インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
キャノンボール・ファストが襲撃されてから一週間程経ったある日、IS学園ではある大きなイベントが行われていた。第三アリーナの観客席には一年生全員が座っており、彼女達はそのアリーナ内で行われているエキシビションマッチに釘付けになっていた。
「せーのっ! どりゃあああああ!!」
赤に黄色い稲妻の模様の入ったISが両手に青龍刀を模した高周波ブレードを持ち、目の前にいる白亜の装甲をしたISに斬り掛かった。その白いISは両腕に装着されている物理シールドで斬撃を防ぐと、物理シールドの裏側にマウントされているガトリング砲の銃口を赤いISに向ける。そして間髪容れずに放たれた弾丸の雨を、赤いISは手首を回転させ青龍刀を盾の様にして弾き飛ばした。一歩間違えば手首ごと吹き飛んでしまうような、高度な技だ。至近距離で大量の弾丸が放たれたというのに二機のISは距離を広げず、斬撃と銃撃の応酬を凄まじい速度で行っている。
やがて上下から振るわれた青龍刀を白いISがシールドで防ぐと、赤いISの膝から粒子が溢れて一本のナイフが射出された。顔目掛けて真っ直ぐに飛んで来たナイフを白いISは軽く首を動かすだけで避けたが、すぐにハッとした様子で顔を仰け反らせた。だがナイフは丁度そのタイミングで破裂し、鋭い破片が白いISの顔に降りかかる。その僅かな隙を突くように、赤いISは右足による前蹴りを繰り出す。その爪先からも、破裂したナイフと同じものが飛び出している。だがそのナイフが白いISの腹部に刺さろうとしたところで、白いISは物理シールドを両腕からパージして後退した。ナイフを伴った蹴りは空振りに終わり、隙だらけになった赤いISに向け白いISは新たに呼び出した散弾銃の銃口を向ける。
「やっば------」
赤いISの操縦者の焦ったような声を遮るように散弾が発射され、赤いISの装甲を傷つける。そして白いISが追撃を掛けようとしたところで、ブザー音がアリーナに鳴り響き二機のISはその動きを止めた。
アリーナの地上に降り立った二機のISはその装甲を粒子と化し、後には二人のISスーツに身を包んだ女性が残された。
「ちぇーっ、折角良いとこ見せようと思ってたのに! サラったら大人気ないの!」
「貴女が子供過ぎるのよ、儷」
黒に金のメッシュを入れたショートヘアに子供のように快活な笑みを浮かべる女性は、頭の後ろで手を組んでブーブーと向かい側に立つ女性に抗議していた。文句を言われていた女性は金髪のロングヘアーをした美女で、彼女はかつて亡国機業にサイレント・ゼフィルスを強奪された時の操縦者を務めていたサラ・アビゲイルだった。
「まあ負けなかったから良いんだけどさー、ああ、早く鈴ちゃんに会いたい!」
「貴女ねぇ、仮にも中国代表なんだからそれらしくしなさいよ」
「仮にもってなにさ、これでも立派に仕事してんのよアタシ!」
黄儷とサラ・アビゲイルは友人同士であり、よく連絡を取り合う仲だ。黄儷がふざけ、サラが呆れながらもツッコミを入れる。このやり取りが定番だった。二人は並んでアリーナを歩き、これからのことについて相談していた。
「で、アタシ達の華麗な戦いっぷりを見せた後はどうするんだっけ?」
「ちゃんと覚えておきなさい。一年生の有望な子供達にIS操縦に関するレクチャーをするんでしょう。それで、その後は専用機持ちの子達の特訓。……全く、ブリュンヒルデがいながら私達代表を呼ぶだなんてIS学園のセキュリティが甘いだけなんじゃないの?」
「あはは。けど、この間の襲撃の相手、サラがやられた相手なんでしょ。だったら千冬一人でどうこう出来るものでもないんじゃない。私達だけじゃなくてフェデーリカにトーニャまで呼んでるってことは、相当だよ。ここにイーリスもいれば第二回モンド・グロッソの上位組が勢揃いだ」
「サイレント・ゼフィルスをちゃんと運用出来ているようだしね……。亡国機業、何を仕出かす気でいるのかしら」
「他の国もかなりの数のコアを奪われているみたいだしね、幸いうちのとこはまだ奪われてないけど……」
「「危険だね」」
二人の会話が一旦途切れたところで、その場に現れた新たな人物に二人の視線が注がれた。その人物は口元を歪めると、やや大げさに頭を下げるのだった。
「イタリア代表フェデーリカ・ジャンネッリ、ブラジル代表トーニャ・マヌエラ、イギリス代表サラ・アビゲイル、中国代表黄儷……。凄い、モンド・グロッソの選手達が勢ぞろいだよ!」
シャルロットが興奮した声を上げると、隣に立っていたラウラも同意するように頷いた。一年生の専用機持ち達の前に立つ四人の女性は何れも、第二回モンド・グロッソで世界中を熱狂させた女傑である。まだ二十台という若さで圧倒的な強さを持つのは織斑千冬と同じではあるが、彼女達は千冬と違い初対面でも親しみ易い雰囲気を伴っていた。だがそんな中でも鈴だけが、異様に脅えていた。その視線は、黄儷に向けられている。逆に黄儷の方は、目を輝かせて鈴を見つめていた。
「鈴さん? 顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」
「え? え、あ、うん。大丈夫大丈夫……はぁ」
明らかに大丈夫ではなさそうな鈴の様子にセシリアが首を傾げていると、千冬が手を叩いて自分に視線を集めさせた。
「よし、全員いるな。既に一部の者は知っていると思うが、件のキャノンボール・ファストの際亡国機業の手によってIS学園がレース用に用意していたIS15機の内8機のコアが盗まれ、教員三名が重傷を負った。そして一年の専用機持ち七人のうちレースに参加していた六名もたった三機のISによって全滅させられた、幸いコアは奪われなかったもののこれは由々しき事態だ。よって私を含めた国家代表五名に特例として、代表候補生と他二名の専用機持ちの技術指導を行う」
「あ、あの、フランスのアナイス・デュラクさんは?」
「我がドイツのヘルガ・オスヴァルト大佐も、来てくださらなかったのですか!?」
国家代表の中に自分の国の代表がいなかったことが気になっていたのか、シャルロットとラウラが千冬に問うた。それに対して千冬が答えようと口を開くと、何故かそれを遮るように黄儷達が口を開いた。
「その二人はさー、千冬と仲が悪いから呼んでも来なかったんだよね。特にアナイスなんかモンド・グロッソで千冬にボッコボコのギッタンギッタンにされちゃったから拗ねて------」
「ちょっと黄!」
「大丈夫だ、安心しろ。貴様ら二人はこのフェデーリカ・ジャンネッリが直々に鍛えてやる」
「ヘルガも、今は忙しいみたいだから。仕方ないよ」
黄、サラ、フェデーリカ、トーニャが順に口を開いていき、最初に言葉を遮られた千冬がここで改めて口を開きなおした。
「デュノア、ボーデヴィッヒ、世界最強の女から教われることなぞそうそう無いんだ。しっかりと学べ。黄は凰を、アビゲイルはオルコットを、ジャンネッリは言った通りで、トーニャは篠ノ之を頼む。織斑は私だ、いいな」
「りょーかい! にゃっはー、鈴ちゃーん!」
言うが早く、黄儷は鈴目掛けて飛び掛かった。素早くその背後に回り、右手を臀部、左手を腹部に回して嘗め回すように手を這わせていく。その時の黄の顔は、まるで如何わしいことを考えている中年男性のような下卑たものだった。
「あっ、ちょ、黄……さん、やめ……あうっ!?」
「おやおや? 相変わらず鈴ちゃんの身体は成長なしかな? うーん、筋肉量は増えてるみたいだけど……よーし、なら久しぶりにこのアタシ直々にマッサージを------はぶっ!」
「この馬鹿娘が。全く……早くそれぞれ割り当てられたアリーナへ向かえ!」
千冬の鉄拳を喰らい涙目の黄儷を引き摺りながら、鈴は隣に並んで歩いていたセシリアに目を向けた。彼女の隣には、頭が痛そうに指を額に当てているサラの姿がある。
「何も言わないでよセシリア。こんなんでもアタシの師匠なんだから……」
「いえ、元々何も言わないつもりでしたけど……。お師匠様ですの?」
「中国に帰って、代表候補生に志願して、何故か気に入られて特訓してもらって今のアタシがあるの。オッサンみたいな変な人だけど……感謝はしてるのよ」
「はぁ……、そうですの」
各々が指示されたアリーナへと向かうのを見送り、千冬は一夏に視線を向けた。一夏はISスーツを身に纏い、そして普段見せる事のない張り詰めたような表情をして彼女を見つめている。まるで心の中で大きな疑問が渦巻いているようだと、千冬は思った。
「どうした、織斑」
「その……、聞きたい事があるんだ。千冬姉」
「織斑先生と……まあ、良い。一体何だ」
腰に手を当て続きを促す千冬を前に、一夏は意を決して口を開いた。自身の誕生日を迎えた夜に、自らの目で見たことを問う為に。
「キャノンボール・ファストがあった日、俺の誕生日の夜……亡国機業の奴らに襲われた。俺は途中で誰かに殴られて気を失ったんだけど、ラウラに助けて貰ったんだ」
「何故それを早く私に言わなかった? 下手をすれば死んでいたぞ、お前は」
「言おうと思ってたよ、けど……その、聞くのが怖くて」
「聞く? 一体何をだ」
やけに緊張した様子の一夏を前に、千冬は首を傾げた。キャノンボール・ファストの日に一夏が亡国機業のメンバーを一人倒したのは確認している。誕生日会には後処理の所為で参加出来なかったが特に大きな問題は無かったと聞いている。なら一夏が自身に聞こうとしているのは何なのかが、千冬には分からなかった。そして一夏の口から放たれた事実が、彼女を酷く狼狽させることになる。
「俺を襲った亡国機業の人間が……京介だったんだ」
「何……? 今何と言った!?」
「京介だったんだよ! 俺に銃を向けて、俺を撃ったのが! あの京介だったんだよ千冬姉!」
「そんな馬鹿な……」
一夏の発言を受け、千冬はあの夏の日を思い出した。病室で彼の腹に果物ナイフを突き刺し、胸と喉を切り裂き、部屋に火まで放った。あの出血量で学園から出られる訳がないし、仮に燃え盛る部屋から脱出出来たとしても廊下に血の跡があるはず。あの日生徒会長が何か匂わせることを言っていたが、奴が脱出を手伝ったとしても亡国機業と関わりがあるとは思えない。
「見間違えではないのか?」
「あれは絶対に京介だった。右目の部分に傷痕があったし……雰囲気が変わってたけど、間違いないよ」
「何ということだ……」
一夏には千冬の言葉は嘘であって欲しいという、京介が生きて敵になっていたことを否定したいものだと聞こえた。だが千冬にとって自らの発言は、嘘であって欲しいというものであっても京介の生存を喜んでいるものではない。
「京介のことについては、ラウラも知ってる。他のみんなには言わないでくれって黙っていてもらってるけど……、千冬姉に聞きたいのは京介が言っていたことなんだ」
「何を……浦城はお前に何を言ったんだ?」
千冬は手に嫌な汗を掻くのを感じながら、一夏の言葉を待つ。事によれば束に計画を早めるよう指示を出さねばならない。それよりも今の千冬にとって一番マズイのは、一夏からの信頼を失うことだった。小さい頃から大人と接する機会の少なかった一夏は、物事の良し悪しの判断がついても何故ダメなのか考えることが少ない。それは千冬が一方的に上からこれはダメだ、と理由を説明せずに躾けた所為もある。極端に言えば人を殺してはダメだと分かってはいても、何故それがダメなのか理由が分からないようなものだ。無論、一夏はそこまで極端な思考をしてはいない。だが幼少から特異な状況におかれることの多かった一夏にとって、他人、しかも大人と接する事の無かった状況は彼の人格形成に小さな歪みを生み出してしまった。だが千冬にとっては、それが
「その……千冬姉と束さんが、京介の姉さんを事故を装って殺して、アイツに大怪我を負わせて殺そうとしたって……。なあ、嘘だよな千冬姉? 千冬姉と束さんがそんなことする訳ないよな!?」
「……当たり前だ。私もアイツも、そこまで落ちぶれてはいない」
「じゃあ何で京介はそんなこと言ったんだ!? アイツは、千冬姉にナイフで刺されて、斬られたって! そう言ったんだぞ!?」
「私はしていないと言っている! 何故私がそんなことをしなければならない!? その理由を考えてみろ、一夏! 仮に私が京介をそんな目に合わせたとして、何の意味もないだろう! ……そもそも世界に二人しかいない貴重な男のIS操縦者だ、その損失は計り知れない」
「じゃあ、じゃあ京介があんな風になっちまったのは誰の所為なんだ!? 亡国機業がアイツを騙してるってことなのか!?」
「……恐らくは、そうだろうな。傷を与え偽の記憶を植え付け、奴をそう仕立て上げた。連中は国際的なテロリストだ、世界で最も危険なな。そういった技術を持っていても不思議ではない」
千冬の言葉を聞いて、一夏は珍しく悪態をついた。その姿を前に、我が弟ながら単純で困ると千冬は心の内で嗤った。相手が不明瞭な組織な分、情報が足りなければ一夏は肉親である自分を信じるに決まっている。証拠の会話や写真等があった場合は流石に苦しいことにあったかもしれないが、会って話しただけなら誤魔化し様はある。後は上手く誘導し、言う事を聞かせれば良い。
「ボーデヴィッヒも奴が生きていたことを知っているのなら、そのまま黙っていてもらおう。他の生徒に広まり、それが何処かから外部に漏れてしまうと大事だ。例え操られていたとしても、浦城にとって正気に戻った時に住み難い世界になっているのは嫌だろう」
「……京介と次に会った時、俺はアイツを倒す。だけど傷つけるんじゃなくて、アイツを元に戻してやるんだ。……そうすれば、箒もきっと」
後半に行くにつれて声が小さくなっていった為によく聞こえなかったが、千冬は笑みを浮かべながら一夏の肩を叩いた。世界でたった一人の弟、その為なら何をしたって良い。邪魔なものは全て消し去り、一夏の為の世界を創る。
(しかし生きていたとはな……浦城の人間は我々の邪魔ばかりしてくれる……)
これからどうするべきかを考えながら、千冬は自らに教えを請う一夏に強く頷いて見せるのだった。
「------目標を確認、ここから十キロ先の海域を航行しています。情報通り、オーストラリアのIS試験隊です。数は三、軍の護衛が付いています」
「良し、カタパルト展開。各パイロットはハンガーに移動するよう伝えろ」
亡国機業有する大型タンカー型空母【ヴァリアント】、かつてスコールの元で運用されていたこの艦は、新たな幹部によって運用されていた。艦橋には艦長であるラシード・アルマジードや操舵士・オペレーターの他にもう一人黒い服装をした少年が椅子に座っている。サングラスを掛けて窓の向こうを眺めていた少年にラシードは振り向き、問うた。
「どうする
「……数は問題じゃない。だが今回は徹底的に叩かせてもらう、艦隊は全て沈めろ。ISの操縦者も殺せ」
「了解。それで、誰が出ます?」
「レッシィ、聞こえるか」
椅子に座る大将と呼ばれた少年------ゴーストは、虚空に向け声を掛けた。彼の持つISのオープン・チャンネルを通して放たれた声に反応するように、艦橋に女の声が響き渡る。
「勿論です、隊長」
「ロザミアとアナスタシアを連れて発進しろ。遠慮はいらん、好きに暴れろ」
「了解、楽しみね」
声が途切れると、ヴァリアントの甲板上に展開された二基の電磁カタパルトにハンガーから上がってきたリフトが接続された。そのリフトには同じ姿をした黒いISが固定されており、二機とも大型の荷電粒子砲とシールドを兼ねたバインダーを両肩に装着している。
「ゴースト隊一番機、バイヴ・カハ、ロザミア・ベイロン。何時でも行けるよ」
「ゴースト隊二番機、バイヴ・カハ、アナスタシア・トルシーア。こっちも行けます」
ダークバレットの高火力・高機動を継いで開発された量産型IS【バイヴ・カハ】、装甲は薄いながらも肩部背部のスラスターを展開することで高速移動が可能な巡航形態へと移行することが出来る。ゴーストの幹部昇格に伴い召集された三人の女性に宛がわれた、第三世代型と第四世代型の間に位置する機体だ。
「ロザミア、アナスタシア、お前達はまず艦隊を攻撃しろ。ある程度攻撃し終えたらレッシィと共にISを攻撃しコアを強奪するんだ、機体そのものと操縦者についての状態は問わん」
「了解了解。それじゃあ、ロザミア、出るよ!」
「続いてアナスタシア、行きます」
窓の向こうで二機のISが凄まじいスピードで飛んで行くのを見送り、ゴーストは新たにカタパルトに接続されたバイヴ・カハを一瞥した。
「レッシィ、頼むぞ」
「ええ、お任せを。ゴースト隊三番機、バイヴ・カハ、レッシィ・アナで行きます」
三機目のバイヴ・カハが射出されて行ったところで、ラシードがゴーストに背を向けたまま口を開いた。
「バイヴ・カハ……死、破壊と戦争の三女神、またの名を戦の烏。それを使役するは幽霊……何とも不思議な話だな」
「良いじゃないか。寂しがった幽霊が仲間を求めて地獄から何も掴めないその手を伸ばし、代わりに三人の女神が地上を荒し地獄に人を流し込んでくれるのさ」
「臭いな」
「知ってる。……少し、
ゴーストはそう言うと、人差し指の腹で右のこめかみを少しだけ撫でる。するとそのサングラスの下、傷痕の走る右目にある眼球が
自身の部下がその圧倒的武力を振り下ろし、炎を生み出して行く光景を目にしながらゴーストは口の端を歪めた。マリーダを殺され一夏とラウラに自らの存在を明かしてから、ゴーストは裏社会に亡国機業を知らしめる顔として動いていた。損害を最小限に、人は出来るだけ殺さず。最初の頃から守ってきていた規律を全て捨て去り、ゴーストは鬼と化していた。邪魔するものは殺し、徹底的に破壊の限りを尽くし、恐怖を与え力を蓄える。それは全て、奪われたものを自らが奪う為。
(篠ノ之束……。お前が表舞台に顔を出した時、その時だ。俺は一夏からお前達を奪う、世界がどうなろうが知ったこっちゃない。必ず殺す)
未だ動く素振りの見せない敵が動くのを心待ちにしつつ、ゴーストは再び右のこめかみに触れるのだった。
「さーて、と。それじゃ情報交換といっちゃいますか?」
夜、とあるホテルの一室に集った国家代表達の中で、黄儷がピッと手を上げた。その場にいたのはIS学園に呼ばれたイタリア、イギリス、中国、ブラジルの代表。皆がみな、ある情報を耳にしていた。
「交換と言っても、殆ど似たようなものでしょう? 黄」
「浦城京介の生存と織斑千冬、篠ノ之束の計画。前者は兎も角、後者は俄かには信じられんがな」
「ドイツの子が映像と音を両方撮ってたから……何かあるのは間違いなさそうだけどね」
サラ、フェデーリカ、トーニャが順に口を開き、彼女達は皆一同にため息をついた。彼女達……というよりまず、フェデーリカがラウラ・ボーデヴィッヒから相談事を持ちかけられた。そしてサラと黄もラウラから話を聞いていたセシリアと鈴から話を持ちかけられた。トーニャは篠ノ之箒の指導に熱を上げていた為に、指導が終わってから黄達の話を聞きラウラが撮っていた映像を見せられている。
「しっかし話の流れから考えると、サラからサイレント・ゼフィルスを奪ったのは死んだはずの浦城京介で間違いなさそうだね。亡国機業所属っていうのと、織斑一夏が殺したっていう女の子の機体も考えると……」
「ここでの問題は誰が何を強奪したかではなく、一体何が我々の知らないところで起きているのかだ。提供された映像だけで全ての判断を下せる訳ではないが、少なくとも異常事態ということだけは確かだ」
「……さっきオーストラリアの試験隊が襲われたっていう情報が回ってきたわ。エミリーが殺された、コアも三つ奪われたそうよ」
トーニャの口から放たれた情報に黄達は頭を抱えた。彼女達一部の国家代表はとある理由から国家間の枠組みを超えたチームを結成している。独自に連絡を取り合い情報を共有し、有事の際に迅速に行動出来るよう備える為だ。オーストラリアの国家代表であったエミリーもまた、彼女達の一員だった。
「亡国機業か」
「ええ、生存者が黒い三機のISを見たそうよ。同型機だったそうから、恐らく亡国機業の量産機……」
「最近は機体を破壊しコアだけ持っていっているようだから、彼らの戦力もかなり充実していると見て良いわね。……それで、エミリーについては?」
サラがやや震えながらトーニャに問うと、黄がその肩に腕を回して背中を擦る。辛そうなサラに答えるのを一瞬躊躇ったトーニャだったが、フェデーリカの目もあり伏し目がちに答えた。
「遺体は回収出来たそうだから、事故死として処理するらしいわ。葬儀については、後日連絡が来る」
「そう……。一体私達は、何と戦うことになるのかしらね」
サラの言葉は静寂を生み出し、虚空へと消えて行く。彼女達は見えない何かが音を立てて忍び寄ってくるのをただ感じるしかなく、そして戦友の悲報を唯聞くことしか出来ないでいる。
「我々の敵は亡国機業か、或いは……。一体何を考えているんだ、ブリュンヒルデ。お前は」
フェデーリカの呟きは誰にも聞こえず、虚空へ消えて行く。疑惑は解消されぬまま強まり、新たな謎ばかりが増えて行く。その全てが明らかになった時一体何が起こるのか。
それは誰にも、分からない。