※この作品はR-18です。

【とある魔術の禁書目録】敵役なりのジンテーゼ -Kihara-   作:白滝

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第一章 塞翁が『木原』 Science_Help_but_Told

 第一三学区。

 二三箇所に分画された学園都市の学区の一つ。

 多数の小学校が集中するこの学区は、比較的治安維持に多くの予算がつぎ込まれたエリアでもある。同時に、不慮の事態を想定し、大学付属の大型病院が『飛び地』としていくつも建設されていた。

 そんな中の一つ。

 大学付属、と冠がついておきながら、実質的にはたった一人の人間のためだけに集中運用されている、特殊な病院が存在した。日に五〇〇人以上の患者を受け入れる事もあるのだが、それらは全て『余力』によって賄われている訳だ。

「院長」

「はぁい」

 若い看護師に呼び止められた三〇代の女性がゆっくりとした動作で振り返る。こちらも白衣を着ているのだが、看護師である男性のそれとは違って、医者、もしくは学者然としたものだった。

「お呼びしていた御方が到着されたようですので、事務室に通しておきました。連れに女の子もいらっしゃったようですが、大丈夫でしたか?」

「問題ないわ、ありがとう……あ、でも、そのまま私の個室に来るよう伝えてもらえないかしら?」

「はぁ、分かりました。……院長の事を随分と不躾に呼んでいらっしゃったのですが、知人の方なんですか?」

 うーん、と表情を曇らせたが、女性は愛想笑いを浮かべたまま答えた。

「初対面のはずなんだけど、まぁ問題ないでしょう。彼の姓さえ知っていれば、概ねその人格の想像がつくもの」

 

 

 そんな訳で、木原遊離は妹の相殺(そうさい)と共に病院内の院長室にやって来た。

 ドアノブを捻って部屋に入ると、思わず目を瞑るほどの暖房の風が顔を撫でた。

 天井に取り付けられた巨大なファンを見る限り、室外へ流れ出る気流を作りカビや菌類を胞子一個さえ室内に通さないよう設定しているのだろう。まるで部屋ごとクリーンベンチに改造してしまったかのようなビフォーアフターだ。下手したら、室内に人がいない間には紫外線ランプによるUV殺菌などが行われているかもしれない。

「噂に聞いちゃあいたけどよ、病的なまでに潔癖すぎるぜ、アンタ」

「あらやだ。私に関するその『噂』だけでも、暗部の人間で屍の山が積み上がる程の価値があるはずなのだけど?」

「まぁ実際、ここに来る前にアンタの知り合いを二、三人捕まえて拷問したからな。アンタみたいなお偉いさんには注意し過ぎて損はねぇし。……あぁ、金に目が眩んでついついそいつらの内臓を売り飛ばしたりしちまったけど、ちゃんと骨と皮(ゴミ屑)は焼却しといたから後始末は考えなくていいぜ」

「あらそう。気が利くわね」

 部屋の肘掛け椅子に座る見た目三〇代ぐらい女性は、薬味(やくみ)久子(ひさこ)という。

 学園都市の司法・立法・行政・軍事・外交などの運営を司る最高機関『統括理事会』に属する一二人のメンバーの内の一人。実年齢は七〇代だが、医療関係に太いパイプを持つ事や自身も医師である事から、アンチエイジングにより三〇代の顔を維持しているという奇人である。骨や内臓などは、遊離の妹である六歳の相殺よりも奇麗だろう。

「知ってる事はそれだけじゃあないぜ。この病院は対テロ用のトラップ施設として統括理事会の重鎮が生活してるっつー噂。あれのせいで学園都市の『闇』に一度でも身を投じた連中は、よほどの馬鹿でもねぇ限りはこの病院を攻めたりしねぇだろう――――そんな場所に、まさかホントにアンタみたいなVIP様が住んでいるなんてよー」

「………不思議ですぅ」

 遊離の陰に隠れながら、人見知りな相殺がぼそっと呟いた。

「あら、そこまで聞き出せたの?隋分と頑張ったのね。警戒心が強いのはいいことよ。長生きするわ、あなた」

「んで、そんなアンタ直々の頼み事ってのは一体何なんだ?」

 それが本題。

 わざわざ研究者一人を呼びつけての学園都市統括理事会の役員からの依頼となると、相当な規模の研究もしくは極秘裏に進めるための少数精鋭の実験、なんてものを想像してしまう。

 妹の相殺は瞳をらんらんと輝かせ、「さつりく?しょけい?」と頬を高揚させていた。

「『Five_over』ってプロジェクトを知ってるかしら?」

「……あれか?『学園都市の頂点に立つ七人の超能力者(レベル5)が起こし得る現象を、ミクロな量子学を用いないマクロな工学技術によって再現する』ことを想定して開発してるっつー兵器って話だよな。っつか、ありゃ単なる都市伝説じゃなかったのかよ」

 

 学園都市が学生(モルモット)を開発して発現する超能力には、身体検査(システムスキャン)という査定制度によって段階的な位が規定されている。

 無能力者(レベル0)―――学生の六割がこれに当てはまり、全く『無い』という訳ではないが計測機器では測定し切れない微細な程度しか能力を発現できないレベル。

 低能力者(レベル1)―――多くの学生が属し、スプーンを曲げる程度の規模でしか能力を発現できないレベル。

 異能力者(レベル2)―――低能力者(レベル1)と同じく、日常で役には立たない規模でしか能力を発現できないレベル。

 強能力者(レベル3)―――日常で便利だと感じる程度は能力を発現でき、学生全体での偏差ではエリート扱いされ始めるレベル。

 大能力者(レベル4)―――軍隊において戦術的価値を得られる規模の能力を発現できるレベル。

 そして、超能力者(レベル5)―――学園都市でも七人しかいない、一人で軍隊と対等に戦える規模の圧倒的な力を振るう者達。

 そういった彼ら超能力者(レベル5)を純粋な工学技術だけで超えようという、机上の空論だと卑下されてしまうような特殊な分野である。

「へぇー、学園都市も面白い事やってんじゃねーか。俺もそのプロジェクトに加わりたいぐらいだぜ」

「あらそう。なんなら私が、それクラスの実験にあなたを参加させてあげましょうか?」

「……あ?」

「私の掴んだ情報によると、『Five_over』は人体の脳を演算コアにして駆動鎧(パワードスーツ)と同期させる方法を取っているそうなの」

「おーおーおー。その情報を得るために何束の資金を失い、何人のスパイが死んだのかねぇ?」

 ギロッ、と凄みを見せた薬味の視線に、遊離は両手を挙げてへらへらとおどけてみせる。

「甘い事を言ってる場合じゃないの。私が現在主導しているその研究は、開発競争の中で『Five_over』プロジェクトと衝突する点が多い。このまま開発に先を越されたら、次回の『学究会』で研究資金の予算案をあちらに全て持っていかれてしまうわ」

「でも、カイハツキョーソーに負けちゃっても、そこまで損する訳でもなくないですかぁ?」

 不思議そうに首を捻る相殺が話に割り込んできた。

「コイツの言う通りだ。アンタのコネクションの強い医療関連とは関連性が薄くねぇか?俺っていう『木原』を呼びつけてまで今更しゃしゃり出る舞台でもねーな。なんなら、研究資金に組んだ予算で『Five_over』の兵器を買いとりゃ済むだけの話じゃねぇか。アホくさ、クソみてーな茶番かよ。ババアじゃなけりゃレイプしてたっつーの。俺はもう帰るぜ、行くぞ相殺」

 不機嫌になった遊離が、八つ当たり気味に椅子を蹴り飛ばしながら部屋から出て行こうとする。

 トコトコと後ろに続く相殺。

 二人の淡白な態度に、薬味は「はぁぁ…」と大きな溜息をついた。

 注意深く薬味の調査したと言って警戒を露わにしている割には、思い切った物怖じしない対応を見せてくる。いや、『木原』たる彼らにとってはこれでも『警戒』しているつもりなのだろうか?この程度の不作法は、彼らの中では『日常』にカテゴリされるのかもしれない。

(やはりこうなったか。仕方ない、『木原』を焚き付けるには好奇心をエサにするしかないようね)

 その上で、薬味は何か思い切った表情で、

「………『Five_over』みたいな超能力者(レベル5)を超えるなんて曖昧でチャチなもんじゃない。私の研究が超能力者(レベル5)七人をまとめて皆殺しにできるクラスの規模だったとしたらどうかしら?」

 ピクリ、とドアノブを捻りかけた遊離の手が止まった。相殺が「わぁぁ!」と思わず歓声を漏らした。

「興味を持ってもらえたかしら?」

「………チッ。ある程度はな。話を聞いてやろうじゃねーの。続けろ」

 話を聞かせた後で依頼を断られた場合、この情報の漏洩は損失が大きい。しかし薬味は、そんなリスクを鑑みた上でも話を止める気はなかった。

「もともと『Five_over』の開発の発端は、超能力者(レベル5)七人が学園都市に反乱を起こした際の対抗策っていうのが動機なの。超能力者(レベル5)一人一人を、応用力を度外視した純粋な火力で上回る兵器を開発し、七人同時に反乱を起こしても総当たりで勝てるようにしようって魂胆ね。けれど、私の研究は違う」

「……ほぅ」

「超能力者(レベル5)の能力を全て扱う事のできる究極の能力者を作り、その能力の馬力を以てして七人を殲滅するってプロジェクトよ」

「………………」

 荒唐無稽だ。

 先程の大言壮語と現実性の無さに大差がないではないか。要は『応用力さえもオリジナルスペックに近づける』という事だ。『Five_over』プロジェクトよりも更に難易度が高い。無理難題と評しても反論できないであろうレベルの戯言だ。

 

 だが。

 

 正直、ゾクリと震えが走った。

 面白い。面白いじゃあないか!

(『木原』に対して「科学的に無理」という命題(テーゼ)を提示するのがどれほど無粋な事か、この若作り女(エセババア)は分かっちゃあいねえ!俺達『木原』を舐めてやがる、軽んじてやがる!!)

 超能力者(レベル5)を抹殺する兵器の開発なんて、聞いただけで身の毛がよだつような興奮が胸を熱くするじゃあないか!!濡れてきたぜぇ!!

 

 …………が、落ち着け、落ち着け。

 

(悪い癖だ。興奮するとすぐ見境なくなっちまう。冷静に対応しねぇとな)

「で、そこまで具体的な指標が見えてるっつー事は、理論が成り立つ着想は得てるんだろうな?」

「ええ、もちろん。理論通りなら今すぐにでも見せられたはずだったのよ」

 含みのある物言いだ。そこが本題なのだろう。

「じゃあ、理論通りにいかない不具合を改善するため、『木原』の俺に助力を願おうって訳かよ」

「ご明察。実験室に案内するわ、付いて来てくれるかしら?」

 好奇心をそそられる。胸が熱くなる。小学生ながらも同じ『木原』としてこの興奮を相殺も共感できているのか、ピチャピチャと涎を垂らしながら瞳をキラキラと輝かせ、「おばあさん、だーい好きぃ!」と薬味に抱き付いた。

 が、ふと冷静になる。こんな風に、一瞬でも冷静さを取り戻せる人格である事は、『木原』の中でも自分ぐらいじゃないかと遊離は自負している。

(……このババアに主導権を握られたようで釈然としねぇ)

 暴れ馬の手綱を握ったと言わんばかりの薬味の表情に、一瞬だけ頭をよぎった殺意を胸の内に仕舞い込み、深呼吸を繰り返す遊離なのだった。

 

 

 そこは一般の手術室と大差ない空間だった。

 実験室でもなければ、ベルトコンベアや溶接機が立ち並ぶ工作室でもない。

 本当にちっぽけで無機質な冷え切った部屋の手術台の上に、一人の人間がぽつんとうつ伏せに横たわっているだけだった。

「あ?能力者っつったから、てっきりサイボーグに魔改造して身体をグチャグチャに掻き回すと思ったのによー。血がねーじゃねぇか」

 実験体を前にして、木原遊離が最初に抱いた感想は純粋に失望だった。胸に燃え滾っていた好奇心という名の炎が、みるみる鎮火されていく。

 本当にただただ無機質。

 真っ白な床や壁、研究員の着る手術衣の薄緑色、銀色の医療器具の数々。

 命の灯を感じさせる鮮血の赤や、熱を囲うマスクから漏れる荒い吐息。そういったものが一切なく、静寂に包まれた実験体がぽつんと場違いに存在している。

「そういった案件ならもう済んでいるの。『Five_over』プロジェクトが演算コアを人間の脳にしているって着想を聞いてからは、私達も驚く程スムーズにサイボーグ化が進んだわ」

「パクりかよ」

 ギロッと再び薬味に睨まれた。

 とてとてと実験体に歩み寄った相殺が、無影灯の電源を入れ、傍に置いてあった電動ドリルで実験体の背中に穴を空けていく。まるでぬいぐるみを手にして遊ぶ少女のようなはしゃぎぶりだった。

 そんな相殺の解体作業を見る限り、『脳以外の総ての部分を機械(サイボーグ)化する』どころか、脳そのものさえもほとんど削り落として機械に置き換えられてしまっている事が分かった。実質的に、人間である部分は脳の視床下部の一部だけであった。

「そこだけは学園都市の技術を以てしても代用不可能だったのよ。でも、四〇個近い脳のストックがあるから、消耗品として扱っても問題なさそうなの。だから、現時点でサイボーグ化に関する不具合はないわ」

「そうみてーだな。『木原印』の専売特許だと思ってたが、意外とアンタの部下も知恵が働くじゃねぇの。むしろ問題があるとしたら――――」

 そう言って、遊離は実験体の背中に接続されているリュックサックに偽装させた巨大な演算装置を指差した。

「――――これだろ。んだ、こりゃ?『書庫(バンク)』のデータをそのまま記憶させ、実験体(コイツ)一人の脳ミソに演算機器を搭載しながら脳内の回線グチャグチャに書き換え、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を強引に捻じ曲げようってか?理論が中坊のガキ以下だぜ。『わたしがかんがえたさいきょうののうりょくしゃ』ってオチか?だとしたら笑えねーな」

「……試行錯誤、と言って欲しかったわね。何せ、あの有名な実験『プロデュース』でさえ『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が脳のどの部位に宿っているのかなんて解明できなかったんですもの。私達も手探りなのよ」

 

 学園都市の超能力の理論とは、つまるところ量子力学を土台にした『シュレディンガーの猫』などで有名な確率論に根付いている。その名の由来となった思考実験を例に出すと、以下のようになる。

 まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れる。箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、放射線の検知器(ガイガーカウンター)を一台、青酸ガスの発生装置を一台入れておく。

 もし箱の中にあるラジウムがアルファ粒子(放射線)を出すと、これを検知器が感知して青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死ぬ。しかし、ラジウムからアルファ粒子(放射線)が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず猫は生き残る。

 一定時間が経過した後、果たして猫は生きているか?死んでいるか?

 理論通りならば、この系において猫の生死は『アルファ粒子が出たかどうか』のみに起因すると仮定できる。

 ではこのとき、箱に入れたラジウムが一時間以内にアルファ粒子を放出する確率が五〇パーセントだったとしよう。すると、箱の蓋を閉めてから一時間後に蓋を開けたときに猫が生きている確率は五〇パーセント、死んでいる確率も五〇パーセントとなる。

 したがって、この猫は、「生きている状態と死んでいる状態が一対一で重なり合っている」と解釈しなければならない。

 

 小難しくなってしまったが、要は「結果を確認する奴がいなきゃ、どうとでも想像できるよね?」という事だ。

 人間にとっては存在しない色でも、ミツバチならば紫外部の波長を色として認識できるように。

 人間にとっては区別のつかない臭いでも、犬の嗅覚ならば明確な臭いを感じ取ってしまうように。

 人間にとっては聞こえない音であっても、コウモリにとっては周波数を知覚できる超音波であるように。

 『観測できないから存在しない』ように見えるだけであって、『観測してしまう側』にとっては当たり前の現象。

 そういった認識のズレ。

 それを学園都市では『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』と呼び、脳を開発して意図的に障害を起こし、狂わせる。

 そうやって『現実を見る力』が普通の人間とズレてしまった者達こそが『能力者』の正体だ。

 まともな現実から切り離されてしまった能力者は、常人とは異なる世界を見て異なる法則を観測し異なる事象を引き起こす。ミクロな世界を歪めてしまう。ありえない事象を観測してしまう。

「そんな『認識のズレ』をたった一つの脳で超能力者(レベル5)七人分全てやるなんて無理に決まってんだろ。このテの理論に影響されてるっつー事は、もしかしたらこの実験自体、『特力研』での『多重能力者(デュアルスキル)実用化計画』の流用なんじゃねーか?あれは数年前に頓挫してるぜ。いい機会だから『多重能力者(デュアルスキル)の壁』に関する論文でも読んでみろ。どれだけアンタらが幼稚で滑稽か身に染みて、恥ずかしさのあまり自殺するだろうぜ」

 容赦なく暴言を吐く遊離の批判も、薬味は腹立ちを抑え、ぐっと堪える。

 二〇歳間もないこの青年に対して二回りも歳を食っている自分が頭を下げるのは癪だが、薬味にはプライドを捨て去る程の理由がこの実験にはある。

「うーん……『あんてな』作ればいいと思うよぅ?」

 相殺が実験体の頭蓋骨をナイフでこじ開けながら意見を挙げる。

「……だな。コイツの言う通り、AIM拡散力場に干渉する方針を取るべきだ」

「もちろん私達も考えたわ。でも………」

 

 学園都市の超能力についてもう一つ注釈を加えるとするならば、『AIM拡散力場』という概念がある。

 正式名称はAn_Involuntary_Movement拡散力場。

 その名の通り、能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールドを指す。

 『電撃使い(エレクトロマスター)』がレーダーのように周囲に放ってしまう微弱な電磁波、『念動力(テレキネシス)』が無自覚に発生させてしまう圧力、『発火能力(パイロキネシス)』が周囲に振り撒いてしまう熱量、など。

 どれも微弱で精密機器を使わなければ人間には観測できないレベルであるが、千差万別の力や種類を持つ、現実に対する無意識の干渉であるこの力場を探ることで、能力者の心や『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を調査することもできる。

 研究が進めば「ムッ、能力者の気配がするぞ」「ムッ、奴の戦闘力は五三万だな!」といった少年マンガよろしい探索などが可能になる……といった小ネタは、教師や研究者達が度々引き合いに出す冗談として有名な程だ。

 

 学園都市には、二三〇万人の学生一人一人が織りなすこういった微弱なフィールドが満ちている。これを応用するという事は、つまり――――

「噴射点の応用だ。完全な『多重能力者(デュアルスキル)』を作るってのはガキが夢見る無理難題。だが、他人のAIM拡散力場をアンテナで受信すりゃあ、少なくともソイツの『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』は逆算できる。後は逆算した能力に合わせて脳ではなく人体配線を切り替え、肉体を逆算した能力者と同期させりゃあ『強大な能力者の力を遠隔で引き出す噴射点』として機能する。サイボーグってのは、そういう壊し(使い)方をすんだよ」

「なるほど……さすがね。『木原』の中でも、生命工学やAIM拡散力場の分野に特化していると耳にしてはいたけれど、私の人選に間違いはなかったようだわ」

「どこのソースだよ、そりゃ?AIM拡散力場なら、テレスティーナの奴の方が詳しいっつーの」

「あら、『木原』も謙遜なんてするのね。噂では同じ『木原』の少女まで身体を弄ったとか聞いたけれど?まるで幻生のような事をするのね、あなた」

「あ?……あぁ、那由他(なゆた)のコトか。ありゃ違ぇよ、クソジジイと一緒にすんな。純粋に、那由他が相殺と絡みがあったから、そのよしみで身体を壊し(治し)てやっただけだ」

「遊離お兄ちゃんが、那由他お姉ちゃんを治してくれたの!」

 あら、よかったわね、と薬味は子どもをあやすように微笑んでみせた。心とは、裏腹に。そんな事は微塵も思ってなどいない。

 縁なし眼鏡をかけたおさげの少女。無垢な表情を綻ばし、無警戒に振り撒く信頼。

 しかし。

 純粋な気持ちに顔を綻ばせるこの少女も、結局は『木原』なのだ。

 歪み、軋み、捻じ曲がり、思わず目を背けたくなる程の醜悪な感性。科学に愛されてしまった彼らには、そういった呪われたような運命が待っているだけだ。

(ただ若さと健康にすがりつく私の事を哀れだと揶揄する人もいるけど、そんな私よりもよっぽど惨めな人生だわ)

「まぁ、なんだ。AIM拡散力場の受信アンテナさえ用意して、俺の言った理論でやりゃあ、後はアンタの部下に任せても問題はねーだろ。俺が実験チームに顔を出すのは、アンタが機材を調達してからにするぜ。っつか、今日のアドバイス料は後日請求するからな」

「……本当に図々しいわね。でも、今回はその頭脳に免じて口を噤む事にしましょう。わざわざ済まなかったわね」

 遊離はふん、と鼻で笑い、名残惜しそうに実験体の脳をメスで串刺す相殺の手を引っ張り手術室を後にする。

 

 と、閉めかけたドアの隙間から、今まさに電話で機材を注文を始めた薬味の驚いた声が漏れてきた。

「そんな、馬鹿な!?あの『セキナガ社』に、強盗ですって!?」

 

 

 

 




原作未読の方でも読めるように単語に説明を増やしてるのですが、さすがに多くなってしまったので、駆動鎧については省略しました。

次回からは怒涛のバトル展開です。
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