---マッキー---
クラリスと冴子、美和子を収容してくれ、治療法を開発してくれている組織、フォーリーブステクノロジー。通称FLTと呼ばれている最先端技術を研究、開発し、社会に貢献している企業である。
俺専用の装備品も、ここで産み出され、俺に貸与されている。テスト運用という名目で…
この企業が俺の足長おじさんである。ここのトップの四葉真夜という女性が、俺の父親の叔母に当たるそうで、戸籍が無くなった俺をサポートしてくれている。
「凪…どうするの?」
真夜おばさんは、俺を戸籍のあった時の名前で呼んでくれる。
「どうするって…姉ちゃんを救い出したい。どんな形であれ、この国に連れ戻りたい」
姉ちゃんの居場所はだいたい特定出来た。オイルマネーを盾に、外交を強きに進めている国のお城の『創造の間』という場所にいるらしい。創造…子供を身籠もらせて、出産させる部屋だという。姉ちゃんは、休むことなく、創造させられているそうだ。その国の王子、姫達を…
「非人道的だよ」
姉ちゃんの意志に関係無く…ただ、子供を産むだけの道具にされている。
「そうね…許せないことだわ」
おばさんも以前、この道具にされそうになり、救出された経験があるそうだ。そのことが原因で、二度と子供が作れない身体にされたらしい。俺と同様に、この世界の闇に怒りを持ち、消し去ることがライフワークになったそうだ。
「もし、俺が帰らなかったら、彼女達のことをお願いします」
「帰って来なさい。必ず。ねぇ、凪」
俺を見つめる目は暖かいおばさん。
「努力します」
---------
香さんに2週間の休暇を貰った。その位は往復でかかると思ったから。相棒と共に、問題の国に潜入した。目の前に広がる近未来都市。オイルマネーって、スゴい。こんな絵空事の街が作れるんだから。
ダウンタウンの呑み屋へ向かう。そこで協力者と会う約束である。この国の問題点…貧富の差である。一般的な国民の大多数はダウンタウンという木造の建物群に住んでいた。先程の近未来都市は、王族、貴族、有能な部下達しか住んでいない。殆どが海外からの旅行者か、海外の政府関係者、闇の商人達である。
「もし、生きて脱出できるのだったら、一人連れて行ってくれないか?」
俺の協力者、元老院の院長が声を掛けてきた。先代の王に仕えた重鎮だそうだ。今の王の政策には反対の立場である。
「誰を?」
「アナタのお姉様の初めてのお子様です。無理ヤリですが、自然な受精で生まれた唯一のお子様です」
二人目以降、姉ちゃんは道具にされたそうだ。子供を作る為の道具に…王は姉ちゃんの容姿に惚れ込み、姉ちゃんそっくりの子供の生産に乗り出したそうだ。
「王をそそのかしたヤツの名前は?」
「ナイトバロンと名乗ったそうで、本名や素顔は誰も知りません」
『闇の男爵』かぁ…工藤優作の代表作の主人公の名前か…アイツの熱烈なファンか?それとも…
「生きて帰る場合は、連れて行く。姉ちゃんの子供は、俺の子供だ♪」
「ありがとうございます。で、決行日にはクーデターを起こします。ここダウンタウンの住民、政権にいる同志達と共に」
「それは、任せる。俺は、俺の必要な物を奪うだけだ…」
院長が1枚に写真を俺に見せてくれた。それには姉ちゃんが映っていた。ただ出産をする為の道具…手足は無かった。頭部と胴体だけである。胸には搾乳器らしきものが付いている。下腹部を除く全身には多数のチューブが付いている。栄養補給などの供給ラインか?
下腹部は交わり易いようになっているようだ。そこだけ、生身に見える。なんで、惨い姿なんだ…姉ちゃん…10年もこんな姿なのか…
怒りが通り越して無になっていく。激怒って感情で済まない、違う感情が湧き出てくる感じだ。
「生きて、連れ帰ることは出来ません…申し訳無い」
院長は涙して俺に頭を下げた。いや、この店にいる全員が、俺に、俺なんかに頭を下げている。俺は単なる殺戮者なのに。
「頭部だけ持ち帰り、荼毘に…姉ちゃんの意識は?」
「無いです」
くそっ!
---------
近未来都市にある宮殿に侵入した。警備兵と交戦。しかし、クーデター兵も混じっていたので、割りと簡単に、『創造の間』に到達した。広い室内に、色々な装置が置かれていて、ラインやチューブが姉ちゃんの身体に伸びていた。
姉ちゃんに近寄る。
「凪…会いたかった…」
って、姉ちゃんの声が聞こえた気がした。目の前の姉ちゃんは頭に何本もの電極が刺さり、目と耳は取り除かれて、鼻と口にはマスクが装着されていた。
俺は姉ちゃんの首筋を斬り裂き、頭部だけを抱き抱え、付いている異物を取り除き、腐敗防止の培養液の入った容器に入れ、バックパックに静かに収めて、背負った。姉ちゃんの容体変化を知らせるシグナル音が鳴り響く。様子を見に来た兵達を屠っていく。そして、屋上を目指す。
窓から見える景色…街のいたるところで火花が散っていた。俺も援護射撃をしていく。戦車や、ヘリを次々に破壊していく。そして、屋上へ…俺を待っていてくれた相棒のアイ。彼女に乗り込む、テイクオフしてもらう。機内には少女が一人乗っていた。姉ちゃんの面影と、何故か工藤新一の面影がある少女。何故?ここの王には、工藤新一の要素なんか、無かったはずだけど…
---------
敵のレーダー網をかいくぐって、帰国をした。小淵沢にある医療センターへ、直接向かった。そして、姉ちゃんの首をおばさんの元へ…
容器を抱き締め泣き崩れるおばさん…腐敗はしていなかったが、死後強直をしていた。不思議と、姉ちゃんの頭部は、笑顔のように見えた。表情筋なんかもう機能していないのに。
「南美は、凪にサプライズプレゼントを残してくれたようよ」
って、落ち着きと取り戻したおばさんから言われた。
「え?何?」
おばさんの視線の先には、姉ちゃんの長女がいた。彼女がサプライズプレゼント?はて?
「その子、凪の面影があるのよ。でね、DNAを調べたんだけど…」
工藤新一の面影…それは俺の面影でもあるようだ。って?へ?なんで?
「凪と南美の間に出来た子供よ」
はぁい?
「姉ちゃんとやった記憶は無いんだけど…」
「偶然か、必然か、今となってはわからない。でも、南美に虫の知らせがあったのかもね。凪の知らない間に、凪と交わったんじゃないかな?」
は…まぁ、寝込みは襲われたら、俺はなにも出来ないくらい、爆睡している。昔も今も…
「あなた、お名前は?」
「ナミ…ねぇ、お父さん?」
恐る恐る俺に近寄って来た少女。
「なんで?」
「私と似ている…」
まぁ、面影があるってことは、似ているんだろう。
「ナミちゃん…じゃ、あなたは私の養女にするわ。戸籍が無いと不便だからね♪」
戸籍…確かに無いと不便である。
--------
休み明け…喫茶ポアロに…
「聞いたぞ♪娘がいたそうだな」
楽しそうな安室…
「だから?実感がまるで無いし。戸籍上、おばさんの娘だよ」
俺には戸籍が無い。なので、家族は持てない。
「で、何か、証拠品はあったか?」
「無いよ。姉ちゃん同様の道具が多数あって、気に入らない容姿の子供は、売られていたくらいだ」
人身売買国家であるのがわかった程度である。
「あぁ、黒幕の名前がわかったよ。ナイトバロンと名乗ったそうだ」
「ナイトバロン?工藤優作の作品に出てくる?」
頷く俺。
「カリオストロ男爵だった可能性もあるよな」
バロンは男爵である。
「まぁ、その線を視野に入れて捜査はしてみるが」
安室がナポリタンとブレンドを持って来てくれた。これこれ!俺のソウルフード♪
「安室、お替わり」
「あぁ、わかっている。作り始めている。で、次の一手はどう出る?」
「工藤新一を元に戻すと、蘭はどうなるかな…」
「えっ!元に戻す?解毒剤が見付かったのか?」
「まだだ。だけど、エンジェルダストの逆の反応だよな?細胞を活性化して増強では無くて、細胞を鎮静化させて、成長を鈍らす、もしくは元の大きさに近づけるって、感じにおいては」
美和子達への投与した解毒剤。あれにもう一手間加えればいけそうである。
「今、開発中だよ」
「そうか…彼は元に戻るのか…蘭ちゃんはどうなるかな…うっ!」
安室が何かを見て、狼狽えている。安室の視線を追うと…へ!
「今の話はどういうことですか!」
真っ直ぐに俺を見据えている蘭がいた。
「何の話だ?」
「新一が元に戻ると、私が新一に戻るようなニュアンスでしたよね!」
まぁ、そんなニュアンスだったなぁ…
「私は浮気症では無いですよ!」
語気は荒いが、俺の腕に優しく抱きつく蘭。
「アイツはあのままで良いんです。戻さないでくださいね」
それは、心が揺れるからか?恐くて訊けないけど…
「で、小耳に挟んだのですが、娘さんってどういうことですか?」
誰が吹き込んだんだ?
「何の話だ?」
「テッサちゃんが凹んでますが…」
てっさぁぁぁぁ~!
「俺の娘では無い。俺の姉ちゃんの娘だ。おばさんが養女にしてくれたんだよ」
「なんだ、そうなんだ♪」
怒りの原因はそこなのか?
「ねぇ、槇村…さん…」
もぞもぞしている蘭。
「後2週間くらいは安静にしておけ」
したいらしい。だけど、休ませることは大事である。性欲盛んな若い子には、地獄であるだろうが。
「2週間も…そんな…」
「まぁ、交わらなければ良いだけだ」
「そうなんですけど…」
俺の肩に頭を載せる蘭。甘えたいらしい。
------
蘭を充分に愛して、住処に帰宅した。
「マッキー、お仕事よ♪」
って、香さん。まぁ、2週間も休暇を貰ったからなぁ。仕事をしないと…
「どんな、外れ案件?」
「人探しよ」
まぁ、リョウ向きな仕事では無い。いつものように資料の束を手渡された。部屋に持ち込み、資料に目を通していく。
これって…
香さんの元へ行く。
「どうした?なんで、そんな目なんだ?」
俺はどんな目を香さんへ向けているのだろうか?
「この案件…無理だよ…」
「えっ?もう、見つけたのか?って、死んでいるのか?」
そんな目なのか…
「そう…死んだんだ。だから、無理だ」
「墓はどこにあるんだ?」
「無いよ。そんな物は…」
「死んだ証拠は?相手を納得させられる物が無いと、仕事は終わらない」
そうなんだけど…
「その人物は…俺だから…」
絶句する香さん。
「だから、無理だ。俺の手は血に染まっている。今更、どうにもならない」
「それでも、会ってやれよ」
って、リョウ。あれ?夜遊びタイムでは?
「ぼっちゃん…」
リョウの隣には、見覚えのある老人がいた。
「大原さん…」
父さんの牧場で牧場長をしていた人だ。
「探しましたよ…あの日以来、ずっと…」
俺に泣きすがる大原さん。
「でも、俺の手はもう…料理なんか作るのは、罪だ。そのくらい汚れているんだ」
「関係ないですよ。私だって、屠殺をして血に塗れていますから」
それは牛とかブタだろ…俺は人間を…
「なぁ、香。マッキーの料理を食べたくないか?アイツの本気の料理をさぁ」
「食べてみたいなぁ。幻の料理人が食べたい料理って興味あるし♪」
大原さんは幻の料理人と呼ばれているそうだ。納得出来る材料が手に入った時だけ、料理をするらしい。
「材料は私が用意します。もう一度、ぼっちゃんのまかない料理を食べたいんです」
遠い昔、戸籍があった頃、牧場のみんなに食事を出す係だった俺…売れ残った部位で、俺なりに心の籠もった料理を出していた。だけど、お店に出せるレベルでは無い。
「マッキー、作ってやれよ。これは仕事だぞ♪」
って、香さん。そうだね、仕事だよね。そう割り切って…
---------
材料集め…翌日から大原さんと材料を集め始めた。俺は肉を手に入れに行った。おばさんの家の敷地にある牧場に…父さんの飼っていた牛、豚、鶏は、おばさんが引き取って、同じ飼育方法で育成していた。ここの肉は、市場には出ずに、おばさんの家の食事に使われ、使い切れない分は、FLTの社食に使われているのだ。
手に入れた肉を調理していく。大原さんのお店の厨房で…幻の料理人と安室が、ノートを手にして、俺の調理方法をメモしていく。
「これが幻のコンビーフなんですね」
何故か安室が興奮している。
「そうです。同じ物が作れずに、悩んでいたんです」
って、大原さん。
「それは、肉が違うから…同じにはならないよ。肉の味は調味料では変えられない。調味料は肉の味を調える程度に抑えないと、肉の味が死んじゃうからね」
肉を軽く炙って、二人に食べてもらった。
「この味だ…あの四宮牧場で食べていた味…」
肉一切れに涙する大原さん。大げさな…
「この肉なんだ…塩、胡椒もなく、ここまで旨いなんて…」
「肉に臭みが無いから、胡椒で臭いを消さないでいい。肉に、微妙に塩味があるから、塩も要らない。そういう肉でないどダメなんだよ」
2日かけてコンビーフが完成。次にパンを焼き、バター、マヨネーズを作っていく。
「ジョン…バターもマヨネーズも手作りなのか?」
って、安室。
「あぁ…牧場のまかないだよ。牧場で取れる物を使うに決まっているだろ?」
エサに小麦の脱穀滓を混ぜていたので、小麦粉も自家製である。
「パンにはバターを入れない。後から塗るバターの味がぼやけるから」
って、ポイントを口にする俺。あの頃の記憶を呼び起こしながら。
そして、完成披露会。大原さんのお店に、リョウ、香さん、テッサ、メリッサ、かなめ、蘭、おばさん、ナミ達がやってきた。
「これだ…忘れていた味…ようやく会えた」
大原さんが泣きながら食べている。
「うん…この味ねぇ。凪、いつでも帰って来ていいわよ。厨房を任せたいわ」
って、おばさん。
「お父さん、おいしいよ♪」
って、ナミ。この発言に固まる、蘭、テッサ、かなめなどなど…
こんな平和な時間…たまに有ってもいいよね…姉ちゃん…大空に視線を向けてしまった俺。