※この作品はR-18です。

前略、人類の敵になりました。   作:bear大総統

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《異形化》

「ふぅ…………悪い、取り乱した」

 

「いやいや、あれは取り乱しても仕方ないて。それよりも──」

 

「あぁ。どうにもならねぇことで悩んでも仕方ねぇ。これからの事を考えよう」

 

 一通り叫んだことによって多少は落ち着くことはできた。

 偶然の類いで主人公格の奴が、敵に対抗しうる最強のカードを手に入れる展開はライトノベルやアニメでテンプレートと言われるくらい用いられるものだが、まさかやられるとこれほどまでに苛つくものだとは思わなかった。あれはもう敵にご立腹だよ。気持ち的には今すぐあのクソ野郎を殺しに行きたいんだが──そうはいかないのが現実というもので。

 

「とりあえず今のところ一番注意しなきゃいけないのはあの《英雄》サマだが、あれだけに気を取られている訳にもいかねぇ。奴については今のところ、情報収集の段階に留めておこうと思う」

 

 できることなら早急に進藤を討ちたい気持ちはある。しかしそこで立ちはだかってくるのが固有能力《英雄》である。

 《英雄》の補正値にステータス向上倍率を把握しているのとしていないのとでは、そこに抱える不安要素に圧倒的な差が出る。そこに俺の《悪夢の綴り手》の精神改変のような明文化されていない効果もあるだろうから、それの収集も兼ねてだ。

 

「クロネ、奴が人間側に仕込んだ《傀儡屍兵》に気付いた様子は?」

 

 やはりというべきかあの醜小人(ゴブリン)が殺されたあとに醜豚人(オーク)も殺されてました。

 本当に優れた指揮官なら《英雄》が奴に発現した瞬間に撤退させるんだろうか……いや、それならあいつらに敵サイド──つまり俺達が何らかの手段で取得した能力を閲覧できるという情報を渡してしまっていたことになる。そう考えると都合が良かったんだろうか。

 

「……うん。今のところは気付かれた様子はないね。とりあえず《英雄》に《傀儡屍兵》の擬態能力を上回れる索敵能力はないと思って良さそう」

 

「そうか。それは良かった……いや、全然良くはねぇけど。ちょっとマシにはなった。屍兵の存在が早々に露見しなかったのはでかい」

 

 少し前にも話したかと思うが、クロネの《傀儡屍兵》の強みはその擬態能力にある。ステータスを閲覧しても、種族は生前の種族で表示されるしそれは死んでも──既に死んでいるが──同じくだ。加えて生前の性格に則って振る舞うため、変な疑いを向けられることもない。

 ステータスが上昇しない、新たに能力を入手することができないなどの弱点はあるが、仲間内でステータスを隠し見るような真似もしないだろうから自己報告だけでやり過ごせるのではないだろうか。

 

「クロネ、とりあえずは学校に誘導している屍兵で動向を見張っていよう。できることならステータスを把握したいが……DPショップでステータスをリアルタイムで把握できるなんて道具あったかな。なかったら俺が《鑑定》でも取得するか」

 

 正直あんまり取得したくないんだけどな。できることなら《鑑定》持ちの人間を屍兵にしたいが……そんな上手くいく話があるか? 超希望的観測で常にステータスなどを把握できるとかいうスーパーマジックアイテムでもあればいいんだが……まぁ、ないだろ。そんなに世の中簡単じゃねぇって《英雄》で学んだし。 

 

「というわけで兼ねてから計画していた、ショッピングモール襲撃作戦の概要を説明します。心して聞くように」

 

 俺は取得したばかりの《地図》の機能のひとつである《記憶地図》を発動する。

 これは自分の記憶にある場所の地図を立体状に表示するという機能である。既知の場所は詳細に表示されるらしく、取得時に脳内で思い描いた地図よりもかなり精度がいい。

 

「見ての通りこのショッピングモールには6つの脱出経路がある。南側・西側・東側の扉。それに加えてその3棟の屋上だ」

 

 俺はマーカーでショッピングモールの地図、その入り口の場所にチェックをつける。やばい、この能力レベルアップしてなくても超便利だぞ。戦国時代とかにあったら重宝されたこと間違いなしだ。

 

「俺達はそこから襲撃をかけ、一階から四階までを押し上げるようにして制圧していく。大雑把なプランはそんな感じだ。そこで各々の役割を果たしてもらう。まずはシオン」

 

「えぇ」

 

「シオンは周辺に《認識阻害》《幻術》の広範囲結界の展開だ。周囲の野良の《悪夢》及び人間に俺達の動きを悟られないようにするためだな」

 

「わかったわ」

 

 要はいつも通りやってくれという話だ。それを彼女もわかっているからか表情に過度な緊張はない。

 

「クロネは俺達が内部に侵入したら骨の壁で入り口を完全に封鎖。それから《生命感知》で内部の生存者の位置を把握し、俺達に報告してくれ。どこかに隠れられて位置がわかりませーんじゃ探すのが面倒だからな」

 

「ん」

 

 そして相変わらず過労枠のクロネ。

 というかシオンもだが非戦闘組の能力の使い勝手が抜群に良いんだよな。

 シオンの能力は脳に直接働きかけるものばかりだから生物相手には絶対的有利をとれる。

 そしてクロネの能力は防御から索敵、攻撃までなんでもござれだから言わずもがな。攻撃は火力不足の面が否めないが、彼女が防御性能に特化している事を考えると十分すぎるし。

 

「そんで俺とフラン、ラルルが内部の制圧だ。作戦は見敵必殺(サーチアンドデストロイ)。内部にある俺達以外の生命を一匹残らず殺し尽くせ」

 

「了解しました」

 

「任せとき」

 

 二人の武装がより強く握りしめられたのは勘違いではないだろう。

 

 今まで彼女達の活躍の場は、長い間屍兵の確保に動いてきたシオンや屍兵を作り出していたクロネ、転移によって仕事の量が多かったテュフォンと比べれば明らかに少なかった。

 

 そこにショッピングモール──これからの活動拠点となる場所の制圧という最重要任務が舞い込んできたのだ。そりゃ意気込むわな。

 

 というかちゃんと活躍の場が用意できて良かった。自分の活躍できる機会がないというのは士気にも問題が出てきて、最終的には組織内での不和を招く。

 

 そんなことになったら俺が最終的に頭を悩ませるから、今回のショッピングモール襲撃作戦で彼女達に華を持たせるのは俺のためでもあるのだ。

 

「気合い入れてくれるのは嬉しいが、ちゃんと俺の分も残しといてくれよ? 俺の経験値取得量が減るし、《異形化》も試運転が出来なくなるんだから」

 

 俺がおちゃらけながら言うと彼女達の口から小さく笑い声が漏れる。

 

 ──《異形化》

 一度発動すれば4時間が経過するまで途中解除をすることはできず、効果時間が終了してから再度使用するのに20時間のインターバルを必要とするなど使い勝手は最悪レベル。

 しかし全ステータス倍加に、従属下にあるSSレート《悪夢》の全能力を使用可能という効果を持つ最強の能力。

 今までは隠密行動を心がけたため使用することはできなかったが、今回の襲撃は正面突破で内部の人間達を蹂躙という作戦であるため、これ以上の活躍の場はあるまい。万が一の時、彼女達のフォローを頼むことができるというのも使用を踏み切らせた要因だ。

 

「ねぇ、イツキ。私は? 屋上からの侵入?」

 

「いや、テュフォンは屋上で待機しておいてほしい。俺達3人が下の階から上に攻め入るという都合上、最後に人間達が辿り着くのは間違いなく屋上だ。お前にはそいつらの掃討を頼みたい。3つの場所を同時に守るという都合上、俺達じゃ機動力が足りない。その点お前なら充分だ」

 

「なんだ、てっきり私の取り分を少なくしたいのかと」

 

「そんなわけないだろうよ……」

 

 冗談めかして言う彼女に俺は呆れながら返した。

 敏捷EXという規格外ステータスに加えて距離無制限の転移能力、そして自由に空を翔べるテュフォンほど、屋上という場所の防衛に優れた人材はいないのだ。それにSSレートの彼女を遊ばせておけるほど、俺の陣営は余裕があるわけではない。

 

「で、それがひとつめ」

 

「まだあるの?」

 

「あぁ。といってもこれは一応みたいなもんだ。──自衛隊ヘリの迎撃。それをお前には頼みたい」

 

「自衛隊ヘリ……?」

 

「あぁ。今のところ、現実的に一番相手取る可能性が高いのが自衛隊という組織だ」

 

 自衛隊。

 自衛隊法第3条第1項により『我が国の平和と独立を守り、国の安全を守るため、我が国を防衛を主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持にあたる』とされるこの国──日本の防衛組織だ。

 

 他にも脅威としては在日米軍が候補に上がるんだが、在日米軍の基地があるのは青森・東京・山口・長崎・沖縄であるため、わざわざ俺達のいる遠方まで出張ってくる物好きではないだろう。

 それどころかアメリカでも今回のような事態が起こっている以上、本国から帰還命令が来ている可能性もあるため俺達が相手取る可能性はまずないだろう。相手取るなら米軍基地がある付近の《悪夢の綴り手》だ。せいぜい頑張ってこっちに来させないようにしてくださいお願いします。

 

 だが自衛隊は日本という国家を守護し、存続させるための機関だ。間違いなく日本全土に自衛隊員を派遣し、民間人の救助にあたることだろう。

 

「その組織のヘリ──まぁ、空飛ぶ箱みたいなもんだが、お前にはそれの迎撃を頼みたい。できることならその中に乗ってる人間の装備を破損なく確保したいところだが……流石にそれはできたらでいい。無理はするな。つっても来ねぇとは思うがな。この国の頭の凝り固まったお偉いさん方が『この世界がファンタジー世界に早変わりして、各地で化け物が出現してます』なんて、ラノベじみた案件に対して、1日も経たずに自衛隊を派遣してくるなんて対処できる筈がないだろうから」

 

 しかし俺達と違って人間は色んなものに縛られている。自衛隊の場合は主に法律だが。憲法第9条がーとか言ってる場合じゃないと思うんだがね。

 この事態が終息したときの他国に対する説明とか、民間人からのバッシングとか、復興にかかる金をどっから持ってくるかとか、お偉いさん方は考えなきゃいけないわけでございますよ。あーやだやだ、めんどくさいったらありゃしない。

 

 その点こっちはなにかに縛られてるわけでもなし。ただ自分達がどうやって生き延びるかとか、DP回収手段とか、他の《悪夢の綴り手》の対処法とか、《英雄》をどうやってぶっ殺すかとか……うん、割と考えることあったわ。

 

 閑話休題。

 とりあえず考えるべきは自分達の城をどうやって確保するかである。その他のことはそれが終わってから考えればよろしい。

 

「とはいっても、中には《悪夢》を倒して能力を得た奴だっているだろうから油断しないように。一切の容赦なく、懇切丁寧に皆殺しにしましょう」

 

「あいよ」「ん」「えぇ」「了解しました」「はいはーい」

 

 異口同音に返事が返ってくる。中にはおちゃらけたものもあったが、表情が真剣なのでそれでよし。

 そんじゃ──使いますかね。

 

「──《異形化》」

 

 瞬間、俺の身体を熱が走り抜けた。

 とてつもなく熱いが、不思議と痛みや不快感はない。ただ感じているのは、自分の肉体が完全に人ならざるものの肉体へと書き換えられているのだという事実のみ。

 身体から鳴ってはいけない音がする。身体からなにかが突き抜けるのを感じる。身体に今までなかったものが生えるような感覚がした。

 

 そうして──一体どれくらいの時間が経過しただろう。

 体感的には数十分くらいなんだが、もしかしたら数秒だったのかもしれない。

 

「イツキ……大丈夫、なの? それ」

 

 クロネが声をかけてくる。それに大丈夫だ、と返そうとするが声が出ない。

 マイクテストのように『あーあー』と発生してみる。最初は『あ』に濁点がついたようなダミ声だったが、次第にちゃんと喋れるようになった。

 

「あぁ、別に大丈夫だぞ? ……そんなにヤバイか? 今の俺って」

 

「はい。主様が人間だったときの姿がほとんど見受けられませんので、クロネが心配するのも当然かと」

 

 俺はDPで全身が映るような鏡を購入した。値段はかなり安く、5分もすれば元がとれるため大した出費ではない。

 そこに映った姿は……なるほど、クロネが心配するのも頷ける。

 

 ──《異形化》した俺の姿を一言で形容するなら『歪』という言葉が最も似合うことだろう。

 

 四肢は肘や膝の辺りまで黒色の体毛──といっても人間の産毛のようなものではなく獣のそれだ──に覆われている。そしてこれは全身に言えることだが、全体的に筋肉質になっている。俺は超が付くほどのインドア派であり、運動だってろくにしてこなかったから全体的に線が細い。しかし《異形化》した今は筋肉によって腕はたくましくなり、腹筋だって魅惑のシックスパックである。

 右目はフィクションの仮面舞踏会に出てくるような仮面よろしく、白い骨が覆っておるがその隙間から覗くのは不気味に灯った蒼い光であり、おおよそ眼球と呼べるものは存在していない。左目はしっかりと眼球が存在しているが、通常であれば白いそれは黒く染まり日本人では一般的な黒瞳から変色し骨の仮面の向こう側の光と同じ色を称えているし、左部分の額からは大きな角が一本肉を貫いて生えている。

 口元は比較的人間に近いものだったが、あくまでも比較的である。口は大きく裂け、歯は肉を喰い千切るのに特化した肉食獣のそれに変化してしまっている。

 背中からは黄金色をした、身体をすっぽりと包み込めそうなほどに巨大な翼が生えており、それは自分の意思のままに動かせる。臀部からは三本の銀色の尾が生え、それを模した六本の蒼い炎が隙間風で揺らいでいる。

 

 腕や足の体毛は隠神刑部であるシオン。

 身体の所々から突き出る骨は餓者髑髏であるクロネ。

 全身と額の左側の角は酒呑童子であるラルル。

 三本の銀色の尾とそれを模倣した蒼い炎は天狐であるフラン。

 背中の黄金の翼は大天狗であるテュフォン。

 

 なるほど。

 《異形化》は従属下にあるSSレート《悪夢》の種族的特徴を集約させたような姿になるわけか。

 

「──中々格好いい姿になったな」

 

 自身の肉体が完全に人間のそれではなくなってしまったというのに、それによる嫌悪感などは微塵もない。それどころか中々いけてるんじゃないか、とまで思える。

 

 俺は《異形化》の効果がちゃんと適用されているのか、ステータスを開いた。

 

◆ ◆ ◆

 

名前:ヒムロ・イツキ

レベル:17

種族:Unknown

職業:《悪夢の綴り手》《密偵Lv.6》

称号:《大量殺人鬼》

 

HP:110(+11)/110(+11)

MP:112(+11)/112(+11)

 

物攻:78(+507)

物防:74(+507)

魔攻:32(+3)

魔防:70(+7)

敏捷:82(+513)

器用:72(+17)

 

JP:10

SP:0

 

固有能力(ユニークスキル)

 

《迷宮創造》《迷宮侵食》《能力賃借・悪夢》《悪夢創造》《悪夢強化》《異形化》

 

能力

 

《隠密行動Ⅳ》《聞き耳Ⅲ》《目星Ⅲ》《隠蔽Ⅴ》《危険感知Ⅲ》《逃走Ⅳ》《ナイフ術Ⅳ》《応急手当Ⅱ》《殺人術Ⅲ》《急所突きⅡ》《追跡Ⅰ》《不意討ちⅠ》《演技Ⅰ》《認識操作Ⅴ》《幻術Ⅴ》《催眠術Ⅴ》《夢幻の支配者》《眷属召喚・化け狸》《魔力吸収V》《魔力硬化V》《無限生成・骨》《傀儡屍兵》《生命感知》《死の支配者》《鬼神の威光》《精神異常無効化》《接種強化・酒》《超身体能力増強V》《超直感V》《狂化V》《咆哮V》《戦斧術V》《概念魔法・燃焼》《天眼通》《炎の支配者》《炎属性無効化》《魔力制御V》《変化V》《槍術V》《神足通》《山神の加護》《嵐の支配者》《狂飆魔法V》《飛翔Ⅴ》《二刀流Ⅴ》

 

 

◆ ◆ ◆

 

 ……よし、ちゃんと《異形化》の効果は適用されている。

 それにしても凄まじい能力の数だ。5人の能力をすべて使用可能という事実を思い知った。純粋な強さでは彼女達に劣るだろうが、万能さという一点では俺に軍配が上がっているのではないだろうか。

 

「どうや?」

 

「問題なし。それどころか気分が昂ってしょうがねぇよ」

 

 ──《異形化》することによる精神の昂り。それから来る全能感で思わずくつくつと笑いが漏れた。

 

「そんじゃ、いっちょやるとしますか」

 

 俺の言葉でテュフォンが俺を除く四人を転移させ、俺は《異形化》したことで得た《神足通》でショッピングモール東部入り口から500メートルほど離れた場所に転移する。能力を得はしたが、上手いこと使うことが出来ませんでしたー、なんて事態にならなくて俺は胸を撫で下ろした。

 

『──イツキ、準備はいい?』

 

 一定範囲内の生命を持った存在を感知できる《生命感知》の能力を持ったクロネの声が耳に挿したから聞こえてくる。

 

「あぁ、いつでも行ける」

 

 俺は今更ながらその部分が露出していたことに気づき、耳の後ろから覆うようにして新たに骨を生やした。そこに《魔力硬化》も込め、防御力は跳ね上がった。

 

『それじゃ、皆行くよ──鏖殺開始』

 

 俺は全体指揮を担う彼女の号令で背中の巨翼を羽ばたかせ、ショッピングモールへ突貫した。

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