インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
『浦城君! 距離を取って下さい!!』
山田先生の叫びが耳朶を打ち、俺は背中から煙を噴いている凱龍をその場から遠ざけた。スラスターを多方向へと連続して噴かし、その蛇行する軌跡を追うようにレーザーが地面を焼いていく。
「~~~~~ッッ!!」
声に成らない叫びを上げながら機体を上昇させ、俺は再び太陽による目眩ましを試みる。だが迫る四基のビットは迷わず追撃を続け、結局空中で無様にレーザーで脚を焼かれる結果だけが残った。バランスを崩し錐揉み回転で落ちていく機体を何とか修正しようとしても、脅すように視界に入り込むビットに思うように修正出来ない。
『京介! 飛べ!』
耳朶を打つ一夏の声。土壇場でスラスターの逆噴射に成功すると、俺は脚を上空に向けたまま両手で地面に着地し、そのままバク転の要領で更に後方へ距離を取る。凱龍のハイパーセンサーが背部スラスターの半壊を告げ、同時にシールドエネルギーの残量が半分になったことも告げた。
(背中のスラスターは外す! エネルギーを両手脚に回して、あとは……クソッ、ジリ貧じゃねえか)
『浦城君!
「分かってますよ! ただ背中のスラスターはもうオシャカなんです!」
「ふふふ……、打つ手無しと言った様子ですわね! 今なら降伏を認めてあげてもよろしくてよ!」
背部スラスターを外した凱龍を見下ろす様に、
「誰が降伏なんかするもんかよ……!」
「まだ、勝てるとでも?」
「当然だ」
「愚かですわね」
「知ってるさッ!」
「なら、焼き尽くして差し上げますわ!」
瞬間、脚部スラスターを全開にし加速。同時、八基のビットが包囲網を形成し青いレーザーを放つ。その一部を叢雲の拳で反射し無理矢理空間を作れば、俺はその空間を通りながら脚をスラスターの噴射を利用して振り、砂を大量に巻き上げた。即席の煙幕だ。
「小賢しいことをしてっ……このぉ!!」
オルコットの怒号と共に、八基のビット・レーザーの嵐が煙幕を突き抜ける。狙うこともせず、煙幕の中全てを焼き尽くすが如き攻撃。最早自分の勝ちは確定している、そう思うが故の雑な攻撃。レーザーの嵐が止むまで、俺は煙幕の【外】で両手を構えていた。煙幕を突き抜けてくるレーザーは叢雲の拳で反射し、他は必要最低限の動作で躱す。本当に小賢しいと自分でも思うくらいだ。
そしてレーザーが止むと同時に、加速。もう殆ど薄れていた煙幕を身体全体で切り裂くように飛び出す。目の前にいるは、エネルギーが切れたのであろう八基のビットをアーマーへと戻そうとしていたオルコット、そしてその驚愕した顔。
「貴方、まだっ!?」
「油断してくれて
下から上へ、空へ向けて俺は飛ぶ。両拳を握り締め、青い目標に向けて一直線に。視界の隅で、ブルー・ティアーズの腰部アーマーから二つのビットが外れる。刹那、凱龍のハイパーセンサーがその正体を暴いた。
(レーザーじゃない、ミサイル……ッ!)
「警戒が足りないのが、貴方の敗因ですわよ!」
接近されたことに僅かに表情を強張らせているオルコットの言葉と共に、二発のミサイル・ビットが俺へと迫る。直撃コースで向かって来るそれを迎撃する武器は凱龍に無い。だから俺は、敢えてソレを
「この距離ならビットは使えない!」
「使えますわ!」
彼我の距離約5m。そこで腰のアーマーに接続されていたビット八基が分離し、オルコットの周辺に展開する。その八つの砲門が全て俺の方を向き、一斉に瞬いた。
「うおおおおおッッ!!」
叫びと共に、俺は両足のスラスター
「無茶苦茶な……無茶苦茶ですわ、あな------」
そして漸く、俺の右腕がオルコットの左頬を打ち抜いた。バランスを崩すブルー・ティアーズに組み付き、そのままアリーナの内壁へと加速する。その間にも俺は、両手の叢雲の拳でブルー・ティアーズの装甲へダメージを与えていた。だが明らかに熱量が少ない。今の突撃までの無理な行動が仇となったのか、何処か故障してしまったのかもしれない。若しくは、足りないエネルギーをIS側が勝手にスラスターに回しているか。
「壁にぶつけて……俺が勝つ!」
「くっ……貴方はどうして、貴方は何故そこまでボロボロになれるのですか!? そんなにボロボロになって勝ったとしても、何の得にも------あうっ!」
アリーナの内壁に激突した俺とオルコットは、そのままドサッと地面へと落ちた。周囲にはエネルギーの切れたビットが散乱しており、やがて一つ、また一つと粒子と消えていく。俺は黒煙を上げる凱龍を立ち上がらせ、オルコットを立たせる。
「得なんかいらねえさ。他人の努力を否定するようなことを言ったお前を倒せれば、それだけでッ!」
ゴンッ、と威力の無い金属同士のぶつかる音がブルー・ティアーズの装甲から響く。振るった左腕をダラリと垂らしながら、俺は次に振るう右腕を構える。オルコットもそれを防ごうとして、俺の右腕を空いている手で押さえてくる。それを振り払う力は、ない。
「他人の為でしょう……? 何故貴方がそこまで怒る必要が……、今更ながら疑問に思えてきましたわ」
「この学園に入学した生徒ってのは、みんな努力して来たんだぞ。努力って言うのは、努力って言うのは誰もが出来ることだ。小さかろうが大きかろうが努力は努力、それは誰も馬鹿にしちゃ、見下しちゃいけねえんだ……よっ」
再び、重い金属音。真正面から睨みあう俺とオルコット。もうお互いに武器は無い。戦いの終わりが見えてきたからか、俺は何故かオルコットと話したいと思うようになっていた。戦いの前に、山田先生と彼女のことを調べた時に知った事実を確かめたくなっていた。
「お前だって、すげえ努力してるじゃねえか。家を守る為に努力して、代表候補生になる為に努力して、正直今になって、お前のこと凄いって素直に思えるよ!」
「わっ、私は、他の貴方達のような人達とは違います! 両親を、親を亡くしてからのあの辛さが、引き継ぐものの大きさが、貴方に分かるとでも言うのですか!?」
「家族を亡くした辛さなら、俺にだって分かる! 姉さんを、たった一人の家族を俺も亡くした! このISも、俺の立場も、ある意味姉さんの後釜みてえなもんなんだよ!」
叢雲の拳が停止する。オルコットの視線も固まり、俺は彼女を壁に押し付けて言葉を続けた。
「馬鹿だよ、俺もお前も。相手のことなんか、表面だけじゃ、短い会話だけじゃ何にも分からないって言うのに。俺はお前を他人の努力を否定する最悪な奴だって決め付けてた、実際は、たった一人で頑張ってきた努力家だって言うのに……」
「貴方、可笑し過ぎますわ。どうして、さっきまであんなに怒っていたのに、何で今になって私のことを、そんなに……」
凱龍が、ブルー・ティアーズが、少しずつ粒子と化していく。時間切れが近づいていた。
「怒ってる、怒ってるさ! 誰よりも頑張っている奴が、他の努力している人を否定する。お前はそれをしちゃいけない人間なんだ! 努力しているのが自分だけだなんて感情、棄てちまえ!」
「私一人が努力している訳じゃないのは、分かっていました。分かっていましたわ! ですが、私はオルコット家の為に、全てを……!」
「俺はオルコット家のことを話してるんじゃない! セシリア・オルコット、お前自身のことを話してるんだよ!」
------俺達のISが粒子と消える。そして
【浦城京介 VS セシリア・オルコット。ドロー】
「……他人全てを否定してまで自分の家を守り抜いて、敵ばかり作って、それで親は、お前の両親はよくやったって褒めてくれるのか? 俺はそうは思わない、俺は------」
ISから開放された俺の視界がグルリと回り、視線がオルコットへ、空へ、そして地面へと移って行く。胸に、心臓に強い痛みを感じながら、俺の意識は暗闇へと引き摺り込まれて行った。
『------それで、結局理由は分かったのか? アイツがISを起動出来たことの。……そうか、心臓か。奴の心臓か、忌々しいものを受け継いでくれたものだ。何、心配ない。アイツは障害にならない、始末しようとすれば何時でも出来る。問題はあのコアが何処に行ったかだ、アレがもし敵対勢力のもとへ渡ればかなり不利になる。ああ、次は五月だ。宜しく頼む』
『……ふぅ。貴方の言葉で、少しだけ自分を見つめなおすことが出来ましたわ。山田先生に聞きました、貴方の特訓の内容。本当、変な人。……目が覚めたら、ちゃんと謝罪させて頂きますわ。クラスのみんなにも、貴方にも。良きライバル同士として、仲良くしていきたいものですわ。……そういえば、織斑一夏さんが貴方の敵討ちと称して勝負を挑んできましたわ。専用機の白式というISを持って。試合は明後日に行われるのですが、それまでに貴方の目が覚めることを祈っていますわ』
『……お疲れ様。流石は私の弟、無茶を押し通したね。でもあんなにISをボロボロにして、可哀相とは思わないのかい? アンタの大事な相棒なんだ、目が覚めたらちゃんと整備してやるんだよ。大事にしていれば、きっと凱龍はアンタの想いに応えてくれる。もしそれが
「…………姉さん?」
色々な人に声を掛けられたような感覚に目を開けると、そこは保健室のようだった。俺はベッドに寝かされ、周囲をカーテンで覆われている。左手を見ると、凱龍が外されていた。服装はISスーツのままで、身体を動かすと節々が痛む。
「あつつ……。俺、何でここに……」
アリーナでの決闘、その最後、セシリアに思いの丈をぶつけたところまでは覚えている。そして、誰かに語り掛けられたことも。残念ながら、何を言われたのか、誰が語っていたのかも思い出せないが。
「今、何時だ? そもそも、俺はどのくらい眠って……」
ベッドから立ち上がろうとすると、ガラッとカーテンの向こう側で扉が開かれる音がした。足音が響く。一人分だ。俺は置かれていたスリッパに履き、カーテンを開けた。開いた向こうにいたのは、黒い髪をポニーテールにした凛とした武士風の女の子・篠ノ之箒。いきなりカーテンが開かれたことに驚いていた様子だったが、すぐに咳払いをしてスタスタと俺の前へと歩み寄ってくる。
「漸く起きたのだな、京介」
「ああ、ついさっきな。……どのくらい眠ってたんだ? 俺は」
「今日であの決闘から五日目だ。あの決着の後倒れたお前は、ISの自己修復機能で眠ったままになっていたのだ。だが途中で機能が停止したというのに、お前は目覚めなかった。織斑先生は何も言わなかったからな、一夏達と交代で様子を見に行くことにしていたのだ」
「五日間もか……」
頭を抱えるようにした俺を見た箒は、心配そうにして保健室の先生を呼びに行こうとしてくれたが、俺はそこまでする必要は無いと彼女を止めた。大分長いこと眠り呆けていたという事実に若干困惑いつつも、俺は箒に礼を言って寮へと戻った。途中出会ったクラスメイト達に復活を喜ばれながら部屋に戻ると、制服などが綺麗に畳んでベッドの上に置いてあるのを見つけた。アリーナのロッカーに入れていたのを、誰かが持ってきてくれたのだろう。時刻が夕方なのを時計で確認してから、俺はそそくさとシャワーを浴びて再びベッドへと潜り込んだ。さっきまで眠っていたのは事実だが、まだ寝たりないし他にやることも思いつかない。ご飯も食べれそうにないなと思いながら、俺の意識は再び暗闇へと落ちて行った。
「……それでお前は、残念なことにエネルギー切れで負けたと」
「いや、その……すまん」
翌日の昼、クラスメイト達からの見舞い代わりの言葉を受け騒々しかった午前が終わった後。俺は一夏、箒、そしてセシリア・オルコットの四人で屋上に来ていた。どうやら俺の敵討ちとして一夏はセシリアに勝負を挑んだらしく、善戦虚しく敗れてしまったという。一夏の白式と呼ばれるISは、ワンオフ・アビリティーという特殊能力が備わっているらしい。通常はISが
「け、けど京介と違って俺はビットを何個か破壊したからな!」
「素手で引き分けてんだぞこっちは」
「うっ」
焼きそばパン片手に、屋上のフェンスに背中を預け風に流れる髪の感覚を心地良く思っていると、セシリアがクスクスと笑い出した。朝教室で顔を合わせた時から思っていたことだったが、随分と彼女の雰囲気が変わっている。何というか、柔らかくなった。
「お二人共、まだまだ鍛錬が足りませんことよ。この私に勝ちたいのであれば、もっと努力しませんと」
「ああ、そうだな。……次は勝つさ」
「それでは、レーザーの代わりに実弾の雨を回避するような特訓はお止めになることですわね」
「……おう」
山田先生と行っていた特訓、それはラファール・リヴァイヴというフランス製の第二世代型ISにクアッド・ファランクスと呼ばれる追加装備を付け、固定砲台と化したそのISに向けて突っ込むというものだった。元日本代表候補生だった山田先生の実力は凄まじく、何度凱龍を鉄屑寸前まで追い詰められたか覚えていない。実際ダメージを受けすぎると決闘前にISがダメになる可能性もあったから、大分手加減はしてくれていたのかもしれないが。押し寄せる弾幕を躱し、接近する。セシリアとの戦いで実行したが、やはり上手くいくものじゃなかった。
「聞いた話ですと、使用した弾薬費だけで打鉄が一機買えるほどだったとか」
「……それで山田先生が織斑先生に時折弄られていたのか」
「え。……そりゃあ悪い事したな」
今度会ったら山田先生に謝っておこう。そう心内で決めると、セシリアが急にコホンと咳払いした。そしてキリッとした顔……ドヤ顔とでも言えばいいのか、そんな表情で俺を見つめてきた。
「改めて、ここで言わせて頂きますわ。京介さん」
「何を?」
「貴方を、私の一生のライバルと決めたことをですわ!」
「一夏じゃなくてか?」
恍けるように切り返すと、セシリアは僅かに憤慨するような素振りを見せた。どうやら今のは、ふざけて捉えてはいけないものだったようだ。
「一夏さんは別です! ま、まあその、色々とありまして。……兎も角、貴方は初めて私と引き分けた方です。何時の日か絶対的勝利を私が手にするその日まで、互いに切磋琢磨していきたいと思っていますの。如何です?」
「ああ、望むところだ。次に戦う時は、必ず俺が勝つ。ビットも全部落としてやるさ」
セシリアがその右手を伸ばす。俺もその手に向けて右手を伸ばす。パンッと軽い破裂音と共に掌同士で叩き合い、握手。
「俺だって次は負けないからな! 京介、次の相手は俺だぞ!」
そこへ一夏がドンと胸を叩いてみせ、俺を指差す。
「私も加わろう。お前達と違って専用機は持っていないが、それでも必ずお前達と肩を並べられる実力を身につけて見せるさ」
箒もまた腕を組み、負けるものかと息巻いている。
「ライバルでも、友達だ。楽しくやれたらいいな、みんな」
一夏の言葉に、俺達は頷いてみせる。新しい仲間というのは良いものだ、とか思っていると、ふと俺はセシリアとの決闘がクラス代表を決めるものだったというのを思い出した。俺とセシリアは結局ドローで、その後の一夏との戦いだとセシリアが勝っている。この場合、結局セシリアがクラス代表になるのだろうか?
「なあセシリア、結局クラス代表はどうなったんだ?」
「ああ、その事ならもう終わった話ですわ。我らが一組の代表は、一夏さんに決まりました。勝者である私が、その権利をお譲りしたのです」
一夏を一瞥してみると、セシリアの言葉を聞いてから僅かに遠い目をしている。どうやら本当のようだ。隣に座っている箒も、何故だか呆れた様子で肩を竦めて見せていた。
「成る程、それじゃあ一夏はもっと頑張らなくちゃいけねえな」
「本当ですわ。一組を代表するのですから、それに見合った実力を持っていただかなければなりませんわね」
「ならそのままセシリアがやれば良かったんじゃないか……とほほ」
「情けないぞ一夏。男に二言はない、引き受けた時点で腹を括るのだ」
肩を落とす一夏に苦笑して、俺は空を見上げた。次にあの空を飛べるのは何時なのか。この先一体どんな事が起きるのか。
何も知らない俺は、ただ餌を待つ雛のように、馬鹿のように口を開けているだけだった。
漸くセシリアとの戦いが終わりました、一夏とセシリアとの戦いは原作通りなので割愛ということに(汗
家を守る為に誰よりも努力し、それを当然と思い、他人の努力を見下してしまっていたセシリア。
いざ書こうとすると中々難しいものがありました
次の話は鈴が出てくるか、主人公の設定を掘り下げれればと思っています
次の話も、宜しくお願い致します
お楽しみに!