※この作品はR-18です。

名前のない物語   作:三枝 月季

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 お久しぶりです皆様。日々、寒さが厳しくなっている今日この頃ですが、ご体調など崩されてはおりませんか?

 秋の夜長、拙作を含む娯楽を愉しむ際などは、是非、温かくなさってお愉しみ下さいませ。

 
 今話は、弓と殺の主従にスポットを当てております。彼らの事も見守って頂けると嬉しく思います。



六月十九日と七日前

「戻ったか」

 

 キャスター主従の邸宅を辞し、街中を一通り警戒してからホテルへと戻ったアーチャーを出迎えたのは、異様な雰囲気を漂わせる一人の男だった。

 

「……起きているんなら、明かりの一つぐらい付けたらどうなんだ?」

 

 呆れの強い声音が、夜の帳に投げかけられる。静謐な宵闇の中、サーヴァントの視力が捉えたのは、造りの良い椅子に身体を預ける男の姿だった。白髪交じりの鳶色の髪と無精髭、こけた頬に落ちくぼんだ眼は輝きを失った琥珀色。凡そ、潤いの類を喪失した様相からは、死期が迫った老人といった印象すら受けるが、その実、相手がまだ男盛りと言える年齢である事を、アーチャーは知っている。その彼が齢以上に強烈に見えるのは、病んだ事で凄みのようなものが加わってしまったせいなのだ。

 

「マスターは?」

 

 先の軽口を黙殺した男へ、アーチャーは新しい話題を振る。端的なその言葉に、小さく、絞り出すような吐息が返った。

 

「アレならば、そろそろ起き出す頃合いだろう」

 

 名さえ口に出したくないように、マスターのことをアレと呼称されるのは、アーチャーとしては、好ましくなかったが、今の男(病人)に無理を言うのも憚られた。

 

「……そうか、あんたは?」

「……アサシンを任せる」

 

 アーチャーの労わりが含まれた問いに短く答えた男は、そのまま事切れるかのように意識を手放した。と同時、魔力供給を抑えられていたのだろうアサシンが霊体化を解き姿を現す。日暮れ間近とも、夜明け間近とも取れる。淡い紫色の長髪に、アーチャーと同じ浅黒い肌を大胆に露出させたその女は、狂気に暗く濁った虚ろな眼で彼を捉えると、安堵したかのように僅かに破顔した。

 

「約束通り、帰って来たぜ」

 

 対するアーチャーは柔和な声音と共に瞳を細めながら、事の始まりを想起していた。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 全ては七日前に遡る。場所は管理者を失い、荒れ果てた寺の敷地内だった。頭上に輝く美しい弦月は、所詮、恒星の光を反射しているに過ぎない身でありながら、名刹となり得なかった古寺を憐れむかのように、ともすれば、嘲るように照らし出している。

 

 そんな寂れた景色の中には、不規則に整った動きを見せる、大小、二つの影があった。

 

「――……覚悟はいいか、リリス」

 

 ふと、雨期の湿った空気に乾いた低い声が混ざる。状況が状況なだけに、それはとても不気味な響きを孕んでいるように感じられた。

 

「はい、マスター。問題ありません」

 

 返る声音は、硝子の煌めきを思わせる。少女のものだった。月光を受けて、緩く波打つ亜麻色の長髪と榛色の瞳が輝いている。陶器の如き白肌は柔く、幼さゆえの透明な繊細さを宿していた。年は未だ両手に満たないだろう。

 

「……この先、第三者と相対する場面では、私の事は父とでも呼称しろ。いいな?」

「分かりました」

 

 男は少女の返答に一つの懸念を覚えたのか、端的に言い返す。少女もまた、それをすんなりと聞き届けた。

 

 すると、それきり両者は黙し、開けた大地に隣り合って描かれた紋様の前に手を翳すと、示し合わせたかのように、口を開く。

 

『素に銀と鉄、礎に石と契約の大公――』

 

 途端、高さの異なる声音が折り重なるようにして言の葉を紡いでいく。そこには寸分の狂いすら許されない。というような気迫だけが込められていた。

 

『――――告げる』

 

 一際、厳格な音がして、紋様の淡い輝きには鮮烈さが増していく。

 

『誓いを此処に』

 

 それは今や、視界を灼くほどの光を放っていた。

 

『汝、三大の言霊を纏う七天』

 

 空気が震え、風が荒れる。そして――

 

『抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!!』

 

 時が満ちる。

 

 張りつめた糸が切れるように、押さえつけられていた感情が溢れるように、光が爆ぜる。その勢いに、男はたたらを踏んで後ずさり、少女はその場にへたり込んだ。そして、そのまま、両者は絶大な虚脱感と共に、茫然自失と目の前の光景を見やった。

 

「――……!!」

 

 刹那、引き攣るように息を呑んだのは、いったいどちらだったか。ともあれ、男と少女以外の存在が場に招かれた事は事実だった。

 それぞれの魔法陣の上に立つ二つの影が、半月の淡い光に照らし出される。浮かび上がったそれは、杖を携えた貴人と大弓を握る武人の姿をしていた。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ推参した。あんたが俺のマスターか?」

 

 まず始めに静寂を割ったのは武人のほうだった。アーチャーと名乗った彼は、軽快ではあるが、軽薄ではない声音と共に、座り込んだままの少女へと手を伸ばす。威圧感を欠片も感じさせない友好的な態度に、選択を委ねられる形となった少女は、幾ばくかの逡巡を経て、その手を取った。瞬間、アーチャーの膂力だけで立ち上がった彼女は、改めて己が喚んだサーヴァントをまじまじと見つめる。

 

「ま、よろしく頼むぜ」

 

 すると、少女の無垢な視線に耐えかねたように、アーチャーが笑んだのを皮切りに、今度は貴人が口を開いた。

 

「サーヴァント・アサシン。召喚に応じました。特別にあなたを同盟の相手と認めましょう。ですが――」

 

 コホン、と咳払いを一つ。彼女は背筋を伸ばし、胸を張って続ける。そして――

 

「この身は未熟なれど神王にして、天空の神、ホルスが化身。頭を垂れぬのは、不敬であると知りなさい!!」

 

 アーチャーの主よりは年を重ねてはいるものの、まだどこか少女の色を残した声色で、きっぱりと言い切った。が、故にこそ、悲しいかな。アサシンの態度には威厳よりも、どこか無理をしている。という印象が先立った。

 

「……ふん。キャスターではなくアサシンか。些か見誤ったな」

「なっ、なんという不敬!!」

 

 チッ、と舌打ちすら聞こえてきそうな冷ややかな男の嘆息に、頭部の飾りを動物の耳の如くに動かして、怒りと屈辱に震えるアサシン。瞬く間に混迷と険悪を極めた状況を取りなすようにアーチャーが動いたのは、然もありなん。と言ったところだろう。

 

「まぁ、まぁ、落ち着け。互いを知らぬうちに喧嘩する事ほど悲しいものもない。何事もまずは歩み寄ってみない事には始まらないもんだ」

「そこを退きなさい!!痴れ者ッ!!貴方には関係のない事でしょう!?」

「いいや。関係なくはないさ、同時に喚ばれたという事はあんたと俺のマスターは共闘する魂胆だろうからな。それくらいは分かるだろう?」

「う、ぐ……それは……」

 

 アーチャーの澄んだ瞳に訴えかけられ鼻白むアサシン。どうやら、激してはいても、聞く耳を失ってはいないようで、己がマスターに対する憤りは、眼前のアーチャーに対する警戒へと色味を変えつつあった。

 

「…………い、いいでしょう。些か短気が過ぎた事は認めます。ですが、同盟者も己が不敬を恥じる事です。そして、我が恩赦の幸運に感謝なさい」

 

 葛藤とも取れる逡巡の末、このままでは事態が平行したままに停滞すると悟ったのか、アサシンが折れた。しかし――

 

「三画の令呪を以て(・・・・・・・・)、アサシンに命ずる。マスターである私に背く事は禁ずる」

 

 男からの思わぬ返答に、瞬きを忘れたアサシンの瞳孔が縮む。アーチャーも異国の言葉を聞いたかのような表情で視線を男へと移し、その隙を突くかのようにアサシンは飛び出した。

 

「――貴方はッ!!自分が何をしたか分かっているのですかッ!?この場で令呪を全画消費するなど、愚かな――」

「いつ、私の令呪が三画だけ(・・・・)だと言った?」

「――……え?」

 

 瞬間、怒号を遮るようにして放たれた言葉に、総毛立つように激昂して、男へと詰め寄っていたアサシンの表情が翳る。整った眉目は剣呑に固まったまま、驚嘆、困惑、不安、そして、恐怖の混ざった息を呑む音がその喉を震わせる。それらは全て、言葉よりも雄弁な情感だった。

 

「おい、ちょっと待て。あんた、いったい何を――」

「令呪を以てアーチャーに命じます。アサシンのマスターに対する妨害行為の一切を禁じます」

「ッ!!」

 

 辺りを包む空気の色が変わった事実に、アーチャーが動いた時には、既に遅かった。先んじて、その動向を睨んでいた少女の呪縛が彼を抑えつける。そして、何より。弓兵として誇ってきた視え過ぎる目で、眼前の悲劇を防げなかったという厳然たる現実は、今生において彼が抱える事となる数多の後悔の、記念すべき最初の一つとなったのであった。

 

「重ねて、令呪。三画を以て(・・・・・)、アサシンに命ずる」

「……何、を」

 

 アサシンの美貌が痙攣する。一笑に付そうとして失敗したような、不完全で何とも形容しがたいその歪みは、例えるならば、理外の理を前に感情を纏められない。というような表情だった。

 

「狂い果てろ、古の復讐者。玉座を捨て去りし、魔術女王よ」

 

 やおら、脳の奥まで凍えるような、温度を感じさせない酷薄な呪いが放たれる。勝ち誇るでもなく、嘲笑するでもなく、無感動に、もっと言えば当然の如くに、アサシンの魂に消えない傷を負わせる男は、かえって悪魔じみて見えた。

 

「……どう、して」

 

 正気を失う前のアサシンの最後の言葉は、悲痛な叫びでも、怨嗟の罵声でもない、純朴な問いかけ。絹擦れのようなその呟きは、どんな鋭利な刃物よりも壮絶な斬れ味を有していた。

 

「な、んで――」

 

 そうして、彼女は堕ちる。男によって言祝ぐように形容された、かつての己へと退行していく。それも、より露骨に惨憺たる有り様として。

 

 まず響いたのは杖の倒れる音だった。次いで、膝を折って頽れる鈍い振動が大地に奔る。表情は既に両の掌に覆われて、窺い知る事は出来なかったが、その双肩は細かく震え、細長く整った指の微かな隙間からは、透き通った悲しみが零れ落ちるのを視認できた。

 

「……ッ……ぃ、さま、にぃさま、にいさま――……!!」

 

 途端、許しを哀願するような譫言を繰り返し始めた。若い娘の身体の奥からは、抜身のような激情が滲み出す。と同時、アーチャーの首筋にはチリチリとした痛みが這い、肌が粟立ち、血管が収縮した。引き絞る事を許されない大弓に手をかけながら、彼が震わせた感情は、より直接的な言い方をすれば、生かしてはおけない(・・・・・・・・・)。という残酷なまでの優しさだった。

 

「――……ッアァア!!」

 

 久遠の果ての刹那、切実な口惜しさの込められた、短い断末の絶叫が荒れ野を駆け抜けた。隠しようのない憤りに、両の頬を赤く染め上げたその姿は、歓喜しているようですらあり、狂人の笑みは弧を描く月に似て、目を奪われるほどに美しかった。

 

 けれど――

 

 あの時、アサシンが何を思って笑んだのか。アーチャーは今もそれを計る事が出来ないでいる。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「戻っていたのですか、アーチャー」

 

 ふと、回想に意識を沈めていたアーチャーは、耳に届いた鈴の音色に視線を移した。隣室の扉を開け、手持ち照明(カンテラ)の明かりを伴い現れたのは、まだ幼いと言ってもよい美しい少女だった。亜麻色の長髪を纏め上げ、クラシックなモスグリーンのワンピースを纏ったその姿は、幾分か大人びて見えない事もなかったが、それが寧ろ彼女の儚さを増して見せているようでもあった。

 

「マスターも今起きたところか?」

 

 アーチャーの問いにマスターと呼ばれた少女は首肯して、突如、思い出したかの様に言葉を付け足した。

 

「ご無事の帰還、なによりです」

 

 小さな唇を震わせた、子供には似合わぬ言葉の静けさに、アーチャーは何とも形容しがたい渋面で返す。

 

「ま、当然のことさ。マスター」

 

 そうして、居心地が悪そうに肩を竦めたアーチャーを見つめる少女の眼差しは、瞳の透明度の高さも相まって、より無機質に感じられた。

 

「……父様から、アサシンを借り受けると共に、今夜の警戒及び索敵の任を仰せつかっています。作戦前に何か確認しておきたい事はありますか?」

 

 人形のように整った顔立ちの少女は、椅子に座り気絶したように眠る男へとひざ掛けをかけながら、機械的に指令を告げる。梅雨冷えから男を労わる行為であると言うのに、儀礼的に見えてしまうのは、彼女の纏う空気の冷たさゆえだろうか。

 

『私は、かつて存在していた女性の複製(コピー)。つまりはクローン人間です』

 

 少女の凍った横顔に、アーチャーの脳裏に思い起こされるのは、やはり、あの瞬間(とき)の事。

 

『マスターは、ああ、いえ違います。今は父と呼ぶように言われていたのでした。父様は、私を贋作ではなく真作にする為に、此度の聖杯戦争に参加なさいました』

 

 召喚に際した騒動を収める(男の凶行を弁解する)ように、放たれた少女の言葉は少なかったが、武人の感情を上書きするには十分な効力を発揮した。

 

『どういう意味だ?』

 

 アーチャーは聡明な目を光らせて敢えて尋ねた。何かを堪えるような低い声だった。

 

『……もう、後には引けぬのです。六角の令呪へと転じた二人の人造人間(ホムンクルス)の為にも』

 

 詰問に対する少女の答えは簡潔だった。しかして、僅かな情報の中に込められた思いは重い。それゆえに、彼女の深刻なまでの覚悟が窺い知れた。生まれながらにして負った宿願。運命と呼ぶには余りに残酷な未来(それ)に殉じると決めている。そんな絶望的なまでの気品を、ガラス玉のような瞳に湛えていた。

 

「…………そうか、奴が何を望むかは分かった。特に異論はない」

 

 そして、そんな少女と鏡合わせになるかの様に、相対したアーチャーの瞳もまた、静かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、まずはどこから手をつけるか……」

 

 二人のマスターからの共通の命令に従い、ホテルの屋上へと姿を現したアーチャーは、夜を深める街並みを背に柵に凭れて思案する。帰還に際して、あらかたの警戒をしつくした後ともなれば、致し方ないだろう。

 

「に、さま」

 

 そんな中、アーチャーの思考の合間を縫うようにして、たどたどしい呼び声が滑り込んでくる。それは、狂気に呑まれながらも聡明な貴人が捨て去れなかったもの、或は、狂気そのものの核なのかもしれない。

 

「に、ぃ、さま」

 

 再びの声かけに瞳を上げれば、そこに居るのは古の魔術女王。今や、狂った暗殺者である彼女からの視線には、相も変わらず、安心と恐怖、敬愛と自責の念が滲んでおり、アーチャーは、自分を透かして見える男はやはり、相当、罪な奴らしい。と述懐しては苦笑を繰り返す。

 

 そんな両者は互いに互いの距離を置いていた。それは常に一定で、近すぎる事もなければ遠すぎる事もなかった。が、それゆえに均衡を崩した時のアサシンの乱心ぶりは凄まじいものがあった。

 

「……あんたなら、何を正解とするんだろうな」

 

 問いかけと言うにはどこか投げやりな言葉に、アサシンからの反応が返る事はない。彼女は何処までも静かに、悲しい程に、狂ってしまっているのだから。

 

 予想通りのその答えに、アーチャーは雨期の曇天を見上げる。一雨きそうな分厚い雲は、彼の心境を現しているかの様に、星々の輝きを覆い隠していた。だというのに、眼下に広がる都市の夜景は眩すぎる程である。皮肉のようですらあるその輝きは、古い人間である自分達には馴染みのない明るさであるのに、その一つ一つに人々が息づいている事に変わりはないのだから、なんとも言えない感慨も覚えてしまう。

 

(まるで、誘蛾灯だな)

 

 どれだけの月日を経ようとも人間というものは不思議と光の元に集うらしい。かつての自分もきっとそうだった。人々の作る団欒の明かりを愛おしんだから、人々の起こした戦火に散ったのだ。

 

 無論、その献身が悲劇的な美談として、後世に語り継がれたのだろう事は、想像に難くない。けれど、自分自身は何の悔いも抱いてはいないのだ。そして、そんな自分だからこそ、あの少女に意見出来るような立場の人間でない事は、理解しているつもりなのである。ただ、それでも、どうしても、思ってしまう事が一つだけ――

 

「幸せかどうかは、どうやって見分ければいいんだろうな」

 

 もし仮に、愛の元でならば、何もかもが許されるとでも言うのなら。愛情とは、なんて欺瞞に満ちた代物なのだろうか。

 

 そう、思わずと口をついて出た感傷に、アサシンが挙動するのを視界の端で捉えながらも、アーチャーは思考の海の底に沈んだままだった。いくらアーチャーと言えども、本人が見つけていない幸福を代わりに見出してやる。などという大それたことは出来ようはずもなかった。

 

「本当に、どうしたものやらな」

 

 守るもののある戦は嫌いではなかったが、それは往々にして、しがらみを伴う戦でもあったのである。その事をまざまざと見せつけられる戦が控えている事に、この時のアーチャーはまだ気づいてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

(これが、私の受けるべき罰なのですか?)

 

 狂気に呑まれつつある正気にあって、思ったのはそんな事。生前に為した行いに悔いなどはないが、だからと言って、罰せられない事が正しい。と信じているわけでもなかった。現に、あの時は自死を選んでいる。荼毘という不名誉な葬礼を自らに課したのは、己が弱かった事の何よりの証左だろう。

 

 無論、それらは決して、望んで為した凶行ではなかった。けれど、誰に強制されるでもなく、やると決め、実行に移したのは自分自身なのだから、やはり、これは紛う事なく自らの業が引き起こしたものと言えるだろう。

 

(なんて、愚かな)

 

 誰に向けたものか分からぬ嘲笑が唇の端を震わせる。

 

 覚えているのは濃密なまでの死の匂い。親しき者のそれには深く胸を抉られ、憎き仇のそれには胸がすく思いがした事を覚えている。いいや、正しくは忘れる事が出来ないでいる。

 

(ああ、そうだ。きっと、そうなのだ)

 

 あの日々を、流れた血涙を、絶望の色彩を、死して尚、捨て去る事が出来ない女。それがエジプト第6王朝最後の神王。傀儡に甘んじる事で復讐に徹し、その責務を穢した未熟な娘である。ニトクリスの愚昧たる有り様が運命(さだめ)なのだろう。

 

「……ッ……ぃ、さま、にぃさま、にいさま――……!!」

 

 貴方は賢かった。貴方は優しかった。貴方は凛々しかった。そして何より貴方は王朝を負って立つにふさわしい、偉大な神王だった。だからこそ――

 

(恨みます。私は、私を恨みます)

 

 今ならば分かる。私は確かに貴方の手によって、守るよりも守られていた。だというのに、暗愚な私では、貴方をお守りする事は叶わなかった。

 

「――……ッアァア!!」

 

 なればこそ、私は貴方に誓います。ニトクリスは今度こそ、■■。を完遂すると――

 




一部、説明不足なところは否めないとは思うのですが、マスター達に関する詳しい情報は、追々、描写していけたらと思っております。

 ニトクリスちゃんのビジュアルはキャスター時のもので、クラスだけアサシンに変更しております。また、早々に厳しい目に遭わせてしまっている事は申し訳なく思っております……。
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