さて、僕が学園で生活を始めてそこそこ時間が経過した。
僕はいつも撫子会にて雑用を行っている。
本来はそんな役職ないんだけど、やることがない。
「鼎、早く紅茶を用意なさい」
「はい、ただいま用意します」
僕は今、3年生の華琳様と2年生の雪乃様が大体の仕事をそつなくこなし、同学年である蓮様や木乃香様も各自教えてもらいながら仕事に取り組んでいる。
とはいえ実際にやっているのはさっきもいった通り雑用。原因は
「何をしているの、さっさと働きなさい」
「はーい、華琳様」
3年生の華琳様に何故か嫌われているためです。
特に問題を起こしたりしたわけでもない。間延びをした喋り方はキャラ設定だし、雪乃様だって気にしていない。
こっちから仕掛けるわけにもいかないし。
あー、面倒だなぁ。
「さ、どうぞ」
「…あら、この前よりは腕を上げたわね」
「えへへ、ありがとうございます」
「まだまだね。精進なさい」
「はーい」
「あら、華琳様は鼎の入れた紅茶がお気に召さないのかしら?」
「実際まだまだ荒い部分が目立つ、というだけよ」
「うちはええと思うんやけどなー」
「あれ木乃香? なんで一人だけ緑茶飲んでるんだ?」
「うち紅茶よりこっちのほうが好きなんよ」
「最初に入れた時に、緑茶のほうが好きだって言ってたから用意してみました」
「ありがとなー」
「それほどでもー」
まぁその前から知ってはいたけど、紅茶が主流なのに最初から緑茶を出したら不自然だもんね。
それはともかくとして
「あのー、木乃香様?」
「様はいらへんで?」
「そこはおいおいということで。それで、私の顔になにかついてます?」
さっきから華琳様から鋭い視線が突き刺さっているわけだけど、それとはまったく別に物凄くにこにこしながら木乃香様がこっちを見てくる。
「ん? 別にそんなことあらへんで?」
「そうですか?」
わけわからん。
まぁいいか、笑顔が素敵だし、いずれこういう顔も他の男に向けられ…うぐぐ。
あーあ、犯してしまいたい。自分のものにしてしまいたい。
なんて暗い欲望が仄かに芽生えるけど、抑える。
今日まで何度も思ったことだし。思った時点で仕事人としては失格だけど…はぁ。
「あー、空が青いですね」
「とぼけたことを言っていないで、仕事をしなさい」
「はーい」
とりあえず、動きがあるまではこうやって普通に過ごしますか。
………
……
…
はてさてそう思った矢先ですよ奥さん(誰だ)。
現在夜。就寝時間直前なわけですが、
「鼎、散歩に付き合いなさい」
「あの、華琳様? 夜の外出は良くないんですよ?」
「嫌なの?」
「そういうわけでは」
「なら構わないのね」
「いやでも、勝手に外出は良くないですよ」
「断るつもりかしら?」
「そういうわけではないんですけど」
「なら構わないでしょう」
悟った。これはいわゆる無限ループだ。
今日は仕事の道具やら何やらが届けられる予定だからこのまま居座られたほうがまずい。
…はぁ、今日は厄日だなぁ。こういう唯我独尊を行く人とは、あんまり相性良くないんだよね。
とっとと機嫌とって戻ってこないと。
「行くわよ」
「…ふぅ、分かりましたよ」
展開が速すぎない?
そんな心の呟きに、当然誰も答えを返してくれるわけもなく。
………
……
…
森の中を散策していく。
とりあえず話しかけてはいるものの
「どこまで行くんですか?」
「黙ってついてきなさい」
取り付く島もない。
何がしたいんだよ本当に。
「このあたりでいいわね」
「到着ですか?」
「ええ、そうね。ここで…死になさい」
何でもないような動作でこちらに拳銃を向けて撃ってくる。
「ちょっ! 危ないなぁ!」
いや予想はしてたけども!
いきなり過ぎない!?
避けはしたものの、悠長にはしてられないのでとりあえず木の陰に隠れる!
「で、なんなんですかいきなり」
「あら、私のことなんてとっくにわかっているものだと思っていたけれど?」
「華琳様がガードってことは知ってますよ。なんでいきなり撃ってきたのかってことなんだけど」
「ええ、その通り。だから守るのよ。暗殺者であるあなたからね!」
言うが早いか移動してこちらに発砲してくる。サイレンサーがしっかりつけられてるから誰かに気づかれる可能性も低いってそんなこと考えてる場合じゃないな。
というか
「僕も一応ガードなんだけどね!」
銃狙いでこっちも撃ち返すけど当然のように避けられる。
本気で殺しにかかったわけではないとはいえ、ショックなんだけど。
「なんであれ、あなたが危険であることに変わりはないわ」
「ひどくない?」
以前はともかく、今はそれなりに模範的行動を心掛けているんだけど。
「死になさい!」
予め森に隠してあったのか、大鎌を構えて攻撃してくる。
森で長物を振るうというのは愚かともいえるが、習熟している人は例外である。
達人は間合いを完全に把握して木に武器を引っ掛けたりしたりすることはない。
「それにしても、また珍しいものを使うね!っと!」
「慣れればなんてことないわ。オーダーメイドだから、使いやすいし、ね!」
華琳は義父さんほど極めてるわけではないみたいだけど、それでも隙は意外と無い。
接近戦が得意ならどうにかなるんだろうけど、今僕が持ってるのは拳銃一つ。
おまけに弾丸は少ししか残ってない。
ここは逃げたほうが…?
「言っておくけれど、逃げるようなら貴方のことをばらすわ。本当は男だってね。そうしたら貴方はここにいられなくなる。今日まで話さなかったのはこの手で貴方を殺すためなのだからね」
ああもう!面倒くさい!
僕は元々考えるのは苦手なんだ。
殺すのはまずい、華琳が一人なのは自分の手で僕を殺すためだ。
で、ある以上ここにはいなくとも仲間は絶対いてばらされる可能性があるし、例え潜入しているのが彼女一人だけだとしても連絡がないとなれば新しい人員が来るだけだ。
では説得? いや、彼女は聞く耳を持たない。話そうとしても殺しに来る。そもそも復讐とか言っちゃってるし。無理
となると捕まえるのが一番穏当なんだけど…問題がある。
捕まえたところで欠席することになったら疑いの目が向けられる。何も知らない人ならともかく、ガードや暗殺者は絶対に疑う。なにしろ彼女は(僕もだけど)撫子会の一人なんだから。今日まで準備した彼女は後始末の用意までしているだろうけど僕はそんなことしてないんだから一日でどうにかしなきゃいけない。時間稼ぎのための道具は手元にも部屋にもない。
そもそも捕まえるにしても手元に麻酔弾が一発しかない。外したらそこまで得意でもない接近戦でどうにかしなきゃいけない。
華琳も弾を切らしたのか温存してるのか現在は大鎌による接近戦をしてきてるからとりあえず逃げ回って機を伺ってはいるけど時間は彼女の味方といってもいい。
本当に面倒くさい!
みんなに援軍を頼むのはダメだ。彼女の組織において潜入しているのが彼女だけ、または戦えるのは彼女だけの可能性は決して低くはない。けど僕のことはちゃんと調べてきている。僕とある程度親しい子が仲間であることには気づいているはずだし、足止めになにかしら用意されていて来れない可能性もあるし下手に呼んだら疑いの目が向けられる可能性も十分ある。
っていうかそもそも連絡手段がない!
一応華琳は警戒しているのか鎌の射程ぎりぎりよりは近づいては来ない。
踏み込んできたタイミングでこっちもカウンターをするのが危険だけど確実か…。
などと考えている間にこちらへ踏み込む動作が見えた。
……やるしか……ん?
「兄ちゃん!」
っ!
声に反応して互いに大きく飛びのくと華琳がいたあたりに鉄球が振り下ろされていた!
砂埃が舞うほどの衝撃。ここが森の奥じゃなかったら危なかったよ!
「っ! まさか! どうして…」
「なんでいるのか聞きたいところだけど、助かったよ」
「「季衣」」
ん?
「兄ちゃん…華琳様…」
「へぇ、知り合いなんだ」
「…うん」
気落ちしたように僕に背を向けて華琳と向き合う季衣。
「…なぜここにいるのか。なぜ私に武器を向けるのか。答えなさい」
「ボクが…兄ちゃんのモノだから、かな」
静かに、はっきりと言い切った。
「そう…」
華琳は、つまらなそうに、ため息をついて武器を構えた。
あんまりよくないな。こういう状態。
とはいえ、僕がこの場に残っててもできることはほとんどないのも事実。
「季衣。任せたよ」
「……うん。大丈夫だから」
「待ちなさい!」
この場は任せて、僕は駆け出す。
季衣は大丈夫といった。なら、大丈夫でしょ。
森の中。二人はまだ戦うでもなく向かい合っていた。
華琳は冷静さを欠いていた。普段の彼女であればどうとでも対処できた場面であったはずである。
しかしならば季衣が冷静かといえばそうではない。彼女もまた、かつての主、上司と敵対しているのだ。純粋な季衣がそのような状態で平静を保つことは難しい。
それでも、華琳は止まる気はないし、季衣も引く気はない。
先に口を開いたのは華琳だった。
「なぜ季衣はあいつに従っているの?」
「なんで…?」
季衣は純粋である。幼いともいえる。だからこそ、華琳には分からなかった。冷静であったとしてもわかっただろうか。
「斑咲紫苑。はっきり言ってまともなやつじゃない」
「…」
「あなたが彼の元にいるというなら理解しているはず。生かしておいたら、何を起こすか分かったものじゃない」
「…」
「だからわからない。なぜ、彼に従っているのか」
諭すように。
宥めるように。
季衣に言葉をかけていく。
それは華琳が、本心から従っているとは思っていなかったからだ。
「(弱みでも握られている、と考えるのが妥当)」
それは普通のことだろう。そして、本当に冷静であったなら、それが間違いであると気づいたはずのことでもあった。
「弱みでも握られて「華琳様…」…?」
悲しそうに、辛そうに名前を呼ぶ季衣。
そして
「何にもわかってないよ」
「っ!?」
そしてようやく理解する。
その目に宿る狂気、闇に。
季衣は本気で、心から純粋に、紫苑のために自身と敵対しているのだと。
「…そうかもしれないわ。けど、だからといって分かろうとも思わない」
「兄ちゃんは…」
言葉を続けようとする季衣に対して、武器を振るう。
刃のほうではなかったが、それでも鉄の塊である。仮に頭に直撃さえすれば最悪死んでもおかしくない。それでも華琳は完全に紫苑が逃げ切る前に追いかけたかった。
大鎌は季衣に向かい…
(ばしぃっ!)
そして、当然のように季衣はつかみ取った。
「っ!」
季衣は力が強いということは華琳も分かっていた。
しかし。指先で完全に武器が止まるほど、動かすほどもできなくなるほどの怪力とまでは把握していなかった。
武器を手放し、距離をとる華琳。
武器を掴み、なおも言葉を続けようとする季衣。
「兄ちゃんは優しいよ」
「…」
「兄ちゃんは僕を愛してくれた
熱に浮かされたように
「兄ちゃんは僕を抱きしめてくれた
どこか違う場所を見るように
「兄ちゃんは僕にキスをしてくれた
幸福を思い出すかのように
「兄ちゃんは僕に大事だって言ってくれた」
それが絶対のものであるというように。
華琳に言っている、というよりは懐かしむように、大事な思い出を忘れないように話す季衣。
季衣は言葉を続けながら華琳の武器「絶」を両手で持ち…
「兄ちゃんは僕を怖がらなかった」
まるで木の枝を折るような気軽さでへし折った。
華琳愛用の「絶」は鋼鉄で作られた業物だ。
力自慢の大男が何人そろってもへし折るどころが傷をつけることも難しいというのに!
「なっ…あ…!?」
思わず、一歩後ずさる華琳。
仕方のないことだと言える。弁護しておくが普段の華琳であればこうはならなかった。
もし、復讐のために単独行動を行っていなければ
あるいは普段通り、冷静さを保てていれば。
あるいは季衣が味方のままであったなら。決して恐怖を感じることはなかったはずであった。
仕方がないと言える。
彼女は一人で、冷静さを保てておらず、そしてその力は自身に向けられているのだ。
仕方のないことだ。しかし、それは一番やってはいけないことでもあった。
「…もしかしたらって思ったんだ」
つぶやく。なにかを悔やむように。
「もしかしたら、華琳様も、兄ちゃんみたいに怖がらないでいてくれるのかもって…」
「…季衣」
「やっぱり、ダメだった。ボクが思いっきり力を出したら、みんな逃げちゃうんだ」
「わ、私は」
「覚えてないくらい小さいころも、こんな風に、よく物を壊してたんだって。だから、『きい』ってつけられたんだって」
華琳のことがまるで目に入っていないように言葉を続ける。
「季衣って…『季』節の『衣』って書くんだって。良い名前だって言ってくれた」
子供が泣いている。どうしようもないことを嘆いているように
「でも違うんだ。ボク、知ってる。本当は『奇』妙で『異』なるモノで、奇異って呼ばれてたんだって」
普段とは考えられないほど、暗い声で言葉を発していた。
「兄ちゃんだけだった。兄ちゃんだけが怖がらないでいてくれた。兄ちゃんだけが手を握ってくれた。兄ちゃんだけが抱きしめてくれた。…だから」
ここでやっと、季衣は華琳を見つめなおした。
「ボクは兄ちゃんのモノなんだ。兄ちゃんがボクを求める限り、ボクは兄ちゃんのために戦うんだ」
華琳は言葉を失っていた。
華琳は季衣がこれほど心に闇を抱えていたとは思わなかった。
性格を一言でいえば天真爛漫。季衣は一度もその闇を見せたことはなかった。
自分のもとにいた当時から本当の力を出せないでいたのだろう。怖がられないために。
そうして理解者に出会った。驚異的な怪力こそあれ、心身共にまだ幼い季衣にはそれは毒のようにしみ込んで、逆らえなくなったのだと。
しかし、華琳は武器を構えなおす。
本当の季衣のことをわかってあげられなかったこと、それは自身の不覚である。
恐怖を感じ、説得することができないこともまた、己の力量不足であるかもしれない。
だからと言って、自分は止まるわけにはいかないのだと。
そうして意識を季衣を倒すためだけに向け…
「(ぱすっ)…え…?」
華琳の首元に小さな衝撃が走る。
同時に急激に意識が落ちていく。
そうして気づく、果たして、歪ながらもそこまでの信頼関係を築いている彼が、季衣だけをその場に残して帰るなんてことが本当にあるのだろうか…。
「…………」
誰かが何かを口にしたとき、既に華琳の意識は完全に闇の中に落ちてしまっていた…。
キャラ崩壊してるかも?
ただ普段元気っ子が闇抱えてるというのが好きなのでぶっこみました
色々悩んで、リアルも忙しくなり、また次の投稿はいつになることやら…