※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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死人の生者

 

九月二十七日、夜。

 

 

織斑一夏は自らの誕生日パーティーを抜け出して飲料の買出しに来ていた。日中行われた亡国機業との戦いの所為で政府から長時間尋問されていたが開放され、お開きになるどころか皆その鬱憤を晴らすかのように彼の誕生日パーティーを決行したのだ。本来なら一夏は主役の為買出しに出るような立場ではないのだが、戦闘時に役に立てなかった罪悪感と、それを誤魔化す為に気分転換がしたいという建前を使って外に出ている。

 

 

「えーと……鈴がウーロン茶で、セシリアが紅茶、あと箒が普通のお茶で------」

 

 

わざと口に出しながらボタンを押していき、十本程購入したところで一夏は缶を抱えたまま家へ戻ろうと自販機から離れた。すると自販機の近くに人の気配があり、一夏は時間を掛けすぎたかな等と考えながら反射的にその方向へと視線を動かす。そしてプシュッという空気の抜ける音と共に、腕の中にあった炭酸飲料の缶が破裂した。冷たい液体が服と肌を濡らし、思わず開かれた腕から零れた缶が地面に向かって落下していく。

 

 

プシュッ、プシュプシュッ! と再び同じ音が連続で響き、地面に落ちる前に全ての缶が破(・)裂(・)した。全身をびしょ濡れにされながらも一夏が感じたのは恐怖であり、それは聞こえてきた音が消音機を装着した拳銃のものだということが分かったからであった。

 

 

「当てないように撃つってーのも、案外難しいもんだな。……今すぐ手前の脳天をぶち抜きだくて仕方ねえ」

 

 

「お前は!」

 

 

自販機の明かりの届かないギリギリの距離に、消音機の付いた黒い拳銃が二つ見える。その影から出て来たのは、両手に拳銃を構え黒い服装をした男だった。その顔はまだ影に隠れていて、見えない。

 

 

「今日は世話になったな、織斑一夏。本当、世話になった」

 

「やっぱり、亡国機業の……」

 

「そうなんだが……ちょっと口を閉じといてくれるかい? お前の声を聞いてると苛々してしょうがないんだ」

 

 

男は右手に持った拳銃を脇のホルスターに収めると、左手に持つ拳銃をズイと突き出した。その銃口は一夏の眉間を狙っていて、一夏は被った飲料水で身体がべたついてくるのを感じながらその銃口を見つめている。

 

 

「そうビビるなよ、俺だ(・)け(・)が悪い事してるみたいじゃないか。なあ一夏、何時もの的外れな発言は聞けないのか?」

 

 

「っ……何なんだよ、お前。あの黒いISに乗っているのもお前なんだろう!? 誰なんだよお前、何でお前もISに乗れるんだ!?」

 

 

プシュッという音と共に一夏は顔を仰け反らせ、呆然としたまま右手で自分の頬に触れた。そこは生暖かく、離してみると指には血が付着していた。放たれた弾丸が頬を掠ったのだ。

 

 

「だから喋んなって言ってんだろうが、お前。殺すぞ」

 

 

「っ」

 

 

威圧感のある低い声が耳朶を打ち、一夏は唾を飲み下した。目の前で上下に揺れている銃口を見つめたまま、何か対抗策はないかと必死に頭を働かせる。だがその思考を停止させたのは、喋りながら前に出て来た男の顔だった。

 

 

「丸腰のクズが勝てると思ってんのかよ……。本当、これ程暗殺に向いてる標的もいねえな」

 

 

「京……介?」

 

 

暗闇から現れた謎の襲撃者、その顔は死んだはずの浦城京介と瓜二つで、一夏の脳は混乱の極みに達した。死んだはずの人間が生きていて、それが敵として現れ、拳銃で自分を撃ってきた。そんな馬鹿なことがあるかと頭を振る一夏の前で、京介は口の端を歪めながら再び拳銃の引き金を引いた。プシュッという音と共に一夏の足元のアスファルトが弾け、バランスを崩した一夏はそのまま無様に尻餅をつく。だが一夏は信じられないといった表情で、そのまま京介に向けて言葉を投げ掛けた。

 

 

「お前、京介、どうして亡国機業なんかに! どうしてお前がこんな人殺しなんか!」

 

「お前がそれを言うのか? マリーダを殺したお前がッ!」

 

「殺……あっ……そんな……」

 

 

マリーダ、殺した。その二つの言葉がアリーナでシルバーと黒のISを突き刺した光景と感触を蘇らせる。やはり殺してしまったのだと、一夏は自らの犯した罪を直視させられてしまい口をパクパクと動かした。そんな腑抜けた表情の一夏を、京介は憎悪を剥き出しにした顔で睨みつけている。

 

 

「あれは……その……」

 

「どんな理由があれど人殺しは人殺しだ。そして俺にはその咎を受ける覚悟がある、だがお前はどうだ? お前はマリーダを殺した、そしてお前の姉と篠ノ之束は俺の姉さんを殺し俺の居場所すら奪った! 俺の愛する人を奪ったお前も十分に、咎を受ける義務があるんだよ一夏」

 

「千冬姉と……束さんが? そんな馬鹿な! お前の姉さんは事故で------」

 

「その事故を引き起こしたのがその二人なんだよ! アイツは、織斑千冬は俺に全て話してくれたぜ。あの日、学園の保健室が焼けた時になぁ! アイツは俺の腹にナイフを突き刺し、首を切り裂いて嗤ったのさ!」

 

「嘘だ!」

 

「嘘じゃねえ!」

 

 

突然語られた肉親の悪行に反発し立ち上がろうとした一夏だったが、京介が主導権はこちらにあると見せ付けた銃口に思いとどまり渋々しゃがみ込むしかなかった。千冬姉が、自分のたった一人の家族が友人の家族を殺害し、そしてその友人すらも殺そうとした。そんな事は到底受け入れられるものではなく、一夏は思わずズボンのポケットから僅かに濡れた携帯電話を取り出した。姉に連絡を取る為だ。通じたところで何から聞くかすら整理出来ていない状況だったが、その状況を整理する時間は皮肉にも京介によって携帯を撃ち抜かれることで生み出された。

 

 

「アイツらに直接聞こうとしても無駄だぜ、どうせ上手いこと言ってはぐらかされるのがオチだ。手前はアイツらにとって命より大切なモンらしいからな」

 

「そんな……。っ、けどそれで、お前は一体どうするつもりなんだ!」

 

「奴らは俺から全てを奪った、一夏、手前もだ。だから俺は俺が奪われたものを手前らからも奪い取ってやる。大切な人も、居場所も、思い出も、全てだ」

 

「そうやって……けどそれじゃ、お前の言うことが本当だとしても何の意味も------」

 

「意味ならば有る! 手前ら全員を地獄の底に叩き落し、俺は高らかに笑い蔑む。そして手前らは俺を見上げ、その手を伸ばし無様に助けを請う。それに向かって、俺は唾を吐き掛けながらこう答えるのさ。断るとな!」

 

 

高らかに宣言された言葉に絶望し、変わってしまった友人を受け止めきれなくなった一夏は答えが分かっていながらも聞かずにはいられなかった。創作の世界でも御馴染みの言葉を。

 

 

「俺も、殺すのか……?」

 

 

「当然だ当たり前だ決まっている! 手前も俺と同じ弟だ、姉を殺し居場所を奪い思い出も全て消してから葬ってやる。勝てると思うか、お前が俺に。俺には強くなる目的も、手段もある。だが貴様には何も無い! 強くなる理由も、道理も何もかも。何も守れないさ、お前には。成す術も無く全てを奪われて行くのをただ立ち尽くして見ているが良いさ!」

 

 

完全に下に見られているその侮辱とも取れる言葉に、一夏は彼を完全に敵とみなすことを決めた。彼が自分の大切なものに手を掛けようとしているのなら、そこにどれ程の理由があろうが止めなくてはならない。自分が、守ってやらなくてはならない。

 

 

「ッ、ふざけるなよ! そんなことさせてたまるか、みんなは俺が守ってみせる!」

 

「どうやって?」

 

「お前を倒す!」

 

「倒せるのか?」

 

「倒してみせる!」

 

「なら来いよ、ここで俺を倒さなきゃ止められないぜ」

 

 

京介の言葉を聞きながら駆け出そうとした一夏だったが、それよりも早くゴーストがその足元に銃弾を撃ち込んでいた。続けて銃弾が放たれ、薬莢がコロコロと転がり排水溝へと落ちて行く。強制的に距離を取らされた一夏の前で、京介は弾切れになった拳銃のマガジンを交換した。余裕綽々といったその様子から、一夏は彼が相当な訓練を受けているのだと判断した。拳銃の扱いなんて、代表候補生でもない限り学園でも習わないからだ。

 

 

「っ……」

 

「ほら、来いよ。何の為にISを持ってるんだお前は? まあお前が白式を展開し切るまでに、手前の脳天に風穴を開けるくらいは訳無いんだがな俺は」

 

「そんなこと……」

 

「卑怯とは言うなよ、熟練者は瞬きする間にISを展開出来るんだろう? それが出来ないお前が悪い」

 

「くっ……」

 

「それにお前、さっきみんなを守ってみせるとか言っていたが……守られたことしかない者が誰をどうやって守るって言うんだ? まさかそのみんなに、俺が入っている訳じゃないだろう」

 

「当たり前だ! 千冬姉を、束さんを殺そうとしている奴を、何で!」

 

「事実確認の前に断定か。まあそれは良い。なら、お前の後ろにいる奴は守ってやるんだろうな」

 

「え------」

 

 

突然示された方向に一夏が振り向くと同時に、その後頭部に拳銃の底が叩きつけられた。鈍い音が響き一夏の身体が膝から崩れ落ちると、完全に倒れきる前に京介とは別の人間がその身体を蹴り飛ばした。気絶した一夏の身体は道路の真ん中に倒れ、それを見下ろしていたマドカは再び足を振り上げてその背中を思い切り踏みつけた。何度も何度も踏みつけるマドカに京介は近づき、その肩に手を置いた。

 

 

「こ、こいつが、こいつがマリーダを殺したんだ! こいつが殺したんだぞゴースト! 殺そう、ここで殺してしまおう!」

 

「ダメだ、マドカ。ただ殺すだけじゃダメなんだよ。まず姉さんの仇を殺す。そうして一夏からも俺達が奪われたものを奪っていかないと、奪われる苦しみを知らないままあの世に送るのは生易しい」

 

「っ……ああ!」

 

 

京介の言葉を聞いたマドカはやりようの無い怒りを覚えつつ、止めと言わんばかりに一夏の腹部を横から蹴りつけた。そのまま京介に縋るように抱きつき、京介もまた僅かに震えている少女の背中を支えてやる。そしてそのギラついた左目が闇の向こうを貫くと、京介達とは反対方向から銀色の長髪を揺らしながらラウラ・ボーデヴィッヒがやって来た。その表情はやはり困惑に満ちているも、さっきまでのやり取りを影から見ていたのか取り乱す様子は無かった。

 

 

「本当に、お前は京介なのだな……?」

 

「疑う余地はあんのか? お前が学園にやってきた時の話をここでしても良いぜ」

 

「っ、いや大丈夫だ。それには及ばない」

 

 

やってきたラウラは倒れている一夏を前にしても、すぐに駆け寄るようなことはしなかった。目の前にいる二人を警戒してのことだろうが、京介とマドカにとって独断による宣戦布告を果たした今、彼の存在価値は消滅していた。

 

 

「……亡国機業は立派なテロ組織だ。その一員として行動しているのなら、私はお前を捕まえなければならない。京介、今ならまだ間に合うはずだ」

 

「何に間に合うって言うんだ? ここでお前に掴まり警察に引き渡されれば殺された姉さんは生き返り、俺の学籍は復活し、マリーダの亡骸が目を覚ますっていうのか? 冗談も程々にしろよ遺伝子強化巣体(アドヴァンスド)」

 

「だが私は、目の前で友人が道を踏み外しているのを黙って見過ごす訳にはいかないのだ!」

 

「だったら!」

 

 

京介の怒声にラウラがバッと身構えると、マドカが京介のホルスターから引き抜いた拳銃を彼女に向けた。その手を京介は下ろさせると、倒れている一夏を一瞥してからゆっくりと口を開いた。囁くように、忠告するように、哀れむように。

 

 

「だったら、お前の大好きな教官とやらの動向を逐一監視しておくんだな。事が始まってからじゃ遅いぜ? ……あばよラウラ、他の連中に俺の事を話すのは勝手だが……もし俺が生きていることを知ったら、あの鬼教官はどんな顔をするのかな? ------ブッ」

 

 

芝居染みた言い回しの後、ゴーストは倒れている一夏目掛けて唾を吐きかけた。ラウラがその行為に気を取られた一瞬の隙を突き、まるで風のように京介とマドカの姿は見えなくなっていた。

 

 

「教官が? 一体教官が何をしようとしていると言うのだ、京介……。それにお前が生きているのなら、箒は……」

 

 

ラウラの口から零れた言葉は虚空へと消え去っていき、後には全ての元凶の片割れが苦しそうに呻く声だけが残されていた。

 

 

 

 

 

隠れ家に戻ったゴーストとマドカを出迎えたのは、珍しく怒りの表情を浮かべたスコールだった。その隣には、こちらも珍しく沈痛な面持ちのオータムがいる。

 

 

「……勝手な行動は許されないわよ、貴方達」

 

「今回は許せ。マリーダは」

 

「奥に」

 

 

ゴーストとマドカはスコールの横を通り過ぎると、マリーダの使っていた部屋に入った。そこは今朝まで彼女が使っていた私物が置いたままにしてあり、そして彼女のベッドには目を閉じ手を身体の上で組まされた状態のマリーダ本人が横たわっていた。その身体を汚していた血は、綺麗に拭き取られている。マドカはゴーストの背中を軽く押し出すと、背を向けて手を当てた。彼女との別れを先に譲られたゴーストは彼女の冷たくなった頬に手の甲を当て、撫でるように髪を梳いた。

 

 

「綺麗だよ、マリーダ。本当、綺麗だ。俺はまだそっちには行けないから、寂しいかもしれないけどもう少しだけ待っていてくれ。俺は地獄に行くだろうけど、それでも墜ちるその前に一瞬だけでもお前に会いに行くよ」

 

 

もう答えることの無い恋人と最後のキスを交して、ゴーストはマドカを残して部屋を出た。そしてリビングに居たスコールとオータムを前に、彼は全てを捨て去る決意を明かした。

 

 

「ス(・)コ(・)ー(・)ル(・)、イゾルデと連絡を取ってくれ。話したいことがある」

 

「え……、ええ、分かったわ。それで、これから貴方はどうするの?」

 

「どうする? そんなの、決まっている」

 

 

ゴーストは窓際まで歩くと、そこから見える夜景を眺めながら口を開いた。そのガラスには怒りも悲しみも悔しさも何もかもを超越した、純粋足る復讐の鬼と化した少年の顔が映っている。

 

 

「俺は俺の大切なものを全て奪った連中を殺す。奴らが当然だと思っている世界を破壊し尽くし、絶望させ、俺の手でその命を刈り取ってやる。奴らだけじゃない、俺の進む道の邪魔になる奴らも皆殺しだ。過去も未来も必要ない、俺に必要なのはあらゆる事を可能にする圧倒的な力だけだ!」

 

 

少女の絶叫が響く中、今度こそ浦城京介という人間は音を立てて崩れ落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

同じ頃、もう一人の浦城京介もまた自らの存在を変えようとしていた。

 

 

協力を要請した敷島博士の力により、彼は三つのISを手に入れた。元々敷島博士が伊弉諾の簡易量産型として計画していた三種類のISを、なるべく伊弉諾のスペックに近づけて造った完全戦闘用だ。研究所地下にある広大はスペースに並ぶその三機を前に、もう一人の京介は敷島と共に並んで立っていた。その隣には墜落した京介を助け出した敷島の養子一文字真(しん)と、同じく養子である少女・ミリィも並んでいる。

 

 

「問題じゃったコアはお前さんが持ってきたISとその装備に使われていたもので何とかなった。全く老体をこき使いおって……」

 

「んなこと言って、結局爺ちゃんも楽しそうだったじゃねーか」

 

「うるさい。……しかし、本当にお前さん一人で戦う気か? 仲間もおらずたった一人で三機のISを使い回して戦うなどと」

 

 

三機のISを一つずつ手で触れて行く京介に敷島が問うと、彼は背を向けたまま答えた。

 

 

「誰かが戦わないと世界は終わってしまう。だったら全てを知ってる俺が戦うしかないんです、それが奴らの尖兵として生み出された俺の責任だから」

 

「責任、か。便利な言葉じゃなぁ……、ならばもう少し詳しい話を聞いておこうかの。お前は何故ISを扱える男について、何を知っている?」

 

「……と、言いますと?」

 

 

怪訝そうな顔をして振り向いた京介に、敷島は歪な笑みを浮かべながら真の肩を叩いた。その時の真の表情が険しいものだった為、京介はまさかと驚愕する。

 

 

「戦わせると言うのですか!? 貴方の大事な孫を!」

 

「勘違いするでない。わしが言い出したのではないでの。……じゃがその言い方から察するに、あるようじゃな。ISを扱える男の秘密が」

 

「……ええ、ですが織斑一夏とそれ以外……といってもオリジナルの浦城京介と自分しかいませんが、この二人には微妙な違いがあります」

 

 

敷島はミリィにテーブルと椅子を持ってこさせると、そこに全員を座らせた。そしてその場で、もう一人の京介に説明させるのだった。

 

 

「まず、織斑一夏がISを扱えるのは完全に篠ノ之束による贔屓です。彼が使用している白式のコアは、織斑一夏が特別なのではなく、コア自体が男女問わず作動させることが出来るものです。それでも今は彼以外に使えないようになっているでしょうが……」

 

「それでもう一つの方は?」

 

「はい、そっちが本題です。ISのコアはあるナノマシンに反応するように造られています。そのナノマシンが稼動するのが女性遺伝子を認識した場合のみで、男性にそのナノマシンを注入しても稼動しません。これが女性だけがISを使用出来る理由です、勿論どの国も散々調べつくしたでしょうけど、篠ノ之束の方が遥か上を行っている所為で見つけることは出来なかったでしょう。そしてこのナノマシンは通常初めてISと触れた時に自動で体内に注入されます、そしてオリジナルの浦城京介はISのテストパイロットだった姉の心臓を移植されていました。勿論その心臓には稼動状態のナノマシンが含まれていて、彼が初めてISに触れたときに注入されたナノマシンが稼動状態のナノマシンによって誤作動を起こし稼動状態になったんです」

 

「それが理由か。それで、クローンであるお前さんがISを扱えるのはどういう理由じゃ?」

 

「はい、こちらも簡単な話です。ナノマシンの設定を変え、女性男性問わず稼動するようにしたものを注入しただけですから。俺の血か体組織を調べてもらえれば、恐らく発見出来るはずです。それさえ身体に入れておけば通常のISも誤作動を起して起動させることは可能です」

 

 

京介の説明を受けて納得した様子の敷島の隣で、真が「それを使えば俺も……」と呟いたのを京介は聞き逃さなかった。彼もまた、戦うつもりなのだ。

 

 

「けど真、君が戦う必要なんてないぞ。助けてもらったことには感謝してるけど、それで君まで危険を冒す必要なんてないんだ」

 

「けどどっちみちよ、篠ノ之束がヤバイことを仕出かすんだろ? だったら俺だって家族を守りたいんだ、後に戦うにしろ先に戦うにしろな。それなら俺だって……」

 

「兄ちゃん……」

 

 

隣に座る妹分ミリィの頭を撫で、真は真剣な表情で京介を見つめた。敷島は何も言わず、真のしたいようにさせるという雰囲気だった。京介は悩んだ。協力を要請したのは自分からだったが、だからと言って共に戦わせるのもどうなのかと。例えそれが、本人の希望であっても。

 

 

だから京介が選んだのは、考える時間を作ることだった。

 

 

「どちらにしろあの三機にはまだ調整が必要ですから、それまでじっくり考えましょう。真が本当に戦って誰かを守りたいのなら、俺は君を鍛えなくてはならないから」

 

 

「ああ、宜しく頼む」

 

 

完成した三機のISを一瞥し、京介は一人考える。自分もまた、浦城京介の名を棄てなければならないと。これからの戦いの為に、自分を一人の人間として存在させる為に。

 

 

「クラウ・アガトラム……」

 

 

かつて創造者から聞かされたくだらない神話の羅列。その中から印象に残っていた言葉を繋ぎ合わせ、もう一人の京介は呟いた。何の変哲もない会話から生まれた造語が、彼の運命を決定付ける。

 

 

 

生きながら死人となった少年、生まれながら存在しない少年。二人の少年は同じ道を辿りながらも、その思いは全くの別物だった。

 

 

奪う為に戦う者と、守る為に戦う者。

 

 

両者が合間見えるであろう戦場は、その姿を現し始めていた。

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