インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
タッグマッチトーナメント当日、IS学園には亡国機業の戦士達が多数潜伏していた。スコール隊からマドカとオータム、イゾルデ隊からはレズン、イリーナという工作員、そしてゴースト隊からはレッシィ、ロザミア、アナスタシアの計十人のIS乗りだ。それ以外に観客に紛れ込んだ工作員が数十名潜入している。IS学園のセキュリティは、面白い程に穴だらけだった。
「第四アリーナでの第一試合が織斑一夏と更識簪ペアと更識楯無と篠ノ之箒のペア、か。更識簪……妹か」
発表されたトーナメント表を眺めながら、ゴーストは第三アリーナのピット裏で優雅にコーヒーを飲んでいた。それなりにスペースのあるピット裏には彼の他に部下三人が隠れており、別のアリーナにも亡国機業の戦士達が隠れている。
「そっちの方に行かなくて良いんですか隊長? 織斑一夏は復讐対象なんでしょう?」
ウェーブがかった黒髪を揺らしながら、ロザミア・ベイロンがアリーナ内の監視カメラから傍受している映像を見ながら聞いた。元は中東の方で活動していた女で、予備のIS操縦者としての訓練を受けていた。サバサバした性格で、チームでは先駆け殿を任されている。
「まだそのタイミングじゃないからな。態々俺が出向かなくともスコール達が上手く倒すさ、生徒会長だけ封じ込めば後は恐れるに足らん」
「じゃあ、このアリーナを使う四人は中々手ごわいと?」
金髪のショートへアをしたアナスタシア・トルシーアは、右手首に付けた待機状態のバイヴ・カハの調整を中断して首を傾げた。元ロシアの代表候補生の一人だった彼女は怪我を理由にISから離れていたが、病気の両親の入院費用を稼ぐ目的で亡国機業のスカウトを受け参加している。落ち着いた性格だがその本性は残虐で、元々面倒を見ていたイゾルデをして恐ろしい女と言われていた。
「それぞれのペアのコンビネーションが優れている分、個人での戦闘が得意なチームは不利だ。だが俺達なら瞬きする間に殲滅出来る、違うか?」
「その通りです、隊長。ただの案山子に過ぎません」
レッシィ・アナ、亡国機業参加前の経歴が一切不明の謎の赤毛の女。冷静にして冷酷無比、恵まれた美貌とグラマラスな体躯、
「甲龍、ブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ、シュヴァルツェア・レーゲン、この中で隊長が嫌いな機体はありますか?」
「どれも好きじゃない。だがしいて言えばビットや見えない砲弾を相手にするのは面倒だ」
「了解です、なら中国とイギリスの小娘は私直々に叩き潰しましょう」
「出来るのか?」
「ロザミアをサポートに付けます。
冷え切った笑みを浮かべるレッシィにゴーストが微笑むと、監視カメラからの映像を見るのに飽きたのかロザミアが面倒臭そうに欠伸をしながら声を上げた。
「えー、また私がサポート? 何時も通りアーニャと私のペアで良いじゃん」
「それでもし二人を止めきれず隊長の邪魔をしたらどうするの? 貴女達の実力は信頼しているわ、けど……私がやった方が確実だもの」
「そりゃあそうだけどさぁ、アーニャはどうなのよ」
ロザミアから話を振られ、アナスタシアはレッシィの目を気にする素振りを見せながら口ごもった。まるでその視線だけで、何を言うべきか指示されているかのように。
「私は、別に……構いません。その、私とロザミィより……レッシィの方が確実だから。隊長のサポートには自信無いですけど、頑張ります」
「別に変に気負う必要はないさ、アナスタシア。お前はただ邪魔が入らないように見張っていればいい」
レッシィの態度に苦笑しながらもゴーストはアナスタシアの緊張を解すよう声を掛けると、持っていたコーヒーを飲み干して紙コップを投げ捨てた。そろそろ第四アリーナで第一試合が始まる為、スコール、イゾルデと連絡を取らなくてはならない。
「スコール、イゾルデ、ゴーストだ。IS部隊は何時でも展開・突入出来るよう準備しておいてくれ、いいな」
「了解よ、ゴースト。もう生徒会長の篠ノ之箒のペアはアリーナに出て来ているわ、楽しみね」
「こっちの上級生組も既に出て来ている。シード組だが……試合が終われば消耗していることだろう」
スコールとイゾルデの返事を受け、ゴーストもまた自分のいるアリーナの様子を覗いた。既にラウラ・シャルロットペアとセシリア・鈴ペアはISを展開し、最終調整を行っている。前回のキャノンボール・ファストではレース用のカスタムを行っていた為楽々打ち倒すことが出来たが、今回は戦闘用に調整されている為楽々という訳にはいかないだろう。だがゴーストのダークバレットやバイヴ・カハ、亡国機業製のISは全てリミッターを外し完全戦闘用として改造されている。エネルギー兵器、シールドバリアーの出力も段違いであり、本来技術的にまだ安定していないコアからの直接エネルギー供給システムにより長時間戦闘も可能だ。元々競技用ISもシールドエネルギーが切れてもシステムを維持する為のエネルギー等は残っているが、シールドエネルギーが切れた時点で装甲が維持出来なくなってしまう。正面からやり合って負けるということは、それは亡国機業側の操縦者が未熟ということだった。
「タイミングについてはスコールに一任する。早々に決着がついた場合は訓練機のコア強奪の援護に回れ、頼むぞ。イゾルデは------」
ゴーストが指示を出している途中、突如爆発音と地震のような強い衝撃が彼らのいるピット裏を揺らした。ロザミアが転び、アナスタシアがカメラの映像に飛びつく。そしてレッシィはゴーストの身体を支え、彼はすぐにスコールとイゾルデに通信を飛ばす。
「スコール、イゾルデ! 早まったのか!?」
「いいえ、違うわゴースト。
「何なんだこの機体は……無人機なのか!?」
緊張した様子のスコールと慌てるイゾルデの声が耳朶を打ち、ゴーストもまたアナスタシアを押し退けカメラの映像に飛びついた。映っていたのは黒いマネキンのようなISが二機、アリーナ中央に背中合わせに立っている姿。羊の巻角のような前に突き出たハイパーセンサー、右腕は肘から先が巨大なブレードになっており、左腕の巨大な腕には四つの砲門が開いていた。
「生体反応は!?」
「有りません、完全な無人機です。しかし……前に現れたという機体と同一ものですか?」
「いや、かなり違うが……左腕が辛うじて似ている程度か。他のアリーナにも来ているのか?」
「そのようです」
レッシィの報告を聞きながら、ゴーストはセシリア達が謎の黒いISと戦闘を開始するのを見ていた。四対二でありながら、黒いISは複数の浮遊する球体が生み出すエネルギーシールドで射撃を防ぎ、近接攻撃をブレードでいなし身をくねらせて躱す。何よりゴーストが驚いたのは、瞬時加速により勢いの乗った黒いISのブレードがラウラの装甲を切り裂き、血を噴出させたことだった。その光景を見ながら、ロザミアがうげっと言葉を洩らす。
「あれもリミッター解除してあるっていうの? にしては威力高過ぎじゃない? どうなのよレッシィ」
「今解析中よ、もう少し待ってなさい。------へえ、あのISから妨害電波が出ているわ。シールドバリアーの展開に障害が発生している」
「発信源は本体からか?」
「いえ、左腕からのようです」
「そうか」
ゴーストは報告を聞くと、すぐにスコールとイゾルデを呼び出した。
「スコール、イゾルデ、まだ出て行ってはないな?」
「ええ、まだ待機中よ。ただ教員側が訓練機を持ち出そうとしているから、タイミングを逃すとそっちのコアが手に入らないわよ?」
「なら訓練機を先に抑えさせろ! あるだけコアを回収出来たら工作員はそのまま脱出させていい」
「この新しいイベントはどうするのかしら?」
「そのまま戦闘を続行させて消耗させろ、タイミングを見て攻撃に出る。無人機が妨害電波を発信しているのは確認したな? あの機能を手に入れる為にあの機体も捕獲する、いいな」
「なら一機はこのイゾルデが捕えよう。見張っている上級生、中々出来る。面倒はごめんだ」
「なら各隊一機ずつ捕獲するんだ! 候補生のコアは俺が強奪する、最高で四つだ、頼むぞ」
通信を切ったゴーストは無人機の戦いを見ていたロザミアとアナスタシアを一瞥した後、レッシィに視線を向けた。彼女は既に何を言われるのかは分かっており、ゴーストに言われるよりも先に口を開いた。
「捕獲任務、承りました。無人機一体と別の機体の左腕で宜しいでしょうか?」
「ああ、それで良い。対IS用ISなんていうふざけた機体だ、調べ尽くさなきゃ気が済まん」
そう言いながら無人機に蹂躙される旧友を見ているゴーストの顔が僅かに曇っているように見えたレッシィは、その肩に手を置いた。だが彼はその手を振り払うと、一人ピット裏から出て行くのだった。
謎の無人機との戦闘が始まってからもうどの位時間が経ったのか、ラウラは覚えていなかった。全身の装甲は砕かれアリーナの地面に散らばっていて、その中には気を失っているセシリア・オルコットの姿もある。鈴に向かって無人機が放った高圧熱線を庇い、やられてしまったのだ。そのペアだった鈴やラウラのペアであるシャルロットももうボロボロで、まともな戦闘能力は残っていない。対する二機の無人機は、多少装甲が欠けているものの殆どダメージを負ってはいなかった。
「っ……はぁ、はぁ……シャルロット! 鈴! まだ……まだ、戦えるか!」
同じように傷だらけでボロボロの二人にラウラが声を掛けるが、二人から返って来た返事は疲れきった苦しそうな声だった。
「ぜぇ……ぜぇ、さ、流石にキツイわねこりゃ……もうエネルギーも無いし」
「ぼ、僕も……はぁ、っく……武器も弾も殆ど残ってないよ……!」
「他のみんなの安否も気になるが……っ、まず自分達のことを考えなけばならないか……クソ!」
目の前の二機を睨みつけながら、ラウラは歯を喰いしばってAICを仕掛けた。痛みに耐えながら集中し、その動きを止めようとする。だがそれよりも早く動いた無人機は、左右からブレードを振りかぶりラウラに肉薄する。
「ラウラ!」
それに反応したシャルロットは両手に持っていたアサルトライフルを構え引き金を引いたが、放たれた弾丸は球状の物体から放たれるエネルギーシールドに遮られてしまう。その隙に一機のブレードを避けたラウラだったが迫るもう一本のブレードは避け切れず、両腕の僅かに残っていた装甲を犠牲に斬撃を受け、吹き飛ばされた。シャルロットのアサルトライフルも弾切れで、残っているのは左腕のパイル・バンカーのみ。盾の中からそれを開放し構えるも、無人機達が次に狙ったのは鈴だった。欠けた双天牙月を持っていた鈴はフラフラになりながらも構え、無人機の攻撃に備える。だが黒い二機は離れた位置に立ったまま左腕の砲門を向け、高圧熱線を彼女に向けて放った。高威力のそれを二つ同時に受けた鈴はまともな受身も取れずアリーナの壁に叩きつけられ、そのまま地面に落ちる。
「鈴……くっ!」
一人残ったシャルロットは目の前の敵が斬ってくるのか撃ってくるのか見極めるべく、捨てた盾を右手に持って構えた。一度だけなら、この盾で攻撃を防ぐことが出来る。そんな彼女を前に一機の無人機が左腕を向け、高圧熱線を放った。その攻撃を盾で受け流すと同時に機体を横転させ、シャルロットは盾を捨て前に向きなおす。だがその彼女の視界に映ったのは、既に目の前でブレードを振り上げていたもう一機の無人機だった。
(しまっ------)
見開かれたシャルロットの目にブレードの煌きが反射した時、彼女もまた自らの敗北を悟った。だがその彼女の目の前を、突然黒い楔型をした
(え------)
その軌道を目で追うのも束の間、上空から急降下してきた無人機とは違うISが無人機の頭部を踏みつけた。両肩に砲門の付いたバインダーを装着した、細身のISだ。その脚の先端からは三本のブレードが展開しており、まるで鳥の足のようにガッチリと無人機の頭部を固定している。
「Memento mori」
シャルロットの目の前で、突如現れた黒いIS------バイヴ・カハはグルッと身体を回転させた。それに合わせて脚部ブレードに掴まれていた無人機の頭部も回転し、やがてバチバチッとスパークを起こしながら内部ケーブルが千切れて胴体から頭部がもぎ取られる。そしてバイヴ・カハはブレードで固定していた頭部を空高く放り上げると、そのまま振り下ろした脚で無人機の左腕を斬り落とした。そしてバインダーから飛び出たグリップを握って固定すると、その銃口を首の部分に押し付ける。
「絶対防御が無いとここまで脆いのね」
レッシィが冷ややかな声色で呟いて引き金を引くと、放たれたビームは無人機の胴体を貫通しゆっくりと膝をついた。膝立ちの状態で天を仰いでいた無人機の胸部装甲を脚部ブレードで切り裂いて剥がすと、レッシィはその手を胸に突っ込んでそのコアを引きずり出した。
「左腕と、コア一つ。そして------」
スッと空に向けられた右手に最初に放り投げた無人機の頭部が落ちてくると、レッシィはそのまま呆然と自分を見つめていたシャルロットの身体を蹴り飛ばす。作動していたPICにより彼女は何とか空中で体勢を立て直し着地したが、まるでタイミングを合わせるかのようにその眼前に二つの黒い物体が墜落した。
「隊長がお怒りね」
「おおおおおおおおおおッッ!!」
シャルロットの目の前に墜落した黒い二機のISの内の一機、ダークバレットはその拳を強く握り込むと無人機の顔面を思い切り殴打した。無人機の両腕には、楔型のゴースト・ビットが表面にエネルギーを纏い突き刺さっている。その二つのビットを両手に持ち、ダークバレット------ゴーストは無人機の首目掛けて振り下ろした。一閃の下に無人機の首が飛ぶと、ゴーストは力任せに胸部に拳を叩きつけて装甲を破ってコアを引きずり出す。そうしてゴーストが無人機から離れると、二機のバイヴ・カハがその傍に着地し無人機の残骸を抱えた。その隣に最初に現れたバイヴ・カハが並び、そこでシャルロットはその機体が無人機のコアと左腕を持っているのを発見する。
「っ……自分達が有利な時を狙って……!」
「当然だろう、何故馬鹿正直に六機のISを相手にしなきゃならないんだ」
「京介……君は!」
三機のバイヴ・カハを背後に従えるダークバレット、その操縦者であるゴーストに、シャルロットは吼えるように叫んだ。
「あの人を、僕の父を殺したのは君なんだね!!」
「お前の父親……? ハッ、知らないね。随分長いこと放置していた生ゴミを処分したのは覚えてるんだがな」
「もう、自分が浦城京介だっていう事は否定しないんだね」
「肯定した覚えも無ければ否定した覚えも無いな。奴は死んだ、俺はただの幽霊だ」
ゴーストはそう言うとすっとシャルロットの首に左手を伸ばし、一気に力を入れて締め始めた。シャルロットの身体は宙に浮き、苦しそうに彼女は足をばたつかせる。
「ッ! ……ぁ、ぅ……ぐっ……うぅぅ……」
「お前は解放されたんだよ、あの男が死んだことによってな。道具になる道しか選ばず、ただ言いなりの人形の立場に甘えていたお前はもう居なくても良いんだ。まあどれだけあの男を嫌っていても殺されたら怒るっていうのは、お前らしいと思うがな」
「ぁ……ぁぅ……ぎ……ょう、す……あ------」
「……流石に小便垂らしながら死ぬのは嫌だろう。汚水だらけの死体を見られるのもな」
ゴーストはシャルロットの身体がブルッと震えたのを感じ取ると、そのまま手を離して彼女を解放した。かなりの強さで首を絞められていたシャルロットは苦しそうに咳を繰り返した後、ガクッと意識を失った。残っていた装甲が粒子と消え、後には股の部分がいやに濡れているISスーツを着たシャルロットの身体だけが残される。ゴーストはその首に掛けられていたオレンジ色のクリスタルを回収すると、次に少し離れた位置に倒れていたラウラへと近づいて行った。既にISが解除されていたラウラはボロボロのISスーツの一部を血で染めており、千切れた眼帯を握り締めてゴーストを睨み上げていた。身体を動かす事もままならない彼女を見下ろし、ゴーストはISを解除しその足で土に汚れた銀髪越しに頭部を踏みつける。グリグリと足を動かすゴーストに、ラウラは怒りの篭った声を上げた。
「うっ……き、貴様……!」
「俺のことを話してくれたみたいだな、感謝するぜラウラ。織斑千冬には言ってるか言ってないか分からねえが------まあお前が言って無くとも一夏の野郎が言ってるだろうが……まあ良い。兎に角、お前のISは有り難く頂いて行くぜ」
「こ、の……卑怯者が……!」
「道端に落ちていた小銭を拾って何が悪い。あばよラウラ、教官殿に宜しくな」
気絶したラウラから待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを奪い、ゴーストは再びダークバレットを展開した。彼を待つ三機のバイヴ・カハの内、レッシィ機が何時の間にか無人機のコアと左腕の他に待機状態の甲龍を手にしていてゴーストに差し出した。それを受け取ったゴーストがふと視線を鈴がいた方向に動かせば、ボロボロの鈴の身体を支えたセシリアがアリーナから逃げようとしているところだった。最初は捕獲するべくビットを飛ばそうとしたゴーストだったが、二人の姿がすぐに見えなくなると興味を無くしたようにため息をついてみせる。その様子に合わせて、レッシィが口を開いた。
「ブルー・ティアーズはコアに若干の損傷を確認しました。回収したとしても暫くは使えない為見逃しましたが、宜しかったでしょうか」
「いいさ、別に。回収するべきものは回収したんだ。他の隊は」
「イゾルデ隊は専用機持ちを無視し無人機を無事回収、離脱しています。スコール隊も無人機一機を確保し、敵IS二機を行動不能まで追い込んだそうです」
「ならスコール隊とタイミングを合わせて離脱するぞ、殿は任せろ」
「「「了解」」」
ゴースト隊の面々がアリーナを脱出すると、同じように第四アリーナから脱出したスコール隊と鉢合わせた。スコールの展開するIS【ゴールデン・ドーン】の腕から伸びる金色の鞭が例の無人機を雁字搦めに縛っており、マドカのサイレント・ゼフィルスとオータムのシャグラン・アヴェルスがアリーナ内に向けて牽制射撃を行っている。
「あら、偶然ね。コアは回収出来たのかしら?」
「中国、ドイツ、フランスの三つだ。イギリスは逃したが無人機のコアは二つ回収してある」
スコールと言葉を交すと、ゴーストもまた八基のゴースト・ビットを展開し第四アリーナに向けてビームを撃ち込んだ。すると崩壊する第四アリーナの中から、紅のISが飛び出してくる。箒の紅椿だ。紅椿はゴースト達の攻撃を避けつつ両手に刀を呼び出し、一気にゴーストへと肉薄する。振り上げられた刀を防御するべくゴーストは二つのビットを手に取り、表面をビームで覆われたそれで紅椿の刀を防いだ。
「先に行け! こいつの相手は俺がする!」
「任せたわよゴースト。余計なものを連れて来ないでね」
スコール達を先に逃がし、ゴーストは鍔迫り合いの中思い切り左脚で紅椿を蹴り付けた。一度離されたものの紅椿はすぐに体勢を立て直し、背部展開装甲を開放して更なる加速を得て打突の構えを取る。その刃の先端をビットの面で受け止めると、箒はゴーストに向けて叫んだ。
「京介ぇぇぇぇぇっ!!」
「うっせえんだよ、手前は!」
紅椿の背後に二基のビットが回り込むと箒は機体をロールさせてゴーストから離れることなくビームを躱し、続けてゴーストに呼び掛けた。
「どうしてお前がそんな所にいるのだ! お前は一体何をされたというのだ! あの映像は……本物だというのか!」
「質問が多いんだよ! まとめて答えりゃ------手前と一夏の所為さ!」
鋭い一撃に弾き飛ばされた箒を追撃するべくゴーストは六基のビットを自機の周囲に配置し、一気にビームの嵐を放つ。その嵐を掻い潜るように箒は機体を動かし、再びゴーストへと接近する。その動きからゴーストは、彼女がかなりの勢いで成長しているのを感じ取った。
「私と織斑の所為だと!? あの人と織斑先生が何を考えているというのだ!」
「その内向こうから明かしてくれるだろうさ! お前らの為だって言ってなぁ!」
「何を------ぐぅっ!?」
死角から飛来したビットの先端が脾腹に突き刺さり、箒は苦しそうな呻き声を上げた。そこへ続けて複数のビットが紅の装甲に突き刺さり、突き刺さっているビットが一斉に零距離でビームを放つ。爆発と共に装甲の大部分が吹き飛び、箒はゆっくりと瓦礫と化したアリーナへと向けて落下し始めた。
「京介……私は……」
掠れゆく視界の向こうで黒いISが何処かへと飛んで行くのに手を伸ばしながら、箒の身体は瓦礫の中へ飲み込まれるのだった。
事件後、IS学園は多数の訓練機用のコアを強奪されたことから一時的に組織された国連軍IS部隊の保護下に置かれることとなった。中国、フランス、ドイツの三人の代表候補生は機体を強奪されたことで候補生の資格を剥奪させそうになるも、中国は国家代表である黄儷の口ぞえもあり候補生を続行、フランスは担当官であったマリアンヌ・オシュが死亡したこともあり一時保留扱い、ドイツは彼女が隊長を勤めていたシュヴァルツェア・ハーゼを解体及び三階級降格とした上で候補生を続行させることとなる。
IS学園側も学園長が辞任、警備主任だった織斑千冬も解任され新たな人物がその役職に付く事となった。残された訓練機の数も少なく通常通りのISに関する実技授業の進行が困難になった為、本来は二年次から行われる整備科への移動を一年の時点で行うこととなった。
世界は亡国機業の力を見せ付けられ、そして恐れた。風のように現れ、嵐のような被害を齎し、幻のように消えて行く。そんな存在への対応を世界は迫られた。もっと大きな災いが近づいているのにも気付かずに。
そんな中、突如ドイツのイゾルデ社がデュノア社の買収を発表。同時に新たな第三世代型IS【アイゼン】と【シュピラーレ】を開発したと発表し、この内アイゼンを【シュヴァルツェア・シュタール】としてドイツ軍は採用。【シュピラーレ】をフランス政府へ譲渡する代わりにイゾルデ社はフランスの代表候補生シャルロット・デュノアの続投を要請する。中国もまた開発中だった新型ISの作業を一時中断し、【甲龍】を黄儷の【梁山泊】のデータを流用し近接特化型として改造した【麒麟】を凰鈴音へと送り込んだ。
世界は感じていた。今、スポーツとして落ち着いたはずのISを再び兵器として使う時が来ると。
だがその相手が亡国機業だけでは無いとまで、気付けてはいなかった。