※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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決戦-前編-

 

目の前には、銀色の輝きを放つ敵。後ろには、真っ赤な輝きを放つ大切な人。刹那、銀(・)色(・)が揺れる。閃光が迸り、黒い鉄の壁が視界を覆う。衝撃、後、衝撃。三度の衝撃の後、俺はグッと拳を握る。

 

 

「邪魔だ」

 

 

勢い良く突き出した左拳は福音の顔面を捉え、振り切ればその肢体を勢い良く振りながら福音の身体はPICとは関係なく宙を舞った。追撃として繰り出した右膝はその腹部を捉え、く(・)の字に曲がった福音の背中に更に振り下ろした左肘が突き刺さる。背中を覆う装甲が砕け、操縦者が着ているものであろう黒いISスーツの一部が露出した。

 

 

するり、と福音は突如全身から力を抜いたように俺の膝からずり落ちて行く。だが次の瞬間、海面スレスレの地点でバッとエネルギー翼を開いた。幾多の輝く球状が瞬き、俺は鋼鉄の翼を正面で閉じる。そうして放たれたエネルギー弾は翼に直撃し、激しい衝撃が全身を揺らした。

 

 

【シールドバリアーへの影響は無し。装甲のみでの防御が可能と判断します、シールドバリアーをオフにしますか? YES/NO】

 

「NOに決まってんだろうが! 追撃、行くぞ!」

 

【NO. 了解】

 

 

目の前に表示されたウィンドウを怒鳴りつけ、俺は閉じていた翼を開いた。そのまま両腕を前へと突き出し、海面から上昇しようとしている福音へと向ける。掌の砲門が瞬き、黄色い閃光が迸った。海面が爆ぜ、水飛沫が津波のように湧き上がる。その中を切り裂く様に突進してくる福音。そのエネルギー翼をまるで刃のようにし、旋回・加速。迫り来る二つの光の刃を、俺は上に飛んで避ける。

 

 

逃げる俺を追い掛ける様に上昇した福音を、下方から飛来した砲弾が邪魔をする。次いで、砲弾に気を取られた福音の背中に見えない何(・)か(・)が直撃する。装甲が無くなったところに直撃した所為か、福音は大きくその身を悶えさせた。

 

 

『まさかここでお前が来るとは思わなかったぞ、京介』

 

「そいつは悪かったな。だけど来たのは俺だ」

 

『アンタのことだから、どうせ傷だらけのままなんでしょう。こういう時、その全身装甲が恨めしいわ』

 

「シャイだからな、女子に身体を見られんのは恥ずかしいのさ」

 

 

ラウラ、鈴と軽口を交し合うと、俺は彼女達がいる岩山を一瞥した。ラウラは一人岩山に機体を固定しており、鈴は別の岩山の上に機体を静止させている。よく見れば、鈴の背後には傷だらけのシャルロットを介抱するセシリアの姿があった。

 

 

「お前らはそのままいろ、シャルロットを守ってやれ。アイツは、俺がやる!」

 

 

悶えていた福音は正気を取り戻すやいなや一気に機体を上昇させ、その翼を最大まで開いた。俺も同様に翼を最大まで開き、一気に伊弉諾を上昇させる。そうして放たれるエネルギー弾の雨を真正面から受け止め、装甲の一部を焼きながらも俺は直進し続けた。ダメージはあるが、微々たるものだ。凱龍が元から損傷していたとはいえ一撃で破壊されたのに対し、伊弉諾には殆どダメージは無い。

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 

雄たけびと共に振り上げられた左脚は福音の顎を蹴り上げ、そのまま身体を翻した俺は残っていた右脚で思い切り後ろ回し蹴りを脇腹へと叩き込んだ。最初の頃より、明らかに伊弉諾の反応速度が速くなっている。指を握るのも、足を動かすのも、機体を飛ばすのも、何もかもが速い。何もかもが、遅(・)い(・)。

 

 

勝てる。俺はそう確信していた。この伊弉諾ならば、このISならば銀の福音に勝てると。だが福音に俺が組み付いた時、福音はそのエネルギー翼で俺の身体を伊弉諾ごと包み込んだ。抜け出そうとする前に背中で爆発が起き、僅かに背中の傷が衝撃で痛む。だがまだ大丈夫だと自分に言い聞かせるようにすると、いきなり右の頬を殴り抜かれた。

 

 

「な……に……?」

 

 

視界が歪む、揺れる、戻る。目の前には至近距離で右腕を振りかぶる福音の姿。それが伸ばされる、だが、拳が見えない。

 

 

「ごっ!?」

 

 

再び頭部を駆け抜ける鈍痛。走る痛みに歯を喰いしばり、俺はエネルギー翼の中で両掌の荷電粒子砲を放出する。爆発の衝撃で福音から無理矢理引き剥がされ、すぐに翼をはためかせ体勢を安定させた。だが顔を上げた瞬間には既に福音が迫っており、振り上げられた右脚を防ごうと腕を上げると、何故か右側にエネルギー弾が直撃。予想外の方向からの攻撃に、俺の背中から激痛が走った。

 

 

「ぐっ……」

 

 

「京介、動くな!」

 

 

突如箒の声が耳朶を打つと、目の前で追撃を掛けようとしていた福音を追い払う様にエネルギーの塊が飛来した。避ける福音を追い掛ける様に複数の砲弾やレーザーが飛来し、福音は俺から大きく距離を取ることとなる。

 

 

「京介!」

 

 

と、右側から聞こえてきた声に向かって俺は振り向いた。そこにいたのは、紅椿を纏った箒だった。心配そうな表情を浮かべて、俺の右肩を掴んでいる。

 

 

「お前、やはり右目が……」

 

「ああ、流石にハイパーセンサーでもどうにもならねえみたいだな……。攻撃が見えねえ、それに」

 

「それに?」

 

「いや、何でもねえ。箒、血が出てるか?」

 

 

頭部装甲を解除し右目の部分を包帯で隠した顔を外気に晒すと、箒は頭を左右に振った。どうやら頭部の傷は開いてはいないようだ。となると問題は鈍痛を発する背中ということになる。伊弉諾を完全に制御下に置いたとはいえ、元々操縦者の安全性が確保されていない機体だ。止血機能も何も無い。

 

 

「早く決着をつけねえとならねえなこりゃ。……手を貸してくれるなよ、箒」

 

「な、何故だ!? お前一人でも危険なのはもう分かりきっているではないか!」

 

「それでもだよ、右目をやられたってこと思い返すと今更ながら余計ムカついてきやがった。まだまだアイツをぶん殴ってやんなくちゃ気が済まねえ、悪いな」

 

「っ、馬鹿者!!」

 

 

怒鳴る箒を置いて再び福音へと吶喊。常に福音を視界の左側に留めるように伊弉諾を動かし、射撃を主体に攻めていく。狙いは奴の背中、先程操縦者をむき出しにした部分。そこを集中的に攻めれば、絶対防御の発動でエネルギーを大きく削いでいけるはずだ。奴のエネルギー弾を撃ち続けさせるのも一つの手かも知れないが、ちんたらやっていると俺が先にダウンしてしまう。

 

 

(出血多量で死ぬのだけは勘弁だね……)

 

 

背中にじんわりと生暖かい感覚が広がっていく中、俺は伊弉諾のスピードをフルに活かしながら福音の背後を取ろうとしていた。当然福音側もそれを分かっているのか、エネルギー弾をばら撒きながら背後を取らせまいと俺を牽制してくる。そこで多少強引に機体をエネルギー弾の雨に捻じ込めば、着弾の衝撃を耐えさえすれば福音の懐へ到達するのは容易い。

 

 

ガッチリと福音の胴体を掴むと、俺はそのまま福音の顔面に頭突きを喰らわせた。仰け反る福音の身体はしっかりと保持したまま、再び膝を繰り出す。鳩尾に膝が突き刺さる感覚がすると、俺はそのまま左手を鳩尾の損傷した装甲に叩き付けた。ここでもう一つ弱点を作っておけば、後々こちらが有利になる。だが鳩尾の装甲を引き剥がそうとしたところで、突如福音が吼(・)え(・)た(・)。黒板を思い切り引っかいたような耳障りな高音が耳朶を打ち、思わず俺は手を離して頭部装甲越しに耳を押さえてしまう。

 

 

「何だ、こいつ!?」

 

 

目の前で福音の腕や足、更には脇腹の辺りからも新たなエネルギー翼が生えてきた。異様な光景だ。更に輝きを増した福音はその全身から生やしたエネルギー翼から、一斉にエネルギー弾を放つ。数は十倍以上に増えたそのエネルギーの雨に飲み込まれた俺は、全身に地面に叩き付けられたような痛みを感じながら吹き飛ばされた。装甲自体に損傷は無く、若干一部が焦げ付いているだけ。だが中身である俺へのダメージは十分な程に通っていた。

 

 

「うっ……クソッ!」

 

 

「京介!」

 

 

すぐに加速しようとしても、身体が言う事を聞いてくれない。少しずつ手足の感覚が無くなってきている、血が出過ぎたのか。だが後ろには箒がいる、前方には両手を広げ俺を見下ろしている福音がいる。このまま撃たれれば、箒が巻き込まれてしまう。それだけは避けたい。

 

 

「お二人共、動かないでください!」

 

 

突然、セシリアの声が耳朶を打った。下方から見慣れたレーザーの軌跡が福音へと飛んでいき、直撃したエネルギー翼から光を散らす。福音はそっちの方へと注意を向けたようで、俺から視線を逸らした。俺も福音と同じ方向を向くと、ボロボロのブルー・ティアーズとシュヴァルツェア・レーゲンが構えていた。

 

 

「私達が何とか時間を稼ぎます! その間に!」

 

「シャルロットの安全を確保してくれ! すぐに鈴もこちらに合流する!」

 

「お前ら……! 無茶だ!」

 

「数は多い方がいいのだろう! すぐに合流してくれれば良い!」

 

 

言うやいなやラウラのレールカノンが火を噴き、セシリアがビットを飛ばす。福音は新たに現れた敵へ興味を持ったのか、俺と箒は無視して一気に降下した。放たれるエネルギー弾の雨を避ける青と黒の機体を見やった後、箒に引っ張られるようにして俺はシャルロットを守るようにしていた鈴の傍へと着地する。

 

 

「血はもう止まったけど、装甲が完全に破壊されてる。どっちかが護衛に付いてなきゃ、流れ弾で死んじゃうわよ」

 

 

着地するなり、鈴は俺達に向かってそう言い放った。岩山に寝そべるシャルロットは苦しそうな表情を浮かべながら、時折身体を捩じらせている。鈴の言う通りなら、シャルロットの戦線復帰は無理だろう。箒が何事か鈴と言葉を交すと、彼女は俺を一瞥してからセシリアとラウラの援護に飛んで行った。

 

 

「何を話した?」

 

「シャルロットの護衛にはお前が付くという話だ」

 

「何だって!?」

 

「当然だ。誤魔化しても分かる、傷口が開いたな? 唯でさえボロボロのお前がこれ以上アイツと戦い続ければ、お前は死んでしまう! だったらそうなる前に彼女を連れて撤退しろ、それが最善の方法だ」

 

「最善って、そんな訳……っ」

 

 

一瞬、視界が揺れて俺は前のめりに倒れかけた。咄嗟に箒が支えてくれたものの、その表情は崩れてしまいそうな程悲しみに満ちている。そのまま箒は俺の顔を装甲越しに撫でてきて、俺は頭部装甲を開いて素顔を晒した。顔を晒してそのまま、紅椿の硬い手が俺の頬に添えられる。

 

 

「お願いだ、京介。お前が助けに来てくれたのは本当に嬉しかった、けどそれがお前だけが傷ついていくことなのなら、私は嫌だ、嫌なのだ」

 

「箒……」

 

「この戦いは、私にとって大きな意味を持っている。お前と一夏が私の所為で大怪我を負ってしまった、その責任を取る戦いだ」

 

「責任なんて、そんな大層なもんお前が感じる必要は------」

 

「あるのだ! お前は目を覚ましてくれたが、一夏は眠ったままだ。私の自惚れが引き起こしたことなら、私が終わらせなければならない。お前の手を借りてはならないのだ」

 

 

そう言った後、箒は背を翻し戦場へ飛んで行こうとした。その右手を、俺は咄嗟に掴む。何故掴んだのかは分からないが、ただそうしなければならない気がしていた。まるで、ここのまま行かしてしまえば二度と彼女に会えなくなってしまうような。

 

 

「お前はまだ------っ」

 

 

振り向いた彼女の言葉を遮るように、俺は彼女の身体を機体ごと抱き寄せた。すぐ目の前にまで近づいた箒の顔は、驚愕から恥じらいへと移行している。僅かに頬を赤く染めている箒を前に、俺はゆっくりと口を開いた。

 

 

「こ、このままお前を行かせたら……もう会えないような気がしてさ。悪いとは思ってるよ。け、けど目の前で誰かが傷つくところを見るのも、死んでしまうところを見るのも、もう嫌なんだ。だから、俺も一緒に行く」

 

「だがそれではシャルロットが……」

 

「僕のことは大丈夫だよ」

 

 

突然、苦しそうな吐息混じりの声が箒の背後から聞こえてきた。視線を移せば、岩山に寝そべっていたシャルロットが、僅かに上体を起こしてこちらを見ていた。

 

 

「全く動けない訳じゃないし、目の前でラブロマンスされるよりかはマシかなって。ははは」

 

 

身体が痛むのか少しばかり顔を歪ませながらも笑ってみせるシャルロットを前に、俺は思わず箒から身体を離した。

 

 

「今更だよ、京介。……僕のことが心配なんだったら、今すぐ飛んでいって倒しちゃいなよ。ラウラ達もいるし、みんなで力を合わせるんだ」

 

 

「シャルロット……」

 

 

頷いてみせるシャルロットから箒へと視線を移すと、彼女は辛そうな顔を浮かべながら早々に飛び立ってしまった。俺もシャルロットに気をつけるよう言ってから、慌てて後を追いかけて行く。幸いにも、まだラウラ達は誰もやられることなく戦闘を継続していた。だがそれでも損傷は酷くなる一方で、俺と箒と入れ替わる様にラウラとセシリアが後方支援へと回った。箒が中距離からエネルギー弾を放ち、それを避けた福音を鈴が追い込むようにして死角から俺が拳を叩き込む。

 

 

【残りエネルギーが50%を切りました。一部機能を制限します】

 

 

福音のエネルギー翼が生えている装甲の一部を無理矢理引き剥がすと同時に、目の前にウィンドウが開いた。戦闘が始まってどれくらいの時間が経ったのかは分からないが、俺が半分を切ったということは、他のみんなのエネルギーは------。

 

 

「しまった!」

 

 

ラウラの焦りにも似た悲鳴が耳朶を打ち、俺は福音を抑え込もうした手を伸ばしていたが外してしまった。俺の手の間をすり抜けた福音は真っ直ぐにラウラへと向かう。エネルギーが底を尽き掛け、装甲の維持で限界のシュヴァルツェア・レーゲンへと。

 

 

「ラウラ!」

 

 

「私が行きます!」

 

 

セシリアが残っていた二基のビットを射出するも、そこから放たれるレーザーを軽々と避けた福音は全身をエネルギー翼で覆う。エネルギーの弾丸と化した福音は加速し、ラウラを庇う様に浮いていたセシリアごと二人を海中へと沈めた。大きな水柱が打ち立てられ、再び人工の雨が俺達を打ち付ける。

 

 

「セシリア! ラウラ! このぉっ!!」

 

 

「やられたのか!? 止せ、鈴!」

 

 

レーダーからラウラとセシリアの反応が消えると、激昂した鈴が海中から飛び出してきた福音に飛び掛った。折れた刃を振るい、彼女はエネルギー翼の一部を装甲ごと刈り取る。福音の背中と頭部以外の翼は、もう無くなっていた。

 

 

「なまくらで斬れるって言うんなら、このままぶっ殺してやるわよ!」

 

 

鈴が逆手に持った双天牙月を思い切り振り下ろすと、本来の切れ味を失っているはずのそれは容易く福音の右肩に突き刺さった。福音か若しくはその中にいる操縦者か、再び金切り声の悲鳴を上げた福音はその四肢を振り回す。鈴はその背に張り付くようにしたまま、両手でしっかりと握った双天牙月をより深く刺そうとしている。だが次の瞬間、福音がその全身から放ったエネルギー弾の直撃を受けた鈴もまた、海中へと消えていった。

 

 

「こ、の……このぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

「一人で行くな、箒!!」

 

 

雄たけびを上げながら吶喊する箒を追いかけ、俺もまた福音へと突っ込んで行く。装甲が破壊し易くなっているということは、奴のエネルギーも少なくなってきているということ。このまま一気にケリを付けたい。箒の紅椿のエネルギーも、俺の身体も限界が近い。

 

 

「慌てるなよ箒、チームワークでぇッ!」

 

 

「分かっている! 追い込むぞ!」

 

 

エネルギー弾を俺が翼で受け、その隙に箒が背後から斬り掛かる。操縦者の生身の部分が増えてきた福音は、確実にダメージを受けていた。この調子なら、勝てる。俺はそう確信していた。だが戦闘による興奮状態になっていた為か、俺は俺の身体のことを忘れてしまっていた。ふと動くのを止めると出血多量による影響か、身体が冷たくなっている。それに気付いた途端、視界の焦点が合わなくなってきた。拳も握れず、腕も動かせない。警告を示すウィンドウが大量に目の前に表示されるが、最早それに何を書いてあるのかすら読めない。

 

 

(まだ、まだ俺は何もやっちゃいないんだぞ……!? 何も出来てないのに、死ぬっていうのかよ……!)

 

 

「京介―!」

 

 

何処か遠いところから、誰かが俺を呼んでいるような気がした。もうぼやけてしまった視界で分かるのは、もう殆ど暗くなってしまった空が遠くなっていくことだけ。自分が墜ちていることに気付いた時、俺の目の前に赤い光が見えた。その背後から、更に輝く光の波が見える。墜ちて行く流れで自然と伸びた左手はまるで赤い光を俺が求めているようで、一瞬、その赤い光が俺の左手を握ってくれたような感覚があった。

 

 

そして、新しい白い光が俺の視界を覆いつくしたのだった。

 

 

 

 

 

背後から福音のエネルギー弾の雨が迫ってきていた時、箒はギュッと伊弉諾ごと京介の身体を抱きしめていた。突然墜ちていった京介の伸ばした手を握り、箒は彼を守る為にその身を盾にしている。もうすぐ、二人の身体も仲間達と同じように海中に消えるのだろう。

 

 

(すまない、みんな、一夏……!)

 

 

自らの最期を覚悟した箒は、一層京介を抱きしめる腕に力を込めた。自分達の為に怪我を押して駆けつけてくれた彼のダメージを、少しでも減らして上げたい為に。

 

 

だが、何時まで経っても福音の攻撃は二人に届かなかった。静かな波の音だけが、箒の耳に届く。

 

 

「ごめん、みんな。間に合わなくて……本当に、ごめん」

 

 

「いち、か?」

 

 

頭上から聞こえてきた声に、箒は振り返った。福音と自分達の間に、白い装甲をしたISが浮かんでいる。顔がむき出しのそのISは、箒の知っているものとは若干形状が変わっていた。左腕に見慣れぬ武装が増えていて、背中のユニットも大型化している。だがその装甲を纏う少(・)年(・)の顔は変わっていない。

 

 

「セシリア、鈴、シャル、ラウラ、すぐに助けてやるからな。箒、京介のこと頼むよ。決着は------俺が決める!」

 

 

白式・第二形態【雪羅】。新しい力を手に入れた少年・織斑一夏は決意を新たにした顔で、雪片弐型を手に福音へと向かって行った。福音を自分達の近くから遠ざけるように戦う一夏の背を呆然と眺めていた箒だったが、すぐに腕の中の京介に意識を向けると近くの岩山へとその機体を寝そべらせた。

 

 

「聞こえるか? 京介。一夏も来てくれたよ、私の所為で傷ついた二人が……私達を守る為に来てくれたんだ……ありがとう。本当にありがとう。けど、ごめんなさい」

 

 

装甲に隠された少年の素顔に思いを馳せ、箒はその額部分にそっと自らの唇を重ねた。

 

 

「お前を必要以上に傷つけてしまった、お前は死んでしまうかもしれない。そんなのは嫌だ、まだこの想いを何もお前に伝えていないのだから。私もまだ戦うよ、早く福音を倒してお前のいる所に戻ってくるから。だから、もう少しだけ頑張ってくれ」

 

 

少女の想いに呼応するかのように、紅椿の装甲が光り輝く。赤い光の中からあふれ出る黄金の粒子、【絢爛舞踏】の文字と共に紅椿のエネルギーが一気に回復していく。その黄金の粒子は伊弉諾の全身をも包み込み、そのエネルギーを回復させる。だが伊弉諾には元々、ちゃんとした操縦者保護機能というものは存在しない。良くて痛覚を遮断し、戦闘を無理矢理にでも継続させることが出来るくらいだ。

 

 

「やはり私はまだ戦えるようだ。……行って来る」

 

 

だがそのことを箒は知らない。黒い装甲に覆われた想い人に背を向け、箒は戦っている幼馴染の下へと駆けるのだった。その背後で、黄金の粒子に包まれていた伊弉諾が変化しようとしていることに気付かずに。

 

 

 

【紅椿より未確認の機能を感知。エネルギー量の回復から単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)と判断、解析開始------終了。展開装甲のデータを吸収、同時に操縦者保護機能の設定を変更。痛覚遮断を解除し、操縦者の生命維持を最優先に。同時に凱龍よりコア・エネルギー・バイパスの接続方法をインストール、インストール完了。自己進化機能により伊弉諾に新たな機能が追加されます。戦闘を続行しますか? YES/NO】

 

 

【YES】

 

 

 

 

 

「------アイツ、行った?」

 

「ええ。本当、強い人ですわ」

 

「今更ながら、アイツは人間か? あれ程の怪我を負っていてまだ動けるとは……」

 

「んー……想いの力、とか」

 

「京介はまだ分かるけど、一夏のやつも?」

 

「多分、そうだよ。ただ違うのは一夏はみんなを想っていて、京介は------」

 

 

 

 

 

大ダメージを受けた福音に、一夏と箒は劣勢に追い込まれていた。箒が発現させたエネルギーの回復・供給が可能な単一能力使用【絢爛舞踏】を持ってしても、まだ勝利には届かない。零落白夜と雪羅、共にエネルギーを消費しなければならない装備を使用する一夏の白式は既にエネルギーの八割を失っていた。何度箒がエネルギーの補給を行っても、一夏は高速で移動する福音に直撃を当てることが出来ず無駄な消費を繰り返すばかり。

 

 

「落ち着け一夏! まず足を止めることを考えるのだ!」

 

「けど!」

 

「無駄にエネルギーを消費し過ぎるな! 私のこの能力とて無限では無いのかもしれないのだぞ! 私が追い込み、お前の零落白夜で止めを刺すしかないのだ! 行くぞ!」

 

 

もう一度絢爛舞踏で白式のエネルギーを回復させた後、箒は両手の刀を握り締めて福音へ肉薄する。繰り出される斬撃を福音は躱し、箒は福音の上を取るように動いて行く。その背後より、零落白夜を発動させた一夏が迫った。振るわれた刃はエネルギー翼を切り裂く、だが、それだけ。すぐに翼を修復した福音は身体を回転させながらエネルギー弾をばら撒き、雪羅のシールドを展開した一夏が箒を庇うように間に入り込む。エネルギーを消滅させる雪羅のシールドは強力だが消費も激しく、すぐにまた雪片弐型のエネルギー刃から光が消えた。

 

 

「またお前はっ! ……エネルギーが!?」

 

 

すぐに絢爛舞踏を発動しようとした箒だったが、突如その表情が焦りに染まる。今まで何度か発動出来ていた絢爛舞踏が、発動しない。エネルギーの回復が、出来なくなっていた。

 

 

「箒っ! うあああっ!!」

 

 

一夏の叫びが耳朶を打ち、箒はハッとして顔を上げる。目の前で、福音のエネルギーの翼によって一夏が吹き飛ばされていた。装甲の一部を砕かれた一夏の白式は海面に叩きつけられるも、すぐに体勢を立て直して左腕の雪羅を向けている。だが、エネルギーの足りない状況で放たれるものなど、何もない。

 

 

「……っ」

 

 

まるでスローモーションのように、福音の翼が目の前で開かれていく。今すぐ両手の刀を振ればダメージを与えられる、そう箒は確信していた。だがその腕を振る力が湧いてこなかった。絢爛舞踏が発動しなければ戦闘の継続は難しく、箒の戦意はほぼ喪失し掛けている。

 

 

(やはり、私は……)

 

 

目を閉じ、翼に包まれていく箒と紅椿。あとは灼熱の波に揉まれ、冷たい海へと墜ちて行くのみ。だが------。

 

 

「諦めるな!」

 

 

刹那、箒の顔を一筋の風が撫でた。同時に響く金属が拉げるような音が耳朶を打ち、箒は何事かと目を開く。そして飛び込んできたその光景に、彼女は目を見開いた。

 

 

さっきまで自分の腕の中にいた黒い装甲をしたISが、全身から黒い粒子のようなものを放出しながら目の前に背を向けて立っていた。その肩から見える向こう側には、頭頂部が思い切り拉げた福音がいる。

 

 

「待ち続けるっていうのは性に合わなくてさ、こっちから来ちまったよ。悪い」

 

「どうして、お前はそこまで……」

 

「お前を守りたいんだよ、俺は。理由なんざそれで十分さ、それに」

 

「それに?」

 

 

不自然に言葉を切った京介に箒は首を傾げるも、京介は軽く左腕を振って誤魔化した。

 

 

「続きはこいつを倒して、みんなで帰って、それから二人でゆっくり話すことにするよ」

 

 

背中の翼を大きく広げると、それだけ黒い粒子が空中に撒き散らされる。それは伊弉諾の装甲に使われている塗料で、それが少しずつ剥げていて動く度に装甲から飛んで行くのだ。伊弉諾は両拳を握り締め、バイザー型のカメラ・アイが力強く発光する。

 

 

「第三ラウンドだ、ここで終わりにしてやる!」

 

 

 

京介の言葉と共に、伊弉諾はその装甲から眩い光を発した。黒い塗料が巻き上がり、その下から新たな黒(・)が生まれていく。装甲に亀裂の様な模様が走り、そこからはエメラルドグリーンの光が漏れてくる。黒とエメラルドグリーンの二色の光に包まれた伊弉諾は、その姿を変えていった。

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