インフィニット・ストラトス-GRD/GHOST IN THE BULLET- 作:REDALERT
こちらは前編なのでお間違えのないようお願い致します。
篠ノ之束有するISによる軍隊、それらの動向は常にラピッドボックスから設備を移されたIS学園にて監視されており、オペレーター役の千冬クローン達によって管理されていた。本拠地となった地下特別区画は束の改装により要塞のようになっており、その一番奥に束の自室が置かれている。そこではかつてクラウが入っていたようなカプセルが横向きで台座に固定されており、表面を覆うガラスの向こう側には呼吸器を付け眠っている織斑一夏の姿があった。そのカプセルの傍には姉である織斑千冬が立っており、カプセルの中の一夏を愛おしそうな目線で見つめている。そんな千冬に、背後から声を掛ける存在がいた。
「大丈夫だよ、ちーちゃん。今いっくんは白騎士の為に身体を作り変えている途中なんだから」
「束……、分かっているさ。だが今でも信じられんのだ、一夏が白騎士に認められぬという事実にな」
一番最初に開発された伝説のIS【白騎士】。千冬専用として開発された高スペック機ではあるものの、最初に乗った人間にIS側が合わせるようになっていた為に、実力のある者が正しく扱えばIS側が新しい操縦者を認めるはずだった。だが一夏は白騎士に認められず、身体に多大な負荷を掛けてでしか白騎士も白騎士の機能も扱えない。その所為で不必要な投薬による肉体強化という選択を強いられてしまった。世界最強であるはずの自分の、たった一人の弟は自らの足に触れることすら出来ていない。
「仕方ないよちーちゃん。いっくんはちーちゃんみたいにISに関わってないし、訓練にしても何にしても時間が足りなかったんだから。……それに全部終わればこの束様がいっくんをちゃんと元通りにしてあげるから! 頑張ろ、ね!」
「……ああ、そうだな」
名残惜しそうに一夏のカプセルのガラスを撫でた千冬を見つめながら、束は頭に付けた機械のウサ耳を動かして思い出したように手を叩いた。今の二人にとって
「あっ、そういえばねちーちゃん! 例の専用機持ちの集団の居場所、やっと見つけたよ!」
「何? 一体奴等は何処にいる」
「ここから数十キロ離れたところだね、集団で移動してる。夜にだけ移動しているみたいだから、多分こっちの目を盗んで移動してるみたい」
言いながら束が指をパチンと鳴らすと、部屋の天井から降りて来たミラーボールのようなものからホログラム状の地図が表示された。その地図には周囲の建物等が立体映像で表示されており、人間を示す丸い球体が点滅している。その数は全部で九、千冬の知っている専用機持ち達より一人多かった。
「誰か専用機持ち以外の人間が一人混じっているな……何者だ?」
「残念だけどこの九人が誰と誰で誰の誰々の誰べえかまでは分からなかったんだよー! ちーちゃんの為に色々調べようとはしたんだけど……」
しょんぼりと項垂れる束を前に千冬はクスッと笑ってみせると、その肩を叩いて励ますように声を掛けた。
「何、謝ることはない。見つけてくれただけでもありがたいさ」
「ん……。それで、どーするのちーちゃん? 良いんならゴーレムを送り込むけど……?」
「いや、大丈夫だ。アイツらは私直々に始末してくる。かつての教え子だ、苦しまずに天国に送ってやろう」
そう言って千冬が部屋を出て行くと、後に残された束の背後でホログラムの地図が世界地図へと形を変える。その部分部分が赤く染まった世界地図を背後に、束は何故か千冬を引き止めたくなる衝動に駆られた。まるで彼女がもうここに帰って来ないような、二度と会えなくなってしまうかのような。
(ううん、大丈夫。だってちーちゃんは世界最強だし、暮桜は束さんが作った最新型にバージョンアップ! されてるんだもん。考え過ぎ考え過ぎ、早く何処に無人機を送り込むか決めないと------)
自分の直感を気のせいで片付けようとした束の耳に千冬が部屋から出て行ったことを知らせるドアの開閉音が届くと、彼女は弾かれるように身を翻し千冬の姿を探した。だがそこにはもう彼女の姿は無く、一人残された束は謎の空虚感に苛まれその場に座り込むのだった。
「ちーちゃん……大丈夫だよね?」
その束の呟きの横で、一夏の眠るカプセルはただ静かに彼の身体に薬品を投与し続けるのであった。
同日、深夜。楯無達専用機持ち達は闇夜に紛れて行動しており、今は無人機の目をやり過ごす為にとある廃墟に身を隠しているところだった。途中立ち寄った無人のコンビニやホームセンター等で必要なものを拝借し、ある程度サバイバルに必要な装備は手にしている。
「まずいな……」
そんな中、ISのハイパーセンサーを起動し周囲の偵察に向かっていたクラウは帰って来るなり険しい表情で呟いた。明かりと暖を取る為の焚き火の周囲には楯無達が座っており、そのクラウの様子に首を傾げた。
「どうしたの?」
「ここを中心に半径一キロ圏内に無人機が集ってきている。幸いゴーレムⅠしか集っていないから索敵能力は低そうだが、恐らく俺達がこの近辺に居ることが篠ノ之束にばれたようだ。虱潰しにされるとマズイ」
楯無が差し出した携帯端末を受け取ったクラウが地図を表示し各人のISとリンクを確立させると、それぞれのISのハイパーセンサー上に地図と敵の配置が表示される。赤い光点がゴーレムを示し、中央の緑の光点が自分達だ。グルッと円を描くように、赤い点が緑の点を取り囲んでいる。
「虱潰しって言うと、どうなるのよ」
「ゴーレムⅠの両腕に装備された熱線がこの円の中の全ての建物を片っ端から破壊していくんだ。お前は一度戦ったことがあるだろう、最初に学園に送り込まれた無人機だ」
「ああ、あれね。あれより強いのと戦い過ぎてどんな相手だったか忘れちゃってたわ」
軽口を叩く鈴にシャルロットとセシリアが苦笑いを浮かべるも、それ以外のメンバーは皆険しい顔付きのままでいた。クラウは地図上に黄色い点線を浮かべると、それを道のように並べていく。それは本来進むべき方向に遠回りながらも進むルートで、それを見た楯無がクラウへ問い掛ける。
「迂回する形になっているけど、敵と全く会わずに抜けれるという訳じゃないでしょう」
「ああ、俺が別の場所にゴーレムを誘導し戦う。その隙にみんなは真について移動してくれ」
「一人で残るというのか!? 危険過ぎる!」
「対複数戦闘の場合一番良く動けるのは俺だ。それに博士のところに着いた場合俺か真がその場にいなければ博士に対応しないよう話をつけている。だから俺と唯一チームを組める真がいなければ必然的に俺が一人で行動するようになる。この中で本気を出した俺の素戔男尊の速度についてこられる奴がいるとは思えないからな」
驚くラウラを冷静に窘めたクラウに真は納得した様子を見せていた。恐らくこういった状況での行動も予め決めておいたのだろう。真は何も言うことはなく、楯無も仕方ないと納得し、セシリア達も頷きかけた時、アキラが珍しく言葉を挟んだ。
「お前一人に時間稼ぎをさせるより、もっと手っ取り早い方法がある」
「アキラ君、それは……」
「良いんだ、刀奈。敵を一箇所になるべく集めてくれれば、俺が一撃で連中を破壊してみせる。そうすれば向こうにも色々と気付かれるだろうが、余分な消耗も無く時間の浪費も少ない。こっちの方が良いだろう」
何か秘密兵器でも持っているのかアキラは自信有りと言った様子でクラウに提案すると、意外にもクラウからの返答は速かった。
「ダメだ」
「っ……誰も残す事無く先に進めるんだぞ、何が問題なんだ?」
「お前のデータは見たことがあると言ったろう。当然、お前のワンオフ・アビリティーについても把握している。……あんなもの------」
「ちょ、ちょっと待って下さい! ワンオフ・アビリティーって、白鷺さんはもうワンオフ・アビリティーを発現させていますの!? 高々二年程度の……いえ、失言でした、申し訳ありません」
クラウとアキラの間で交されている鋭い視線の間にセシリアが割り込むと、鈴とシャルロットもどういうことだと口を挟んだ。ワンオフ・アビリティーの発現は兎も角、アキラがどういった力を持っているのか確かめたかったからだ。それに対してアキラは自分から切り出したこともあり、自ら言い出さざるを得ない状況にしてしまったのを若干後悔している様子だった。頭をポリポリと掻き、ため息混じりに彼は口を開く。
「俺や刀奈は能力の事を【ウイルス】と呼んでいる。逝かれたコアが原因なのかは分からないが、
「機能を停止?」
「ああ。そこから色々と実験を行った結果、分かったのは俺のIS……レイジングブルが全身からISのコアに干渉し機能障害を起させる粒子を放出出来るようになったことだった。こいつは発動すれば広範囲に粒子をばら撒き、粒子に触れたISに一方的に干渉する。長時間粒子に触れ続けたISのコアはやがて本物の機能障害を起し、ただのガラス製のゴミクズに早変わりさ」
アキラの右腕に展開された黒と黄色の装甲の隙間から目に見えない
「な、によ、これ……!」
「頭が、割れそうですわ……」
「っ……く……」
そうしてアキラが装甲を粒子と化して収めると、全員のISの異常は無くなり倒れていたメンバーは頭が痛そうにしながらも立ち上がった。そうして何人かから責めるような視線を受けると、アキラは肩を竦めてから口を開いた。
「ウイルスの威力は良く分かっただろう。こいつは一度干渉されればIS側がある程度の耐性を持ってくれるようになるが、それでも完全に耐えてくれる訳じゃない。だからこいつを最大出力で散布すれば無人機を一網打尽に出来るんだ。……まあ使用中はISを起動しない方が良いから危険ではあるが……何がダメなのか、教えてくれるかい。クローンさんよ」
ウイルス発動中もジッと目を瞑り座っていたクラウはアキラから呼び掛けられると、目を開いて彼を一瞥する。その目つきは鋭く、怒っているようにも見える。最初アキラは自分が彼をクローンと呼んだことに怒っているのかと思っていたのだが、次に彼が語った内容からアキラの予想は外れることとなる。
「お前はそこまで危険で威力のある武器をこんな所で使うつもりなのか? もしウイルスを放出した時のデータを束が解析すれば効果は薄くなる。それは最後の最後まで使わない方が良いんだ、お前にだって分かるはずだ。お前が何と言おうと、明日の出発時は俺が残り敵を引き付ける。いいな」
「分かったよ。仰せのままに」
もう良いと言わんばかりにアキラはその場を立ち去ると、楯無がクラウに一礼してからその後を追った。真は苦笑いを浮かべ、セシリアや鈴、シャルロットはISのデータを確認し、ラウラは簪と共にシステムへの影響について話し始めた。そしてクラウは再び目を瞑り、明日の戦への思いを固める。
事態は大きく動き始めようとしていた。
翌日、クラウは隠れていた廃墟から目的地へと向かう真達を見送っていた。視界の向こうで手を振ってきている真に手を振り返り、クラウは素戔男尊を展開する。そして大きく上昇すると、無人機達にわざと自らの存在を知らしめた。そうして素戔男尊が廃墟の屋上に着地すると、刹那、四方八方から高出力のビームが撃ち込まれた。それを軽く跳んで避けると、クラウの目の前に二機のゴーレムⅠが降り立った。既に両腕を構え、砲門を素戔男尊に向けている。
「遅い」
一閃。胴体を真横から真っ二つにされた二機のゴーレムの前で、クラウは両腰から下げた刀の柄に触れる。【天叢雲剣】、自らの愛刀。上空から迫るゴーレムに気付くと、クラウは後方に回転しながらその手にクナイを取り出した。内部に火薬が入っており、対象に突き刺さった後炸裂する仕様だ。両手に持った炸裂式クナイを投擲すれば、その先端はゴーレムの首下に突き刺さる。そして一瞬遅れてクナイが炸裂すると、煙によって視界を奪われたゴーレムは体勢を立て直す前にその身を縦真っ二つに断たれた。
素戔男尊の右手に握られている【天叢雲剣】の刀身は鈍い赤をしており、軽い動作でその刃を振るえばパッとまるで血のように赤い色が空を舞う。刀身の中は特殊な磁性流体が入っており、それは血管のように流れている。この磁性流体が磁力により動くことで最適な速度と、目標へ正確に刃を当てることを可能にするのだ。そして刃には高周波と磁力により固定された磁性流体が使用されており、刃毀れが起こらないようになっている。素早い抜刀も、この磁力を利用した電磁加速により鞘からの射出を可能にしている。そして磁性流体は赤い色をしている為に、使用した磁性流体を刃を振って落とす際に血のように見えるのだ。
「残り二十七機……頑張って時間を稼がせてくれよ」
壁を突き破って現れたゴーレムの首筋に刃を突き立てると、クラウはそう呟きながら身を翻しその首を刎ねるのだった。
そしてクラウとゴーレムの戦いを、遠くから見つめる人影があった。ゴーストから偵察を命ぜられていたレッシィ・アナだ。彼女はステルスモードのバイヴ・カハを身に纏い、戦闘の様子を撮影している。目的は謎の赤いIS【素戔男尊】の情報収集であり、バイヴ・カハの目を通した映像は隠れ家にいるゴースト達に送られている。
「隊長、どうやらあの赤いIS、かなり高性能のようです。誰が開発したかは不明ですが、我々亡国機業とも篠ノ之束の無人機とも違います」
『ああ、戦い方を見れば分かる。お前はそのまま情報収集を続けてくれ、先に逃げた専用機持ちの監視はスコール隊が受け持つ』
「了解。ですが幸運でしたね、到着した隠れ家に別の隊が居たなんて」
『まあな。兎に角気付かれないようにしろ、危なく成ればすぐに帰って来い』
「了解」
通信が切れた後もレッシィは耳に残るゴーストの声の余韻に浸り、上機嫌でビルの上にISを装着したまま腰を下ろした。その目は戦闘の様子を見つめながらも、何処か別の何かを見ているようであった。
「隊長の為なら何だって、何だってしてみせるわよ。それが私だもの……ふふ」
妖しい笑みを浮かべるレッシィの視界の中で、赤いISは次々と無人機を斬り裂いて行った。
「随分と派手にやっているな……」
背後から聞こえてきた爆発音に振り返りながらアキラが呟くと、他の全員も釣られて背後に振り向いた。途中頭上を飛んで行くゴーレムに見つからないよう隠れたりしたものの、大きな問題も無く彼らは移動していた。
「彼、大丈夫かしら。たった一人で戦うなんてやっぱり無茶よ」
「放っておけ刀奈。アイツがそれが一番良いって言ったなら、したいようにやらせれば良いだろう。なあ、腰巾着」
「ああ、お前よりは強いだろうからな。クソガンマン」
険悪な様子のアキラと真に楯無は頭が痛そうにため息をつくと、突然最後列を歩いていた簪がその足を止めた。虚空を見上げ、ジッとある一点を見つめている。不審に思ったシャルロットとラウラが簪に近づくと、彼女は突如声を荒げた。
「走って!」と。
「敵!?」
簪の言葉に弾かれるように全員が駆け出しながらも、先頭を走る楯無・アキラ・真は周囲を警戒していた。セシリアと鈴は左右を警戒し、シャルロットとラウラは簪の後ろに回り背後を見続けている彼女が転ばないように注意している。
「簪さん、一体何が見えたの!? 敵!?」
「分からない! けど、何かがこっちを見ていた! 何かは分からないけど、私、怖い!」
「ええい! 武器を使うぞ、気をつけろ!」
言うが早くラウラはその身をISで包み、両肩のレールカノンの照準を廃墟へと向けた。放たれた砲弾は廃墟の中層を破壊し、ゆっくりと崩落していく二つの廃墟により彼女達の背後は粉塵によって見えなくなる。すると、その煙幕を
「やはり、敵か!」
姿の見えない敵を確認するや否やラウラはバッと両腕を前に伸ばし僅かな空間の歪みを睨みつけた。真っ直ぐ彼女へと向かって来るそれに向けてAICを作動させると、出力の上昇したそれは見えない敵を完璧に捕えた。そしてAICの管理をAIサポートに任せ、ラウラは両腕に重機関銃を展開する。その横にも同じように全身のサブアームを使い重機関銃を計八門展開したシャルロットが並び、二人は見えない何かに向かって一斉に引き金を引いた。大量にばら撒かれた弾丸は見えない敵にぶち当たり、火花を散らす。そして空中にある歪みが視認出来る程大きくなると、そこから現れたのは夕焼けのように濃い橙色をしたISだった。
「中々強力なAICじゃないかボーデヴィッヒ。ついどの程度までの力なら私が捕まえられたままなのか試してしまった」
「教……官」
長い黒髪を下ろし、口元に笑みを浮かべ、彼女は彼らの前に現れる。
織斑千冬、突如IS学園に反旗を翻し今回の戦争の原因を作った一人。世界最強の名を持つ世界で唯一の存在。かつての恩師を前に、ラウラ達の間に緊張が走る。
「全く久しぶりの再会だと言うのに、誰も挨拶の一つもしないのか。ダメな小娘共だ」
「貴女って人は!」
目の前でISを展開する楯無達を前に、千冬は首を傾げた。ふざけてではなく、本気で訳が分からないと言った様子で。
「まさかお前達、この私と戦うつもりなのか? 何時からそんなに愚かしい奴になった、なあ、生徒会長。知らない男を二人も侍らせてハーレムのつもりか?」
「腐った家族愛の持ち主には言われたくありませんね。刺し違えてでも、貴女を倒します」
そう言ってランスを構える楯無を前に千冬は笑い、そして次の瞬間にはラウラとシャルロットの身体が吹き飛ばされていた。空中にいたはずの千冬の身体は地上にあり、そしてその手に何時の間にか刀を握っていた彼女はその刃を簪の喉に突きつけている。
「簪ちゃ……!」
「どうした、私を倒すのなら一人や二人程度の犠牲は当然だろう? ダメージを、仲間の死を恐れず掛かって来い。出なければ全員皆殺しだ」
楽しそうな千冬を前に真がグッと身構えるも、それを楯無は止めた。止めてしまった。簪の危機を前に、躊躇ってしまったのだ。それをあざ笑うかのように千冬は簪の身体を蹴り飛ばし、踏みつけ、飛び掛ってきた鈴とセシリアを一刀の下で弾き飛ばした後、その刀を振り上げた。
「どうした、このままではお前の妹の首が飛ぶぞ?」
「っ! 刀奈、ウイルスを------」
「アキラ君、ダメッ!」
「甘ちゃんがぁ!」
アキラが身を乗り出し、楯無がそれを止め、入れ替わりに真が飛び出そうとした瞬間、突如千冬は簪から離れて上空へと飛び上がった。一瞬遅れて簪の周囲に謎のビームが直撃し、粉塵を巻き上げる。そのビームは続けて大量に千冬に向かって撃ち込まれ、千冬は刀の面でそのビームを受け止めその出所を探った。だがビームは四方八方から撃ち込まれ、千冬はその猛攻から身を守るだけで精一杯だった。
「ッ! オルコットのブルー・ティアーズではないな、出力が違い過ぎる……! ならこれは------ッ!?」
千冬がビームを避け廃墟の壁際に機体を寄せた瞬間、その壁を反対側から何かが突き破り千冬に体当たりを喰らわせた。布か何かでその身を隠している何かは千冬に背後から組み付き、瞬時加速のように急加速して彼女を何処かへと運んでいってしまう。
「あれは……っ、簪ちゃん! 大丈夫!?」
突然の流れに呆然としていた楯無も、すぐにハッとした様子で倒れていた簪に近づき助け起した。簪も彼女のISも僅かながらダメージを受けていたが問題は無いようで、最初に千冬にやられた四人もすぐに起き上がり千冬と謎の何かが飛んで行った方向へと目を向ける。遠くのビルの上層が吹き飛び爆発する様が見え、彼女達------特にシャルロットはもしや、とラウラ達を見やった。その視線と同じ意味を持つ表情をラウラ達はしており、彼女達は先に行くとだけ言い残し千冬の後を追って行ってしまう。
「まさか……でも」
その意味に予測がついた楯無だったが確証が持てず、仕方なく簪を抱えたまま真とアキラと共に四人の後を追いかけることにしたのだった。自分の考えが合っているかを確かめる為に、
「浦城君……?」
楯無の呟きは、崩壊するビルの轟音によって掻き消された。
そして謎の何かによって妨害を受けた千冬は刀------愛刀である雪片を振り回し、その何かを斬り裂こうとした。だがその何かは斬撃に当たる事なく器用に身を翻し、千冬の攻撃は全て近くのビルを斬り裂くだけ。
「このっ、貴様……離れろぉぉぉぉぉぉ!!」
叫びながら千冬が瞬時加速を行うと漸く何かは彼女から離れ、千冬はそこで漸く自身の邪魔をする何かの正体を確認することが出来た。それを見た彼女は大きく目を見開き、笑い、そして刀を向ける。対峙するはその身を黒い装甲で覆い、更にマントを被り幽霊と化した男。その手に楔型の獲物を握る彼は、千冬と一定の距離を保ちながら彼女をジッと見ていた。
「ふん、貴様か……。久しぶりだと言っておこう、地獄は楽しめなかったのか? 帰って来るなんてイケない子だ、死んだら死んだままでいなきゃダメじゃないか。なぁ、浦城」
「閻魔に頼まれたのさ。悪を成しておきながらのうのうと生き延び我侭を通そうとしているクソ野郎二人を連れて来いとな」
言いながらも、幽霊------ゴーストの手は震えていた。恐れているのではなく、漸く対峙することの出来た復讐対象と戦えることへの興奮。待ち続けた時が漸く訪れたのだという、その復讐心がゴーストの心を熱く滾らせ力を与えている。
「ふん、貴様にこの私が殺せるか?」
「俺が殺すんじゃない、お前は今まで自分が殺してきた人間に殺されるんだ。行くぞ------織斑ァァァァァァァッッッ!!!」
雄たけびと共に、ダークバレット/