※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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始動

 

夏も終わりに近づいた頃、大西洋上を一隻の大型タンカーが航行していた。ライムグリーンの船体をしたその広い甲板上には、タンカーには不釣合いなカタパルトが展開されていた。その発艦地点に当たる部分はハッチになっており、艦内から発進するものをリフトで甲板まで上げる様になっている。そして今、艦内からせり上がったリフトによって何(・)か(・)が甲板上に運ばれていた。

 

 

カーボンブラック一色に染め上げられた重厚な装甲、肩部には丸みを帯びた大型バインダー、背部には大型ブースターが横並びに二基存在し、腕部・脚部も多数のスラスター口が開いている。全体的に鈍重さを感じさせる造形のISの頭部は剥き出しで、右目に傷の入った少年の顔が目の前に複数のウィンドウを表示して機体状況を確認している。

 

 

『ゴースト、調子はどうだい』

 

 

改造タンカー船、亡国機業属するIS空母【ヴァリアント】の船長ラシード・アルマジードの声が耳朶を打ち、漆黒のISを身に纏う少年ゴーストは気だるそうに返事をした。

 

 

「バランサーが狂ってるぞ、まだ時間が掛かる」

 

『何ぃ? ったく仕方ねえな、マドカを先に出す。いいな!』

 

「悪い、どうぞ!」

 

 

そう言うと、ゴーストのいるカタパルトの隣に並ぶもう一つのカタパルトが展開し、新しいISが艦内からリフトから上がってきた。シルバーと黒を基調にしたカラーリング、独特な形状の頭部とカメラ・アイを持ち、本来は両肩にそれぞれ物理シールドとビームガトリング砲を装備しているが今は外されている。亡国機業がフランス・デュノア社のラファール・リヴァイヴを元に開発した第三世代型IS【シャグラン・アヴェルス】、コアは今まで各国から強奪したものを使っている。その全身装甲をしたISは一人の少女と共に上がってきており、その少女はISスーツにダウンジャケットを羽織ってゴーストの元へと駆け寄った。黒い装甲に飛びつき、ゴーストに顔を寄せる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「調整、何処がおかしいの?」

 

「着地する訳でも無いのに脚側にずれてるんだ。もう少し後ろ側に回したい」

 

「だったらここをこうして……」

 

 

マリーダの指示を受けながらゴーストが機体の調整を進めていると、二人の耳朶を別の少女の声が打った。隣のカタパルトに接続されているシャグラン・アヴェルスの操縦者からだ。

 

 

「マリーダ、出るぞ。衝撃で飛ばされるなよ」

 

「あっ、ごめんマドカ! 気をつけてね!」

 

「ああ。スコール隊一番機、シャグラン・アヴェルス、エム、出るぞ!」

 

 

電磁カタパルトが作動し、マドカの乗ったシャグラン・アヴェルスが強制的に撃ち出される。背部ブースターが火を噴き、そのシルバーと黒の塊はあっと言う間に視界から消えて行く。それに続くべく、ゴーストはマリーダの手を借りてすぐに調整を終わらせた。

 

 

「気をつけてね、私、祈ってるから」

 

 

「ああ、任せろ。上手くやるさ」

 

 

軽く唇を合わせ、ゴーストは艦内へと戻っていくマリーダを一瞥して頭部を覆う装甲を展開した。ヘルメット状でありながらカメラアイの様なものが一斉無い四角い出っ張りが口から上の部分を覆っており、口元だけが開いている。その漆黒のISを纏ったゴーストが一歩前に出てカタパルトに脚を固定すると、背後のリフトから二つの【A】を横向きにした形の銃が新たに押し上げられてきた。それが両腰の部分に備えられたアタッチメントに装着されると、ゴーストは管制室に向けて発進準備完了の合図を送る。遅れて、管制室にいるラシードの声がゴーストの耳朶を打った。

 

 

『良し、作戦目標は分かっているな。ここから12キロ先の海域にいるイギリス軍のIS試験隊、そしてBT二号機【サイレント・ゼフィルス】だ。試験隊を壊滅させ、サイレント・ゼフィルスを強奪しろ。連中の生死は問わん、だが時間を掛けすぎるなよ』

 

「分かってる。こいつをまともに動かすのは初めてだが、夕飯までには帰って来れるようにするさ」

 

『頼むぞゴースト、今日は俺のお袋の誕生日だからな。早いとこ電話してやらねえと後が怖えんだ』

 

「それは知らないな。……よし、良いか!」

 

『ああ、どうぞ!』

 

 

口元が開いていたヘルメット型の頭部装甲を更に覆うように、バイザー型のカメラアイをしたパーツがゴーストの顔を覆う。視界に発進までのカウントダウンを表示するウィンドウが現れ、ゴーストはグッと膝を曲げて飛ぶ姿勢を取る。背部ブースターに火が灯り、機体後方にジェットブラストディフレクターが起き上がった。

 

 

「スコール隊二番機、ダークバレット、ゴースト、出るぞ!」

 

 

電磁カタパルトが起動し、ISの加速とカタパルトによってPICで相殺し切れない程のGを身体に受けながら、ゴーストとその新たな愛機は甲板を滑って行く。そして甲板の終わりに到達しようとしたところで、ゴーストはカタパルトを強く蹴るようにして空中へと舞い上がった。背部ブースターにある六つの噴射口が瞬き、ダークバレットは一気に最大速度へと到達する。そして先行していたマドカ機に追いつくと、二機間でコア・ネットワークのリンクを確立させ不可視機能を作動させた。海上を移動する二機の姿は忽然と消え、誰の目にも見えることは無い。

 

 

「マドカ、試験隊の方は任せた。俺はサイレント・ゼフィルスを速攻で仕留める」

 

「大丈夫なのか新入り(ルーキー)、相手はベテランだぞ? 十年程度のな」

 

「機体の性能はこっちが上だ。それに殺すのが目的じゃないからな、やりようはあるさ」

 

 

両腰のアタッチメントに装着されていた小型荷電粒子砲のグリップを持つと、ゴーストはそれを腰から外して自らの獲物を構えた。競技用であるISのリミッターを解除した機体、武装、それらの意味することは操縦者を殺(・)害(・)することもあるということ。リミッターを外し本来の性能を取り戻したISは、それ一機だけで一国を殲滅することも可能なのだ。

 

 

「出力は抑えておけよ、まとめて撃ち落すのは楽だがそれだと後が困るからな」

 

「分かってる、装備類に一切の損傷を与えることなく機体を強奪せよ。簡単に言ってくれるけど、結構それって難しいんだよな」

 

「その程度の事が出来ないで、何が復讐だ。男を見せろよ、ゴースト」

 

 

そう言ってエム------織斑マドカ------は機体を一気に加速させ上昇していった。サイレント・ゼフィルスの運用試験を観察している艦隊を上空から叩くためだ。それに続くべく、ゴーストも新たな愛機【ダークバレット】の背部ブースターを更に噴かして機体を加速させる。

 

 

イゾルデ社の手によって伊弉諾は翼を外され、それを転用して造った追加装甲を胴体手足に装着、更に頭部を新型のハイパーセンサーに切り替えられその外装を大きく変化させた。浦城京介が生きているということを篠ノ之束達に気付かれない様にする為だ。本来姿勢制御ユニットと盾の役目も兼ねていた翼を外したことで伊弉諾の防御力は落ちてしまい、更に各部に追加装甲を装着することによって約三割の機動性が失われた。それを補うべく手足の追加装甲にはスラスター、背部には大型のブースターを二基追加し無理矢理機動力を底上げしたのだ。防御力も、結果的には部分的にだが上がっている。

 

 

(装備も腰で撃っていたのが手持ちに変わっただけだ。対ビット訓練はやったし、後は成る様になる)

 

 

レーダー上に目標を捉えると、ダークバレットの眼が妖しく光るのだった。

 

 

 

 

 

 

『全攻撃目標の破壊を確認、一分間のインターバルを置いた後シールド・ビットの稼動試験に移行します』

 

「了解。多分次の試験でエネルギーが足りなくなるから予備のパックを用意しておいてね」

 

『了解』

 

 

大西洋上にポツリと浮かんでいる青い機体。BT二号機【サイレント・ゼフィルス】、BT一号機である【ブルー・ティアーズ】の稼動データを元に開発されたイギリスの新型機だ。シールド・ビットと呼ばれる攻防一体型のレーザー兵器を試験的に搭載しており、更に本来BT兵器の高稼働時にのみ可能とされている偏向制御射撃を自由に行うことが出来るようになっている。

 

 

そして現在サイレント・ゼフィルスの操縦者を務めているサラ・アビゲイルは、イギリス国家を代表するIS乗りであった。彼女は第二回モンド・グロッソでは日本の織斑千冬、イタリアのフェデリーカ・ジャンネッリに続いて第三位となる程の実力者である。第二世代型IS【アイアン・メイデン】を駆り遠距離戦を得意とする彼女であっても、ビットという兵器は未知のものであった。

 

 

「操縦者の思考を読み取ったコアが端末(ビット)に指令を飛ばし動かす、射撃のタイミングもまた然り。……セシリアもよくこんなヘンテコ装備を使いこなせるわね、流石だわ」

 

 

ブツブツと文句を言いながらも搭載されているシールド・ビット全六基へのエネルギー充電を行い、サラは空中でグッと身体を伸ばした。国家代表も忙しいもので、それに加え最近は友人が相次いで結婚したり両親が見合い話を持ってきたりと個人的にもサラは疲れていた。国の顔として行動する分勿論サラ自身も英国人らしく気品に満ちた美しい容姿をしているのだが、現在その顔は疲労によりあまり美人とは言えない程までになってしまっている。

 

 

「学園のトーナメントに出れなくなったって聞いた時はどうしたものかと思ったけど、帰って来た時は案外元気そうだったなぁ。けど恋人が亡くなって落ち込んでる友人をどうすれば慰められるかなんてあの子も漸く------」

 

 

半ば自棄気味に言葉を紡いでいたサラだったが、不自然に言葉を切るとすぐに目の前にウィンドウを展開した。そこにはデジタル式で現在の時刻が書かれている。

 

 

(もう一分間のインターバルはとっくに過ぎてる。もう次の攻撃目標と指示が来てなきゃおかしい頃よ。レーダーに船の反応は------無い!?)

 

 

刹那、遠方より飛来したビームが青い装甲に直撃し表面が焼け焦げると、サラはすぐに機体を反転させてその手に【スターブレイカー】と呼ばれる実弾とレーザーを切り替えて発射出来るライフルを呼び出した。切っていたシールドバリアーを展開し直し、ハイパーセンサーを使い即座に周囲の情報を視界に表示する。

 

 

(敵の反応は無し!? コア・ネットワークから切断して独立してるって訳かしら……何処の国か組織か知らないけど、面倒な時を狙ってきてくれたわね……)

 

 

再び何処かから飛来する熱源反応を機体が捉え、サラは背部非固定浮遊部位に固定されていたシールド・ビットを一斉に展開した。先端の砲門が開き、傘の形をしたエネルギーが放出される。そのエネルギー・アンブレラの防御壁に複数のビームが直撃すると、シールド・ビットの一つが吹き飛ばされた。

 

 

「さっきより威力が上がっている!? まさか、リミッターを------」

 

 

展開したビットを防御モードから攻撃モードへと切替えると、サラは辺り一面に乱射し始めた。内蔵されている小型レーザー・ガトリングによる弾幕が撒き散らされ、瞬く間にビットのエネルギーが減っていく。だが謎のビームは弾幕を縫うように、ビット一つひとつを正確に撃ち抜いて吹き飛ばしていった。吹き飛ばされたビットは自動で体勢を立て直し元の位置へと戻り、エネルギーを充電し始める。

 

 

「射撃位置が特定出来ないだなんて、そんなふざけた話がぁっ!」

 

 

残っているビットを戻し、サラはスターブレイカー片手にレーダーの範囲を広げた。放たれたビームが殆ど威力が減衰することなく着弾するということは、相手の距離は常に動き続けているとしても------。

 

 

「そこかっ!」

 

 

再び飛来したビームを上体を反らしてギリギリで躱すと、サラは一発の実弾を放った。放たれた弾丸は虚空を抉り、そして空(・)間(・)を(・)歪(・)め(・)た(・)。その部分だけまるでモザイクのように景色が歪んでいき、青空を背景に黒いISがその姿を現す。両手に大型の荷電粒子砲のようなものを持ったその黒いISを前に、サラは少しばかり気圧されてしまった。全身から発せられるその威圧感に、今まで国家代表として培ってきたあらゆる経験がサラに警鐘を鳴らす。奴は危険だと、唯の敵ではないと。

 

 

「……っ、そこのIS! 何者だ!」

 

 

サラは声を荒げるも、黒いISからの返答は無かった。当然だと胸の内で唾棄すると、ぞわっと背筋が凍るような感覚が奔る。何故かサラは、その黒いISが笑ったように感じた。スッと上げられた二本の腕に、自分を狙う二つの銃口。

 

 

――――――来る。

 

 

刹那、マシンガンの如く放たれるビームの嵐がサラに向けて放たれた。サラは機体を反転させ上空へと逃れると、黒いISもその後を追うように海上を背にして再びビームの嵐を撃ち出す。カチリ、とスイッチを押したような音がサラの耳朶を打つと、黒いISから放たれていた細かなビームが増大した。

 

 

「単射と連射の切替えを……エネルギー切れが怖くない? いや、予備のパックでも持っているの!?」

 

 

一基のシールド・ビットを展開しビームを防ぐと、一瞬の隙を突かれたサラの面前に黒いISの顔が肉薄した。バイザー型のカメラアイが妖しく光り、すぐに視界から消えていく。たった一瞬の出来事だったが、サラにはそれがとても長く、ゆっくりに感じられた。

 

 

「馬鹿にして……っ、何、これ!?」

 

 

すれ違った瞬間、黒いISは確実にサラを攻撃することが出来た。だが敵はそうせずに、ただ己の顔を彼女に晒しただけ。止めは何時でも刺せる、そう侮辱されたのだと彼女が判断すると同時に、彼女は自機にワイヤーのようなものが絡まっていたことに気付く。先端が蟹の鋏のような形をしたクローが装甲に突き刺さっており、軽く引いただけでは抜けないようになっている。それが肩や腕に計四つ刺さっていて、サラはすぐにワイヤーの伸びる先を眼で追った。四本のワイヤーが黒いISの両腕と両肩から伸びており、黒いISは手にしていた荷電粒子砲を何故か腰に戻している。即座にスターブレイカーを構えたサラだったが、トリガーを引く前に、その耳朶を若い男の声が打った。

 

 

「貴様の御蔭で良い練習が出来たよ、ありがとう」

 

「練習……? いや、それよりもっ! 貴様男か! 男が何故ISに乗れている!?」

 

「知らなくても良いだろう。貴様がここで慣れようとしていた新型機、有り難く頂いていく」

 

「何を------」

 

 

サラの目の前で、装甲に突き刺さっていたクローから棒のような物が飛び出してくる。一つのクローから四つの棒、計十六本の棒がサラの視界に映った。その棒が突如バチバチとスパークし始め、そして――――――。

 

 

「ああああああああっ!!??」

 

 

頭の中が真っ白になり、目の裏がチカチカする。全身の筋肉が伸び切って硬直し、ガクガクとサラの身体が痙攣し始める。ダラリと垂れた手からスターブレイカーが落ちていき粒子と消えると、一瞬遅れて粒子と化したサイレント・ゼフィルスから開放されたサラの身体は海へと真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

夕焼けが海原を照らす中、大西洋上を航行していたヴァリアントの甲板に二機のISが降り立った。片やシルバーと黒で塗装されたシャグラン・アヴェルス、もう片方は全身をカーボンブラック一色に染め上げられたダークバレット。シャグラン・アヴェルスは小脇に気絶したISスーツ姿の女性を抱えており、甲板に下ろされた彼女はすぐに女性船員達によって紐で縛られ拘束された。シルバーと黒のISは彼女を一瞥すると、甲板に出てきた船員達に向かって指示を飛ばした。

 

 

「サラ・アビゲイルだ、イギリスの国家代表。目が覚めると面倒だ、すぐに対応しろ」

 

 

「了解!」

 

 

シャグラン・アヴェルスの頭部装甲が解除されると、やや汗ばんだ髪を鬱陶しそうにするマドカの顔が外気に晒された。彼女はすぐにISを量子化すると、リストバンド型をした待機状態の愛機を仲間の一人へ投げ渡す。入れ替わりに差し出されたダウンジャケットを羽織ると、マドカはその黒髪を掻き上げる。その隣でダークバレットの装甲もまた黒い粒子と化し、耐Gスーツのように全身を包むタイプのISスーツを身に纏う少年が甲板に降り立った。

 

 

「整備は良いよ、陸に上がれば嫌でもイゾルデがやって来るから」

 

 

待機状態になったダークバレットを受け取りにきた仲間を手で制しながら、ゴーストはマドカと並んで甲板を進み、管制室へと繋がる船内エレベーターへと乗り込んだ。ゴーストの左手には、青い菱形をした親指程のクリスタルが握られている。それを親指と人差し指で弄りながら、ゴーストはそれを一度空中へ軽く放り投げてキャッチした。同時にエレベーターが到着し、二人は管制室へと足を踏み入れる。

 

 

「お疲れ様、上手くいったかしら?」

 

 

入るなり声を掛けてきたスコールにゴーストは笑ってみせ、壁に寄り掛かると手に持っていたクリスタルをスコールに投げ渡した。ブロンドの美女はそれを受け取ると、すぐに懐から取り出した小型端末を取り出してクリスタルにコードを繋ぐ。数回端末の画面をタッチし、スコールはコードをクリスタルから引き抜いた。

 

 

「コア・ネットワークからの切断完了……。ふふっ、ミッション完了ね」

 

「試験隊の方は死傷者はゼロだ。少なくとも船が沈むまでの間はな」

 

「了解よ、エム。ゴーストはどうだったかしら?」

 

「機体自体に問題は無い。反応も良いしワイヤーもちゃんと作動した」

 

「そう。戻ったらまた調整を行うから、帰るまでに報告書を纏めておいてね」

 

「分かった」

 

 

スコールはそう言ってクリスタルを懐に仕舞いこむと、右耳につけた黄金のイヤリングに指を当てて小声で喋りだした。ドイツにいるイゾルデに連絡を取っているのだ。その様子を暫く眺めた後、ゴーストは着替えてくると行ってエレベーターでロッカールームのある階へと降りた。すれ違う船員達から称賛を浴びながら、ゴーストはローカールームへと入り自分の僅かな私物が纏められたロッカーの扉を開いた。中からバスタオルを取り出して部屋の隅にあるシャワールームへと入り、仕切り板を手で押して狭く湿った空間に入り込む。

 

 

「……ふぅ」

 

 

左手のダークバレットの右手で触れると、ゴーストが着ていたISスーツが粒子と消えて一糸纏わぬ姿へと変わる。壁に掛けられたシャワーより少し上に設置された小物入れに待機状態のISを収め、ゴーストは蛇口を捻ってシャワーを浴び始めた。足元を流れ排水溝へと消えていく水は、何故か薄い赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

同じ頃、日本のとある田舎町。その町はかつて観光地として賑わっていた場所だったが今では見る影もなく、住人も数えられる程しかいない。寂れた商店街に学校、草木の生い茂った空き地で埋もれた町には、一つだけ不釣合いな場所があった。町外れにある大きな灰色の建物、かつてあるIS企業が使っていた工場である。現在その企業は別企業に買収されてしまい機能しておらず。だが住んでいる人はいるようで、裏の広大な敷地には畑が広がっていた。

 

 

その畑の中を、一人の少年が歩いていた。ボロボロの台車を押していて、その上にはスイカと水の入った桶が載っている。高校生くらいの見た目ながら農作業で鍛えられたのであろう良い体付きをしていた少年は、口笛を吹きながら工場に向かっていた。そんな少年の目に、不思議なものが映り込む。

 

 

「何だ……あれ」

 

 

工場の傍にある大きな山に、キラキラと輝く何かが墜ちていっている。隕石だろうかと少年が思っていると、輝く何かは山へと消えた。遠く離れた場所からでも分かる程舞い上がった土煙に、少年は興奮して押していた台車をそのままに山へ向けて駆け出した。

 

 

「あれってもしかして隕石かな!? そしたらスッゲェぞ、またこの町が有名になる! さっさと見つけて爺ちゃんに教えねえと!」

 

 

無邪気な笑みを浮かべた少年は慣れた足取りで山を登って行き、時間を掛ける事無く何かが墜ちて行った場所へと到着した。案の定その部分では大きなクレーターのようなものが出来ていて、白い煙がその窪みの底から湧き上がっている。墜ちた物の正体はまだ見えず、少年は警戒もそこそこに窪みへと近づいた。

 

 

「っし……と、けどこんだけ凄い煙が上がっといて大きい音一つしないなんて変な……の?」

 

 

窪みの縁に手を掛けて少年が身体を持ち上げると、その目に飛び込んできたのは隕石のような鉱物では無かった。所々黒く焦げているも僅かに藍色と分かる装甲、内部構造はむき出しになりバチバチと火花が散っている。仰向けの上体で倒れているその大きな巨体を前に、少年は呆然としていた。何故こんなものがこんな所に墜ちてくるのだろうかと、大きな疑問が膨らむ。

 

 

「I……Sだよな、これって……人が乗っている?」

 

 

恐る恐るその装甲へと手を伸ばそうとした少年の前で、突如その焼け焦げた藍色の装甲をしたISが粒子と消えていった。藍色の粒子は渦を描き、そして霧散する。残されたのは呆然とする少年と、窪みの中に横たわる血だらけの少年だけだった。

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