仕事の合間に四宮タウンを調べて行く。安室よりも先に、研究施設と製造工場、そして、研究データの在処を見つけないと。俺の方が遅ければ、きっと、公安と言えでも、捜査は暗礁に乗り上げるだろう。
アイに搭載された赤外線カメラなどを使い、四宮タウンを丸裸にしていく。その結果、地下には、とんでもない構造物がありそうである。センタービルは、煙突のダミーのようだ。屋上の排気口からは、あの程度のビルの排気量よりも多い空気が吐き出されていた。煙突は複数ある。柱の中央に排気用のパイプが通してあるのか?
県境にある小高い丘も調査した。いまだに、どこからか土が運び出されていた。土質からして、地下100メートルより地下の物のようだ。いまも、拡張しているのか。まるで蟻の巣のようだな。
アイのネット検索能力を使い、あのビルの設計図を盗み出す。最上階の部屋が、ヤケに厳重であることがわかった。防弾ガラスに、防弾シャッターで護られている。ヘリからの狙撃は無理か。たぶん、そこに元凶がいるはずだ。
そうなると、ビルを完全に崩壊させて、地下も殲滅か。最下層に爆弾でも仕掛けるか?う~ん…
◇
俺は叔母の元へ向かった。無理なお願いをする為に。
「凪の望む事は何でもするわ」
俺は叔母の前に、ある物を置いた。それを見て、後ずさりしている。
「その生首を再生して欲しい。骨格は特殊樹脂の人工骨で、残りはその生首の細胞からiPS細胞で作りだしてくれるかな?出来る?」
「えぇ、出来るわ…」
「後、サプライズプレゼントを作りたいんだよ。定期検診の時に、埋め込んでくれるかな?」
俺は蓋に名前を書いてある容器を複数、叔母の前に置いた。
「その細胞から、受精卵を作って欲しい。組み合わせのリストと納入先は、これだ」
叔母の前に書類を置いた。
「あなたは、どこに行こうとしているの?」
俺を心配そうに見ている叔母。
「どこだろう。何も無い世界がいいかな。いや、ナポリタンは欲しいかな」
脳裏に栄依子を思い出す。アイツがいればいい…いれば…
「ねぇ、見つけたの?」
「あぁ、最期の獲物を見つけた。俺の獲物だ。誰にも渡したくない」
「終わったら、一緒に暮らせない?」
「みんなと暮らしたい。だけど…たぶん…俺はそういう存在だから」
叔母は俺を見つめている。叔母の視線に心が折れそうだ。もっと、いたいって気になる。だけど…
「俺は俺の人生に決着をつける。人でも無いのに、人生っておかしいけどね」
俺は叔母の部屋を後にした。
◇
計画を立てていく。それに伴い、必要な物を手に入れていく。薬物関係はあんどーちゃん頼みである。かずえや志保に頼めば、彼女達を巻き込み、心配を掛けさせてしまう上、情報が漏れる可能性がある。あそこに司波兄妹がいるし。
「なぁ、こんなに爆薬をどうするんだ?」
リョウにバレた。そして、ルパンにも…
「凪…一人で終わらせるのか?俺達も手伝わせろよ」
調べた相手の戦力のリストを二人に見せた。
「最低でもそれだけいる。それも上層部にだ。中層部、下層部、深層部には更にハードなやつがいると思う」
二人は絶句している。上層部にエンジェルなガーディアンが100体以上いるから。1体でも倒すのは難しい。
「調べた結果、心臓を撃ち抜くのは難しい。女性で乳房部分に特殊な液体が入っているようだ。推測するに、緩衝材だと思われる」
「全部、女性なのか?」
「あぁ、そうだ。使えなくなった女性達を保存してある。栄依子もそこにいたが、彼女の胸は普通だった。だけど、この前、潜入した時には、胸がパンパンになっていた」
敵も防御を固めているようだ。安室達の動きを警戒しているのかもしれない。
「爆弾で吹き飛ばすのか?」
「爆弾程度で死なないだろ?それこそ、核でも落とさないとダメだ」
だけど、都市部である。そんな物は使えない。だから…
「エンジェルにはエンジェルで対抗する」
俺を見つめるルパン、リョウ。
「お前、効かないんじゃ?」
「原液を手に入れた。これなら効くはずだ」
くすねたエンジェルダストを精製して、濃度をあげてある。一緒にくすねた生成方法の書類から、更に作って精製してある。
「お前…人間を辞めるつもりか?」
「ルパン、俺は人間では無い。だから、愚問だよ」
「なぁ、この天空の城壁はどうするんだ?」
リョウが、一緒に置いた最初の段階の計画書に目を通していた。
「手立ては考えてある。協力者が納得してくれれば、問題は無い」
「まさか、テッサを使うのか?」
ビンゴなので、スルーをする。
「ICBMか?あれでは地下まで届かないだろ?」
「あれだけではね」
もう1つ使う。あの排気塔は粉砕しないと、巣にいる蟻達の全滅は難しいだろう。酸素をなくさないとダメだ。
「問題は関係無い者達を巻き込むことになる。思ったより蟻の巣が広範囲なんだよ」
栄依子の実家の地下までも浸食していた。隣の町も粉砕することになる。
「前もって避難はさせないのか?」
「させない。バレるだろ?戦争と同じだよ。数千人の犠牲で、数億人が助かるなら…そんな理屈だ」
こんな手は使いたくないが、バレたら、せっかくの消すチャンスを逃してしまう。
「だから、抵抗があるなら、手は出さないでくれ」
リョウにもルパンにも、こんなことに手を染めて欲しくない。
「いや、逃がすチャンスはある。付近を停電させれば、動きはバレないだろ?まぁ、天空の城壁が消えないとダメだが」
停電かぁ…
「まぁ、それはこっちで面倒をみるよ。お前は破壊工作だけ考えろ」
そう言い残すと、ルパンが、去っていた。
「凪…」
「そういうことだ…リョウ」
俺は立ち去ろうとすると、
「かなめに会わないのか?」
「まだ、彼女へのプレゼントが完成しないんだよ。完成したら、会うことになるだろうな」
今度こそ、立ち去る俺。
◇
英里のマンションに来てしまった。
「何をしているの。あがりなさいよ。まだ、出来ないけど」
英里の笑顔…それを見つめているだけの俺。
「どうしたの?私の顔に何か付いているの?」
鏡で顔をチェックし始めた英里。
「いや…あの…今度、ヨーロッパ戦線に戻るかもしれないんだよ」
「うん?長期不在になるの?」
車椅子を器用に操縦して、俺に近づいて来た英里。
「自力で立ち上がれるようになる頃、戻って来て欲しいな」
「努力はするよ」
「ねぇ、蘭には話したの?」
「いいや…」
「どうして?」
怪訝な顔付きで俺を見る英里。
「何となく、会いづらいから」
「凪君は何も悪くないのよ。悪いのは、あなたにソックリな探偵小僧なの」
「俺が、アイツに似ているせいで、蘭はあんな目に…すみませんでした」
俺は英里に頭を下げて、その場から逃げる様に去った。
◇
テッサ久しぶりに逢った。これが最期かもしれないけど…テッサと二人きりになるために、アイに連れ込んだ。
「どうしたの?」
「テッサに頼みがある」
何かを警戒するテッサ。
「テッサの望むように、もう俺は、テッサやかなめに殺される事を、夢見ないことにした。その代わり、船に戻り、ある目標を破壊して欲しい。テッサの手で」
「私は軍人を引退したんだよ」
「ミスリルには、正式な依頼をする。だから…俺の任務を終えれば、テッサにはプレゼントをあげる。テッサの望みを叶えるプレゼントだよ」
俺の言葉に嬉しそうな顔のテッサ。ごめん、テッサの望む方向では無いんだ。本当にゴメン。
◇
叔母から連絡が届いた。完成したらしい。俺は、叔母の元を訪ねた。
「どう?」
出来上がった者をチェックしていく。仕上がりは良い。表面が、継ぎ接ぎ状態ではあるが、問題は無いレベルか。
「ありがとう…叔母…いや、お祖母様」
のはずだ。血統的には…
「凪…」
叔母の顔は悲しそうだ。
「どうせ、もう長くないよ。だから、そんなに哀しまないで、叔母さん…」
叔母は言葉を発しず、俺を見つめている。
「これは神様が決めたことだと思う。存在しちゃダメな俺に、存在してはいけない技術を消すこと…これをする為に産まれたんだと思う」
「勝算はあるの?」
俺は1本のアンプルを見せた。
「エンジェルダストの原液だよ。やっと組成と製造方法がわかってね」
「無理やり、活性化なんかしたら…あなたは…」
「どうせ、もうダメなんだから、最後くらい限界まで活性化して見るよ。うっ!」
いきなりの吐き気…口から色々な物が蒔かれていく。限界かな…ダチの肩を借りる俺。
「終わるまで、保たせるよ」
胸ポケットから注射器を取りだし、首元に注入した。
「これは細胞分裂の遅延薬だ。崩壊へ加速している細胞を鈍らせる効果がある」
俺を…こんな俺を心配そうに見つめる叔母。
「叔母さん…ナミを頼みます。ガールフレンド達も…蘭と子供達も…はぁ~」
なんか苦しい。長いは無用だな。
◇
記憶が曖昧になってきた。ここはどこだ?どこかに浮かんでいる感じがする。何も見えない。
『起きて下さい。着きました』
誰の声だっけ?う~ん…アイかな。目の前にはオレンジ色の球体が見えた。オレンジ色の腕を俺達の方へ伸ばしてきている。
『いえ、これからも、いつまでも一緒にいられます。凪様の細胞の灰を、私の金属物質が包む筈ですから』
何を言っているんだ?これは夢かな?あれ?テッサはどうしたんだ?
『最期のスキャンデータを送信します』
また、意識が朦朧としてきた。
◇
「凪…」
遠くから叔母の声が聞こえる。
「起きて…お願いだから…」
目をゆっくりと開く。叔母の顔が…昨日見たよりも、随分と歳を重ねているように見える。
「ここは?どこ?テッサは?」
「ここは、医療センターの研究棟よ」
研究棟…俺は実験台にされたのか?
「どう?身体の具合は?」
身体?手の感覚、足の感覚がある。朝立ちは無い。性欲は無いようだ。
「うまく動かないけど…」
うん?俺は舌を動かさず、口を動かさずに話している。どうしてだ?
「俺は…どうなったの?」
「アナタの残してくれたデータで、アナタを再建しました。どう?新しい身体は?」
新しい身体?
「新しい?」
「そうよ。以前とは違い、安定した細胞になっているの。どう?」
叔母が優しい口調で話し掛けてくれている。
「凪様…」
深雪が目の前にいる。
「深雪?」
「え?私はアイですよ」
アイ?あれ?俺は夢を見ていたのか?
「じゃ、深雪は?」
「もういないわ。あの子達は」
って、叔母。いない?
「あの子達の細胞を使って、アナタの不安定な細胞を安定化させたのよ。アイの身体にも、凪の細胞を使っているのよ」
俺のiPS細胞か?
「いないって、どういうこと?」
「あの子達は守明の送り込んだ2重スパイだったのよ。だから、粛清したの」
あぁ、だから、いないのか…
「あれ?胸の傷が無い…」
「今の凪は達也にそっくりよ」
工藤新一のソックリでは無いのか…
「あの兄妹の戸籍を利用するので、その顔なのよ」
なるほど…
「後ねぇ、言いにくいんだけど…サイボーグなの。凪もアイも…だから、ナポリタンは食べられないのよ…」
え?!それはショックすぎる…そうか、消化器官が全損だったのか。そして、舌も声帯も…傷みやすいからな、ホルモン系は…
一部でも残れば、再建は出来るのだが、全損の場合は難しいらしいって、本で読んだ気がする。
「かずえさんに、研究をしてもらっているわ。だから、ちょっと待ってね」
かずえは元気なのか…
「志保は?」
「元気よ。みんな元気。かずえさんと志保さんは、凪に直接精子を貰いたいって、受精卵を拒否しているのよ」
頑固だからなぁ、あの二人は。
「リハビリをしましょう。自力歩行が出来ないと、みんなに会えないでしょ?」
そうだね。心配されるのは好きではないから。