※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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幽霊

 

静寂を切り裂くように、甲高い電子音がその部屋に鳴り響いた。部屋は十畳程の広さでシングルベッドが一つと冷蔵庫、ゴミ箱にテレビと小さなタンスだけが置いてある。あとは備え付けの小さなシャワールームだけだ。床はカーペットが敷いてあり、ベッドの傍には男女二人分の衣服や下着が散らばっていた。そしてゴミ箱には湿ったティッシュや伸びたある種のゴ(・)ム(・)が幾つか棄てられている。

 

 

ベッド上には二つの膨らみがあり、その内の一つから伸びた手が壁に掛けられていた目覚まし時計を止めた。そのままもぞもぞと膨らみが動くと、右目に一筋の傷が入った少年の顔が外気に晒される。少年は自身の隣にあるもう一つの膨らみをシーツ越しに撫でると、そのままベッドを出て全裸のまま冷蔵庫へと足を向ける。かなり鍛えられた少年の肉体には、大小様々な傷痕が痛々しく残っていた。冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出すとキャップを外し、中身を仰ぎながら少年は備え付けのシャワールームへと入った。中身の無くなったペットボトルをドアの前に置き、少年はキュッと蛇口を捻る。複数の細かな穴から温水が吐き出され、少年の全身を濡らして行く。

 

 

「……ふぅ」

 

 

一度シャワーを止め、濡れた髪を掻き上げながら息をついた少年は右目の傷をすっと自身の指先で撫でた。眼球を失う程の怪我を受けた結果残されたのがこの怪我であり、消すことも可能だった少年は敢えてこの傷を残すようにしていた。それはこの傷が少年の自分に対する決意の表れだったから。受けた裏切りを、奪われていったものを奪い返す為の戦いを続ける為の決意。

 

 

一通り全身を洗った後、少年はバスタオルで全身を拭いた後そのまま頭にバスタオルを被せたままシャワールームを出た。するとベッド上には、一人の少女がシーツにその裸体を包んで窓の外を見つめていた。少女は少年の姿をその澄んだ瞳で見つめると、シーツを持ったまま立ち上がって彼に飛びつく。少年は少女を受けとめ、そのままその肩まで伸びた栗色の髪を手で梳いた。

 

 

「おはよう、京介」

 

 

「ああ、おはよう。マリーダ」

 

 

浦城京介、マリーダ・ヒューゴ、ある事情から恋人同士になった二人は、朝の挨拶を終えると半裸のまま軽いキスを交した。そのままマリーダをシャワーへと送り出した京介は床に散らばっていた衣服を纏め、タンスから新しい着替えを出してそれに着替えた。そして窓に寄り掛かってそこから見える海を眺めていると、シャワーを終えたマリーダが一糸纏わぬ姿で部屋に戻って来る。その引き締まった肢体に豊満な乳房、恥ずかしげも無く晒されているその姿に抱く劣情を京介は窓の外に向けることで誤魔化した。だがガラスには、マリーダが意地の悪い笑みを浮かべてままタンスから取り出した着替えに袖を通している光景が映っている。

 

 

「見たいんなら何時でも見せてあげるよ? 京介っ」

 

「言ってろ。ほら、行くぞ」

 

「あっ、待って待って!」

 

 

とっとと部屋を出て行こうとする京介に慌ててマリーダは追いつくと、その右腕にそっと寄り添った。京介もそんな彼女の姿を一瞥すれば微笑んでみせ、二人は寄り添ったまま長い廊下を歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

ドイツにはイゾルデ社と呼ばれる企業が存在している。ISの本体のみならず、その装備の開発以外にも通常兵器や電化製品といったありとあらゆるものを製造・販売している企業だ。第二世代型では打鉄を凌ぐ装甲の硬さを誇る【ヴァント】を開発し、現在は欧州連合の統合防衛計画【イグニッション・プラン】に参加する為の機体を開発中ということになっている。表(・)向(・)き(・)は(・)。

 

 

イゾルデ・ゲルトラウト・ヴィクトーリア・シュヴァルツ、彼女はイゾルデ社三代目社長にして亡国機業幹部会の一員であった。スコールさんと肩を並べる程の実力者である彼女によって亡国機業はその軍備を整えられているらしく、IS関係の装備は全てイゾルデ社が極秘に開発したものが使われている。その技術力は各国を遥かに凌駕しており、篠ノ之束を除けばイゾルデ社に開発出来ないものなど無いらしい。その彼女を頼りに、スコールさんは俺をドイツまで連れて来たのだった。彼を組織に必要な人間として推薦する為に。

 

 

「ここに来てもう四日ね、彼女、やっと海外の工場視察から帰って来るそうよ」

 

 

俺とマリーダが仲間達と合流しイゾルデ社本部に設けられた宿泊施設の食堂で朝食を食べていると、スコールさんが話を切り出した。真ん中をナイフで開いたパンにソーセージを挟み、ケチャップとマスタードを掛けて自分でホットドッグを作った彼女は、それに齧り付く。

 

 

「やっとそのイゾルデって人に会えるのか。……本当に大丈夫なのか? スコールさん」

 

 

同じようにホットドッグを自作して食べていた俺の問いに、スコールさんは頷いて見せた。牛乳で口の中のものを流し込み、ふうと一息。昔見た時と変わっていないと、俺の懐かしい記憶を思い起こさせる。

 

 

「大丈夫よ、彼女にも一応簡単な話は知らせてあるから。後は彼女がこっちに来て何をするのか聞くだけよ。もしかしたら、一戦交えなくちゃならないかもしれないけど」

 

「一戦か……強いのか」

 

「それなりにね。ただ……多分、京介と戦うのは二度目の筈よ」

 

「え、京介、前にイゾルデと戦ったことがあるの?」

 

 

隣でパンを牛乳に浸して食べていたマリーダが、パン粉を飛ばしながら俺の方へ振り向いた。それを片手で頬を押して明後日の方向を向かせながら、俺は首を傾げる。そのイゾルデという人を見たこともなければ聞いたこともないのに、スコールさんが一度戦ったことがあると言ったからだ。当然、俺にはそんな記憶は無い。

 

 

「俺は知らないよ。ただ、何処かで会ったっていうのは間違いないんですよね。スコールさん」

 

 

「ええ、貴方は確実にイゾルデと一度接触しているわ。彼女を見れば、きっと思い出すはずよ」

 

 

一体何時だろうかと考えながら朝食を食べていると、黒服に身を包んだ大柄な男が俺達のテーブルへとやってきた。サングラスを掛けた白人で、髪を短くカットしている。彼はスコールへ一礼した後、俺やマリーダにも一礼した。

 

 

「お待たせしました、ミス・スコール。イゾルデ様が地下施設でお待ちです」

 

「あら、帰って来て早々? 悪いわね、案内してもらえる?」

 

「ええ、こちらへ」

 

 

朝食を終えた俺達三人はその男に連れられて、宿泊施設を出た。広大な敷地を持つイゾルデ社には大小様々な建物があり、その中でも一際大きい施設がISの実験等を行う研究施設なのだという。横を通り過ぎて行く社員達から奇異の目を向けられながらも、俺はマリーダを隣に置いてスコールさんの後ろを歩いていた。やがてエレベーターに乗り込むと、黒服の男がパネルにあるB5から20までの数字が書かれているボタンをランダムに押し始めた。するとパネル上部の電子モニターが点灯し、黒服の男がサングラスを外すと青白い光の線がその顔を上下する。するとエレベーターは下に向けて動き出し、そしてB5を超えて更に下へと降りていった。

 

 

「この地下に亡国機業専用の開発スペースがあるの。社員にも構成員はいるけどそれ以外の一般人もいるからね、ここを知っている人は少ないわ」

 

「そこに例のイゾルデって人が?」

 

「ええ、そうらしいわ」

 

 

エレベーターが到着しドアが開くと、そこは大量の電子機器が並ぶ管制室のような所だった。白衣を着た研究員のような大人達が至る所で何かしらの機器を操作しており、彼らはスコールさんの姿を見るなりビシッと姿勢を正し始めた。それに対して片手を上げて応じると、スコールさんの目が管制室正面にある大きなガラスの方へと向く。俺もガラスの近くまで行くと、ガラスの向こう側には東京ドームのような大きな空間が広がっていた。そしてその中心には、一人の女性が腕を組んで立っている。離れていても分かる程、綺麗な長い銀髪をしていた。

 

 

「あれが、イゾルデ?」

 

 

「ええ、そうよ。あの様子だと……貴方と一戦交えたいようね」

 

 

いってらっしゃいとスコールさんに言われ、俺は管制室横にある昇降機に乗らされた。マリーダが頑張ってと手を振ってきて、俺はそれに手を振り替えしながら広大なドームの中へと降り立った。この広い空間にあるのは、イゾルデと俺の二人だけ。俺はゆっくりと彼女の方へと歩いて行くと、その顔を見て、そして驚いた。

 

 

「ラウラ……?」

 

 

その銀色の長髪を持つ女性の顔は、俺の知っているドイツ人とよく似ていた。ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ代表候補生である銀髪の少女と。イゾルデは俺の呟きを聞くと、面倒臭そうにその銀髪を手で掻き上げた。そして、鋭い視線が俺の身体を突き抜ける。

 

 

「そうか、アイツはお前の知り合いだったか……全く、難儀なものだな。腹立たしいにも程がある」

 

「ラウラの……親類、なのか?」

 

「遺伝子上で言えば母(・)でありそ(・)う(・)ではない。立場上は卵子提供者になるのか、私は。奴は私の卵子と昔の男の精子を使って生み出された遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)、試験管ベビーだ。だがそんなこと今はどうでも良いだろう、お前は学園を追われここに来た。我々亡国機業に入団する為に」

 

「……ああ、そうだ」

 

 

イゾルデは組んでいた腕を解くと、右手の薬指に付けられていた赤い宝石がはめられた指輪を煌かせた。刹那、その指輪から灼熱の炎が放出される。熱波を受けた俺は僅かにたじろぎ、炎は渦となってイゾルデの周囲を包んで行く。そして炎の中から、イゾルデの声が響いた。

 

 

「貴様がパンドラの箱を開放したというのなら、我々の力になり得るというのなら、私は喜んで貴様を組織に推薦しよう! だがその前に、貴様にはかつて私の顔を膝で殴った礼を返させてもらう! 覚えていないようなら思い出させてやる、このニーダー・ブレンネンと私をな!」

 

 

炎の渦が内側から切り裂かれるように霧散すると、中から真紅の装甲をしたISが姿を現した。手足には必要最低限の装甲を付け、顔にはサンバイザー型のハイパーセンサーがあるのみ。だがその真紅のISの特徴は、大きな盾のような四つのパーツだった。その姿を見て、俺は漸く思い出した。あの真紅のISを、あの銀髪の女を。数ヶ月前、俺がIS学園に入学する前に行われた凱龍の発表式典で会場を襲撃してきたISだ。俺はエネルギーを零にされ敗北したが、最後に放った膝蹴りが奴の顔にヒットしたことだけは覚えている。

 

 

「そうか、そういうことか。凱龍を奪おうとしたのはお前だったんだな!」

 

 

「ああそうだ、あの戦いで私は貴様から一撃を喰らった! 私の顔に泥を塗ったのだ! ならばこの私の怒りを昇華させる程の力を見せてみろ! その伊弉諾でだ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ニヤリと笑みを浮かべたイゾルデが背中のパーツを動かし、戦闘態勢を整える。俺もまた、左手の黒い指貫グローヴから黒い粒子を放出させて伊弉諾の装甲をその身に纏う。奴の機体の特性は既に知っている。俺がISに乗る原因を作った敵とのまさかの再会に、俺は少しばかり興奮していた。奴との出会いがあったから俺は学園に行き、そしてこんな目に合うことになった。言わば全ての原因、それともう一度戦える。

 

 

「叩き潰す!」

 

 

イゾルデのニーダー・ブレンネンの盾状のパーツがまるで蟹の鋏のように真ん中から開き、ガチッガチッと音を鳴らしながら俺に向かって伸びてきた。その鋏を両腕で受け止めると、目の前には砲門のような穴がある。その穴がブースターにもなり、そして火炎放射器にもなる代物だ。

 

 

案の定放出された火炎に俺の身体は伊弉諾ごと呑まれるが、すぐにそのまま鋏の部分を持ってイゾルデの身体を空中へと放り投げる。だがPICのあるISだ、すぐに空中で体勢を立て直され四つの鋏が全て俺に向かって突き出されてきた。一斉火炎放射のおまけ付きで。濁流のごとく押し寄せる炎から逃れるべく俺は跳び上がると、両掌の荷電粒子砲を連続でイゾルデに向かって放射した。

 

 

放たれた光条をイゾルデは閉じた鋏で防ぎ、二つの鋏を伸ばして空中にいる俺を狙った。その内の一つを殴り飛ばした俺だったが、もう一つの鋏が伊弉諾の右足を掴みそのまま地面に叩きつけられる。衝撃が全身を揺さぶるも、まだダウンする程ではない。

 

 

「その程度か! 浦城京介っ!」

 

 

地面に横たわる俺目掛けて四つの鋏が振り下ろされるが、俺はその中の一つに右拳を突っ込んで荷電粒子砲を放った。小規模な爆発が起こって鋏が吹き飛び、爆煙の中から無傷の黒い右腕が現れる。舌打ちをしながらイゾルデは残る三つの鋏を巧みに動かし、俺の脚を攻撃してきた。大きさの割りに細かな動きが可能だと足元を狙う攻撃に集中していると、ふいに両腕が残る二つの鋏にガッチリと固定されてしまった。そして脚を狙っていた鋏が俺の胴体を挟み込み、ギリギリと締め上げてくる。

 

 

「っ、お……!」

 

 

装甲が軋み、全身が挟まれる衝撃で震える。そして伊弉諾が熱源反応を捉えるウィンドウを表示すると同時に、俺の全身を三つの鋏から放出された炎が包み込んだ。温度は一瞬にして1500℃を超え、本体の装甲がこれ以上温度が上昇し続ければ危険であるとの表示が目の前に浮かび上がる。そして装甲の一部が融解し始めた時、伊弉諾が吼(・)え(・)た(・)。

 

 

「な、にぃ!?」

 

 

装甲に亀裂模様が浮かぶと光が溢れ、強制的に殲滅形態へと移行した伊弉諾によって両腕を固定していた鋏が吹き飛んだ。そのまま胴体を挟み炎を吐き出している鋏を掴めば、伊弉諾はその爪を握りつぶして行く。勿論ISが勝手に動く等という話は聞いたことがない。これは俺が無意識的にやっていることなのだろうかと困惑しながらも、俺は目の前で武器である鋏を全て失ったイゾルデを一瞥した。彼女はその手にアサルトライフルを構えていたが、暫く睨み合っているとその銃を粒子化して収納する。

 

 

「何だ今のは……それも伊弉諾の、パンドラの箱に収められていた物の力か! 普通のISならば熔けて操縦者も蒸し焼きになる威力なのだぞ! それを貴様は無傷で、ISも表面が僅かに溶けているだけ……信じられない」

 

「……それだけの力が無ければ、篠ノ之束も織斑千冬も消そうとはしないってことだろう」

 

「そうか、そういうことか! 奴らを殺すと豪語するだけのことはある! 気に入ったぞスコール! 過去も全て水に流そう、被った泥も貴様に負けたのならば誇りに変えてやる。このイゾルデ、貴様を仲間として認めてやろう!」

 

 

ISを収納したイゾルデはそう叫ぶと、ゆっくりと俺に向かって歩いてきた。俺も伊弉諾を収納すると、彼女は隣を通り過ぎる時に俺の肩を強く叩いて行く。そしてかつての友人を思わせる笑みを浮かべながら、こう言った。

 

 

「貴様は私の敵から仲間になった、かつての同志の弟としてな。奴の名に恥じぬ立派な男にしてやる、覚悟しておけ」

 

 

「……感謝します」

 

 

去って行くイゾルデと入れ違いにやってきたマリーダの身体を受け止めて、俺は銀色の髪煌く背中へ視線を向ける。イゾルデの隣に並んだスコールさんが一瞬俺に向けて笑みを浮かべ、そのまま金と銀の二人はドームを出て行った。俺もマリーダを連れて二人の後を追い、こうして俺は亡国機業の幹部二人の推薦を受けることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

「------伊弉諾の改修はイゾルデに任せるわ。あの姿のまま使う訳にはいかないから、これからの戦いに必要な装備を揃えさせる。そして貴方には、これを渡しておくわ」

 

 

戦いの後、イゾルデ社の社長室に通された俺はスコールさんから今後のことについての話を受けていた。伊弉諾をイゾルデに預け改修を行ってもらう間に、俺は一通りの戦闘訓練を受けることになる。射撃、格闘、各種専門技能、戦う為に必要なものを全て。そしてスコールさんは、一丁の拳銃を俺に差し出してきた。黒塗りの、銃に詳しくなくともカスタムされたものと分かる一品だ。

 

 

「夏希……いえ、今は亡き我々の同志サマーズが使っていた拳銃よ。これを貴方に。ベレッタ92G エリートIA、自分が使う拳銃の名前は覚えておきなさいね」

 

 

拳銃と共に渡されたSOBホルスターと呼ばれるものを腰に回し、尻の上部分に受け取った拳銃を納める。そして俺は社長室に置かれている姿見を一瞥した。黒で揃えられたコンバットブーツにカーゴパンツ、上にも黒い上着を着ている。表舞台に早々顔を出せない俺には、十分なものだ。自分の姿を鏡で見ていると、背後にスコールさんが立った。すっと両腕を伸ばし、俺の肩を揉むように触る。

 

 

「復讐の為、そうは言っても奴らと関係の無い人間をその手に掛ける事もあるわ。ここまで来たら、もう後戻りは出来ない。それでも貴方は、このまま進むのね?」

 

 

「後戻り出来るような人生はもう歩めないんですよ、俺は。生きた死人なんです。奴らを纏めて地獄に引き摺り込まなきゃ、何時まで経っても成仏なんて出来やしない。だから俺は、このまま進みます」

 

 

俺の言葉を聞いたスコールさんは一瞬哀しそうな表情を浮かべるものの、すぐに険しい顔つきになって俺の肩を叩いた。だがその手は、とても暖かった。まるで母親が、新しい道を歩もうとする息子の背中を押し出してあげるように。

 

 

「なら、貴方は今日から【幽霊(ゴースト)】よ。誰にも囚われず、誰よりも自由で、誰からも恐怖される者。ゴースト、それが貴方の新しい名前。我々の目指す世界の安寧、そして貴方自身の望む復讐の為に戦いなさい」

 

 

「了解だ。……浦城京介は既に死んでいる、あの日あの炎に呑まれてな。俺は誰でもない(ゴースト)、誰であってもならないんだ」

 

 

誰に言うでもなく、自分に言い聞かせる訳でもなく、俺はそう呟いた。鏡に映るは、右目の部分に傷の入った隻眼の男の顔だけ。俺は手に入れたばかりの拳銃をホルスターから引き抜くと、左手で構えて鏡に映る顔へ狙いを付けた。そして引き金を引けば、カチッという音だけが響く。弾は出ない、だがそれで良い。

 

 

(そう、これで死(・)ん(・)だ(・))

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

鏡に映る少年よ、お前は一体誰なのか(ユア ネーム イズ)。

 

 

それはもう、誰にも分からない。





一度死んでしまったものは、もう二度と生き返らないのです。
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