※この作品はR-18です。

インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET-   作:REDALERT

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強兵達

 

IS学園が篠ノ之束有する無人IS【ゴーレムⅢ】の軍団に占拠された翌日から、世界各地で大規模なISと各国軍による戦闘が始まった。通常ならばISに対して役に立たない通常兵器も、ゴーレムⅢの持つ妨害装置が相互作用する御蔭である程度の効果を上げることが出来ている。だがそれでも甚大な被害は避けられず、世界は数少ないISの実験用コアまで持ち出してまで戦わなければならなかった。そして混迷極まる各地の戦場で、ある噂が流れ始める。

 

 

一騎当千の働きをする異形のIS達と、それを束ねる幽霊が存在すると。

 

 

 

 

------場所はニューヨーク、アメリカ合衆国最大の都市であり世界最高水準の世界都市でもあったこの場所も、今では無人機の軍団に蹂躙され見る影も無くなっていた。国家代表であるイーリス・コーリングは大統領の護衛に回され、他のIS乗り達も別の州で戦っているか既に死亡しており、荒廃したニューヨークには孤立した州兵の一団しか残っていない。彼らは僅かな弾薬とISに対して効果の薄い通常兵器のみで何とか生き延びていたが、それも限界に近づきつつあった。だが彼らは全滅することなく、三日後に別の部隊に救出される。救出部隊がニューヨークに到着した時、そこには無人機の残骸だけが散らばっていた。その事について誰も語ることは無く、聞き出せたのは「本物のモンスターを見た」という謎の一言だけだった。

 

 

 

そして開戦から数日が経ったある日、太平洋上を一隻の大型タンカーが航行していた。そのタンカーの航路上には地図にない巨大な謎のドーム状をした建造物があり、その外周には大量のゴーレムⅠとⅢが立ち並んでいる。その数は、本来は白いドームの外壁を黒く塗り潰してしまう程。やがてタンカーが近づいて行くにつれて、タンカーの甲板上に三人の人影が現れた。その三人は女性で、皆同じデザインの灰色の飛行服のようなISスーツを身に纏っている。違うのは、三人の内二人はISスーツの上から何かを羽織っているだけだ。

 

 

「……で、あれが例のIS工場って訳? あんなデッカイの造っといて誰も気付かなかったって冗談でしょ?」

 

 

四人の中で一際背が高くボロボロのポンチョを被った女が気だるそうに声を上げると、その隣に立っていた赤い雨合羽を着た小柄な女がボソボソと小さな声で返事をする。波の音で聞こえなくなる程小さな声だ。

 

 

「……実際、誰も気付かなかったから。だから私達が、ここまで来てる」

 

「え? 何か言った? 波の音で聞こえないんだけど?」

 

「……もう良い」

 

「あら、そう? 悪いわね」

 

 

呆れた様子の赤い雨合羽の女にポンチョの女は首を傾げた後、反対側に立っていた髪の長い女を一瞥する。前髪も長い彼女は目の部分も髪で隠されており、実際に見えているのはモグモグとチョコスティックを食べている口元だけだ。一本食べ終えればまた次のスティックを腰のポーチから取り出し、その度に足元に捨てられた袋が風で飛ばされて行く光景を前にポンチョの女は深いため息をつく。

 

 

「ちょっと。行儀悪いから、食べんなら全部終わらしてから食べなさいよ」

 

 

「んむ……、分かってるけど今食べとかないと本番で力が出ないから。あむ、あと一本……」

 

 

そう言って前髪の長い女が新しいチョコスティックを取り出すと、ポンチョの女はそれを横から取り上げて自分の口に運んだ。一口で口の中に捻じ込み、モグモグと大きく顎を動かして飲み込む。そしてポンチョの女が前髪の長い女に向き直すと、前髪越しでも分かる程の鋭い視線がポンチョの女に向けられていた。食い物の恨みは恐ろしいとでも言わんばかりに。

 

 

「悪かったわね、私もお腹減ってたのよ。帰ったらまた新しいの買ってあげるから仕事しなさい」

 

「……給料の三か月分は奢ってもらうから」

 

「はいはい、ダンボール三つ分ね。折角ゴーストが自分の船を貸して仕事までくれたんだ、期待以上の働きをしなきゃレッシィに殺されちゃうよ。ノーラ、ミラージュ、行くよ!」

 

 

そうポンチョの女が声を上げた途端、ドームから一斉にゴーレム達が飛び上がった。弾け飛ぶポップコーンのように動き出す無人機は、空を黒く塗り潰す程だ。その圧倒的な数を前に、三人の女達は妖しい笑みを浮かべて見せる。まるでまだまだ物足りないとでも言うように。

 

 

「私とミラージュで先行する。ノーラは船が沈まないように、見張り宜しくぅ!」

 

 

「……何時か殺す」

 

 

ポンチョの女が赤い雨合羽の女------ノーラの頭を軽く叩くと、その隣を前髪の長い女・ミラージュが颯爽と駆けて行った。彼女が甲板の先から海に向かって飛び降りると、少し遅れてライムグリーン色の装甲をしたISが猛スピードで海上を移動し上昇して行く。その両腕は翼のようになっており、その翼を構成している羽根型のフェザー・ミサイル一つひとつが躍動し獲物を狙っていた。【ハルピュイア】、亡国機業が誇るエースの一人【ミラージュ・サンガ】操る掠(・)め(・)る(・)者(・)。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「それじゃ私も行きますか。また蛇(・)の(・)手(・)入(・)れ(・)しなくちゃ」

 

 

ポンチョの女がそう言うと、背中側から溢れ出したOD色の粒子が天高く舞い上がりその身体を包み込んだ。遠くから見れば、タンカーの甲板からOD色の光る塔が立っているように見えるだろう。その粒子が晴れた時、甲板上にはOD色の装甲をした不気味なISが浮いていた。細くしなやかな肢体を包む装甲、蛇の頭を模した頭部、そしてうなじの部分に接続されているユニットから伸びる十六本の蛇型の腕(スネーク・アーム)。ミラージュと同じ亡国機業のエースの一人・【蛇の女(エキドナ)】、そのISもまた同じ名を持つ。

 

 

 

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ミラージュとエキドナの二人がタンカー------ゴースト隊傘下の旗艦ヴァリアントから飛び出すと、一人甲板に残っていたノーラは暇そうに雨合羽の端を持って弄っていた。だがすぐに戦闘による爆音が響き出すと、気だるそうに身体を揺らしながら右腕を天に突き上げる。その手首には銀色のブレスレットが巻かれていて、狼のマークをしたタグが付いていた。そのタグから灰色の粒子が溢れると、その濁流はノーラの小柄な肉体を包み込む。そうして灰色の粒子が晴れた時、そこに立っていた灰色の装甲をしたISは狼人間を彷彿とさせる姿をしていた。頭部、肩部、そして腕部に狼の頭を模したそのISの名は【オルトロス】、ミラージュ、エキドナに続く亡国機業のエースの一人・【ノーラ・ノヴァ・ザカリエフ】操る双頭の犬。

 

 

 

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「……一機でも打ち洩らしたら、どっちも裸にしてシベリアに埋めてやる」

 

 

波の音に掻き消されてしまう程の声で呟いた後、ノーラは再び退屈そうに両腕を組むのだった。

 

 

 

 

 

同じ頃、ゴースト率いる亡国機業実働隊は日本各地に展開し、次々とゴーレムの軍団を駆逐していた。ゴーレムは容赦が無く、邪魔な建物は破壊し逃げ惑う民間人すらもその手に掛けている。そしてそれは、ある意味ではゴースト達も同じだった。決して民間人を助けず、建物も必要とあれば破壊し、唯敵を倒していくのみ。それに巻き込まれ人が死んだとしても、彼らは何も感じない。

 

 

「隊長、エキドナ達が例の建物へ攻撃を始めたようです。スコール隊やラドミラ隊も現地軍のサポートに徹しています」

 

「そうか。……アナスタシア、付近を偵察しろ。五分後に出発する」

 

「了解」

 

 

辺り一面が崩落したビルで囲まれた場所で、ゴースト隊の面々は焼け焦げた民間人の遺体やゴーレムの破片を見下ろしていた。彼らがゴーレムを発見した時点で民間人は殺されており、そのゴーレムもまたゴースト達からすれば雑魚に過ぎなかったのである。ゴーストはアナスタシアを偵察に出し、短いながらも休息の時間を得た。その顔には僅かながらも疲れが見えており、彼は持っていたペットボトルの中身が無くなると乱暴にそれを投げ捨てる。その様子を見ていたレッシィはゴーストの隣に並ぶと、ある提案をした。

 

 

「隊長、そろそろ隠れ家まで後退した方が良いのではないでしょうか。ISのエネルギーは兎も角、装甲や操縦者の体力には限界があります。長期的な戦いが行われるのが確定している以上、一定のラインで補給を行わねばやられるのはこちらなのですよ」

 

 

「……分かってる、だが後退はしない。ここから西に行ったところにスコールが使っていた隠れ家がある、ガレージ付きのだ。そこならISの整備も行えるだろう」

 

 

ゴーストは言いながら瓦礫に寄り掛かると、疲れたと言わんばかりに空を仰いだ。その姿を見たレッシィが何か言葉を掛けようとすると、そこで偵察に出ていたアナスタシアが戻って来た。同時に民間人の生き残りがいないか捜していたロザミアも戻り、レッシィは開き掛けた口を閉じる。

 

 

「隊長、ここから数キロ圏内に敵ISの反応は有りません。一部避難民が自衛隊に誘導されているだけです」

 

「なら俺達もここから移動する。スコールが使っていた隠れ家のガレージが仕えるようなら、そこで整備だ。ロザミア、生き残りはいたか」

 

「いいえ隊長、死体だけです。今まで色々見てきましたけど、ここまで酷いのは初めてよ」

 

「奴らにとって自分達意外の人間はゴキブリみたいなものだからな。見つければ、必ず処(・)分(・)する」

 

「あー……、本当嫌になる。先導します、隊長」

 

 

うんざりした様子のロザミアが先に歩き出し、それにアナスタシアが続く。そしてゴーストがゆっくりと二人の後に付いて行く様に歩き出すと、レッシィはその背中を見つめ言い知れぬ不安に襲われるのだった。

 

 

(……織斑千冬も、篠ノ之束も何時か必ず現れるはずだ。連中が日本以外に拠点を作っていても奴らがそこに行くとは思えねえ。学園から脱出した専用機持ちの中に織斑一夏が居なかったということは、アイツも拉致されたか或いは……。どちらにしろ学園の連中を監視していればチャンスは巡ってくるはず。奴らが次に俺の前に顔を見せた時は、必ず俺が殺してやる……)

 

 

確証も何も無い中でも、ゴーストの心の中には復讐するべき相手と合間見える時が近いという自信があった。だがそこに至るまでの道筋は険しく、ゴースト自身の精神は逸る気持ちに囚われ不要な心労が重なっている。自らも気付かぬ内に自らを責め上げ、ゴーストは復讐の一念を支えに歩いていた。

 

 

 

 

 

 

IS学園を脱出してから早一週間が経ち、楯無達専用機持ち達はダリル・ケイシー、フォルテ・サファイア両名が母国へと帰還し、アキラと謎の二人組を加えた九名で行動していた。移動ルートに関しては赤いIS【素戔男尊】を操る男の指示に従っていたものの、ここ二、三日は放棄された小さな旅館の中で彼女達は暮らしている。旅館の屋根には梯子が掛けられており、黒い瓦の上では凰鈴音が後頭部で手を組んで寝転がっていた。すると暇そうに空を眺めていた鈴の耳に、屋根の下側から彼女を呼ぶ声が響いた。少し遅れて、背後を誰かが登ってくる音も。

 

 

「鈴、交代だよ。おにぎり作ってきたけど、食べる?」

 

 

「サンキュ、シャルロット。ん、おいしそ」

 

 

ヒョコッと顔を出したシャルロットに安堵した表情を見せると、鈴は彼女が肩から提げていた鞄を受け取り中身を覗き込んだ。ラップに包まれた複数のおにぎりを取り出し、鈴はその内の一つを隣に座ったシャルロットに差し出した。

 

 

「あ、僕は良いよ。さっき食べてきたから」

 

 

「そう? じゃあありがたく頂くわ、旅館に居た人には悪いけど」

 

 

そう言って鈴はおにぎりを口に運び、シャルロットは屋根から見える光景にため息をついた。二人の目の前には、未だ炎や黒煙を吐き出す街が見えている。IS学園からは大きく離れている場所だが、二人の視線は学園がある方向へと向いていた。

 

 

「……他のみんなは無事なのかな」

 

「どうかしらね、先生や国連軍の人達が一緒なら酷いことにはなってなさそうだけど」

 

「うん。……ねえ鈴、どうしてこんなことになっちゃったのかな。僕達」

 

 

屋根の上で体育座りをしながら、シャルロットは腕に口元を埋めた。その姿は少し疲れているように見えた。当然だと鈴は思った。今まで当然だと思っていた日常が少しずつ音を立てて崩れ落ち、そして突然全てが根底から破壊されてしまったのだから。この世界の何処に友人がテロリストになったり拉致されたりいきなり豹変して攻撃してきたりする目に合う人がいようか。

 

 

「そんなのアタシだって知りたいわよ。けど今のアタシ達に出来ることは無いの。今は楯無さんとかあの訳の分からない二人組について行動するしかないのよ」

 

「分かってるけど……もし、もしだよ鈴。もし今京介が僕達に会ったら、京介は僕達を撃つかな」

 

「……さあね、それは私にも分からないわ。ただアイツは千冬さんや篠ノ之博士を心底憎んでる。その二人が今回の戦争の原因となった今だったら、アイツは私達には目もくれないかもしれないわね」

 

「……そっか」

 

 

感情の読み取れない返事をしたシャルロットの肩を軽く叩いてから、鈴は彼女を残して屋根から下りた。何時間も屋根の上でISのセンサーを使って見張りをしていたのだ、身体も痛いし疲れも溜まっている。肩を回しながら大きく欠伸をした鈴は旅館の中に入り、布団を敷いてある和室へと入った。そこでは簪とラウラが座っており、ラウラは携帯端末片手に何か調べ物をしているようだった。

 

 

「あ、鈴さん……お疲れ様」

 

「ありがと。はぁ~……ラウラは何してんの?」

 

「軍の部下だった人から情報を貰って、整理してる。今、何処も混乱しててちゃんとした情報はこっち側じゃ手に入らないから……」

 

「そっか。楯無さんとかは?」

 

 

簪と言葉を交しながら鈴が布団に潜り込むと、それに答えたのは簪ではなくラウラだった。丁度やっていた事が終わったのか、携帯端末の電源を落としている。

 

 

「生徒会長は今白鷺と共に例の二人組と話をしている。我々の今後取るべき道と、奴らの正体も」

 

「本来は国に帰ってなきゃいけないはずの代表候補生が一部を除いてみんなまだ日本にいるんだもんねぇ。まあ今のこの状況で無事に帰れるかも分からないけど。……あ、ラウラ、アンタそろそろセシリアと見張り交代じゃないの?」

 

「む、そうだな。では行って来るとしよう」

 

 

そう言ってラウラが部屋を出て行くと、鈴は頭まですっぽりと布団の中に入って目を瞑った。休める時に休んでおかねば、いざという時に上手く動けなくなってしまう原因となる。現在は味方も少なく、ISの整備もまともに出来ない状況なのだから。殆どの戦闘を謎の二人組に任せているとしても、何時までも頼りきっている訳にもいかない。彼らの目的と正体が何であれ、最低限自分の身は自分で守りきれるようでなければならないのだ。

 

 

(いっその事……京介が保護でもしてくんないかしらねぇ。……無理か)

 

「お休み、簪」

 

「あ……うん」

 

 

先の事を考えつつもどうにも出来ない現状から敢えて目を逸らし、鈴は唯己の身を休める為に眠るのだった。

 

 

 

 

鈴達のいる部屋から少し離れた場所にある旅館の大広間、そこには更識楯無と恋人の白鷺アキラ、そして素顔を晒した一文字真とISを纏ったままのクラウ・アガトラムがいた。四人の間には楯無の携帯端末が置かれており、画面には旅館周辺の地図が表示されている。

 

 

「IS学園から脱出してもう一週間、まだライフラインが奇跡的に生きているからこうやって隠れることが出来ているけど長くは持たないわ。いい加減、貴方達が私達を何処に連れて行こうとしているのか教えてくれないかしら。味方と言ってあの無人機と戦っているのを見ていても、正体が分からないんじゃ何時手の平を返されるかなんて考えてしまうもの」

 

 

開いた扇子で口元を隠している楯無の言葉に、真はどうしたものかと頬を掻いた。既に自分の正体は明かしているが、肝心のクラウが頑なに正体を明かそうとしないのだ。今は何とか着いて来て貰っているが、そろそろ限界が近づいているのは彼も分かっているはず。真が楯無から視線を横に動かせば、そこには拳銃を持ったアキラの姿がある。キンバーカスタムTLEⅡ、45口径の弾丸を発射する自動拳銃だ。どうやって日本に持ち込んだのかは不明だが、兎に角彼はそれを見せ付けることによってクラウと真の動きを牽制する意図があるようだった。

 

 

「いや、まあな、こっちとしても円滑に仲良くやっていきたいとは思ってんだけど……クラウよぉ、流石に常時IS展開してんのはやっぱマズイって。怖いし」

 

「……だがここで正体を明かして余計な時間を喰うのは良くない」

 

「お前が顔見せて正体話せばそれで終わりだろ? 俺もう嫌だぜチラチラ銃口見せ付けられんのはさ!」

 

 

懇願する真を前に渋るクラウを見て、楯無はアキラに拳銃を収めるよう頼んだ。アキラが素直に腰のホルスターに拳銃を収めると、楯無は扇子を閉じクラウに向け声を掛ける。

 

 

「貴方が正体を明かしたことで、何か我々に不都合なことでもあるのかしら? あったとしても今この状況で大事になるようなこととは思えないのだけど……、今更ISを扱える男性の正体が誰であれ気にしないわ」

 

 

「……なら顔を見せよう。そちらにとって歓迎されるような人間じゃないんだがな、俺は」

 

 

そう言ってクラウが素戔男尊を赤い粒子に変え生身の身体を晒すと、その顔を見た楯無は珍しく目を大きくさせ驚いた。目の前に現れたISの操縦者の顔が、浦城京介と瓜二つだったからだ。その楯無の様子を前に、クラウは淡々と語りだす。

 

 

「驚いたか? 残念ながら俺は整形した赤の他人でもマスクを被っている訳でもない。正真正銘浦城京介その人さ、クローン人間なんだ」

 

「クローン……って、そんな事誰が」

 

「篠ノ之束さ。俺は奴の手によって生み出され、そして奴の下から逃げ出した」

 

 

事実を語るクラウは一度アキラを一瞥すると、彼の事も知っているとアキラについて語りだした。

 

 

「そっちの男についても記録を読んだことがある。白鷺アキラ、篠ノ之束が一番最初に発見した異(・)端(・)者(・)。織斑千冬が襲撃し生死不明にはなっていたが、生きていたとは思わなかった」

 

「生憎な。背骨を斬られてISの補助無しじゃまともに歩けもしないが」

 

「それに関してはすまないと思っている、だが二年前じゃ俺はまだ生まれてもいない。……そもそも俺は本物の浦城京介を秘密裏に始末した場合の代替人として造られた」

 

「代替人?」

 

「ああ、篠ノ之束と織斑千冬の行動をサポートする為に浦(・)城(・)京(・)介(・)の(・)フ(・)リ(・)をして学園に潜伏する予定だった。織斑千冬の独断によってその計画は白紙になったが。俺はそのままISのパイロットとして訓練を受けさせられていたが……自分と同じ顔をした人間を容易に殺せるような奴と一緒にいられる奴が何処にいる?」

 

「だから彼女の下から逃げ出したのね」

 

「ああ。そこで篠ノ之束製のISとコアを二つ、それに奴が複数持つラボ等のデータ一式をコピーして敷島という男のところに転がり込んだんだ」

 

 

そこでクラウは敷島博士が伊弉諾を開発したことから自分達のISの製作を依頼し、そこで真と知り合い協力を得たという今現在に至る過程を語った。その内容は突飛なものだったが楯無やアキラが信じるには十分な内容であり、クラウが持つ篠ノ之束に関するデータも譲り受けた。

 

 

「成る程、貴方達に関する事は分かったわ。じゃあこれから一体どうしようとしている訳なのか、教えてもらえるかしら」

 

 

「一度敷島博士のところに戻り、そちらのISの整備と改造を行う。敵は無人機だけじゃないから今のままの装備では戦い続けることは難しい。設備は整っているから問題無いが……」

 

 

クラウは言い淀むと、楯無の携帯端末の画面をタッチし地図を動かした。現在地から目的地までのGPS機能を使用し、自分達が目指すべき場所を示す。そこは今いる所から数百キロ離れた所だった。

 

 

「随分遠いところにあるのね」

 

「ああ、田舎でもなければ奴らの目に留まる」

 

「田舎で悪かったな」

 

 

イラついた様子の真にクラウは端末を見たまま片手を上げて返事を返し、言葉を続ける。

 

 

「ISを使って行くなら簡単だが目立つ。ステルスモードを使ったとしても長距離の移動には向かないし無人機に探知機でも積まれていたらアウトだ」

 

「それに民間人に紛れていても連中はお構いなしに攻撃してくる。夜間に隠れながら移動するしかないな」

 

「なら今日か明日には移動した方が良いようね。他の子達に話してくるわ」

 

 

そう言って楯無が大広間から出て行くと、残された三人の間に沈黙が訪れた。世界でも公式には二人しか確認されていないISを起動出来る男性が、三人も揃っている。しかもその内の一人はクローン人間で、公表されれば各国が手を伸ばし取り合いになる大事にまで発展しかねない。そんな中その沈黙を破ったのは、真だった。その目はアキラに向いており、アキラもまた自らに向けられた目線に何事かと顔を顰めている。

 

 

「何だ」

 

 

「ああ、いや、その……あの女の子とはどうやって知り合ったのかな、なんて……はは」

 

 

乾いた笑い声を上げる真にため息をつき返すと、アキラはだるそうに二人に背を向けて歩き出した。腰の部分に装着してある機械のサポーターが痛々しく見え、真は変なことを聞いてしまったかとクラウに助けを求める視線を送る。だがクラウ自身は楯無が置いて行った端末の画面と睨み合っており、真の視線には気付かない。だがアキラは背を向けたまま、真のふざけた問いに答えた。

 

 

「親同士が知り合いで、刀奈……楯無のアメリカ旅行に付き合ったのが初めだ。俺は元々向こうに住んでたからな」

 

「あ、ああ、そうなのか」

 

「くだらないこと考えてる暇があったら自分に出来ることを探したらどうだ。見張り二回分増やすとかな」

 

 

フッと真を鼻で笑ってアキラが大広間から出て行くと、真はムッとした表情を浮かべてクラウの視界から携帯端末を奪い取る。いきなりのことにクラウが首を傾げ真に向けて肩を竦めて見せると、真は端末の画面を見たままクラウには一瞥もくれなかった。

 

 

「何だよ」

 

「俺も見る」

 

「もうルートは考えたぞ」

 

「じゃあ返す」

 

 

投げ返された端末を慌ててクラウがキャッチすると、真はズンズンと肩を怒らせながら乱暴に襖を開いて大広間を出て行ってしまう。

 

 

「どうしたんだ、アイツ……?」

 

 

進行ルートを考える事で頭が一杯だったクラウには今の流れがさっぱり理解出来ず、暫く考えてみたもののやはり分からないという結論に達した彼は、一先ず端末を楯無に返すべく自らも大広間を出て行くのだった。

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