをカラカラと回す。隣も同じようにトイレットペーパーをちぎっているようだが、あちらはまだ排泄しているようだ。便器に尿が打ちつける音が聞こえている。だが、他人の放尿に大した興味もない梓は濡れた秘部を二回拭いて、下着を上げる。そのまま水を流して個室を出る。
個室を出たところで梓は足を止める。どうやら、隣もいつの間にか終わっていたらしい。水の流す音が聞こえたかと思うと隣の個室から見覚えのある少女が出てくる。茶髪を二つ結びにした詰めたい印象を与える少女。
「真奈ちゃん」
「あら。隣が嫌に元気のいい音を出しているかと思えば梓さんじゃない。ごきげんよう」
「そちらも人のことは言えないんじゃない? 私の後に入ったのに、こんな短時間で終わるなんて相当勢いが凄かったんでしょうね」
「…………」
二人の間に火花が散る。周囲にいた人間は二人に近付こうとしない。学校でもかなりの知名度を誇る二人の間に割って入れる人間はそこにはいなかった。
そのままさらなる舌戦が繰り広げられるかと思われたが、それを思わぬ形で邪魔するものがいた。
キーンコーンカーンコーン
聞き慣れたその音に真奈は硬直する。梓はうんざりした表情でため息をつく。
「予鈴が鳴ったね」
「……やけに余裕そうですわね」
「私はいいんだよ。委員会に参加していたという名目があるんだから、どうとでも言い訳はつく。でも、あなたはどうだろうね?」
「くっ……」
真奈は悔しそうに
「覚えてなさい」
そう吐き捨てて立ち去っていく。真奈に比べて梓は余裕の表情だ。しかし、だからといって際限なく遅刻できるわけではない。
「さて、じゃあ、私も戻ろうか」
梓はゆったりとした足取りで教室に戻っていった。これが霧島梓に関するちょっとした記録である。