※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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仕組まれた邂逅

 

亡国機業による襲撃から数日が経過し、IS学園は国連の保護下に置かれた状態ながらも日常を取り戻していた。だがその日常は仮初のものに過ぎず、生徒達は何時また襲われるかもという恐怖に脅えている。そして今日、亡国機業により乗機を奪われたラウラとシャルロットに新たな機体が与えられる。

 

 

崩落し封鎖された第四アリーナの隣にある第三アリーナ、その中心部にはラウラとシャルロットを含む専用機持ち達が集合していた。勿論そこには織斑一夏や、生徒会長の妹である更識簪の姿もある。彼らの頭上には大型の軍用ヘリが飛んでおり、それは周囲に強風を振り撒きながら第三アリーナへと着陸する。中から降りて来たのは二人のSPを連れた長身の女性で、黒いサングラスに黒いスーツ、そして後頭部で纏めた銀色の髪が良く栄えていた。その手には、黒塗りのジュラルミンケース。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少(・)尉(・)と、シャルロット・デュノアだな?」

 

 

銀色の髪の女は並んで立っている二人の前まで歩いて行くと、二人の名を問うた。

 

 

「はっ!」

 

 

「はい!」

 

 

ヘリのローター音が響く中自然と声が大きくなる二人を前に、女は笑みを浮かべながら片手を上げた。すると止まっていたヘリは再び上昇し、何処かへと去って行く。

 

 

「私の名はイゾルデ・ゲルトラウト・ヴィクトーリア・シュヴァルツ、今回お前達に与えられる新型機を持って来た。しかし随分手酷くやられたようだな? この恥曝しが」

 

 

「なっ、そんな言い方って!」

 

 

銀髪の女・イゾルデがいきなり放った侮蔑の言葉に反応したのは、ラウラでもシャルロットでもなく一夏だった。だがイゾルデはサングラス越しに一夏を睨みつけ、怒鳴った。

 

 

「役に立たないモルモット以下は黙っていろ! ISを扱えるだけで世界に何の恩恵も齎さぬ弱者が!」

 

「な……!」

 

「貴様が少しでも世界に貢献したか? 持て囃されるだけ持て囃されて、肝心の貴様は何の役にも立っていない。エネルギー効率の悪い欠陥ISでブンブン刀を振り回す姿しか見ていないぞ、私は。同じ刀を振り回すだけなら、織斑千冬の方が遥かにマシだ。少し黙っていてくれ、もしくは去れ」

 

「っ……」

 

 

グッと拳を握り込んだ一夏を無視し、イゾルデは足元に置いたジュラルミンケースを開いて見せる。その中には黒とオレンジのリストバンドが入っており、それがラウラとシャルロットに与えられる最新鋭のISだった。

 

 

「貴様らが以前使っていたISのデータを打ち込めば、フィッティングに関してはすぐ終わる。ただ重量も推力も何もかもが段違いだ、壊すなよ」

 

「あのような失態は二度と!」

 

「ふん、どうだかな。デュノアの使う機体は勝手ながら前の機体データを元に調整を行っている、扱い難いようなら自分でも調整しろ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

ラウラとシャルロットが新たな愛機を取り付け強く握ると、二人の身体は粒子に包まれた。黒い粒子に包まれたラウラの身体を覆ったのは、戦車と言わんばかりの重装甲をした黒塗りのIS。頭部以外の全てを包むその重厚な装甲、太くガッシリとした四肢。シュヴァルツェア・レーゲンよりも一回り大きいそのISの姿に、ラウラは驚いていた。

 

 

「これは……」

 

「シールドエネルギーの消耗を抑える為に重装甲化している、多少の攻撃ではビクともしない。AICも勿論搭載しているが、前の機体とは違いサポート用のAIを用意している。一つのものに集中し続けなければ途切れてしまうような欠陥は無いぞ」

 

「これは凄い……頭部にも装甲が用意されているのですね! 全身装甲のIS……!」

 

「ISがスポーツだけで運用されるのならば部分装甲だけでも良いのだが、個人的にあの形は好かなくてね。実力の無い人間が生身の部分を晒しているのを見るのは我慢ならない。それにまた例(・)の(・)奴(・)ら(・)と戦うようになるのなら、しっかり備えなければな」

 

「ハッ!」

 

 

ISを展開したまま敬礼するラウラに頷いた後、イゾルデはシャルロットに振り向いた。彼女の身体もまた、頭部以外を橙色の装甲に包まれている。彼女が元々使っていたリヴァイヴよりシャープで、全身に細長い出っ張りのようなものが見える。ラウラのものと比べると、小柄に見えた。

 

 

「設計には貴様のリヴァイヴカスタムⅡを参考にした部分もある。リヴァイヴの後継機という位置づけにしたいものだが……ラファール・リヴァイヴカスタムⅢとでもしておこうか。またの名をラージュ・ミストラル」

 

「ラージュ・ミストラル……。この全身にあるのは、補助アームですか?」

 

「ああ、そうだ。全身に四十の補助アームを装着し、その全てがあらゆる火器の操作が可能となっている。貴様の得意な高速切替(ラピット・スイッチ)をより早くより多く繰り出すことが出来るだろう。拡張領域にも手を加えていてな、ギリギリまで積み込めば八十挺は量子変換(インストール)出来る」

 

「それも、亡国機業と戦う為に必要なものですか」

 

「……そうだ」

 

 

シャルロットの強い眼差しを正面から受け、イゾルデはその長い銀髪を揺らしながらサングラスを外しその素顔を晒した。その顔に、その場に居た全員がハッとする。何処と無く、イゾルデがラウラに似ていたからだ。長い銀髪も、整った顔立ちも、かつてのラウラの氷のような冷たさを感じるところも全て。

 

 

「私はお前達二人に特別な思い入れがある。シャルロット・デュノアは私同様父親に道具として扱われていた過去から、そしてラウラ・ボーデヴィッヒは------私の娘だからな」

 

 

「娘!?」

 

 

イゾルデの発言に皆驚き、ラウラに視線を向けた。だが一番驚いていたのはラウラ本人のようで、彼女はISを解除すると呆然とした表情で立ち尽くしていた。そのラウラに笑みを浮かべて見せ、イゾルデは言葉を続ける。

 

 

「そうだ、直接私がお腹を痛めて生んだ子ではないが彼女には私の卵子が使われている。遺伝子上は間違いなく私の娘だ」

 

「あ、貴女が……どうして今になって私の前に現れたのですか!? 私は母の事など何も聞かされてはいなかったのに!」

 

「それは私も知らなかったからだ。昔ある事情で採取された私の卵子を使い、遺伝子強化素体を開発していたとはな。知ってからも興味は無かったが……先日の襲撃事件でこっ酷くやられたと聞いてな、事実を知っている者からすれば私の顔に泥を塗られたのも同じだ。親は子を誇ると言うが、親に恥を掻かせる子はいらん。だからこの私が誇れるような子になってもらおうと思っただけだ」

 

「う……」

 

 

母として子の心配をしたのではなく、一人の人間としての名誉を傷つけられぬように娘に道具を与え、自らの名誉を守らせる道具とする。イゾルデの言っていることは、そういうことだった。ラウラは何も言えず、代わりにイゾルデに食って掛かったのは一夏だった。

 

 

「そんなの、自分も子供の事を道具にしているだけじゃないですか! シャルみたいに道具扱いされたことがあるんだったら、貴女がしていることはその親と同じ事だ!」

 

「そうだな、それがどうした?」

 

「んなっ!?」

 

「そもそもどうして貴様が我々の事に口出しをする? 貴様には何の関係の無いことだろう、ん? それとも世界最強の弟ともなると、他人の家の事情に口を出しても良いという権利でもあるのか? 全くお笑いだな、で、私はどうすれば良い? 君の気に入らないことをしたんだろう? 絞首刑か? 銃殺刑か? それとも、その雪片弐型で私を突き殺すか?」

 

 

わざと手を広げて煽るような言動をすると、イゾルデの前で一夏はグッと怒りを堪えるような顔をして拳を握り締めた。その一夏を並んでいた鈴とセシリアが腕を掴んで下がらせると、イゾルデは鼻を鳴らしてラウラとシャルロットに向き直った。

 

 

「さて、見苦しいところを見せてしまったな。まあさっき言ったことは冗談と受け取ってくれて構わない、私も少し子供になり過ぎた。……では、ボーデヴィッヒ少尉?」

 

 

「は、ハッ!」

 

 

呆けていた様子のラウラがバッと姿勢を正すと、イゾルデはその肩を軽く叩いたのちギュッとその小さな身体を抱き締めた。背中に回された腕が、優しくラウラの身体を包み込む。

 

 

「っ……」

 

「我々は我がドイツの為に日々精進している。私の創ったISで、私の娘が実績を残す。人により意味合いは代わってくるだろうが、少なくとも私はお前の身を案じているぞ。ドイツが世界に誇るIS乗りとなれ、そうすれば私も鼻高い」

 

「は、母上……」

 

「私は気まぐれでな、苦労するぞ? しっかりやれ、ラウラ」

 

 

最後に耳元でボソッと呟いた後、ラウラから離れたイゾルデはシャルロットに向きなおした。その後ろでは、ラウラが呆けた表情でイゾルデの背中を見つめている。

 

 

「さてシャルロット・デュノア、君の立場は我がイゾルデ社が保障する。フランス政府側も偽装入学に関わった職員は全員首を切り、君自身は不問だ。安心して我が社のISで活躍するが良い」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

「まあ肝心のトップの首までは切れなかったようだがな。何かあったら遠慮無く言うが良い、どんな武装でも装備でも送ってやる。それと、今後とも娘と仲良くしてやってくれ」

 

「勿論です、親友ですから」

 

 

その言葉を聞いてイゾルデは笑みを浮かべると、奥で睨みつけきていた一夏に非礼を詫び去って行った。暫くの間は日本にいるらしく、ラウラとシャルロットの手には彼女の名刺が残されている。そして学園を出たイゾルデを出迎えた黒いリムジンには、一人の男が既に乗り込んでいた。

 

 

「何だ、ゴースト。出迎えとは優しいな」

 

「ならお前の部下にちゃんと行き先を伝えておくんだな。面倒を起させるな」

 

「悪かった、次はちゃんとするさ」

 

「ダークバレットの改修がまだ終わっていないんだ、早くしてくれよ」

 

 

リムジンから降りて来たゴーストに肩を竦めて見せ、イゾルデはさっさと車に乗り込んだ。その姿にわざとらしくため息をついてみせたゴーストも乗り込み、黒塗りのリムジンは走り出す。IS学園の校舎屋上から、篠ノ之箒が見ていたことに気付かずに。

 

 

 

 

「やっぱり……あれは京介だ。じゃああの女は……」

 

 

紅椿のハイパーセンサーで捉えていたリムジンから京介に似た男が降り、イゾルデと言葉を交して一緒に乗り込んだ光景を見ていた箒は小さく呟いた。ラウラ達の新型機受領の見学を用事があると断った彼女は、独り屋上で物思いに耽っていた。そこへ遠くに黒塗りのリムジンが止まるのが見え、悪いと思いながらも誰が乗っているのか見てみようと紅椿の機能を使ったのである。すると見えたのはドイツのIS企業社長と、生きていた京介が一緒に居るところだった。

 

 

「まさかあの企業の女も亡国機業の一員? っ! 今すぐ他のみんなに伝えなければ!」

 

 

見ていた映像がきちんと録画されていることを確認し、箒はすぐに振り向いてアリーナにいるはずの仲間達の下へ向かおうとした。だが振り向いた矢先、箒の顔面には銃口が突きつけられていた。拳銃を持っているのは黒いマントを羽織りフードを被った女で、フードを深く被っていた為に顔が見えない。いきなりのことに箒が戸惑っていると、同じ服装をした女が次々に屋上に姿を現した。音も無く、瞬間移動して来たかのように。

 

 

「お前達は一体何者だ! 私に何の用だ!」

 

 

紅椿を展開する素振りを見せて箒は謎の黒尽くめの集団を威嚇し、一歩後ろに下がった。だが謎の集団は無言のまま拳銃を箒に向けたまま、ジリジリと寄って来ている。やがて箒が屋上の端まで追い込まれると、最初に箒の前に現れた女が底冷えするような声をフードの奥から響かせた。彼女がよく知る女性の声で。

 

 

「お迎えに上がりました、箒様」

 

 

「な、に? 貴女がどうしてこのような------ッ!?」

 

 

ゴンッという鈍い音と共に箒の後頭部に硬い何かが叩きつけられ、箒はドサッと倒れて意識を失った。それを黒尽くめの女達が取り囲み、一人の女がその身体を持ち上げる。

 

 

「認識番号CH/5-606よりラピッドボックス、姫様(クイーン)を確保した。これより帰還する」

 

 

『はーい、ラピッドボックス了解だよー! なるべく早く連れて帰って来てねー!』

 

 

箒を抱えた女が虚空に向けて声を掛けると、同じく虚空から陽気な女の返事が響いてきた。それを聞いた黒尽くめの女達は一人また一人と音も無く消えて行き、そして最後に残った一人は屋上から見えるIS学園を一望し呟く。このIS学園にいるある女教師と全く同じ瞳と、同じ声で。

 

 

「ここが我々の城……、箒様と一夏様のエデンの園。もうすぐ手に入る、もうすぐ……」

 

『CH/5-778、何をしている。早く帰還しろ』

 

「了解。……待っていろ、薄汚い豚共」

 

 

去り際に女はフードを外し外気にその素顔を晒した。短く切られた黒い髪、鋭く刺す様な視線、美人と形容される整った顔立ち。織斑千冬と全く同じ顔をした女はマントを翻し、その姿を消すのだった。まるで煙のように、幻のように。

 

 

 

 

篠ノ之箒行方不明事件は、翌日には世界中に知れ渡ることとなった。昨今の亡国機業の活動により世界では彼らが彼女を拉致したという話や、何処かの国が形振り構わなくなり誘拐したのだといった類の話が乱立していた。IS学園では織斑一夏に数人の護衛が常に付くように指令が下り、彼の行動の一つ一つに重苦しい監視の目が付いて回っている。こうした状況や京介の生存と裏切り、箒の誘拐、不甲斐無い自分への絶望という積み重なりから、一夏は日に日に疲弊していった。セシリア達が慰めようとしても上手く行かず、対照的に彼は不自然な程にIS操縦技術を向上させていく。まるで人が変わったかのように。

 

 

「みんなは……、千冬姉は俺が守る。箒も俺の手で助け出して見せる。だから……もっとお前の力を見せてくれ、白(・)騎(・)士(・)」

 

 

崩壊した第四アリーナ内で真っ白な全身装甲のISを見たという噂が広まったのは、それからすぐの事だった。

 

 

 

 

 

篠ノ之箒が目覚めた時、彼女は豪奢なベッドでふわふわの布団に包まれていた。上体を起こすと同時に部屋の電灯が付き、二十畳はあるであろう真っ白な部屋が彼女の視界に現れる。

 

 

「ここは……。私はあの時屋上で……っ!」

 

 

微かな記憶を辿るように手を額にやった箒は痛みに顔を顰め、自分の後頭部に触れた。そこには包帯が巻かれており、その感触で箒は自分が殴って気絶させられたのだと思い出した。

 

 

「一体誰が……? それにここは一体……」

 

「ここはラピッドボックス、我々の住む籠です」

 

「っ!?」

 

 

突如部屋中に響いた女の声に箒はビクッと身体を震わせ、周囲を見回す。だが部屋の中にはマイクのようなものも無ければ、人の影すら見当たらなかった。

 

 

「良くお眠りになっておられましたよ、箒様」

 

 

そしてそんな箒の目の前に、一人の女が姿を現した。学園の屋上で見た黒いマントの女、フードを外している為今は織斑千冬の顔がむき出しになっている。

 

 

「織斑先生……これは一体どういうことなのですか!? ここは何処なんです!?」

 

「ですからここはラピッドボックス、創造主様の仮住まいです。そして私は織斑千冬であり織斑千冬ではありません。認識番号CH/1-02、二番目に開発されたクローン体です」

 

「クローン体!? 何がどうなっているというのだ……私は夢でも見ているのか?」

 

 

何がなんだか分からず頭を抱える箒を千冬クローンは感情の無い目で見つめ、口を開く。感情の無い声色、その声が嫌でも箒の耳朶を打つ。

 

 

「私は創造主様より箒様の身の回りの世話をするよう命令されています。箒様が快適に暮らせるように致しますので、何なりとお申し付けを」

 

「っ! その創造主様というのは誰だ。まさかとは思うが……」

 

「箒様の姉でらっしゃいます、篠ノ之束様のことでございます」

 

「やはり……そうか。一体あの人は何をしようとしている! 私をこんなところに連れ去って、織斑先生のクローンまで創り、何を考えているのだ!」

 

「全ては箒様と一夏様、そして束様と千冬様の世界を創る為です。エデンの園、そこに暮らすアダムとイヴに貴女方はなるのです」

 

 

千冬クローンの語る内容に箒は愕然とし、そこでラウラから見せられた京介と一夏のやり取りを収めた映像を思い出した。もしかしたら、と。

 

 

「では京介の語っていた内容は、あの人と織斑先生が彼にしたことは本当なのか!?」

 

「ああ、浦城京介ですか。彼は蛇です、イヴを唆し禁断の果実を食べさせ楽園を追い出される原因となる邪魔者。だから創造主様と千冬様は彼を消そうとなさいました。どちらにしろ、世界でISを扱える男子は一夏様一人で良いのですから何時か死ぬ運命なのは変わりませんが」

 

「そんな……私の所為で……」

 

 

箒は頭を抱えると、キッと千冬クローンを睨みつけた。だがクローンが懐から取り出した待機状態の紅椿を目にし、ハッとして右手首に視線を向ける。そこにあるはずのISは無く、彼女は抵抗出来ない事実を直視させられた。

 

 

「箒様がお気になさる必要は全くございません。何も消された男は浦城京介一人だけでは無いのですから。彼の姉を始め、我々の邪魔となる人間は皆全て消えてもらっています。死ななくともまともな生活が送れない程度の者もいますが。まあそこは問題ではありません」

 

「っ……そうやって、そうやってお前達は何人の人を殺そうとしているのだ! 何の罪も無い人を、自分の身勝手な欲で殺すことなど……っ!」

 

「時が来れば、創造主様達四人以外の全うな人間は全て死に絶えることになるでしょう。我々は創造主様の忠実な兵士、命令通り泥人形(ゴーレム)を従え刃を振るい、世界を地獄の業火で燃やし尽くすのです。そして残された土地に、箒様と一夏様の国を、楽園を生み出すのです」

 

「そんなもの私はいらぬ! あの人と話をさせろ、こんな馬鹿げたことは私が止めさせる!」

 

 

束のところへ案内しろと言う箒を前に千冬クローンは少し考え込むような素振りを見せた後、ゆっくりと頭を振ってその命令を拒否した。その顔には、僅かながら呆れのような色が見える。

 

 

「現在創造主様は世界を破壊する雷を創っておられます。恐らく箒様といえどお会いにはなられないでしょう。……そして箒様は今馬鹿げたことと仰いましたが、すぐに理解頂けますよ。創造主様がやろうとしていることの崇高さを、それが貴女方にとって受け止めきれない程の幸せを与えてくださることを。それでは私は一度ここで失礼します、もう少ししたらお食事をお持ちいたします。それでは」

 

 

「っ! 待て! そんなもの、過ぎた幸せは不幸にしかならないのだぞ! ……何と言うことだ……!」

 

 

音も無く消えいく千冬クローンに伸ばした手は空を掴み、箒はベッドを殴りつけた。何も無い白い部屋の中に何か無いかと探し回るもベッドしかなく、箒は壁をドンッと叩いて叫ぶ。聞いているかも分からない自分の姉に向けて。

 

 

「ここから出せ! 出してくれ! 私は、私はこんなこと望んではいない! 自分の幸せを他人に押し付けないでくれ! 私は……そんなこと、京介を……うあああああああああッッ!!」

 

 

嗚咽混じりの叫びが反響し、箒は壁に手を当てたままゆっくりと膝を付いた。ポタポタと零れ落ちた涙が床に落ち、箒は顔を手で覆う。疑問が確信へと変わった時、彼女に出来ることは何も無かった。

 

 

 

 

箒が目覚めた頃、ラピッドボックスと呼ばれる束の拠点では大量の千冬クローンがそれぞれに割り振られたISに乗り込み調整を行っていた。彼女達は皆大量生産品であり、箒を攫ったクローンとは違い一般的な思考能力を有していない。与えられた命令をただ遂行する人形であり、そしてその命令はISによる世界への攻撃だった。束の持つISによる軍隊の七割はゴーレムⅠ、ゴーレムⅢという無人ISで構成されている。これらのISはただの兵士クラスであり、思考能力を持たぬ千冬クローンはその一つ上に位置している。そしてその二つを纏めるのが、思考能力を有している千冬クローン達指揮官クラスなのであった。

 

 

「各クローン体に告ぐ! 各自自分のISの調整を終え次第、指定されたポイントへの移動を開始せよ! 我々の戦いの日はすぐそこまで来ている! 全ては創造主様の為、楽園の為世界を地獄の業火で焼き尽くすのだ!」

 

 

一人の指揮官クラスのクローンの号令の下、一人、また一人とISを待機状態に戻したクローンがラピッドボックスから出て行く。その列から生み出される足音は地獄の蓋が開きつつある音であり、その音は途切れることなく続くのであった。号令を出したクローンはその場を離れると別の区画へと赴き、キャットウォークから見下ろせる広大な敷地へと出る。そこにも大量の千冬クローンが並んでおり、彼女達は皆直立不動で立っていた。

 

 

「全指揮官へと告ぐ! 各自量(・)産(・)型(・)白(・)式(・)及(・)び(・)紅(・)椿(・)の最終調整を行い、戦いの準備をせよ! 我々の戦う時は、もうすぐだ!」

 

 

その一言で並んでいた指揮官達は一斉にISを展開し、一瞬にしてクローン達は白と紅の装甲をした戦士にする。全身を装甲に包まれた戦士達はゆっくりと歩き出し消えていく、戦いの準備をする為に。

 

 

 

世界の全てを見下ろし、篠ノ之束は嗤う。世界の全てを憎み、織斑千冬は怒る。全てを知らせれ、篠ノ之箒は嘆く。全てを聞かされ、浦城京介は全てを憎む。織斑一夏は何も知らない。姉の思惑も、世界の裏側も、自分がこれから辿る道も、何もかも。彼は迎える、自らの歪みが大きくなっていく時を。誰にも気付かれず、自らも気付かず、ただの道具と成り下がろうとしている。

 

 

歪み歪まされた人間達の歩み道は、今漸く交わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫なの? 貴方の身体はもう前のように動かないし、ISだって……」

 

 

テキサスに存在するとあるIS研究施設、そこではISと人間の神経接続について研究を行っていた。IS展開時に操縦者と神経を接続し、より早い思考伝達を行おうという考えが発端である。その研究施設の所長は日系人が勤めており、その所長は施設地下にある特殊区画である人物と会話していた。その人物を見つめる所長の目は、子を心配する母親そのものだ。

 

 

「構わない。もうどうしようもない段階まで来ちまってるなら、俺が……俺とコ(・)イ(・)ツ(・)が何とかするしかないじゃねえか」

 

「確かにそのワンオフ・アビリティーを発動すれば貴方は無敵よ。けれど、それを操る貴方がそんな状態じゃあ。満足に歩けもしないのよ!」

 

「だけど俺がやらねえと……亡国機業の連中は危険なんだろ、母さん!」

 

 

所長の------自身の母親の心配を他所に、その少年はお気に入りのジャケットに袖を通した。その手には、かつて想い人から受け取った扇子が握られている。ギリッと歯を喰いしばり、その少年・白鷺アキラは戦いへの一歩を踏み出すのだった。

 

 

「刀奈。今度は、俺がお前を守るからな」

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