---マッキー----
日課の短波放送の受信。あの仕事を、し初めた日からの日課だ。たまに、指令が届くことがある。現在の俺の身分は命の洗濯中だし。
そして、それは聞こえた。招集命令…もう、平和な時間は、終わりのようだ。仕事道具だけを持ち、部屋を出ようとすると、テッサが現れた。
「行くの?」
哀しそうな目で俺を見る彼女。彼女も短波放送を受信していたのか。
「呼び出しだ。ケリをつけないとな」
この国には相良の遺品を届けに来ただけである。ただ、居心地が良くて、呼び出されるまで、滞在していただけだ。そう、自分に言い聞かせる。
「行ったら…きっと…」
「それでも逃げる訳に行かない」
「ダメ!」
俺に抱きつくテッサ。今日は本気の攻めのようで、ノーブラ、ノーパン攻撃のようだ。だけど…テッサの意識を狩り、俺のベッドに横たえて、香さんへ挨拶に行く。
「招集?戦争は終わったんじゅないのか?」
「俺は、敵を殺し過ぎた…和平の条件は俺の引き渡しだそうだ」
「そんな…」
「俺の為に、戦いが終わらないのは辛い…だから…短い間だったけど…楽しかったよ…姉さん…」
香さんの額に口付けをして、意識を狩った。さてと、死出の旅路に行くかな?
---テレサ・テスタロッサ---
身体を揺り動かされている。ここはどこだ?ゆっくりと瞼を開ける。目に入って来たのは、かなめの不安そうな顔だった。
「テッサ、彼は?」
「彼?」
意識が朦朧としている。頸動脈を絞められたのか。
「マッキーは?」
「部屋にいるんじゃないの?」
くそっ!記憶が曖昧だ。誰にやられたんだ?
「ここが彼の部屋よ」
あっ!想い出した。アイツを止めようとして、オトされたのか…くそっ!
「行かないと。連れ帰る…絶対に…」
自分の部屋に戻り、軍専用の無線機の電源をオンにした。
「こちらアンスズ」
自分のコールサインを久しぶりに…覚えてくれているだろうか?
「こちらウルズ2、メリッサ。大佐、お久しぶりです♪」
やけに明瞭に聞こえる元部下のマオの声。彼女の現在位置はここから近い…なんで?
「今、どこにいる?」
「大佐を迎えに♪」
大佐?
「誰を?」
「テレサ・テスタロッサ大佐ですよ♪」
耳を疑うような名前…もう捨てた名前だ。
「私は退役したんだぞ!」
「私達の中ではいつまでも大佐ですよ♪あっ!着きました。バイクです」
急いで着替えて、必要な物が詰め込んであるバックパックを背負って、外で出た。
「早く載って下さい」
メリッサからヘルメットが渡され、それを被り後部シートに跨がった。
「行きますよ♪」
ヘルメットには会話用のヘッドセットが組み込まれていた。
「どうして…協力をしてくれるんだ?」
アイツは私達連合軍から見たら、敵である。
「私とクルツは生き証人です。まして、彼は私にとって恩人ですから」
「どういうことだ?」
「そういうことです。宗介の死には、隠された真実があるんです」
「アイツに全て訊いたけど」
あのバカ…まだ隠していたのか…
「全て話さないですよ。宗介の汚点に関しては…連合軍の汚点もね」
汚点…何があって、あいつは墓場まで持っていくんだ?
「横須賀まで時間があります。話しますね」
メリッサの声は緊張からか、震えていた。
「アイツのチームと交戦後、ベースキャンプにしていたビルへ戻ったんですが…宗介を慕ったいた現地の少女が、現地の兵士達に回されて…」
回された?規律違反では無いか…無理ヤリそういうことは…
「で、当然、宗介はキレていたんですが、現地兵士のリーダー格が、その少女にエンジェルダストを投与して、宗介を襲わせたんです」
何だって…宗介を…味方が襲わせた?
「で、次はお前から活力を貰うって、私に十数人の男達が、襲い掛かって来たんです。クルツは現状を理解出来ずに固まっていて、私は多数の男に押し倒され…」
メリッサの声は涙声だった。そんなことが起きて居たのか…女断ち…兵に成り立ての若い兵士や、精力ありあまる男達には、苦であるらしい。そんな奴らの前に若い女がいたら…
「そんな窮地をアイツが助けてくれたんです。『味方を襲うとは世も末だな』って…私とクルツに宗介を救えといい、彼は一人で現地兵を相手に戦ってくれました」
連合軍と現地の軍との決め事で、問題があったら、直接手は出さずに、上官へ報告する事が連合軍の兵士に課された。但し、上官は現地の兵士で、現地兵の不祥事はもみ消されていたのが実情である。村を襲っての強姦、強盗は当たり前の兵士達だった。最初の取り決めが無ければ、規律違反で制裁していたと思う。
アイツは、そんな現地の兵士に恐怖を感じた住民が、雇った傭兵だった。あの国の内戦の勝敗には関係無い勢力だったが、あの宗介の事件以降、連合軍が肩入れしていた勢力は、アイツのせいで敗戦濃厚になり、相手に降伏したのだった。連合軍に相談もせずに。
そして、今日…和平条約が結ばれるらしい。降伏した側の出した条件はジョン・スミスの身柄の引き渡しだけだった。そのことで、連合軍の軍指令部が、マオ達から事情を訊き、真実を知ったそうだ。
「報告書では、現地の指令部の改竄したストーリーだった。ジョンが、奇襲をして現地兵と民間の女性、そして宗介を楽しそうに殺していたって…」
私の見た報告書はたぶん、それだ。私はジョンがそんなことをするとは思えなかった。敵、味方だったけど、宗介とジョンは、良きライバルとして信用し、信頼していたから。
「じゃ、宗介の死因も違うの?」
「死因は同じですが。そこまでに至る経緯が違います。モンスター化した少女を殺せない宗介は、頭部に相当深いダメージを負っていました。私とクルツの攻撃なんか全然効かず、宗介はボコボコにされていたんです」
あの宗介が…殺すのが難しい兵士ランキングがあったら、一位か二位クラスだぞ。
「あのキャンプにいた現地兵を皆殺しにして、戻って来たジョンが、少女を宗介から引き離し、心臓を撃ち抜いてくれました」
エンジェルダストは悪魔の薬である。心臓を撃ち抜く以外に、殺せる手段が無いと言われていた。宗介に対してマウントポジションにいたモンスターを、宗介から引きはがさない限り、心臓を撃ち抜くことは難しい。背中の筋肉は戦車の装甲並と言われていたから、胸側から撃ち抜かないと止められない。
「そして、宗介に…『英雄の死に顔では無いなぁ。俺がお前を英雄にしてやる』って、首を切断して、宗介の頭部とネームタグを持って、アイツは去っていったんです」
そんなに惨い状態の頭部だったのか…
「ジョンが宗介に手を掛けた時、宗介は?」
「たぶんダメだったです。意識障害に陥っていました。ちどり、ちどりと叫んでいただけだった」
宗介は最期の時に、千鳥かなめを見たのだろう。薄れ行く意識の脳裏で…
「で、ジョンはどこへ連れて行かれたんだ?」
「たぶん、あの汚らわしい場所だと思います」
宗介の逝った場所か…
---マッキー---
丸三日、何も飲み喰いしていない。ひどい扱いだ。喫茶ポアロのナポリタンが恋しい。そんなナポリタンに飢えている俺の目の前には、ケダモノ達の1個師団がいる。昔見た映画…高倉健と薬師丸ひろ子の映画…あのラストシーンのようだ。俺には薬師丸ひろ子がいないけど…
空からジェット機の音がする。ヘリの音もする。陸軍と空軍で俺を袋叩きか?テッサ…かなめ…宗介の代わりは出来ないかも。蘭…工藤新一は、お前の手で取り戻せよ♪俺は俺の道を行く。宗介…もうすぐ逝けそうだよ…但し、ただでは殺されないよ。さて、ショウの開幕だな♪
---テレサ・テスタロッサ---
かって艦長を務めたことがある潜水艦の中にいる。和平交渉が難航しているようだ。あのケダモノ国家が、和平条件を変えて来たそうだ。ジョンの身柄の受け渡しから、ジョンの死体が出来た後にしたらしい。それはつまり、公開死刑後ってことだ。いや、アイツがいなくなれば、戦争は続行しかねない。
当然、あの国家の後盾をした連合軍も、敵対勢力も、この条件変更は許せないってことで団結したようだ。全軍にあの国家の殲滅指令が出た。この潜水艦も、今戦場へと向かっている。
「ジョンの死体って、まさか…あの国の全軍相手に健闘していたり…」
って、クルツが苦笑いしている。有り得る。アイツのリニアガンの射程は10Kmだ、爆撃機すらあの銃で狙撃出来るはず。理論上は…
「後、どの位だ?」
「後、30分程で、トマホークを撃てる圏内に入れます」
「そうじゃなくて、上陸までだ」
「当艦では上陸は無理ですよ」
あぁ、そうか、潜水艦では無理か…港に入らないと…って、
「港に入れないのか?」
「やつらの海軍が港にいます。撃沈させれば、余計に上陸出来ませんが…」
まぁ、潜水艦は上陸目的では無いからな。
---マッキー---
目の前に相手の軍指令官がいる。あれ?
「なんでいるんだ?和平会議はどうした?」
「貴様の死体を携えて、和平会議に出席するのだよ♪それが我が国の強さの証明になる」
軍人が絵空事を描いちゃダメだよ…軍指令官の首筋から血柱が上がった。これで終わりか?まだだ。指令室のレーダーを見ると港の方から多数の何かが飛んで来ている。目標地点はここのようだ。まだ、やるのかよ?そこまで、俺は恨まれているのか…
トマホーク相手では分が悪いでの、相棒を呼んだ。そして、相棒とともに戦線を離脱した。
---テレサ・テスタロッサ---
港にいた艦船から、トマホークが一斉に発射された。目標は内陸部だ。まさか…味方の空軍から、遠くでキノコ雲をいくつも確認したと報告が届いた。
たった一人の兵士を殺すのに、核ミサイルを投入?有り得ない…通常は。有り得ないことをするのがアイツである。たった一人で、住民達の為に戦い、得た物はなんだろうか?そんなに報酬はなかっただろう。
地上へ浮上してもらった。息苦しくなり、海風に当たりたい気分になってきたから。
『アンスズ…こちらウルズ7』
浮上中の艦内に、有り得ないヤツの声が響いた。スピーカーから有り得ない単語も…ウルズ7は宗介のコールサインである。このコールサインを使うもう一人の人物が脳裏に浮かぶ。あいつだ。あいつはコールサインを持っていないから、宗介のを使う場合があるのだ。救難信号代わりに…
「こちらアンスズ…ウルズ7、聞こえるか?」
無線のマイクを手に取り、アイツへの通信を試みた。
『喫茶ポアロのナポリタンを大盛で1つ』
生きている…この局面でナポリタンだと?!アイツ、大丈夫か?
「どうやって生き延びたんだ?」
『相棒に迎えに来てもらったんだ。今、アンスズ達の真上にいる♪』
相棒?真上?レーダーで接近する機体は無かったはずだが…海上へ浮上して、外に出て真上を見るとヘリがホバリングしていた。そのヘリは、私の姿を確認したのか、徐々に降下してきた。
相棒は?操縦席にはアイツしかいない。相棒はどこ?いや、相棒は誰?たった一人の戦場では無かったのか?
「テッサ!帰るぞ!支度しろ」
アイツに頷き、バックパックを取りに行き、戻って来ると、ヘリのハッチが開いていた。そこから載れと?飛び乗る私。ここで海ポチャしたら、延々と言われそうであるから、思い切って飛び乗った。私が載るとハッチが閉まり、ヘリが上昇していった。
「ねえ、相棒って?」
機内を見回すガ、アイツしかいない。
『初めまして、テッサ様。私は人工知能のアイです』
って、声が聞こえた。人工知能が相棒?
「あぁ、このヘリ、アイが操縦しているんだよ」
って、アイツは操縦していなかった。それなのに、ヘリは上昇をして、クルージングを始めた。
「どうやって生き延びたの?」
「コイツに載ってだよ♪」
宗介以上に常識が通用しないマッキーことジョン・スミス。
「このヘリはどうしたの?」
「研究所からテスト用途で支給された」
研究所とは、ジョンにとっての足長オジサンで、アイツのリニアガンと、ナイフもくれたそうだ。いわゆるスポンサーだと私は理解している。
「こんなのどこに置くの?」
「香さんに訊いたら、屋上にヘリポートを作ってくれるって♪」
「それ以前に、航続距離はどれ位なの?」
無給油では無理な距離である。原潜でも無い限り…
「こいつ、永久機関なんだよ♪」
永久機関?エネルギーを供給しなくても永久に動くの?まさか…
「エネルギーは?」
「二酸化炭素…詳しい原理はオレもわからない」
二酸化炭素?まぁ、この星のどこでもあるよね…じゃなくて、有り得ないだろ?それはいくらなんでも…
アイツは分厚いファイルを手渡して来た。理論と原理が書かれている。う~ん…完読結果は、可能だけど…実際はどうしているかがわからない。
「考えすぎると、老化の元だぞ♪」
そうなんだけど…
「で、アイツらはどうなったんだ?」
「陸軍と空軍は殲滅じゃ無いかな?海軍相手は、俺には無理だし。海軍はテッサの領域だろ?」
トマホークなんか、10Km以上から撃ち込むもんね。
「ねぇ、あの朝の続きをしよう♪」
あの朝の続き?何の事だ?私を押し倒して来たジョン。記憶に甦る、あの朝の事…耳が熱い…大胆すぎた。コイツを留めようとして。
「うん?ブラとパンツ履いているのか?」
「普通、履くだろ?外出時は…」
「そうか…」
遠くを見るアイツ…いじけても、何もしてやらん。床にのの字を書くアイツ。こんなに心配を掛けて、再会したら、すぐそれを強請るのか?私はそんなに安い女では無い!
---メリッサ・マオ---
上陸して、現場近くまで辿り着いた。そこは、近代兵器の墓場であった。無数に口を開いているクレーター。トマホークが降り注いだ結果である。そこら中に金属片が散らばっている。爆心地から50Km圏内は立ち入り禁止である。だけど、被爆したと思われる金属が、無数に落ちている。
「アイツ一人で、殲滅したんだよな?」
クルツがビビっている。いや、私もだ。たった一人で一国相手に戦うなんて、アイツはバカか?その結果、ケンカを売った方は全滅の上、国土も失った。半減期を迎えるまで、ここは使い物にならないだろう。あいつら、持っていた核を全て撃ち込んだようだ。捕縛した船舶には核爆弾は1つも残っていなかった。
「で、アイツはピンピンしていたよな?」
「していたよね」
「大佐は大丈夫か?一人でヘリに載ったけど…」
大佐を襲うことはしないだろう。彼女って、女っ気が無いもんなぁ…
「様子でも見に行くかな。ここでの任務が終わったら」
ヘリが飛んでいった方向を眺めるが、もう姿も形も見えない。