※この作品はR-18です。

【とある魔術の禁書目録】敵役なりのジンテーゼ -Kihara-   作:白滝

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物語の核心に迫ります。

感想・評価などは気軽にして下さると嬉しいです。


第七章 真相が一つとは限らない Bad(’s)_Root

 薬味久子に自分の立場がバレていた。

 その事実は拷問を受けた時点で分かってはいたが、こうも決定的な証拠を握られていたとなると、苦虫を噛まざる得ない。

 録音は続く。

 

  『ちょうど今終わったとこだっつーの。つかジジイ、計画変更とかはもっと事前に知らせろよ。追加料金を請求させてもらうからな』

  『~~~~~』

  『薬味久子が主導してた「新型兵器」に関する文書なら、さっき暗号化処理したファイルを添付して指示されたアドレスにメールを送信しといたぜ。ったく、こういうインテリ作業は苦手なんだよ……頭はめちゃくちゃいいんだけどよ』

  『~~~~~』

  『ああ、そうさせてもらうぜ。っつか、そうは言っても、しばらくはあのババアのパシりにならにゃあいけねーのかねー……。あー、嫌だ嫌だ。看護婦でもレイプしてうさ晴らしすっかなー』

 

 その台詞を後、通話を切った音が聞こえた。

 そこで、トマスもモニターの映像を一時停止させたようだった。

 

  『事情が分かりましたか、薬味さん?』

  『ええ……。木原遊離は、木原幻生の手駒だった。そして、私の研究を敵視するライバル研究グループに所属していた、って事でしょう?全く、迂闊だったわ。履歴書も洗い、人選には細心の注意を払ったのだけど』

  『そういう事です。そして、問題は―――――』

  『――――「木原遊離と木原幻生がどの研究グループに所属しているか」ではないわよ。心当たりは数あれど、ここまで綿密な工作をしてまで私の研究を堕とそうとする奴らなんて一つしかない!!「Five_over」プロジェクト!!奴らはそれに関わっていた!!そうとしか考えられない!!』

  『ならば――――――』

  『だからこそ、問題はそこではないのよ、トマスさん』

 

 トマスの息を呑む音が聞こえた。純粋に薬味の言いたい事が理解できないのだろう。

しかし、遊離は既に薬味の着目点を理解していた。そして、それこそが遊離の知りたかった事である。遊離の抱いていた疑問を、薬味の声が代弁するかのように質問した。

 

  『問題は、なぜこの情報をもたらしてきたのがアナタ、トマス・プラチナバーグだったか、という点よ。この件に関連のないはずのアナタが、これほど事件の裏の情報を掴めていた理由が私は分からないわ。その説明がなければ、私はアナタを信用する事はできない』

 

 そうだ。

 薬味の言う通り、この件になぜトマス・プラチナバーグが関わっているのかが事件の鍵となる。第三者の脇役でしかなかった彼が、この場面で、このタイミングで舞台へ躍り出てきた背景。それこそが、薬味久子の研究を巡るこの事件の真相に直結している。

 幻生が電話で言っていた『とある別件』。

 それが、トマス・プラチナバーグに密接に関係があるはずなのだ。

 

  『……もちろん、最初に私の事情も話すと約束しました。まず、事の発端を順に説明しましょう。……実は私は、三日ほど前から「Five_over」プロジェクトの管轄顧問となったのですよ』

 

(―――――な、何だとッッ!??ばッ、馬鹿な!!ありえねえ!!その肩書は幻生のモノじゃねーか!??どういう事だ!?何がどうなってやがるッッ!??)

 それはおかしい。遊離が幻生から潜入任務を言い渡される前から、既にトマスが計画の実権を握っていた、という事になる。

 

  『……事情が読めないわね。なぜアナタが「Five_over」プロジェクトの全権を握る程の立場になったのかしら?』

  『前任の木原幻生から、話がありましてね。今後、私の主導で「Five_over」プロジェクトが行われていく事になります』

 

(はぁッッ!??幻生が自分の計画を放棄してトマスに丸投げしやがったってのか!?なぜッッ!??)

 

  『幻生本人から?……なら、その後の彼はどうするのかしら?』

  『それが計画の全権を譲る際の交換条件でして……幻生が実験に関わったという痕跡を全て消して欲しい、との事だったのです』

  『雲隠れが得意な彼らしい早逃げの一手ね。けれど、そもそも逃げる理由が見つからないわ』

  『私も今日まで分からなかった。ですが今朝、幻生から連絡がありまして―――――――実は我々「Five_over」プロジェクト研究チームの中に、裏切り者が一人いる、との事だったのですよ!!』

 

(おい……待てよ、この流れ……)

 

  『それってまさか……』

 

(おいおいおい、待てよ。まさかこの流れって、もしかして―――――)

 

 

  『――――そう!木原遊離!!彼が幻生を裏切り独断で動き、「Five_over」も薬味さんの研究も、全部共倒れにされるつもりだったようでして』

 

 

(俺を、ハメやがった………?げ、げん、幻生ェ……?………幻生ェぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!)

 やられた。

 俺をハメやがった。

 俺が独断専行で、薬味を潰すために動いただと!?冗談もいい加減にしやがれ!!俺は幻生の指示通りに動いてただけだァ!!

 ふっざけんなよ……この、クッソ野郎がァあああああああああああああああああああああ!!

 

  『……なるほど。木原遊離の暴走をコントロールできなくなった幻生が、事件が現状のように深刻になる前に、さっさと早逃げして肩書と共に責任をアナタに押し付けた、といった事かしら』

  『そうです。そして、私はアナタの研究と対立する意思はありません。ここで提案なのですが、木原遊離を殺害する計画にご協力を願えないでしょうか?彼の暴走は私達にとっても「目の上のたんこぶ」でして』

  『……次の「学究会」に参戦しないと誓えるかしら?』

  『約束しましょう。もはや木原遊離は、首輪のついてないただの野犬です。殺してもらって構いません』

 

『クソガァ!!』

 バキッッ!!と、思わず警備ロボットのアームでモニターを粉々に砕いてしまった。

 音声ファイルが停止した。

 制御室に再び静寂が訪れる。

(クッソ野郎共め!!どいつもこいつも老衰間際のクソッタレ共が!!この俺を舐めやがってえええええええええええええええええええええええええええ!!)

 怒りが明確な殺意へと切り替わる。

(復讐だ!!こうなったら、全員まとめて皆殺しにしてやる!!)

 

 ――――――ピー、ピー、ピー……

 

 と、ここで遊離と接続されている警備ロボットに直接に通信が入った。

(バレたか!?)

 いきなりピンポイントでこの端末に通信が入ったので、ついに薬味に現状がバレたかと警戒したが、どうやら外部から通信だったようだ。

『やぁ、元気かね遊離君?』

『幻生ッッ!?テメェ、一体ドウシテココガ分カッタ!?』

『何を言っているんだい?君が私に救援信号を送ったのだろう?』

 そう、だった。

 だとしたら、決定的に墓穴を掘った。幻生は遊離の敵だったのだ。

『デ、何ノ用ダヨ?俺ハテメェガ敵ダッテ事ニ、モウ感ヅイテルンダゼ?今更ニナッテ情報操作ヲシヨウトシタッテ、テメェハモウ信用シネーンダヨ!!』

『君がもう真実に辿り着いているだろうって事も、私は予測できていたさ。だから、君には信用できるかどうか言っていられない状況を作った』

『……ドウイウ事ダ?』

『こういう事だよ』

 

 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!!と。

 

 突如、病院に警報が鳴り響いた。

(なッ!?警備ロボットを介して、警報が鳴らないようにプログラムを改竄していたはずなのに!?幻生の野郎が警報のスイッチを入れやがったのか!?)

『さぁ、これで遊離君は病院内で戦わなければならなくなったね』

『テメェ、絶対ニブッ殺ス!!病院カラ生キテ帰ッタラ、真ッ先ニ死ヌノハテメェダト思エ!!』

『期待しているよ。ついでに、ヒントもあげよう………「最下層の機材倉庫」。それが私が用意した、君へのささやかなプレゼント、といったところかね』

 ブチッ、と通信が途切れた。

 鳴り響く警報によって、病院内の全職員が目を覚ましてしまっている。廊下をバタバタと駆ける慌ただしい音が部屋の中にも伝わってきた。

(時間がねぇぞ!!まずは病院内で生き残らなきゃならねえ!!)

 だからこそ、ここで冷静になる必要がある。

 事件を冷静に見つめ直し、詳細を正確に把握する必要がある。

 もはや口も肺もない遊離だが、それでも深呼吸したかのように脳が落ち着きを取り戻していった。怒りの沸点を平常に戻せるこの人格は、『木原』の中でも相当に珍しい性質といえる。

(事の発端を見つめ直す!!その上で、未だ残る疑問を浮き彫りにする!!)

 

 事の発端。

 幻生は『Five_over』の全権をトマス・プラチナバーグに渡して、雲隠れした。

 その後、幻生は雲隠れ先から電話やメールで、「未だ幻生が研究顧問である」と見せかけて遊離にスパイとして薬味の元へ潜り込むよう指示した。

 遊離は指示に従って薬味の元に潜り込み、研究に必要な機材である『AIM拡散力場の受信用アンテナ』を『科学結社』に盗み出させて薬味の計画を頓挫させようとした。

 しかし、幻生からメールで「『とある別件』が入り、計画変更。機材は盗まなくてよい」という謎の通達があったので、急遽方針を変更。『科学結社』を皆殺しにした。

 しかし、幻生の言っていた『とある別件』なんてのものは実のところただの方便で、遊離が予想以上に的確に薬味を潰しにかかったので、状況が均衡するよう両者のバランスを均したかったのだろう。

 遊離はそこで、超能力者(レベル5)の第七位と偶然に遭遇。好奇心を煽られ、なし崩し的に戦闘に突入する。……いや、ここで遊離が第七位に敗北する事まで幻生の計画通りだった可能性も否定できない。幻生が横槍を入れて、普段は通らないであろう裏路地を第七位に歩かせた、という可能性もありえなくはないのだ。幻生だって『木原』なのだから、そこまで計算ずくだったしても、おかしくはない。

 一方その頃、トマスは幻生から「遊離が独断で、薬味の研究を潰しにかかっている」と突然の連絡を受けていた。このままでは統括理事会同士の全面戦争に発展しかねない。順風満帆な出世街道を登り詰めてきたトマスとって、そんな危険な橋は渡りたくなかった。だから、「遊離を一緒に排除しましょう」と薬味に提案を持ちかけた。

 自分はアナタに敵対する意思はありません。自分の研究はアナタより下で構いません。

 そんな風に自ら二番に甘んじる事で、薬味との全面衝突を回避した。彼なりの処世術なのだろう。

 そんな訳で、薬味は遊離の殺害計画を遂行する事になる。無人戦闘ヘリ『六枚羽』で、一見すると第七位から助けたように見せかけて、遊離を拉致して拘束した。

 そのまますぐに遊離を殺さず尋問したのは、トマスの提案の裏や言質を取りたかったのだろう。薬味からしてみれば、いつ殺そうが問題はないのだ。引き出せる情報は引き出すにこした事はない。

 

 そして、今に至る。

 とんだピエロだった。

 スパイとなって、『科学結社』を駒のように操り、全てを支配しているように見えた。しかしその実、自分の全てを誰かに支配されていた。自分も盤上の駒の一つに過ぎなかった。

 木原幻生の掌の上で踊らされているだけだった!!

(だが、まだ負けた訳じゃねえ!!)

 そうだ。

 事件の一連の流れを把握できたからこそ浮き彫りとなった疑問が、まだ一つだけ残されている。

(なぜ幻生は俺を薬味の元へ潜り込ませた!?そんな命令さえしなければ、そもそも自分が研究から手を引いて雲隠れする必要だってなかったじゃねーか!!自分でヘマして自分で退職届けを提出しているようにしか、俺には見えねえぞ!?クソジジイの目的がさっぱり分からねえ!!薬味もトマスも目的は推測できるってのに、幻生の目的だけがさっぱり分からねえ!!)

 遊離を薬味と対立させる事に何の意味がある?

 遊離を薬味と殺し合わせる事に何の意味がある?

 真相の奥に隠れた真相。

 統括理事会さえも手駒として操る、木原幻生の企み。

 しかし、そこから考えを進める余裕はなかった。

「せ、制御室の前で二人が死んでるぞ!!」

「おい、階段にも死体があるぞ!!」

(チッ……時間がねえ!!)

 病院の警備員達が間近に迫っていた。

(警備ロボットだけで病院内から脱出するのは無理だ。警備ロボットの座標は特定されちまうし、ダミー情報で誤魔化すのだって限界がある。一見すると状況は詰んでやがる……が、)

 もはや孤軍奮闘。

 絶体絶命のこの窮地で、それでも尚、一筋の希望の光が遊離は残されている。

 それは、

(幻生の言っていた『最下層の機材倉庫』ッッ!!奴の言う事は信用できねーが、もはやそれ以外に道がねえ!!)

 幻生の事だ。

 どうせその先にロクでもない魂胆があるのだろう。

 しかし、今。

 遊離は信用するかしないかで選択肢を選べる余裕はなかった―――――奇しくも、幻生の思惑通りに。

(何とかして最下層の機材倉庫まで辿り着く!!何があるのか知らねーが、それしか道はねえ!!)

 決意と同時。

 ドバッ!とドアを蹴破って警備員たちが制御室に入ってきた。

 遊離はすかさず銃撃に移る。

 警備ロボットの機関拳銃(マシンガン)が警備員たちを蜂の巣にした。

 そのまま制御室のアナウンス機材に電極のコードを突き刺し、人工音声のアナウンスを乗っ取りにかかった。

 

 

 薬味はパジャマの上にカーディガンを羽織ったままの状態で、部屋の固定電話で警備室へと内線を飛ばす。

 警備室の男から、電話越しに荒い息が聞こえてくる。

「どういう状況!?」

『木原遊離が逃亡しました!!監視していた警備ロボットもいません!!』

「なっ、何ですって!!どうやったらそんな事が!!」

『一人で脱出など不可能な状況でした!内通者の可能性も否定できません!!気を付けて下さい!部屋に鍵をかけて、くれぐれも外に出ないよう!』

「私の元には『アレ』があるから問題ないわ。それより、彼は今どこなの?」

『病院出口の監視映像には映っていませんでした。しかし、制御室付近の映像に、ハッキングの跡が見られます。おそらく、奴はまだこの病院内にいると思われます!』

「被害状況は?」

『階段で一人、制御室の前で二人が遺体で発見されました!いずれも、制御室の夜番を担当していた者です!……あっ、たった今、制御室で――――――』

 男の言葉は遮られた。

 突如、人工音声のアナウンスが病院内に響き渡ったからだ。

『緊急連絡。緊急連絡。只今、木原遊離の逃走経路が判明しました。現在、彼は内通者と共に地下二階を逃亡中。病院の正面玄関から強硬突破する模様です。職員は至急正面玄関に集合し、防衛線を固めて下さい。繰り返します。只今、木原遊離の――――――』

『……だ、そうです!私は正面玄関に急いで向いますので、薬味院長は部屋に避難していて下さい!』

 そう男は捲し立てて、通話を切ってしまった。

「……あからさまに怪しいわね」

 内通者の存在は確かに否定できない。

 しかし、だからと言ってアナウンスまでする必要がない。

 それでは、遊離にもこちらの意図が伝わってしまうではないか。

 警備員達はパニック状態なために気付いていないが、本来はあの程度の情報など、病院内の内線電話で事足りる。不自然だ。

「まさか……」

 木原遊離が制御室を乗っ取り、誤情報を流している可能性がある。

 だとすると、上の階へと職員を誘導した意図が遊離にはあるという事だ。

(わざわざ自分から地下に潜る気かしら……?いや、意図が掴めないわね)

 だが、明らかに今のアナウンスは職員を上の階へ誘導する意図が見えた。

 それは確実だ。

(もはや脳だけの彼に戦う力があるとは思えないけど、念には念を入れて『アレ』を同伴させましょうか……)

 

 

 遊離は警備ロボットの足を器用に動かし、階段を下りていた。

 アナウンスで職員を上の階へと誘導し、うまく人の波を躱す事に成功した。

 現在は地下五階。

 地下六階まで辿り着けば、機材倉庫は階段のすぐそこだ。

(警備ロボットの粉砕式弾頭の残弾数も残り少ねえ!早く移動しねーと!)

 ガラスケース内の生理食塩水もかなり濁ってきた。

 寿命のタイムリミットは近い。

 なりふり構わず、幻生の残した最期の絶望(希望)に辿り着かねばならない。

 

 しかし。

 

 ドバッッッッッッッッッ!!と、爆発音が階段を駆け巡った。

 

 崩壊した天井が瓦礫となって階段の踊場を埋め尽くす。

 

(なっ、何だ!?)

 踊場が瓦礫で埋め尽くされ、進路が封じられてしまう。

「やはり地下を目指していたのね。しかし、よくもまぁそんな姿で反逆する気になれるわね」

『薬味ィ……!!』

 上の階のいたのは、薬味久子だった。

 隣に看護服のナースを引き連れて、こちらを見下ろしていた。

「脱出できた経緯と、あなたに共犯者がいるのかどうかを聞いてもいいかしら?」

『ア?ヤレルモンナラヤッテミロ、ババア。警備員モイナイテメェニ、一体何デキルッテンダヨ?アァ?』

「よく吠えるわね。その姿とそんな機械音声で啖呵を切られてもシュールなだけよ。そして、私がアナタの相手をするのではない。この子がするのよ」

 そう言って、薬味は一歩下がった。入れ替わりに、看護服のナースが一歩前に出た。

『ソイツニ何ガデキンダヨ?潔ク死ネッッ!!』

 と警備ロボットに言わせて、遊離は警備ロボットの機関拳銃(マシンガン)で銃撃する。

 

 しかし。

 直前の出来事だった。

 ジャガッッッ!!という複数の金属が擦れるような、奇怪な音を遊離は耳にした。

(な、ん……?)

 体感的にスローモーションとなった世界の中で、ナース服の看護婦の背中の中から、何か得体のしれないものが飛び出すのを目で捉えた。メタリックな赤の巨大な花と、雄しべや雌しべのようにも見える銀色の金属棒が多数。

 サイボーグ化された人間か!!と、安易な結論では終わらなかった。

 知っている。

 木原遊離は、ラフレシアのような印象を与えるその装置を知っている。

(――――『AIM拡散力場の受信用アンテナ』ッッ!!)

 

 直後、銃弾が跳ね返った。

 ナース服の看護婦に銃弾が触れた瞬間、銃弾の軌道が巻き戻されたかのように機関拳銃(マシンガン)の銃口へと銃弾が吸い込まれた。

 バキバキバキッッ!!と機関拳銃の内部が破壊され、警備ロボットのアームがひしゃげた。

(なん…だと……ッッ!?)

 その現象を説明するならば、ベクトル変換。

 その超能力を扱える者は、学園都市でただ一人……超能力者(レベル5)の第一位。

 それが示すただ一つの結論とは、

 

 

『完成シタノカッッ!?超能力者(レベル5)ノ殺戮兵器ガ!?』

 

 驚愕の事実だった。完成してしまった。

 だとすると、もう勝ち目はない。

 超能力者(レベル5)全ての能力を扱う事ができる、最強の殺戮兵器。

 遊離は五体満足な状態でさえ第七位に勝てなかったというのに、それを上回る第一位から第六位までの全ての能力を扱う事のできる、擬似的な多重能力(デュアルスキル)を実現したサイボーグ。

「もう名前があるの。私は『恋査(れんさ)』と名付けたわ」

 言葉を聞く暇はなかった。

 遊離は即座に逃走に移った。

 別経路の階段で降りれば、まだ機材倉庫へ辿り着く事ができる。

 しかし、

 ガシャコン!!と恋査の背中が再び大きく開き、複数の『編み棒』が飛び出す。

 扱う能力を切り替えているのだ。

(クソがッッ!!)

 警備ロボットに信号を飛ばす。

 対テロ用にハイスペックに設計されている警備ロボットは、端末の思考演算によって防火扉の開閉のプラグラムに干渉できるようになっている。

 そこに、遊離の思考が干渉する。

 逃走する遊離の背後で、恋査との間を区切るように防火扉が閉まった。

 

 しかし、

 ボッッ!!と、空間自体を引き裂くような轟音が炸裂した。

 遊離は警備ロボットの機体を傾けさせる。

 自分の脳を入れたガラスケースの数ミリ横を、真っ白で不健康的な光の筋が貫いた。

 防火扉を紙屑のように引き裂く純白の光線の正体は、粒機波形高速砲。

 『粒子』と『波形』の双方の性質を示す電子を、二つの中間である『曖昧な状態のまま固定』して操る、第四位の能力である。

 死の光線はそのまま反対側の廊下の壁まで貫き、爆発を起こしていた。

 天井が崩れ落ち、もはや上の階へと登れなくなっていた。それどころか、瓦礫が階段へ雪崩れ込み、下へと続く通路まで塞がれてしまう。

(退路が断たれた!?ヤベぇッッ!!)

 必死に考えを巡らす遊離の後ろで、防火扉を引き千切りながら現れた恋査は、思いもよらぬ言葉を投げてきた。

 

 

「待ってよぉ、遊離お兄ちゃん!!私、お兄ちゃんを殺したいよぅ!!」

 

 

 ギクリ、と遊離は動きを止めた。

 

 もはや身体など存在しないのに、喉が干乾びるような緊張が彼を襲う。

 忘れていた。

 いや、その可能性は十分あった。

 だが、考えを放棄していた。その可能性に目を瞑り、気付かない振りをしていた。

 

 それは。

 

 それは、

 

『……オ前…………相殺、……ナノ、カ……?』

 

 

 

 

 




ついにラスボスの登場です。

次回は遊離がすごい事になります……まぁ、もう既になってますがww
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