インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
京介、一夏、箒の帰還後、旅館のとある一室からは獣の唸るような叫び声が響いていた。凱龍の爆発によって背中に大火傷を負った京介、その背中には複数の装甲の破片が突き刺さっていた。近くの病院まで運ぶ時間は無く、緊急時の為に付いて来ていた学園の医務官や織斑千冬達の手によって応急処置が行われることとなったのである。破片を取り出し傷口を消毒する度に、京介の身体を激痛が蝕んでいく。京介はタオルを口に咥えさせられその壮絶な痛みに耐えようとするも、その耐え切れない部分が唸りとして外へと流れ出ているのだ。
その叫び声が僅かに聞こえてくる別室では、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、そして箒の五人が沈痛な面持ちで静寂を保っていた。一夏はISの操縦者絶対防御による致命領域対応によって昏睡状態になっている。京介がやられた後の撤退戦で、エネルギーの殆ど残っていなかった白式は集中砲火を受けたのだ。しかも一夏は、京介を抱える箒がいち早くみんなの下へと戻れるように敢えて福音の相手を引き受けたのである。
「があああああああああ!! あああああっ!!」
「早くタオルを噛ませろ! もう少しだ浦城、耐えろ!」
「ぐっ! ううううぅぅぅ! うおおおお!」
破片を取り除く度に叫ぶ京介の悲鳴が残響し、シャルロットは床にへたり込み耳を自分の手で押さえていた。いくら代表候補生と言えど十代の乙女、仲の良い友人が激痛に悶える声を聞き続けて平気でいられる訳がない。その隣に座るラウラは、こういった状況に慣れているのか冷静な顔をしつつ、友人を慰めるという不慣れな行為をどうすればいいのか戸惑っていた。セシリアも、鈴も、どうすれば良いのか分からない。箒は呆然と虚空を見つめたまま、ずっと黙っている。
やがて京介の叫びが止むと、暫くして専用機持ち達のいる部屋の襖が開かれた。バッと飛び跳ねるように襖へと視線を向ける五人。現れたのは、ベッドシーツで作った簡易手術衣を身に纏い、その白い服や手や顔に赤い血を飛び散らせ真っ赤に染まった山田先生だった。聞かずとも、その血が先生のものでないことはみんな分かっている。分かっていても、目を逸らさずにはいられなかった。
「山田先生、京介は……?」
「何とか一命は取り留めました、今は織斑先生が見てくれています。出血も酷かったですが、輸血で何とか凌いでいます。ですが危険な状態に変わりはないので、絶対安静です」
酷く疲れた様子ながら淡々と説明した山田先生に鈴やセシリアはホッと安堵した様子を見せるも、すぐに険しい顔つきに戻った。京介が無事だったとしても、それで問題が解決した訳ではない。と、そこで山田先生が再び口を開いた。
「ですが、一つ問題が……」
「問題?」
「はい、その……まず篠ノ之さんは廊下に出てもらえませんか?」
「「「?」」」
「織斑先生から止められているので、篠ノ之さんには後で別に言いますから……お願いします」
言われてすぐは何を言われているのか分からなかった箒だが、自分を見つめる山田先生の視線に脅されるように一人廊下へと出て行った。そうして箒がいなくなると、山田先生は残った四名を部屋の中央に合わせ小さく口を開く。そこから放たれた言葉は、四人に頭部をハンマーで思い切り殴られたような感覚を与えた。
「浦城君の右目は、もう
「!? 一体それは、どういう……」
「荷電粒子砲の爆発でシールドエネルギーが使い切られ、ISの防御能力の無くなった所為で装甲の破片が背中に大量に刺さりました。その時爆発の熱で顔の右側の一部が焼け、同時にそこにも破片が当たったんでしょう。……眼窩に眼球がありませんでした」
「うっ!」
山田先生の言葉が終わるやいなやシャルロットが口元を押さえ、部屋を飛び出した。部屋からは見えない位置から、地面に液体か何かをぶちまける音とシャルロットの嗚咽が聞こえてくる。慌ててラウラがシャルロットを追いかけようとすると、シャルロットが開いて行った襖の陰から、箒が青ざめた顔で部屋の中を覗いていた。
「ほう------」
「ッ!」
ラウラが声を掛けようとした途端、箒は脱兎の如く駆け出した。その反応から話を盗み聞きしていたのだとラウラは理解すると、すぐに部屋を飛び出して廊下を駆ける彼女の背中に飛び掛った。軍人らしく関節を極めているのか、箒は廊下に押さえつけられたまま何度も拘束から抜け出そうと身体を揺らしている。
「落ち着け、何をしようとしていた!」
「京介の、京介のところに行かせてくれ!」
「ダメだ! 奴は絶対安静だ、その傍で何をするつもりだ? 騒いで余計に奴を疲れさせる気か!?」
「だが私の所為で二人が! 私の所為で……人の目を……」
身体を震わせながら額を廊下に当てると、静かに箒は泣き出した。ラウラは箒の拘束を解くと、静かに立ち上がって未だ縁側から地面を覗き込むようにしているシャルロットの傍へと動いた。鈴はセシリアと視線を合わせると、小さく頷いてから箒の肩を持って立たせた。そのままセシリアが山田先生と共に布団と座布団を重ねたものを用意し、鈴が箒をそこへ座らせる。
「アンタは暫くそこで休んでなさい。あの時何があったか、今は聞かないであげるから」
鈴はそう言って箒の頭を軽く撫でていくと、セシリアと山田先生を連れて廊下に出た後襖を優しく閉めた。一人残された箒は嗚咽を洩らしながら腕に顔を押し付け、そしてその腕に付いていた待機状態の紅椿に気付くと、それを外して壁に向かって投げつける。
あんなものを欲しがらねば、あんなものを過信しなければ、と箒の心の中で後悔の念が広がっていく。専用機を持っている仲間達と過ごしているのは、悪い気はしなかった。だが仲間が増えていくにつれ、自分には剣術以外何もないのだと思うようになっていた。ISの開発者の妹、それだけで周囲の生徒達からは様々な視線を受け、影で色々なことを言われた。だが最初は気にもしていなかった、自分には剣術があると、自分を律する手段があるのだと。
そして小さな時から憧れていた一夏と再会し、腑抜けていた彼を、正確には昔の思い出と違ってしまっていた彼を
そしてその結果、彼女は一人の少年に気付かされた。自らの浅はかさを、惨めさを。
「……京介……私は、私はお前に、直して欲しかったのかもしれない。私自身を、かつての思い出に振り回されていた私を、正しい方向へと進めるように」
かつての
「お前に、導いて欲しかった。だから、あの人に頼んで……自分の、機体を……」
同じ目線で、同じ立場で、同じ気持ちで。そして生まれた傲慢さが、憧れも希望も纏めて消してしまった。新しい力を得たことによる慢心、自惚れ、それを自覚した時、彼女の目の前で希望は吹き飛ばされた。視界一杯に広がる爆発、そしてその中から墜ちていく黒煙を噴いていた希望。そして更に目の前で砕けて行った憧れ。
「私は、もう------」
独りごちた彼女の呟きは、誰も来ない部屋の中に静かに消えていった。
胴体と顔の右目部分を包帯で巻かれ、点滴を腕に刺した状態の京介は、焦点の合っていない左目で天井をジッと見つめていた。今彼の居る部屋には誰もいない。身体が熱く、痒い。腕も足も動かすだけでピリッとした痛みが走る。故に動くことが出来ない。
(俺は……)
戦闘による影響か、時折全身を謎の浮遊感が駆け抜ける。その度に身体が反応し、耐えていた痛みが身体を蝕んだ。
(誰も死ななかった、それだけでも俺は)
自分を犠牲にしてでも誰かを守りたい、それが京介の想いだった。かつて彼の姉は自分を犠牲に京介を守った。その時から彼もまた、その行動に憧れを持つようになっていた。誰も彼もが笑って幸せになれる世界なんて存在しない。なら自分が傷つくことによって誰かを笑顔にして、自分はその傷を隠して笑顔になるだけでいい。
(それが出来るだけの力があったっていうのに、どうして伊弉諾は……)
「------それは、京介を守る為だよ」
誰もいないはずの部屋に突如響く女性の声。織斑先生でも山田先生でもない第三者の声。その声は、京介にとってとても懐かしいものだった。
「ね……さ、ん?」
治療中に叫んでしまった所為で掠れた声を発する京介のぼやけた視界が、漸くピントを合わせる。その視界に覗き込むように現れたのは、栗色のショートヘアに子供っぽい悪戯な笑みを浮かべた、浦城夏希その人の顔だった。
旅館に帰ってきてから、もうどの位時間が経ったのか分からない。箒はずっと部屋の中で項垂れていた。一夏のところにも、京介のところにも行かず、ただ一人でじっと座っている。すると、いきなりバン! と部屋の襖が開かれた。
「アンタ、何時までそうやってるつもり?」
「鈴……」
躍動的なツインテールを揺らしながら部屋に入って来た鈴の姿に、箒は虚ろげな視線を向ける。今は放って置いて欲しい、そう言外に含んでいる箒の視線を受けながら、鈴はいきなり箒の胸倉を掴み上げた。
「いい加減にしなさいよアンタ。休めとは言ったけど腐ってろなんて言ってないわよ」
「……私に何をしろというんだ。私の所為で一夏は昏睡状態、京介も大怪我を負った挙句右目を失った。全部私の所為だ」
「だから何もせずにただ部屋で悲しみに暮れるポーズ取ってますって? ふざけるのも大概にしなさいよアンタ!」
ゴッという鈍い音と共に、鈴の左拳が箒の右頬を捉えた。口内が切れたのか、箒の唇の端からツーッと赤い血が一筋垂れていく。
「アンタには、アイツらの分も戦わなきゃならない責任があるのよ! 自分のケツは自分で拭きなさい、何時までも他人に甘えてんじゃないわよ!」
「甘えてなど!」
「自分から何も行動しようとしてない時点で、それは甘えよ。自分を変えるのに他人を利用するのは卑怯よ、自分を変えることは自分にしか出来ないの。分かる!?」
鈴に言われた言葉が、箒の心に突き刺さる。京介の傍にいたのは、彼を利用する為だったのだろうかと自問する。だがその答えは、違う。
「私は、京介を利用なんてしていない! 私は、私はただ……アイツのことがっ」
「なら、ちゃんと戦いなさい。アイツや一夏が立ち上がった時に、その無駄に立派な胸張って自慢出来るようにね」
「鈴……」
その時、新たな人物が部屋に現れた。IS学園の制服ではなく、真っ黒な軍服に身を包んだラウラだった。
「説得は出来たのか、鈴。もうこちらの準備は出来ているぞ」
「丁度今終わったとこよ。それで、見つかったの?」
「ああ、ここから三十キロ程離れた沖合にいる。ステルスモードを持っていなかったようでな、衛星からの目視で確認した。もうシャルロットもセシリアも準備出来ているぞ」
「りょーかい。それじゃ行きますか」
そう言って鈴は部屋の隅に落ちていた待機状態の紅椿を手に取ると、箒に投げ渡した。それを受け取った箒に、鈴は笑みを浮かべて背を向け歩き出す。ギュッと紅椿を握り締めた後、箒もまたラウラと鈴の後に続くのだった。
「それは一体どういうことだ!!」
俺の目を覚まさせたのは、織斑先生の怒号だった。まだ身体の節々が痛んで首を動かすだけでも難儀する。布団に入ったまま点滴のパックを見上げ、そこから伸びるチューブが俺の左腕にまで伸びているのを見ていると、再び先生の声が響いた。
「あの五人だけで勝手に出撃するなど……まさかボーデヴィッヒまで」
「織斑君もまだ目覚める兆候はありませんし、浦城君も戦える状態ではありません。やはり、ここは何としても我々が出るべきではないでしょうか、織斑先生」
山田先生の声も聞こえてきて、そこで俺は先生達の話す内容を理解した。箒達が出撃したのだ、福音を自分達で倒す為に。
「奴らがどうやって福音の居場所を特定したのか想像はつくが、仮に場所を特定したといってもリヴァイブや打鉄で追いつくには難しい。だが再び海域の封鎖は行わなくてはならないだろう。他の教員を集めて作戦会議を行う、頼むぞ真耶」
「はい!」
パタパタと廊下を走る音が遠ざかっていくのを確認してから、俺はゆっくりと上体を起こした。激痛に歯を喰いしばり、汗を大量に掻きながら上体を起こしきると、俺は点滴の針を引っこ抜く。そして包帯だらけの身体を確認してから、再び激痛に耐えながら立ち上がった。
「馬鹿野郎共が……」
五人の少女達の顔を順に脳裏に浮かべながら、俺は部屋に置いてあった鏡を覗いた。下はISスーツのままだが、上半身には包帯しかない。部屋の中を見回しても、ISスーツの上は見当たらなかった。
「無しで行くしかねえか」
そう言って襖に手を掛けると、いきなり横から伸びてきた女性の手にそれを止められた。死角になっている右側から伸ばされたその手を追うと、そこに居たのは少し前に見た姉さんの幻影だった。伊弉諾の中に残っていた姉さんのデータを利用した、幻覚。止められたと言っても手に何かが触れている感覚は無く、事実問題無く襖を開くことが出来た。
「どうしても行くの? 京介」
「俺はお前の道具のまま終わるつもりはない。俺は誰かを守る為に力を使いたいんだ、俺を守る為の力なんざ必要無い」
姉さんの姿をした幻覚、正確には伊弉諾の自己防衛機能の一部を利用した映像は哀しそうな表情を浮かべると、すっと俺の背後に回ってきた。そして、俺を後ろから抱きしめるように腕が伸びてくる。
「お前がお前として存在する為に俺の身体が必要なんだったら、俺はお前をずっと持っていてやる。姉さんの、俺の大切な人だった姿を使ってまで俺を死なせないようにしてくれているのは嬉しいよ。俺の記憶の中の姉さんを思い出させてくれるから」
ふらつく足でゆっくりと一歩ずつ歩き、俺は部屋を出て外を目指す。その間もずっと、姉さんの姿をした伊弉諾は俺に抱きついている。
「あの時凱龍に戻ったのだって、絶対防御の無い伊弉諾がやられたら俺が死んでしまうから敢えて戻したんだろう? 結局大怪我はしちまったけど、死にはしなかった」
治療が終わった後の邂逅で、伊弉諾は俺に全てを伝えた。自らの存在を保つ為に、二度と仮初の姿を与えられぬように何としても同じ操縦者を維持し続ける必要があると。その為に俺に残っていた姉さんの記憶を少しずつ植えつけていき、俺の存在を上書きしようとした。正式登録操縦者である浦城夏希ならば、ずっと自分は自分でいられると。
「自分の意思があるみたいだよな、お前って。でも考える力が無かったから、一番単純な方法を選び続けた」
夕焼けに染まる海岸が見える位置まで来ると、俺は伊弉諾を展開した。胸部装甲を開き、今朝と同じ状態で膝を付いて操縦者を迎えているその姿に、俺は乾いた笑い声を上げる。
「俺がお前を変えてやる。俺を姉さんにしなくても良い、俺は俺のままでお前を伊弉諾でいさせてやるからさ」
開かれた胴体に乗り込み、俺はゆっくりと深呼吸した。システムを起動させ、胸部装甲が閉じられる。すると、今朝とは違い新たなウィンドウが目の前に開かれた。
【前登録操縦者の情報を破棄。新たな操縦者として浦城京介を登録します。生体認証登録を行いますか? YES/NO】
「ああ、頼む」
YESを選択した瞬間、伊弉諾の頭部装甲が閉じられ俺の視界が真っ暗になる。すると少しずつ装甲内部が暖かくなっていき、スッと傷の痛みが引いていった。母親の胎内かと思わせるような心地良い感覚に全身を委ねていると、再び頭部装甲が開かれる。続けて、再びウィンドウが開く。
【登録操縦者の生体認証が完了しました。これにより伊弉諾の全機能が使用可能になります】
「それじゃあ行こうぜ、伊弉諾。折角俺色に染まったんだ、リターンマッチだ」
背中に鋼鉄の翼をはためかせ、復活した俺と伊弉諾は戦場へと向かう。既に箒達の位置はレーダーで確認出来ている。
(待ってろよ、みんな)
グッと拳を握り締め、俺と伊弉諾は海水を巻き上げながら飛んで行くのだった。
箒達と福音の戦いは、熾烈を極めていた。パッケージと呼ばれるISの機能を強化する装備をそれぞれ取り付けたことにより、箒以外のISは軒並み強化されている。だがそれでも福音の戦闘力は凄まじく、彼女達は押されていた。
「セシリアは鈴を援護! 箒はシャルロットと共に距離を取れ! 私が砲撃を加えた後、随時攻撃を行え!」
ラウラの指示の元、四人のISが福音からばら撒かれるエネルギー弾の雨を避ける。そしてその合間を狙い、シュヴァルツェア・レーゲンに装備された砲撃専用パッケージ【パンツァー・カノニーア】の八十口径レールガンが火を噴いた。放たれた砲弾は彼女達を見下ろすように飛んでいた福音の翼に直撃するも、福音はその衝撃に身を任せるようにして身体を回転させながら、海面スレスレにいるラウラ目掛けてエネルギー弾を撒き散らす。
「ラウラ!」
「私に構うな! やれぇぇぇ!!」
エネルギー弾が海面で炸裂し打ち上げられた水柱が黒い装甲を覆い隠す。その間に上空からシャルロットが大量の弾丸をばら撒きながら接近し、それに合わせ箒も紅椿の装備である二本の刀【空裂】、【雨月】からそれぞれエネルギーの塊を放った。福音は翼を前にやりガードの姿勢を取ると、着弾時の煙を利用しその銀色の姿を隠す。
「鈴! セシリア!」
シャルロットの叫びと同時に煙を数本のレーザーが突き抜け、拳を握りこんだ福音が箒とシャルロット目掛け飛び出してくる。だがその背後から現れたのは、鈴の甲龍だった。鈴の甲龍も初めは攻撃強化パッケージを装備していたのだが、接近戦を繰り返す内に損傷が重なり早々に廃棄している。
「とっとと眠んなさいよ、オラァ!!」
鈴は左手で福音の首元を掴むとそのまま自分の身体を押し付けるようにして、右手に持った砕けた双天牙月を手首と共に一回転させてから福音の胴体へと突き立てた。火花が飛び散り、福音は刃から逃れようと身体を大きく動かし鈴の身体を背中から弾き飛ばす。
「しまっ------」
「鈴!」
隙だらけになってしまった鈴へエネルギー弾が放たれようとした瞬間、装甲を展開し速度を上げた紅椿がその身体を持って射線から逃れた。獲物を追従しようとする福音だったが、それはシャルロットとセシリアの射撃により妨害される。
「サンキュー箒。にしても、もう少しだったんだけどなぁ」
「あまり無茶はするな。それよりも先程からラウラの応答が無い。一度確認しに行ってくれないか」
「はいはい、ちゃちゃっと行ってくるわよ。気をつけなさい」
そう言って鈴の甲龍が一度離脱すると、箒はすぐに福音と戦っているシャルロットとセシリアの援護に向かった。既にセシリアのブルー・ティアーズのビットは数基が失われており、シャルロットの装備の幾つかも残弾が尽きている。足止めにしても、長くは持たない。
(やるしかないのだ、やるしか……!)
エネルギー残量の低下を知らせる警告ウィンドウを忌々しく睨むと、箒は一気に機体を加速させセシリアを追っていた福音に自らをぶつけた。互いの装甲が僅かに砕け散り、体勢を崩した福音の背中が不用意に箒の目の前に晒される。
「このっ!! でやああああああっ!」
雄たけびと共に突き出された二本の刀が福音の背中を切り裂き、そのまま回転すると同時に跳ね上げられた刃はその一対の翼を根元から引き裂いた。
「箒! 離れて!」
バッと自由落下する福音から箒が離れると、上空から左腕のパイルバンカー【
「パイロットは死なせたくない! そのまま機体だけ壊させてもらうよ!」
二発、三発と打ち出される杭により福音の背中の損傷は大きくなっていき、やがて福音はその動きを止めた。シャルロットはゆっくりと左腕を福音から離し、ホッと安堵の息を吐いた。これで福音の装甲が粒子と消えれば、その時点で自分達の勝ち------。
「……え?」
刹那、眩い輝きを福音が放ち始めた。シャルロットはその光に飲み込まれ、そして次の瞬間には全身をズタズタにされた状態で光の中から吐き出されるように飛び出して行った。その光景を前に呆然としていたセシリアと箒の前に、鈴の甲龍に担がれるようにして現れたラウラが声を上げる。
「
だが時既に遅く、新たにエネルギーで出来た光の翼を背中から生やした福音は、固まっていた彼女達へ向けて最大威力のエネルギー砲を放っていた。目の前で広がって行く光条に、箒は他の三人を庇うように立ち塞がった。両腕を真横に広げ、盾になろうとする箒にセシリアが手を伸ばすも、既に光は彼女の身体を飲み込------まなかった。
上空から飛来した
「ギリギリ間に合ったってとこか。悪い、待たせたな」
「どうして、ここに、お前が……絶対安静のはずじゃ……」
「お前らを助けに来た。それ以上の理由なんているかよ」
目の前に浮かぶ黒いIS【伊弉諾】は箒の顔を一瞥すると、そのまま左手で箒の頭を撫でた。硬い装甲越しに伝わる暖かな手の感触に、箒は叫ぶ。
「京介……京介っ!」
「おう!!」
大声で返事をした少年は、その黒く大きな翼を広げ、黒く力強い拳を握り締め、再び戦場に現れたのだった。
遂に学園編クライマックスです、恐らく次話が学園編の最終回になると思います
最後の戦いがどのような決着を迎えるのか、一夏は間に合うのか
次回をお楽しみに!