※この作品はR-18です。

前略、人類の敵になりました。   作:bear大総統

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今度の仲間は幼女です。

 日が傾き、人が人ならざるものに出会すと古来は言われた頃、俺は家に引きこもるのをやめ外に出てきていた。

 目の前の大通りすぎるのは様々な色のランドセルを背負った小学生たちの群れだ。『せんせー、さよーならー!』と言って手を振って走り去っていく彼らを見て、俺も純粋に明日を楽しみに待てる時代があったんだなと染々感じながら、俺は目的地である小学校を見やる。

 

 シオンに一通り彼女の持つ能力(スキル)を見せてもらったあと、俺は《ダンジョン運営本》を読み込み、《夢幻迷宮(ダンジョン)》の運営・管理に備えていた。今回この小学校──一応俺の母校だったりする──にやって来たのはそれの仕込みだ。

 

 俺は手に握った澄んだ闇色の球体を改めて見る。

 これは《悪夢の核(ナイトメアコア)》と呼ばれるものである。大きさは野球ボールを一回り大きくした程で、中心では闇を凝縮したような霧状の何かが蠢いている。俺は《悪夢の綴り手(ナイトメア・テラー)》となったお陰か、何も感じなかったがシオン曰く『人間の精神を削る冒涜的な球体』とのこと。そんなにえぐい物なのかこれ、俺が見る限りじゃ、ただの綺麗な宝玉みたいなものなんだが。

 

 早い話、《悪夢の核》はDP(ダンジョンポイント)──生物の精神力や生命力などのファンタジックなエネルギーだ──を回収するための道具である。『核(コア)』なんていう文字が付いているがこれを壊されたところで、《夢幻迷宮》が崩壊することもない上に量産可能という優れた代物だ。

 このDPというものを使って《夢幻迷宮》の階層を増築したり、《夢幻迷宮》の範囲を広げたり、罠や《悪夢の綴り手》に限り能力、Eレート以下の《悪夢(ナイトメア)》や一度創造した《悪夢》の3レートほど低い《悪夢》を購入が可能になったりする。《夢幻迷宮》内でのみ利用可能な通貨と思っておけば問題ないだろう。

 

 そして今回はそれをこの小学校、そしてその近くにある中学校に仕掛けにいく予定だ。この近くに俺が通っている高校もあるんだが、それは明日仕掛けにいくことにする。今日は学校を休むって言っちゃったからね、仕方ないね。

 

 さてと──。

 

「準備はいいか? 豆狸」

 

『はいっす。シオン様のご主人であるイツキ様のため、頑張らせていただくっす!』

 

「あぁ、頼むな」

 

 俺は自分の肩に乗っている15センチほどの小さな狸──豆狸の頭を軽く撫でる。

 焦げ茶色の毛並みにもふもふとした触り心地の良さそうな尻尾。頭に単葉を乗せたこの狸は、シオンの《眷属召喚・化け狸》によって呼び出されたDレートの《妖怪型悪夢》化け狸族の豆狸である。この子のステータスは本人──いや、本狸?──も認めているが陰神刑部であるシオンの超劣化版だ。

 《認識阻害Ⅰ》《幻術Ⅱ》《変化Ⅱ》という能力構成(スキルビルド)で戦闘能力は一切持たない。だが、今回は戦闘は起こす必要がない──というか起こらない──ため豆狸に学校への侵入を手伝ってもらうというわけだ。能力が《夢幻迷宮》が出現していない今もしっかりと機能しているということは検証済みであり、現在は俺を含む《悪夢の綴り手》及び俺達によって召喚された《悪夢》以外は能力を持っていないため、豆狸の能力でも問題ないと判断した。

 そしていざとなったら──、

 

『フォローはちゃんとしてあげるから全力でやりなさい、豆狸』

 

『はいっす、シオン様!』

 

 この通り、シオンも俺の着ているパーカーに《変化》して付いてきているため、豆狸が何かやらかしても彼女がしっかりとフォローしてくれることになっている。まぁ、豆狸の《認識阻害》と《幻術》そこに加えて俺の《隠密行動》も発動するからそんなことにはならないとは思うが。

 

 よし。

 

「発動しろ」

 

『はいっす!』

 

 豆狸に合図を送ったところで俺も《隠密行動》と《隠蔽》を発動。《隠蔽》で《悪夢の核》を隠し、俺はビルとビルの間から出、小学校に向かって歩いていく。大の大人に近い高校生が小学校に入ろうものなら不審者扱いされそうものだが──校門の前に立って生徒達を見送っている教師の横をすり抜け学校内に侵入することに成功した。

 

 小学生の姿も疎らになったが、いないわけではない。校庭で遊んでいたのだろうか、手を砂だらけにした小学生5人ほどがこちらに走ってやってくるが不自然に俺のいる場所を避けた。

 

 そしてそれに誰も怪訝がっていない。これが脳の正常な認識を阻害する《認識阻害》か。自分でも味わってみたが、不自然なことこの上ない。普通なら自分が見えない何かを避けたことに不審がるものだというのに。能力ってやっぱりファンタジーの産物だよなと再確認。

 

 俺はそのまま校内に侵入し、《危険感知》を発動させる。この能力は自身に不利益が及ぶ事態──現在では人の存在だ──を察知する能力だ。『なんとなくいったら不味そう』というのを俺に知らせてくれる。ただレベルが1である現状はあまり役に立たないものであるため、部屋に侵入する際などは《聞き耳》なども使用して具体的にどのような危険があるのかを察知する。

 

 そして《悪夢の核》を仕掛ける場所を吟味していると──、

 

『それにしてもイツキ様? どうしてこんなところにやって来たんすか?』

 

「ん? 学校にか?」

 

 豆狸からそんなことを問われる。豆狸からしてみればわざわざ不審者として捕縛されてしまうリスクを抱えてでも、学校に来たことが不思議でたまらないのだろう。

 そんなリスクはまずないにしても、だ。

 

「そうだな……なぁ、豆狸。お前達がシオンのような強敵に襲われたとしたらどうする?」

 

『そりゃ、逃げるっす。当たり前っすよ! 自分達じゃどう足掻いても勝ち目ないっすもん』

 

「そう、逃げるんだ。そして奴等は自分達が安心できる場所を探す。敵の脅威から身を守れる場所、水や食料が確保された場所、なおかつ『群れることが出来る』場所をな。そんで、その場所に選ばれやすいのがここ──学校なんだよ」

 

 人間の大部分が孤独であることに不安を覚える動物だ。利己的な人間が悪として社会に認識され、社会に貢献することができる人間こそが善であるととらえる社会では当然と言えるが。

 そして学校は震災や津波などの大災害が起こった際の避難場所としての機能も果たすことができるよう乾パンやミネラルウォーター、そして横になる際にくるまれるシーツなどが大量に貯蓄してある。それを保存しておくための倉庫なんかが小学校や中学校にはあった。

 

 そんな絶好の避難場所にいかない人間はほとんどいない。家族の安否を確認するため、孤独ではなくなることによって安心を覚えるため──様々な理由をもって人間は学校を目指す。

 

「そうなれば人が集まる。それにこの学校には約240人の生徒、加えて20人近い教員がいる。そうなれば《夢幻迷宮》が各地に出現するまでの6日間、ここだけで260人の人間からDPを獲得できる。そこに避難してきた町民が集まれば500人近い人間が集まることになるだろうよ」

 

 それに普段から多くの人間が存在するという利点もあった。DPの回収効率は《悪夢の核》の効力内に存在する人間の数、そして感情の昂りなどによって獲得できる量が多くなる。その点において『学校』という場所は最高の立地だった。

 

 他にも候補は色々あったんだが、籠城の難易度と食料などの獲得が可能かなどという点から除外した場所は多い。具体的なものならホームセンターやスーパーマーケットなんかがこれに当たる。

 

 ただ問題は──この街には学校が3つもあるということ。そのせいで場所をひとつに絞り混むことができなかった。それに少し離れたところに小学校が3つほどあるため、そこに近い町民はそこに逃げ込むだろう。そしてその3つの場所に訪れるのは少々手間だ。《悪夢の核》だってロハじゃないし。まったく、学校はひとつに絞っておいてほしいものだ。

 

 でもあそこの辺りの町民ってここほどじゃないけど、3つ全部合わせたらこの街の2.5倍位にはなるんだよなぁ。流石にそれだけの人間を野良の《悪夢》の餌にしてやるのは惜しい。さて、どうするか……。

 

『なるほど! イツキ様は人間を家畜化しようっていうんですね! 流石っす!』

 

 豆狸の言葉に俺は思わず確かに、と同意しながら笑ってしまう。

 俺がやろうとしているのは乳牛の乳を絞って牛乳を得てやろうという発想そのものだ。人間はホルスタインだった可能性が微レ存……?

 

「まぁ、そんなところだ。さて、豆狸。ここが終わったら中学校にも行くから、もう少し頑張って働いてくれよ?」

 

『勿論っす。任せてほしいっす!』

 

 俺は体育で使ったのだろうか、鍵が開けっぱなしになっていた体育館倉庫に侵入し、その隅に《悪夢の核》を設置する。するとそれがまるで植物のような根を生やし、床に根付いたかと思うとステータス画面のような物が浮かび上がる。

 そこで範囲を決定するのだろう。俺はそれを最大まで広げ、『空園小学校全域』を《悪夢の核》のDP獲得可能範囲に設定する。

 

「シオン、頼む」

 

「えぇ、任せておきなさい」

 

 彼女が俺のパーカーから、元の妖艶な三つ編みの美女に戻ると《悪夢の核》に《認識操作》を施す。レベル5にまで上昇した彼女の《認識操作》の効果のひとつである認識阻害を掻い潜ることはまず不可能。

 これと同じことを『陸国中学校』でも行う。

 中学校は約360人の生徒、30人ほどの教員が出入りする場所だ。この小学校よりも回収効率は上だろう。

 全く、期待が高まるな。

 

◆ ◆ ◆

 

「ありがとうな、豆狸。助かったよ」

 

『いえ、そんな! お礼を言われるまでもないっすよ!』

 

「それでも助かったのは事実だ。今度、栗でも用意しておくから一緒に食べよう」

 

『本当っすか!? 楽しみにしてるっす!』

 

 そう言って豆狸は黒い霧となって霧散していった。

 にしても《悪夢》とはいえ元になった動物が同じだからか、好物自体は普通の狸とかと変わりないんだな。《悪夢》なんて名前が付いているが、俺からしてみれば豆狸は愛くるしいペット程度にしか思えなかった。あんなペットがいたらまず飼っていたよな、いい感じにもふもふで。ポメラニアンに似た《悪夢》とかいないかな?

 

「ごめんなさいね、イツキくん。私の眷属が」

 

「いやいや、可愛くていいじゃないか。子供──かどうかはわかんねぇけど元気なくらいがちょうどいいさ。それにあんだけ嬉しそうにされたらこっちだって嬉しくなるよ」

 

 《変化》を解き、元の露出の激しい装束に戻ったシオンが溜め息を吐く。彼女としては、自分の眷属にはもう少ししっかりしてほしいのだろうが、俺としてはあんなに可愛らしかったら別にしっかりしなくても良いように思う。しっかりするのはSSレートの《悪夢》達及びその元締めである《悪夢の綴り手》である俺だけでいい。……まぁ、ただの高校生だった俺にそんな不相応なことを求められると難しいんだが。

 

 さて、俺がどこにやって来たかというと電車に乗って一駅分移動した歓楽街だ。

 毒々しい色のネオンが星の光と月影を塗りつぶすようにしてギラギラと輝き、馬鹿みたいに大きいBGMが夜の物静かな雰囲気を台無しにする。街を歩けばキャバクラや風俗の客引きが我先にと勧誘してくるため、鬱陶しくて堪らない。

 俺達が現在いるのはそんな歓楽街の町外れ──現在は立ち入り禁止となってしまった廃工場である。

 朝の戦隊ものや仮面ライダーの戦闘場所としてぴったりなこの廃工場にやって来たのは、独特の空気感や雰囲気を楽しむためではない。

 

 ──《悪夢》を安心して創造するためである。

 シオンを召喚した際には自宅で創造するという愚行を犯してしまったが、もしあの部屋で発生した黒霧──あの霧はどうやら《悪夢》を創造すれば確定でついてくるものらしい──を見られてしまっていたらどうなっていたことか。それに今回はたまたまシオンのような人の形をした《悪夢》だったから良かったものの、あれが体長5メートルを悠々と越える化け物だったらどうだろうか?

 屋根がぶっ壊れ、部屋も完全に崩壊、ご近所さんの井戸端会議で俺はものすごく話題になっていたことだろう。そうなれば《夢幻迷宮》が出現するまで、俺はポリスメンのお世話になっていたことは想像に難くない。

 それに引き換えこの廃工場は天井までの高さが約30メートル。奥行きがおおよそ50メートルほどある。これが工場としての狭いのか広いのか俺にはわからないが、これだけあれば天井の穴がさらに広がってしまうようなことは起こるまい。……起こらない、よな? 起こらないと信じたい。

 

 加えてこの工場は歓楽街から離れた町外れに存在している。そしてこの工場が立ち入り禁止になっていることは前述の通りだ。そのため人は歓楽街に流れ、人は全くと言っていいほど寄り付かない。後ろめたいことをやるにはぴったりというわけである。

 

 それに早急にSSレートの《悪夢》を5体揃えておきたいということもあった。

 現在俺の従属下にある《悪夢》は陰神刑部のシオンのみ。もしこの状態で他の《悪夢の綴り手》と出くわしてみろ。相手が人が殺せれば何でもいいというクレイジーサイコパスでありSSレート、なおかつ彼女の主力である《幻術》などが効かない《悪夢》を保有し、戦闘行為に持ち込まれてしまったら俺達にあるのは死しかない。

 そんな事態を避ける為にも、俺は早急に《悪夢》による軍勢を作らなければならんのだ。幸いにもSSレート確定創造権限に回数制限はあるものの、クールタイムのようなものはないようだし。

 

「シオン、廃工場周辺に《認識操作》《幻術》を展開してくれ。SSレート《悪夢》を創造する」

 

「ええ、わかったわ」

 

 シオンが言葉に従い、ここ周辺に相手の認識を阻害し、無意識にここに近寄らなくなる結界と《悪夢》を創造したときに出る、あの黒い霧を不可視化する幻術を展開する。

 これで万が一のことは防いだ。

 

 俺は《悪夢創造》を使用する。

 

『《執行者》ラズーアの《協力者》ヒムロ・イツキの固有能力《悪夢創造》の使用を確認。

 《執行者》からの贈り物(ギフト)SSレート確定創造権限を使用しますか? 残り回数4回』

 

 よし、これで準備は整った。

 どうか正面からの戦闘が得意なもの、もしくは対《悪夢》戦闘が得意な《悪夢》が来ますように……!

 

 そんな願いを込めて俺は『はい』と念じる。

 瞬間、廃工場の中が黒い霧で席巻された。

 

◆ ◆ ◆

 

「ふっ!」

 

 黒い霧に包まれた瞬間、シオンが尾で黒い霧を吹き飛ばす。ん、尻尾? まぁ、狸だからあるのか。普段は思いっきり人間の姿をしているから忘れがちだが、彼女は人ではなく『化け狸』なのだ。本当の姿が狸のものだとするのなら、今の人間の姿だって彼女が変化したものなのかもしれない。

 

 まぁ、ともかく彼女の尾で発生した風によって黒い霧は10秒も経たずに夜空へと溶けていく。そしてその奥にいたのは──。

 

「んぅ……なに……?」

 

 眠たげに眉をこする幼女だった。

 月光に照らされるのはボブほどの長さのミルクホワイトの髪。褐色の肌は多くのレースがついた白いベビードルに包まれている。これだけならばただ単にいいところのお嬢様なのかと思ったのかもしれない。だが、彼女がただのお嬢様ではなく《悪夢》なのだと思わせるものがそこにはあった。

 

 ──骨だ。

 彼女が腰かけている椅子。それは得体の知れない骨で構成されていたのだ。しかもただの椅子ではなく背からは腕が生え、椅子の足は鉤爪が備わった強靭な二本の足。それらが彼女を守る騎士を彷彿とさせる。

 

「こんばんわ。いい夜だな、お嬢さん」

 

「……ん、そうね。月が綺麗でいい夜だわ。これでもう少し周りに風情があったらよかったんだけど」

 

「それは申し訳ない。こそこそしなきゃいけなかったもんで、周りには気を配れなかった。あとで周りが綺麗な場所も探しにいこうか」

 

「……なかなか紳士的なのね」

 

 彼女がうっすらと微笑む。

 まだ眠たそうで時たま、顎がこっくりこっくりと揺れているが、なんとか好意的に接することができたようだ。

 

「俺は氷室威月。《悪夢の綴り手》だ。よければお嬢さんの名前もお聞かせ願えるかな?」

 

「……私はクロネ。餓者髑髏(がしゃどくろ)よ。よろしく、イツキ」

 

 餓者髑髏。

 戦死者や野垂れ死んだ者達の怨念の集合体である妖怪だ。巨大な骸骨として描写されることが非常に多い。そんな妖怪がこんな可愛らしい幼女の形をとって《悪夢》としてこの世に現れると誰が予想したであろうか。

 

「ステータスを見てみても?」

 

「いいわ……勝手に見て」

 

 彼女からの了承が得られたところで俺は彼女──クロネのステータスを閲覧する。

 

◆ ◆ ◆

 

種族 死霊族 餓者髑髏

レート SS

個体名 クロネ

状態 従属『主・ヒムロ・イツキ』

 

物攻 B+

物防 SS

魔攻 F

魔防 SS

敏捷 F+

特殊 A

 

能力

 

《魔力吸収V》《魔力硬化V》《無限生成・骨》《傀儡屍兵》《生命感知》《死の支配者》

 

◆ ◆ ◆

 

《魔力吸収》……周辺の魔力を吸収する。レベルに応じて吸収量、吸収効率が上昇する。

 

《魔力硬化》……魔力を使用し、自身の物防、魔防を上昇させる。レベルに応じて硬化も上昇する。

 

《魔力生成・骨》……魔力を使用することによって骨を生成する。魔力が存在する限り無限に生成可能。

 

《傀儡屍兵》……死体を自身の僕である屍の兵士として蘇生し、服従を強要する。

 

《生命感知》……生命を持つ存在を探知する。

 

《死の支配者》……死を司る者に与えられる能力。自身及び自身の支配下にある死霊族の全ステータスに補正(特大)。

 

 

 ……ステータスに目を通し、俺は頭を抱え深くため息を吐いた。

 

「なんなの、お前ら。SSレートってこんな化け物ばっかなの?」

 

「化け物なんて失礼でしょ、イツキ」

 

「いやいやいや、言いたくもなるわ。なんなんだよ、こんな奴どうやって倒せばいいのよ?」

 

 クロネが頬を膨らませて俺を糾弾し、一緒に『化け物』扱いされたシオンも俺をなにか言いたげな目で見てくるが、俺は悪くねぇよ。こんな化け物みたいな能力構成してる方が物申したくなってくるわ。

 

 なんなの?

 周辺の魔力を吸収して既に高い防御力全般をさらに強化。おまけに魔力がある限り、骨という彼女にとって最強の矛となり盾となる武装を無限に生成可能。隠れようと思っても相手は『命』を探知してくるため隠れることもできず、死体で軍勢を作り出すため圧倒的な物量で叩き潰され、その死の軍勢は《死の支配者》によって全ステータスを向上させられている。

 指揮官である彼女を狙おうとすれば防御がガッチガチ。

 そして《傀儡屍兵》の効果で兵力の確保も容易。おまけに死体であるため、肉体の損傷を気遣う必要はなく、常に『火事場の馬鹿力』を発動させたままにさせておける。

 

 なんなの、お前らは国家と戦争でもする気なの? たぶん勝てるよ!

 

 シオンとベクトルは異なるが、間違いなく絶対強者に位置する目の前の幼女に俺は戦慄する。

 

「ちなみに《傀儡屍兵》は人間に擬態することもできるよ」

 

「もうなんなの…………」

 

 人間に潜ませて、眷族と常に連絡を取り合うことのできるシオンの《眷族召喚・化け狸》と合わせればリアルタイムで人間の同行を探ることも可能。擬態が暴かれるリスクはあるが、それを鑑みてもメリットの方が多い。

 情報戦すら制そうとするこの子達が怖くて仕方がありません。そして他の《悪夢の綴り手》と敵対してしまった暁には──うぅ、胃が痛い。

 

「できたら《夢幻迷宮》を出現させる前に死体をいくつか調達しておきたいわね。イツキくん、殺してもいい人間とかいないの?」

 

「そんな簡単に言ってくれるなよ……」

 

 ──俺だって《夢幻迷宮》を出現させる前に人は殺しておきたかった。それは俺が自分の命ほしさに人を虐殺する覚悟を決めるため。しかし、その選定に困っているのだ。

 

 まず第1条件に俺が殺しても構わないと思えるようなクズでなくてはならない。流石に最初から一般人を殺せるほど、俺は逸般人していないんだ。

 そして第2に1週間ほどの失踪をしていても不審がられない人物でなくてはならない。この時点でサラリーマンなどの社会に進出している人間はアウトだ。ここまでの条件で不良学生にまで絞り込めたんだが……生憎、俺の通っている高校は進学校だ。そんな輩がいれば真っ先に目立つものだが、そんな人間の噂など聞いたこともない。

 

 ──そんな人間を見つけるために俺はこの歓楽街にやって来たんだが。

 

 前述のとおりここにはキャバクラや風俗、パチンコ店などが並んでいる。あの毒々しいピンクの光が収まることはない不夜城。そんなところなら不良学生の溜まり場になっているのではないかと思って、ここに活動拠点(仮)を定めたわけだが──人を殺すのが思ったより早くなりそうだな。

 

 クロネの及び俺の戦力を強化する。

 そんな常人からしてみれば頭のおかしい理由ではあったが、《悪夢の綴り手》である俺にとっては人を殺す十分な理由となった。

 ……本当、イカれてるよ。俺は。

 

「シオン、クロネ。街に繰り出す。そこで──死体を確保しよう」

 

「ん、わかった」

 

「ええ」

 

 シオンはクロネを白いピアスに《変化》させ、自身は俺のパーカーとなった。さて、これで準備は万端だ。

 ──人狩り、いくとしよう。




この小説はハイペースで新キャラが出てきます。
なにせ、パニック映画の下準備を一週間でこなさないといけないわけだからね。

次回、主人公。人殺し。
お楽しみにね!
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