---千鳥かなめ---
何だろうか…胸騒ぎがする…
寝てすぐに目が覚めた。何かの胸騒ぎを感じる。何が起きているんだろうか?階下にあるリビングへと向かうと、ちょうど香さんが階下へと降りていくところだった。私は香さんの後に続いた。
階下のガレージには数名の男性達がいて、車に武器、弾薬を積み込んでいた。その中の一人の顔を見て、一瞬固まった私。そこには、ここにいるはずの無い、絶対に忘れたくない人物がいた。なんで…幻かな?夢かな?後悔はしたくないので、大声で彼の名前を呼んだ。
「宗介!」
振り返った彼。間違い無い。私は彼の元へと駆け寄った。
「ねぇ、本物の宗介?」
「肯定だ、千鳥」
この話し方は宗介だ。咄嗟に彼へ抱きついた私。でも、おかしい。死んだはずだ。お墓もあったし。
「宗介…死んだはずでは?」
「それも肯定だ、千鳥」
え?!死んだのに、なんで…生きているの?彼の身体は冷たくない。首筋で脈も感じられるし。混乱する私。あれ?
「ジョンに助けられた。俺の首から上を培養液で保存をして、人工血液を循環させて、俺の脳を、死から護ってくれたんだ」
「でも、墓があったよ」
「ジョンが言うには、髪の毛は大食らいだそうで、全て剃って、墓に入れたそうだ」
ジョン…ありがとう…って、そうだ。ジョンはどこだ?彼は、知らない男性と二人で、武器、弾薬を車に積み込んでいた。
「ジョン…」
彼の名前を呼んで息を飲んだ私。彼の顔色は良くない。とても、つらそうである。何かあったのか?立っているのも、つらそうである。だけど、黙々と車へと荷物を積み込んでいた。
「かなめ、宗介は返した。今後はテッサと取り合いを再開だな」
彼の言葉…もう、ここへは、帰って来ないってことに思える。だって、テッサは宗介で無く、彼を…
「ねぇ、もう帰って来ないの?」
「当分、無理かな。今日の作戦後、異国へ行くんだよ。相棒と二人でね。だから、何時帰れるか、わからない」
相棒って、あの男性かな?
「ここに、帰って来てくれるんだよね?」
「かなめは、宗介がいれば良いだろ?お前、欲張りは良く無いぞ」
笑顔の彼…だけど、どこか寂しそうだ。
「宗介の首から下は無かったんでしょ?」
そう、一番の疑問を訊いて置かないと。
「あぁ、iPS細胞で作って、組み合わせてあるよ。よく見ると、まだ傷が継ぎ接ぎ状に残っている。骨は作るのが困難だから。特殊樹脂で作ってある。後、性器も困難だから、僕のクローンだよ」
コイツ、発想が規格外過ぎる。なぜ、性器を自分のクローンで作ったのだ?ジョンのは、見慣れているから、違和感無くて良いと思うけど。
「組み合わせは得意なんだ。俺の育ての父がそうだったから」
「ねぇ、テッサには話をした?」
ここにいない親友のことを訊いた。
「今回の作戦のバックアップを頼んである。相棒らしいマネが、出来ると喜んでいたよ」
「そうじゃなくて、しばらく帰れないことよ」
「言えない…言える訳無いだろ?」
ジョンの目には涙が…
「すまない、決心が揺らぎそうだ」
首元に衝撃を感じ、意識が狩り取られていく。
---槇村香---
「敵のアジトを見つけたのか?」
「あぁ、見つけたよ。あれは見付からない訳だ」
「どういうこと?」
「蟻の巣みたいなアジトだ。入口には全然関係無い建物を置き、地下に巨大なアジトを集約していた」
地下にか…
「でも、巨大な地下構造物なら、建築中にバレるんじゃないのか?」
「だから、土地開発の造成中に、地下構造物の基礎を埋め込んだようだ。掘り出した土は、近くの山に捨てる構造になっていた」
そうなると、すごい前からの計画なんだな。
「あと、見てはいけない者の正体も分かった…槇村さんだったよ」
何?!アニキに化けていたのか…
「捜査に冴子が来ていて、マズいと思ったのだろう。槇村さんと冴子は恋人同士だったから。でも美和子は、槇村さんとは面識が無いけど、相手はそんなことは知らず、冴子と一緒に捜査していた美和子も攫ったのかもしれない」
凪は一人でここまで調べたのか…執念だな。色々な仕事の合間に…
「あぁ、そうだ。香さんには、今までのお礼に、リョウとの子供をお腹に入れてあるから」
「「はぁ~?!」」
リョウとハモった私。
「おい!どういうことだ?!」
「リョウの健康な細胞で精子を作り、香さんの健康な細胞で卵子を作りだして、受精させたんだ。成長加速器で加速して、香さんの体内に入れてある。この前の健康診断の時に、こっそりとねぇ。MRI検査って、動けないでしょ?頭はボンヤリするしねぇ♪」
入れた?MRI検査の時にだって…何時の間に…
「ルパン!不二子にはルパンの子供をギフトした。クラリスにもだよ」
「おい!何、余計な事をしているんだ…まさか、凪…お前…」
ルパンが何かに気づいた。
「テッサとかなめには、宗介との子供をギフトした。今までの感謝の気持ちだよ。受け取ってくれ」
凪…消えるつもりなのか…
「俺は存在しちゃダメなんだよ…そうだろ?ルパン、リョウ!」
二人共、凪に言い返せない。凪の真実…交配で産まれた人間では無い…だから…
「それに、俺は今日、完全に人間では無くなる」
絶句する皆。どういう意味だ…
「それくらいなことをしないと殲滅は難しいんだよ。だって、俺みたなのが沢山いるんだよ。だから、限界まで細胞を活性化させる。それが意味することは、俺が一番分かっている」
「ダメだ!それはやっちゃダメだ、凪!」
リョウが止める。だけど…
「俺を見れば、先が無いのがわかるだろ?身体が限界なんだよ。もう…こうして立っているのもつらいんだよ。内臓が溶け始めている気もする」
不完全な細胞が寿命なのか…
「もう1回、喫茶ポアロのナポリタン…食べたかった…」
凪の顔色が青白くなってきた。目元が窪み始め、クマが出来ている。さっきまでなかったのに…細胞が加速しているのか…
「リョウ、ルパン、クッキー、宗介…作戦終了後に、俺が俺で無かったら、その場で始末してくれ…こんな姿を蘭とテッサ、冴子には見せたく無い…」
「大丈夫か、相棒」
クッキーが肩を貸しながら、凪を車に載せた。
「ルパン、急ごう…凪が生きている間に終わらせるぞ。この大掃除は」
「あぁ、そうだな。もう、俺達には凪に、それしかしてやれない」
それぞれの車に乗り込み、出撃した。