栄依子とデートすることになった。ビートルで、住所と記憶を頼りに、栄依子に家へ向かった。
「凪君、久しぶりねぇ」
って、栄依子の母親。顔は記憶通りの感じである。
「あぁ、これ、おみやげです」
叔母の牧場で作っているチーズとバターを渡した。
「同じ系統の牛の乳、同じ製法で作っていますので、ほぼ風味は再現出来ていますよ」
と、言葉を添えた。栄依子は家族で、よく牧場に来てくれていたことを思いだしたのだ。
「あら、ありがとう。まさか、栄依子と付き合っているのが凪君とは♪」
付き合っているの意味が違うけど、栄依子の母が嬉しそうなので、間違いを指摘していない。
「あぁ後、今、俺は工藤新二ですので、間違え無いでくださいね」
そこだけは、訂正しておく。運転免許証には、この名前が記されているし。
「ごめんなさいね。つい、昔の名前で呼んじゃうわ」
栄依子には話した。犯罪被害者なので、昔と名前が違うと。
「凪君…じゃなくて、工藤君。おまたせ♪」
う~ん…いつもの栄依子が良いのだが、思いっきりメイクアップしている。時間がかかったのは、これのせいか。
「車は、うちに置いていいから」
お言葉に甘えて、栄依子の家の車庫にビートルを止めた。コインパーキングに止めようと思ったのだが、四宮タウンには無いらしい。
◇
栄依子の提案で、四宮牧場の跡地にある、四宮タウンへでデートだそうだ。
「ここのショッピングモールに、アクセサリーを置いてもらっているんだ」
って、栄依子が嬉しそうに教えてくれた。四宮牧場の跡地は、まるまる四宮町っていう町名になり、そのエリア全部が四宮タウンと呼ばれているそうだ。町の中心部には、50階建ての四宮センタービルがそびえ立っている。最上階からの眺めは良さそうだな。そのビルを中心に町が形成されていた。ショッピングモール、フードコート、ジムやエステなどもあるホテルもある。以前。ここに牧場があった面影は何も無いようだ。
「町の県境辺りには丘があるらしいの。一般公開はしていないけどね」
丘?牧場だったときにそんな物は無かったけど。造成時に出た土でも置いているのか?
栄依子の話を訊きながら、カフェテリアへと連れて行かれた。
「ここのケーキセットが有名んだよ」
二人でケーキセットを頼んだ。栄依子は紅茶、俺は珈琲で…出てて来たケーキは、不思議な味だった。栄依子も、他の女性客達も美味しそうに食べてはいるが…ケーキの一部をサンプルとして、持ち帰ることにする。安室の店の参考資料にするのだ。
「ナポリタンは無いの?」
「う~ん…ここには無いなぁ。お母さんに訊いてみるか。」
スマホを取りだし、家へ連絡をする栄依子。
「工藤君がナポリタンを食べたいって…どこかにお店あるかな?」
通話を切った栄依子。
「ごめんね。この辺りに、美味しいお店は無いみたい」
「そうか…」
カフェテリアは大きなガラス窓で外の景色が見えるようになっていたのだが、そこから有り得ない人物の顔があった。まさか、守明か?その顔にしていたのか?それだと、冴子の事件のカラクリには解明できそうだ。工藤新一がいたからと言って、冴子が誘拐されることは無いと思う。口封じは、美和子だけで良いはずだから。
「ねえ、工藤君!」
「すまない。知り合いに似ている人がいたから」
「うん?美人さん?見とれたの?私とデート中ってことを忘れるくらいの美人?」
「違う。男だよ。昔の知り合いの」
「そうか…この辺りには、中学の時に一緒だった者が、まだまだ多く住んでいるからね」
カフェテリアを出て、栄依子が卸している小物屋へ行った。
「ここだよ。この棚の商品が、私の自作だよ」
とても嬉しそうに語る栄依子。
「工藤君、何か買ってくれない?」
「プレゼントする相手がいない。栄依子にプレゼントは間抜けだろ?」
「それもそうね」
とても、幸せそうな表情の栄依子。だけど…非番なのに…『田沼平九郎事務所』から着信だよ。
「どうしたんだ?俺、非番なんだけど」
『事件発生よ、すぐ来てね。車でね』
って、京子だ。用件だけ言うと切りやがった。
「すまん、栄依子。仕事だよ」
「あれ?非番じゃないの?」
「別の事務所からのヘルプが入った。すまない。またな。次回はおめかしするな。素のお前がいんだかな」
「うん♪いってらっしゃい。私は店長と打ち合わせしてから、帰るわ」
って、言う栄依子を置いて、栄依子の家へ急いだ。
「すみません、急な出張が入って…また来ます」
「栄依子は?」
「店長さんと打ち合わせだそうです」
「あらあら。工藤君よりアクセサリーが好きなのかな」
俺は車に乗り込み、北千住へ向かった。
---十倉 栄依子---
店長からエステの体験施術の券を貰った。
「ふ~ん、工藤君っていうのか。君の彼氏は。では、これで身体を磨いてきなさい」
って。ここって四宮タウン内にある高級エステでは無いか。早速行くか。この後、予定は無いし。
店内に入り、受付で券を出すと、すぐに施術してくれると言う。
「では、脱衣室で全裸になって、このガウンに着替えてください。アクセサリーははずしてくださいね」
って、脱衣室に案内された。そこで全裸になりガウンを着て、サウナみたいな場所へ入れられた。
「ここで、毛穴に詰まった汚れや、体内の錆びを汗で流します。脱水しないように、この液体をいっぱい飲んでください」
コーラのような液体。飲むと炭酸が強めのコーラのようだ。美味しい。サウナの内部は心地良い音楽が流れ、汗が滝の様に流れ落ちていく。コーラも美味しい。身体が軽くなっていき、心が陽気になっていく。
知らない男女が入って来て、ガウンを脱がせ、私の身体をマッサージし始めた。胸を揉まれ、乳首を吸われ、唇を重ね、そして、身体を合わせてきた。変わったマッサージだな…意識が薄れていく。
---マッキー---
クッキーと東北の田舎町で捜査中である。女性の失踪事件だそうだ。そんな中、栄依子の母から連絡が入った。栄依子があの日以来、帰って来ないと言う。
「今、まだ青森なんです。仕事が終わったら、そちらへ伺います」
と、通話を切った。
「どうした?」
クッキーに訊かれた。
「1週間前にデートした子が失踪したって…」
「喰ったのか?」
「まだ…」
そうだよ、まだだよ。俺は安室に連絡をして、栄依子の捜査を依頼した。
◇
捜査が難航する中。あんどーちゃんから入電。
「この前依頼されたケーキの分析だけど、結果が出た。女性にしか効果が出ない催淫剤入りで、ミルクの成分は人間の母乳が検出されたぞ」
おいおい、マズいじゃないか…
「あんどーちゃん、リョウに頼んでくれ。栄依子を探して貰ってくれよ」
「わかった。そっちはまかせたぞ!」
って、通話が切れた。まかせたって…手がかりが無いんだけど…失踪した女性は、近々結婚することになり、両親に報告する為に、帰省したそうだ。下車駅から家まで一本道。途中、駐在署があるが、不審な車は確認されていない。
「どう思う、クッキー?」
「普通に考えて、駐在さんが怪しいよな」
駐在署から家までの道には街頭が無い。彼女は終電に乗ってきた。真っ暗で歩けたものでは無い。暗視ゴーグルを使えばのレベルである。
で、その失踪した日の夜、駐在さんは不在だったらしい。奥さんが急に産気づいて…隣町の病院へ車で向かったらしい。
「その病院へ行ってみるか?」
って、片道2時間も掛かった。あんどーちゃんが来ない訳がわかった。これは、確実に酔うだろうな。山道の2時間って…俺もクッキーもヘロヘロだし。
その病院は結構大きい。ドクターヘリもあるようだ。なんで、ヘリを呼ばなかったんだ?ヘリなら、片道20分程度のはずだ。
「ヘリに載せられない荷物があったんだろうな」
って、クッキー。そうなるよな。で、その荷物はどこへ?
「隠すとしたら?」
「モルグだろうな。ここまで持って来れば、ストレッチャーに載せれば、問題は無いし」
監視カメラは設置されていないようだ。その線か?二人でモルグへと向かった。勝手には入れないので、俺の公安調査員という立場を使い、モルグ内に入った。死体の出し入れのリストを見ていく。うん?まったく使われていないロッカーがある。そこか?しかし、そのロッカーを開けると、中は空だった。何で、使わないんだ?
看護師に話を訊くと、昨日、そこにあった者は、運び出されたそうだ。解剖の練習の為に。身元不明の遺体だったらしいので、解剖の練習用として売ったという。買い取った業者を当たる嵌めに…
買い取った業者は、裏の世界の業者のようだ。連絡先は既に売却されていた。警察は死体がないと事件として扱ってくれないからなぁ。どうするか。
「ロッカー内に毛髪があったぞ。これのDNA検査を頼めば?」
って、クッキー。その為には東京に戻らないと…ン俺とクッキーは2週間振りに東京へ帰京した。毛髪を安室に託し、俺は栄依子を探し始めた。四宮タウンでいなくなったんだよな…栄依子の卸していた小物屋へ向かうが、違う店になっていた。店長も、違う奴だし。う~ん…
高級湯屋へも行ったが、入荷した記録は無かった。有名人では無い栄依子がここに売られる可能性は低いか。そうなると、どこだ?
四宮タウンへ潜入した。顔を安室にして。以前作った人面マスクが、ここで役立つとは…昼間は賑わっているが、夜も賑わっていた。呑み屋街があったのだ。そこをふらつく。
俺の目に『ミルクホール』という看板が目に飛び込んで来た。怪しいと俺の直感が囁いている。その店の裏口から店内へと潜入した。店内には全裸の女性達がいた。首には首輪が嵌められており、客の指命で胸を揉まれ、母乳を搾乳されていた。搾乳が終わるとリードを持った客と個室に消える女性達。個室の中では男女の異常な営みが行われているのだろう。個室から客が出ると黒服が女性をストレッチャーに載せ、どこかへと運んでいく。それを追う俺。
エレベータで地下へと降りていくようだ。俺は空調ダクトを見つけ、そこから地下へと降りていく。地下に降りると、何かのカプセルに入っている女性達が多数いた。先程の女性は、奥の部屋に連れて行かれている。俺もそこが見えるダクトを探し、追いかけた。
追いかけた先は、牧場のようだ。点滴を打たれている女性。点滴が打ち終わると、全身をマッサージされている。その後、秘部を念入りに現れて、点滴をまた打たれている。何を打たれているんだ?
胸を揉まれ、乳首から白い液体が出ると、上に運ばれる女性達。母乳の促進剤か?身籠もっていないのに、脳に身籠もったと思わせているのか?そんなことを繰り返せば…ピクリとも動かなくなった女性を、カプセルに入れている。もしかして、あのカプセル内の女性達は、瀕死の女性達か?何の為にカプセルで保存しているんだ?
薬剤庫らしき場所を見つけ、調べて行く。すると…『エンジェル』と書かれた薬剤があった。これって…アンプルを数本くすねた。俺の推察通りだと、異状事態時、あのカプセル内の女性達はエンジェルなガーディアンとなり、侵入者達を殲滅するのだろう。その為に、瀕死の状態でキープしているのか。健常者よりも瀕死の方が、エンジェル達は狂気を纏うから。
次にカプセルをチェックしていく。すると…そこに栄依子がいた。乳首から赤い液体が流れている。カプセル内のセンサーに注意しながら、栄依子をカプセルから取り出した。下腹部はドス黒く変色している。脈も弱い。
俺は栄依子を背負い、ここからの脱出を試みた。
「凪君…きてくれた…だ…ありがとう…」
俺の耳元で栄依子の消えそうな声が聞こえた。
「しっかりしろ。家に連れ帰るから」
「うん…」
それが栄依子の最期の言葉だった。栄依子の脈は静かに停止していく。俺は無我夢中で外を、地上を目指した。
◇
2日後、栄依子を彼女の家に連れ戻れた。四宮タウンの正門から、栄依子の家まで10分程度だったが、警戒が厳しく、そこから出る事ができなかったのだ。なので、県境を越えて、安室に拾ってもらった。その足で検死解剖に回され、帰宅が大幅に遅れたのだった。
「えいこぉぉぉぉぉ~!」
栄依子の両親の悲痛な叫び…俺は何もしてやれなかった。
「死因は薬物中毒です」
彼女の両親に、検査結果を伝える安室。
「娘は薬なんかしてませんよ!」
「たぶん、捕らえられて、薬漬けにされたのでしょ」
安室は事実とは違う説明をしていく。事実はもっと惨い。無理ヤリホルモンバランスを弄られて、母乳を絞り取られ、そのストレスによる脳の衰弱死だったそうだ。
「工藤君、君のせいでは無い。そんなに自分を責めるな!」
って、栄依子の父親…
「君が囚われていた栄依子を、救い出してくれたそうじゃないか。ありがとうな…」
感謝されることが、つらい。あの時、一緒に帰ってくれば…くそっ!
◇
東北の事件…クッキーの採取した髪の毛のDNAが、失踪した女性のDNAと一致した。しかし、安室のチームは、四宮タウンの『ミルクホール』の捜査に着手していた。なので、冴子のチームに継続捜査を依頼したのだった。
だが、安室の方は、圧力が掛かり、捜査は難航していく。いざ、『ミルクホール』の着手出来る頃には、あの店は消えていたそうだ。あの店のあった場所は、単なるキャバレーになっていたそうだ。
「警察内部に内通者がいるんだろうな。政治家にもパイプがあるようだ」
小松原のシンパだろう。あの四宮タウンは、小松原の息でつくられたようだものだし。巨悪を前に、何も出来無い俺達。そんな俺達に新たな情報が入ってきた。
火葬場へ向かった栄依子の遺体が消えたそうだ。何の為に盗んだのだ?
「検死は終わっている。今更、何の目的だ?」
安室も首を傾げている。後、あるとすれば、愛玩目的か。死体愛好家へ売る為…
◇
裏のルートを通じて、死体愛好家を調べて行く。すると、栄依子の卸していた店の店長と似た顔がいた。名前は小路広。元軍医らしい。そいつの別荘へ向かう俺と安室達。
別荘に着き、別荘の内部を調べると、数々の女性と思われる死蝋を発見した。死蝋化した女体を特別な樹脂でコーティングし、劣化を防いでいるようである。そこには栄依子がいた。あの東北の失踪女性もいた。他にも十数体ある。
「おい!触るな!それは芸術作品だぞ!一体数百万の価値があるんだ!」
こいつ、コレクターではなく、作り手のようだ。更に調べると、別荘の地下に、製作現場があった。軍医での知識を使い、死体を死蝋化させていたようだ。
栄依子は何度も殺されたようなものだ…生きたまま陵辱され、死んでも尚も陵辱されているんだ。許せるものかっ!
「おい!止めろ!気持ちは分かるが、証拠品なんだぞ!」
銃を構えた俺に、安室が抱きつき、栄依子の破壊を止めた。
「凪…この件は、俺に任せろ…」
「四宮タウンが元凶だぞ。お前達の手は入れるのか?」
元軍医が小物屋の店長?有り得ない。それも死蝋作家だし。始めから、栄依子が狙われていたのだろう。
「必ず、裁きを受けさせる」
真剣な目の安室。
「わかった。先に見つけた方が裁く権利を得ることにしよう」
俺は安室に提案をした。