02/25 誤字を修正
---テレサ・テスタロッサ----
幸せな日々…かなめがいて、宗介がいて…私達の子供がいて。でも、何かが足り無い。何だろうか?忙しい毎日を過ごすあまり、何か大切な事を忘れてしまった気がする。
「どうしたの、テッサ?」
かなめに訊かれた。
「何かが足り無いの。それが何かがわからない」
「テッサは性欲が多いのかな?いいわよ。私の分を使っても」
いや、宗介と交わりたい訳では無い。ただ、宗介に抱かれると安心出来るというか。この喪失感は、宗介由来では無い気がするし。
宗介は、香さんの下で働いている。スィーパーとして、主に裏の仕事である。表の仕事は脳筋すぎて、苦情が多数になるらしい。
リビングに降りると、香さんが接客中だった。香さんの前に座る男女。どこかで見た事のある顔である。どこだっけ?
「あぁ、テッサ。今日から、うちに住み込みで働いてくれるそうなの。仲良くしてよね」
って、香さん。
「司波達也です」
「達也の妹の司波深雪です」
兄妹らしい。司波かぁ…どこかで聞いた事のある名前…どこだっけ…う~ん…そうだ!私を殺そうとした兄妹では無いか?
「そんな身構え無いでも大丈夫よ」
だが、しかし…油断は出来ない。うん?男性の方が近寄って来た。そして、私を抱き締めた?有り得ない。だけど、懐かしい気持ちになれる。なんでだ?
「テッサ、元気そうだな。う~ん、この胸の感触…あれ?垂れたのか?」
いきなり失礼なことを言う男…って、コイツに抱かれた覚えは無い。
「あぁ、出産をしたからか」
「お前!失礼だな!」
「そうだった。初対面だったな。忘れていたよ」
「お兄様、記憶がまだ、曖昧なんですか?」
あの女が笑っている。
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あの兄妹は同じ部屋のようだ。シスコンとブラコンの兄妹なのか?
「どうしたの、テッサ?」
かなめに訊かれた。
「新人の女の方は、以前、私を殺そうとした奴だよ」
「テッサを?でも、そういう人は、香さんが雇わないと思うけど」
そうなのだけど…警戒はしていないと。何をしに来たんだ?あの兄妹は…
「うん?帰ってきたのか?」
宗介が男の方に話し掛けている。あれ?知り合いだっけ?
「あぁ、だいぶ掛かったけどな」
「10年くらいになるか?」
「そのくらいかな。って言っても、この前目覚めたばかりで、戸惑っているよ」
目覚めたばかり?
「テッサには話をしたのか?」
「していない。覚えていないようだから、特に話さないで良い」
覚えていない?う~ん…つきあった覚えは無い。10年前と言えば、宗介との子供を…頭の中が真っ白になっていく。まさか…そんなはずは…顔がまるで違う…なんで?
◇
気が付くと、医療センターのベッドの上にいた。
「テッサさん、大丈夫ですか?いきなり、倒れて、ここに運び込まれたんですよ」
ナミちゃんが、説明してくれた。彼女は、ここでナースとして勤務していた。
「ねぇ、ナミちゃんのお父さんって、毎月面会日に来ている?」
「来ていますよ。養育費を払いに。って、私は今年で養育費の出ない歳になりましたけど」
今年で二十歳になったナミちゃん。そうか、毎月来ているなら、違うのか…
「どうしたんですか?」
「いや、いいんだ。気のせいのようだ」
「心配事があるのでしたら、話してください」
「そのお父さんは本当のお父さん?」
「うん?う~ん…蘭母さんがそうだって言っているから、その筈なんだけど、胸に傷が無いんですよ。まぁ、ここの修復技術なら傷跡の消去なんか問題無いから」
胸に傷が無い…偽物?そうじゃない工藤新一の方では?蘭さんと復縁したがっているし。置き換わったのか?
「ねぇ、変な事を言うけど…」
「何でも言ってくださいね」
「工藤新一じゃないの?その人…」
◇
翌月の面会の日、ナミちゃんに付き添いで、彼に会いに行った。と、いっても医療センターへ彼が来たのだが。蘭さん家族は、ここに住み込み、彼女は事務の仕事をしているのだ。
「ナミ、どうしたんだ?そんな恐い顔をして…」
「あなたは工藤新一さんですか?」
一瞬狼狽えた彼。それを私もナミちゃんも見逃さない。
「そうなんですね。お父さんに成り代わったのは、お父さんを殺したのですか?」
「おい、待て!おい、蘭、なんか言ってやれよ!」
「だから…言ったでしょ?私が彼と子供を作らない理由を!新一が、まさにそれだったのよ。アンタは、ナミちゃんのかわいがり方がぎこちなかったのよ。気づいていなかった?」
やはり、工藤新一だった。
「私のお父さんはどこよ!お父さんの偽物さん…10年も騙していたなんて…ねぇ、捧げた物を返してよ!」
捧げた?私と蘭さんが、この男の悪事に気づいた。
「新一…最低ね!ナミちゃんと寝たの?」
「いや、一緒に寝るって言われて…まぁ、血も繋がっていないし…蘭は相手をしてくれないしなぁ」
「そんな…お父さんだと思ったから…捧げたのに…」
ナミちゃんがハサミを手にした。そして、工藤新一に身体ごとぶつかっていく。だけど、途中で阻止された。何時の間にか来た司波達也が、ナミちゃんの持つハサミの餌食になったのだ。
「なんで…こんなやつを庇うの?」
「ナミはそんな子じゃ無いだろ?」
一瞬キョットンとした、ナミちゃんだったが、何かを感じ取り、目から大量の涙を流して、司波達也に抱きついた。
「お父さぁ~ん」
え!
◇
処置室で司波達也の修理をしている。
「ごめんなさい…お父さん」
「人工皮膚の下には装甲板が入っているから、大丈夫のはずだよ」
先端の曲がったハサミを指差した彼。その彼はナミちゃんの頭を優しく撫でた。
「痛かったら言ってくれ。まだ、力の調整が出来ないんだよ」
「少し痛いけど、大丈夫だよ。ねぇ、これからはずっと、一緒にいてくれる?」
「もちろんだ。っていうか、ここでしか修理が出来ないからな。当分はここで生活だよ」
彼の身体はサイボーグ化されていた。本物の司波兄妹は、既に真夜さんにより粛清され、その身体と戸籍を彼らに与えたそうだ。って、女の方は誰だ?
「テッサ、ただいま」
う~ん、顔が違うので違和感がある。ナミちゃんのように素直に接することが出来ないかな。
「おかえりなさい…ジョン。で、彼女は誰?」
「うん?お前、散々世話になっただろ?アイだよ」
アイ?ヘリに搭載されていた人工知能か…
「お久しぶりです。テッサさん」
「何がどうなっているの?」
志保さんが呆れるように訊いた。戦地に行ったと信じ込んでいた一人である。
「記憶が飛ぶようになってきた時に、アイに搭載していた脳スキャン装置で、記憶を量子化してファイル化したんだ。俺の記憶と、アイの記憶を。それに叔母さんが気づいて、人工頭脳の記憶領域にアップロードしてくれたんだよ」
「ねぇ、敢えて訊くけど、加齢はするの?」
「志保、すまん。歳取らないみたいだ。自前の細胞で顔を再生すると、歳を取るらしいんだけど、工藤優作みたいになっちゃうらしいんだよ。あの顔はイヤだろ?」
笑っているジョン。頭を抱える志保さん。それは、私達だけが、歳を重ねるってことだ。
「加齢した方がいいか?一応、自前の細胞で作った頭部もあるんだよ。すげ替えて貰うわ」
なんか、チートなことを言っているジョン。
「お父さん、ナポリタンは食べられるの?」
ナミちゃんが心配そうに訊いた。
「現状は難しい。味覚センサーが上手く機能しない上、食べた物を消化、吸収出来ないみたいだ。だから、たまに燃料を補給しないとダメなんだよ」
この二人、体内に小型の核融合炉を持ち、発電しているそうだ。たまに重水素などを入れないと、発電効率が悪いらしい。そして、発電した電力で、栄養剤を補給したりしているようだ。便利なんだか、不便なんだか…
「いずれ、味覚センサーは改良するわ。食べた物はメタノール化できるようにする。それよりも、抱けるの?」
って、かずえさん。
「あぁ、性器だけは生身だから大丈夫だよ。ただ、自前の細胞では、精巣は作れないから子供は作れない」
作れないんだ…うん?それは性器だけが、年齢を重ねるのか?う~ん、訊けない…
「あぁ、不完全な細胞の精子が保存されているけど、娘しか出来無いみたいだよ」
って、それでも構わない。私、かずえさん、志保さんがお強請りをしていた。
◇
工藤新一はまた牢屋へ…ナミちゃんに対するわいせつ行為で…蘭さんに対する前科があるので、当分出られないらしい。そして、蘭さんの時と同様に、身分をジョンと偽っての性行為、裁判所も警察も反省が無いと、重い罪を課せるらしい。
「お姉ちゃんに酷いことを…」
「最低な奴だよね。お父さんに化けて!」
って、実の子供達からもバッシングを喰らい、工藤新一は凹んでいるらしい。
私は…思い切って、ジョンに告白をした。
「宗介じゃ不満なのか?」
「不満じゃないよ」
「なんで俺なの?俺、サイボーグだぞ。結婚できないと思う」
「今度は、戸籍が有るんだよね?」
「有るけど…蘭が既に妻欄にいるんだよ」
「問題はそこか…う~ん…って、宗介とも結婚出来ないじゃん。かなめがいるし」
「あぁ、そうだねぇ」
って、ジョンの困った顔を久しぶりに見た。一緒にいるだけでも、嬉しいかな。
みんなからの要望により、自前の細胞で作った頭部になったジョン。少し司波達也色が混じっている。細胞の安定化に彼の細胞を使った為らしい。アイの方は、司波深雪にジョンの色が入っている。そんな感じで、二人は兄妹に見える。
「ねぇ、子供欲しいよ~」
「子育てをしない奴にはあげないよ」
って、意地悪なジョン。まぁ、彼の言うとおり、宗介との子供はかなめが育ててくれている。かなめの中では双子の扱いらしい。
「ジョンの子供が欲しいよ~」
「って、お前が子供みたいだよ」
って、笑っているし。
「ねぇ…」
「たまには、テッサの身体を検査するか」
検査?彼の部屋へ連れ込まれる私。
◇
ジョンがあることに気づいた。
『そうだ…この世界だけが、俺達の世界では無い』
ってことに…
◇
目の前には、出逢った頃の面影のあるジョンがいる。私達の家を買い、そこで暮らしている。
「いいのか?」
「もちろんよ」
ジョンと身体を合わせる。この世界では子供は産まれない。でも、ジョンの鼓動を体内で感じることが出来る。
「交わるだけで、色々な刺激を感じる…不思議ねぇ」
私の耳元でジョンの寝息が聞こえてきた。交わって、直ぐに安眠かな。疲れているんだな。きっと…
あの世界が滅ぶまで、この世界は維持されるだろう。隣の家は宗介とかなめの家である。まだ宗介しかいないけど。
「どう?」
真夜さんが入って来た。私達と同居している。
「味気ない性行為以外は、気に入っています」
「ふふふ、テッサさんは、本当に凪とスルことが好きなんですね」
まぁ…女性としての本能と言うか…
「凪の発想は、いつも斜め上よね。ナポリタンが食べられないなら、生きている必要せいが無いって…」
ジョンの中では、セックスよりもナポリタンの方が上だった。
「でも、その想いが、この世界を作ったから、まんざら悪くないわ」
ジョンとアイが作り上げた世界。ALOの世界を拡張した感じの世界。ジョンとアイは身体を捨て、二人の人工頭脳は、この世界の基幹システムをコントロールする、中央演算装置に組み込まれた。
「ここなら、いつまでも生きられる。脳の記憶領域の量子化データをつくればね」
医療センターでの終末医療の結末…身体が持たないなら、救える記憶だけでも、この世界で生かす。ここで、人生のロスタイムを過ごすことで、心身ともに人生を全う出来るのではって、結論に達したそうだ。
真夜様は老衰になる前に、記憶を量子化して、この世界で生きている。彼女のリアル体は保って2週間って感じらしい。
そういう私は、メディキュボイドで、ここへ来ている。ジョンがいなくなったことで、精神を病んでしまったそうだ。
「いずれ、みんな、ここに永住するんでしょうね」
宗介は、作られた身体が、未完成だった為、ここへの永住を決めた。やはり、頭部以外の再生には無理があったようだ。
健康なみんなは、ヘッドセットから脳波のリンクで、このVR世界へ来られる。ナミちゃんも蘭さんもかずえさん、志保さん…みんな、暇な時間はここに来て過ごしている。
「うん?叔母さん…来ていたのですか?」
彼が目を覚ました。
「どう?調子は?」
「ナポリタンを味わえる幸せを満喫しています♪」
そこには、私達の見たかった、彼の満面の笑顔があった。
ラストシーンは『戦場のメリークリスマス』を、オマージュしました(^^;