【とある魔術の禁書目録】敵役なりのジンテーゼ -Kihara- 作:白滝
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終章まで書き終えていますので、だいたい3時間おきぐらいで予約投稿したいと思います。
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所雑多に実験台に並べられた試験管やシャーレ、ビーカー、三角フラスコ。
ゴミ箱から溢れ出て異臭を放つキムワイプ。
割れたまま床に放置された安全ピペッターや漏斗のガラス片。
劇物扱いの様々な溶液が実験台から床に滴り落ちており、千切れたpH試験紙が床に落ちると途端に真っ青に染色された。
冬空にも拘らず、暖房もかけずに冷え切った一室は、吐き出す息が途端に白くなる。
そんな荒れに荒れた実験室で、一人の青年が十代の女性を強姦していた。
青年は稼動中の遠心分離機の上に腰をかけ、体位としては後背位を取り、両腕を掴み女性の身体を強引に自分の身体に重ね合わさせる。女性の首筋からは蜂に刺されたかのように血が伝っており、足元には注射器と媚薬が転がっていた。
「んっ……んっ……」
女性の頬は紅潮し、望まぬ快楽に身体が熱を持つ。
青年が息荒く女性の腰を突く度に、愛液が滴る女性の太腿がビクビクと痙攣しながらか細く震えた。
悲鳴を上げて抵抗を示す女性の後頭部に、青年は傍にあったガラス製のメスシリンダーを殴りつけて黙らせる。女性はガクン、と力を失い、しな垂れた身体が青年にもたれかかる。
そしてそのまま、
「うっ……っ!!」
青年の声に熱が籠る。思わず女性を拘束する手に力が入った。
「………あ、ぁああああああああああああああああ!!」
女性の悲鳴が実験室の窓ガラスを震わせた。しかし、誰一人として駆けつける者はいない。
当然だ。
研究室長であるこの青年によって、実験
助けは来ない。女性に救いの手を差し伸べる者は訪れなかった。
青年は満足したのか、女性を突き飛ばす。
腰が抜けて顔面から床に崩れ落ちた女性は、もはや言葉にならない嗚咽を漏らしていた。
「うぃーーっ。やっぱレイプってのは気持ちいいねぇ!ハマっちゃいそうだわー」
青年の口調は軽い。
そのまま遠心分離機から降りてズボンを腰までずり上げて履き、女性の元まで歩み寄る。
「……な、何で、こんな、事を、するの?」
女性から、声を振り絞るように質問が飛んできた。
「え?いや、俺の精子が欲しかったから」
理屈の分からない回答だった。そう返答しながら、青年は力抜けて這いつくばる女性の股から、滴り落ちる自分の精液を指で掻き取った。
「まぁ、オナニーしてもいいんだけどさー、それじゃあつまんねぇじゃん?染色体が分裂する度にテロメア末端が短縮されちまう我ら動物の寿命は有限なんだっつーの。楽しまにゃあ損ってもんだろう?」
掻き取り指に付着する自分の精子をマイクロピペットでガラス管へと移し取り、自分の妹の体細胞を
いや、それだけじゃない。人工授精に用いる精子は、遠心分離機にかけて遠沈管の底に溜まった質のいい精子を選りすぐる必要がある。が、青年はマイクロピペット越しの触感と勘で質のいい精子を選り分けていた。
人間技ではない。
「私が、言ってるのは、そんな、事じゃ、ないわ」
息も絶え絶えに呟く女性の顔に、殺意の陰が曇る。
青年は驚いたように首を傾げた。
「なんで……
なんで私―――実験
「え?いや、面白そうだから」
「……………は?」
理解を超えた一言だった。意味が分からない。
ならばこの男は、ただ単に面白そうだからという思いつきが理由で実験仲間のクローンをわざわざ作り、強姦したとでも言うのか。
「まぁ、実験メンバーのみんなの前で突然
人格まで同一な実験
そう、通常の科学では。
しかし、この街『学園都市』には存在してしまう。
東京西部を一気に開発して作り出され、 一部を神奈川や埼玉に及ばせながら東京都の中央三分の一を円形に占めるこの街は、高さ五メートル、厚さ三メートルもの外壁によって外部と隔離された、先進技術に彩られた科学を追及する一大研究機関である。
外部よりも二〇年近く発達した技術を
奨学金と銘打って
そんな魔法と大差ない技術を有する学園都市ならば。
受精卵を急成長させるいくつもの投薬――――Zin-02、Riz-13、Hel-03等……。
そして、
悪魔じみた発想が、現実的な計画として実現できてしまう。
「狂っている……アナタが狂っている事に、皆が気付いてはいたわ!今までは、その知識と突飛な発想が、研究に貢献してきたから、見て見ぬ振りをしてきた……。でも、もうそうはいかない」
「はぁ?お前に何ができんだよ?」
女性の瞳に力強い意志が灯る。まだ負けた訳じゃない、と気丈に笑ってみせる。
「できるわ。………クローン人間は、未だ国際法で禁止されている。私の存在が表沙汰になれば、アナタはその地位を剥奪され失脚し、牢屋の中で一生を過ごす事になる!」
言い終わる前に、既に行動に移っていた。
女性は身を起こして窓ガラスへ駆ける。そのまま突き破って研究所の外へ逃走を試みるつもりなのだろう。あとは
が、
「させねぇよ」
青年は手元の実験台にあったガスバーナーとそのチューブを鞭のように振り回し、稼動中の遠心分離機の上蓋を叩き割った。
遠心分離機。
より正確には、超遠心分離機。一般的な小型の遠心分離器とは異なる、大型な機材。
およそ一メートル程度の立方体のようなこの装置は、取扱いが非常に危険な装置として研究者の卵は手解きを受ける。
理由は単純。
試料に対して強大な遠心力をかけることにより、その試料を構成する成分を分離または分画する機器であり、数千Gもの遠心力をかける事のできる精密機器だからだ。当然、不用意な衝撃が遠心盤に伝われば、飛び出した遠沈管がその身に襲いかかる事になる。
それを、叩き壊した。
砕けた上蓋ごとガスバーナーが遠心盤に叩きつけられ、数千Gもの遠心力を纏った遠沈管が飛び出した。
ギュゥッッ!!と空を裂く遠沈管は複雑な乱回転を得てカーブを描き、女性との直線上に鎮座するクリーンベンチを躱しながら、まるで青年が狙ったかのように女性の頭に突き進む。
Gとは重力加速度の単位であり、これが数千Gもの加速を得た場合、ポリエチレン製の遠沈管一五グラムの数千倍の重量―――最低に見積もっても三〇キログラムを超える大質量の凶器へと変貌する。
直撃し、粉砕した。
いや、削り裂いたと表現した方が正しいかもしれない。
陥没した頭蓋から脳漿と血液を撒き散らし、頭部が首から引き千切られる。
遠沈管と千切れ飛んだ女性の頭部が、ビリヤードの球のようにそのまま窓ガラスを突き破り外へ吹き飛んでいった。残された女性の胴体の首から溢れ出る血液が、実験室の床に血溜まりを作る。
「甘えんだよ。そんな程度で俺から逃げられるかよ」
偶然に遠沈管が女性と衝突したように見えるが、違う。
この青年は、機器から微かに漏れる振動音、起動してから現在までの時間、そして設定した回転数を踏まえ、どの位置をどれほどの衝撃を与えれば遠沈管がどのようなベクトルを得て、どのような軌道で目の前のクリーンベンチを躱し、女性のどの部位に衝突するかを一瞬で予測演算したのだ。
一歩間違えれば自分が被弾して死にかねない危険な行為。
しかし。
瞬間的なモーメント、ベクトル図式をイメージできる力学知識。
暗算で処理される数元連立積分方程式。
もはや機械に匹敵する人間とは思えぬ頭脳が、女性の抱いた最期の希望を圧倒した。
「あーあ、思わず殺しちゃったぜ。なんつーか、後味悪いよなー。せいぜい肉奴隷のオナペットにする程度で、殺す気はサラサラなかったんだけどよー」
軽い。
いや、口調だけではなく。
台詞も態度も嗜好も心情も行動も発想も価値観も。
この青年は、忌避すべき倫理観に対して、軽い。圧倒的に、軽い。
どうすれば人はここまで倫理の一線を踏み越えられるのか。
それは科学にどうしようもないほど愛されてしまった彼にしか分からないのだろう。
………いや、彼「ら」にしか。
その男、木原
身長一八五センチメートル。
肩甲骨まで届く長さの黒すぎるほど黒い髪を後頭部で結わい、タバコ臭い口臭を吐きながら人を見下すようにぶつぶつと喋る。
セーターの上に無造作に羽織っている白衣は薬品の汚れよりも返り血の付着が多く、長い間洗濯していない事が伺える染みがちらほらとあった。全体的に不衛生な印象を受ける。
「肉奴隷として幸せな人生を送らしてやるつもりだったんだけどよー……。やっぱ俺達『木原』が他人を幸せになんかできないのかねー?」
木原。
学園都市の研究者達の間では有名な一族。科学に愛され、科学に呪われた天才にして天災。
環境や本人の意思さえ無関係に、木原は木原であるというだけで科学に愛され、科学を悪用してしまう。
「まーったく、これだから『木原』の血筋は嫌になっちまうぜ。俺だって嫌いな人間をぶっ殺したり、仲間の仇をぶっ殺したり、仲良くなれなさそうな奴をぶっ殺したり、『助けて~』って救いを求める哀れな子羊を、一刻も早く天国に逝けるようぶっ殺したり、イイ事だってたくさんできるのによー……」
彼ら『木原』は思考回路が根本的に常人と異なる。
もはや彼らの主観など推測すら困難で、同情や共感すら不能。
言うなれば、物語の主人公として破綻しているような、狂人達の集まりである。
という訳で、誰がどう言おうとこのクズな人間が主人公です。
嫌悪感を持って頂けたら、私としても嬉しいです。