※この作品はR-18です。

前略、人類の敵になりました。   作:bear大総統

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能力を使ってみよう!

 ──とりあえず学校には体調不良で学校に休む旨を伝えた。

 小学校から現在の高校2年までインフルエンザが流行ろうが、無遅刻無欠席を成し遂げ続けてきたため今までならどれだけ苦労しても学校には行っていたのだが……あんなことを聞かされてしまえば学校に行く気も失せるというものだ。

 

 一週間後だ。一週間後にこの世界に《夢幻迷宮(ダンジョン)》が出現し、世界は未曾有の大災害に襲われることになるのは。

 まぁ、モンスターによる虐殺を災害と呼称するのはどうなんだろうと思わないでもないが、人間が対処し得ないどうしようもないことという点では似かよっているため大災害でいいか。

 ともかくそれによって世界は急変するだろう。この世界の生態系を完全に無視した怪物どもが跳梁跋扈し、人間を喰らい尽くすべく動き出す。その事を現時点で知っているということは大きなアドバンテージになる。

 何故なら今すぐにその世界の急変に対応するための準備を行うことができるのだから。

 

 いくら俺がその災厄を引き起こす側に立っているとしても、それによって被害を受けない可能性はゼロではない。ラズーア曰く『俺の忠実な兵隊』を作り出せるそうだが、俺以外のモンスターがゲームのように何もない場所から湧いてくる可能性もゼロではないのだ。そうなれば武道経験ゼロの俺が『兵隊』なしに奴等と事を構えることはまずできない。いざとなれば籠城できるような施設を整えておかなければ。

 

 ──まぁ、そんな事をする前にまずは知識を整えておかなければならないだろう。

 

 なにせあの天使風西洋人形──性格は悪魔と言った方が適しているほどのクズっぷりだが──が手抜きをしたせいで、俺は自分が世界の急変後どのような立場に置かれるのかすら分かっていないのである。

 それはこの『《夢幻迷宮》攻略本』にしっかりと書かれているだろう。

 書かれていなければぶん殴りたい所存であります。そんなことをしたら間違いなく消される──物理的な意味でだ──ので、思うだけだが。

 

 そんなことを考えながら、早速ページをめくり飛び出してきたのは、俺が長年連れ添ってきたロールプレイングゲームでは定番もので、近年はファンタジー小説にすら進出してきたもの──いわゆるステータス画面。その表示方法である。

 

 えーと、何々…………? 

 

「──ステータス」

 

 すると俺の前に青い透明なガラス板のような何かが浮かび上がる。サイズは大きめなタブレットほど。たしかにライトノベルとかで定番なステータス画面だな。やば、ちょっと感動してきた。

 いや、感動している場合じゃないんだけどね。これから何千何万と人が死ぬんだけどね。それでも憧れだった世界の一部が楽しめるんだ、ちょっとくらい感動させておくれ。

 

◆ ◆ ◆

 

名前:ヒムロ・イツキ

レベル:1

種族:人間族

職業:《悪夢の綴り手(ナイトメア・テラー)》

 

HP:13(+1)/13(+1)

MP:14(+1)/14(+1)

 

物攻:7(+0)

物防:5(+0)

魔攻:0(+0)

魔防:3(+0)

敏捷:9(+0)

器用:4(+0)

 

JP:20

SP:30

空き職業数:2

 

固有能力(ユニークスキル)

 

《夢幻迷宮創造》《能力賃借・悪夢》《悪夢創造》《悪夢強化》

 

能力

 

◆ ◆ ◆

 

 おぉ、ステータスってものが存在していると聞いたときからゲームっぽいなと思ったら表示までゲームっぽい。テンション上がりますわぁ。

 名前はヒムロ・イツキ。片仮名表記なんだな。次はレベル。うん、当然ながらレベルは1。レベルが上昇している方がおかしいからこれは問題なし。

 種族は人間族で職業は《悪夢の綴り手》──うん、人類の敵って感じがビンビン伝わってくるな。これ、スキルにあるであろう《鑑定》とかで見られたら一発でアウトじゃないですか、やだー。

 というか俺はラズーアに人類滅亡の尖兵として使用される際に人間はやめることになるのではないかと思っていただけに拍子抜け──いや、やめておこう。これをもし彼女に聞かれてしまえば、嬉々として人間卒業式を迎えさせられるに違いあるまい。

 

 とりあえず現在習得している職業のところをタップすれば職業の詳細が見られるらしいのでタップすると、もう一回り小さいステータス画面が浮かび上がる。

 

《悪夢の綴り手》……『世界に住まうすべての者に悪夢を齎すもの。《夢幻迷宮》を作り出し、《悪夢》を創造する力を持つ。創造できる《悪夢》には個人差があるが、種族は統一される。

 職業習得時、《夢幻迷宮創造》《悪夢創造》《悪夢強化》《能力賃借・悪夢》を習得。職業枠2つを獲得し、全ステータス値に一割の補正を加える。人間族殺害時、獲得経験値、獲得熟練度が倍化する。

 なお、この職業はいかなる能力を使用されようとも他人には閲覧不可能』

 

 ──職業というのは大きく分けて二つに別れている。

 条件さえ満たせば誰でもなることができるような通常職業と、俺の職業である《悪夢の綴り手》のような世界でなれる人間が限られていたり、人数が限定されていたりする固有職業だ。固有能力はこれの能力版だと思っていただければ問題ない。

 

 固有職業や固有能力は獲得できる人間が限られているということもあって、そのどれもが強力な効果を持つ。

 俺の《悪夢の綴り手》の場合はその希少な固有能力をいくつも獲得し、その結果《悪夢》と呼ばれるモンスターを率い、たった一人で異形の軍勢を作ることすら可能になっている。その持ち主が賢明であった場合、ひとつの国家を作り上げることができるだろうという程には。

 

 その上に全ステータスに一割の上昇補正──小数点以下はすべて切り捨てらしく、HPとMP以外ではその効果が死んでしまっているが──がつき、人間族を殺害したときのみ獲得経験値と獲得熟練度──職業版経験値だ──が倍化する。これが元から頭がイってるクレイジーサイコパスが持っていたら最悪な事になっていただろう。

 

 なにせ人を殺すことに対して何も思わないどころか、嬉々として人間を殺していくのだ。爆発的なスピードで成長を遂げ、誰の手にも負えなくなっていただろう。……まぁ、今先程『自己防衛のためなら、他人の命を犠牲にするのも致し方のないことだ』と考えるようなろくでなしに《悪夢の綴り手》が渡ってしまったわけだが。まぁ、元から素質があったんだろう。そうでなくてはラズーアの選定にひっかかる筈がないからな。

 

 区別化をするためにここでは通常職業と呼称するが、それは最初からなることができる初期職業とその上位互換を合わせれば1000は軽く超える──らしい。初期職業は書いたあったんだが、それも数が多すぎて途中から見るのをやめた。

 その膨大に存在する初期職業の中から素質のあるものや、『職業』や『能力』という概念がこの世界の入ってくる前にやっていたことなどから選別された合計7つが職業の欄をタップすると現れる。

 

 ということなのでタップします。そーい。

 

『《密偵》《引き籠り》《冒険者》《学生》《制作家》《騎手》《アスリート》』

 

 以上7つが俺が現在なることのできる職業一覧なんだが──《引き籠り》って職業なの? 引き籠り=ニートの等式が成り立つんだとしたらつまり無職ってことだよ? ノージョブが職業なの? 馬鹿なの?

 あと《騎手》って何? いっつも原付で登校していたからか? まぁ、それと《学生》はわかるけど《密偵》とか《冒険者》とか《制作家》とか《アスリート》にいたっては全くわからん。まさか素質があったってことなんだろうか? それなら本気でアスリートとか目指しておけば──いや、モンスターが跳梁跋扈するようになる世界でアスリートがどうやって《悪夢》に対抗すんのよ? そんなの軽くネタ職業だろうが。同じ理由で《学生》《引き籠り》《騎手》はなし。

 

 《制作家》──名前から察するにアイテムを作るような支援系職業だろうが、組織に所属していない段階での支援職業はただの無能だ。《悪夢》の攻撃にバリケードが破られた瞬間、なすすべもなく死んでしまう姿が見えるわ。それでも自分でアイテムを作る事が可能になるということは理想的なので、サブ職業になら候補にいれても良いかもしれない。

 

 というわけで《密偵》《冒険者》にまで候補が絞られたわけだが──よし。

 

『職業《密偵》を選択中。消費JPは5Pです。よろしいですか?』

 

 はい、を選択する。

 

『ヒムロ・イツキが《密偵》に就職。敏捷が5上昇。器用が5上昇。

 能力《隠密行動Ⅰ》《聞き耳Ⅰ》《目星Ⅰ》《逃走Ⅰ》《隠蔽Ⅰ》を所得』

 

 続けて追加で新しい能力を獲得しようと能力のところをタップし、また膨大な量がある能力の中からいくつか能力を選んだことで、俺の最終的なステータスはこのようになった。

 

◆ ◆ ◆

 

名前:ヒムロ・イツキ

レベル:1

種族:人間族

職業:《悪夢の綴り手(ナイトメア・テラー)》《密偵Lv.1》

 

HP:13(+1)/13(+1)

MP:14(+1)/14(+1)

 

物攻:7(+5)

物防:5(+5)

魔攻:0(+0)

魔防:3(+0)

敏捷:9(+10)

器用:4(+5)

 

JP:15

SP:10

空き職業数:1

 

固有能力(ユニークスキル)

 

《夢幻迷宮創造》《能力賃借・悪夢》《悪夢創造》《悪夢強化》

 

能力

 

《隠密行動Ⅱ》《聞き耳Ⅰ》《目星Ⅰ》《隠蔽Ⅰ》《危険感知Ⅰ》《逃走Ⅱ》《ナイフ術Ⅰ》《応急手当Ⅰ》《身体能力増強Ⅰ》

 

◆ ◆ ◆

 

 まず俺の二つ目の職業は《密偵》だ。

 この職業は『隠密行動や策敵に優れた職業。能力《隠密行動Ⅰ》《聞き耳Ⅰ》《目星Ⅰ》《逃走Ⅰ》《隠蔽Ⅰ》を取得する。敏捷、器用に成長補正(微)』というものだ。そこにSP──省略しなければスキルポイントと表記される──を使用して《ナイフ術Ⅰ》と《応急手当Ⅰ》、《身体能力増強Ⅰ》を取得し、《隠密行動》と《逃走》のレベルを1から2へと上昇させた。

 

 言わずもがな、完全なるチキンプレイである。

 

 だってそうだろう? いくら《悪夢》を召喚し、使役させることができるといったって、俺の支配下にない《悪夢》が俺を襲ってこない可能性は極めて低い。それに所詮は武道経験ゼロにレベル1の人間がどこまで抗えるか。

 

 なら戦わなければいいじゃない。

 逃げるんだよぉ! ス○ーキー!

 

 ──だが、それは強い敵もしくは此方の存在を既に気取られたときの話。弱い敵そして不意をつける状態ならば俺の取得した《ナイフ術》が光る。生命体にほぼ共有する急所──首を掻っ斬ってやるわぁ!

 

 え、ダサいって? なんとでも言え、このボケども。

 こちとら少しでも反抗的な態度を見せれば心臓をキュッとされてぽいっと雇い主にされ、世界が変われば人類全員から狙われることになるんだぞ。そんな状態でさらに命を落とすリスクを背負えるかってんだ。強い敵との交戦は絶対に避ける。弱い敵を不意打ちで倒し続けレベルを上げ、安全マージンまでレベルを上昇。徐々に交戦できる種類を増やしていく、というのが基本方針である。

 同じ立場に立って、真正面から戦ってやるわって言うのなら好きなだけ言えばいいだろうさ。だが俺はそんなこと言えないので、チキンプレイで生き抜くことを第一優先にします。チキンプレイ万歳。

 

 ──にしても能力をちょっとばかし試してみたいな。

 《聞き耳》は『聴覚が鋭敏になる』という効果で《目星》は『視覚が鋭敏になり、隠されているものを見つけやすくなる』という能力で、レベル1の状態ではなんとなく効果が実感できる程度で明確に効果を確認できるとは言いがたい。そして《隠密行動》《隠蔽》など、俺の能力のほとんどは緊急時にしか役に立たないものが多い。

 ならば、

 

「《身体能力増強》だよな」

 

『物攻・物防・敏捷の値に+5し、成長値に微弱補正』というのもだ。ステータスを向上させるという分かりやすい効果。これならばしっかりと能力が作用していることがわかるだろう。

 俺は狭いダイニングに移動し、そこにあるウチの家具の中でも最重量級の冷蔵庫を持ってみる。流石に軽々とはいかないが持ち上げることができた。

 おぉ、凄いな。引っ越し業者が二人で持ち上げてやっとだったのに。ろくに運動していない男子高校生が両手で持ち上げることができようとは。

 《身体能力増強》ぱない。しかもこれがレベル1だということ。これがレベルアップしたら、そしてレベル2に上げた能力が同等の効果を発揮できるとなれば《隠密行動》と《逃走》に期待が高まるな。

 まぁ、それは一週間後にとっておくとしよう。いや、そんな緊急事態になってほしくないんだが。

 

 あとは──《ナイフ術》か。

 辺りを傷つけないように、漫画で見かけるような動きをしてみる。くるくるっと包丁を回してみると、意のままに包丁が動く。この前やったときは軽く指切ったのに。能力を得る前とは天と地の差だ。

 何これ格好いい。今度から料理をする前にやってみよう。

 

 『ナイフ系統武装の技術を精錬させ、ダメージ量を増加させる』という効果は伊達ではないらしい。戦闘を行わずとも、ナイフを使った行動だけで熟練度は蓄積されていくらしいので、ちょいちょいこの動きはやってみよう。一週間後までにレベルを2に上げるのが目標だ。

 

 それではお楽しみにして懸念材料──《悪夢創造》に手をつけてみることにしましょうか。

 とりあえず両隣の部屋に聞き耳をたてる。音は──しないな。一応外を確認してみるも、現在は八時過ぎ。隣の独身サラリーマンと、新婚夫婦は出掛けているようだ。

 ここのアパートの壁は薄いからな、勉強しているときの隣から聞こえてくる矯声に何度集中を掻き乱されたことか。あんな美人の奥さんを独り占めにできるとか、羨ましいぞ旦那さん。敵対してきたときに殺すのは最後にしてやる。

 

 っと、話がそれたが《聞き耳》を取得していないときですらそれなのだ。現段階で物音がしないということは不在ということなのだろう。これで安心──はできないが《悪夢創造》を使用することができる。

 

 固有能力《悪夢創造》を使用する。

 のだが、能力を使用する前にステータス板によく似た、そんな画面が俺の眼前に展開される。

 

『《執行者》ラズーアの《協力者》ヒムロ・イツキの固有能力《悪夢創造》の使用を確認。

 執行者からの贈り物(ギフト)SSレート確定創造権限を使用しますか? 残り使用回数5回』

 

 んだ、こりゃ? 『SSレート確定創造権限』?

 これはもしやソシャゲとかでよくある『最高レア召喚確定』という奴なのでは? 全く、最高かよ? ようやっと気の効くことすんじゃねぇか。《執行者》ラズーアさん。

 とりあえず初対面に俺をぶっ殺そうとしてきたことは水に流してやる。

 

 え? こんな得体の知れないもの使うのかって?

 何を今さら。ラズーア自体が得体も知れず、創作物の中でしか確認ができなかったスキルを使用できたのにこれだけは疑えと? そんな馬鹿な、疑うわけがないだろう。

 それに自分が召喚した《悪夢》が《悪夢の綴り手》である俺に襲いかかってこないことは火を見るよりも明らかだ。それにそんな地雷を仮にも《協力者》である俺に仕掛けてくるはずがないし、俺が死ねば多少なりともラズーアには面倒事が増えることになる。それにこの『SSレート確定創造権限』は彼女がくれたものとなれば、俺は遠慮なく使わせてもらうのみよ。

 

 というわけで、『はい』っと。

 

 ──瞬間、部屋が黒い霧で席巻された。

 

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