※この作品はR-18です。

【とある魔術の禁書目録】敵役なりのジンテーゼ -Kihara-   作:白滝

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第二章 追いかけっこはいつも鬼 Tragedy_Usual

 『セキナガ社』といえば、研究機材の販売・点検サービスのみならず、研究所や工場の移転業務(ラボパック)や移転コンサルティング業務の代行サービスを中心に運営される大手株式会社である。これらラボラトリ-・エンジニア職種において学園都市が『外』と異なるのは、コンサルティング業務の中に技術漏洩の防止や産業スパイの検挙、輸出品が劣化制限(コンタクトライン)を順守しているか点検するといった内容が含まれる点だ。

 

 外壁で囲われ交通機関を遮断し、先進技術を独占研究する学園都市には、他国の産業スパイの潜入頻度が非常に高い。年に一度開かれ学生の保護者を特例で招き入れる大規模体育祭『大覇星祭(だいはせいさい)』などは、運営のほとんどを学生に任せ、警備員(アンチスキル)は産業スパイへの対応で激務に駆られるほどだ。

 

 そういった背景を含めた、『セキナガ社』襲撃事件。

 『学究会』を間近に控えたこの時期ならば、「他の研究グループが薬味達の研究を足止めにかかった」とも推測できるかもしれない。しかし、薬味達の研究は極秘密裏に遂行されてきた。他の研究グループに気付かれているとは考えにくい。やはり、技術を盗みに来た第三者の外部機関の産業スパイなのだろう。

 だからこそ、『学園都市とその外部協力機関の連携の監視』を任務とする学園都市の暗部部隊『ブロック』が動くのは当然の流れであった。

 

 学園都市には、『表』の治安維持を務める二大組織が存在する。

 校外での能力の使用を許可された学生自治体の『風紀委員(ジャッジメント)』。

 重火器の武装を許可され主に教職員で構成される警察組織の『警備員(アンチスキル)』。

 しかし、その二大組織でも対処できない、この街が纏う『闇』に対処する精鋭達が存在する。

 正しくないものを正しくない理由で正しくないまま駆逐する工作員。

 

 そんな精鋭四人で構成される『ブロック』の中で、リーダーである佐久(さく)辰彦(たつひこ)は熊のような大柄なその身体をビジネスホテルの個室のベッドに埋め、無線機に怒鳴り声を吐き散らしていた。

「あぁ?ダミーだったってどういう事だ!?さっき山手(やまて)が連絡した偽装トラックはどうなった!?」

『こちら山手。悪りぃ、「セキナガ社」のサーバーから入手した顧客リストは、俺達「ブロック」の追跡を誤魔化すためのダミー情報だったらしい。トラップにかかった偽装トラックには無関係な民間人しか乗ってなかった!』

『こちら鉄網(てつもう)。山手と一緒に第一八学区に同行している。確保した偽装トラックの運転手の心を私の「意見解析(スキルポリグラフ)」で読み取ったが、やはり何の情報は持ってないぞ。しかし、トラックの出発と同時に、男共がスーツケースをいくつも抱えて「セキナガ社」の西に逃走していった記憶が読み取れた』

『……どちらにしろ、まんまと、私達は、ハメられたようね』

「クソがッッ!!」

 

 事の始まり。

 事件の発生を『電話の男』からの通達にて受け取った『ブロック』は、即座に『セキナガ社』に乗り込み、サーバーを直接ハッキングして消去された顧客リストを復元した。

 手塩(てしお)恵未(めぐみ)。

 メンバーの内の一人である彼女は、表の顔として『警備員(アンチスキル)』にも所属しているため、堂々と『表』の仲間達(アンチスキル)と『セキナガ社』を任意捜索できた訳である。

 入手した情報から学園都市の『外』の機関と連絡を取っていた事情を踏まえ、外部機関への産業スパイの暗躍もしくは『セキナガ社』の反乱が可能性として考えられた。そこで、メンバーの山手の発案で『セキナガ社』の所在地である第一七学区から学園都市の陸路最大の窓口である第一一学区までの主要幹線道路、計二〇八ルートを絞り、先回りしてそこにトラップを仕掛けたのである。

 『γ線輻射補助式簡易炸裂地雷―γ-Mb-03』。別名、『金物喰らい(コストイーター)』。

 AIM拡散力場のアンテナ機材は、ICチップやセンサー、数多のコンデンサーをハンダで溶接した精密機器なため、国際的には使用を禁止されている鉛をあえて非合法で多量に使用している。

 だからこそ、γ線を放射して幹線道路を通過した車を精査した際、民間人が日用的に用いる荷物とは思えない、明らさまに大きな放射線の阻止能を示したトラックを捉える事に成功したのだ。

 感知し、起爆する。紅蓮の爆発に偽装トラックが呑まれた。

 

 しかし、結果は空振り。

 ダミーを掴ませるため、復元できるレベルまでしか消去されていなかったサーバー内の顧客リスト。

 使い捨ての民間人。

 慎重かつ素早く大胆に。『表』の警備員(アンチスキル)ではなく、『闇』に生きる彼ら暗部の妨害を予め想定しての動きだった。

「やりがやがるじゃねぇか。だが、『ブロック』を舐めてもらっちゃ困る。二転三転じゃ俺らは驚かねえんだよ、せめて十転は持ってこい。……山手ぇ!」

『いちいち叫ぶな、もう考えてるっつの!……鉄網の情報の信憑性は分からねえが、情報が少ない今はそれを前提に話を進めよう。犯人は「セキナガ社」の西に逃走したと言っただろ。でも、そっちはどう考えても―――』

『何も、ないな』

 そう。

 西部東京側の外壁に隣接する第一七学区は、学園都市の最北西端。地図にして一番左上。

 そこから西へ逃走したとしても、いずれ外壁にぶつかるだけだ。ドラム缶型の警備ロボットの巡回や衛星からの監視。それだけのセキュリティがありながら、まさか堂々と外壁を突破するとは思えない。たかが外部機関からやってきた連中に、そこまでの包囲網を突破するほどの技術力があるとは思えなかった。

 逃走経路が不自然だ。やはり民間車に紛れて陸路の窓口である第一一学区からの逃走が無難ではないだ――――――

 

 

『……そうか!迂闊だった、下水道か!?』

 

 そう。

 厳密に言うなれば、『セキナガ社』の所在地は第一七学区と、その南に隣接する第二一学区の境界に存在する。

 そして、第二一学区といえば、

『学園都市の水源!!貯水用のダムが数多く併設され、飲料、工業用などの多数の太いパイプが学園都市各所に向けて地下に張り巡らされている!まずいな、奴らはダイバースーツと酸素ボンベでも背負って、検問なしでこの街の地下を泳いで移動しやがる!追跡は難しいぞ!?』

 いくら冬季といえど、下水道は凍結を恐れて暖房が整備されている。逃走に時間はかかるが、実行は不可能という訳ではない。

「手塩!『警備員(アンチスキル)』のデータベースで、下水道の排水口は外壁のどの位置にあるか調べられねえか!?」

『もう、やってる!だが、多いな。そもそも、外壁に隣接する学区なら、どこも最低一つは、下水道の排水口が併設されている。予想はつかん』

「くそッ!」

 佐久は思わず目の前の有料テレビを蹴り飛ばした。『外』の産業スパイだと侮っていた。

『ここから先はヤマを張るしかねえな。俺は佐久に一任する』

『私も同意するわ。どうせ私の価値なんて、心を読む事にしかないから』

『私も、佐久に任せよう。一四箇所の、排泄口の内、一体どこを選ぶ?』

「ぐっ……ちょっと考えさせろ」

 佐久は必至に頭を回す。

 順当に考えれば、『セキナガ社』の所在地である第一七学区の排水口がもっとも近い箇所だ。そこを産業スパイが目指すのも当然の流れといえる。

 だが、そこまでの思考を読まれて違う排水口を選んでいたとしたら?

 そもそも、産業スパイ側はまとまって逃走する必要がないのでは?各々がアンテナ機材をバラバラに分解して運び、バラバラに逃げた方が産業スパイ側のリスクは低いのでは?

 分の悪い読み合いだ。

 そんな風に、苦悶の表情を浮かべる佐久の無線機に、突然メンバーの三人以外の声が混じった。

『組織力だけしか取り柄のない低能共が、雁首揃えて何モタモタやってんだっつーの。ったく、なんで老衰間際のあいつのケツを俺が拭かなきゃなんねーんだよ。あーあ、めんどくさ』

「だ、誰だてめぇッ!そもそも、どうしてこの無線機の周波数が分かったんだ!?」

『あーあー……そーいう馬鹿丸出しな発言してんなよ。お前らに「フーリエ変換」や「サブ・リフラクション効果」の知識があるってのか?あ?…っつか、お前がリーダーか。ちょうどいい。今からメンバーを俺の言う通り動かせろ』

「ふざけんなよ、てめぇ!!誰だが知らねえが、『ブロック』相手に――――」

『ごちゃごちゃうっせーよ、死ぬ暇がねぇほど鮮やかにぶっ殺すぞ。「セキナガ社」を襲った産業スパイの逃走ルートを教えてやっから、俺の駒になって大人しくパシられやがれ、脳筋』

「!?」

 なぜ、その事を知っている……ッッ!?

 その情報は、暗部の精鋭部隊であるこの『ブロック』が本気になってようやく出した結論の、さらに先を行っている。

(なんなんだ、こいつは!?どうして、どうやって俺達『ブロック』よりも早―――――)

 と、言葉を返すよりも早く、声の主は口早に畳みかけてきた。

『今からテメェら「ブロック」の指揮権はこの俺だ。時間はねーんだ、生きたい奴から働きなァ!!』

 

 

 

 産業スパイとして現在暗躍している『科学結社』という外部機関に所属している男は、仲間と共に第一八学区を車で逃走していた。

 彼らはダイバースーツも酸素ボンベも装備しておらず、むしろ警備員(アンチスキル)の格好に身を包み、下卑た笑みを浮かべて高笑いしているだけだった。

「計画通りだな。奴ら暗部はおそらく俺らがまだ下水道を通過していると思っているだろう」

「ああ、やはり『あの人』の言うことは正しかったようだ。正直、そんな都合よく進むとは思っていなかったんだがな」

「奴らも、まさか俺達が囮(ダミー)に使った逃走ルートにむざむざと戻って来るとは思わねーだろうよ」

 車、と言っても乗用車ではない。

 警備員(アンチスキル)が護送用に扱うトラック………に偽装するようペイントされたトラックである。

 彼らは防弾服とヘルメットとアーマーを纏い、警備員(アンチスキル)の格好に着替える事で、『ブロック』に破壊された偽装トラックの現場に向かっていた。

 大通りの一角に、野次馬が集まり黒煙が立ち上る現場を発見した。トラックから降りて、現場に急行する。

 そのまま警備員(アンチスキル)の振りをして、野次馬の人垣を掻き分けていく。

「皆さん、通して下さい!警備員(アンチスキル)です!」

「無闇に現場の物品に触らないように!現場は立ち入り禁止になりますので……そこ、写真を取らないで下さい!ロンドネットへのこういった画像のアップロードは、条例での処罰の対象になりますよ!」

「事故を目撃した方がいましたら、後から来る風紀委員(ジャッジメント)の事情聴衆があるので待機するようご協力お願いします」

 彼らが下水道を通らなかった理由。

 純粋にそこまで先読みされる事を恐れた、という邪推もあった。しかし、AIM拡散力場のアンテナ機材はそもそも製造数が少なく、『セキナガ社』には在庫が一つしかなかったのだ。ゆえに、囮(ダミー)に使った偽造トラックに積んだAIM拡散力場のアンテナ機材を再び回収し直しに向かわねばならなかったのである。

 一見すると彼ら『科学結社』は意味の分からない危うい作戦を遂行しているように見える。わざわざ命を賭して運び出した物品を、囮(ダミー)として使ってしまったのだ。しかし、それが成功する小細工を、彼らは確かに用意していた。

 例えば、彼らが『ブロック』に、「囮(ダミー)に本物のAIM拡散力場のアンテナ機材を積み込み、使い捨てるほどたくさんの機材を『セキナガ社』から強盗してきた」と思い込ませた事も大きい。このような印象操作で、「ああ、奴らは機材の一つや二つを使い捨てる事に頓着しないんだな」と錯覚させ、現状のように無警戒に現場に機材を置き去りにさせることに成功したのだ。

 合理的とは言い難い、まるで「魚を釣るために自分の身体を引き千切り餌にする」ような、本末転倒どころかコストと利益を計り違えたような作戦だったが、逆に、この非現実的で非論理的な思考が『ブロック』の精鋭達を欺いた。「まさかそんな無駄な事はしないだろう」という、思考の盲点を突いたのだ。

 どれだけ科学が発展しようと、技術が発展しようと、人間自体は変わったりしない。例えどれほど戦略や定跡が研究されようと、将棋やチェスにおける人間の思考レベルはいつの時代も変わらないように。

 地力では彼らは勝てない。だからこそ、学園都市の『外』の人間なりに戦う土俵を見極めての作戦だった。

「あったぞ!こっちだ!」

 男の一人が、偽造トラックの残骸に紛れて放置されているAIM拡散力場のアンテナ機材を積んだ小型コンテナを見つけた。約一メートル立方の大きさのそれは、爆発の衝撃を物ともしていなかった。

「よし、ここで分解してスーツケースで運ぶぞ!」

「本物の警備員(アンチスキル)もまもなくやって来る!早く工具を用意しろ!」

 

 

『必要ねーよ。ドライバーなんてなくても、テメェらの頭のネジは俺がぶっ飛ばしてやるぜ』

 

 突如、彼らの会話に割り込むように無線機を通じた声が聞こえた。

 疑問を浮かべる一拍の余裕もなく、

 

 次の瞬間、バガッッッッ!!っと、小型コンテナが爆発した。

 

 破砕したコンテナの破片が手榴弾のごとく飛んできて、男達を防弾ベストとヘルメットの上から叩き飛ばす。飛来する破片の大きさからして、その威力は「爆風ではなく破片を飛ばす事での殺傷を狙うタイプの手榴弾」よりも威力が大きかった。

 男達の身体に、ゴギリ、という骨が軋む嫌な感触が響く。

 そのまま全員が後ろへ吹き飛ばされた。無傷で済んだのは、前に立つ仲間が肉壁となって破片から逃れる事のできた、幸運な僅か数名のみだった。

 その爆発に、野次馬達が一斉に悲鳴を上げて遠のき始めた。一部、被害を被った一般市民もいたようだ。

「くっ……ッッ!?」

 それでも、生き残った『科学結社』の男達が即座に逃走に移ったのは、十分に評価できる立ち回りだったといえる。

 特定された、待ち伏せされた、と判断した時点で、男達はなりふり構わず別々の路地へ飛び込み、別々の方向へ逃走を開始する。もはやアンテナ機材を諦めて完全に撤退姿勢を見せていた。

 もしもそのままコンテナの解体作業に拘泥していたら、暗部の連中に発見されて交戦となるだろう。こちらも自動小銃(アサルトライフル)やグレネードなどを装備しているが、それでも技術が二〇年近く進んだ彼ら暗部に勝てるとは微塵も高望みしていなかった。

 今一番に優先すべき事は、自分の身を守る事。生き延びなければ意味がない。

 だからこそ、走る。

 懸命に、我武者羅に、全力で逃走した。

 こうなると、装備していたアーマーやプロテクターなどの防弾装備が非常に煩わしい。とにかく重い。一度足を止めて脱ぎ捨てようかと思案する。

 が、その時。

 

 ゆらりと、薄暗い路地の曲り角から女が現れた。一〇メ-トルほど前方。

 

 男は迷わなかった。

 即座に脇にあった鉄製のゴミ箱に身を隠す。

 直後、男の後を追うように、女の持つ自動拳銃(マシンピストル)から放たれた銃弾が軌跡を描く。

 ガギギギギギギギッッ!!と火花を散らしながら、鉄製のゴミ箱がベコベコと音を立てて凹んでいった。

(まずい、逃走経路が読まれてやがるッッ!?)

 だとすれば、他の経路を逃走していった仲間も先回りされているかもしれない。次々と不安が浮かび上がり、冷や汗をかく。一刻も早くこの状況を突破したいが、それでも男は自動小銃(アサルトライフル)を放つためにゴミ箱から身を覗かせる事ができなかった。

 ちょうど顔を覗かせようとする位置に、ピンポイントで弾幕が集中しているのだ。

(やはり暗部の人間か。こういう状況に慣れてやがる!)

 と、そこで不意に弾幕が止んだ。

 弾倉(マガジン)分の銃弾を消費し切ったのだろう。

(…、チャンス!!)

 次のリロードまでが勝負。相手がリロードするのが早いか、こちらの銃口が相手を捉えるのが早いか。

 ゴミ箱から身を乗り出し、男は自動小銃(アサルトライフル)を構えた。

 

 しかし、

 

「……え?」

 次の瞬間、スコープ越しに目前に迫る格闘戦用(コンバット)ナイフを視界に捉えた。

 女にナイフを投げられた、と判断した時には遅かった。

 ガキン!と、自動小銃(アサルトライフル)にナイフが直撃し、銃口が僅か数ミリ左へ逸れた。

 思わず引き金を引いたが、こちらへ突撃してきた女から数センチばかり射線も逸れてしまった。

「くっ!」

 慌てて女へ銃口を合わせ直す。

 しかし、女はまるで射線が目に見えているかのように、そこに射線が向けられる事を予測していたかのように、上半身を振り回すような強引な挙動を取る。またしても銃弾が空を裂く。

「プロの行動に、奇抜な能力や、一発芸は、必要ない」

 女が呟く。

 超低空姿勢で、そんな姿勢じゃ転んでしまうだろうという無茶苦茶な姿勢で彼女は駆ける。

 男は震え上がった。

 何より、銃を持っている人間の前に、防弾装備もないまま突進してくるという発想が不気味だった。

 銃口が今度こそ正確に女を捉える。上半身は捻る事ができても、人間の骨格構造上、下半身を捻りながら走り続ける事はできない。だからこそ、確実に命中するよう、下腹部の骨盤の中心辺りに狙いを定めた。

(次は外さねえ!!)

 

 

 しかし、それでも遅い。

 

 女は上半身を強引に捻り、不自然な姿勢で走っていた。だからこそ男は、女が姿勢を正して上体を起こせば、すぐ間近まで、もはや手が届く範囲にまで接近されていた事に気付かなかった。

 女が上体を起こす。

 男からすると、急に身体が伸びたかのような錯覚を受けた。

 間合いは、既に詰められていた。

 目測を誤った。いや、この女に目測を狂わされた。

 銃撃を躱しつつ、その間合いを変幻自在に詰め寄るテクニック。

 当たり前のように眼前で披露された高等技術に、恐怖で喉が干上がった。

 そもそもの話だ。

 銃撃を躱すテクニックを有していたとして、だからと言って「銃火器を装備した人間に真正面から接近する勇気があるか?」という問題が浮上する。

 いや、自分だったらできないだろう。掠っただけで肉が削り取られる銃弾を、ただひたすら真正面に走り続けるのだ。一発でも被弾したら死に至る。

 そんな条件を、まるで気にもかけないこの女の精神。

 場馴れした一挙手一動。経験値に裏付けされた自信。格の違いを見せつけられた。

 男は慌てて引き金を引いた。しかし、鞭のようにしなる女の右の裏拳が自動小銃(アサルトライフル)の銃身を下から上へ弾き上げた。銃弾がまたしても空を裂く。

 一拍の余裕もなかった。

 次の瞬間、女の左肘から放たれるタックルが、男の下腹部をまともに捕えた。

 グシャア!!という鈍い音が響き、男が女の肩と壁に挟まれる。

 防弾装備をかいくぐる、狙い澄ました一撃だった。

「ただ、基本的な戦術の、積み重ねが、合理的に、敵を叩き潰す」

 その台詞を、男は最後まで聞く事ができなかった。そのまま、首を絞められ意識が落ちる。

 女――――手塩恵未は、懐から無線機を取り出した。

「こちら、手塩。逃走経路に、一人ヒットした。奴の、言う通りだったな。今しがた、無力化した」

『こちら鉄網。こちらもヒットだ、無力化した』

『こちら山手。……驚きだな。こっちもヒットした。無力化したぜ』

『俺だ。勘に触るが、こっちもだよ。ったく、奴は一体何者なんだ。………オイ、聞いてんのか、てめぇだよ!返事くらいしやがれ!』

『…………………』

 無線機からの返事はなかった。

 佐久の怒声だけが無線機から響く。手塩は思わず無線機を耳から離して顔をしかめた。

『いいから落ち着け、佐久。……タタッ…タタタタッッ…タタタッ……』

(……モールス信号!?)

 おそらく、無線機へ割り込んできた第三者に悟られないようにしたのだろう。奴の発言からすると、いつでも無線機は盗聴できるような節が推測できる。無線機の周波数を変えるより、こちらの方が得策だと判断したのだろう。

「産業スパイ達は第一八学区に逃走するから先回りしろ」「コンテナに爆弾を仕掛けろ」「逃走経路を予測したから待ち伏せして無力化しろ」

 そういった指示を受け取ってここまで言いなりになってきたが、ここから先は奴の指示に従う義理はない。あくまで奴との関係性はギブアンドテイクだ。

(………アジトへ、集合、ね)

 山手からのモールス信号を把握する。

 自分は『表』の警備員(アンチスキル)と共に活動する任務があるため少し遅れる、とこちらもモールス信号を発し、無線機を切った。

 奴の正体は気になるが、問題はひとまず一件落着した。

 手塩は『裏』での役目を終え、『表』の仲間達の元へと戻っていく。

 

 

 

 その頃、木原遊離も産業スパイの一人を待ち伏せしていた。

 数時間前。

 ドアの隙間から聞こえてきた電話中の薬味の悲鳴の直後、彼女に産業スパイの追跡までもついでに依頼として受け取ってしまった訳である。まぁ、普段の彼なら一笑に伏して断固拒否するのであろうが、『とある別件』による事情も相まって、しぶしぶ引き受ける事になってしまったのだ。薬味は今頃、妹の相殺の面倒でも見ながら快適な空間で過ごしているのだろう。

 思い出しただけで無性に腹が立つ。

「あー、この飯クッソまじぃなー。学園都市のコンビニ弁当は亜鉛キレート剤に、代替用の化学物質を使ってるって聞いたけどよー……こりゃ、いくら何でもマズ過ぎんだろー。後で持ち帰って定量分析にでもかけるかなー」

 という、彼にしか発想の至らない独特な感想を漏らす。

 彼はとあるアパートの二階の一室の窓ガラスを叩き割って部屋に侵入し、その中で予測した逃走ルートの裏路地の一つを監視していた。驚いて抵抗したアパートの住人を殺したせいで、死体から漂うこびりつくような血の臭いが部屋に充満していたが、エアコンを使って空調を動かしたので今はもう心配ない。安心して昼食タイムへと移ったのである。

 一連の行動に、彼は全く悪びれる様子がない。

 むしろ、彼に取っては未だ『日常』にカテゴリされる。

 疎い。

 倫理観に、決定的に疎い。

 いや、彼は自分の行いが非倫理的だという事を知っていて、それでもそこで生ずるべき理性や嫌悪感といったものが働いていない、と表現した方がいいのかもしれない。剥き出しの感性を自制する気がまるでないのだ。

 赤信号を無視して横断歩道を渡る、そんな気軽さで人を殺す。

 例えどれ程の知能を有しても、彼ら『木原』は常人では理解のできない思考で行動し、理解のできない倫理の元に生きている。

 そんな遊離の周りには、コンビニ弁当のゴミの他に、様々な計測機器が並べられていた。

 電流計や電圧計といった小・中学校の理科室にもありそうな物から、擬似空中線回路(ダミーロード)やワンターンコイルなど、専門的な機材まで所雑多に銅線で繋がれていた。見れば、ベランダに設置されているテレビの受信アンテナまで改造されて銅線で接続されている。

 おそらく、これらを用いて『ブロック』の無線機の通信に割り込んだのだろう。

「はぁ、はぁ、はぁ、……くそ、誰か返事してくれ!……くそぉ!」

 と、そんな彼の監視する路地裏に、待ち伏せしていた標的がようやく現れた。

「ったく、待ちくたびれたぜぇ」

 そんな産業スパイの声を聞き、ニヤリと笑って遊離はアパートの一室から何かを投げ飛ばした。

 そう、二階の窓から。

 足音と声の反響から予測演算し、投擲物の落下地点にちょうど男が通り過ぎるようタイミングを合わせた。

 ギョっとしたのは男の方だ。

 まず、視界の外、頭上から何らかの大量の液体が降ってきた。ビチャア!!っと、頭からずぶ濡れに被る。直後に、ゴン!!と巨大なプラスチック製の容器が頭に直撃した。

 フラフラと身体がよろめき、走る勢いも相まって地面に転んでしまう。視界の隅に移ったその容器は、どうやら自動車のバッテリーの容器であった。

 男は、バッテリーが落下してきた頭上を向いた。

 二階の窓、アパートの一室から、セーターの上に白衣をまとった男が飛び降りてきた。

 バッテリーが目に沁み込んだ影響で、涙が出て視界がぼやける。

(……暗部の人間かッッ!?)

 転んだ状態のまま、起き上がる動作を後回しにして男は慌てて腰のベルトから回転式拳銃(リボルバー)を引き抜いた。防弾装備も自動小銃(アサルトライフル)も、走るのには重すぎたので逃走中に投げ捨てていたのだ。

 

 しかし、引き金を引くよりも早く、男の間近で唐突に爆発が起こった。

 

 そう。

 アパートの一室にあった消火器を遊離は予め裏路地に運んでおき、そこに手榴弾をガムテープでくくりつけておいたのである。ワイヤーを手榴弾のピンに縛り、ワイヤートラップのように路地に張っていたのだ。

 それを、男が転んだ位置にピンポイントで設置していた。

 すべては計算通り。

 男が転んだ勢いでワイヤーが引かれ、手榴弾のピンが抜けていたのだ。消火器が爆発し、炭酸水素ナトリウムの粉末が撒き散らされた。

 破片ではなく爆風で殺傷を狙うタイプの手榴弾だったようで、爆発地点と数メートル距離があった男には、爆風でダメージを受ける事をなんとか免れる。

 しかし、遊離は手榴弾での殺害を狙って訳ではなかった。そもそも、地面に仰向けに横たわった人間は、流体力学的な観点から見ても、爆風による影響が少ない。

 狙いはむしろ、炭酸水素ナトリウムの粉末だ。

 男も、ハッと遅ればせながら気付いた。

 しかし、気づいた時にはもう遅い。男は引き金を引いてしまっている。

 次の瞬間、回転式拳銃(リボルバー)の撃鉄の火花が粉末に着火した。

 

 

 ボン!!と、紅蓮の炎が舞い上がった。

 水素爆発である。

 

 消火器の原理とは、炭酸水素ナトリウムの水素爆発により、膨張する水蒸気の圧力で瞬間的な無酸素状態を作り出す事にある。

 その圧倒的な水蒸気圧が、男を襲った。

 拳銃を握っていた手が爆風に叩かれた。熱風で目が潰れ、喉が焼かれる。

 爆発の衝撃で銃口が逸れ、落下してきた遊離の顔の横を銃弾が通りすぎてゆく。

 そしてそのまま、遊離が男の上に着地した。その両足がギロチンの如く男を狙う。

 ゴキッ!!と、男の腰が嫌な音を発した。

「ぁ、――――――――――――――――ッ!!」

 喉が焼けたせいで、悲鳴が言葉にならなかった。悶え苦しむ男は、しかし、遊離に骨盤を折られたせいでうまく身動きが取れない。

 もとより、利き手が爆発し目が潰れた時点で、遊離と戦うのは不可能だ。もう状況が詰んでしまっている。

「あっつぃー!!テメェのせいで、俺まで爆風に突っ込むことになっちまったじゃねーかよー。さすがに水素爆発はやり過ぎか?まぁ、大は小を兼ねるっつーし、何事も殺して損はねーか」

 そんな軽いノリで、男を追い詰める。

「……た、たひえてうれ」

「あぁ?何言ってんのか分かんねーよ」

 男の命乞いも無情に切り捨て、遊離は白衣の袖を捲った。そのまま、右腕のセーターの袖で、男の頭に触れる。

 

 バチィィィッッ!!と、静電気が弾けた。

 

 男は心臓麻痺で絶命した。

 冬に衣服が高電圧の静電気を帯電させてしまうのは、日常的な事だ。しかし、これを非日常的な死亡事故というケースに持ち込むためには、とある小細工が必要となる。

 そう、今、男は頭から電解質溶液を多量に被っていたのだ。静電気は痛みを感じるレベルで三〇〇〇ボルトもの電圧を有すると言われている。これだけの静電気を人が日常的に帯電させても生きていられるのは、電流が低いため、結果として電力が小さくなるためだ。極論を言うのならば、人は一〇〇ミリアンペアの電流が流れれば死ぬ。

 そして、遊離は電流が流れやすい環境を作っていた。自動車のバッテリーという電解質溶液を選んだのもそのため。

「ふぃーーっ。疲れたわー。後であのババアに追加料金でも請求すっかねぇ」

 汗一つかかずに、武装した男を無力化してしまった。

 これが、『木原』。

 これが木原遊離である。

 と、そんな遊離の携帯電話に着信が入った。

『やぁ、遊離君。そちらの仕事はどうかね?うまくいったかい?』

 

 

 

「ああ、幻生。テメェの言った通りでいいならな」

 

 

 遊離は軽やかに答える。

「ちょうど今終わったとこだ。つかジジイ、計画変更とかはもっと事前に知らせろよ。追加料金を請求させてもらうからな」

『ヒヒヒヒ……あぁ、構わんよ。連絡が遅れたとはいえ、ここまでの遊離君の働きにはとても感謝しているよ。どうも歳を取ると現場作業(ウェット・イクスピリエンス)が辛くてねぇ。お金ならいくらでも出そう。で、お願いしていた例の件は?』

「薬味久子が主導してた『新型兵器』に関する文書なら、さっき暗号化処理したファイルを添付して指示されたアドレスにメールを送信しといたぜ。ったく、こういうインテリ作業は苦手なんだよ……頭はめちゃくちゃいいんだけどよ」

 

 そう。

 

 ここにきて。

 

 木原遊離はスパイであった。

 木原幻生の斥候として動いていたのが遊離であった。

 

 木原幻生の元で、『Five_over』プロジェクトに加担する研究員の一人だ。何を隠そう、演算コアに人間の脳を使うという発案も、生命工学に特化した彼が提起して実用化に漕ぎつけたシステムだ。

 最近、ライバル研究グループからの執拗な情報スパイの暗躍が目立っていた。原因を突き止めようと数人を捕獲して拷問した結果、学園都市統括理事会の薬味久子が主導で新型兵器の開発が進められているとの事が分かった。

 そこで、木原遊離の身分を詐称して『現在フリーで実験している研究員』と仕立て上げ、薬味のアドバイザーとしてまんまと潜入を開始した訳である。

『そうかい、そうかい。それはご苦労様だったねえ。今後はしばらく私の研究室(ラボ)に顔を出さなくても大丈夫なよう、取り謀ろう。計画変更の件の詳しい説明は、後で直接会って話すとしよう。しばし、相殺ちゃんとでも休暇を楽しんでくれたまえ』

「ああ、そうさせてもらうぜ。っつか、そうは言っても、しばらくはあのババアのパシりにならにゃあいけねーのかねー……。あー、嫌だ嫌だ。看護婦でもレイプしてうさ晴らしすっかなー」

 そう言って電話を切った。

 ふぅ、と溜息が漏れる。

 面倒臭いが、足元に転がる男の死体を焼却処分せねばならない。

 「遠足は帰るまでが遠足」「料理は食器を洗い終えるまで」なんて格言があるが、いやはや、遊離からしてみれば「んな訳ねーだろ馬鹿か殺すぞ」と一蹴したいなような言葉だった。

 もう放置しても問題ないんじゃないか?むしろ、こいつをアパートの住人を殺した犯人に偽造工作しようか?なんて考え始めた遊離だったが、彼の無線機に新たな通信が入った。

 今は周波数を『ブロック』の無線とは変更しているので、彼らからの通信は来ない。なので、通信があるとすれば―――――

『ゆ、遊離さん!!我々「科学結社」の仲間が次々と暗部の連中に捕縛されています!!俺も、もう保たないかもしれません!!た、助けて下さい!!指示を!!』

「あーあー……まだ生き残りがいたのねぇ、お前ら」

『…………へ?』

 男は呆けた声を出した。

 

 当然だ。

 遊離の指示で『セキナガ社』を襲い、遊離の建てた計画で犯行を進め、遊離の指示に従ってきた『科学結社』の男達からすれば、もはやこの絶望的な状況でリーダーと呼べる木原遊離に助けを求める他に道がない。男達が学園都市の『外』の人間であるのに、暗部に対して機敏な対応を見せたのも、遊離の入れ知恵によるものだったのだ。

 

 しかし、それは『科学結社』の男達から見た視点。

 木原遊離からしてみれば、こいつらなど使い潰せる手駒としてしか認識していなかった。

 薬味との会話中に、AIM拡散力場のアンテナ機材が必要になる事をいち早く察知し、白衣のポケットに入れた携帯電話で『科学結社』へメールを送信。犯行を指示して薬味の計画を頓挫させようとしたのである。

 と、ここまでが木原幻生から依頼された任務であった。

 当然、薬味から「産業スパイの捕縛にも協力してもらえないか?」と依頼されたところで、遊離は断固拒否したに決まっている。

 が、そこで『とある別件』である。

 木原幻生からの突然の計画変更の旨がメールにて通達があった。詳しい事情は後で直接会ってから説明するとの事だった。

 そんな訳で、遊離はしぶしぶと薬味の依頼を承諾。

 先程までは犯行を手助けするよう指示していた『科学結社』の男達を、今度は逆に暗部『ブロック』に追い詰められるように指示していったのだ。

 『ブロック』のリーダー佐久は遊離が産業スパイの行動の全容を把握している事に疑問を感じていたが、何てことはない。遊離自身も犯行グループの一員だったというオチであった。

「お前、今どこよ?俺も実は今、第一八学区にいるんだけど」

『え、あ、えっと……俺もまだ第一八学区です!長点上機学園の裏路地を南に四つくらい跨いだところを、東に走ってます!』

「おー、近いじゃねえの。じゃあ、曲り角を右、左、左、右、の順で走ってこい。俺がそこにいる。他の面子には俺から連絡しとくわ」

『は、はい!ありがとうございます!!』

 そう言って、男の通信は切れた。

 あー、この男って憐れだなー。コイツってこの世に生まれた意味あるのかなー、と遊離は純粋に不思議に思う。

 これほど不幸な人間なんて、これから先、頑張って生きたところで辛い事がたくさんあるに決まっている。ならば、ここで殺してやった方が男のためにいいのかもしれない。人生負け組のまま辛い思いを一生引きずるくらいなら、今ここでサクッとぶち殺した方が本人にとっても幸せだろう。いわゆる尊厳死?いや、安楽死?とかいうやつである。

「何か俺って今日、久し振りに人のためにイイ事してるわー!!人助けって言うのか?ハハッ、『木原』らしくねー!!まるで正義の主人公(ヒーロー)みたいだぜー」

 そんな調子でウキウキと気分が上がってくる。

 足元に転がっていた、回転式拳銃(リボルバー)を拾う。

 水素爆発の影響か、撃鉄が歪んでいた。これでは火薬に着火されず、銃弾が発射されない。使い物になるとは思えなかった。

 試しに引き金を引いてみる。

 ガキン!!という不自然な金属音が鳴り響き、やはり銃口から鉛弾が飛び出す事もなかった。こんな状態では、まともに標的を殺す事もできない。

「しょーがねーなー……」

 と溜息をつき、死んだ男の腰にあったナイフを使い、ギリギリと刃を立ててドライバーのように器用に扱い、銃を分解していった。撃鉄の部分をこじ開け、丸見えにする。

 そんな彼の耳に、ドタバタと駆けて来る足音が聞こえた。

「遊離さん!!」

 曲がり角から、無線機から連絡があった男が顔を覗かせる。緊迫した状況下で、唯一信頼できる仲間を見つけた、という目を輝かせるような視線を向けてくる。

 遊離はニヤリと笑った。

 

 あろう事か、その使い物にならなくなった回転式拳銃(リボルバー)の銃口を男の眉間に合わせる。

 

 そのまま遊離は、白衣の胸ポケットから、タバコに使うライターを取り出し、火を起こして拳銃の撃鉄部分に突っ込んだ。

 

 パァン!!と乾いた音が炸裂した。

 

 男の眉間に穴が開いた。

 鮮血の赤と一緒に、白色の何かも眉間の穴から漏れ出てくる。

「な……んで……………?」

 男がバタリと倒れる。

「あー、痛っつー!ちょっと火傷したじゃねーかー、コラァ!!」

 火傷した左手の指をしゃぶって目に涙を浮かべる遊離は、トボトボと歩き出す。

 ぶっちゃけ、遺体の処理とか超面倒になった。後で薬味にでも連絡すれば、事後処理をうまくやってくれるのではなかろうか?と適当に思考を放棄してしまう。

 任務完了である。

 そんな訳で。

 木原遊離は一連の行動を全く悪びれる様子もなく。

 裏路地から出て行

 

 

 ―――――こうとした。

 

 しかし。

 そんな彼の行動を目撃してしまった者がいた。

 その人物は、あろう事か学園都市の『闇』を生きる彼を前にしても怯んだりせず、むしろ命知らずに彼に大声で呼びかけてきた。

 

 

「ちょっと待あああああああああああああああっっったあああああああああああああああああああああああああ!!そこの世界一根性のねぇてめぇに告げる!!お前今、そこの警備員(アンチスキル)の兄ちゃんに一体何をしたあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 本日一番の天災が、木原遊離に襲いかかる。

 ここまではいつも通りだった木原遊離の日常に、ようやく非日常の陰りがチラつき始めた。

 

 

 

 

 




という訳で、スパイだった遊離でした。
「幻生が仲間とか、逆に頼もしいな……」と書きながら思ってましたww

次回は根性大好きな彼の登場です。
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