※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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血塗れの弾丸

 

「------今、何と言った?」

 

「落ち着け、箒」

 

「今何と言ったと聞いている!」

 

 

箒がドンッと強く壁を殴った音に、セシリアは思わず身体を震わせた。場所はラウラとシャルロットの部屋で、そこには箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラが揃っている。箒は憤慨した様子で、目の前に立つラウラを睨みつけていた。

 

 

「私は落ち着けと言っている、箒!」

 

 

「これが落ち着いていられるか! いきなり呼び出されたと思えば、何だ今の映像は!」

 

 

ラウラが箒に見せたのは国家代表達に見せたものと同じ映像、つまり一夏の前に京介が現れた時のものだ。その内容は、箒にとって京介の生存を心から喜べるものではなかった。

 

 

「今見せたものに嘘偽りは無い、あの日あったことを全て撮っている。そして京介は生きていて、今は我々に危害を加える敵となった」

 

「嘘だ! そんなこと、嘘に決まっている!」

 

「だが奴が一夏を、教官を、お前の姉を敵視しているのは確かだ! 何かしらの理由はあるにせよ、我々を襲ったあの黒いISを操っているのは京介なのだ。亡国機業の、テロリストの一員となって」

 

「そんなことって……」

 

 

言葉に詰まりベッドに座り込んだ箒を見下ろす形で、ラウラは口を開く。それはあくまで一軍人として、一人の友人としての言葉だった。

 

 

「認めたくないのは分かるが、次に奴が我々の前に現れた時は嫌でも戦わねばならん。勝てるかどうかは分からないが、それでも倒さねばならない。もしお前が奴を止めることが出来るという自信があるのなら、一度だけチャンスをやる。それが失敗すれば、我々は全力で奴に当たる。いいな」

 

「また襲いに来るというのか? 私達を」

 

「既に学園にあるコアを幾つか盗まれている。奴らの最近の行動からして今度は潜入等せず仕掛けてくるだろう」

 

「何故それが分かる?」

 

「IS学園のセキュリティが奴らにとって意味を成していないことと、教官------織斑千冬が有事の際に行動出来ていないことが一部で露呈している。今更な気もするが……。それに最後に映っていた教官に似た顔の少女も気になる」

 

 

教官としての千冬を知り、憧れていた所為か、ラウラの顔はやや辛そうだった。

 

 

「再来週行われる専用機持ちによる全学年合同タッグマッチトーナメント、キャノンボール・ファストでの襲撃事件を踏まえてのレベルアップが目的とのことですが……」

 

「それを態々外部向けのイベントとして公表するっていうのは、少し変だよね」

 

「内輪でやれば良い話を、態々大々的に発表しようなんて虎の目の前で生肉チラつかせるようなもんじゃない。終わった後にヘロヘロになったところを襲われて終わりよ」

 

 

セシリア、シャルロット、鈴が続けて話し、皆一様にため息をついた。代表候補生としてトーナメントに参加する以外の選択肢は無く、また襲われるかもしれないという可能性に気を張り巡らせねばならない。織斑千冬が、IS学園側が決めたことに意を唱えてもどうにもならないことはその場にいる全員が分かっていた。だが箒だけは、逆に決意を秘めた眼差しをしていた。

 

 

「望むところだ。奴らがもし再び我々を襲撃しようとしているのなら、私は受けて立つ。そして京介を奴らから解放するのだ」

 

「勝てるのか?」

 

「迷いは捨てる。さすれば、勝つ!」

 

 

断言する箒を前に、ラウラ達はため息をついた。だが呆れているのではなく、仕方ないと諦め自分達も戦う覚悟を決めるものだ。襲撃される可能性が有るにしろ無いにしろ、何時か戦う事は避けられない。

 

 

「ならタッグマッチでは各々がやり易い相手と組んだ方が良策だな。私はシャルロットと、セシリアは鈴とが一番良いだろう。箒は……どうする? 一夏と組むのは……その」

 

「分かっている、奴と組む気はない。当てがある、心配するな」

 

「当てですか? その……一体誰と?」

 

 

首を傾げるセシリアを前に、箒は柔らかい笑みを浮かべて見せるのだった。

 

 

「生徒会長だ」

 

 

 

 

 

十月三日、ゴーストはフランスにある亡国機業の隠れ家にいた。広いテーブルの上には9mmパラベラム弾の弾薬箱が積み重なっており、ゴーストはその弾丸一つひとつを丁寧に布で磨いては黒いマガジンに装填していた。装填し終えたマガジンは拳銃へと挿入され、既にテーブル上には八挺の拳銃が並んでいる。イタリア・ベレッタ社製90-Two(ナインティ・ダッシュ・ツー)、9mmパラベラム弾をチャンバー(薬室)内も含めて十八発撃てる拳銃だ。それ以外にタウラスM85という五発入りのリボルバーも二つ用意されている。予備のマガジンにも弾丸を装填し終えたところで、ゴーストは着ていたスーツの上着を脱いでホルスターを付け始めた。脇に、腰に、踝に。そしてその様子を影から覗いている女がいた。織斑マドカだ。

 

 

「何故お前がここにいる?」

 

「スコールが次の作戦の準備の為にイゾルデのところに居てな。休暇ついでに会いに来た、ダメだったか?」

 

「別に。だがすぐに出かけるぞ」

 

 

急に声を掛けられても動じることなくマドカは影から出て、ゴーストの隣に立った。そのマドカに向けてゴーストは二挺の拳銃を差し出し、持っているように促す。そしてマドカが拳銃を受け取るとゴーストは踝に二挺のリボルバーを差し、それ以外のホルスターにも拳銃を差して行った。

 

 

「何処を襲撃するつもりなのだ? まさかたった一人で行く訳ではないだろう」

 

「残念ながらその通りだ。今からデュノア社に向かい、社長アラン・デュノアとフランスの候補生管理官マリアンヌ・オシュを殺害する。同時にドイツにいる俺の部下が軍関係者と候補生管理官を抹殺する手筈だ」

 

「何の為に?」

 

「フランスとドイツに亡国機業の息を吹き込む為だ。後釜に据える駒は既に用意している」

 

「一人で行くのか?」

 

 

マドカの手から90-Twoを取り上げると、ゴーストはそれをズボンの前に差し込んだ。そしてテーブルの上に残っていた二挺の90-Twoを両手に、ニヤリと口の端を吊り上げる。その右目は妖しく輝いていて、その瞳の中には数字の羅列が流れていた。

 

 

「この右目が有る限り俺に勝てる奴ぁいねえよ、マドカ。クソッタレの兎や気色悪ぃブラザー・コンプレックス野郎は兎も角さ」

 

 

「……難儀なものだな、明日は貴様の誕生日だろうに」

 

 

背にマドカの言葉を受けてゴーストが立ち止まると、彼は僅かに首を傾げながら呟いた。それと同時に、壁に掛けられていた時計が甲高い音を鳴らす。

 

 

「明日というか、今日だな」

 

「帰って来たらパーティをしよう。血塗れで帰って来るなよ、ゴースト」

 

「ああ、返り血一つ浴びて来ないさ」

 

 

そう言って去って行ったゴーストを見送り、マドカは一人隠れ家のソファーに寝転がるのだった。

 

 

 

 

深夜、デュノア社にはSPに囲まれながら移動する二つの人影があった。片やデュノア社の社長であるアラン・デュノア、もう片方は候補生管理官マリアンヌ・オシュ。二人は愛人関係にあり、またフランス社会の汚い金の関わりに深く関わっていた。二人は代表候補生シャルロット・デュノアへの新装備案の会議という名の情事を終え、帰宅するところであった。この日アランの妻は旅行に行っており、アランはマリアンヌをそのまま自宅へと招くところである。

 

 

「……それで社長? あの小娘の処罰はどうするかもうお考えで?」

 

 

金髪の長髪を後頭部で纏め、やや皺の寄った黒いスーツを身に纏ったマリアンヌはわざとらしくアランの耳元でそう囁いた。対するアランは高級スーツに身を包みやや薄くなった頭髪を撫で付けた典型的な中年男性で、マリアンヌの囁きにも官能的な響きを感じ身を捩じらせている。

 

 

「勿論だともマリアンヌ君。今は学園に居るからそう簡単に手は出せないが、卒業すればどうとでも出来る。無論それまでに第三世代型でも何でも開発出来ねば危ういが、今度イタリアのある企業と密会をすることになっていてね、中々有益な情報が手に入れられそうだよ」

 

「それは良かった。それで……今の奥様とはどうするおつもりで?」

 

「勿論、君さえ良ければ何時でも離婚するさ。最近は浪費癖が酷くなってきてね、全く何故私の妻は皆クズばかりなのか……おっと、勿論君は違うよマリアンヌ君」

 

「当然です。今日はしっかりお(・)世(・)話(・)させて頂きますから」

 

 

アランとマリアンヌを乗せた黒塗りのリムジンは五十階建てのデュノア社ビルの裏にある専用の通路に止まっており、その通路は車一台分程の横幅しかない。普段は滅多に使う事のない通路で、専らパパラッチに見られたくない時や非常事態時に使用している。通路の出入り口はシャッターで塞がれており、シャッターはスイッチによって操作される。ゆっくりと徐行運転で進むリムジンに合わせてシャッターの操作盤脇に立っていたSPがスイッチを押すと、ゆっくりとシャッターが開いていく。シャッターの両脇を固めているSPをご苦労なことだと見ていたアランの目の前に現れたのは、開けた道路では無かった。両手に拳銃を持った黒いスーツを着た男が、笑みを浮かべて立っている。

 

 

「な------」

 

 

何だ、そう言うより早く男は両腕を左右に広げ、両脇に立っていたSPを射殺した。銃声が響き、二つの薬莢が舞い、血を噴出しながら二人のSPが崩れ落ちて行く。男はシャッターの操作盤を撃ち抜くと、閉まって行くシャッターを背後にリムジンに向けてその二つの銃口を向けた。繋がる銃声、跳ねる薬莢、割れるフロントガラス、運転席に座っていたSPが車をバックさせる横で、助手席に座っていたSPの喉から鮮血が噴出す。轟く銃声、弾けるSPの頭部。ホールドオープンした拳銃を捨て、男はズボンの前に差していた拳銃を引き抜いた。

 

 

「何、何、何、何、一体何なの!? どうして私達が撃たれているの!?」

 

 

「私が知る訳ないだろう! うぅっ!?」

 

 

壁にボディをぶつけながらバックしていくリムジンの後部座席で、混乱した様子のマリアンヌがアランを怒鳴った。今も撃ち込まれている弾丸はボディを穿ち、割れたガラスを容赦無く車内へと注ぎ込んでくる。アランは自分も訳が分からないという顔をしながらもマリアンヌの頭を掴んで屈ませており、弾丸から避けさせていた。だがマリアンヌは冷静さを失っていたのか、後頭部を掴むアランの手を跳ね除けて頭を上げた。

 

 

「ふざけないでよ! 貴方が何時も汚いことをやっているから誰かが------」

 

 

突如パァンッという音と共にマリアンヌのこめかみが弾け、噴出した鮮血が車内を真っ赤な内装へと変えさせた。弾けた頭部からドロドロの何(・)か(・)が流れ出て行く様を呆然と見つめるアランの身体を、更に強い衝撃が襲う。リムジンが通路の一番後ろにまで到達したのだ。運転席に座るSPはモタモタとした様子で持っていたSMGを構えようとしている。そして謎の襲撃者はヒラリとボンネットの上に飛び乗ると、車内に向けて引き金を引き続けた。ボンネット上で跳ねた薬莢が車内に入り込み、運転席から鮮血と短い呻き声が飛び出して行く。そして銃声が止んだ時、アランはマリアンヌの死体を押し出しながらリムジンから飛び出した。足を取られ無様に転び、アランは青ざめた顔で襲撃者を見やる。

 

 

「ヒッ!? お、お前は……!」

 

 

その歪んだ笑みと妖しく輝く両目を持つ襲撃者の顔を、アランは見たことがあった。そうだ、こいつは死んだはずの------。と、アランはグチャグチャな思考のまま襲撃者の拳銃がホールドオープンしているのを見ると、命惜しさにバタバタと無様に尻を振りながら社内へと続くドアを開いた。社内へ飛び込むと銃声を聞きつけたのであろう警備員達が銃を持って駆けつけてきており、アランは数名の警備員に守られるようにエレベーターへと逃げ込んだ。その後ろでは弾切れの拳銃の捨てた襲撃者が両脇のホルスターから新たな拳銃を引き抜いており、社内から出て来た警備員達を冷静に、素早く射殺していた。

 

 

数分の後銃声が止むと、通路には死体と薬莢だけが転がっていた。壁や床は血に塗れ、一部が天井にまで赤い塗装を施している。襲撃者・ゴーストは弾切れの90-Twoを捨てると、ポケットに手を入れて社内へと堂々と入り込んだ。そして右目で床に付いた足跡を確認し、アランが乗り込んだエレベーターへと辿り着く。その階層の表示では、丁度エレベーターが最上階の五十階に着いたことを示している。

 

 

「最上階には社長室か……、良いところに逃げ込んでくれた」

 

 

両手にダークバレットの装甲を展開すると、ゴーストはエレベーターのドアを無理矢理開いて部分展開状態で一気に上階へと飛び上がった。そして最上階へ近づくと、脚部スラスターを利用してエレベーターごとドアを吹き飛ばすのだった。

 

 

 

突如エレベーターのドアが吹き飛び何かが墜ちて行く音が響くと、銃を構えて見張っていた警備員達は思わず一斉に引き金を引いた。放たれた弾丸は煙を抜けていき、やがて静寂が訪れる。そして一人の警備員が様子を見ようとゆっくりとエレベーターに向けて歩き出し真下を覗き込むと、いきなり上から現れた足に踏まれて悲鳴を上げながら真っ逆さまに墜ちて行った。そうして現れた襲撃者に向けて警備員達は引き金を引き、襲撃者は壁の出っ張りに身を隠す。狭い廊下を舞台に始まった銃撃戦は、社長室に二人の警備員と逃げ込んでいたアランを酷く脅えさせた。ドアの向こうから幾つも聞こえていた銃声が少しずつ少なくなっていき、やがて途切れると、アランは自身のデスクから取り出したリボルバーを強く握り締めながら残る二名の警備員を睨みつける。

 

 

「っ、よ、様子を見てきます。おい」

 

 

緊張した様子の二人が恐る恐るドアの方へと歩いて行くと、ノブに手を掛けようとした途端ドアの向こうから撃ち込まれた弾丸を受けて二人は引っ繰り返った。一人は即死で、もう一人は口から血を流しながらもドアに向けて弾丸を撃ち込む。そして弾丸を撃ち尽くすと、穴だらけになったドアがゆっくりと外れて倒れていた警備員の身体に被さった。そして現れたのは、無傷の襲撃者。

 

 

「このっ……」

 

 

ドア越しに襲撃者が見えたのか警備員が苦しそうな声を上げるも、襲撃者は両手に持っていた黒いリボルバーの引き金を引いて彼を黙らせた。そしてアランがリボルバーを構えるより早く襲撃者は弾丸を放ち、アランの手からリボルバーを弾き飛ばす。その顔からは、もう笑みは消えていた。

 

 

「おっ、お前は、お前は一体何が問題なのだ!? 金か! 金なら幾らでもあるぞ、どうだ!?」

 

「欲しいのは金じゃねえ、手前の命だ」

 

「何故だ!?」

 

「何でだろうねぇ……ん?」

 

 

アランに向けて両手のリボルバーを向けた襲撃者は、引き金を引いても弾丸が出ないことに首を傾げ、ため息をついた。

 

 

「運が良いなオッサン、もう少しだけ生きていられるぜ」

 

 

黒いリボルバーを床に投げ捨てると、襲撃者は腰のホルスターからホールドオープンした拳銃を引き抜いた。マガジンを落とすと右手の指で二挺の銃を挟み、ショルダーホルスターのマグポーチから新たなマガジンを取り出して装填する。スライドを戻し初弾を装填すれば、その二つの銃口はアランに向けられた。

 

 

「私を殺してどうするつもりだ! そうだ貴様、貴様は浦城京介だな! 思い出したぞ、貴様は死んだはずだ!」

 

「生きてるよ、見りゃ分かるだろ」

 

「何故私が殺されなければならん! 答えろ! 何故私をっあああっ!」

 

 

アランの怒声を銃声が遮り、代わりの悲鳴がその口から唾と共に吐き出される。押さえた右の太腿からは、血が流れていた。

 

 

「アンタのクズっぷりは知ってるからな。あんまり俺をこれ以上イラつかせないでくれ、死期がちょっとばかし早まるぞ」

 

 

「貴様ぁ! 私に、この私にこんな事をして唯で済むと……おい、何だ、どうする気だ!? ああ、止めろ、ぐああっ!!」

 

 

襲撃者はアランの服を乱暴に掴むと、左の太腿にも銃弾を撃ち込んだ。そうしてそのだらしの無い身体を引き摺り、社長室の壁一面のガラスの前まで運ぶ。膝を付いて立たされたアランの口には弾切れのリボルバーが無理矢理突っ込まれ、まるで銃殺刑を前にした死刑囚のようにされた彼はモゴモゴと襲撃者に何かを訴えかけた。

 

 

「何て言ってるか分からねえよ、はははっ」

 

 

その姿が面白いのか襲撃者は一度だけ笑みを浮かべると、すぐに冷え切った表情を浮かべ右手に持った拳銃をアランへと向ける。そしてポツリと、一言だけ呟いた。

 

 

「シャルロットの代わりだ、全部受け取れ」

 

 

連続した銃声が響き、アランの身体は血を噴出しながら何度も大きく跳ね上がった。目が大きく開かれ、リボルバーがガチガチと強く噛み締められる。ドロッとした血と唾液が口から垂れ、着ていたスーツが暗くても良く分かる程変色していく。右手の銃が弾切れになると今度は左手の拳銃を構え、引き金が引かれる。二十発以上の弾丸が叩き込まれたアランは既に絶命しており、血に濡れた虚ろな目だけが社長室をぼんやりと見ていた。貫通した弾丸は壁の窓ガラスを割っており、強い風が社長室に吹き込んでくる。その風を受けながら襲撃者------ゴーストはアランの亡骸に近づいた。

 

 

「お前よりまともな奴を後任にしてやるよ、安心しな」

 

 

言いながら亡骸に足を掛け、ゴーストはアランを五十階の高さから蹴り落とした。それが墜ちて行くのを見届けることなく、ゴーストは拳銃と付けていたホルスターを全て捨てて右のこめかみを指で軽く掻いた。

 

 

「ゴーストだ、こっちは終わったぞ」

 

「レッシィです、こちらも無事終わりました。ロザミア達も無事終了したと報告を受けています、イゾルデへの報告は?」

 

「お前が良いなら、頼む」

 

「了解です。……隊長、お誕生日おめでとうございます」

 

 

プライベート・チャンネルで繋がっていた部下からの言葉に、ゴーストは少しばかり間を空けてから返事をした。それは気恥ずかしかったからか、或いは疲れていたからか。

 

 

「……ありがとうよ」

 

 

ゴーストはそれだけ言うと、黒い装甲をその身に纏い夜空へと飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

一夜にして二カ国の要人が一斉に暗殺された事件は瞬く間に世界中が知ることとなり、同時に今まで世界の裏側でしか存在を語られていなかった亡国機業の存在が表の世界でも公表されることとなった。ISを所有する最強最悪のテロ組織、それだけしか公表されなかったが世界に衝撃を与えるには十分だった。彼らへの対応を各国政府は迫られ、そしてその混乱は亡国機業にとって多大な戦力を整える為に十分な時間を与えてしまっていた。

 

 

そしてドイツにあるイゾルデ邸に集った亡国機業幹部会は、これからの行動についての議論を慎重に行っていた。

 

 

「ここ最近の問題視されている行動は全てゴーストによって行われたものだ。もしこのままこいつの勝手な行動が続くようであれば、幹部の資格を剥奪した方が良いと私は思うがな。そもそも幹部の昇格すら私は認めたくなかったのだぞ」

 

「文句があるならISのコアを七でも八でも良いから奪ってこいよラドミラ。無能な幹部はいらねえんだ」

 

「ぐっ、貴様!」

 

「ラドミラ、ゴースト、二人共黙りなさい。今は幹部の資格云々を話しているんじゃないのよ」

 

 

スコールに窘められた二人が口を閉ざすと、彼女はそのまま言葉を続ける。その表情は普段通り自信に満ちたものであったが、ゴーストには何故か普段より上機嫌に感じられた。

 

 

「世界的に我々の存在が公表された今、あらゆるテロ事件が我々の名の下に行われるでしょう。一部の幹部には我々の名を語る組織を特定し、処分する仕事を行ってもらいます。各国のISコア強奪についても暫くの間は自粛すること、良いわね」

 

 

「現段階で我々の所有するコアの数は28、十分だ。それにドイツとフランスのISはほぼ握ったも同然。素晴らしいじゃないか」

 

 

イゾルデがゴーストに拍手をすると、スコールを除く他の幹部達は様々な思いを込めた視線を彼にぶつける。それをゴーストは何でもないという風に受け流すと、スコールに向けて言葉を発した。

 

 

「コアの強奪作戦について自粛するのは構わん。だがその前に、一つだけ実行しておきたい作戦がある」

 

「……それは一体何かしら? ゴースト」

 

「俺の隊、スコール隊、そしてイゾルデ隊の合同によるIS学園襲撃作戦だ。この作戦で連中の持つ訓練機用のコアと、専用機持ちの機体を強奪する」

 

 

その提案にスコールとイゾルデ以外の幹部がざわめき立つも、スコールの挙げた片手に制止される。そしてスコールの代わりに口を開いたのは、イゾルデだった。

 

 

「それはまた大胆な作戦だが……私の隊も含めた三部隊での行動は些かやり過ぎではないかな、ゴースト」

 

「問題ない、意味はあるさ。まず世界に対し我々はここまでの事が出来る力を持っているということを見せ付けられる、そしてIS学園のコアも奪えばそこから更に戦力が増強されたということも自然と分かる。そして実行するのなら、特に高いスペックを持つISを複数所有している俺達三人の隊を使い徹底的にやるのがベストだ。やるからには学園が閉鎖される程までやる」

 

「しかし……キャノンボール・ファストの時のようなイベントでも訓練機は一部のものしか使用されなかったのだ。全てを奪うつもりでいても、向こうの妨害も考えれば難しいのではないか?」

 

「そうだ、そこで俺達にとって素晴らしいイベントをIS学園は開催してくれる。専用機持ちによるタッグマッチトーナメントだ、一般生徒の参加は無く出場者は全員専用機持ち。外部向けに発表されているから当日は要人がまた多く集る、だから今回は事前に工作員を潜入させ訓練機の保管場所を全て把握させておくんだ。そうして大会が終わった頃を見計らい襲撃を掛ける」

 

「そう簡単に上手くいくのかしら?」

 

 

スコールの疑問の眼差しをゴーストは受けるも、彼は自嘲気味に笑い肩を竦めて見せた。

 

 

「筋書きを話すだけなら上手くいくように話すのは当然だろう。実際はある程度力技が必要にはなるだろうがな」

 

「それが現状の我々が行う最後の強奪作戦と?」

 

「ああ」

 

 

自信が有るのでも無いのでもなく、唯そうするのが当然であるかのようなゴーストを前に幹部達は困惑していた。ある者は賛同し、ある者は反対し、ある者は、ある者は、ある者は。

 

 

「私は賛成しよう。我が隊の新型ISの試験には丁度良いだろうからな」

 

 

「イゾルデ……」

 

 

イゾルデの賛成を受け、スコールは考え込むように口元に手を当てた。そして諦めたようにため息をつくと、他の幹部達に頷いてみせる。

 

 

「オーケー、それじゃあこれから各人へ指示を出すわ。その目的は------------」

 

 

スコールの言葉にゴーストは笑みを浮かべ、強く拳を握り込んだ。漸く長かった復讐の第一歩を踏み出せそうだと、完全なる過去からの決別を果たす時だと。今まで引き摺り続けてしまった弱い自分を、自(・)ら(・)の(・)手(・)で(・)殺(・)し(・)直(・)す(・)。

 

 

「------IS学園の壊滅よ」

 

 

ゴーストの笑い声だけが、会議室に響き渡るのだった。

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