もういちど ルミナスはなんとか一万切りました。
僕はパスパレが好きです!
大切なものを台無しにして、踏みにじってしまいたい欲求に駆られるときがある。
女優としての地位も、恋人との関係も、どれも大切でかけがえのないものであっても等しく平等に壊したいと思うのだ。
嗚呼、私はおかしいのだろうか。
夏だというのに閉め切った窓と、昼間だというのに閉め切ったカーテン。
薄暗い部屋の中には湿った甘い体臭が満ちていた。
「えへへへ」
甘えた声音でベットで半身だけ起こした私に全裸で抱きついてくる恋人の幼稚な行動を私は無碍にはできなかった。
ああ、自分も丸くなったものだ。白鷺千聖ともあろう者が恋人を作るなど、あまつさえそれが同じグループのアイドルだったなど、世間に知られればどんなスキャンダルになることか。
だからデートと呼べるものは必然的にお互いの家を行き来することになった。今も偶然空いた数日の夏休みに一緒に課題を終わらせるという名目で恋人の家に入り浸っている。
「彩ちゃん、べとべとよ。もう、シャワー浴びましょうか」
「めんどくさーい。千聖ちゃんこのままもう一回シよ?」
じゃれついてくる彩が私には盛りのついた犬、しかも大人のゴールデンレトリーバーのようだ。
うちの犬みたいね、内心で微笑ましく思いながら私も少し、全裸の恋人にその温もりにその気にさせられたようだ。
「折衷案、お風呂場でするのはどうかしら?」
「わーい、千聖ちゃん大好きー」
こちらを押し倒す勢いで喜びを身体とともにぶつけてくる彩の少し湿っぽい感触に少し辟易しながらも恋人を抱き返した。
柔らかい女性らしい感触に頭が少しくらくらした。
「でも、キレイにする前に千聖ちゃんを味わいたいなぁ」
私を抱きしめていた腕が太股に伸びる。
膝から、根本に細くて長い指が何度もくるくると行き来する。
私が塗ってあげたピンクのマニキュアにぞくぞくする。
膝を指先でくるくるとなでる。
ゆっくり、ゆっくり動く指先が憎らしい。
やがて太股をまっすぐ付け根に向かってくる。
ぎりぎりまで進んで、戻っていく、と思ったら太股の色んなところを撫でだした。
私の大事なところは触らないでその寸前でとんぼ返り、生殺しだ。
もどかしい快感も相まってこちらも抑えが効かなくなっているらしい。
もうここでやってしまおうか。
決めてしまえばこちらが受けに回る理由もない。私をもどかしくまさぐる手を掴んでベットに仰向けで縫い止める。
「えへへ、やっと千聖ちゃんもその気になってくれた」
ふにゃり、と砕けた柔らかい笑み。まったく害意もない笑み。芸能界で本心を微笑みの仮面で隠しながら生きてきた私の憧れで同じ世界で生きる人間としてもっとも憎らしいもの。
出会った頃はこの笑みが憎らしくてどうしようもなく汚してやりたいと思っていた。
いつからか彼女の純真な笑顔をこの世界から守りたいと思うようになっていたのは何の話か、全くの皮肉だ。
「千聖ちゃんのその目、ぞくぞくしちゃう」
甘美な誘い文句に返事をする代わりに強引に唇を奪って、乱暴に口腔を犯す。
逃げる素振りも見せない彼女の後頭部を押さえて拘束する。
絡みついてくる舌をねじ伏せて彼女の唾液を味わう。
頬を伝って落ちていくのはもったいない、指で掬いとった。
反論も反撃も許さない、ドロドロに蕩かしてやる。
後頭部を掴む手を片方離して、裸体の肌をまさぐる。
密着したからだが、擦れあう乳首が、手のひらから感じる滑らかな絹肌の感触が、すべてが私を燃え上がらせてキスすらもどかしい。
「その目にさせているのは貴女なのよ、覚悟しなさい」
「あははっ、そうこなくっちゃ」
空いた片手を秘所に乱暴に突っ込んでも大した摩擦感もなくするりと奥まで届いて、少し指を曲げて感触の違う所を押し込むだけで押さえつけていない腰が大きく跳ね上がる。
「ふんっ!んっっっっっ!!んんんんんんんんっ!!!」
逃れようともがく彩を上から押さえつけて深い口づけと激しい手淫で責めたてる。
私はその行為に快感を感じていた。
ああ、彩ちゃんもっと、私のところまで堕ちてきて。
「きついっちさ、とちゃ、んんんんっ!!」
酸欠気味のキスから逃れて、抗議するも口を再び塞いで呼吸を奪う。
それまで私を抱きしめて快感を堪えていた両手を振り回して私の魔手から逃れようともがく。
何度も私の肩をタップして降参の意を伝えてきているけど、私はそんなこに構いなく愛撫を続ける。
何とか離した口から痙攣気味な呼吸が漏れ出す。
「ああああああああっ!」
長い尾を引いて、絶頂に達した彼女の身体がバネのように跳ねて甲高い声を絞り出す。
扇情的な腰のラインも、油断するとすぐに柔らかくなる二の腕も、アイドルグループのセンターを任されるほどの容姿も。
「綺麗ね、嫉妬しちゃいそう」
苦しそうに紅潮した頬と、激しく上下する胸、胡乱な群れた瞳も。
「こんな事してるときじゃなきゃ、喜んで飛びついたのになぁ」
「抱き付いてくれないなんてさみしいわ」
「もう抱き付いてる」
思わず笑い合った。
鼻先を触れさせて、見つめ合う。それだけで救われそうになる。
私はこんなにもあなたを黒くてドロドロしたところまで墜としてしまいたいのに。
「ちさとちゃんは私になーんでもしていいよ」
「なら心中しましょう」
「それはイヤだなぁ」
「なんでもしていいんじゃなかったの?」
「千聖ちゃんより一秒でも長く生きて千聖ちゃんのこと思っていたいんだ、私」
「私は彩ちゃんがいない世界で生きれるとは思わないわね」
「だから心中?」
「そう、一緒に死ねばそんな思いせずにすむでしょう」
「そんなのさみしいよ」
大切だから綺麗なまま終わらせたい私と大切だからずっと抱えていたい彼女も今この瞬間だけはこの交わりをずっと続けていたいという気持ちを共有している。
私は綺麗なものなんかではないのに。
「また千聖ちゃん難しいかおしてる」
彼女が両手を伸ばして私の頬にふれる。
指で口角をあげて笑顔を作って、横に伸ばして、ぐるぐると回して。ふふふと笑いながら顔を撫でられて。
「お休み、明日までなんだし、今日はいっぱい、いちゃいちゃしようよ」
一切の打算も害意ない、それなのにどこまでも堕落を誘っている。
まるで質の悪い妖精ね。
「そんなにだらけていたらアイドルとして恥ずかしいわよ」
「そう、今はアイドルお休みだから、さ。いいでしょ?」
「またそうやって…」
といいつつ私は満更でもなくむしろたぎってきた。
そして訂正、彼女は悪い妖精なんかじゃない。真性の淫魔か何かだ。こちらをその気にさせて絞り尽くす、それで彼女に悪気がない分たちが悪い。
「こんどは私の番だよ」
惚けて間延びした声とは裏腹に手つきは淫靡だった。
「そこまでよ、いい加減お風呂に入りましょう」
「えぇ~」
「えぇ~じゃないの彩ちゃん。もうどろどろすぎるしベットもぐちゃぐちゃよ」
「は~い、じゃあ一緒にお風呂入ろう」
「もう、しょうがないわね」
やったーとふにゃふにゃと力が抜けたバンザイから私に飛び込んで喜びを表現する。
やっぱりうちの犬みたいね。
「今お湯張ってくるね!待ってって!」
勢いよく彼女は締め切ったカーテンで薄暗い部屋から出ていった。
「彩ちゃん、お風呂でくらい盛るのはやめない?」
「だって千聖ちゃん身体、綺麗なんだもん。肌もすべすべでキメも細かいし触り心地最高なんだもん」
「それにしては触っているところが変な気が…」
高校生の女子私が小柄なことを除いても少し手狭な浴槽で、それでもあまり狭苦しくはないのは私が彩ちゃんに背中を預けてその股の間に収まっているからだろう。
それにしては私が彼女にいいようにされそうな位置関係なのが気になるが。
実際、私の後ろから太腿や乳房に手が伸びてくる。もう私は満足しているというのに。まったくもう。
底なしの性欲が若干恐ろしい。
「いいかげんになさい」
太股からその付け根に伸ばそうとしていた手の、その甲を爪で軽くつねる。
「ひどいよぉ、千聖ちゃん」
「もうおしまいよ、もうすぐ私達はアイドルに戻らなきゃいけない」
「あははっそれを言われるとちょっと困っちゃうな」
そう言いながら全く困った様子はなく呆けた笑いを浮かべていた。
「そう言うなら手を止めなさい」
「千聖ちゃん触り心地いいからとまらなーい」
こっちまで可笑しくって思わず笑ってしまった。
ああ、私の陽溜まり、真っ黒に染めて汚したいとは思っていても、私にとって大切なもの。
唐突に抱きしめられて、後ろから首筋に口付けされる。
「好きだよ、千聖ちゃん」
「ええ、私も」
私の中に隠さなければいけない感情があったとしても、今この瞬間に同じ思いを共有していれば、それでいいと私は感じていた。
私は誰かを好きになることはない、なってはいけない。
そのはずだったのに、彩ちゃんがいなければ今はもう私は生きていけるとは全く思えない。
「ふふふ、彩ちゃん貴女と私がずっと一緒にいるためにどうすればいいかしら」
疲れて眠りこけた彩の白い肩口にくるくると八の字を描く。
「永遠、無限の象徴、錬金術のウロボロスなんてどうかしら?」
微笑みながら、私は続ける。
「私達ははアイドルだから、場所も選ばないとね。服で隠れて見えないところ…どこがいいかしら?」
私は貴方に魂を売ってしまおう。だから対価を下さい。私のすべてと貴女のすべてを交換しましょう。
そうすれば私達は一つになれる。それってとても素敵なことだと思わない?
「ん…んっっっと、どうしたの?千聖ちゃん」
「ふたりお揃いのタトゥーなんてどうかしらって」
「私達アイドルだよ、ばれたら大スキャンダルに…」
答えを予想していた私は彼女の口に指をあてて言葉を遮る。
どこまでも彼女はアイドルに真剣で、どこまでもPastelPalettesの丸山彩であって 私のものではない
「知ってる彩ちゃん?」
「な…、なにを?」
「人間にとってはね見えないものは存在しないのと一緒なのよ」
「で、でも…」
抗議の声を、私の口で塞ぐと、彼女は驚いたように目を見開いて硬直した。
彼女はアドリブと不意打ちに弱い。こうすれば抗議もできない。
私はいつもこうやって彼女に私の言い分を通してきた。
ちょろいものね
「簡単なこと、ばれないようなところにすればいいの」
もう一押し、もうすこし。なるべく彩ちゃんが断りにくいように、駄々をこねる子どもを優しく諭す母親のような顔で。
今度は私が彩ちゃんを唆す悪魔になる。貴女に対してならどんな大女優よりも上手い演技で貴女を欺いて見せよう。
「アイドルの私たちがファンを裏切っちゃいけない」
「私達がこうしていることだって立派な裏切りよ」
「だから秘密、パスパレの皆にも誰にも秘密にして私達の胸の中に隠してる。タトゥーなんて入れたらもう隠せなくなっちゃう。小さいころから芸能界で頑張ってきた千聖ちゃんならわかるでしょ」
まっすぐすぎる視線に私は目を逸らすことしか出来なかった。
「ごめんんさい、彩ちゃん。変なことを言ってしまったわ、忘れて頂だ、きゃっ!!って何するの!」
「変なこと言った千聖ちゃんにお仕置き」
「やめなっっっっ!!明日は朝からお仕事なのよっ!!」
「だったら朝までしてそのまま行こっか」
文字として形容できないような嬌声をあげさせられながら、私はそのまま流されて、ただの白鷺千聖と丸山彩でいれる時間をもう少しだけ楽しんでいようと思った。
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